オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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4、邪神の嘲弄

蟹のような姿をしたハスター配下の邪神ミ=ゴは、定時連絡を主君に入れていた。彼ほどの邪神となると、通信装置など必要ない。テレパシーで、苦も無く主君と会話することが出来る。

 

ミ=ゴは参謀格としてハスターを支え続けてきた存在で、その麾下としていくつもの星を任されてもいる大物だ。ハスターが復活する前から宇宙で暗躍を続け、この星についても主君より詳しい自負がある。

 

だからこそに、知っているのだ。

 

もしも優れた力を持つ風の四大、邪神ハスターであっても、この星の能力者どもを相手にすると、分が悪いことを。

 

勿論主君の前では、そんな姿を見せない。意見も提示しない。

 

主君は風を司るだけあり、残忍で気まぐれだ。長く使えてきているミ=ゴでも、気分を損ねたらゴミのように殺されてしまう。

 

「ほう、それでMとやらを、幻惑の陣に誘い込んだか」

 

「はい。 懸念されていた神殺しに関しては、相殺の呪術を掛けました」

 

「例の呪いを無力化する呪術か」

 

種は、大規模だが、実のところたいしたものではない。

 

このフィールドは、既に一つの生命とかしている。無数の怨念が凝り固まった結果、天草の一族の怨念と一体化し、これそのものが「幕府に迫害された天草一族」と化しているのだ。

 

それを、まんま全て、神殺しにぶつけた。

 

後はクトゥヴァを倒した時にアシストを努めたサー・ロードアーサーだが、これについては物量で押しきればいい。Mほどの火力はないし、油断さえしなければ充分に倒しきれるはずだ。

 

ミ=ゴは戦略的に、相手の長所を潰して掛かっている。

 

後は籠城しているKを始末すれば終わりだ。

 

それをアピールして報告を終えると、満足そうにハスターは言った。

 

「それにしても、クトゥルフもクトゥヴァも知恵が足らんなあ。 こんな連中を相手に、随分と手こずりおって、あげくに倒されるとは」

 

「クトゥルフ様に関しては、不意を打たれた、というのが一番大きいようにございます」

 

「ふん、それにしても、不意を突かれた程度で人間に負ける程度であった、ということであろうよ」

 

これは、主君がMか神殺しと戦ったら負けるな。

 

そう、ミ=ゴは思った。

 

主君は強いのだが、相手を侮って掛かる悪癖がある。並の相手だったらそれでも全く問題は無いのだが、この星の連中は格が違う。

 

此方を見ただけで発狂するような柔な奴は存在しないし、何より基礎的な力が桁違いだ。

 

最悪の事態を、ミ=ゴは想定してしまう。それは、勿論主君が負ける、などというような生やさしいものではない。

 

「私はKを葬ったら引き上げます。 もしも勝てない場合は、その時には情報を持ち帰ります」

 

「Mは倒さぬのか? 知恵多き部下よ」

 

「奴は危険性が高く、私の手に余ります。 是非主君の力をお見せください」

 

「ふん、まあ良いだろう」

 

通信を切る。

 

この時既に、ミ=ゴは、ハスターの勝利を諦めていた。

 

あの様子では、主君はMによって、容赦なく叩き潰されてしまうだろう。ここのところMの能力値について分析を続けていたのだが、奴の実力は計り知れない。主君とニャルラトホテプが一体になっても、勝てるかどうか分からないという次元だ。

 

宇宙で、主君は最強の存在に近かった。

 

今までは敵らしい敵もいなかった。傷つけられる存在など、同格の神くらいしかいなかったのだ。

 

だからこそ、主君は慢心した。

 

通信を入れる。今度は、ニャルラトホテプにだ。

 

ニャルラトホテプでさえ、この星ではおおっぴらな活動を控えている。その意味を、主君は理解してくれない。

 

「ほう、ハスター配下の賢者では無いか。 私に何用かな」

 

「はい。 「来るべき日」を避けなければならないと、思いまして」

 

それを告げると、ニャルラトホテプは流石に黙り込む。

 

もしも、このまま四大がこの星で破れるようなことがあれば、その日は来てしまう。

 

そして、ハスターは、このままだとそうなる可能性が極めて高い。居場所を突き止められでもしたら、即座にMは殴り込みを掛けてくるだろう。神殺しも一緒に来たら、敗北する確率は更に上がり、ほぼ絶対になるとみて良い。

