オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

105 / 140
アトランティスでの戦い以来の規模で、歴戦のフィールド探索者達はハスターとの戦いに挑みます。

それくらいの規模で挑まないと、とても勝ち目などありません。

Mさんがいても危ない戦いなのです。


2、異星の罠

 

スペランカーのチームは合計六名。

 

ジョーが指揮を執り、スペランカーと川背、それにアリスとマッドエックス、もう一人が加わる。マッドエックスは文字通りの足として行動し、ジョーが支給品のスノーモービルを操作する。他のチームも、おおむね五名から六名という所だ。

 

外から後方支援組が、魔術や式神やらを使って、情報を有機的に結合。連携しながら、ハスターに肉薄することになる。

 

また、冷気対策の専門家が、どのチームにも入る。

 

その専門家が、スノーモービルの後部座席にちょこんと座っている。ローブを被って姿を隠している小柄な人間で、人相は見えない。ただ、魔術師らしく、手元には魔術書が見えた。

 

フィールドは、未だに不気味な拡大を続けていた。

 

まず最初に、スペランカーが車上に乗る。車上には重機関銃であるミニガンが据え付けてあるが、これはスペランカーが使うのでは無い。ジョーが車上に移動して、操作する事を想定している。

 

もっとも、機動戦の名手である川背がいる上、噂では重力使いであると言うアリスが支援に当たるのだ。出番があるかは分からない。

 

アリスは以前見た時は、非常につんけんした雰囲気の子供だったのだが。今は、怒っている時を除けば、随分空気が柔らかい。

 

ただ、機動力はさほど高くないようで、スノーモービルにジョーと一緒に乗っている。フィールドに入ってから、柔軟に動きを変える、という事だろう。

 

スノーモービルと言っても装甲車並みの武装を有していて、小型のミサイルまで備えている。

 

ただし、異星の邪神が相手になると、その程度では問題にもならないだろう。最後にものをいうのは、フィールド探索者の連携と、武力である。

 

「ンー、そろそろでるか」

 

「Mさん、そろそろ良いですか?」

 

「GO。 内部の様子は、逐一知らせるようにお願いしますよ」

 

ティランノサウルスどころか、まるで放射能を吐く怪獣のような笑顔を浮かべて、気色悪い敬語を使うM。

 

周囲のフィールド探索者達が一斉に退く。

 

Mがスペランカーを毛嫌いしているのは、周知の事実だ。一方で、スペランカーは、Mに対してさえ臆さない。

 

傲然としているMへの不満が、少しずつ大きくなってくる。

 

マッドエックスも、スペランカーに影響されているのかも知れない。噂によると、Mに不満を持つフィールド探索者の一派が、アーサーに一時期接近していたという。しかしアーサーが派閥の構成に興味を見せなかったため、今はスペランカーがターゲットになっているそうだ。

 

もっとも、それにスペランカーが応じているという話も聞かない。

 

作戦行動、開始。

 

マッドエックスがアクセルを踏み込み、フィールドに突入する。先ほど、偵察したときは、内部は荒野で、気候も安定していた。

 

だが。

 

入った途端、強烈な違和感が襲ってきた。

 

前に無数に見えるのは何だ。蛸のようなもの、カニのようなもの、虫のようなもの。数は、軽く何万もいる。文字通り、雲霞のようだ。

 

その中央にいるハスターは、傲然と構え、来るなら来いと言わんばかり。

 

しかも気温が、見る間に下がっていく。

 

「すぐにスノーモービルに移れ!」

 

ジョーが叫ぶ。スペランカーはもたもたしながら、マッドエックスの愛車の中に入った。ドアを少し開けただけでも、強烈な冷気が吹き込んできた。

 

寒冷地出身のマッドエックスでさえ、これほどの強烈な冷気はそうそう経験が無い。スペランカーは固まっていた。念のために、耐寒服を着ていたのに、だ。

 

何度も死んでは蘇生している様子だ。

 

見ると、外部の気温は、マイナス三十度を凄まじい勢いで突破していた。この様子では、マイナス七十度近くまで下がるかも知れない。

 

北極点並みだ。

 

遠くで、ハスターが触手を蠢かせているのが見える。

 

