オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
魔界に入った直後は、荒野で、何も敵性勢力はいなかった。
外にいる協力者と連絡を取りながら、進む。サヤとマッピーは、あえて少し遅れてついてくるように、事前に打ち合わせはしてあった。
だが、廃村に着いた辺りから、無数の魔物が、姿を見せ始めたのである。
ゾンビの大軍を退けた頃には、既にマッピーは完全に見失っていた。勿論、サヤの式神がいるから、向こうには此方の位置が分かっている。
赤い月は、全く動く気配が無い。
既に無線は、外とは通じない状態になっていた。
だが、想定の範囲内だ。魔界では良くある出来事だ。
スペランカーが、呼吸を整えながら、歩み寄ってくる。すぐ側には、巨大な槍を突き立てられ、倒れている一角の巨人。全身は傷だらけで、眼球は潰れて、顔中が血まみれになっていた。口の中は凄まじい牙が並んでいて、無念そうに舌をつきだしている。
今、アーサーが屠った敵だ。
「大事ないか」
「大丈夫です。 アーサーさんは」
「我が輩は、このくらいは何でも無い」
これから先に行けば、魔界の重鎮と呼ばれるような、桁外れの怪物達も姿を見せることだろう。
この程度の事を、恐れてはいられない。
崩れかけた風車が、からからと音を立てている。小川は紫色に濁り、骨だけになった魚の死体が浮いていた。
悲惨な光景だが、実際に存在した村が、このような状態になったのでは無い。
三つ目の魔界を攻略したとき、其処の王であるサマエルという存在に聞かされたのだ。魔界というフィールドが、そもそもいかなる存在かを。
不意に、けたけたと鋭い声が上がる。
筒状の怪物が姿を見せたのだ。筒の尖端には一対の目だけが見え、体の左右にはちいさな手と、後ろには申し訳程度の足。手にしているのは、緑色の槍。辺りを跳び回る怪物は、見る間に三十、五十、八十を超えた。旋回速度はさほど速くないが、中空から此方を狙っているのが分かる。
「ウッディピッグであるな」
魔界ではゾンビと同じく雑兵だが、それでも動きは速く、しかも限定条件でテレポートまでする。
本来なら相手にせず駆け抜けるべきなのだが。
今回は、瞬間的に全滅させるべきだ。魔界の最深部にいる王に、此方に対する迎撃態勢を整えさせる訳にはいかない。
印を切る。
膨大な数のトマホークが、空中に出現した。
唸りながら、回転する斧が、一斉にウッディピッグの大軍を襲う。詠唱さえ無しで出現させることができる数としては、限界に近い。
凄まじい悲鳴が響き渡り。肉と血がぶちまけられる音が轟いた。
地面に、血みどろのトマホークが突き刺さる。それも、無数に。
ゾンビ同様、ウッディピッグは、死体を残す事も無く、霧になって消えた。取りこぼしは、無し。
だが、消耗が早い。印も切らずに、これだけの数の斧を一瞬で出現させたのだから、当然だ。額の汗を我知らず拭う。スペランカーが、補給用のタブレットを無言で差し出してくる。
「すまぬな」
「急ごう、アーサーさん」
「うむ……」
最悪の場合、後続の二人に、敵の兵力を押しつける必要性まである。
今回は、そう言う戦いだ。マッピーの負担が増えるが、彼は以前共闘して、かなりの使い手である事が分かっている。
水筒を出して、歩きながらドリンクを口に含む。
村は、まだ続いている。もうこの辺りになると、煉瓦の家は見かけない。いずれもが押し潰されたようになっていて、周囲には巨大なカラスが旋回していた。此方を見て、早く死なないかと思っているのだろう。隙を見せたら、即座に襲ってくるのは間違いない。
遠くに、カラスでは無い影も、飛んでいるのが見える。
魔界の支配者階級である魔族だろう。
魔界によって姿は様々だが、共通しているのは、一般的にイメージされる天使を裏返したような姿をしている、という事だ。
翼は蝙蝠である事が多い。体色は大体黒か赤。
巨大な陰茎を股間から見せびらかすかのようにして生やし、不潔で不浄。そして、角を額から生やしている可能性が高い。
そして、多くの場合、強力な魔術を使いこなす。
当時、考えられたもっとも冒涜的な姿こそが、それ。ギリシャ神話などの影響も受けているが。
