オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
それくらいの規模で挑まないと、とても勝ち目などありません。
Mさんがいても危ない戦いなのです。
スペランカーのチームは合計六名。
ジョーが指揮を執り、スペランカーと川背、それにアリスとマッドエックス、もう一人が加わる。マッドエックスは文字通りの足として行動し、ジョーが支給品のスノーモービルを操作する。他のチームも、おおむね五名から六名という所だ。
外から後方支援組が、魔術や式神やらを使って、情報を有機的に結合。連携しながら、ハスターに肉薄することになる。
また、冷気対策の専門家が、どのチームにも入る。
その専門家が、スノーモービルの後部座席にちょこんと座っている。ローブを被って姿を隠している小柄な人間で、人相は見えない。ただ、魔術師らしく、手元には魔術書が見えた。
フィールドは、未だに不気味な拡大を続けていた。
まず最初に、スペランカーが車上に乗る。車上には重機関銃であるミニガンが据え付けてあるが、これはスペランカーが使うのでは無い。ジョーが車上に移動して、操作する事を想定している。
もっとも、機動戦の名手である川背がいる上、噂では重力使いであると言うアリスが支援に当たるのだ。出番があるかは分からない。
アリスは以前見た時は、非常につんけんした雰囲気の子供だったのだが。今は、怒っている時を除けば、随分空気が柔らかい。
ただ、機動力はさほど高くないようで、スノーモービルにジョーと一緒に乗っている。フィールドに入ってから、柔軟に動きを変える、という事だろう。
スノーモービルと言っても装甲車並みの武装を有していて、小型のミサイルまで備えている。
ただし、異星の邪神が相手になると、その程度では問題にもならないだろう。最後にものをいうのは、フィールド探索者の連携と、武力である。
「ンー、そろそろでるか」
「Mさん、そろそろ良いですか?」
「GO。 内部の様子は、逐一知らせるようにお願いしますよ」
ティランノサウルスどころか、まるで放射能を吐く怪獣のような笑顔を浮かべて、気色悪い敬語を使うM。
周囲のフィールド探索者達が一斉に退く。
Mがスペランカーを毛嫌いしているのは、周知の事実だ。一方で、スペランカーは、Mに対してさえ臆さない。
傲然としているMへの不満が、少しずつ大きくなってくる。
マッドエックスも、スペランカーに影響されているのかも知れない。噂によると、Mに不満を持つフィールド探索者の一派が、アーサーに一時期接近していたという。しかしアーサーが派閥の構成に興味を見せなかったため、今はスペランカーがターゲットになっているそうだ。
もっとも、それにスペランカーが応じているという話も聞かない。
作戦行動、開始。
マッドエックスがアクセルを踏み込み、フィールドに突入する。先ほど、偵察したときは、内部は荒野で、気候も安定していた。
だが。
入った途端、強烈な違和感が襲ってきた。
前に無数に見えるのは何だ。蛸のようなもの、カニのようなもの、虫のようなもの。数は、軽く何万もいる。文字通り、雲霞のようだ。
その中央にいるハスターは、傲然と構え、来るなら来いと言わんばかり。
しかも気温が、見る間に下がっていく。
「すぐにスノーモービルに移れ!」
ジョーが叫ぶ。スペランカーはもたもたしながら、マッドエックスの愛車の中に入った。ドアを少し開けただけでも、強烈な冷気が吹き込んできた。
寒冷地出身のマッドエックスでさえ、これほどの強烈な冷気はそうそう経験が無い。スペランカーは固まっていた。念のために、耐寒服を着ていたのに、だ。
何度も死んでは蘇生している様子だ。
見ると、外部の気温は、マイナス三十度を凄まじい勢いで突破していた。この様子では、マイナス七十度近くまで下がるかも知れない。
