オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
愉快な所もある人物ですが、心技体揃った本物の戦士でもあります。
現在の騎士と言う事を揶揄される事もある彼ですが。
実力で全ての揶揄をねじ伏せて来たのです。
そもそもアーサーが、何故五度魔界に挑むことになったのかには、それなりに複雑な事情がある。
きっかけは、未来から来た戦士。そして、彼によって語られた、絶望の未来の物語であった。
アーサーも話を聞いて驚いたが、悩んだ末に、スペランカーがとんでも無い事を言い出したのである。
ニャルラトホテプと接触したい。
最初スペランカーがそう言い出したとき、アーサーは不安を感じた。
スペランカーの発想に対して、ではない。小柄な盟友が言うように、確かに異星の邪神とは何か、人類はあまりにも知らなさすぎる。
問題は、そこでは無い。
どうも嫌な予感がしてならないのだ。未来世界で、スペランカーは、諸悪の根源のように忌み嫌われていたと聞いている。
スペランカーの思考自体は、決して突飛なものではない。
異星の邪神と交流を持とう、という考えが驚きに値はする。だが、全体的な思考としては、矛盾しているわけでもないし、むしろ感心させられる。しかし、その思考は、この状況によって、導き出されたものだ。
それはつまり。
何かしらの奸計に乗せられている、という事は無いだろうか。
アーサーは未来から来た人間から話を聞き終えると、一度E国に戻った。そして、其処を中心に知り合いのフィールド探索者を呼び集め。なおかつ、所属しているC社と話もした。
N社とC社の関係は、今のところライバル企業ではあるが、明確な敵同士では無い。むしろC社としては、N社を敵に回したくない所だろう。だからか、C社は最初当然のように難色を示した。スペランカーの行動は、世界最強を誇るフィールド探索者、Mの行動に反発するも同然だったからである。
だが、悩んだ末、だろうか。
C社の社長は、一つ条件をと言って、フィールド攻略を依頼してきたのである。
それがI国の片田舎にある、フィールドの攻略話だった。
非常に危険な重異形化フィールドで、既に三年放置されている。放置されている理由は、E国と激しい対立をしているテロ組織が、その近辺に拠点を構えているからだ。手を出すと国際問題になりかねない状態であり、フィールドそのものも拡大の傾向が見られなかったため、放置されていた。
だがそれが逆用され、テロ組織がそのフィールドを、様々な形で悪用している、という噂があった。どうも後ろで手引きをしているのがかのKらしいと知り、C社としても放置はできなくなったのだろう。
何度か軽い打ち合わせをした後、A国にあるC社の本社ビルに呼び出された。
摩天楼に来るのは、久しぶりだ。
国際空港から、電車を乗り継いで、本社ビルに。電車の運行が、運行表通りでは無いが、まあそれは仕方が無い。
本社のビルは慎ましい規模で、社長室もさほど豪華では無い。アーサーが出向くと、社長は自ら出迎えてくれたほどだ。
そして、長いすに向かい合って座り、話をする。紅茶だけを出してもらったのは、E国で紅茶を飲む暇が無かったからだ。
話を進めて行くと、社長は状況が難しいと言い、紅茶をすすった。
「確かに、スペランカーくんが言うとおり、今は人類が異星の邪神どもに対して優位を築きつつある。 今が、交渉の機会であるという指摘は、もっともだと思うよ」
「だが、正しいことだけでは、物事は動かない。 そう言いたいのですかな」
「そうだ。 アーサー君、此方としても協力したいのは吝かでは無いのだが、どうもきな臭い噂があってね」
社長がはげ上がった頭の汗をハンカチで拭いながら言う。彼は元々、フィールド探索者として一流と言うよりも、営業畑で活動して社長に上り詰めた人間だ。武闘派揃いのフィールド探索者を、腰の低さと丁寧な対応で説得してきたという経緯があり、社長になっても腰は低い。
その社長が言うことによると。
どうも、国連軍の中に、フィールド探索者を排斥しようという大きな動きがあるらしいのだ。
「その話は、我が輩も聞いたことがありますな」
