中学生から観た「AI」という世界   作:稗田之蛙

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2022年9月-『mimic炎上』

 

『mimic』

 公開日8月29日。ユーザーの提出したイラストをAIが学習することで、イラストを生成するAIを作ることができるサービス。

 ……そして翌日、30日に一時サービス停止を余儀なくされた。

 それが何故かといえば、多くの批判が集まったからにほかならない。

「これは悪用の危険がある」

 これがSNSにおける、生成AIのイラストレーターや漫画家達の意見だった。

 ――いや、正確に記すのならば。イラストレーターや漫画家の全てがそのように思っているわけではないだろう。

 しかし、そういった意見が大きく波及していった事は確かだ。

 

 この騒動を理解する為には、初期バージョンのmimicの構想から簡潔にでも話しておく必要がある。

 意外に思われるかもしれないが、mimicは初期バージョンから「自らが描き手ではないイラストの提出を禁ずる」という方針は初期も今も変わっていない。

 要求される15枚ほどの学習素材は描き手本人のモノしか使えず、また生成されたイラストは学習元の描き手に帰属する。

 

 では何故それが批判を集めたかといえば、「他人が描き手当人だと偽って利用した場合はどうするの?」との指摘が寄せられたからだ。

 ガイドラインで禁じられているだけであって、初期バージョンでそれは容易く可能だった。

 もちろん、虚偽の提出は削除の対象になる。だが、それでも。やろうと思えば悪用は容易い。欲しいイラストレーターのアイコンを、いくらか作り出せるというのならばやる価値はあるのかもしれない。

 

 そうして30日。mimicはサービス一時停止が発表される。

 

「集団ヒステリー臭ぇー」

 兄からそんな放言が飛んだ事を覚えている。兄のこういった歯に衣着せない側面は、ちょっと嫌いだ。

「そうかな。私も自分のイラストが勝手に利用されたら……ちょっと怖いと思うな」

 私はそう反論する。こんな私の反論に、兄は呆れるように答えた。

「それは虚偽の申請をする奴が悪ぃんだ。サービス自体が悪いわけじゃない」

 とは言ってのけるが。ガイドラインは守る前提の性善説で皆が安心できるわけもない。

 実のところを言えば、私はこのサービスで自分の絵が悪用される事を想像して危惧していた。たぶん、SNSのmimicに否定的なユーザー達と同じ意見なのだったと思う。

「トリンの生成も、たくさんの画像を学習してんだぞ」

 Trin Art……トリンがそうである事も、それは理解している。同時にトリンの存在は、私は好意的に受け止めている。

「でも、トリンはたくさんの画像の集積であって。たとえば、私個人を集中的に学習してるわけじゃないでしょ」

 私達兄妹は、ディスカッションをよくする。というより、兄の放言に反論している内に、自然とそうなっていった。

 私は、たとえトリンの中に私の絵がいくらか混ざっていても特に気にはしないと思う。あの近代絵画を得意とする絵柄は、私の描いた絵とは似ても似つかない。でも、mimicは違う。

「mimicに私の絵を提出したら、たぶん私の絵と瓜二つのアイコンが出てくると思う。それを他人が無断で好き勝手して、しかも悪用したりとか、金稼ぎとか……そうなったら誰が責任取るの?」

 兄は私の言葉に少し考え込んだ後、こう答えた。

「悪用した当人だな」

 ……呆気にとられた。いや、それは、そうなのだが。

 

「mimicに責任は?」

「ちゃんと管理しているかどうかで決まってくるだろうな。削除が遅かったり、管理がずさんだったりすれば、mimicの責任も出てくる」

 確か、この辺りで頭が痛くなった。これ以上反論しても話は平行線だと判断した気がする。

 

 この話から考えるに、騒ぎを起こしている皆は「mimicの運営会社であるラディウス・ファイブが信用出来なかった」という事になるのだろう。

 しかしラディウス・ファイブは、その不安を払拭するように全力で努めた。

 

 少し時間は飛んで、10月。mimicはサービス再開を発表した。

 再開において、悪用されないように認証機能を強化し、イラストレーター当人のツイッター(X)だという事を人力で審査するという対策も打ち出した。

 このラディウス・ファイブの対応に、SNSは概ね好意的に受け止めた。

 しかし、兄さんはその対応を芳しく思ってなかったと記憶している。

「おわったくせー」

 また放言がきた。そう私は思った。

「あんまその言い方好きくない」

「ポリコレ棒で叩き潰されたコンテンツ見てる気分だ」

 私はまた、ディスカッションに応じる構えで向き合ってみせた。幼児期の頃から漫画の影響を受けたせいか、こういった一問一答は嫌いではない。たぶんお互いに。

「でも、SNSではみんな納得してるみたいだよ」

 私は、携帯片手にSNSのユーザー達の反応も伝えようとした。だが兄さんは不服そうに答えた。

「で、そいつらは結局mimic利用すんのか?」

「すると思うよ」

 私は、兄さんの質問の意図を汲み取りつつそう答えた。

 SNSでmimicに批判的な意見が目立ったのは、悪用に対しての危険性が指摘されていたからだろう。だが、ラディウス・ファイブの対応により危険性はなくなった。

 そしてmimicの存在が私達イラストレーター達を脅かす事はもう無いと私は思うし、実際"皆"がそう安堵している。

 だから、これからはAIに興味があるイラストレーター達にmimicは利用されていくはずだ。

 

 その時は、そう思っていた。

 

「オレはしないな」

 そう言って、兄はブックマークに登録しておいたmimicのサイトをクリックし、私に使ってみる事を促した。

 たぶん、兄もmimicのサービス再開を楽しみに待っていたのだと思う。

 

 兄の悪態に反証する意図も込めて、私はmimicの利用説明を読みながら、その手順を踏んでいこうとする。

「えぇっと……まずは本人認証……えぇっと、ツイッター。人力審査だから時間かかるみたいだね。ユーザー一覧にも名前やツイッターのアドレスが載って……」

 ……この時点でちょっと、及び腰になった。

 相当に炎上したサイトの利用者に名前が載る。それは……燃やされないだろうか。10月当時。"とある存在"によってAIへの風当たりは最高潮に達していたのも相まって心配になる。

「……そののち、15枚ほどのアイコンを提出……そこから学習に二時間程度の時間を要して……」

 

 そこまで読んで、私はぽっと、放言をした。

「……めんどくさ」

 思わず私は、そうこぼした。mimicへの興味は、当に失せていた。

 

 既にイラストAIサービスの代替があるのも、mimicにとっては大きな痛手だったのかもしれない。

 その証左として再開から一年以上経った2024年現在。利用者一覧は数える程度しかなく、また公式ツイッターの更新は23年5~6月の時点で途絶えている。

 かくして"日本事業主が運営する画像生成AIサービス"の立身は、ここで潰えた。

 

 10月時点のイラストAIサービス。ローカルを除けば有名どころはやはりMidjourneyと、そして"とある存在"。

 今もなお一部のイラストレーターの怨敵として話題があがる事があり、その運用の手軽さからAIの悪用方法を世間に一気に知らしめてみせたAI。

 

『NovelAI』

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