北極点並みだ。
遠くで、ハスターが触手を蠢かせているのが見える。
ハスターが嘲笑っているのが、手に取るように分かった。最初の偵察には、何も見せなかったのだ。そして、偵察が戻った後で、いきなり真の戦力を展開した。おそらくは、ただ此方を嘲笑う、それだけの目的で。
暇な奴と言うよりも、もはや阿呆だ。だが、それが故にタチが悪い。
「耐冷気フィールドを展開しろ、早く!」
「空気が澄んでいるのに、何という寒さだ」
ジョーがUターンを命じる。
まさか、これほどの戦力が、いきなり重厚な布陣を敷いているとは、予想外だったのだろう。
一度フィールドの外縁で停止し、それで気付く。
ジョーは、全く慌てていない。命令は矢継ぎ早に出していたが、ひょっとしたら、予想していたのか。
周囲の寒気が、緩和されはじめる。
同時に、別のチームが、フィールドに突っ込んできた。
そのうち一人が、Mである。Mは全身から凄まじい熱気を放っており、それだけで周囲の寒気を緩和している様子だ。
「作戦をBプランに」
「ああ、良いだろう。 ふん、お前の予想が当たったな、ジョー」
「えっ……?」
「ンー、どういうことだ」
ジョーは別に顔色を変えるでも無く、話す。
「ハスターとフィールド探索者が激突するのは、これで二回目。 歴史上での言い伝えを含めると、もう少し多い。 それら記録と、今までのハスターの言動と、Mとの交戦記録から、性格を割り出しただけだ。 もっとも、プランは七つ用意していたが」
スペランカーが、耐寒服をかき寄せた。
「外の温度、どれくらい?」
「ンー、今、マイナス十三度だ」
「そろそろ、大丈夫、かな」
スペランカーは、明らかに囮にされたことを、気にしている様子も無い。
それに前進を開始したMも、いきなり攻撃する気配はなかった。Bプランとやらについて説明を受けるが、唖然とする。
よくMに、そんな作戦を納得させたものだ。
「川背ちゃん、いけそう? アリスちゃんは?」
「僕はいつでも」
「私も行けますわ」
態勢が、即座に立て直されていく。その間も、スノーモービルは移動を続け、それに追従する形で、マッドエックスも愛車を動かし続けた。
邪神の眷属達は、全く動きを見せない。
だが、それが、突然に変化を見せる。
不意に、凄まじい揺れが襲ってきた。フィールド全体が、軋み、歪むほどの地震だ。震度は六近いかも知れない。
愛車を止める。
悪路にも耐える愛車だが、それでもこの揺れの中、走り続けるのはつらい。最初から空中に浮いているMは、腕組みしたまま、じっと敵の方を見つめていた。
揺れが納まる。
しかし、その時には。
フィールドは、また別物のような変化を遂げていたのである。
壁状の岩が無数に立ち並び、まるで大小の部屋に区切られているかのようだ。しかも一つ一つの壁は恐ろしく高い。視界は一気に遮られた。
壁を壊して行くにしても、これでは無理がある。どれだけの壁を壊せば良いのか、見当もつかない。
「スノーモービルの損傷は!」
「一号車両、二号車両、問題なし!」
「東方面から突入した部隊にトラブル! スノーモービル大破! 予備車両搬入中!」
「まるで迷宮だな」
Mがつぶやき、立ちふさがる壁の群れを睥睨した。
違う。
震えが来た。
見覚えがある光景だからだ。まさかこのような形で、またここに来ることになるなんて。規模は違うが、間違いない。
此処は、カンハルーの本拠地。
通称、ステージ10だ。
「マッドエックスさん?」
「ンー……」
何でも無い、とは応えられない。車を降りようとしたスペランカーが、じっと此方を見つめてくる。
此奴は勘が鋭い。気付いたのかも知れない。
