主戦力がここに集まらないように、彼らはすでに手を打っていた。
でも、止まるわけにはいかない……。
覚悟を決めよう。
この命を賭して、彼らに"ロストロギア"を渡さないために…ーー。
…フェイトの敗戦。これは予想だにしなかった。
自分が想定していたよりも彼らは用意周到だった。そして、ローレル……彼の実力も。
あのフェイトが戦闘不能に陥ってしまった。恐らく、彼女はまだやれるだろうがここでローレルともう一戦交えるのは合理的ではない…彼は本局を落としに来たわけではなく、最高戦力が聖王教会に向かわないための囮だったのだ。仮に、彼を無視して"アルテミスの弓"の攻防戦に向かえば、本局の守りが手薄になる…どちらに転んでも、彼らの戦局は"有利"のままだ。
モニターを見ると、ローレルはまだ立ち去っていない。恐らくだが、フェイトが動かないようにこの場に鎮座しているのだろう。そして、はやて自身も動けないように。
幸い、ここになのはが居ないことが唯一の希望となるが彼女は彼女で特殊な任務に赴いている。他の局員が言うには、この場所に魔力通信傍受機器が設置されているという。つまり、誰かに増援を要請してもこちらの手が全て筒抜けとなっているのだ。下手な真似をすれば、戦局はさらに不利になる。
…どうすれば…今、聖王教会で攻防戦に参加している部隊は誰なのか…はやては確認を急ぐ。
「…管理局員の識別番号が二つ…この識別コードは……「05小隊」?もしかして…!。」
識別コードの人物を特定。それはフェイズとユナのアイオン兄妹だった。
「…他の隊員達は来てへんの?なんでや…この二人が教会を守ってるって言うんか!?。」
はやてはすぐに05小隊に確認を取る。
「05小隊の部隊長さんですか!?。こちらは本局の八神はやてって言います!。少し聞きたいことがあるんですけど……!!。」ーーーーー
(……ごめん…私も出来る限りの事をするからもう少し耐えてな……フェイズ君、ユナちゃん…!!。)
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~聖王教会・中庭~
ローレルの策略に翻弄された時空管理局。
事前に彼の口から聞いていたことに少しは警戒すべきだった……どんな手を使ってでも、はやてに伝えるべきだったんだと、後悔しながらフェイズは勢い付いたレオンの攻撃に追い込まれていく。
ユナもなんとか持ちこたえているが、向こうは歴戦の猛者だ。序盤は圧倒していたものの攻撃パターンを熟知されたユナもまた、状況が芳しくない方向へと持っていかれる。
…状況は最悪だ、増援は期待できない…それ故に、このような制圧戦をたった二人で防ぎきるには無理がある。聖王教会きっての最高戦力であるシスター・シャッハが戦闘に参加すれば、"アルテミスの弓"への最後の砦が脆くなってしまう…戦闘経験の差から、自分たちが少しでも足止めするほか無い。
(……クソ、啖呵を切ったものの、これじゃただの嬲り殺しだ…今になって思う…所属部隊はハズレだったと…!。)
「どうしたフェイズ・アイオン!。ご自慢のスピードとやらを披露してくれよ!!。」
レオンの攻撃はどんどん苛烈さを増していく。悔しいが、自分じゃ歯が立たない。ここまでは一方的に自分が削られていき、こちらの攻撃は対応されて大したダメージを与えられない。しかも、向こうは環境に慣れているのか、受けた痛みなんて全く気に介さない。それに比べ、自分は無意識に被弾を避けようとするがそれが裏目に出て行動が消極的になる……精神面で圧倒され始めた、このままじゃ不味い。
何とかスピードで翻弄するも、身体の限界が近い…無意識に動きが鈍くなる。それに気付いたのか、レオンは手数の多さでどんどん攻めてくる。
フェイズは、「マニューバーAG」で対応。速度を生かした全方位射撃をレオンに浴びせる。しかし、レオンは防御姿勢を取って無駄な体力を消耗しないようにその場から動かない。"これも"対策されてしまった…こうなれば、試していない戦術で行くしかない。
「…ふぅぅ……どうした、それで終わりか…?。」
向こうも傷だらけだ。しかし、先ほど感じたように痛みに対しての耐性は相当なもの……全く戦意が衰えない、まるで猛獣を相手にしているみたいだ。
「……はぁ…はぁ……引き出しはまだあるさ……!。」
…強がってみせるも、身体の震えが止まらない。これは恐怖ではない…"警告"なんだ。これ以上、無茶を重ねると身体が壊れることを知らせる前兆なんだ。でも、それを気にしている場合か?。我が身可愛さで奴らの作戦をみすみす成功させてしまえば、その後の被害が計り知れない。"アルテミスの弓"を何に使うのかは分からないが、資料にある通りなら大量虐殺だって可能だ。そうなってしまえば、この戦い以上の大きな戦いに発展する…そうなる前に止めなければならない、一人の時空管理局員として。
(……ぶっつけ本番だ…でも、やれるな…フェイズ…!。)
自らを鼓舞させて気合を入れる。そして、白色の魔力光が特徴的な自身の「近代ベルカ式」の魔法陣を形成。
「おいおい、魔力量が対して無い癖に魔法戦を仕掛ける気か!?。いいぜ、撃って来いよ!。砲撃魔法だろうが、斬撃魔法だろうが対応してやるよ。お前の引き出し全てを潰してやる!。そして、敗北を受け入れて自分の無力さを実感するといいさ!。」
………本当によく喋る奴だ。少しは黙っていろ、そう思うフェイズ。こっちはそれどころじゃないと言うのに。そして集中する……自らの力量を理解しているからこそ、組み上げた"自分だけの戦術"……短所を想定していない"長所だけ"の特殊戦術。