ハスターが嘲笑っているのが、手に取るように分かった。最初の偵察には、何も見せなかったのだ。そして、偵察が戻った後で、いきなり真の戦力を展開した。おそらくは、ただ此方を嘲笑う、それだけの目的で。

 

暇な奴と言うよりも、もはや阿呆だ。だが、それが故にタチが悪い。

 

「耐冷気フィールドを展開しろ、早く!」

 

「空気が澄んでいるのに、何という寒さだ」

 

ジョーがUターンを命じる。

 

まさか、これほどの戦力が、いきなり重厚な布陣を敷いているとは、予想外だったのだろう。

 

一度フィールドの外縁で停止し、それで気付く。

 

ジョーは、全く慌てていない。命令は矢継ぎ早に出していたが、ひょっとしたら、予想していたのか。

 

周囲の寒気が、緩和されはじめる。

 

同時に、別のチームが、フィールドに突っ込んできた。

 

そのうち一人が、Mである。Mは全身から凄まじい熱気を放っており、それだけで周囲の寒気を緩和している様子だ。

 

「作戦をBプランに」

 

「ああ、良いだろう。 ふん、お前の予想が当たったな、ジョー」

 

「えっ……?」

 

「ンー、どういうことだ」

 

ジョーは別に顔色を変えるでも無く、話す。

 

「ハスターとフィールド探索者が激突するのは、これで二回目。 歴史上での言い伝えを含めると、もう少し多い。 それら記録と、今までのハスターの言動と、Mとの交戦記録から、性格を割り出しただけだ。 もっとも、プランは七つ用意していたが」

 

スペランカーが、耐寒服をかき寄せた。

 

「外の温度、どれくらい?」

 

「ンー、今、マイナス十三度だ」

 

「そろそろ、大丈夫、かな」

 

スペランカーは、明らかに囮にされたことを、気にしている様子も無い。

 

それに前進を開始したMも、いきなり攻撃する気配はなかった。Bプランとやらについて説明を受けるが、唖然とする。

 

よくMに、そんな作戦を納得させたものだ。

 

「川背ちゃん、いけそう? アリスちゃんは?」

 

「僕はいつでも」

 

「私も行けますわ」

 

態勢が、即座に立て直されていく。その間も、スノーモービルは移動を続け、それに追従する形で、マッドエックスも愛車を動かし続けた。

 

邪神の眷属達は、全く動きを見せない。

 

だが、それが、突然に変化を見せる。

 

不意に、凄まじい揺れが襲ってきた。フィールド全体が、軋み、歪むほどの地震だ。震度は六近いかも知れない。

 

愛車を止める。

 

悪路にも耐える愛車だが、それでもこの揺れの中、走り続けるのはつらい。最初から空中に浮いているMは、腕組みしたまま、じっと敵の方を見つめていた。

 

揺れが納まる。

 

しかし、その時には。

 

フィールドは、また別物のような変化を遂げていたのである。

 

壁状の岩が無数に立ち並び、まるで大小の部屋に区切られているかのようだ。しかも一つ一つの壁は恐ろしく高い。視界は一気に遮られた。

 

壁を壊して行くにしても、これでは無理がある。どれだけの壁を壊せば良いのか、見当もつかない。

 

「スノーモービルの損傷は!」

 

「一号車両、二号車両、問題なし!」

 

「東方面から突入した部隊にトラブル! スノーモービル大破! 予備車両搬入中!」

 

「まるで迷宮だな」

 

Mがつぶやき、立ちふさがる壁の群れを睥睨した。

 

違う。

 

震えが来た。

 

見覚えがある光景だからだ。まさかこのような形で、またここに来ることになるなんて。規模は違うが、間違いない。

 

此処は、カンハルーの本拠地。

 

通称、ステージ10だ。

 

「マッドエックスさん?」

 

「ンー……」

 

何でも無い、とは応えられない。車を降りようとしたスペランカーが、じっと此方を見つめてくる。

 

此奴は勘が鋭い。気付いたのかも知れない。

 

それにしてもハスターは、どうしてこんなフィールドを巣に選んだのか。しかも、かってマッドエックスが滅ぼしたフィールドではないか。

 

運命の、皮肉。

 