それにしてもハスターは、どうしてこんなフィールドを巣に選んだのか。しかも、かってマッドエックスが滅ぼしたフィールドではないか。
運命の、皮肉。
あれ以来、ずっとマッドエックスは、空っぽのままだ。
「もたついている暇は無い。 突入を開始する!」
Mが灼熱の炎を手から放ち、壁の一つを爆砕した。
同時に、無数の異形の怪物達が、あふれ出るようにして、襲いかかってきた。
地面に叩き付けられた海老のような怪物の首が取れ掛かっていた。脳漿らしい液体をぶちまけながら、痙攣する怪物を、スノーモービルが踏み砕いていく。
空中を、敵を足場に跳び回り、次々に叩き落としているのは川背だ。
それだけではない。
ブルドーザーのように、此方に迫ってくる、カニのような怪物。
その巨体が、見るも無惨に、押し潰される。
上空から降りてきたアリスが、柔らかくその上に乗ったかと思った瞬間、カニの運命は決まっていたのだ。
今の時点では、Mが介入する必要さえ無い。
次から次へと現れる怪物は、一騎当千の猛者共の手に掛かり、次々肉片へと変じ続けていた。
ただし、問題もある。
敵が減る様子が無い、ということだ。
ジョーは既にマッドエックスの車上に移動し、重機関銃をぶっ放しながら、時々無線で指示を出している様子だ。スペランカーは、外をぱたぱた走り回っている。そして時々、敵の攻撃に対応しきれなくなった味方の盾になっている。
スペランカーの能力は、話に聞く限り、海神の呪いというものだ。
不老不死を実現する代わりにスペックが著しく低下する。全力疾走もできないし、頭も良いとは言えない。
凶悪なのは、そのカウンター効果だ。
死んだとき、身体に欠損があると、周囲から物質を補って蘇生する。何かしらの悪意ある攻撃を受けた場合、攻撃者から欠損部分を補って蘇生する。
本人の攻撃手段は、極めて限定的だが。
このカウンター能力のために、非常に強力なフィールド能力者として、一部からは認識されている。
また、昔はその能力ばかりが着目されていたのだが。
見ていると、確実に味方を守って、敵の攻撃を受けている。優れた判断力を持っているというのは、事実であるらしかった。
Mがまた、分厚い壁を、パンチ一発で粉砕する。
だが長城のように立ち並んでいる壁は、まるで終わりが見えない。
そればかりか、壁の裏側やかげに潜んでいた異星の怪物達が、次から次へと襲いかかってくる。
「M、少し進撃速度を緩めよう!」
「駄目だな。 もう少し進むまでは、このままいく。 そうしないと、作戦を維持できない」
誰かが言うが、Mが言下に拒絶。
マッドエックスが見たところ、Mは相当に機嫌が悪い。作戦の内容が内容だから、だろう。
壁の残骸を伝って高く飛んでいた川背が、怪物と一緒に落ちてきた。
古生代にいたような怪魚は、地面に落ちてくると同時に、首をへし折られて即死していた。川背は無論、何でも無い。埃を払って、立ち上がる余裕さえ見せている。
「まだだいぶ距離があります。 ハスターのいる辺りは、要塞のようになっているようです」
「ふん、むしろ好都合だな」
Mに、鯨のような巨大な怪物がかぶりつく。
だが空中に浮かんだままのMは、右手を一振りしただけだった。それだけで怪物は上空高くに吹き飛ばされ、地面に落ちてくる。地面で痙攣している巨大怪物は、体の半分以上が粉砕されていた。
それで一旦、敵が途切れる。
「疲労が激しい者から、スノーモービルに。 食糧を口に入れろ。 補給だ」
ジョーが指示を出し、我先にスノーモービルへ駆け込むフィールド探索者達。二人いる寒気を緩和する魔術師も、交代で休みはじめたようだ。
けが人も、少しずつ出始めている。スペランカーはマッドエックスの車上に上がると、ジョーと何か話している様子だ。内容については、聞こえないが。
アリスをマッドエックスに乗せる。
