オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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姉小路の名前は、信長の野望などで聞いたことがあるかも知れません。

飛騨地方に割拠した実在の戦国大名です。

この世界では、色々と故あって、強大なフィールドの王となってしまいました。


3、百足の王

物心ついた時には、其処は血で血を洗う修羅場だった。

 

この山奥の静かな国でも、それは同じ事だった。

 

産まれた時代が悪かったのだとも思った。しかし、一族の長であった以上、部下達も、領民も、皆養っていかなければならなかった。

 

卑怯だの、正義だのと、言ってはいられない時代であったのだ。

 

だから、武力を持とうとした。

 

一族を纏めようとした。

 

しかし。

 

力が、あまりにも不足していた。

 

努力は混乱を呼び、却って多くの血が流れた。悔し涙に濡れて、拳を木に打ち付けた日もあった。だが、どうにもならなかった。

 

内紛に乗じて、名族姉小路を乗っ取った時。全てが始まると思った。事実、根回しによって、途中までは上手く行った。だが、実際には全てが終わった時だった。この国は、強者によってもてあそばれ、そして支配される事が決まったのだ。

 

あまりにも、回りの者達が強かった。経済力も弱く、軍事力も脆弱な飛騨では、どうすることも出来なかった。

 

後はせめて、この国そのものを守ろうと思った。だから、どんな手でも使ってきた。面従腹背、裏切りに謀略。それしか、打つ手がなかった。忸怩たるものはあった。華々しい戦いもしたかった。しかし、いつのまにか心は荒みきり、手は汚れきっていた。

 

だから、命が終わる前に。知人である神職の元へ訪れて、儀式をして貰ったのだ。

 

せめて無能な自分であっても、この国を守れるようになりたかったから。

 

死ぬ時まで、この国のことだけを考えていた。だが、一つだけ未練が無かったと言えば、嘘になる。

 

唯一の趣味である、食道楽を究めてみたかった。

 

この土地の豊かで優れた食材を、もっと活かせる料理人に、腕を振るわせてみたかった。

 

当主になってからは、一度さえも、趣味に時間を掛けた事など無い。食事は常に政だった。裏切るかも知れない部下の心を見たり、客をもてなしたりするための儀式だった。能や和歌、乗馬、子供の手習いの時でさえ、心は安まらなかった。

 

知識はついた。だが、食事を楽しんだのは、何時が最後であったのだろう。

 

一度で良い。本当に心から、温かい飯を食べてみたかった。

 

そう、もはや自分の名前も忘れてしまった男は、思っていた。

 

 

 

鋭い咆吼と共に、百足の巨大な尾が振り回される。まるで千切れたレールから飛び出してきたジェットコースターのごとき勢いで、闇夜を巨大な死の手が飛び来る。

 

地面を直撃、派手に土を噴き上げた。間一髪かわしたじゃじゃ丸だが、飛んできたつぶてに体を何カ所も打ち据えられる。今度は上から、大口を開けた百足が迫ってくる。飛び退いた一瞬、死に神の振るう鎌が、確かに見えていた。

 

触手が蠢く。それぞれが口になっている触手の中を、何か楕円形の物体が通って出てくるのが分かる。スペランカーが、手を振り回して、自分に注意を引きつけようとしている。しかし百足は、見向きもしなかった。長大な蜘蛛の足を動かして、スペランカーとは一定距離を取りつつ、触手からそれを吐き出した。

 

それは、巨大な目玉の着いた卵であった。しかも、後半部から炎を噴射し、高速で迫ってくる。生体ミサイルと言う訳だ。迫る生体ミサイル、数はおよそ五十。しかも此奴らは、ホーミング機能まで備えている。闇夜を走り、回避に掛かるじゃじゃ丸を、ミサイルは正確に追尾してきた。

 

十ほどはスペランカーの至近に着弾、彼女は爆炎の中に消えた。じゃじゃ丸は手裏剣を投擲して、その半ばまでをたたき落とすが、間髪入れずに百足が口から吐き出した大量の酸をかわして飛び退いた隙に、処理仕切れなかった残りが殺到してくる。

 

万事休すか。

 

