オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
ロシアの巨大国際犯罪シンジケート、カンハルーの勢力が大きくなりすぎた頃。最初に重い腰を上げたのは国連軍だった。
だが、カンハルーの基地に踏み込んだ軍は大きな被害を出すことになる。訳が分からない怪物の群れに襲撃されたためだ。それだけではなく、無数の自動兵器が、軍を襲ったのだ。
この結果、カンハルーの基地はフィールドと認定された。
邪悪な力が動く事無くとも、自然のままであっても。フィールドとなる例はある。
そして、それがカンハルーにとって、終わりの始まりとなった。
乗り込んできたフィールド探索者の戦闘力は、軍とは比較にならなかったのである。見る間に、カンハルーの基地は、各地で狩りでもするかのように潰されていった。彼らが強奪した金品も、根こそぎ奪い返されていった。
ただ、おかしな事も起こった。
カンハルーの構成員達が、見当たらなかったのである。重武装の構成員達は最初脅威とみなされていたのだが。
壊滅した基地を調べても、彼らの痕跡は存在しなかった。
痕跡が発見されたのは、第七ステージの事。
攻略に加わったマッドエックスは、この時点で二つのステージを潰しており、もう二つに決定的な打撃を与えていた。
だからこそ、先鋒を任され、歴戦の猛者達に先んじて突入したのだが。
それが故に、見てしまったのだ。
「ンー、ワンマンザアーミー、あんたはカンハルーについて、どれだけ知っている?」
「悪いが、貴様の様子がおかしいことに気付いたのは、スペランカーだ。 俺は基地の攻略作戦に参加はしたが、あまりカンハルーについては、詳しくない。 事情は彼女にも話してやってもらえるか」
いつの間にか、作業を終えたスペランカーが、此方に歩いて来るのが見えた。
そうか、最初に車に乗せたときか。
スペランカーが、ちょこんと腰を下ろす。
服はぼろぼろだが、そのぼろぼろの衣服の間から見える肌色に、傷がついている様子は無い。
海神の呪い。
噂以上に、厄介で、頼りにもなる能力のようだ。
「マッドエックスさん、話してくれるかな。 恐らく邪神ハスターさんは、そのカンハルーって組織に何かしらの形で関わっていたんだと思う。 そうでなければ、その痕跡を利用して、このフィールドを作ったんだよ。 なら、被害を減らすためにも、知っておきたい」
「同意だ。 情報の公開を頼めるか」
頭が悪いと聞いていたのに。
そうか、自分で思いついたことでは無いのか。恐らく、違和感だけだったのだろう。だが、そこからが違っていた。おそらくは周囲に相談して、正確な結論を出した。しかも、それを選び取っている。
此奴、頭が悪いにしても、その活用方法を知っている。
躊躇が生じた。
だが、スペランカーは、辛抱強く待ってくれる。時間が、さほどある訳でも、ないのに。
根負けしたマッドエックスは、話すことにする。
呪われた、カンハルーの話を。
「ンー。 ……俺はカンハルーに殺されて、人間を止めた。 俺の体の半分以上は機械で、脳みそも一部機械化している」
「そうか、復讐が目的だったんだね」
「最初はな。 ンー、七番ステージで、あの悪夢を見るまでは、カンハルーの連中を皆殺しにしてやろうと思っていたよ」
「何を見たの?」
やはり、躊躇してしまう。
彼処で、マッドエックスが見たのは。
「ンー、この世の地獄だ」
そして、最後のステージ10の情報。
全てを終わらせるために、マッドエックスは誰にも知らせず、カンハルーの本拠地、ステージ10に殴り込んだ。
ステージ10は、皮肉にも、この湖の地下に存在していた。旧ソの極秘軍事施設だったらしいので、突飛なところに作られていたのである。
いずれにしても、激しい戦いの後、劫火と共に全ては終わった。その筈だったのに。
「ンー。 スペランカー、あんたは邪神に詳しいと聞いている。 ハスターとかいったか、そいつがカンハルーの背後に最初からいた可能性は、あるのか?」
「ううん、それはないと思う。 ハスターはずっと眠っていて、最近目覚めたはずだから」
「そうか」
「だけれど、高位の邪神の中には、眠っていても一部の意識を動かして、人を操るものもいるんだって」
絶対は無い。
その言葉を聞いて、安心するマッドエックスは、自分の愚かさに怒りを覚えた。きっと言って欲しかったのだ。
全ては、ハスターの仕業だと。
漫画だったら、そんな展開もあったかも知れない。
だが、現実は、小説よりも奇で、漫画よりも醜悪だ。あの悲劇は、全て人間の手によって、生み出されたのだ。