あれ以来、ずっとマッドエックスは、空っぽのままだ。

 

「もたついている暇は無い。 突入を開始する!」

 

Mが灼熱の炎を手から放ち、壁の一つを爆砕した。

 

同時に、無数の異形の怪物達が、あふれ出るようにして、襲いかかってきた。

 

 

 

地面に叩き付けられた海老のような怪物の首が取れ掛かっていた。脳漿らしい液体をぶちまけながら、痙攣する怪物を、スノーモービルが踏み砕いていく。

 

空中を、敵を足場に跳び回り、次々に叩き落としているのは川背だ。

 

それだけではない。

 

ブルドーザーのように、此方に迫ってくる、カニのような怪物。

 

その巨体が、見るも無惨に、押し潰される。

 

上空から降りてきたアリスが、柔らかくその上に乗ったかと思った瞬間、カニの運命は決まっていたのだ。

 

今の時点では、Mが介入する必要さえ無い。

 

次から次へと現れる怪物は、一騎当千の猛者共の手に掛かり、次々肉片へと変じ続けていた。

 

ただし、問題もある。

 

敵が減る様子が無い、ということだ。

 

ジョーは既にマッドエックスの車上に移動し、重機関銃をぶっ放しながら、時々無線で指示を出している様子だ。スペランカーは、外をぱたぱた走り回っている。そして時々、敵の攻撃に対応しきれなくなった味方の盾になっている。

 

スペランカーの能力は、話に聞く限り、海神の呪いというものだ。

 

不老不死を実現する代わりにスペックが著しく低下する。全力疾走もできないし、頭も良いとは言えない。

 

凶悪なのは、そのカウンター効果だ。

 

死んだとき、身体に欠損があると、周囲から物質を補って蘇生する。何かしらの悪意ある攻撃を受けた場合、攻撃者から欠損部分を補って蘇生する。

 

本人の攻撃手段は、極めて限定的だが。

 

このカウンター能力のために、非常に強力なフィールド能力者として、一部からは認識されている。

 

また、昔はその能力ばかりが着目されていたのだが。

 

見ていると、確実に味方を守って、敵の攻撃を受けている。優れた判断力を持っているというのは、事実であるらしかった。

 

Mがまた、分厚い壁を、パンチ一発で粉砕する。

 

だが長城のように立ち並んでいる壁は、まるで終わりが見えない。

 

そればかりか、壁の裏側やかげに潜んでいた異星の怪物達が、次から次へと襲いかかってくる。

 

「M、少し進撃速度を緩めよう!」

 

「駄目だな。 もう少し進むまでは、このままいく。 そうしないと、作戦を維持できない」

 

誰かが言うが、Mが言下に拒絶。

 

マッドエックスが見たところ、Mは相当に機嫌が悪い。作戦の内容が内容だから、だろう。

 

壁の残骸を伝って高く飛んでいた川背が、怪物と一緒に落ちてきた。

 

古生代にいたような怪魚は、地面に落ちてくると同時に、首をへし折られて即死していた。川背は無論、何でも無い。埃を払って、立ち上がる余裕さえ見せている。

 

「まだだいぶ距離があります。 ハスターのいる辺りは、要塞のようになっているようです」

 

「ふん、むしろ好都合だな」

 

Mに、鯨のような巨大な怪物がかぶりつく。

 

だが空中に浮かんだままのMは、右手を一振りしただけだった。それだけで怪物は上空高くに吹き飛ばされ、地面に落ちてくる。地面で痙攣している巨大怪物は、体の半分以上が粉砕されていた。

 

それで一旦、敵が途切れる。

 

「疲労が激しい者から、スノーモービルに。 食糧を口に入れろ。 補給だ」

 

ジョーが指示を出し、我先にスノーモービルへ駆け込むフィールド探索者達。二人いる寒気を緩和する魔術師も、交代で休みはじめたようだ。

 

けが人も、少しずつ出始めている。スペランカーはマッドエックスの車上に上がると、ジョーと何か話している様子だ。内容については、聞こえないが。

 

アリスをマッドエックスに乗せる。

 

彼女が持ち込んでいたリュックの中には、スコーンとティーセットが入っていた。そういえば此奴は、E国のフィールド探索者だったか。

 