「そうか、聞いているか。 どうもその連中というか派閥というかが、近年資金源として何か大口のスポンサーを手に入れたらしくてね。 急激に発言権を大きくしだしているらしいんだ」
軍が今、秘密裏に感情が無いタイプの、純粋な戦闘ロボットを作ろうとしているらしいと言う噂は、アーサーも聞いていた。
そもそもニャームコがAIの研究を進めて、ロボットの一部に部分的な人権が与えられるようになる前は。フィールド探索者に代わって、ロボットをフィールド探索にかり出そうという話があった位なのである。
能力者と、非能力者の間に立ちはだかる壁は分厚い。
「確かに、今まで交渉の余地が無かった相手と、話ができるようになるというのは、とても大きい。 もしも恒久的な和平でも実現すれば、それは人類の歴史にとって、輝かしい一歩になるだろう。 しかしだな、そういった連中が、話を聞きつけると、まずい事になるように思えてならんのだ」
「なるほど、それでフィールドの攻略を材料にしようと」
「それだけじゃあない」
何でも、今回攻略が予定されているフィールドは、内部に何か得体が知れないものが住み着いたという噂があるという。
テロ組織は急激に武装化と思想の過激化が進んでおり、E国で激しい攻撃をするようになっている。
関係があるとは断言できない。
だが、もしも関係があった場合、非常に面倒な事になりかねない。
国連軍としても、E国としても、放置はできないと判断したのだろう。
つまり、此処での攻略は、国際問題を解決することにもつながり、なおかつ内部で邪神が糸を引いていたのなら、そちらとも接触できる。
なおかつ、恩を売ることもできる、というわけだ。
「既に我々に好意的な一派に、押さえ込みは依頼してある。 フィールド攻略に成功すれば、それは決定的なものとなるだろう」
「分かりました。 我が輩が必ずや、フィールドを叩いてきましょう」
「お願いだよ」
社長は最後まで腰が低いままだった。
本社を後にした後、アーサーは少し悩んだ後、喫茶店に入ることにした。良さそうな喫茶店を探して、街を歩く。鎧を着たアーサーに奇異の視線を向ける人々も多かったが。一応、アーサーはかなり知名度が高いフィールド探索者だ。子供にサインを二回ねだられて、気前よくそれに応じた。
E国風の、落ち着いた雰囲気の喫茶店を見つけた。
ハーブティーを注文すると、買ってきた新聞に軽く目を通しながら、携帯電話を同時に弄って、情報収集を行う。あまり操作が早い方では無いが、使ってみると便利なので、アーサーも愛用していた。
今回のフィールド攻略は、困難である。
魔界化しているほどのフィールドだ。スペランカーは今回の一件、絶対に同道してもらうとして。
問題は、他に誰を連れて行くかだ。
アーサーは魔界攻略のエキスパートなどと言われているが、今までの戦いでは運が良かった部分も大きいと思っている。実際問題、楽に攻略できた魔界など、一つも存在はしなかったのだから。可能な限り、手練れを連れて行って、損害を軽微に抑えたい所だ。
だが、魔界には、厄介な特質がある。
どうも内部で、一定人数以上の侵入を排除するような法則が働くようなのだ。
アーサーは、単独で勇猛果敢に魔界を潰したのでは無い。
そうしなければならなかったのである。魔界が高難易度のフィールドと呼ばれる所以の一つだ。
一度、スペランカーと連絡を取る。
試してみないと分からないが、連れて行けるのはスペランカーと、後精々一人か二人だろうと、アーサーは思っていた。
メールを出すと、丁度ハーブティーが来た。
だが残念ながら、味はあまり良くない。店主の腕に問題があると言うよりも、微妙な茶葉の質だなと、アーサーは判断。文句も言わずに、そのまま飲み干す。
同時に、返信があった。
電話を欲しいと言ってきたので、店を出ると、電話ボックスに移る。流石に国際回線で、携帯電話を使うのはもったいない。
スペランカーはすぐに電話に出た。話をすると、彼女は頷く。
「分かりました。 すぐにE国に向かうね」
「うむ。 ところで、川背殿を連れてこられるか。 おそらくは彼女が一番適任だと思うのだが」
「ごめんなさい、難しいかも」
