オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
カーレースゲームというわけではなく……スーパーカーを使って追跡者を巻きながら目的のものを集めていく……というようなゲームですね。
ゲームの設定的にはかなりダーティーな内容で、一種のピカレスクロマン的な話だったようですが。
本作では、この作品を題材に、クトゥルフ神話における大物邪神、ハスターとの決戦を描いていきます。
序、誰も知らぬ正体
軍でも対処不可能な、危険地帯フィールド。物理法則がねじ曲げられ、怪物が跋扈する人外の土地。
それを攻略する事を生業とする者達を、フィールド探索者と呼ぶ。
異能の持ち主である事が普通のフィールド探索者だから、変わり種も多い。最強と呼ばれる一人Rなどはロボットであるし、とても人間とは思えないような姿をしている者達も少なくない。
此処は、R国の片田舎。
急ピッチで作られたらしい仮設の基地の敷地内には、既に十人を超えるフィールド探索者が集まっていた。
スペランカーが知っている者も多い。最強の名を恣にするMを筆頭に、様々な猛者が揃っていた。奥で武器の手入れをしているのは、ワンマンザアーミー、スーパージョー。特殊能力が脆弱にもかかわらず、その圧倒的な戦闘経験値で、一目置かれる男。彼がいじくっているのは、何かの突撃銃らしいが、軍用兵器の知識が乏しいスペランカーは、詳しくは知らない。彼らの他にも、一流どころとされるフィールド探索者が既に三人、奥で談笑していた。
今回、攻略対象となっているのは、街のすぐ側にある巨大な凍結湖。その湖が、一夜にして、真っ黒い闇に覆われたのである。
しかも闇は、一秒ごとに拡大を続けていた。偵察機を送り込んだところ、内部には世にも奇怪な空間ができあがっていることが、確認できたのである。物理法則もねじ曲げられている様子だ。
何より、その内部には。
現在最も警戒されている異星の邪神ハスターが、姿を隠すことも無く、座していることが分かったのである。
「先輩、情報を仕入れてきました」
スペランカーが最も信頼する後輩、川背が来る。
今回は、風の邪神王と呼ばれる筋金入りの強豪が相手だ。それもあって、フィールド探索者には最強のメンツが集められていると、川背は言う。
まだ此処にいるのは先発隊で、これから更に十名以上が来る予定だという。リストの中には、スペランカーが最も頼りにする一人、騎士アーサーの名が無い。小首をかしげるスペランカーに、川背がフォローしてくれる。
「実は、土の邪神王が動いているという話があります」
「土……」
風がいるのなら、土がいてもおかしくは無いか。
そうなると、いざ土の邪神王が来た場合は、アーサーをはじめとする戦力が対処する、という事なのだろう。
近年は大規模なフィールド攻略が増えている。
何か嫌なことが起きなければ良いのだがと、スペランカーは懸念してしまう。
国連軍は、湖の畔にある街の住民を避難させるので手一杯だ。プレハブの仮設指揮所さえ無く、鉄条網で覆っただけである。
とても寒いが、たき火はある。
自然と、たき火を囲んで、皆が集まる結果になった。
全身を分厚い筋肉で覆った大男、Mが来る。
凶暴な眼光で皆を見回すと、彼は口を開いた。
「早速だが、偵察隊を派遣したいと思う。 無人偵察機では、そろそろ無理が出てきているからな」
ホワイトボードを、軍の人が持ってくる。
Mは腕組みしたまま、大まかな情報が書かれるのを、横目で見ていた。
フィールドの広さは、現時点で四キロ四方。一秒辺り一辺が0.05メートルずつ拡大していて、このベースにまで到達する時間はおよそ三日。
湖を既に覆い尽くす勢いのフィールドは、このままのペースだと、半日後には街を飲み込みはじめるという。
勿論住民の避難は急いでいるが、何かしらの手は打った方が良い。
遅れている戦力は、後八時間もあれば、全員が揃うという。
それなら、その時に総攻撃を仕掛けるためにも。