「カンハルーって、その様子だと、普通の犯罪組織じゃ無いみたいだね。 正体は、いったい何? 何を見たの?」
「ンー……」
「つらいだろうが、攻略の助けが得られれば、被害を減らすことも可能だ。 これ以上の被害を出さないためにも、言って貰えないか」
機械の肺で無ければ、大きく嘆息していただろう。
機械化されている脳で無ければ、泣いていたかも知れない。
ヘルメットを取らないのでは無い。戦闘服を脱がないのでは無い。
もう、顔も無いのだ。
皮膚も無いのだ。
「ンー、旧ソが作り上げた、人体実験を一手に背負った組織、それがカンハルーだったのさ。 構成員は、全てが世界各地から集められた、人体実験の被験者だ。 それに、カンハルーの基地にいた怪物達もな」
かって、共産圏という怪物がいた。
現在でも、生き残りが世界の一部にいる。
本来の理想が歪められ、一種の搾取制度として機能した、怪物。搾取される貧民達を救わず、一部の権力者が強欲を貪るためだけに動いてしまった、凍土の化け物。
ひょっとしたら、資本主義と違うあり方を作れたかも知れないその制度は、結局は支配者に都合が良い搾取のための仕組みとなってしまった。
やがて、共産圏は、破滅の危機へ突き進む。
だが、それにあらがおうとした者達がいた。
最低限の倫理までも、投げ捨てて。
勿論、権力欲がそれに大きく寄与したに違いない。カンハルーは切り札として育てられ、やがてとんでもない勢力を内包するようになっていった。
マッドエックスが知ったところによると、流石に旧ソの幹部もカンハルーを放置してはおけなくなり、解体しようとしたらしい。
だがあまりにも危険すぎる組織に成長していたカンハルーは、逆に追っ手を返り討ちにしてしまった。
そして、世の中全てに復讐するべく、行動を開始したのである。
旧KGBの一部を、其処に取り込んで。
世界各地で金品を無作為に集めたのは、復讐のためだったのだ。
写真を一つ、取り出す。
ステージ7で、マッドエックスが見たものだ。今やサイボーグとなったマッドエックスは、記憶を写真にする事ができる。
「ンー。 もしも、ハスターがカンハルーの怨念を取り込んで、このフィールドを作ったんだとしたら、大変なことになる」
連中は、文字通り体を持った亡霊だったのだ。
その怨念は、生きとし生けるもの全てに向けられていた。だからあえて支配地域で暴虐そのものの統治を行っていたのだ。
カンハルーを滅ぼしたのは、マッドエックスだ。
だからこそ、逆に、断言することができる。
彼らはもう、眠らせてあげなければならないのだ。おぞましい邪神などに、利用させてはならないのである。
それから、マッドエックスは。
全ての知識を、カンハルーを滅ぼしてくれる引き替えになればと、披露していった。
要塞状の建造物に突入したMは、拳を振るって瓦礫を落とすと、周囲を見回した。
立ち並んでいる硝子シリンダー。
中には、人間の子供らしい死体が浮かんでいる。培養液は泡立ち続けていて、死体を保存する役割を果たしている様子だ。死体だとどうして分かったかというと、人間の生体反応が感じられないからである。
Mには多数の能力がある。その中には、一目で相手を人間と判別できる、というものがある。
だから、Mからすれば、スペランカーはおぞましい呪いに包まれた、邪神を体内に抱え込んでさえいる、人間とはとても思えない存在にしか見えないのだ。いつも立ち上っている邪悪なるオーラは、奴の本性がどうあれ、Mには不快なものでしかない。
鼻を鳴らすと、奥へ歩く。
最奥に、ハスターの気配がある。一度戦った相手だ。忘れるはずも無い。
床をぶち抜いていこうかと思ったが、そんな必要も無さそうだった。ジョーが言っていた通り、そろそろ仕掛けてくるだろうと、勘で察知する。
「ひゃはははははははは、よーく来たなあ」
「悪趣味な歓迎だな、ハスター」
「何を言っていやがる。 その硝子の中のごちそうはなあ。 お前ら人間が作ったものなんだが?」
一斉に、死体が動くのが分かった。
見る間にふくれあがり、硝子を内側から破って、外に出てくる。
巨大なカエルのようなもの、蛇のようなもの。異形の獣に変じてから、透明になるもの。目玉だけの肥大化した怪物。
「生き残るためには、何をしてもいい! それがお前達の理屈だと、俺は感心しながら見ていたよ! 子供を捕らえてきては生体実験の材料にし! 女を捕らえてきては怪物の苗床にし! 脳をいじくって超能力者にし! 体をいじくって怪物にし! ひゃーははははははは! 何も手を出さなくても、人間は元から化け物だ! 俺たちよりも化け物らしいぜ、なあ? そんな化け物の筆頭!」