いずれにしても、魔族は凶暴で残虐な一面もあるが、正直なところ、普通の人間よりもむしろ話ができる場合も多い。
だから、本来は。こういう攻略作戦は、あまりアーサーの好むところでは無かった。ただ、先ほど一角獣と戦った時。アーサーは、悪い予感が的中したことを悟った。此処からは、躊躇は必要ないかも知れない。
見えてきたのは、ちいさな砦。
入ってこいとばかりに、入り口は、開け放たれていた。
そして内部からは、二メートル半はある、禿頭の巨大な戦士達が、此方をうかがっているのが見える。
いわゆるジャイアント。最下級の巨人族である。
かって、いにしえの時代。巨人と言えば、神の眷属だった。だが、魔界では、そういった存在こそが、邪悪に歪められ、多数出現する。
最悪の形で、だが。
「奴らの好物は人肉だ。 気をつけられよ」
「それなら、私が囮になるね」
「……無理は為されるな」
巨人はタフである事がわかりきっている。此処からの戦闘は、相当に血なまぐさいものとなるだろう。だが、此処を如何に早く突破できるかが、魔界攻略成功の鍵となっている。ただ、一つ、気になることがあった。
「以前戦った魔界では、敵の密度がこの比では無かった。 今回は、どうも敵が此方をうかがってから、攻撃を仕掛けてきているように思えるな」
スペランカーは応えない。
アーサーも、その理由は、うすうす分かっていた。
巨人が、唸り声を上げる。
小走りで、一気に砦の門へと行く。砦の門が降りはじめる。やはり、門が空いていた理由は。
ドラミングした巨人。
だが、警戒の雄叫びを、アーサーが上げさせなかった。
もう走れないとか言い出したらどうしようと、マッピーは思っていた。
親切な警官であろうと、マッピーは心がけている。アトランティスに移ってからは、Dr,ニャームコの島では知ることが出来なかった現実を、多数覚えなければならなかった。快く島に自分と愛する妻を迎え入れてくれたスペランカーのためにも、優秀な警官でなければならなかった。
勿論、警官の任務には、弱き者に手をさしのべることも含まれる。
しかし、此処は戦場。
マッピーの仕事は護衛であっても、弱者を甘やかすことでは無い。
サヤという娘は、支援系特化だという話を聞いていた。実際に、フィールドに突入するまでも、あまり武闘派とは思えない、おとなしい性格である所を見せていた。ひらたく言えば、内向きの性格だ。
辺りには、戦闘の痕。
それを見て、サヤは悲しそうに眉をひそめる。
「意図的に派手にアーサー殿が戦っているようなのであります。 道しるべになりますな」
「……はい」
式神で、居場所を把握しているだろうが。それでも、不慮の事故や罠を避けるための配慮だろう。
勿論、手加減をしている余裕が無い、という理由もあるだろうが。
振り向きざまに、ショックカノンを撃つ。
上半身が消し飛んだゾンビが、崩れ落ちた。本来は殺戮用の武器では無いのだが、マッピーの能力であるブースターを用いればこの通り。まだこの辺りは、ゾンビが無数にわき出してくる。
さっきも、サヤが足首を捕まれそうになり、抱えて跳んだのだ。
「急ぎましょう。 本官の側を離れないで」
自分よりもだいぶ大きな相手を護衛するのはおかしな気分だが、そもそもマッピーの心中には、いわゆる三原則がある。
ロボットは、いざというときには、人間の盾となって命を投げ出さなければならないのだ。
スペランカーやアーサーのためなら、それは全く構わない。
だが、マッピーは。
まだ、このサヤという娘を、信頼しきっていなかった。勿論、戦略上で重要な存在だと言うことは分かっている。
砦が見えてくる。
凄まじい戦闘の痕が残されていた。砦の門は吹き飛ばされ、内部には膨大な数の剣が突き刺さっている。
地面に倒れているのは、原型も無いほどに破壊された巨大な人間。巨人という奴だろうか。
血の臭いが濃い。
口を押さえたサヤを一瞥すると、ついてくるよう、マッピーは促す。
巨人の頭だけが転がっていた。無念の形相を浮かべている。他にも、ちいさな蝙蝠のような怪物や、訳の分からない怪物が、無数に屍となって散らばっている。
既に死の概念を理解しているマッピーは、彼らの状態を知っていた。