彼女が持ち込んでいたリュックの中には、スコーンとティーセットが入っていた。そういえば此奴は、E国のフィールド探索者だったか。
流石に茶を沸かす余裕は無いらしく、急いで支給品のチョコを口にしているアリス。黙々と食べている様子は、相当にこういった探索になれている事を示していた。まだ幼い子供といえど、人外の戦場で生きることを生業にしている者だ。
その間も、スノーモービルは進み続けている。
今運転しているのは誰だろうと思ったのだが、見ると誰もいない。AIによる自動操作機能だろうか。
「貴方は、何も食べませんの?」
「ンー、俺はいい」
「そうですの」
いざというときに身動きできなくなる、とでも言うかと思ったが。此方が素人では無いことくらい、知っているのだろう。アリスは何も言わなかった。神経質そうな子供だと思っていたのだが、意外に言動に良い意味でのゆとりがある。
正確には、マッドエックスは固形物を口にできないのだ。
消化器官は全てが取り替えられてしまっていて、栄養価が高いペースト状の食物しか、受け付けてくれない。
いずれもっと高性能な人工胃を取り付けたいところだが、それには仕事をしなければならない。しかし元々マッドエックスは零細のフィールド探索社所属で、給料も体を維持することを前提にすれば決して高くは無い。
「東の部隊が苦戦しているな。 少し下がらせる。 補給を入れて、再進撃させる」
「西のチームは」
「こちらは逆に順調すぎる。 進撃速度を落とすように指示を出しておく」
ジョーが休憩中だというのに、忙しく指示を出し続けていた。
あの時、ハスターに仕掛けるべきだったのだろうか。一瞬だけ、そう思ってしまう。だが、ジョーの意図は、そもそも東西の部隊を陽動とすることだ。更に、陽動には、もう一つ大きな駒を用いる。
少し広めの場所に出た。
壁がかなり離れていて、周囲から路が集まるような構造だ。
Mが高度を上げて、そして笑った。
「来たな。 どうやら、一旦兵を引いたのは、これが目的だったらしい」
前後左右から、途方も無い数の敵が殺到してくる。此処が、正念場だ。
殆どは、異星の怪物ばかりだが。
一部、違う姿が見受けられた。
やはり、間違いない。
アリスがチョコのついた口を拭うと、外に飛び出していく。だが、いきなりはじき飛ばされるようにして、すっころんだ。
飛び上がったのは、カエルのような怪物。寸胴の蛇のようなものもいる。
アリスが飛び退き、丸呑みにしようとしたカエルの口を、寸前で逃れる。だが、口から飛び出した舌が、アリスの足を絡め取る。
「しまっ……!」
アリスを振り回し、地面に叩き付けようとするカエル。
次の瞬間、マッドエックスは加速し、その横っ腹に突っ込んでいた。愛車の装甲が軋む音がする。
あの時より、ずっと装甲は増しているはずなのに。
アリスが手で舌を叩くと、まるで鈍器で押し潰されたかのように、舌がクレーター状にえぐれた。
思わずカエルが飛び退く。
だが、まだ蛇が残っている。
「気をつけろ! 透明な奴もいる!」
飛び出したのは、スペランカー。
アリスを突き飛ばしたスペランカーが、蛇の下敷きになった。
辺りは阿鼻叫喚である。敵の数もさながら、その中に混じっている不可視の怪物と、今までと攻撃パターンがまるで違う相手が、被害を少しずつ大きくしている。
目玉だけの怪物が、空中に多数出現。
Mに対して、周囲を巡回しながら、レーザーらしい光線を浴びせる。流石に光速の攻撃は防ぎきれず、Mも舌打ちしながら、拳で迎撃に掛かった。
「このおっ!」
アリスがドロップキックを透明な何者かに浴びせ、数体がまとめて吹き飛んだ。
蛇が這いずって逃げようとし、腹の辺りを抉られて、悲鳴を上げながら横転する。よろよろ立ち上がるのは、スペランカー。海神の呪いが、発動したのだろう。血まみれの中、緩慢に周囲を見回している。