目を見開いた瞬間。唸りを上げて飛んできた丸太が、生体ミサイルの一つを直撃、残りは連鎖的に誘爆に巻き込まれた。

 

爆発に吹き飛ばされて、何度か地面に叩きつけられ、それでも受け身を取って立ち上がる。

 

呼吸を整え、枯れ木が飛んできた方を見る。鍛え抜いたしのびの体でも、既に全身が悲鳴を上げている。筋肉は乳酸まみれで、もう長時間の戦闘は出来ないだろう。だが、それでも体は動く。鍛え抜いた、戦士の本能が故に。

 

丸太が飛んできたのとは別の角度から飛来したのは川背だった。かなりの速さだったのに、随分軟らかい着地である。ざっと地面を蹴って止まると、川背は額の汗を拭った。幼い顔立ちに、緊張が湛えられている。

 

「遅れました!」

 

「今のは、そのゴム紐か」

 

「はい」

 

さながらメジャーを巻き戻すような鋭い音とともに、彼女の手に戻るゴム紐と、先端のルアー。ざっと見た感じでは、あれを巧く使って、てこと滑車の原理で、枯れ木を放り投げたのだろう。それならあんな明後日の方向から跳び来たのも頷ける。それにしても、何という精密な技か。玄人嗜好の探索をすると聞いていたが、今の技を見ている限り、その噂は事実であろう。

 

「仕込みは終わってます。 後は、どうにかして、大人しくさせないといけないですが」

 

「難しいな。 一旦倒すしかないかも知れん」

 

中央の球体部分から生えている蜘蛛の足を蠢かせ、百足が迫り来る。首をくねらせて迫るその様子は、まるで悪夢だ。

 

「ごめん、じゃじゃ丸君、ちょっと時間稼いで! 川背ちゃん! こっち来て!」

 

向こうから、スペランカーの声。かなりボロボロだが、もう意識を取り戻したらしい。簡単に言ってくれると呟きながらも、じゃじゃ丸は身を低くする。

 

自分に匹敵するほどの古くから、フィールド探索者としての技を磨いている女だ。こんな時に時間を稼げと言うことは、何か策があると言うことなのだろう。

 

「三分だ。 それ以上はもたん」

 

「すぐ戻ります!」

 

また、生体ミサイルが飛んできた。ゴム紐をなぎ払うように振るい、川背が手近の数機を誘爆させる。更に鋭い手さばきで後ろの地面にゴム紐を引っかけると、その伸縮で不意に加速、得物を見失ったミサイルが数機地面に突き刺さって連鎖爆発した。残りを、斜めに走りながらじゃじゃ丸が手裏剣を投擲してたたき落とす。

 

百足が、その長い首を振るう。かちかちと鳴る顎。煙を突き破って飛び、複眼に突き刺さる手裏剣。首をうねらせ、悲鳴を上げる百足に、最後の精気を絞り出しながらじゃじゃ丸は吠えた。

 

「貴様の相手は此方だ、百足の妖怪! 邪を払う一族の末裔、この十四代目じゃじゃ丸が相手になる!」

 

 

 

先ほどのミサイルは強烈だった。からだが殆ど粉々に吹き飛んでしまい、再生に時間が掛かった。スペランカーの場合、ある程度着衣も再生するのだが、それも条件があって、ずっと身につけて馴染んでいるものや、或いは何かしらの切っ掛けでお気に入りになったものに限られる。かといって、これが再生してくれればいいなと思うようなよそ行きの服に限って、鉤裂きを作ってもさっぱり元に戻らない。この呪いを掛けてくれた海底の神の性格が、如何に悪いかを示しているだろう。

 

とにかく、遠くからじゃじゃ丸と川背に声を掛けたのは、殆どフルヌードになっていたからだ。今は「みすぼらしい格好」くらいまで回復しているが、それも何処まで元に戻るか。体と違って、服の再生は完璧にはいかないのである。

 

川背が見事なゴム紐捌きで、至近に着地。素晴らしい速さだ。

 

そして彼女は、スペランカーの格好を見て、大体の事情を悟ったようだった。

 

「あ、その、お気の毒です」

 

「良いから。 時間がないから、一度だけ言うよ」

 