 

そして厄介なことに、人間共の一部勢力は、どうやらそれを狙っているらしいのだ。ハスターは気付いていない。人間を侮蔑しているが故に。奴らは、ハスターが思っているより遙かに狡猾で邪悪なのだ。

 

「Mは強大だと私も思ってはいたが、それほどか」

 

「現在、この星にいる我らが総力を挙げても、相手は難しいでしょう。 もしも四大が全て破れるようなことになれば……」

 

「あの中心の座が、この星に来るか」

 

ニャルラトホテプは、自身の産みの親であり、全ての邪神の作り手である存在を、そう呼び捨てた。

 

そうなれば、Mだってかなわないだろう。勝てるかも知れないが、代償は果てしなく高く付くはずだ。

 

たとえば、この星から、魔術も能力も消え失せるとか。勝てなければ、この星は滅亡確定だ。木っ端みじんに吹き飛ぶくらいなら、それはむしろ幸せな終わり方かも知れない。

 

ただ、滅びるよりはマシだとして、能力と魔術を犠牲にしようと動くかも知れない。人間とは、時によく分からない行動をする。どう人間が動くかは、ミ=ゴにも断言は出来なかった。

 

「そこで、ニャルラトホテプ様には、一度、この星を離れる事をお勧めいたします」

 

「何?」

 

「このままだと、我が主君は、Mに敗れるでしょう」

 

冷然と、事実を主張する。

 

もはやミ=ゴは、ハスターがMを倒せるとは、思っていなかった。

 

そうなれば、残るのはニャルラトホテプだけだ。ニャルラトホテプは様々な特性を持つ、とても「倒しにくい」神だが。何しろ、相手はあのMである。何をやらかすかしれたものではない。

 

しばらく考え込んだニャルラトホテプは、からからと笑う。

 

「それならば、それでもよい」

 

「ニャルラトホテプ様?」

 

「もとよりあの中心の座には、無理が来ていたのだ。 あの腐った塊をたたきつぶせるのなら、私の命など安い捧げ物かも知れぬしなあ」

 

「な、なりません!」

 

たとえ、知性を持たない肉の塊であったとしても。

 

存在そのものが、宇宙に広く分布している神々の母体なのだ。ニャルラトホテプが憎しみを持っている事は知っていたが、もしもそれによってあの中心の座が滅びてしまったら、全ては。

 

少なくとも、神々は、この世から消滅しかねない。

 

「だったら、滅びてしまえ」

 

虚無を司るとさえ言われるニャルラトホテプは、笑いながら通信を切る。

 

どうやら、絶望が前には立ちはだかっているらしい。ミ=ゴは無言で控えている部下達に、振り返った。

 

「全戦力を投入。 Mを足止めしろ」

 

「我らの命を捨て駒にしろと仰せですか」

 

「幻惑に奴が囚われている今であれば、或いは殺せるかも知れん。 私はこれから、Kの首を取りに行く」

 

永く生きてきた。

 

破滅的で怠惰な神々は、あまりにも強いが故に、宇宙中で好き勝手をしてきた。ミ=ゴもその一柱だ。

 

だが、永く生きてきたが故に、死は怖い。

 

この星に来たのは、美味なる狂気を食すため。リスクを怖れないのは、退屈に飽きているため。

 

勿論違う動機の神々もいるだろう。

 

ミ=ゴは違う。たとえどのようにいびつであっても、生き延びたいと願う。神々であっても、生きた存在なのだ。

 

ニャルラトホテプのような変わり者を除いて、積極的に死にたいと願うだろうか。少なくともそんな結末、ミ=ゴには耐えられなかった。

 

 

 

スペランカーが立ち上がると、周囲の戦況は悪化の一途をたどっていた。

 

アーサーが作り出した盾に隠れて、皆が応戦している状態である。Sが撃ち放つエネルギービームは次々に敵を貫いているが、とてもではないが、全滅には結びつかない。サヤは完全にへばってしまっていて、目を回している様子だ。

 

「スペランカー殿、随分と再生に時間が掛かったな。 苦しくは無いか」

 

「苦しくは、ありません」

 

この程度の痛み、文字通り何でも無い。苦しいし痛かったが、幼い頃、ネグレクトされて味わった飢餓地獄に比べれば。

 

ふらつく足を叱咤して、前に出る。

 

