オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
「彼女」が貧弱な身体能力で頭も良いわけでもないのに世界の常識が通用しない異常空間である「フィールド」と呼ばれる場所に挑んでいけるのには、ある理由があるのでした。
※序章、一章をあわせて扱います。
序、場違いな侵入者
静かな洞窟だ。典型的な鍾乳洞でありながら、入り組み、複雑に作り上げられ。その中には独自の生態系が作り上げられ、闇の中光り輝く虫が舞っている。外から侵入してくるのは、此処をねぐらにする蝙蝠と、ごきぶりたちばかり。
人間もいる。ただし、生きてはいない。かって此処に入り込んだ者が、妄執と迷妄の果てに朽ち果てて。精神だけが残った状態となっていた。
彼が囚われるは、檻。
財宝という名の。
だから、他の人間の到来を許さない。認めない。
彼によって、あまたの命が絶たれてきた。それはいずれも人間ばかり。
今やこの洞窟の主である蝙蝠達にも、鼠にも、魚にも。ごきぶりにも。目もくれなかった。
彼は檻を守っていた。
だから、檻に近付く存在だけが許せなかった。
顔を上げたのは、気付いたからだ。また、人間がこの洞窟に侵入してきたことに。それは許し難き大罪。この洞窟は、彼の王国だ。故に土足で踏みこもうとすることは、まさに万死に値する。
動き出す。
さあ、今度の侵入者はどんな奴だ。
屈強な大男だったことがある。見たこともない機械で武装した、大勢の人間達だった事もある。
だが、そのいずれもが、彼の手に掛かって果てた。
さあ、今度は何だ。神の祝福を受けた英雄か。それとも、恐るべき最新兵器を携えた特殊部隊か。
結果として。
その半分は間違い、その更に半分はもっと間違っていた。
ここを訪れた者は、神に呪われていた。更に言えば、恐るべき最新兵器を持ちながらも、それをこれっぽっちも使いこなせない者だったのだから。
闇が動き出す。
また、獲物を求めて。その喉を、食いちぎるために。
1、スペランカー
蒸すように暑い未開の地を抜けて、ジープが走る。恐縮して助手席で身を縮めているのは。栗色の髪を持つ、十代半ばの娘である。側には大きなリュック。中にはヘルメットと鶴橋、ザイルにダイナマイト。それに閃光弾。
あまり背が高くない娘だ。手足も細く、生白い。顔立ちは小作りで、美人とはとても言えない。出るところも引っ込む所も起伏が足りず、あまり性的な魅力には結びつきそうにない。
恐縮している娘に、その正反対な。筋骨隆々とした大男が、まるで獲物を前にしたドラゴンのような笑みを浮かべていた。何でもかってはI国の配管工だったらしいこの男は、卓絶した運動能力で、力づくで幾多のミッションをこなしてきたことが知られている。当時は腹の出た体格だったらしいのだが、度重なるミッションで鍛えに鍛え抜かれて、今はすっかりこの通り。
文字通り、この業界の英雄である。最強の存在と言っても構わないだろう。
それが、今回は出番を採られたことを、恨んでいるのだ。
「もうじきつきますよ、スペランカー」
「は、はあ」
「今回は貴方の戦歴に、また箔がつくことになりますなあ。 前はあれでしたっけ。 地雷原の中に踏み込んで、貴重な文化遺産を持ち帰ってきた。 その前は海底の遺跡で酸素が尽きたにもかかわらず、奇跡の生還を果たしたとか。 はっはっは。 凄いですなあ」
「え、ええ」
痛烈な皮肉に対して、スペランカーは身が縮む思いだった。何しろこの男と来たら、スペランカーの数十倍は経験を積んでいる。彼がくぐり抜けてきたミッションに比べれば、スペランカーがこなしてきたものなどままごと遊びに等しいからだ。
スペランカー。もちろん本名ではない。無謀な洞穴探索者という意味である。
そして、その洞穴というのは。今まで必ずしも、本当の意味での洞穴を意味してこなかった。未開の洞穴のような難所に無謀な力で挑み、生き残って帰ってくることから、そう呼ばれたのだ。
今回はそれが皮肉にも。本当に洞穴に挑むことになってしまった訳だが。
もちろん、洞穴に挑んだ経験など無い。出来るだけ痛い思いはしたくないから下準備と勉強はしてきたが、それも付け焼き刃だ。一体何処まで通じるのだろうか。自分でも、それは分からない。
多分、通用しないだろう。
いつもと、同じように。
それで、今回も散々痛い目を味わうことになるのだ。
仕事をしなければ生きていけない。育児に興味を無くした母親の下にいた時の飢餓地獄は正直思い出したくないので、仕事は常に入れている。しかし、元々無能な上に身体能力も低い自分に出来ることなど知れている。結局はスペランカーとしての仕事しか無く、それが余計に酷い目に会う回数を増やしていく。