無事だったバックパックから、既にスペランカーは唯一必殺の武器を取り出している。対外的にブラスターと呼んでいるそれは、一見すると玩具の銃に見える。だが、違う。

 

これは、己の命を引き替えに、相手の命を奪う、ある意味究極の武器。霊的存在も屠り去ることが出来る。父の形見であり、複雑な感情を抱いてもいる武具だ。

 

軽く、武器について説明。チャンスは一回しかないことも。

 

どんな相手の命も等価に奪うこの武器は、射程距離が十メートル程度と非常に短い上に、スペランカーでさえ復活に時間が掛かるほどに大きな負荷が掛かる。一度外せば、百足は遠くに逃げ去って、二度とスペランカーを近づけさせないだろう。

 

幸い、恐ろしくこの武器は頑丈なので、ちょっとやそっとでは壊れない。

 

「私はこれから彼奴に近付いて、これを打ち込む。 打ち込めれば、一発でどうにか出来ると思う。 でも、二つそれには条件があるんだ」

 

「一つは、スペランカー先輩が無事に百足の近くまでたどり着けること、ですよね」

 

「そう。 さっきから彼奴、私を見るとあのミサイル容赦なく撃ち込んでくるから」

 

忌々しいので、そうスペランカーは呟いた。

 

近接戦闘に関しては別の意味で最強とも言えるスペランカーだが、しかし遠距離攻撃には極めて耐性がない。その上相手は生体ミサイルで、スペランカーを吹き飛ばした時には既に死んでいるというたちの悪さだ。最悪の相性を備えていると言っても良い。

 

敵はかなり賢い。スペランカーの特性を、恐らく何らかの形で見ていたのだろう。だから、攻撃はあくまでじゃじゃ丸に集中して、スペランカーはミサイルで距離を取ることに終始している。

 

それに、もう一つ。重要な条件がある。

 

「もう一つは、さっきじゃじゃ丸くんとも話したんだけれど、相手の妖怪としてのコアを剥き出しにすること」

 

「妖怪としてのコア、ですか?」

 

「そう。 あれは単純な妖怪じゃない。 妖怪としての百足を、姉小路の怨念が呼び寄せて、形を作っている、いわばこの地域そのものが妖怪化したものなんだ。 だから、姉小路の怨念そのものの人格は希薄で、多分これを撃ち込んでも消えない。 妖怪の方は、一気に倒せる自信があるんだけれど」

 

多分それは、じゃじゃ丸に任せるしかないだろう。

 

川背にして貰いたいのは、妖怪の攻撃を出来るだけ引きつけ、凌ぐこと。かなり難しい仕事になる。敵の体躯は四十メートルを超えており、彼女が今まで戦ってきたフィールドの主の中でもずば抜けた存在だろう。それに対して、二つも条件を揃えて、戦わなければならないのだ。

 

その上、川背には生き残るという任務もある。如何に美味しい料理として仕込みが出来ているとはいえ、彼女でなければ、食道楽が満足するような完成はあり得ないだろうから、だ。

 

「分かりました。 じゃじゃ丸先輩と相談して、僕の方でどうにかしてみます」

 

「ごめんね。 本当は私達二人だけでどうにかしなけりゃいけなかったのに」

 

「大丈夫です。 それに自衛官の人達も、手伝ってくれるみたいですから」

 

「それはギリギリまで温存してね。 彼奴の攻撃を受けたら、一個中隊くらい、瞬時に消し飛んじゃうよ」

 

川背は頷くと、またゴム紐を振るって、さっと闇に消えていった。

 

スペランカーは頷くと、岩の影に身を寄せて、状況を見極めるべく目を凝らす。まだ、近付くには早い。二人が道を開くまでは、どんなに状況が厳しく見えても、我慢だ。

 

これがかなりきつい。攻撃手段が少ないスペランカーは、場合によっては為す術無く死ぬ味方を指をくわえてみていなければならないのだ。かといって、今、あの妖怪退治の専門家であるじゃじゃ丸でさえ手に負えない相手を、屠れる可能性があるのは、スペランカーの手にある武器しかない。

 

再び百足が、四方八方に生体ミサイルを撃ちはなった。

 

川背が闇に舞う。振るうゴム紐が、闇夜に美しい軌跡を描いた。

 

 

 