緑色の、装甲車。
まさか、あれもいるのか。
カンハルーの本拠地で、デッドヒートを演じた無人車だ。それだけではない。この様子では、散々苦戦させられた、あいつもいるかもしれない。
鋭角の三角形の形をした、指揮ロボット。
その中身は。
マッドエックスを走らせ、透明な敵をはじき飛ばして廻る。
装甲が歪むが、文句は言っていられない。Mはレーザーを放ってくる目玉に釘付けにされていて、此方の支援どころでは無い。
重機関銃をぶっ放し、時々手榴弾を投げながら、ジョーが言う。どれだけ荒い運転をしていても、振り落とされる気配は無い。
「そろそろ作戦行動に出る」
「正気か! この敵の数だぞ!」
「だからこそだ」
ジョーが冷静に、カエルの怪物を蜂の巣にする。
ペースを取り戻したアリスも、空中を跳び回りながら、辺りの怪物に押し潰すような蹴りを叩き込んだり、平手を浴びせて吹き飛ばしたり、川背と連携して暴れ回っていた。
しかし、スノーモービルに数体の敵が、同時に取りすがる。
敵の数が多すぎるのだ。歴戦の猛者達は頑張っているが、それでも数の暴力は圧倒的だ。
カエルの舌に絡め取られた一人が、地面に叩き付けられる。
一斉に、敵がその男に飛びかかった。
男が放った衝撃波で全ての敵が肉塊になり、吹き飛ぶ。だが、男はふらふらで、しばらく休まないと戦えそうに無い。
スペランカーが男の手を引いて、マッドエックスの所へ。
中におしこまれた血まみれの男は、呻きながら、医療キットで治療をはじめる。
「ちい、ドジ踏んじまったぜ」
「円陣!」
何度もドリフトするマッドエックスの車の上で、ジョーが叫ぶ。
川背が大きめの敵の首筋を抉るようにして打ち倒し、地面に叩き落とす。あの女が手にしているリュックは、確か空間転送の力があったはず。それを使ったのだろう。
数体の敵が下敷きになり、鮮血をばらまく。
だが、此処が勝機とみているのだろう。
敵は更に数を増して、押し寄せてきていた。
地面には、姿が見えない敵がうようよいるらしく、時々交戦中のフィールド探索者が、いきなり後ろから突き飛ばされ、或いは見えない剣で切り裂かれている。流石に歴戦の猛者達で有り、一撃での死は免れているが、とてもではないが無傷とは行かない。ドリフトしながら味方を支援して廻っているマッドエックスも、時々見えない敵をひき殺している。いきなり衝撃が来るので、心臓に悪い。
ジョーの指揮で、どうにか円陣をくみ上げて、外からの浸透を防ぎつつ、敵を薙ぎ払う体制が出来た。
上空で、巨大な爆発。
キレたMが、凄まじい火力の技を、何か使ったらしい。
消し炭になった目玉の怪物が、ぼとぼとと落ちてきた。
衝撃波は空中を無抵抗で伝わる。目玉の怪物は、全滅だ。だが、空を覆うほどの数が、まだ敵にはいるはずである。
手当をしていたフィールド探索者の男が、マッドエックスの車から出て行く。
座席は血だらけだが、気にする事も無い。
地面が揺れる。
巨大なムカデみたいな怪物が出てきた。しかも多数。味方さえ蹴散らしながら、ムカデの群れが迫ってくる。
絶望的な状況。
だが、初めての経験では、ない。
ようやく敵の攻撃が一段落したのは、たっぷり三時間以上も戦った頃だった。負傷者でさえ戦っていた状況である。無傷の者は、殆どいない。
辺りは死体の山だ。怪物の死体の山を、力自慢のフィールド探索者が積み上げて、バリケードにしている。その横で、まだ生きている奴を、ジョーがとどめを刺して廻っていた。流石に至近から頭に銃弾を喰らえば即死である。透明な怪物達も、血まみれになってしまえば、何となく姿が分かる。
以前、マッドエックスが戦ったとき、どんな姿かは分からなかった。だが、今は違う。
