オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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3、闇の十番

ロシアの巨大国際犯罪シンジケート、カンハルーの勢力が大きくなりすぎた頃。最初に重い腰を上げたのは国連軍だった。

 

だが、カンハルーの基地に踏み込んだ軍は大きな被害を出すことになる。訳が分からない怪物の群れに襲撃されたためだ。それだけではなく、無数の自動兵器が、軍を襲ったのだ。

 

この結果、カンハルーの基地はフィールドと認定された。

 

邪悪な力が動く事無くとも、自然のままであっても。フィールドとなる例はある。

 

そして、それがカンハルーにとって、終わりの始まりとなった。

 

乗り込んできたフィールド探索者の戦闘力は、軍とは比較にならなかったのである。見る間に、カンハルーの基地は、各地で狩りでもするかのように潰されていった。彼らが強奪した金品も、根こそぎ奪い返されていった。

 

ただ、おかしな事も起こった。

 

カンハルーの構成員達が、見当たらなかったのである。重武装の構成員達は最初脅威とみなされていたのだが。

 

壊滅した基地を調べても、彼らの痕跡は存在しなかった。

 

痕跡が発見されたのは、第七ステージの事。

 

攻略に加わったマッドエックスは、この時点で二つのステージを潰しており、もう二つに決定的な打撃を与えていた。

 

だからこそ、先鋒を任され、歴戦の猛者達に先んじて突入したのだが。

 

それが故に、見てしまったのだ。

 

「ンー、ワンマンザアーミー、あんたはカンハルーについて、どれだけ知っている?」

 

「悪いが、貴様の様子がおかしいことに気付いたのは、スペランカーだ。 俺は基地の攻略作戦に参加はしたが、あまりカンハルーについては、詳しくない。 事情は彼女にも話してやってもらえるか」

 

いつの間にか、作業を終えたスペランカーが、此方に歩いて来るのが見えた。

 

そうか、最初に車に乗せたときか。

 

スペランカーが、ちょこんと腰を下ろす。

 

服はぼろぼろだが、そのぼろぼろの衣服の間から見える肌色に、傷がついている様子は無い。

 

海神の呪い。

 

噂以上に、厄介で、頼りにもなる能力のようだ。

 

「マッドエックスさん、話してくれるかな。 恐らく邪神ハスターさんは、そのカンハルーって組織に何かしらの形で関わっていたんだと思う。 そうでなければ、その痕跡を利用して、このフィールドを作ったんだよ。 なら、被害を減らすためにも、知っておきたい」

 

「同意だ。 情報の公開を頼めるか」

 

頭が悪いと聞いていたのに。

 

そうか、自分で思いついたことでは無いのか。恐らく、違和感だけだったのだろう。だが、そこからが違っていた。おそらくは周囲に相談して、正確な結論を出した。しかも、それを選び取っている。

 

此奴、頭が悪いにしても、その活用方法を知っている。

 

躊躇が生じた。

 

だが、スペランカーは、辛抱強く待ってくれる。時間が、さほどある訳でも、ないのに。

 

根負けしたマッドエックスは、話すことにする。

 

呪われた、カンハルーの話を。

 

「ンー。 ……俺はカンハルーに殺されて、人間を止めた。 俺の体の半分以上は機械で、脳みそも一部機械化している」

 

「そうか、復讐が目的だったんだね」

 

「最初はな。 ンー、七番ステージで、あの悪夢を見るまでは、カンハルーの連中を皆殺しにしてやろうと思っていたよ」

 

「何を見たの?」

 

やはり、躊躇してしまう。

 

彼処で、マッドエックスが見たのは。

 

「ンー、この世の地獄だ」

 

そして、最後のステージ10の情報。

 

全てを終わらせるために、マッドエックスは誰にも知らせず、カンハルーの本拠地、ステージ10に殴り込んだ。

 

ステージ10は、皮肉にも、この湖の地下に存在していた。旧ソの極秘軍事施設だったらしいので、突飛なところに作られていたのである。

 

いずれにしても、激しい戦いの後、劫火と共に全ては終わった。その筈だったのに。

 

「ンー。 スペランカー、あんたは邪神に詳しいと聞いている。 ハスターとかいったか、そいつがカンハルーの背後に最初からいた可能性は、あるのか?」

 

「ううん、それはないと思う。 ハスターはずっと眠っていて、最近目覚めたはずだから」

 

「そうか」

 

「だけれど、高位の邪神の中には、眠っていても一部の意識を動かして、人を操るものもいるんだって」

 

絶対は無い。

 

その言葉を聞いて、安心するマッドエックスは、自分の愚かさに怒りを覚えた。きっと言って欲しかったのだ。

 

全ては、ハスターの仕業だと。

 

漫画だったら、そんな展開もあったかも知れない。

 

だが、現実は、小説よりも奇で、漫画よりも醜悪だ。あの悲劇は、全て人間の手によって、生み出されたのだ。

 