川背は飛んだ。

 

文字通りの意味だ。倒木にルアーを引っかけ、ゴム紐の反発力を最大限に駆使して、跳躍を超えた勢いで飛んだのだ。

 

彼女が挑んだフィールドは難所が多かった。まともに足が着くような場所がない所だって、多々存在した。そのいずれをも攻略してきた川背は、経路を見極め、己の武器をフル活用することに、ささやかな自信を持っていた。

 

空中で、ゴム紐を振るう。ミサイルを迎撃して、ルアーを引っかけ、別のミサイルにぶつけて、或いはルアー自体の威力を利してたたき落とす。傷だらけながらも、じゃじゃ丸もそれに応じて反撃を開始、手裏剣を投げてミサイルをたたき落とした。

 

煙をかいくぐり、躍り出た川背は、敵の体にルアーを投擲、引っかけた。百足の装甲は鎧のようだが、その関節の隙間に見事潜り込んだルアーの針が、星明かりを反射して輝く。

 

一気にルアーをたぐり寄せ、跳躍の軌道を調整しながら、敵の頭よりの背中上に着地。とたんに、スニーカーの裏から、ぞっとするような悪意を感じた。百足が全身から、とんでもない強烈な殺気を放っているのだ。

 

ルアーを外すと、川背を振り落とそうと全身をくねらせる百足の上を走る。焙烙を投げつけ、百足の左横を尻尾から頭に向けて走っているじゃじゃ丸と、一瞬だけ視線があった。交差するように互いに走り抜ける。

 

触手が一瞬躊躇したのは、体の上に乗っている川背にミサイルを撃ち込めば、自分も傷つくからだろう。ルアーを投擲、相手の目の一つに引っかける。球体の本体の各所から飛び出している目玉は、まぶたもなく露出していて、グロテスクでだが引っかけ易い。そして百足が体を捻った勢いを利用して跳び、ゴム紐の反発力を駆使して、一気に目玉を引っこ抜いた。

 

百足が、全身を振るわせて咆吼した。

 

落ちてきた巨大な眼球は、多分直径が二メートル近くあるだろう。リュックを開けて、落下点で待ち伏せる。そうすると、冗談のように、目玉がリュックの中に消えた。川背の固有技である、空間転送。生体を転送するには条件が幾つかあるのだが、今目玉に対してはそれをクリアした。だからサイズ関係無しに、転送することが出来たのだ。

 

球体状の敵本体は、再生速度が遅い。その上、今川背が引っこ抜いた目玉は、再生する気配がない。

 

ざっと、土を蹴立てて、じゃじゃ丸が隣に。首をくねらせ、触手を蠢かせる百足を二人で見上げた。

 

「鋭い技だ」

 

「有難うございます。 早速で申し訳ないのですが、スペランカー先輩からです」

 

素早く伝える。じゃじゃ丸は難しいなと呟いたが、一つ思いついたらしい。小声で言い、川背もそれを把握した。二人、呼吸を合わせて左右に飛び離れる。触手から生体ミサイルを放とうとした百足は、一瞬躊躇したが、それが致命傷となる。

 

蜘蛛足の一つにルアーを引っかけた川背が、百足の体を跳び越すようにして跳躍、それと同時にじゃじゃ丸が、焙烙を敵本体に向けて投擲したのだ。

 

爆発の中、川背は一気に、体重を掛けてゴム紐を引っ張る。それはさながら、光の糸が百足の体を横断するような光景だった。

 

負荷に耐えかね、蜘蛛足が千切れ飛ぶ。川背は走りながら、それをリュックに吸い込んだ。敵を転送しているのは、川背も知らない異空間だ。いずれにしろ、其処から生きて帰った敵はいない。

 

背中に殺気。振り向いている暇も余裕もない。

 

爆圧で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。思わず小さな悲鳴が漏れる。ひゅるひゅると、飛んで来るミサイルの音。立ち上がり、振り向き様にゴム紐を振るって、数機をたたき落とす。だが、数が多すぎる。

 

百足は、川背を強敵と認識し、弱っているじゃじゃ丸よりも、此方を優先する気になったらしかった。

 

だが、それが狙いだ。

 

