オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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2、疾駆

猛吹雪の中から抜け出すと、影は舌打ちしていた。忍者装束がぐしゃぐしゃに濡れてしまっている。

 

ファッションとか、不快感とかの問題では無い。これでは、大変に動きにくくて仕方が無い。依頼人の封筒は油紙に包んであるから平気だが、しばらくは体を休めなければならないだろう。

 

しかも、フィールドから出た途端、吹雪が消える。

 

温度差が凄まじく、これだけで体を壊しそうだった。既にフィールド内部は、氷点下にまで温度が下がっていることだろう。

 

Kの部下達は、城に入り込んできた化け物共を相手に五分以上に戦っていたが、それでもいつまで保つかどうか。

 

Kは確かに強い。

 

だが、邪神に確実に勝てるかと言われれば、影は小首をかしげざるを得ない。小物には勝てるだろうが、大物になってくるとどうか。歴史上、Mが最強のフィールド探索者という訳でもない以上、Mより劣るKでは更に勝率が下がる。それが現実というものである。

 

一旦森の中に、身を躍らせる。

 

追撃を駆けてきていたじゃじゃ丸は、一度ノコノコと引き分けたと聞いている。Kの側近とやり合ったのだから、どちらも無事では済まなかっただろう。多少の時間は稼げているとみて良い。

 

高い木に登り、周囲を確認。

 

動きが速い国連軍が、既にフィールド探索者を呼び集めるべく、行動を開始しているのが分かった。この様子だと、半日以内に、手練れが来ることだろう。その中には、高確率でMが含まれるはずだ。

 

Kが何を考えているのか、影にはよく分からない。さっきの発言からも、具体的に裏に何があるのか、解析しきれない部分が大きい。

 

奴は元々、知略を武器に、武力で勝るMと渡り合ってきた。世界の闇で蠢き、膨大な利潤を手にし、何度失敗してもめげずにMを倒そうとしてきた。

 

だが、今回の作戦は何だ。

 

どうにも目的が読めない。更には、異星の邪神の襲来である。一体これは、どういう事態の中に、自分がいるのか。

 

幸いにも、影はこの国で生まれ育った。隠れ潜むことは造作も無い。

 

更に言えば、影はこの国にまだ存在している、忍びの郷の出身者だ。といっても山奥にある原始的な集落では無い。現代社会の中に誰にも気付かれずに存在している、コミュニティの事である。

 

こういったコミュニティは便利だ。身を隠すことも出来るし、マネーロンダリングの真似事も出来る。

 

影はコミュニティ内で技を磨き、一人前になってから、フィールド探索者になった。だがその本業は忍び働きである。フィールド探索においても、あくまで支援と情報収集を行うのが、忍びの役割だと思っている。

 

森の中を走り、そして抜ける。

 

山深い土地だが、都会もある。それがJ国の凄いところだ。

 

Y県の中心であるY市を見下ろしながら、影は道路に出た。闇夜で動くための黒装束を脱ぎ、すぐに一般人の姿に着替える。

 

どこにでもいる、特徴の無い青年に、影は変わっていた。

 

この姿の時、影は石川次郎と名乗っている。特徴が無く、それでいて覚えやすい名前だからだ。勿論実名では無い。

 

途中、タクシーを見かけて拾う。

 

この近くにも、コミュニティの一端はある。昔は、風魔と呼ばれていた集団の、成れの果てである。本来の縄張りはもっとずっと東なのだが、此処まで末裔は流れてきていたのだ。

 

遙か昔は、地元の忍びの末裔と争いもあったと聞いている。

 

今では、互いに不干渉を貫いている。勿論、戦いになったら、血は流れることになるが、多くの場合忍術合戦では無く、拳銃やナイフがものをいう原始的な戦いになる事が多いのだ。昔ながらの忍術を修めていたり、ましてや特殊能力を持っている者など、忍者の末裔にもそうそう多くは無いのである。

 

だから、影は一族から大事にされている。

 

おそらくは、じゃじゃ丸も同じだろう。

 

携帯から、三度間違い電話を掛ける。

 

そうすることで、目的の番号につながるように、仕掛けがしてあるのだ。ジャミング対策も、軍用のレシーバー並である。

 

「影か、どうした」

 

「羽田に行く。 準備を手伝って欲しい」

 