感情無き剣士の群れが、アーサーやSに次々打ち倒されている。他の戦士達は、既に盾の中にかくまわれて、体力の回復を図っている途上だ。

 

アーサーは斬りかかってきた一人を剣でいなしつつ、頭上に出現させたハンマーで叩き潰す。内臓が飛び散るようなことも無く、死ぬと霞のように消えてしまう。

 

そういえば、Mは。

 

「Mは先に行くと言って、それきりだ。 しかし、妙なことになっていてな」

 

そういえば。

 

吹雪が、無くなっている。周囲はひんやりとして冷たいが、それだけだ。

 

他にもおかしな事はある。後ろに、呼びかけてみる。

 

「通信機は、使えますか!?」

 

「何!? あ、使えるぞ!」

 

戦士の一人が、通信機で、救援を求めているようだ。この状況である。増援を求めるのも、無理は無い話だ。

 

それに何より、剣士達の動きが、妙に鈍くなっているように思える。

 

サヤをかばったとき、もっと彼らの動きは速かったような気がするのだ。

 

Sが、下がりながら横殴りに掃射し、数人を瞬時になぎ倒した。だが、死角に潜り込んでいた一人が、袈裟に斬りかかる。

 

だが、余裕を持ってSは対応。剣を避けつつ、顔面にビームを叩き込んだ。吹っ飛んだ剣士は、霧散して消えていく。

 

スペランカーは、考える。

 

何となく。さっきより、邪神の気配が濃くなっている気がする。それに対して、フィールド由来らしい剣士達は、とても弱くなっている。

 

邪神がフィールドを乗っ取ったことは、今まで何度もあった。此処だってその一例だ。だが、今回は妙なことがいくつもある。

 

サヤを揺り起こす。

 

目を回していた彼女は、しばらくぼんやりとしていたが、飛び起きた。慌てて辺りを見回している様子がほほえましい。

 

「起きた?」

 

「ね、寝てません! 寝てませんでした!」

 

「いいから。 それより、聞きたいの。 このフィールド、すごく気配が弱くなってきていない?」

 

「……!」

 

サヤはしばらく辺りを見回し、そして頷いた。

 

どうやら、感じた気配は、間違いでは無かったらしい。そうなると、もうこのフィールドには、力が残っていない、と見て良いだろう。

 

ふと見ると、雪原は、もう雪さえ積もっていない。むき出しになった地面に上に、只一人だけ。

 

剣を八相に構えた剣士が、立ち尽くしていた。

 

どちらかといえば端正な顔立ちなのだが、一つ異様な点がある。首から十字架を掛けているのだ。

 

この人が、隠れキリシタンなのだろうか。

 

「間違いありません。 あの人が、コアです。 そして、もうフィールドとコアは、一体化している様子です」

 

「幕府のイヌ共が……! 最後の信仰の聖域を、我らが願いの土地を、どれだけ汚そうとすれば気が済むのだ……!」

 

憎悪が、剣士の口から、言葉の形を取ってほとばしりでる。

 

思わず耳を塞ぐサヤをかばうようにして、スペランカーは前に出た。

 

「もう、このフィールドは消えます。 貴方が、私を斬ったからです。 フィールドそのものが、致命的な打撃を受けたからです」

 

「黙れ! 消えぬ! 私の願いは! でうす様への信心は!」

 

アーサーが出ようとするが、止める。

 

スペランカーは二歩、三歩と歩み出る。コアからスペランカーを傷つけようとするとは思わなかった。

 

自滅に等しい。

 

だが、この人達は、それで良かったのかも知れない。

 

きっとこの人は、ずっと死にたいと思っていたのだ。

 

あまりJ国の歴史に、スペランカーは詳しくない。隠れキリシタンの迫害の歴史も、又聞きくらいでしか知らない。

 

だが、知っている事はある。

 

「サヤちゃん、出来るだけ楽にこの人を死なせてあげられないかな?」

 

「私は神道系です。 仏教系の方なら、或いは……」

 

「そう。 ごめんね、無理言って」

 

痛いが、仕方が無い。スペランカーが一番簡単に相手を倒せる方法は、決まっている。

 

顔を上げて、相手の間合いにまで入り込む。

 

そうすると、見えてきた。やはりこの人は、虚無に囚われている。ぼさぼさの髪も、端正な顔も、絶望に歪んでいるのが分かった。

 