川背は今、独自の動きを開始しているという。未来から来たシーザーの話を彼女なりに分析して、戦いに備えているそうだ。
できれば、川背が来てくれれば心強かったのだが。
代わりに、支援特化型の巫女、サヤを連れてきてくれるという。彼女が有能な支援タイプのフィールド探索者である事は、アーサーも知っている。来てくれれば、確かに心強いし、探索がスムーズになる。
ただ、問題もある。
「サヤ殿は確かに有能な支援系だが、武芸はさっぱりだと聞いてもいる。 誰か護衛が必要になるな」
「じゃあ、俺が……」
「嬉しいけど、シーザーさんはアトランティスでしばらく静かにしていて」
電話の向こうで、笑顔でスペランカーがシーザーの協力を拒絶したようだ。確かに飛行機乗りとして優秀なだけでは無く、今は未来から来た知識の持ち主という、非常に重要なポジションだ。
不得手なタイプの戦闘に投入して、失うわけにはいかない。
ましてや邪神の脅威が薄れた時代の人間だ。凄まじい力を目の当たりにして、普通のままでいられるか、アーサーも保証できない。
「何だよー。 サヤちゃんって、おしとやかな和風美人なんだろ? せっかくだからお目に掛かりたごばふ!」
誰かがシーザーを鉄拳で黙らせて連れて行ったようだ。電話の向こうでハガーとか呼ばれている声がしたから、あの筋肉市長かも知れない。
しばらく無言が続いたが、スペランカーが咳払いして、話に戻る。
「同じC社で、誰かに声を掛けられないの?」
「難しい所だ。 というのも、今回はC社に対して、貸しを作るタイプのミッションになるでな。 我が輩としても、可能な限り、C社の関係者以外から協力を募りたいのだ」
そう言う意味では、Rやジョーは対象外になる。ジョーは特にいてくれると心強かったのだが、今回は連れて行けない。
勿論N社の人間も対象外だ。
そうなると、アトランティスにいる、食客組の誰かか。
スペランカーの方で話をすると言うことになったので、一旦電話を切る。それから、一度E国に戻った。
隣国であるI国は、非常に様々な軋轢がある場所で、入国も面倒な手続きが必要になる。国連軍も動きづらいと聞いている。
つまり、国連軍としても、フィールド対応という名目で監視チームを置くことくらいしか出来ない、という事だ。
物資の補充くらいはしてくれるだろうが、人員のサポートなどは、とてもできないだろう。しかも今回は状況が状況だ。
軍に対して借りを作ることもできないし、そう言う意味では八方ふさがりとなる。
アーサーは恋人と婚約しているが、今だ結婚には至っていない。
色々と面倒な事情があるのである。アーサーの側にも、それに恋人の側にもだ。
恋人は三十までには結婚したいと言っているのだが、アーサーとしては、もう少し待ってくれとしか言えない。
辛抱強く彼女は待ってくれているが。
それも、いつまで待って貰えるか、分からなかった。会える時間も、さほど多くは無いのである。
帰宅。
かって貴族の邸宅であった家だ。フィールド探索者としての稼ぎで、没落した貴族から買い取った。
婚約者に配慮して、使用人には女性を使っていない。
この事が曲解されて、アーサーは男色家だとか言う陰口をたたく者までいるらしいが。アーサーは気にしていない。
額の汗を拭う。
書斎に入ると、確保したアドレスをチェック。その中から、連絡を順番に入れて行く。
人間関係を進めるのは、時に強大な敵よりも、ストレスを蓄積させる。スペランカーのように、話が分かる奴ばかりではないのだ。
フィールドの側に駐屯している国連軍の士官も、その手の輩だった。
ひょっとすると此奴、テロ組織に懐柔されているのかも知れない。そうアーサーは思ったが、口には出さなかった。
「こられても、支援は一切できませんが、よろしいですね」
「分かった、それならばそれでよい。 人員も此方で手配する」
電話を切る。
休憩所だけでも確保できれば良いのだが、それも難しいかも知れない。近くのビジネスホテルでも予約しておくかと、ネットに接続。ただ、E国の人間だというと、おそらく宿泊を拒否するホテルも出てくるはずだ。対立意識と言うよりも、テロ組織による攻撃の可能性が生じるからである。