しかも。
仕事を増やせば増やすほど、名は変に知られてしまう。結果として、自分は自分の首を絞め続け、拷問ショーに己の身を投じ続けているのだった。
全く、痛恨だったのは、五歳の時の、あの出来事だ。アレさえなければ、色々問題があるこの世界でも、平穏な生活が出来たかも知れないのに。
柵が見えてきた。この地域を支配しているT国の軍も、である。バリケードは頑丈で、帯銃した軍人も多数。スポットライトが設置され、並んでいるのは二世代前のいかめしい主力戦車。今車を運転している筋肉男なら突破できるかも知れない。否、確実に突破できるだろう。何しろこの男は、人工島に造られた要塞に攻め込み、近代兵器の猛攻をくぐり抜け、敵将を叩きのめした程なのだ。
多分、この洞穴も、彼が攻略すれば簡単なのだろう。
しかし、今回はスペランカーが選ばれた。しかも、世界的な英雄である彼がよりにもよって、運転手である。
スペランカーは、良く事情を知らない。ただ、どこかのVIPを怒らせたらしいと言う事は、どこかで聞いた。そのVIPはかなり力を持っているらしく、流石の彼も逆らえなかった。格下として見下しているスペランカーの運転手をさせられるのであれば。確かに、プライドの高いこの男には、最高にして最悪の罰であろう。
フェンスの側に、ジープが横付け。兵士達がばらばらと群がってくる。銃を向けようとする者もいたが。その男がちらりと睨むだけで、悲鳴を上げて後ずさった。
まあ、無理もない話だ。国家軍事力にも匹敵すると言われるこの男である。兵士の十人や二十人、片手で、なおかつ素手で片付けてしまうだろう。名刺を、出てきた司令官に男が渡す。ジープを降りたスペランカーも、それに習った。あの男は、スペランカー以外には礼儀を保たなくて良いと言われているのだろうか。口調も態度も、がらりと変わっていた。
「ご来賓の到着だ。 さっさと案内して差し上げろ」
「は。 スペランカー様ですね。 此方にお越しください」
「ど、どうも」
空に太陽が輝いている。
二度と、見ることが出来ないというような事はないだろう。洞窟が丸ごと崩れてくるとか、そんな出来事でもない限り。
でも、その場合でも。時間さえ掛ければ、また見ることは出来るか。
隣の大男が、タバコに火をつけた。ライターなんか使わない。指先から出した炎で着火したのだ。今でも能力を増やし続けているというこの男。変身能力を持ち、巨大化まで出来るとかいう話である。次は加速無しで空でも宇宙でも飛び回るのかも知れない。
「では、此方へ」
兵士に案内される。周囲は鬱蒼とした森だ。今度は軍用のジープに乗って移動。運転席の兵士はあの男以上に愛想のない男で、とても堅いシートと、最悪な空気に挟まれて、更にスペランカーは肩身が狭い思いをする羽目になった。
どうやら、それを察してくれたらしい。後ろに乗った通訳の兵士が、声を掛けてくれる。
「我が国は初めてですか、スペランカー殿」
「はあ、まあ」
「この国は色々と問題こそありますが、美しい場所も多々ありましてな。 本当は楽しい場所にも行っていただきたいのですが、お仕事が先とはもったいない。 して、フィールドについての予備知識は大丈夫ですかな」
「そちらについては、大丈夫です」
一応、来る前に状況の勉強はしている。
かって、この地に栄えた王国があった。東アジアの辺境に君臨したその王国は、莫大な黄金を持ち、それをフルに活用して周囲の大国と渡り合ってきた。その栄光は、遙か東の国にも西の国にも届き、あまたの冒険家達を死地に走らせたという。
だが、栄光は長続きしなかった。元々狭い国土であったし、金山も決して無限ではない。更に、英明な王が出なくなると、滅びは加速した。程なく国は、金山の枯渇と同時に瓦解。隣国の侵略によって、脆くも滅び去ったのである。
しかし、一部の黄金は見つからなかった。
王家の人間によって、どこかに隠されたのだという。
其処までなら、何処にでもある埋蔵金伝説だ。此処のものが違うのは、それに携わった王族の手記が残されており、場所まで特定されていると言うこと。
そして、その場所が。
一般人が立ち入ることの許されない、いわゆる「フィールド」と呼ばれる、超危険地帯だと言うことだ。
其処まで来ると、異能者の出番となってくる。さっき笑顔のまま、しかし内心は煮えくりかえったまま帰還していったあの男のような者が挑む場所。此処はフィールドとしては比較的ランクが低いが、それでも何十年か前に、調査に入った軍隊一個中隊が二時間かからず全滅したとか言う場所である。それこそ一般人など、入るのと自殺とが何一つ変わらない魔境なのだ。