ふらつく足下を立て直しながら、後ろにゴム紐を投擲。反発力を駆使して、飛ぶようにして後退。数機が地面に激突して消し飛ぶが、全てではない。ミサイルもその機動には慣れ始めている。それだけではない。百足の体が、酸を吐き出す体勢に入っている。細かくルアーを投げ、体を引っ張って位置を調節。

 

百足が、ふと動きを止める。だが、その時にはもう遅い。

 

背中にとりついたじゃじゃ丸が、忍者刀を抜く。一閃、触手を片っ端から切り払った。

 

そして川背も、倒木にルアーを投擲。岩を巡って走ると、跳躍して体重を掛けながら、一気にゴム紐を引いた。

 

てこと滑車の原理で、吹っ飛んだ倒木が、ミサイルに直撃、残りを誘爆させる。だが、一機が、その爆発をくぐり抜けて迫る。

 

楕円形の体に着いている眼球と、目が会う。ルアーを投げつけるが、わずかに、間に合わない。

 

炸裂する生体ミサイル。閃光だけが見えた。

 

 

 

今まで、百足に様々な攻撃を浴びせてきたが、効いたものは基本的に本体に対するものに限られていた。百足の頭部と尻尾は、どれだけ攻撃を浴びせても再生してきた。

 

妖気の流れも、戦いの中でじっくり読んだ。その結果、じゃじゃ丸は一つの結論に達していた。

 

忍者刀を、敵の本体、球体に突き立てる。両手を重ねるようにして、刀の柄を握り混む。印を切る。

 

「奥義! ヒノカグツチ!」

 

それは、奥義と言うにはあまりにも単純な技。残っている気を、殆ど全て敵の体内に叩き込むだけのもの。だが、先祖より妖怪と交わりし呪われた血を受け継いだじゃじゃ丸がそれを放つと、破壊力は想像を絶する。

 

一瞬の空白。そして、百足の全身を駆け抜ける青黒い光。弾けとぶ装甲、根本から吹っ飛ぶ触手。本体から飛び出し、破裂する眼球。

 

内側から爆破され、絶叫する百足。その全身から大量の鮮血が噴き出す。青黒い血はとても生臭く、流石のじゃじゃ丸も眉をひそめた。

 

同時に、光が走った。

 

百足に、力を供給している大本に向け、光の線が疾走する。

 

そう、それは本体の下から伸びて、奴の屋敷側、崖の中に吸い込まれていた。正確には、崖から露出している、大きな木の根がそれだった。

 

暴れ、もがく百足。だがその長大な首が、ぐっと降り曲がる。気付いたのだろう。疾駆するスペランカーに。今じゃじゃ丸が示した光の先、木の根に、彼女が辿り着けば勝ちだ。だが、百足は本能からか、その危険を敏感に察知したらしい。

 

ズタズタに傷つきながらも、それでも百足が、大量の酸を吐き出す態勢にはいる。触手は全て潰したから生体ミサイルの恐れはないが、しかしこれが直撃すれば、もう勝ち目はなくなるだろう。

 

万事休すか。

 

そう呟いた時。

 

百足の頭部を、音速を超えて飛来した戦車砲弾が、打ち砕いていた。

 

 

 

濛々と煙が上がる百足の頭を背に、スペランカーは走る。途中、木の根に足を取られてすっころび、顔から地面に激突。一回死んだが、この程度ならすぐに復帰できる。十秒ほどで息を吹き返して、起き上がり、また走り出す。

 

後ろでは、最後の力を振り絞って、じゃじゃ丸が百足を抑えてくれている。戦車砲による援護射撃があったと言うことは、川背も無事だったのだろう。後は、スペランカーが、敵のコアを叩くだけだ。

 

手には、既にブラスターを握りしめている。普通の相手には効きが悪いが、霊的存在にはまさに必殺の武具。

 

最悪の可能性として予想していた、百足の体内に敵の本体があるという事態は、幸いにも避けられた。だが、百足もこの地の怨念を集めた強力なあやかしだ。かなり傷ついているが、それでも余力を残している可能性は高く、これ以上暴れられたら如何にじゃじゃ丸といえども、もう保たないだろう。

 

息が切れてきた。

 