I国とE国の対立の歴史は長い。アーサーも、I国ではあまり好まれていない。実名を出すと、色々面倒な事になりかねない。
悩んだ末に、少し安めの、古びたモーテルを借りた。丸ごと。
元々ちいさなモーテルだし、四部屋くらいは確保できるだろう。更に、アーサーが継続型の防御術式を掛ければいい。それくらいはたやすい。
モーテル一つくらいなら、爆弾テロから充分に守りきれる術式を掛けることが可能だ。さほど苦労せずに。更に、店長には借りている間、モーテルを離れてもらえば、被害は抑えきれる。
色々と手を打っている内に、スペランカーから連絡が来た。
どうやら支援をしてくれるらしい人物が決まったようなのだが。その名前を見て、アーサーは愕然とした。
だが、手練れには違いないのだし、確かに戦力としては計上できる。かなり変わった使い手だが、考えて見ればスペランカー自身がそうだ。
明後日、合流することにして、スケジュールを組む。
一日だけ空いたので。アーサーは久しぶりに、恋人の所に足を運ぼうと思った。
翌々日。
C社に連絡をしてから、E国の国際空港に移動。既に、スペランカーが待っていた。彼女は遅くなることが多いのだが、今日はアーサーの方が遅い。
巫女のサヤは既に来ていたらしく、長身の金髪の男にナンパされて、困り果てていた。サヤとでは、頭一つ半違う大男である。サヤよりも更にちいさなスペランカーとでは、加えて頭半分違う。咳払いすると、アーサーを見てメンチを切ろうとした男は。だが、硬直して、ずり下がったサングラスを震える手で直す。サングラスに派手なシャツとは、なんとも古典的な。アーサーがいうのも、おかしな話だが。
「サー・ロードアーサー!?」
「うむ。 その女性は我が輩の連れだ。 何より困り果てている女性にしつこく迫るのは感心せぬな」
「し、失礼いたしましたっ!」
凄い勢いで頭を下げると、ナンパ男は脱兎のごとく逃げていった。
何だか知らないが、アーサーを怖れてくれているようで、何よりだ。この間、聞かされた来るべき未来を考えると、あまり普通の人間と接触し続けるのは、好ましくないかも知れない。
あと五年前後。
そうシーザーの話からは、推察できる。社会情勢が壊滅的に悪くなってくるのは、もっと近い未来だろう。
恋人だって、無事でいられるとは思えない。彼女は戦闘タイプでは無いが、非常に特殊な血筋の人間で、一般人でも無いからだ。
かといって、アトランティスに移住するのも、簡単にはいかない。アーサーにはE国でする事も多い。アトランティスはとても微妙な政治的立場にあり、味方は一人でも必要なのである。
アーサーが移住したりしたら、国際的な顔の一人を取られたと考えて、E国がへそを曲げる可能性も高い。それは避けなければならない。
ましてや、恋人は更に微妙な立場にある。安易に移住などと口にできない状況なのだ。
「助かりました。 有り難うございます」
サヤが完璧な角度で礼をするので、アーサーも鷹揚に頷く。
誓いを立てた女性以外には、必要以上に近しく接しないのが、騎士としてのマナーだ。もっとも、現在騎士と呼べる人間は、殆ど存在していないが。
「今一人は、どこにいるのかな」
「少し遅れてくると聞いています。 入国手続きに時間が掛かるとか」
「まあ、無理も無かろう」
スペランカーが、手を振って呼んでいるのが見えた。大きな声では無いのだが、不思議な存在感がある。
I国にいくには、一度F国にいって、其処から飛行機を乗り継ぐ方が良い。
というのも、国際的な情勢もあるし、何より目をつけられやすいからだ。様々な事情を、今回のフィールド攻略では考慮しなければならない。別にテロ組織に攻撃されても蹴散らすことは容易だが、自爆テロからサヤを守りきれるかは、少し自信が無い。式神を町中で出すのも、問題が多いだろう。
ところで、あのナンパ男だが。
少し距離を置いて、此方をうかがっている。サヤは気付いていない。
ただ、距離を置いて気付いたのだが、それなりの使い手だ。ひょっとすると、あれは。まあ、今は別に構わない。
最後の一人が、来た。
相変わらず、個性的な格好だ。周囲が度肝を抜かれているのが分かる。戦士として信頼出来ることは、以前の戦いでよく分かっているから、不安は無い。ただ、まさか来てくれるというのは、予想外だった。