事前に、敵の出方くらいは、見た方が良い、というわけだ。
「まずは、こういうときの第一人者、スペランカーさん」
スペランカーは、Mが皮肉たっぷりにさん付けをして呼んできたので、思わず苦笑いしていた。
Mがスペランカーを毛嫌いしていることは知っている。
だが、一度聞いてみたいとも思っていた。どうして、そんなにスペランカーを嫌うのか、をである。
「次にマッドエックス」
「ンー、俺か」
奥で駐車しているスポーツカーの中から、声がした。
彼こそは、今回の参加者の中でも、とびきりの変わり種。日がな一日中特殊なスーツに身を包み、顔さえ見せたことが無い人物。マッドエックスだ。いつも特殊なスポーツカーと一緒に現れ、フィールドもそれに乗って攻略する。ロボットだとか、サイボーグだとか、様々な噂がある。
また、彼が乗るマシンも、スポーツカーと言っても、充分に戦闘可能な代物だ。馬力といい頑強さといい、装甲車並みの仕様だと、聞いたことがある。
確かに、偵察人員としては、これ以上無い足だ。
川背が挙手して、同行を認められる。
更に連絡要員として、ベースに残る事を命じられた人員が一人。ここのところ、行動を共にする機会が多くなってきた経験が浅いフィールド探索者、巫女のサヤだ。
彼女は式神を使う能力者で、フィールドの内外の情報をやりとりするには非常に適切である。
「俺も行こうか」
「いや、貴殿は此処に残って、指揮を手伝って欲しい」
挙手したジョーに、Mが言う。
ジョーは何度か作戦を共にしたが、とにかく頼れる戦士だ。戦闘タイプのフィールド探索者と比べるとどうしても身体能力などでは見劣りするが、銃火器の扱いや、歴戦の知恵で、格上とも互角以上に渡り合う。
来てくれれば心強かったのだが、Mの発言力は強い。川背が側にいるだけでかなり頼もしいのだし、これ以上を望むのは贅沢だろう。
とりあえず、マッドエックスに乗せてもらって、フィールドにスペランカーが入ることで決まった。川背がサポート。そして後方支援として、サヤである。
すぐに突入の準備を開始。
遭難したときに備えて、食糧。川背が、幾らかの武器類を見繕う。マッドエックスは、王と呼ばれる戦士と組むことが多いのだが、彼は今回姿が見えない。リストにも名前が無かったから、アーサーと同じ待機要員だろう。
十分ほどで、準備終了。
バタンと音がして、マッドエックスのドアが開いた。
「ンー、乗りたまえ」
「良いの?」
「ンー、フィールドの中に入ったら、屋根に上がってもらう。 それくらいの間は、まあいいだろう」
喋るときに、独特の音がする。マッドエックスがロボットでは無いかと噂される原因の一つだ。
乗せてもらう。
スポーツカーの中はかなり狭い。
マッドエックスと共闘するのは初めてでは無い。だが、車に乗せてもらった事は、あまり多くない。
だが、今回も、以前と変わらない印象を受けた。
負傷者が出たとき、マッドエックスが搬送した事がある。その時車の中に乗せてもらった人が、感想を言っていたのを、聞いたことがある。
おおむねスペランカーと同じだった。
あまり言いたくは無いのだが、墓穴のような感じを受けるのだ。この車は、愛情から生まれたのだとは思えない。中には、悲しみと怒りが籠もっている気がする。
その上、マッドエックス自身は、人相さえ見えない有様だ。あまり良くない評判が立つのは、仕方が無い事かも知れない。
怖いとは思わない。
むしろ、その人となりを知りたいと、スペランカーは前から思っている。気持ち悪いから遠ざけたい、というのでは、下劣な輩と同じだ。
「ンー、出るぞ。 シートベルトはしたか」
「大丈夫」
ぐんと、車が加速した。
だが死ぬほどでは無い。加速自体は柔らかい。
フィールドは、既に静寂の湖を覆い尽くそうとしている。川背は平然と、ルアーつきゴム紐をふるって、ついてきていた。
彼女は生身で車以上の速度を出せる。
「ンー、たいしたものだ」
マッドエックスが、くつくつと、独特の笑い方をした。