「厳しいぞ」

 

電話の先にいるのは、長と呼ばれる人間である。現在コミュニティを取り仕切っている、七十代後半の老人だ。

 

腰は曲がっているが、とにかく彼方此方につてを保っていて、それが武器になっている。当然、情報筋から、長は聞いているはずだ。影が現在、じゃじゃ丸と交戦していることを。じゃじゃ丸は、このコミュニティとは違う忍者の末裔だ。当然、非常にまずい事になっている。

 

仕事上での戦いであれば、仕方が無い。

 

しかし、コミュニティがそれに関わった場合、全面戦争に発展する可能性が高い。コミュニティとしては、じゃじゃ丸と、その背後にいるコミュニティを敵に回すか、影を諦めるか、判断しなければならない。

 

その判断を、長に押しつけようとしている。

 

しばし待てと、長は電話を切った。

 

数分して、Y市の市街地に到着。此処から幾つかタクシーを乗り継ぎ、駅に出た。其処から、新幹線に乗るべく、電車を乗り継ぐ。

 

そろそろ、じゃじゃ丸も、此方を捕捉してくるはずだ。

 

かっても今も、忍び働きというものは、情報戦が主体になってくる。それこそあらゆるデータから、相手は影を狙ってくると見て良いだろう。

 

問題は、忍者というものは、フィールド探索者としては知られていても、社会では受け入れられていないと言うことだ。特に一部のコミュニティは、事件性のある行動を極端に嫌う傾向がある。

 

つまり、こういう電車などは、むしろ安全になってくる。危険なのは、人気が無い地下鉄などの場合だ。

 

電話にメールが着信。暗号で組まれていたが、長からのものだ。

 

「悪いが、助けは出来ん」

 

「どういうことだ」

 

「今回は、お前が想像していたよりも、山が大きいようだ。 KとMの争いだけかと思っていたが、裏にもう一枚、かなり大きな勢力が噛んでいる」

 

その勢力について、長はメールを出してこなかった。つまりそれだけ危険な相手だと言うことだ。

 

実のところ、Kの組織は大規模だが、さほど「暴力的」では無い。

 

世界征服を本気で目指しているといっても、テロリストを暴れさせたり、市街地で人を殺して廻っているわけでは無いのだ。もっと巨大な利潤を得るため、凄まじい規模で動くのが、Kの組織である。街のヤクザなどとは、格が違う存在なのだ。だが、それが逆にアキレス腱となってもいる。周辺で動く事は、さほど危険では無いのである。象に蟻が見えないのと同じ事だ。勿論、少しドジを踏めば、象に踏みつぶされる蟻になってしまうのだが。

 

しかし、そうでは無い組織もある。

 

今回の報酬は大きい。コミュニティに、大きな貢献をすることも出来るだろう。

 

だが、長は言っている。

 

失敗したら、お前を切り捨てると。

 

長も或いは、責任を取る形で、追い腹を斬るかも知れない。だがそれは、影をかばうことと何ら関係が無い。

 

助けは来ない。失敗したら、トカゲの尻尾切りで処分される。

 

それが分かれば、充分であった。

 

携帯を閉じると、隣の駅で降りる。自分が連れている姫、つまり郵便封筒は、命綱でもあり、災厄の塊でもある。

 

これを奪われれば死ぬ事になる。Kの組織の怒りを買うからだ。

 

持っていても、命を狙われる。

 

Kの組織が何と敵対しているかは分からないが、どちらにしても長が交戦を諦めるような相手だ。影一人で、どうにかなる敵では無い。

 

喫煙コーナーでたばこを吸う。

 

さて、どこまでじゃじゃ丸は迫っているか。ロータリーでタクシーを見つけたので、次の駅まで送って貰う。

 

足取りを掴ませるような情報は残していない。だが、途中で敢えて目的地を変えるのも、追撃を防ぐには効果的な作戦であった。

 

Kが指定した、Wとのアクセスポイントは、国外になる。

 

まずは、この国を脱出しなければならない。

 

 

 

猛吹雪が、更に酷くなってくる。

 

そのなか、ちかちかと瞬いている光。アーサーが平然とスノーモービルから身を乗り出して、手をかざして遠くを見ていた。

 

「Mではないなあ」

 