唸り声。
振り返ると、生き残りらしい巨人が、死体の山の中から立ち上がる所だった。あのアーサーが、討ち漏らしたのか。或いは。
巨人が、サヤめがけて突進してくる。
ショックカノンを撃つが、腕で払われた。巨人の左腕も吹き飛ぶが、意に介さず突入してくる。
サヤが、動けないでいる。
無言で飛び出したマッピーが、彼女を抱えて飛び退くのと、巨人が拳を振り下ろすのは、殆ど同時。
砦の床を砕いて、巨人の拳がめり込む。
サヤがようやく呼び出した、大型の人型をした式神。確か大入道という奴が、巨人に組み付くと、地面に押し倒した。
冷静に頭に狙いを絞り、ショックカノンを撃ち込む。
頭が粉々に吹っ飛び、脳漿がまき散らされるのを見て、マッピーはやっと一息ついた。
「無事でありますか」
サヤが胃の中身を戻している。
人間に近い姿をした生物が死ぬ所を、間近ではじめて見たのだろうか。戦場には何度か一緒に出向いていると、スペランカーから聞いていたのだが。
大入道に任せると、マッピーは辺りを見て廻る。
アーサーが、敵を薙ぎ払いながら進んでいるのが分かった。文字通り、情け容赦の無い殲滅ぶりである。
おそらく、戦いを早く終わらせるためなのだろう。
サヤが落ち着くのを、待っている暇は無い。
「大入道殿。 サヤ殿が落ち着くのを、待つ暇は無いのであります。 できれば、担いで来て欲しいのでありますが」
「もう少し待って欲しい。 主人は傷心だ」
「今は一刻を争うのであります」
冷たいものいいという奴かも知れないが、アーサーのがんばりを無駄にするわけにも行かない。
此処でスペランカーがいたら。どんな風に、サヤをなだめたのだろう。
サヤは流石に何度か戻した後、涙を拭いながら、自力で立ち上がった。
もしも彼女が被災に巻き込まれた一般人なら、此処で慰めもするのだが。生憎彼女は、戦うために来た戦闘要員だ。
護衛のために来ているが、精神のケアまでは、面倒を見切れない。
というよりも、人間の精神は複雑すぎて、同種にも理解しきれない部分が大きいということを、今のマッピーは知っている。
ましてや、AIのアップデートを繰り返しているとは言え、マッピーには分からない部分が大きすぎる。
「だ、大丈夫、いけます」
「ならば、来るのであります。 アーサー殿達がもしも動けなくなった場合、救助は本官達がしなければならないのであります」
サヤは口を押さえながらだが、何度か頷いた。
青い顔をしているが、どうにか歩き出す。大入道が心配そうにその少し後ろから、ついていく。
壁に、巨人が串刺しになっていた。頭部は綺麗に吹き飛んでいる。
床に、文字通り八つ裂きにされた巨人が転がっている。大きな広間なのだが、そのせいで文字通りの血の海になっていた。
砦の壁状構造になっている建物を幾つか越えて、突破。
その間に、巨人の死体は、三十体以上は見た。複層構造になっている砦は、一体何から魔界を守ろうとしていたのか。
式神を展開して、ひっきりなしに情報をやりとりしていたサヤが、マッピーを呼び止める。
彼女が着ている千早という白と赤の服も、かなり血の臭いが染みつきはじめていた。
「アーサーさん達は、この先の、山岳地帯で苦労している、ようです」
「分かりました。 可能な限り、急いで後を追うのであります」
「それが、後ろから、何者かが追跡を掛けてきていて」
一気に緊張が走る。
追撃を掛けてきているとなると、やはり魔界の戦士達の可能性が高い。だが、もう一つ、可能性がある。
「姿を確認したいのであります。 もしも魔界の怪物であれば、対処は比較的容易なのであります。 しかしそうで無い場合は……」
三原則が、邪魔になってくる。
そのために持ってきているショックカノンでもある。相手を無力化して捕獲するのに、これほど優れている武器は無い。
だが、それでも、限界がある。
大入道が、来るように促す。
砦の向こうに、吊り橋があった。これを落とせば、追撃は防げる。
だが、吊り橋の周囲には、青いちいさな影が飛び交っている。どうみても、友好的な勢力では無いだろう。
「一気に駆け抜けるしかないであります」
「大入道、戻って」
「大丈夫か、主」