やっと、半壊した屋敷の側に。せり出している木は禍々しく、強大な邪気を夜空に噴き上げていた。この大きさから言って、神木だったのだろう。それが何かしらの切っ掛けによって、落ちた。

 

恐らく切っ掛けは、国営企業によるレアメタル採掘事業で、森が伐採されたことだったのだろう。数少ない自然が残るこの地は、今だ豊かな恵みを産出し、妖怪の伝説も数多く残っている。それに、この地を守ろうとした姉小路一族の想いがこもっていた土地だと言うことも禍した。

 

フィールドが発生した経緯については、国営企業側に責任があるが、一方的に責める気には、スペランカーもなれなかった。彼らにも生活があるし、生きて行くには金を稼がなければならないのだ。ましてや国営企業ともなると、経営に税金が投入されていることも多いのである。

 

ブラスターを構える。

 

後ろから、絶叫が聞こえた。この距離なら、もう外さない。

 

「ごめんね。 私も、一緒に痛い思いするから、許して」

 

撃ち放つ。

 

同時に、スペランカーの意識は、闇へと吹っ飛んだ。

 

 

 

がらがらと、瓦礫を押しのけて川背が立ち上がる。手には、さっき自衛隊に援護を頼むために使った無線があった。今の状態では、ろくに電波は通じない。だから会話は出来ないが、しかし合図だけは出来るように、特別にチューンして貰ったものだ。これを使って、川背は砲撃の瞬間を指示したのである。

 

直撃の瞬間、近くの岩陰に逃げ込んで、助かった。全身は傷だらけで、服もぼろぼろだが。膝からは血が出ていた。肩はもっと酷くて、生体ミサイルの破片が突き刺さっていた。無造作に破片を引き抜くと、手で押さえて出血を止めながら、川背は見た。

 

まるで水を掛けられた砂糖細工のように、百足の体が崩れていく。長い蜘蛛の足が折れ、砕けて地面に突き刺さる。怨念の声を挙げながら、肉団子のような本体が溶け地面に流れていく。そして百足の頭と尾も、煙を上げながら地面に突き刺さり、見る間に形を無くしていった。

 

勝ったのだ。

 

だが、川背の戦いは、ここからが本番だ。

 

徐々に収まっていく妖気の中枢に、人影が見える。古めかしい鎧兜を着込んだ、小柄な中年男性だ。

 

川背は手を振って血を出来るだけ落とすと、呼吸を整える。相手はお客様だと思い、接客するべく歩む。

 

人影が、川背を見た。亡霊には違いないが、実体を持つほどの強力な存在だ。礼を失してはならない。ぺこりと、45度の角度で一礼した。側では、万一がないようにと、じゃじゃ丸が見張っている。

 

自衛隊は、依り代になる巫女も用意してくれていた。だが、この様子だと、別に憑依させなくても大丈夫だろう。

 

「何者か」

 

「初めまして、姉小路のお殿様。 板前の、海腹川背と言います」

 

「板前?」

 

「料理人と、思っていただければ間違いありません」

 

口元に髭を蓄えた幽霊は、うさんくさそうに川背を見ていた。多分彼が知っている料理人と、あまりにも格好が違うからだろう。

 

痩せていて、額が広い男性だ。痩せてはいるが、筋肉質であることが鎧の上からも見て取れる。流石に戦国に生きた男だ。現代人に比べて小柄であっても、体の鍛え方や修羅場のくぐり方は根本的に違うという訳だ。

 

しばしの沈黙の後、彼は小さな拒絶を、言葉に載せて吐き出した。

 

「帰れ……」

 

「そう言わずに。 おもてなしの席を用意いたしましたから」

 

「儂は敗軍の将だ。 飛騨をまたしても守れず、託された力も使いこなせず、そして今、ただ形を保っているだけの愚か者だ。 儂に、いかなるもてなしを受ける資格があろうか」

 

「僕は、一人の料理人として、単純に貴方をもてなそうと思いました。 それでは不足ですか? それに、資格が必要ですか?」

 

技術では父に全ての尊敬を。しかしもてなしの心は、母に大きな影響を受けた。

 

川背は、もう一度、もてなしの席があると告げる。

 

姉小路の亡霊は、しばしためらった後。

 

川背について、歩き出した。

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