既に死んでいるこの人を楽にする方法は、一つしか無い。このフィールドから、解き放ってあげること。それは死を意味する。

 

「今までの憎悪、憎しみ、全てを私に向けてください。 何もかも、後腐れが無いように」

 

「おのれええええっ!」

 

神に帰依したとは思えない、憎悪と狂気の表情を、剣士が向けた。

 

その全てを、スペランカーは受け止める。受け止めなければならない。

 

スペランカーがブラスターを向けるのと、剣士が斬りかかってくるのは、ほぼ同時。

 

引いても当たるかは分からなかったが。

 

スペランカーは、最後の瞬間、敢えて引き金を、引かなかった。

 

 

 

スペランカーが目を覚ましたとき、既に戦いは終わっていた。

 

周囲は鬱蒼とした森に変わっており、転々と人骨が散らばっていた。いずれも相当に古いもののようで、変色していて、元の形を保っているものは殆ど無かった。

 

フィールドである期間は長かった。その間、多くの人が、此処で死んだという事だ。

 

城は影も形も残っていない。

 

アーサーに背負われて、そのまま戦場に急行したらしい。下ろして貰って、話を聞く。既に戦いは終わっていたそうだ。

 

そして、しばらく歩くと、その場に遭遇した。

 

巨大な怪物の死骸を踏みにじりながら、Mが数人の男女とにらみ合っている。

 

視線の先にいるのは、マフィアのボスのような姿をした、俗悪な中年男性だ。口には葉巻を咥えていて、凄まじい威圧感を全身から放っていた。

 

間違いない。

 

恐らくアレが、裏社会の顔役にして、世界の敵。大魔王K。

 

その周囲にいるのは、いずれもがKの側近達だろう。無傷では無い様子だ。無理も無い。あれだけの数の邪神の攻撃を受けたのだから。

 

「久しぶりだなあ、K」

 

「ああ。 早速決着を付けたいところだが、あいにくそうも行かなくてな。 今回は引き上げさせて貰うぞ」

 

「どうした、貴様ともあろうものが、随分と弱気では無いか」

 

「少々看過し得ぬ情報を入手してな。 極めて不快だが、近々貴様と協力しての戦闘態勢を作らなければならんかもしれん」

 

MとKの間の空気が、瞬時に帯電する。

 

拳を鳴らしながら、Mは猛禽そのものの視線を、Kに叩き込んでいた。

 

「私が、貴様を逃がすと思うか?」

 

「悪いが、計算が出来なくなったとは聞いていない。 引き上げるぞ、お前達」

 

Kの部下達も、流石にMの戦闘モードを前にして緊張を隠せない様子だったが。それでも、主君がきびすを返して引き上げていくと、唯々諾々とそれに従った。

 

流石に、Mと戦って勝てる見込みは無いのだろう。

 

やがて、Kは姿を消した。

 

Mは大きく舌打ちすると、指を鳴らす。彼の足下にあった怪物の死骸が、瞬時に燃え尽きていった。炎の中にいても、Mは全く動じない。服さえも、焦げる様子が無かった。

 

燃え尽きていく怪物の中立ち尽くすMは、まるで魔神か何かのように見えた。人間であっても、あまりにも強くなりすぎると、ストレートに恐怖を煽るものらしい。

 

アーサーが臆せず歩み寄り、咳払いしてから言う。

 

「邪神は?」

 

「ふん、騎士殿か。 あのカニなら逃げおったわ。 Kとは五分にやりあっていたようだが、私が姿を見せると、時間切れだと抜かしてな。 これは時間稼ぎ代わりに置いていった雑魚だ」

 

Mはよほど不快だったらしく、帰ると言い残すと空中に浮き上がり、もの凄い風だけを残して消えていった。

 

音速くらいは出ていたかも知れない。本気を出したら、もっと凄まじそうであるが。

 

嘆息すると、アーサーは首をこきこき鳴らす。

 

今回は強敵との戦いが少なかった代わりに、ひたすら長期戦になったこともあって、それなりに疲れたようだ。

 

「この戦い、作為的なものを強く感じたな」

 

「あんたもかい? 何だか嫌な予感がする」

 

Sもそれに応じていた。

 

アーサーとSは、ほぼ同格の戦歴と戦闘力を持つ戦士だ。二人が言うことは、それなりに信頼出来るとみて良いだろう。

 