人間のようなもの、四つ足の動物に似ているもの、様々な種類がいた。いずれもさほど大きくは無く、人間に不意打ちで致命傷を与えられなかったのも、無理は無いと言えた。
血なまぐさいと言うよりも、文字通りの屍山血河である。
アリスが横になって、それでも帽子は被ったまま、風船も手放せない。能力発動のトリガーなのだろう。アリスはムカデを七匹仕留めたのだが、最後の一匹に、尻尾で痛烈な張り手をもらったのだ。何とか命に支障は無いが、それでもしばらくは身動きしない方が良いと、ジョーが判断していた。
他にも横になって、手当を受けている者も多い。
死者は出ていないが、無傷な者もいない。
スペランカーが、服がぼろぼろのまま、皆の治療にあたっている。不器用な手つきで包帯などの物資を運び、比較的傷が少ない川背が治療をしている様子だ。とはいっても、応急手当しかできないが。
Mはというと、既にいない。
作戦に沿って、遠くに飛んでいった。
「手当を急げ。 またいつ来るか分からん」
「他のチームは」
「現在、東チームが敵の大部隊と交戦中。 西チームは順調に進んで、そろそろ予定の地点に到着できる」
このチーム自体は、既に予定のポイントまで到達しているという。
つまり、次の作戦までは、敵の攻撃に耐えなければならない、という事だ。
既に重機関銃は弾を撃ち尽くしているため、放棄された。ジョーは弾を補充するという能力を持っているらしいが、アサルトライフル程度の火器までしか使えないそうだ。スノーモービルに搭載されていた小型ミサイルは、二機とも使い果たしていた。これも既に放棄済みである。他にも、使い終えた弾丸などが、一カ所にまとめられて、放棄されていた。今回はハスターを相手にすると言う事もあり、最初から厳しい戦闘が想定されていた。だからかなりの物資が用意されていたのだが、それでもあれだけの敵との戦いとなると、やはり無事では済まない。
かといって、此処から増援を頼むのは、フィールド外縁の距離からも、現実的では無い。内部の広さもそうだが、後方も今は安全圏とは言いがたいのだ。
窓硝子を叩かれた。
ジョーに呼ばれて、外に出る。円陣の外には、敵の死骸で作り上げたバリケードが有り、油を掛けて火を付けた後だった。
敵に対して此方の位置を示す意味もあるが、敵の生き残りによる奇襲を防ぐ目的もある。岩に腰を下ろしたジョーが吐く息は白い。
「このフィールドについて、何か知っているな?」
「ンー、どうしてそう思う、ワンマンザアーミー」
「態度を見ていれば分かる」
そういうものなのか。
煙草をくれたが、首を横に振る。ジョーは、煙草をくわえているが、どうも煙をすう本来の意味の煙草では無く、一種の菓子らしい。子供向けのものではなく、噛むことで落ち着く意味がある、噛み煙草に近いものだ。
「カンハルーに関係があるのか」
「ンー……」
「俺も、かつてカンハルーと戦ったことがある。 カンハルーのステージ2、ステージ6を潰したのは俺達だ」
息を呑む。
そうか。確かカンハルーがフィールド探索者に潰されたとき、交戦した者の名簿に、確かにジョーの名前があった。
ただ、ジョーが単独で戦ったという話も聞いていない。
「他のステージの話も聞いている。 だが、此処とは似ていないな」
「ンー、そこまで知っているなら、隠す必要も無い、か。 これは恐らく、カンハルーの最後の秘密基地、ステージ10だ。 俺が戦ったときは、地下に存在して、此処ほどは広くは無かったし、敵の戦力も大きくは無かったが」
「カンハルーの基地は、9つまでと聞いていたが……」
「9つめが潰された時点で、カンハルーは確かに姿を消した。 奴らの表向きの首領も、討ち取られた。 ンー、だがな。 奴らの裏側の事情は、それだけじゃあなかったのさ」
ジョーは、目を光らせる。
「詳しく、聞かせてもらおうか」