「見えるんですか?」

 

「我が輩ほど鍛えていれば、造作も無い事だ」

 

からからと笑うアーサー。窓を開けているのに、雪は吹き込んでこない。結界という魔術的な技術を使っているそうだ。

 

以前同行したサヤも、此処まで強力な術式は使えなかった。アーサーの術者としての凄い技量が、これだけでもよく分かる。

 

アーサーがブレーキを踏み、後続車も止まる。

 

ドアを開けて、ばらばらと皆が外に出た。誰が言うまでも無く、わかりきっている。敵だ。

 

「支援班は内側に! スペランカー殿、邪神の気配は?」

 

「凄い数です! ただ、それほど強い気配は……」

 

「よし……!」

 

アーサーが攻撃開始を指示しようとした瞬間に、上空を飛んでいたらしいMが降りてくる。同時に、周囲の吹雪が、消し飛ぶように静かになった。

 

全身から凄まじい湯気を出しているMの目からは、燃えるような殺気が放たれていた。吹雪がかき消された白い大地に、踏み込んでくる無数の巨影。

 

あるものは巨大な人型そのものに、無数の白い毛が生えていた。

 

また別のものは、ウミウシの様な姿をしていて、全身から白い触手を伸ばしていた。

 

魚のような異形もいた。だがそれは全身がねじくれ、体の下部に多数の触手を持ち、その触手の全てに目と口を備えていた。

 

いずれにも共通しているのは、海棲生物の特徴を、体の何処かに持っている、という事である。

 

数は十、二十、もっと増える。周囲を完全に包囲して、一秒ごとに包囲網を縮めてきていた。

 

Mがにやりと笑った。

 

「スペランカーさん。 以前感じたほどの気配はないですね?」

 

「はい。 でも、隠蔽している可能性もあります。 油断は出来ません」

 

あまりにもわざとらしい敬語に、スペランカーは怖気を感じた。だが、それが寒気にすぐに変わった。

 

Mが全身に炎を纏ったまま、敵に突貫したからである。ノータイムでの、戦闘モードへの変貌。Mの本領発揮である。

 

そして、千切っては投げ千切っては投げと、手当たり次第に殺戮の暴力を振るい始めた。Mの豪腕に掛かっては、無数の触手を持つ怪物も、紙細工のように砕かれ、或いは切り裂かれてしまう。

 

だが、怪物達は。

 

Mを相手にする気は、最初から無いようだった。

 

怪物達はMを一切相手にせず、攻撃に対しては雪崩を打って下がり、或いは他のものが倒されている間に逃げる。

 

代わりに、他の方向からは、怒濤のように攻め寄せてきた。

 

Mが目を細めて、手近な一匹を掴み、握りつぶす。いつの間にかMは身長五メートルほどにまで巨大化していた。噴水のように真っ青な血が噴き出して、だがMが気合いを入れると同時に蒸発、青い霧になった。

 

乱戦が始まる。

 

Sがスノーモービルに飛び乗ると、周囲にエネルギービームを乱射し始める。見晴らしのいい場所からの乱射に、次々怪物が打ち抜かれるが、数が多すぎる。

 

Mが周囲に、無数の斧を展開。回転させながら、敵の群れに叩き込んだ。

 

「GO! Fire!」

 

吹っ飛ぶ肉塊。飛び散る鮮血。

 

相手の数が多いが、そもそも回転しながら迫る巨大な斧は、大人数を相手にするのに最適な武器だ。巨体に突き刺さって止まっても、すぐに次の斧が出現し、アーサーの周囲から連射される。

 

迫り来る者は、容赦無くSがエネルギービームで薙ぎ払った。

 

スペランカーが、無言でサヤを突き飛ばす。無数の触手が、スペランカーの全身を貫いていた。意識が飛ぶ、

 

意識が戻ったときには、痙攣する肉塊が、周囲に散らばっていた。

 

スペランカーの特性である。その体を覆っている呪いは、不老不死。死んだ場合は、他者からの攻撃である場合は攻撃者から、そうでは無い場合は周囲から、欠損部分を補って復活する。

 

ある種の攻勢防御である。ずっと昔、幼い頃。狂気を帯びていた父が邪神を呼び出し、そして得させられた能力だ。これが、肉体的に大変貧弱なスペランカーが、超危険地帯であるフィールドを攻略できる要因なのだ。