そういったフィールドが、世界には幾らでもある。異世界との交流や、宇宙進出も始まっている今でも、それは同じ事。基本的に立ち入り禁止であるそういったフィールドに挑むのが、スペランカーやあの男のような専門家なのだ。
ジープが大きめの石を踏んづけて、がくんと揺れた。当然石より硬いクッションに、思い切り尻を叩きつけることになり、スペランカーは思わず呻いた。
「ふぎゃっ!?」
「運転手!」
「申し訳ありません。 此処は地形が悪いので」
「……」
がくりと首を垂れているスペランカーを不安げに眺める運転手と後ろの兵士。スペランカーが顔を上げると、ほっとした様子で、また語りかけてくる。
「どうしました、我が国の車は、ご趣味に合いませんかな」
「B国製です」
「ああ、そうだったな。 スペランカー殿、ジュースはどうですか。 一応この車にも、クーラーボックスは積んでおりましてな。 特産品のオレンジジュースが、よく冷えておりますぞ」
「はあ、有難うございます」
進められるままに、オレンジジュースのパックを口にする。噴きそうになった。冷えているなどとはとんでもない。かなり、温くなっていた。しかも味にも問題があり、妙に甘ったるく、美味しいとは言い難い。
ただ、これは好みの問題もあるだろう。何でも美味しい某国で、パスタだけが激烈に不味いのは有名な話だ。
ジープが止まる。またフェンスだ。しかも「DANGER」とか書かれた立て札が彼方此方にある。だというのに、兵士の姿は殆ど見つからない。フェンスの鍵を開けながら、運転手が無愛想に言った。
「この先、数十メートルで洞窟の入り口につきます」
「有難うございます。 帰りは何時になるか分かりませんので、この辺りに無線か何か置いておいてもらえますか」
妙なことを言うと思ったのだろう。一瞬ぽかんとしてから、笑顔で手配しますと兵士は応える。
分かっていない。スペランカー自身は、普通の人間と身体能力的にも変わらない。いや、むしろ運動能力などは低い方なのだ。こんなジープで一時間も掛かるような密林、のこのこ歩いて帰ったら、何日かかるか分からない。あの男だったら木々の間を飛び回って一時間も掛からないだろうが、比べる対象が間違っている。
スペランカーがフェンスの向こうにはいると、鍵が再び掛けられた。
無理もない。此処からは、一般人が抗することも出来ない魔境。一刻も早く離れたいのが本音だろう。
スペランカーだって、本当は嫌だ。だが、仕方がない。
リュックを開けて、ヘルメットを取り出して、被る。明かりがつくことも、被る前に確認した。携帯食料よし。鶴橋よし。ダイナマイトも閃光弾も問題なし。リュックを背負い直すと、嫌だなあと思いながら、スペランカーは密林の奥へ、歩き出す。
殆ど間をおかず、見えた。まるで猛獣のように口を開いた洞穴が。入り口のすぐ側には、恐らく最後の警告のつもりだろう。立て札がある。ご丁寧に英語を含む。多分、入ったら死ぬから戻れとか書いてあるに違いない。
一応、修羅場もくぐっては来た。
だが、元々のセンスがないらしく、何度やっても要領のいいやり方は身につかない。自分より背の低いちっちゃな女の子が、たかが風船一つという常識外の軽装備で、飛行能力を持つ人外の者と見事に渡り合ったという話を聞くと凄いなあと素直に感心してしまうのだから、駄目も極まる。
こう言う時は、静かに負けてなるものかと闘志を燃やすべきだろうに。
ライトを付けると、洞窟の入り口へ。闇の中、滴だけが落ちてくる音が響く。辺りには多数の鍾乳石。ライトに照らされて逃げ散るのは、白い体のごきぶりたち。呻く。洞穴が蝙蝠とごきぶりと、奇怪な生物の楽園だとは知っていても、あまり気分が良いものではない。
最初にリフトがあった。
もちろん調査にあった。兵士達は此処までしか出来なかったのだ。とりあえず、洞穴の最初にある急激な縦穴を貫くリフトは設置できた。しかしそれを起点に奥へ向かおうとした途端、連絡が途絶えた。死骸を探しに行った第二班も通信途絶。以降はフィールド指定されて、現在に至っている。
生唾を飲み込んだのは、危険を肌で感じたから。如何に要領が悪くても、それくらいは分かる。
さあ、此処からは死地だ。
どうせ痛い目に会うのは分かりきってはいる。だが、それでも少しは酷い目に会うのを減らさなければならない。
リフトに乗って、レバーを引く。
闇の中に吸い込まれるように。リフトが大きな音を立てて、降りていった。
スペランカーというのは、無謀な挑戦者という意味を持っています。
本作シリーズの主人公である彼女は、最初は揶揄を込めてそう呼ばれていました。
しかしどんな場所からも生還してくるうちに。
やがてそれが畏怖を込めた名前と変わっていくようになったのです。