「アーサー殿、お久しぶりであります」
「うむ、アトランティスで会議をして以来だな」
来てくれたのは、鼠のロボット警官、マッピー。青い警官服とがまぶしい。敬礼も、堂に入っていた。
今回彼に来てもらったのは、備えている特殊能力が大変便利だからである。ものの特性を強化するというその能力は非常に使いどころが面白い。
それだけではなく、マッピー自身の戦闘力もかなり高い。ニャームコの島で、延々と実験に明け暮れ、その間強化され続けたAIはとても研ぎ澄まされている。実際アトランティスで新人警官を指導している様子を見たが、投げ技も打撃技も、大変高い水準で身につけていて、多少の体格差などものともしていなかった。戦い慣れているはずの骸骨の戦士やミイラ男の戦士達が、舌を巻いていたほどである。
今回は実銃を渡そうかと思ったのだが、マッピーはアトランティスで使っている警棒とショックカノンで良いと言う。確かにマッピーの特性であれば、その気になればその辺りにある木でも石でも武器にできる。
合流した後、飛行機に。
此処からは、半日がかりだ。飛行機の本数もあるが、一本では無く、分乗して現地に向かうからである。
色々と煩わしいが、それ以上に面倒な事態を避けるために、打てる手は全て打たなければならなかった。
スペランカーと隣の席に座る。サヤはマッピーに任せて、別行動だ。
マッピーとは少し話したが、今回が難しい状況下にある事は、きちんと理解してくれていた。
そう言う意味で、彼にはまず護衛をして欲しいと考えている。今やアトランティスに無くてはならない警官であるマッピーは、警護のプロだ。しっかり支援特化のサヤを、守り抜いてくれるだろう。
さて、少し後ろの方に、金髪のナンパ男がいる。何か企むようなら、取り押さえなければならないだろう。
離陸して少しすると、機内も静かになった。疲れが出たか、スペランカーはすやすやと寝ている。
話すべき事は、既に話している。
だから、別に今更追加で話すことは無い。元からスペランカーに体力が無い事は承知の上だ。休めるときに、休んでもらった方がいい。
まず、F国に到着。
少し喫茶店に入って休む。次の飛行機が来るまで、時間もあるからだ。男同士と女同士で別れて座るが、席そのものは近くに取った。
金髪のチャラ男はまだ一定距離を保ってついてきている。アーサーの次に、気付いたのはマッピーだった。
金髪男は喫茶店のラウンジで、わざとらしくサンドイッチを食べている。此方は中でまとまっているので、どちらからも互いが丸見えだ。
「アーサー殿、あれはよいのでありますか。 なんなら、本官が取り押さえますが」
「放っておこう。 見たところ、スパイには思えないし、テロリストのようにも見えぬからな」
スペランカーは、うすうす視線には気付いているようだが、特定できてない。
サヤはちいさな式神と嬉しそうに何か話しているが、完全に気付いていないようだった。むしろ式神達が、既に男に警戒している様子がうかがえる。式神達も、サヤの戦闘力には期待出来ないことを知っているのだろう。
F国の紅茶は流石に美味しい。料理がまずいE国だが、紅茶だけには自信はあったのだが。それでも、文化と飽食の国だけあって、F国のはかなり洗練されている。
以前の世界大戦では同盟国として戦ったE国とF国だが、実際には強烈なライバル意識と抗争の歴史があり、E国人とみていい顔をしない人間もいる。勿論気持ちのいい人間もいるが、必ずしも多くは無い。
空港から、I国へ。
ここからが、面倒だ。
普段は国連軍がサポートをしてくれるのだが、今回は迎えも無い。タクシーを取るよりも、レンタカーの方が良いだろうと判断。アーサーは、事前に取っていたレンタカー(ライトバン)に乗り込み、全員で現地に向かう。
かって世界帝国とまで言われたE国の隣にあっても独立を維持しているだけあり、I国は戦闘的な国民性で、街も全体にぴりぴりしているように思えた。ただし治安自体は悪くないし、E国との関係に理解を示す民も少なくは無い。