「カンハルーって、その様子だと、普通の犯罪組織じゃ無いみたいだね。 正体は、いったい何? 何を見たの?」

 

「ンー……」

 

「つらいだろうが、攻略の助けが得られれば、被害を減らすことも可能だ。 これ以上の被害を出さないためにも、言って貰えないか」

 

機械の肺で無ければ、大きく嘆息していただろう。

 

機械化されている脳で無ければ、泣いていたかも知れない。

 

ヘルメットを取らないのでは無い。戦闘服を脱がないのでは無い。

 

もう、顔も無いのだ。

 

皮膚も無いのだ。

 

「ンー、旧ソが作り上げた、人体実験を一手に背負った組織、それがカンハルーだったのさ。 構成員は、全てが世界各地から集められた、人体実験の被験者だ。 それに、カンハルーの基地にいた怪物達もな」

 

かって、共産圏という怪物がいた。

 

現在でも、生き残りが世界の一部にいる。

 

本来の理想が歪められ、一種の搾取制度として機能した、怪物。搾取される貧民達を救わず、一部の権力者が強欲を貪るためだけに動いてしまった、凍土の化け物。

 

ひょっとしたら、資本主義と違うあり方を作れたかも知れないその制度は、結局は支配者に都合が良い搾取のための仕組みとなってしまった。

 

やがて、共産圏は、破滅の危機へ突き進む。

 

だが、それにあらがおうとした者達がいた。

 

最低限の倫理までも、投げ捨てて。

 

勿論、権力欲がそれに大きく寄与したに違いない。カンハルーは切り札として育てられ、やがてとんでもない勢力を内包するようになっていった。

 

マッドエックスが知ったところによると、流石に旧ソの幹部もカンハルーを放置してはおけなくなり、解体しようとしたらしい。

 

だがあまりにも危険すぎる組織に成長していたカンハルーは、逆に追っ手を返り討ちにしてしまった。

 

そして、世の中全てに復讐するべく、行動を開始したのである。

 

旧KGBの一部を、其処に取り込んで。

 

世界各地で金品を無作為に集めたのは、復讐のためだったのだ。

 

写真を一つ、取り出す。

 

ステージ7で、マッドエックスが見たものだ。今やサイボーグとなったマッドエックスは、記憶を写真にする事ができる。

 

「ンー。 もしも、ハスターがカンハルーの怨念を取り込んで、このフィールドを作ったんだとしたら、大変なことになる」

 

連中は、文字通り体を持った亡霊だったのだ。

 

その怨念は、生きとし生けるもの全てに向けられていた。だからあえて支配地域で暴虐そのものの統治を行っていたのだ。

 

カンハルーを滅ぼしたのは、マッドエックスだ。

 

だからこそ、逆に、断言することができる。

 

彼らはもう、眠らせてあげなければならないのだ。おぞましい邪神などに、利用させてはならないのである。

 

それから、マッドエックスは。

 

全ての知識を、カンハルーを滅ぼしてくれる引き替えになればと、披露していった。

 

 

 

要塞状の建造物に突入したMは、拳を振るって瓦礫を落とすと、周囲を見回した。

 

立ち並んでいる硝子シリンダー。

 

中には、人間の子供らしい死体が浮かんでいる。培養液は泡立ち続けていて、死体を保存する役割を果たしている様子だ。死体だとどうして分かったかというと、人間の生体反応が感じられないからである。

 

Mには多数の能力がある。その中には、一目で相手を人間と判別できる、というものがある。

 

だから、Mからすれば、スペランカーはおぞましい呪いに包まれた、邪神を体内に抱え込んでさえいる、人間とはとても思えない存在にしか見えないのだ。いつも立ち上っている邪悪なるオーラは、奴の本性がどうあれ、Mには不快なものでしかない。

 

鼻を鳴らすと、奥へ歩く。

 

最奥に、ハスターの気配がある。一度戦った相手だ。忘れるはずも無い。

 

床をぶち抜いていこうかと思ったが、そんな必要も無さそうだった。ジョーが言っていた通り、そろそろ仕掛けてくるだろうと、勘で察知する。

 

「ひゃはははははははは、よーく来たなあ」

 

「悪趣味な歓迎だな、ハスター」

 

「何を言っていやがる。 その硝子の中のごちそうはなあ。 お前ら人間が作ったものなんだが?」

 

一斉に、死体が動くのが分かった。

 

見る間にふくれあがり、硝子を内側から破って、外に出てくる。

 

巨大なカエルのようなもの、蛇のようなもの。異形の獣に変じてから、透明になるもの。目玉だけの肥大化した怪物。

 

「生き残るためには、何をしてもいい! それがお前達の理屈だと、俺は感心しながら見ていたよ! 子供を捕らえてきては生体実験の材料にし! 女を捕らえてきては怪物の苗床にし! 脳をいじくって超能力者にし! 体をいじくって怪物にし! ひゃーははははははは! 何も手を出さなくても、人間は元から化け物だ! 俺たちよりも化け物らしいぜ、なあ? そんな化け物の筆頭!」