流石に茶を沸かす余裕は無いらしく、急いで支給品のチョコを口にしているアリス。黙々と食べている様子は、相当にこういった探索になれている事を示していた。まだ幼い子供といえど、人外の戦場で生きることを生業にしている者だ。

 

その間も、スノーモービルは進み続けている。

 

今運転しているのは誰だろうと思ったのだが、見ると誰もいない。AIによる自動操作機能だろうか。

 

「貴方は、何も食べませんの?」

 

「ンー、俺はいい」

 

「そうですの」

 

いざというときに身動きできなくなる、とでも言うかと思ったが。此方が素人では無いことくらい、知っているのだろう。アリスは何も言わなかった。神経質そうな子供だと思っていたのだが、意外に言動に良い意味でのゆとりがある。

 

正確には、マッドエックスは固形物を口にできないのだ。

 

消化器官は全てが取り替えられてしまっていて、栄養価が高いペースト状の食物しか、受け付けてくれない。

 

いずれもっと高性能な人工胃を取り付けたいところだが、それには仕事をしなければならない。しかし元々マッドエックスは零細のフィールド探索社所属で、給料も体を維持することを前提にすれば決して高くは無い。

 

「東の部隊が苦戦しているな。 少し下がらせる。 補給を入れて、再進撃させる」

 

「西のチームは」

 

「こちらは逆に順調すぎる。 進撃速度を落とすように指示を出しておく」

 

ジョーが休憩中だというのに、忙しく指示を出し続けていた。

 

あの時、ハスターに仕掛けるべきだったのだろうか。一瞬だけ、そう思ってしまう。だが、ジョーの意図は、そもそも東西の部隊を陽動とすることだ。更に、陽動には、もう一つ大きな駒を用いる。

 

少し広めの場所に出た。

 

壁がかなり離れていて、周囲から路が集まるような構造だ。

 

Mが高度を上げて、そして笑った。

 

「来たな。 どうやら、一旦兵を引いたのは、これが目的だったらしい」

 

前後左右から、途方も無い数の敵が殺到してくる。此処が、正念場だ。

 

殆どは、異星の怪物ばかりだが。

 

一部、違う姿が見受けられた。

 

やはり、間違いない。

 

アリスがチョコのついた口を拭うと、外に飛び出していく。だが、いきなりはじき飛ばされるようにして、すっころんだ。

 

飛び上がったのは、カエルのような怪物。寸胴の蛇のようなものもいる。

 

アリスが飛び退き、丸呑みにしようとしたカエルの口を、寸前で逃れる。だが、口から飛び出した舌が、アリスの足を絡め取る。

 

「しまっ……!」

 

アリスを振り回し、地面に叩き付けようとするカエル。

 

次の瞬間、マッドエックスは加速し、その横っ腹に突っ込んでいた。愛車の装甲が軋む音がする。

 

あの時より、ずっと装甲は増しているはずなのに。

 

アリスが手で舌を叩くと、まるで鈍器で押し潰されたかのように、舌がクレーター状にえぐれた。

 

思わずカエルが飛び退く。

 

だが、まだ蛇が残っている。

 

「気をつけろ! 透明な奴もいる!」

 

飛び出したのは、スペランカー。

 

アリスを突き飛ばしたスペランカーが、蛇の下敷きになった。

 

辺りは阿鼻叫喚である。敵の数もさながら、その中に混じっている不可視の怪物と、今までと攻撃パターンがまるで違う相手が、被害を少しずつ大きくしている。

 

目玉だけの怪物が、空中に多数出現。

 

Mに対して、周囲を巡回しながら、レーザーらしい光線を浴びせる。流石に光速の攻撃は防ぎきれず、Mも舌打ちしながら、拳で迎撃に掛かった。

 

「このおっ!」

 

アリスがドロップキックを透明な何者かに浴びせ、数体がまとめて吹き飛んだ。

 

蛇が這いずって逃げようとし、腹の辺りを抉られて、悲鳴を上げながら横転する。よろよろ立ち上がるのは、スペランカー。海神の呪いが、発動したのだろう。血まみれの中、緩慢に周囲を見回している。

 

緑色の、装甲車。

 

まさか、あれもいるのか。

 