ただ、アーサーはあまりこの国では人気が無いとも聞いている。だから鎧はパージして、あまり慣れないコート姿で、車を運転していた。
「アーサーさん、運転が達者ですね」
「流石にヘリや戦車は運転できぬが、いちおう免許は幾つか持っているでな。 酔わないように気をつけるが、気持ち悪くなったら言っていただきたい」
できるだけ表情を柔らかくして応えるが、今回の任務では、どうも背後にきな臭い空気がある。
国連軍も介入したがらないほどに、背後関係がこじれていると見てよい。確かにフィールドが消滅すれば、大きな貸しを作ることになるだろう。
国連軍の軍基地が見えてきたが、あまり大きくは無い。造りも開放的で、フィールドに備えているようにはとても見えなかった。
一度基地を通り過ぎて、拠点として確保したモーテルに。
モーテルの主は鍵だけ貸してくれると、すぐにその場を離れた。いざというときのために、そうして欲しいと、事前に話はしておいたのだ。ちなみに何かしらの災害にあった場合、災害保険金が出るように、アーサーが保険屋と交渉を済ませている。
モーテルの周囲を回り、防御系の術式を掛けていく。
比較的治安が良いI国だが、この辺りはどうも空気が悪い。さっきから、良くない視線を複数感じる。
この国のテロ組織は、非常に背後関係が複雑だ。
既にアーサーには気付いているとみて良いかも知れない。
町並み自体は、とても美しい。
このI国は、未だに妖精が多数生息していると言われ、妖精と関係が深いフィールド探索者も多い。
或いは、スペランカーが養子にしているコットンも、此処が本当の出身地では無いかと、アーサーはにらんでいたが。真相はよく分からない。
モーテルに荷物を置いて、少し休憩を取る。
今回は非常に厄介なことに、フィールドの内部情報が殆ど無い。軍がある程度調査してくれることで、探索は随分楽になるのだが。今回に関しては、それを期待するどころか、駐屯中の国連軍からのデータは、信用できない有様だ。
「今回のフィールドは、七年前から殆ど手つかずだ。 分かっているのは、内部が重異形化フィールドであり、いわゆる魔界になっている、ことくらいだろうか」
「魔界ですか」
「そうだ。 だから、必ずしも消滅させることができるかは分からない」
魔界化までしているフィールドは、内部が独自の世界になっている事が多い。一種のパラレルワールド化している事もあり、対処には念入りな判断が求められる。
そう言う意味で、今回は本来国連軍が相当な準備をし、手練れを集めて立ち向かうべき場所なのだが。
政治的な問題、背後の複雑な関係、それに外部への危険性の薄さなど。様々な要因が重なって、随分と長い間放置されてしまった。
考え込むスペランカー。
サヤが、先に挙手した。
「私が式神を送り込みましょうか。 少しでも内部のことが分かれば」
「おそらく式神を危険にさらすことになるだろうが、良いのかな」
「!」
「魔界の住人にとって、式神はおそらく全く別種の存在では無く、近しい者の筈で、他のフィールドのように偵察をして無事に帰ってこられる保証は無いぞ。 勿論危険を承知、というのであれば嬉しいが、少し対策を考えてから、話を進めるべきかと我が輩は思うのだが。 サヤ殿はどうかな」
異論ありませんと、サヤは黙る。
できるだけ押さえつけるようなものいいはしなかったつもりなのだが、ちょっと悲しそうにしているので、胸が痛む。
続いて、マッピーが挙手する。
「本官の任務は、サヤ殿の護衛でありますな」
「うむ。 敵の中枢は、我が輩とスペランカー殿にて叩く。 サヤ殿は支援。 貴官は、全面的な援護をお願いしたい」
魔界には、少人数しか入れない。
アーサーが単独での魔界攻略を複数回成功させたのは、そうせざるを得なかったからだ。アーサーは今でこそE国最強のフィールド探索者と言われているが、最初に魔界に挑んだときは。
古き血筋にのぼせ上がった、勘違いした若造に過ぎなかった。
元からの強力な能力が原因では無く、むしろ強運に味方され、かろうじて生きて帰ることは出来たが。手は血まみれで、心もずたずたに傷ついていた。悪魔だったら殺してもいいという理屈が、実際に殺してみて、どれほど傲慢なものか、よく分かったのである。愚かなプライドは、粉みじんに消し飛んでいた。