 

復活するときには、電気ショックに似た痛みが走る。体を起こしながら、スペランカーは呻く。

 

「いたた……」

 

「スペランカーさん!」

 

「大丈夫だから、周囲に気を配って」

 

今の攻撃、敵は、下から来た。

 

元々サヤは、戦闘力が高い方では無い。神道系の術式や、式神というものを使って戦っているようだが、攻防共にさほど能力は高くない。

 

だが、此処に来ていると言うことは、当然理由があるはずだ。以前彼女が呼ばれたのは、その探査能力からだった。今回も、それが求められている可能性が高い。

 

また、別の人の前に触手が迫る。

 

立ちはだかると、触手が一瞬だけ動きを止めた。今度はサヤが印を組み、札を撫でて、何かを唱える。射出された風の刃が、触手を寸断し、辺りにばらまいていた。スペランカーは汗を拭いながら、戦場を走り回る。

 

誰かに攻撃が届こうとする度に盾になり、或いは代わりに八つ裂きにされる。スペランカーが殺される度に、殺した相手も死ぬ。いつもの光景だ。そうすることで、可能な限り皆を守る。だが、今回は相手の数が多すぎる。それでも防ぎきれない。蘇生する度に、痛みもある。だが、休んではいられない。

 

後ろで、スノーモービルが、蛸のような触手に締め潰された。けが人も増えてきている。サヤが可愛い悲鳴を上げて転んだ。足を触手に掴まれ、つり上げられそうになる。アーサーが一瞬速く触手を切り裂き、更にその主に無数の短剣をたたきつけた。文字通り蜂の巣になり、倒れる巨大な白い人影。

 

サヤを助け起こす。

 

「大丈夫?」

 

「どうにか。 でも、数が、多すぎます。 退路を開くべきでは……」

 

「もう少し頑張って」

 

Mが、仁王立ちになって周囲を見回している。その手には、もがく怪物がいた。こともなげに握りつぶしながら、Mはまるでドラゴンのように、巨大な口を開けて呵々大笑した。

 

「ふん、羽虫共がぞろぞろと……好都合だ。 そろそろ本気を出せ、騎士殿ォ」

 

「言われんでも!」

 

アーサーの全身が、光に包まれる。

 

鎧が、見る間に金色に染まっていった。彼の切り札である、能力を数段上げるモードだ。

 

天から降り注ぐ炎の塊が、周囲の怪物達を、薙ぎ払い、吹き飛ばす。

 

剣を振るう度に光の帯が周囲を焼き払い、圧倒的な火力の前に、怪物達がついに尻尾を巻いて逃げ出した。だが、アーサーの鎧がすぐに光を失う。消耗を抑えるために、フルパワー状態を解除したのだ。

 

呼吸を整えながら、アーサーは額の汗を拭う。

 

今の消耗は、小さくなかったはずだ。だがアーサーは、この先の戦いのために、切り札を出すことを選んだ。

 

理由は分からない。だが、後で聞いてみようと、スペランカーは思った。

 

「此方にこれだけ来ていると言うことは、Kは相当苦戦しているな」

 

「私としては、既に死んでいてくれると嬉しいんだがなあ」

 

凶暴な笑みを浮かべながら、Mが死んだ敵の頭を踏みつぶした。得体が知れない臓物や体液が、雪の上に飛び散る。

 

「ざっと百三十は潰したね。 けが人は」

 

「二人負傷した!」

 

「私が手当てします!」

 

サヤが飛び出そうとして、また転ぶ。

 

かわいらしいが、今は状況を悪化させるだけだ。スペランカーは、服がぼろぼろになってしまったことを嘆きながら、コートをもう一枚羽織る。サヤは雪まみれになりながらも、何とかけが人の側に行き、回復の術式を使い始めていた。やはりこれも、式神を使って行うらしい。札を取り出して、ごにょごにょやっていた。

 

これだけの戦力での攻撃である。

 

アーサーも、いつまでも冷気を緩和する術を使い続けられないだろう。国連軍が第二陣を用意してくれていれば良いのだが、そう都合良く行くかどうか。

 

吹雪は、衰える様子が無い。敵の戦力がいささかも減じていない証拠だ。

 