 

「一理あるな。 それで?」

 

「この場で俺を倒せるのは、お前とスペランカーだけ。 特にお前が厄介だ。 だから、此処で封じさせてもらう」

 

周囲の空間が、ひび割れる。

 

怪物共は、飛びかかってくるのでは無い。もとから不安定なこの空間を操作するためだけに、目覚めさせられたのだ。

 

生け贄として。

 

怪物達が苦痛の声を上げながら、消滅していく。

 

Mは無言で加速すると、壁をぶち抜き、ハスターの至近にまで迫る。

 

見えた。

 

ハスターは眷属を従え、その触手だらけの体を蠢かせ、嘲笑しながらMを見ていた。その体の中心にある巨大な目玉は、直径十メートルはあるだろう。触手も、一本一本が、百二十メートル以上はありそうだ。

 

巨大な蛸とも烏賊ともつかない姿をした、風の邪神王。

 

拳を叩き込んだ瞬間、ハスターの目玉の前の空間がひび割れる。

 

そして、闇が、Mを飲み込んだ。

 

「ご愁傷様ー! ぎゃははははは!」

 

バカが。想定内だ。Mは口中で毒づく。

 

ジョーはこの結果を読んでいた。

 

更に言えば、ハスターはMを封じるため、力の大半を使わなければならない。手練れが多数迫る事を屁とも思っていないようだが、それがハスターの命取りになる。

 

後は、此奴がスペランカー対策に何か考えている事を、突破すれば良いだけだ。

 

それも、大体は見当がついている。

 

閉じ込められた空間は、光も何も無い。普通の人間だったら、数時間もあれば発狂するような空間だ。

 

だが、Mは違う。

 

座禅を組むと、両手を左右に広げて、力を練り上げる。

 

ハスターは恐らく、これからスペランカーの力を削ぐために、作戦行動に入るだろう。

 

狙うは、奴がダメージを受けた瞬間。

 

この空間ごと、奴をぶっ潰す。

 

そのために、Mは力を蓄える。暗闇など、Mの敵では無い。精神攻撃など、Mの前には、意味をなさない。

 

最強である事。それが、Mに課せられたことなのだ。

 

かっては、Mもこれほど強かったわけでは無い。Mは強くならなければならなかったのだ。

 

だから、ありとあらゆる能力を、貪欲に身につけていった。

 

これからも、強さには貪欲であろうと思っている。

 

全てを、打ち砕くためにも。

 

 

 

三方向から突入を開始した部隊が、それぞれようやく所定の作戦行動地点に到達した。

 

スペランカーを屋根に乗せて、マッドエックスは愛車を発進させる。まだかろうじて無事な二機のスノーモービルが、駆動音を響かせて、動き始めていた。ジョーはと言うと、車に随伴する形で歩いている。

 

今のところ、怪物の姿は無い。

 

ジョーの話によると、Mを抑えるため、ハスターは力の相当部分を使うという。そしてここからが重要なのだが。

 

恐らく、スペランカーを全力で潰しに来るという。

 

つまり、このチームに、敵の主力が来る可能性が高い、という事だ。ハスターも含めた上で。

 

実際問題、先の襲撃も、他のチームが受けていたのとは規模が桁一つ違っていたと、ジョーは言っていた。

 

ハスターにしてみれば、邪魔なのはスペランカーとM。

 

Mを封じた後は、スペランカーを潰しに来る可能性が高い、という事だ。

 

勿論、そう理論的には動かない可能性も否定はできない。

 

ジョーは先ほどから、他の二チームに連絡を入れては、細かい指示を出している。歩きながら、時々周囲を見回しているのは、何故だろう。

 

マッドエックスは、思うのだ。

 

此処は掘り起こしてはいけない墓地。

 

異星の邪神は、きっとそうだと知っていたからこそ。この闇の歴史に、踏み込んできたのだろうと。

 

マッドエックスは、ステージ10で見た。

 

巨大な培養槽の中。

 

無数のコードで連結された、子供の脳みそを。

 

それこそが、カンハルーの本体であり、頭脳。世界への復讐だけを考える、孤独な魂の集合体。

 

人間はどこまで残虐になれるのか。

 

それを示した、悪夢のような光景だった。

 

「来たぞ!」

 

ジョーの叫びと同時に、全員が一気に緊張の度を高めた。

 

力自慢のフィールド探索者が砕いた壁の向こうから、先と同等か、それ以上とも思える数の敵が、あふれ出てくるのが見えた。

 

それだけではない。

 

ハスターが、いる。

 

怪物共の中に、ハスターの姿がある。巨大な軟体動物に見える邪神は、此方を嘲笑いながら、異様を見せつけるようにして、迫ってきていた。

 

「全員、総力戦用意!」

 

スペランカーを乗せたまま、マッドエックスが発進する。

 

作戦は、本当に上手く行くだろうか。

 

それだけが、不安だった。

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