「一理あるな。 それで?」
「この場で俺を倒せるのは、お前とスペランカーだけ。 特にお前が厄介だ。 だから、此処で封じさせてもらう」
周囲の空間が、ひび割れる。
怪物共は、飛びかかってくるのでは無い。もとから不安定なこの空間を操作するためだけに、目覚めさせられたのだ。
生け贄として。
怪物達が苦痛の声を上げながら、消滅していく。
Mは無言で加速すると、壁をぶち抜き、ハスターの至近にまで迫る。
見えた。
ハスターは眷属を従え、その触手だらけの体を蠢かせ、嘲笑しながらMを見ていた。その体の中心にある巨大な目玉は、直径十メートルはあるだろう。触手も、一本一本が、百二十メートル以上はありそうだ。
巨大な蛸とも烏賊ともつかない姿をした、風の邪神王。
拳を叩き込んだ瞬間、ハスターの目玉の前の空間がひび割れる。
そして、闇が、Mを飲み込んだ。
「ご愁傷様ー! ぎゃははははは!」
バカが。想定内だ。Mは口中で毒づく。
ジョーはこの結果を読んでいた。
更に言えば、ハスターはMを封じるため、力の大半を使わなければならない。手練れが多数迫る事を屁とも思っていないようだが、それがハスターの命取りになる。
後は、此奴がスペランカー対策に何か考えている事を、突破すれば良いだけだ。
それも、大体は見当がついている。
閉じ込められた空間は、光も何も無い。普通の人間だったら、数時間もあれば発狂するような空間だ。
だが、Mは違う。
座禅を組むと、両手を左右に広げて、力を練り上げる。
ハスターは恐らく、これからスペランカーの力を削ぐために、作戦行動に入るだろう。
狙うは、奴がダメージを受けた瞬間。
この空間ごと、奴をぶっ潰す。
そのために、Mは力を蓄える。暗闇など、Mの敵では無い。精神攻撃など、Mの前には、意味をなさない。
最強である事。それが、Mに課せられたことなのだ。
かっては、Mもこれほど強かったわけでは無い。Mは強くならなければならなかったのだ。
だから、ありとあらゆる能力を、貪欲に身につけていった。
これからも、強さには貪欲であろうと思っている。
全てを、打ち砕くためにも。
三方向から突入を開始した部隊が、それぞれようやく所定の作戦行動地点に到達した。
スペランカーを屋根に乗せて、マッドエックスは愛車を発進させる。まだかろうじて無事な二機のスノーモービルが、駆動音を響かせて、動き始めていた。ジョーはと言うと、車に随伴する形で歩いている。
今のところ、怪物の姿は無い。
ジョーの話によると、Mを抑えるため、ハスターは力の相当部分を使うという。そしてここからが重要なのだが。
恐らく、スペランカーを全力で潰しに来るという。
つまり、このチームに、敵の主力が来る可能性が高い、という事だ。ハスターも含めた上で。
実際問題、先の襲撃も、他のチームが受けていたのとは規模が桁一つ違っていたと、ジョーは言っていた。
ハスターにしてみれば、邪魔なのはスペランカーとM。
Mを封じた後は、スペランカーを潰しに来る可能性が高い、という事だ。
勿論、そう理論的には動かない可能性も否定はできない。
ジョーは先ほどから、他の二チームに連絡を入れては、細かい指示を出している。歩きながら、時々周囲を見回しているのは、何故だろう。
マッドエックスは、思うのだ。
此処は掘り起こしてはいけない墓地。
異星の邪神は、きっとそうだと知っていたからこそ。この闇の歴史に、踏み込んできたのだろうと。
マッドエックスは、ステージ10で見た。
巨大な培養槽の中。
無数のコードで連結された、子供の脳みそを。
それこそが、カンハルーの本体であり、頭脳。世界への復讐だけを考える、孤独な魂の集合体。
人間はどこまで残虐になれるのか。
それを示した、悪夢のような光景だった。
「来たぞ!」
ジョーの叫びと同時に、全員が一気に緊張の度を高めた。
力自慢のフィールド探索者が砕いた壁の向こうから、先と同等か、それ以上とも思える数の敵が、あふれ出てくるのが見えた。
それだけではない。
ハスターが、いる。
怪物共の中に、ハスターの姿がある。巨大な軟体動物に見える邪神は、此方を嘲笑いながら、異様を見せつけるようにして、迫ってきていた。
「全員、総力戦用意!」
スペランカーを乗せたまま、マッドエックスが発進する。
作戦は、本当に上手く行くだろうか。
それだけが、不安だった。