「どうにかします」
といいつつ、吊り橋の下を見て、サヤが固まる。
砦の後ろには、それこそ千尋の谷というのも生やさしい亀裂があり、そこに吊り橋が架かっているのだ。しかも、吊り橋の長さは、どうみても百メートル程度ではすまない。風でも揺れている。
吊り橋の先には険しい山。それはもう、衝立のようと表現するのも甘すぎると言うべきか。
魔界は、必ずしも住んでいる存在だけが、化け物なのでは無い。
重異形化フィールドで、パラレルワールド化することさえある驚異的なフィールド。それが魔界。
恐ろしさを思い知ったのか。サヤがその場で立ちくらみを起こしているのが分かった。
「空を飛べる式神に運んでもらってはいかがでありますか」
「みんな、出払っています」
「それならば、走るしかありますまい」
促すと。サヤは、唇を噛んで、胸に手を当て、何度も深呼吸した。
マッピーは、吊り橋の強度計算を、既に終えていた。
もしも途中で吊り橋が切断された場合の、サヤの救助方法も、既にプランが幾つか練ってある。
吊り橋は、縄数本だけでは無く、芯が通してあるそこそこ強固な造りだ。
切断するにしても、簡単では無いだろう。つまり、渡りきった後も、それなりに時間を稼がなければならない。
もたついている暇は、無い。
サヤが、促さずとも、歩き始める。
最初の板を踏んで、真っ青になる。板が、想像以上に軋んだからだろう。そんな程度で恐怖を刺激されるのがよく分からない。子供や非戦闘員なら兎も角、フィールド探索社の研修で、それなりの訓練は積んでいるはずなのだが。
二歩、三歩、サヤが歩く。
式神が来る。文字通り、紙が人型をしているタイプだ。
「マッピーさんマッピーさん」
「何事でありますか」
「追撃の数は三十。 多分、みんな人間だよ」
「分かりました。 引き続き、監視を続けて欲しいのであります」
予想通りだ。
つまり、国連軍の反フィールド探索者思想の兵士達か、この国のテロ組織か、それともその双方か。アーサーの協力者が攪乱してくれているという話だったが、それにも限界があったのだろう。
サヤは集中して、吊り橋を進んでいる。
無言でマッピーは、ショックカノンを連射。此方に飛んでこようとしている青い怪物を、立て続けに叩き落とした。
更に三匹を叩き落とすと、相手が飛び方を変える。
サヤには、もっと急いで欲しい。吊り橋の上で隙が大きくなるのは当然の話で、もたつけばそれだけ危険度が上がるのだ。
膝から崩れそうになるのを必死にこらえて、サヤが進んでいるのは分かる。
だが、恐怖にまけていては、戦いでは勝てない。
半分ほどまで、来た時だろうか。
遙か後ろで、信号弾が揚がるのが見えた。
何かしらの方法で、三十人とやらの敵集団が、すぐ後ろまで追いついてきた、という事だろう。
「サヤ殿、急ぐのであります。 追撃部隊が、近くまで来ているのであります」
「ひゃっ!」
何か口答えしようとしたサヤが、足を踏み外しかけたので、マッピーが支える。床に蹲って震えているサヤを狙って、数匹の青い敵が降下しようとしてきたので、立て続けに叩き落とした。
まずい。
狙撃銃を持ち出されると、サヤを守りきれない。
「走るのであります。 一気に、向こうまで!」
「あ、足が、すくんで……」
「分かりました。 最後の手段なのであります」
ひょいとマッピーはサヤを抱え上げる。左手は使えないから、これはもう、賭だ。元々出力が違うから、人間の女性くらい抱えて走ることは難しくない。
そのまま、全力で橋の向こうへ。一カ所に掛かる重量が大きいからか、吊り橋からの反発が大きい。非常に揺れるからか、サヤが顔を覆って押し殺した悲鳴を上げた。
当然、青い敵が、殺到してくる。
時々振り返りながら、叩き落とす。だが、数が多すぎる。
後三十メートル。ついに、至近にまで迫ってくる。
菱形の顔を持っている、不思議な姿をした相手だ。全体的には人間に似ているが、身長はおそらく五十センチにも届いていないだろう。
口から、手裏剣のような刃を放ってくる。
射程距離に入ったという事か。
跳んで避けるが、縄が鋭く傷つけられた。立て続けに跳んでくる刃が、次々と吊り橋の縄を傷つけていく。