カンハルーの本拠地で、デッドヒートを演じた無人車だ。それだけではない。この様子では、散々苦戦させられた、あいつもいるかもしれない。

 

鋭角の三角形の形をした、指揮ロボット。

 

その中身は。

 

マッドエックスを走らせ、透明な敵をはじき飛ばして廻る。

 

装甲が歪むが、文句は言っていられない。Mはレーザーを放ってくる目玉に釘付けにされていて、此方の支援どころでは無い。

 

重機関銃をぶっ放し、時々手榴弾を投げながら、ジョーが言う。どれだけ荒い運転をしていても、振り落とされる気配は無い。

 

「そろそろ作戦行動に出る」

 

「正気か! この敵の数だぞ!」

 

「だからこそだ」

 

ジョーが冷静に、カエルの怪物を蜂の巣にする。

 

ペースを取り戻したアリスも、空中を跳び回りながら、辺りの怪物に押し潰すような蹴りを叩き込んだり、平手を浴びせて吹き飛ばしたり、川背と連携して暴れ回っていた。

 

しかし、スノーモービルに数体の敵が、同時に取りすがる。

 

敵の数が多すぎるのだ。歴戦の猛者達は頑張っているが、それでも数の暴力は圧倒的だ。

 

カエルの舌に絡め取られた一人が、地面に叩き付けられる。

 

一斉に、敵がその男に飛びかかった。

 

男が放った衝撃波で全ての敵が肉塊になり、吹き飛ぶ。だが、男はふらふらで、しばらく休まないと戦えそうに無い。

 

スペランカーが男の手を引いて、マッドエックスの所へ。

 

中におしこまれた血まみれの男は、呻きながら、医療キットで治療をはじめる。

 

「ちい、ドジ踏んじまったぜ」

 

「円陣!」

 

何度もドリフトするマッドエックスの車の上で、ジョーが叫ぶ。

 

川背が大きめの敵の首筋を抉るようにして打ち倒し、地面に叩き落とす。あの女が手にしているリュックは、確か空間転送の力があったはず。それを使ったのだろう。

 

数体の敵が下敷きになり、鮮血をばらまく。

 

だが、此処が勝機とみているのだろう。

 

敵は更に数を増して、押し寄せてきていた。

 

地面には、姿が見えない敵がうようよいるらしく、時々交戦中のフィールド探索者が、いきなり後ろから突き飛ばされ、或いは見えない剣で切り裂かれている。流石に歴戦の猛者達で有り、一撃での死は免れているが、とてもではないが無傷とは行かない。ドリフトしながら味方を支援して廻っているマッドエックスも、時々見えない敵をひき殺している。いきなり衝撃が来るので、心臓に悪い。

 

ジョーの指揮で、どうにか円陣をくみ上げて、外からの浸透を防ぎつつ、敵を薙ぎ払う体制が出来た。

 

上空で、巨大な爆発。

 

キレたMが、凄まじい火力の技を、何か使ったらしい。

 

消し炭になった目玉の怪物が、ぼとぼとと落ちてきた。

 

衝撃波は空中を無抵抗で伝わる。目玉の怪物は、全滅だ。だが、空を覆うほどの数が、まだ敵にはいるはずである。

 

手当をしていたフィールド探索者の男が、マッドエックスの車から出て行く。

 

座席は血だらけだが、気にする事も無い。

 

地面が揺れる。

 

巨大なムカデみたいな怪物が出てきた。しかも多数。味方さえ蹴散らしながら、ムカデの群れが迫ってくる。

 

絶望的な状況。

 

だが、初めての経験では、ない。

 

 

 

ようやく敵の攻撃が一段落したのは、たっぷり三時間以上も戦った頃だった。負傷者でさえ戦っていた状況である。無傷の者は、殆どいない。

 

辺りは死体の山だ。怪物の死体の山を、力自慢のフィールド探索者が積み上げて、バリケードにしている。その横で、まだ生きている奴を、ジョーがとどめを刺して廻っていた。流石に至近から頭に銃弾を喰らえば即死である。透明な怪物達も、血まみれになってしまえば、何となく姿が分かる。

 

以前、マッドエックスが戦ったとき、どんな姿かは分からなかった。だが、今は違う。

 