戦いが如何に悲惨なものか、身をもってアーサーは知ったのだ。年の割には分別があると言われていたアーサーだが、そんなものは何の役にも立たないと、その時理解した。
魔界には今まで何度か挑んだが、必ずしも魔王を毎度討ち取っている訳では無い。和解を勝ち取ったこともある。
いずれにしても、アーサーは最初からE国最強であったわけではない。
「アーサー殿は、勇ましい騎士というよりは、冷静な将という印象なのであります」
だからそうマッピーに言われたときは、嬉しかった。
「我が輩も、伝説に残る騎士を先祖に持つとされる男だ。 猪のように突入して、敵を斬るだけが能では無い。 スペランカー殿、作戦開始に何か異論はあるだろうか」
「ううん、大丈夫だと思う。 ただ……」
スペランカーは、言葉を切った後に言った。
「退路が、危ないかも知れないね」
「ふむ、それについては同意だ。 国連軍が信用できない今回、できるだけ迅速な攻略が必要になるだろう」
サヤに直接来てもらうのも、それが理由だ。
危険度が高いフィールドの場合は、外でむしろ支援をして欲しい。だが今回、自衛能力が無いサヤを外に置いておくのは危険すぎる。
ただ、それについては、以前ここに来る前の時点で話している。マッピーもいる。
何故、スペランカーがそんなことを言いだしたのか。聞き出すために、アーサーはあえて同意したのだが。
「ううん、そうじゃないんだ。 何だか、あまりにもうまく此処まで来すぎてるような気がして」
「つまり、フィールドに誘い込まれようとしていると」
「うん。 どうもおかしな話の気がするの。 何もかもが、此処に私とアーサーさんを引きずり込むために、張り巡らされた罠だったら、大変だよね」
確かにそれはその通りなのだが。
あのC社の社長は、性格は兎も角手腕は確かで、生き馬の目を抜くビジネスの世界を渡り歩いて来た人物だ。弱いながらも、フィールド探索者でもある。C社でもRに次ぐ実力を持つアーサーを、無駄死にさせるようなことをするだろうか。
不安そうにしているサヤを見て、マッピーが提案する。
「最悪の事態を想定してはどうでしょう」
「ふむ、たとえば」
「本官が考えるに、フィールドが罠だったとして。 内部の敵はみな我々に牙を剥き、攻撃してくる。 外にいる国連軍とテロ組織は共同して、我らに害を為そうとする。 それらのもっとも、敵にとって効率の良い方法はなんでありましょう」
「戦力の分断と、補給の遮断であろうな」
実際問題、スペランカーは支援戦力がいて、はじめて力を発揮できるタイプの能力者だ。スペランカーが一人にされて、牢に入れられるなどすると、完全に無力化されてしまうだろう。
サヤに関しても、それは近いものがある。
しかし、四人がまとまって行動すると、危険性が生じる可能性も高い。罠で一網打尽にされてしまう畏れがあるからだ。
一応、今回は自前で多めに物資を用意してきている。
だが、退路が完全に遮断された場合、あまり楽な状況にはなりそうにない。
幾つか、意見を交換する。
サヤの式神にも意見を聞いてみたが、彼らは力こそ優れているが、人が使うような下劣な戦術には詳しくないと、意見を供与してくれなかった。確かに、それはそうだ。
「やはり本官が、サヤ殿と外に残りましょうか。 少々の戦力であれば、本官がどうにかしてみせますが」
「いや、近代兵器の力を侮るのは危険だ。 貴官の力を信じぬ訳では無いが、多数のスナイパーライフルに狙われた場合、サヤ殿を守りきるのは難しかろう。 ましてやそれに爆発物も加わると、かなり厳しいことになる」
「なるほど、確かに一理あります」
「此処は、つけいる隙の無い速攻が吉とみた」
フィールドを、速攻で攻略する。
最深部まで最短時間で迫れば、入り口を塞がれようが、追撃があろうが、関係無い。問題はフィールドを攻略したとき、満身創痍の状態で、テロ組織や国連軍の反フィールド探索者思想の持ち主達に囲まれた場合だが。
しかしそれも、相手が交戦意思を向けてきた場合は、蹴散らすことができる。
如何に傷ついていても、アーサーがいれば、一個中隊の軍くらいはたやすく蹴散らすことができるだろう。また、スペランカーがいれば、相手に攻撃を躊躇させる事も難しくは無い。