揺れがどんどん激しくなる中、間近にまで迫った相手に、対応が遅れる。
だが、そいつの顔に、サヤが投げた何かがぶつかる。
激しい爆発。
一気に煙に押されるようにして、マッピーは跳ぶ。
多分、式神を宿す紙に、何か魔術を掛けたのか。真っ青になって、焦点の合わない目で、サヤは何か呟いている。
橋の向こうに到達。
そのまま無造作に、ショックカノンで橋を撃ち落とした。
「相手がヘリでも持ち込んでいない限り、これで後は追えないのであります」
まるでブランコのように跳んでいった橋の残骸が、向こう側の崖にぶつかって、激しい音を立てる。
損壊して落ちていく木片が、がらがらと悲しい声を上げ続けていた。
魔界の事情は知らないが、行き来に役立っていた橋だったのだろう。空を飛ぶ魔物達が、抗議の声なのか、きいきいと小さな声で鳴き続けていた。
腰が抜けたか、サヤはまだ立ち上がれない。大入道が見かねたか、具現化すると肩に乗せた。
「行きますぞ、マッピー殿」
「分かりました。 大入道どのも、周囲には気を配ってください。 本官だけでは、守りきれるか、自信がありませぬゆえ」
もう少し、成長してもらわなければ困る。
大きく嘆息した大入道が、真っ青になって震えているサヤに、行く旨を告げていた。
おぞましい山だった。
彼方此方に、ゴンドラがあるのだが。それが巨大な目玉によって作られているのだ。踏むとめしゃりと、湿った音がする。大きさからいって人間のものとは思えないのだが。一体どういう素材なのだろう。
ゴンドラ自体は、さほど速度もない。
しかし凄まじいまでに複雑に経路が組まれていて、何度かそのまま来た経路を戻らなければならなかった。
勿論、発着場では、その度に戦闘になる。
スペランカーが目を覚ますと、ゴンドラに乗って下降している所だった。巨人に叩き潰された事までは覚えている。アーサーも疲れが見えてきていて、めっきり口数が減っていた。
「スペランカー殿、次でこのゴンドラ地帯を抜ける」
「ん……」
アーサーの攻撃が、荒っぽくなってきているのが分かる。
魔界攻略のエキスパートと呼ばれていたが、アーサーがそれに鬱屈した思いを抱えていることは、道中何となくスペランカーにも分かった。
アーサーの鎧は何度となく具現化し直したが、それでも血の臭いは未だにある。無言で栄養補給用のスナックを口に入れているアーサーの目は、何処か血走っていた。
苛立っている。あのアーサーが。
ゴンドラが、着地した。出口に、待ち構えている存在はいなかった。
遠くには、稲光を背負う巨大な城。とがった岩山のように見えるのだが、どうしてかそれが岩では無くて、城だと分かるのだ。
辺りには溶岩が煮立っており、巨大な橋が架かっている。その橋は幅が二十メートル以上もあり、どういう素材なのか、溶岩の上に掛かっているにもかかわらず、燃えるどころか、暑くも無かった。
もし落ちると、面倒な事になる。
「この先には、ドラゴンや高位の悪魔もいる事だろう。 戦術を指示している余裕は、我が輩にも無いかも知れん」
「アーサーさん」
「だが、必ずや貴殿を最奥まで送り届け……」
「アーサーさんっ!」
珍しく、大声を出してしまった。
我に返ったように、或いは途方に暮れたように、アーサーがスペランカーを見る。スペランカーはできるだけ柔らかい笑顔を作った。
「大丈夫、アーサーさんなら、問題ないはずだよ」
「そうか。 ……そうであったな」
わずかに、緊張しきっていた空気が、緩んだかも知れない。
アーサーは座り込むと、少し休むと言って、目を閉じた。
スペランカーも少し離れて、座る。
追撃があると、サヤから連絡があった。だがそれにしても、少しくらい休む余裕はあるだろう。
敵は、スペランカーが見張ればいい。
「何を、そんなに緊張しているの?」
「そっくりなのだ」
「え?」
「この魔界は、我が輩が最初に攻略した魔界によく似ている。 攻撃は、以前とは比較にならぬほど生やさしいが」
それ以上は、聞く気になれなかった。
おそらく、アーサーには、相当につらい過去があるのだろう。それは間違いの無い所であった。
三十分ほど、無言で休んだ後、アーサーは腰を上げる。
先に進むときが、来たようだった。