しばらく、無事だった二台のスノーモービルを対角線上に配置して、円陣を作り、休憩をする。

 

Mが、不意に周囲に呼びかけた。

 

「前、このフィールドで訓練をした奴はいるか」

 

おずおずと挙手をしたのは、サヤである。皆の視線が、必然的にサヤに集中した。

 

「ほう……」

 

「な、何でしょうか」

 

「確か城があるんだったな」

 

「はい。 もう、すぐ近くの筈です」

 

もしもKが立てこもっているとすれば、其処だろう。Mはそう言う。誰でもそう考えるだろうが、確かにその通りである。

 

現状、戦力が足りていない。一度Kの様子を見に行く、という手は確かにある。

 

だが、Mがそんな殊勝なことを、考えているのだろうか。

 

アーサーもやはりスペランカーと同じ疑念を抱いたらしい。猜疑心に満ちた目で、Mをにらんだ。

 

「まさか貴殿、この重大事に、Kを殺すつもりではあるまいな」

 

「さてな」

 

「我が輩からも言っておくが、今はまず邪神を撃退するのが先だ。 このフィールドの有様を見ても分かるだろうに」

 

Mはにやにやしている。アーサーだけではスタミナ切れすることがわかりきっているだろうに。或いは、場合によっては、単独で邪神もKも叩き潰すつもりなのか。

 

吹雪の中から、気配。

 

歩み来たのは、オールバックに髪をなでつけている、小柄な男性だった。Mを見ると、男性は恭しく礼をする。

 

「久しぶりでありますな、M」

 

「ふん、ノコノコか。 ブチ殺してやるか、或いは拷問してKのいる所を聞き出してやりたいが……」

 

「今はそれどころではないと、分かっておりましょう?」

 

ノコノコと言えば、スペランカーでも知っている、Kの側近中の側近だ。スペランカーが、火花を散らすMの側に行くと、服の袖を引く。

 

鬱陶しそうにMが、スペランカーを見た。

 

「何だ。 いや、なんですかな」

 

「今はそんなことをいっている状況では無い筈です」

 

「……っ」

 

Mの目に、灼熱の殺気が浮き上がるのが見えた。

 

わざとやっているんだよと、その視線は雄弁に語っていた。Mの怒りに満ちた視線は、並の邪神が放つ殺気よりも凄まじい。普通の人間だったら、この殺気を浴びただけで、失禁するか、或いは心臓麻痺を起こして死んでいたかも知れない。だが、スペランカーは平気だ。

 

恐怖にも、死にも慣れている。

 

それに、後ろには、Mに決して対抗できるわけでは無い人達もいる。ならば、スペランカーが盾にならなければならない。そうすることで、皆を守れるのなら、いくらでも盾にでも壁にでもなる。

 

咳払いしたのは、アーサーだった。

 

「我が輩も同感だ。 今は一時的にでも、手を組むべきではないのかな」

 

「分かっている!」

 

「話が早くて助かります。 Mだけでは、こうはいかなかったでしょうなあ」

 

「もう、要件に入って」

 

呆れ気味のスペランカーに、ノコノコは咳払いすると、言う。

 

皮肉屋である事はうかがえるのだが、視線には感謝の光もあった。そうして貰えると、スペランカーとしても嬉しい。

 

「主君は先ほど、蠱毒城に入り込んできた敵の先鋒を迎撃、撃破。 敵は第二陣の準備を整えています」

 

「ほう、それで」

 

「戦闘中、敵の首魁の位置を、ほぼ特定しました」

 

それを叩いて欲しいと言う訳か。

 

Kの方が、どうやらMより幾分か打つ手が速いようだ。それは何となく、スペランカーにも分かった。

 

だから、力で劣るにもかかわらず、Mと互角に戦い続けてこられたのだろう。

 

場所について、指定されたのは、フィールドの境界線あたりである。サヤが、挙手した。

 

「この辺りは、フィールドの中核です」

 

「え? お城じゃ無いの?」

 

「お城の中には、実は中核はありません」

 

意外なことを、サヤは言う。しかし、此処で訓練したことがあると言うのなら、その言葉には信憑性がある。

 

詳しく聞こうかと、アーサーが言った。

 

攻略の糸口になる情報だ。誰もが、真剣にその言葉に聞き入った。

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