Sはヘルメットのまま振り向く。全身を頑強なスーツで覆っているSだが、どうしてかスペランカーには、この人が絶世の美女なのでは無いかと思えた。

 

「神殺し、もしも異星の邪神が何か企んでるとすると、焦点になるのはあんただろう。 気をつけるんだね」

 

Sの言葉はもっともだ。

 

気をつけると返事すると、スペランカーは、強烈すぎるMの気に当てられてまだ震えているサヤをなだめながら、帰路につく。

 

今回は、それほど厳しい戦いでは無かった。

 

だが、あの隠れキリシタンの剣士の鬼気迫る表情は、忘れがたい。いつも戦いでは、スペランカーは世界の業を見せつけられる。きっとこれからも、それは変わらない。

 

それに、異星の邪神の目的も気になる。MとKの言葉の意味も。

 

何か、大きな異変が近づいている。そう思えてならなかった。

 

「何だか怖いです」

 

「大丈夫。 みんながいれば、きっと何とかなるよ」

 

スペランカー自身も、怖くないと言えば嘘になる。

 

だが、そう言って相手を慰めていくことで、きっといつか世界は良くなる。そう信じていた。

 

 

 

Wは、気むずかしそうな老人だった。

 

傷だらけの影を見ても、鼻を鳴らすだけで、手紙を受け取ると、犬でも追い払うようにして、外に出された。

 

報酬についての話をすると、忌々しげに言う。

 

「分かっている。 この手紙にしたためられている通りの場所に入金しておく」

 

「またのご利用を」

 

影の前で、戸は閉じられた。

 

こういうとき、料金を払わない奴は、闇社会からも締め上げられる。ましてやWは相当な資産家と聞いている。実際に金を払わないという事は無いだろう。

 

此処は米国の片隅。比較的高級な住宅が建ち並ぶ、ハイソな場所だ。

 

帰路の途中で、じゃじゃ丸の車が待っていた。そのまま乗せて貰う。

 

「Wはなんと?」

 

「イヌでも追い払うように、手紙を取られた」

 

「それでいい」

 

じゃじゃ丸は感情を声に込めず言う。

 

情報が露出した忍びは三流だ。基本的に忍びは影に生きる存在であり、それは今も昔も変わらない。

 

派手な忍び装束で自己主張するような忍者は、ただの阿呆だ。

 

忍者は影の存在。戦闘でも前に出ることは無く裏役に徹し、情報収集を主体に活動し、そしてアシストを努められればよしとする。

 

今回も、追撃してきた妖怪を、誰にも知られず葬った。

 

アレは恐らく、歴史の影に葬られた紀伊家の姫の成れの果てだろう。あの憎悪は、当分消えないだろうと、じゃじゃ丸は言う。

 

それでよいのだ。

 

あれは影一人で受け止めれば良い。やがて、影と一緒に地獄に落ちれば、それで万々歳だ。

 

表に出してはいけない歴史は、確かにある。

 

それを闇にて受け止めなければならない存在は、必要なのだ。

 

「だいぶ、一人前の顔になってきたな」

 

「そうか」

 

「次も味方でありたいものだ」

 

「そうだな。 まだあんたには勝てそうに無い」

 

空港で、じゃじゃ丸と別れる。

 

じゃじゃ丸と二人で打ち倒したとき、あの妖怪は、誰かの名を叫んでいた。きっと、彼女を隠れキリシタンにした、天草一族の末裔の名だったのだろう。

 

ニュースを確認すると、既に蠱毒城は滅ぼされたことが分かる。すでに妄執は、闇から解放されたのだ。

 

じっと天を見る。

 

きっと恋仲だっただろう天草一族の末裔と姫は、永遠に結ばれることは無かった。

 

影の先祖が、幕府の命のままに仲を引き裂いた。だが、それによって、江戸時代の平和は保たれた。

 

影の仕事は、闇の仕事。

 

忍者は、歴史の闇とともにある。

 

それを再認識できれば、それでよい。

 

これからも影は、己が闇である事に、誇りを持って動ける。

 

忍びのあり方を知った今なら、それがきっと可能だった。

 

 

 

(続)




忍者と忍者の熾烈な戦い、如何だったでしょうか。

能力持ちの忍者というと近年とても有名な作品が複数ありますが、それらとは違う切り口での内容にしてみました。
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