此処に駐屯している国連軍は一個中隊。
テロ組織が全部それに荷担したとしても、その三倍には達しないだろう。それならば、充分に撃退の範囲内だ。
「よし、作戦行動を前倒ししよう」
「本官は構わないのですが」
「確かに、それが良さそうだね。 サヤちゃん、大丈夫?」
サヤは風呂に入りたさそうな顔をしていたが、我慢してもらうしか無い。
レディに快適な生活をして欲しいと思うのは紳士として当然のことだが、その一方で彼女は戦士だ。
戦士には、それ相応の覚悟と、行動が求められる。
「すまぬが、全てが終わって、せめてE国に戻るまで、風呂は我慢して貰えぬか」
「分かりました。 くすん」
サヤがとても残念そうな顔をする。
そのまま、明かりを付けてわざと裏口からでる。レンタカーもそのまま残す。
周囲に監視の気配は無し。
でる前に、アーサーが気配を遮断する術式を掛けた。時間が掛かる上に、人間相手くらいにしか使えないが、これで充分。
問題はスターライトスコープを装備した狙撃兵が監視していた場合だが、それも手を打ってある。
裏口の周囲に、幾つか強めの光源を仕掛けておいた。これで、スターライトスコープは攪乱可能だ。
「でる前に、全員ハンカチを口に。 我が輩は、着替えるか」
鎧に、着ているものを切り替える。
普通はパンツ1丁の上に鎧を出現させるのだが、今日は服の上に鎧だ。少し重くなるが、今更である。
「サヤ殿、小型の式神を展開して貰えるか」
「は、はい」
一瞬で鎧に切り替わるアーサーを見て、呆然としていたサヤが、印を切って呪文を唱える。
オリエンタルな呪文は異質だが、聞き惚れている暇は無い。
勿論、式神を展開する理由など、わかりきっている。そう思ったのだが、サヤがどうして式神を使うのかと聞いて来たので、ちょっと眉尻を下げた。
「周囲に、おそらく監視がいるであろう。 それを確認したいのだ」
スペランカーも、口には出さないが、苦笑いしている様子だ。
彼女は頭の働きが鈍いかも知れないが、判断力は確かで、それはつまり状況分析力が優れている、という事に他ならない。
わざわざ説明しなくてもスペランカーには通じるのだが。サヤはまだ経験が絶対的に足りなかった。
「います。 スナイパーライフルを構えた人が、この辺、それにこの辺……」
「やはり裏口を見張っているようですな」
「ふむ、この位置が面倒であるな。 裏口はフレアでごまかせるが。 この辺りに、光の球を飛ばせるか?」
「できます」
声を拾われている可能性もあるが、それに関してはジャミングを仕掛けてあるから、平気だ。
明かりは付けたまま、でた。
そして、そのまま、闇夜を走る。
国連軍の基地に正面から行く。歩哨の兵士には、ライセンスを見せた。流石に緊張の面持ちで、兵士が敬礼する。
「サー・ロードアーサー!」
「司令官には知らせるな。 我が輩はこのまま、フィールドを攻略する」
「困ります、そんな」
「いいのだ。 攻略は勝手にやれと言われているでな」
無造作に盾を出して、サヤを狙撃の死角に入れる。いきなり巨大な盾が空中に出現して、兵士は度肝を抜かれたようだった。
アーサーの能力、ウェポンクリエイト。
自分の体重以下の武器を、創造する能力である。鎧もこれで出現させている。魔術も使えるアーサーだが、此方が戦闘の基本となる能力だ。体力と引き替えに、武器を造り出すこの力は、それこそ魔界を攻略するためには運と並んで必須であった力だ。
そのまま、フィールドに飛び込む。最初はスペランカー。続いてアーサーが入り、サヤを守りながらマッピーが続いた。
無線に連絡がある。
「まだテロ組織は動いていません。 軍もまだ気付いていないようです。 今の時点では平気です。 罠は確認できません」
「その声は。 そうか、貴殿が」
「すみません、もう少し自然に近づきたかったんですけど」
実は事前に、国連軍の特務諜報部隊に、後方支援役を一人頼んでおいたのだ。
まあ、あのナンパ男がそうだったとは意外だったが。
周囲は、既に荒野の大地。
久々に来た此処こそ。魔界と呼ばれる、恐ろしき人外の大地であった。