「…シーケンス、A・T・P……「デルタ」!!。」
『A(アサルト)・T(タクティクス)・P(パターン)』「デルタ」
いくつもある"高機動戦術"の中で"高機動火力型殲滅"を目標とした戦術パターン。
マニュアルにもある、管理局の制圧フォーメーションを元に構築した戦術であり、これを実行するのは初めての試みだ。もちろん、訓練でも行ったことはないし部隊長を初め、同僚達にも自分の戦術は受け入れられていない。寧ろ、チームの連携を崩す行為だと罵倒される始末だ。しかし、管理局の提唱するセオリー通りのマニュアルは自分の力量ではこなせない。何故なら、魔法戦を想定したものだからだ。
だからこそ自分の数少ない長所のみを生かすために、このパターンを考え付いた。
今、この狂人を相手にするにはこの手段しかない。でなければ、確実に追い詰められることになる。ならば、少しでも前に進む可能性があるものを選択しよう。
フェイズは、意を決する。そして……。
「うおおおおおお!!。」
身を切り裂くほどの加速力。バイザーに映し出されたレオンの反応を確認すると瞬時にその距離が縮まるのが分かる。瞬間、トリガーをこれでもかというくらいに引きまくる。もはや、捕捉なんてしていない…端から見ればただの乱射だ。しかし、音速に近い速さで放たれるビームよりも速い機動力で追い抜いていき、一気に接近。レオンは何をしているのかと思考が追い付かない。
「は…何をするかと思えばヤケクソに……なっ!?。」
身体が動かない…いつの間にか、自分の身体の周りに「チェーンバインド」が掛けられていた。
そして、猛スピードで迫ってきたフェイズは銃身から煙が出るほど魔力弾をどんどん放つ。
(…これで決まらなかったら……!。)
消えかけのチェーンバインドを確認。持って後1秒……放った弾は1発も無駄にはしない。
そして、バインドが解かれる…魔力弾は全てレオンの眼前に有った。フェイズは限界が来て飛行を維持できず、教会の聖堂に激突。直後、大爆発……レオンは凄まじい豪炎に包まれる。
かけた「G」の反動ダメージにより意識が朦朧とする中、確認を急ぐフェイズ。
……だが、その祈りは………絶望へと変わる。
「……クソっ!滅茶苦茶しやがって!!。片目が潰れちまった!!。」
なんと、レオンは直前に掛けた防御魔法でフルダメージを防いでいたのだ。だが、その威力は相殺できずに大半のダメージを負う。左目は潰れ、身体は傷だらけ…しかし、意識は保たれていた。
その状況に、フェイズは思わず顔が青ざめる。乾坤一擲の攻撃は失敗に終わってしまった。
「はぁ…はぁ……スゲェよお前……だが、残念だったな…オレの方が一枚上手だった…!。」
ヨロヨロと近づくレオン。もう、指一本も動かせない…レオンは片足を引きずりながらその明確な殺意をこちらに向けてくる。
その時、エイリスと交戦していたユナが自分の前に降り立つ。薄ピンク色のバリアジャケットはボロボロとなり、もう殆ど防護機能が残っていない状態……所々に血の滲みが見える。
「……兄さんは……殺らせない……!。」
彼女を追ってきたエイリスもまた、満身創痍だった。ユナの猛攻撃に追い込まれたのだろう、しかしその状況でも拮抗状態へと持ち込んだ彼女の強さも本物だったのだ。
ユナは頭から流れる血が右目に入り込み、視界が遮られていた。兄を守りたい気持ちが身体を動かしているのだろう…その目は死んでいなかった。
「……なら、2人まとめて殺してやるからあの世で仲良くしてな…!。」
その時、フェイズの脳裏にある光景が蘇る…ーーー。
…………………。
…3年前、ユナは誘拐に遭った。犯人は人身売買組織…「希少技能」を持つ者を攫う集団。
ユナは「希少技能」の持ち主であり、それは異例の能力だ。誰もが欲しがるその才能は高値が付く。
実際、競売価格にして億単位の値が付けられていた。だが、「アイオン家」はミッド有数の資産家だ。当然、管理局は迅速な対応で彼女の救出に動く。犯人グループは想定外だったのだろう…計画が大きく歪んだことに狼狽えている。
「……どうする、このままじゃブタ箱行きだ!。」
「クソ……くたびれ儲けは御免だぜ!?。こうなりゃ、ガキだろうが欲を満たしてから殺し……。」
躍起を起こした犯人グループ達がユナにその毒牙を掛かけようとしたその時、扉が開く。
…そこには、血に塗れ、鉄パイプを握り締めたフェイズが居た。見たことのない気迫を放ち、大きく得物を振りかぶって……ーーー。
…………………。
…気付けば、私の前には兄さんが立っていた。もう、動けないはずなのに…ボロボロの身体を押してまで、デバイスを手に駆け出している。
…周辺の動きが遅く感じる…その中で、兄さんは私に"微笑んだ"。目は虚ろとなり、きっと無意識なのかもしれない。そして、私の頭にそっと手を置いて"何か"呟く……。
ー…安心しろ、俺が……ついている…ー
……聞き取れたその言葉に、私は思わず涙が溢れる。そして…ーー。
「……マニューバー……。」
…迫りくる、レオンとエイリス。フェイズの身体が光り輝いて…ーー。
「エンド・ブレイカー…。」
見たことのない速度で駆け出した兄さん……そこで、私の意識は途絶えた…ーーー。
……………………end。
フェイズはユナを守るため、そして責務を全うする為に最後の力を振り絞ってレオンとエイリスに立ち向かっていった。
……あの後、どうなったのか…。
次回
9話 次なる"空”へ。