人間のようなもの、四つ足の動物に似ているもの、様々な種類がいた。いずれもさほど大きくは無く、人間に不意打ちで致命傷を与えられなかったのも、無理は無いと言えた。

 

血なまぐさいと言うよりも、文字通りの屍山血河である。

 

アリスが横になって、それでも帽子は被ったまま、風船も手放せない。能力発動のトリガーなのだろう。アリスはムカデを七匹仕留めたのだが、最後の一匹に、尻尾で痛烈な張り手をもらったのだ。何とか命に支障は無いが、それでもしばらくは身動きしない方が良いと、ジョーが判断していた。

 

他にも横になって、手当を受けている者も多い。

 

死者は出ていないが、無傷な者もいない。

 

スペランカーが、服がぼろぼろのまま、皆の治療にあたっている。不器用な手つきで包帯などの物資を運び、比較的傷が少ない川背が治療をしている様子だ。とはいっても、応急手当しかできないが。

 

Mはというと、既にいない。

 

作戦に沿って、遠くに飛んでいった。

 

「手当を急げ。 またいつ来るか分からん」

 

「他のチームは」

 

「現在、東チームが敵の大部隊と交戦中。 西チームは順調に進んで、そろそろ予定の地点に到着できる」

 

このチーム自体は、既に予定のポイントまで到達しているという。

 

つまり、次の作戦までは、敵の攻撃に耐えなければならない、という事だ。

 

既に重機関銃は弾を撃ち尽くしているため、放棄された。ジョーは弾を補充するという能力を持っているらしいが、アサルトライフル程度の火器までしか使えないそうだ。スノーモービルに搭載されていた小型ミサイルは、二機とも使い果たしていた。これも既に放棄済みである。他にも、使い終えた弾丸などが、一カ所にまとめられて、放棄されていた。今回はハスターを相手にすると言う事もあり、最初から厳しい戦闘が想定されていた。だからかなりの物資が用意されていたのだが、それでもあれだけの敵との戦いとなると、やはり無事では済まない。

 

かといって、此処から増援を頼むのは、フィールド外縁の距離からも、現実的では無い。内部の広さもそうだが、後方も今は安全圏とは言いがたいのだ。

 

窓硝子を叩かれた。

 

ジョーに呼ばれて、外に出る。円陣の外には、敵の死骸で作り上げたバリケードが有り、油を掛けて火を付けた後だった。

 

敵に対して此方の位置を示す意味もあるが、敵の生き残りによる奇襲を防ぐ目的もある。岩に腰を下ろしたジョーが吐く息は白い。

 

「このフィールドについて、何か知っているな?」

 

「ンー、どうしてそう思う、ワンマンザアーミー」

 

「態度を見ていれば分かる」

 

そういうものなのか。

 

煙草をくれたが、首を横に振る。ジョーは、煙草をくわえているが、どうも煙をすう本来の意味の煙草では無く、一種の菓子らしい。子供向けのものではなく、噛むことで落ち着く意味がある、噛み煙草に近いものだ。

 

「カンハルーに関係があるのか」

 

「ンー……」

 

「俺も、かつてカンハルーと戦ったことがある。 カンハルーのステージ2、ステージ6を潰したのは俺達だ」

 

息を呑む。

 

そうか。確かカンハルーがフィールド探索者に潰されたとき、交戦した者の名簿に、確かにジョーの名前があった。

 

ただ、ジョーが単独で戦ったという話も聞いていない。

 

「他のステージの話も聞いている。 だが、此処とは似ていないな」

 

「ンー、そこまで知っているなら、隠す必要も無い、か。 これは恐らく、カンハルーの最後の秘密基地、ステージ10だ。 俺が戦ったときは、地下に存在して、此処ほどは広くは無かったし、敵の戦力も大きくは無かったが」

 

「カンハルーの基地は、9つまでと聞いていたが……」

 

「9つめが潰された時点で、カンハルーは確かに姿を消した。 奴らの表向きの首領も、討ち取られた。 ンー、だがな。 奴らの裏側の事情は、それだけじゃあなかったのさ」

 

ジョーは、目を光らせる。

 

「詳しく、聞かせてもらおうか」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。