オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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3、契約の代償

長大な胴を持つドラゴンが、中空に躍り上がる。青白い鱗に覆われた巨体が、虚空に魔神のごとく舞った。

 

西洋のドラゴンよりも、形状的には東洋の龍に近い。もっとも、口から炎を吐いてくる上に、動きも蛇に近いが。ドラゴンは、古代の蛇に対する信仰が形を変えたものだという説がある。それを考えると、正しい動きだ。それに、魔界の真実を考慮に入れると、なお正しい。

 

ジグザグに跳んで避けながら、対空用の武器を次々に投げつける。

 

いずれにも魔術が掛かっているから、ドラゴンの鱗さえも引き裂いて、肉に潜り込む。だが、ドラゴンは、体長三十メートルはある。

 

ささっても、血がしぶいても、埒があかない。

 

だが、ドラゴンには、種類を問わず、致命的な弱点がある。

 

ブレスを吐こうと、口を大きく開けたドラゴンが、動きを止める。

 

手を広げたスペランカーが、前に立ちふさがったからだ。何かおかしいと即座に判断したのか、ドラゴンがブレスを吐くのをやめて、一旦中空に逃れようとする。

 

だが、それが、致命的な隙につながった。

 

飛来した三メートル大のトマホークが、首の下辺りに突き刺さり、回転しながら五メートル以上、肌と肉を抉ったのである。

 

流石に悲鳴を上げて、体勢を崩すドラゴン。

 

其処に、アーサーが投擲した巨大ランスが、襲いかかる。

 

口の中を貫き、首の後ろにでるランス。

 

ドラゴンは白目を剥くと、飛行能力を喪失。溶岩の中に、落ちていった。

 

断末魔もあがらない。

 

死んだかは分からないが、少なくとも継戦はできないだろう。

 

滝のように流れ出る汗を拭いながら、アーサーはスペランカーを助け起こす。何度焼かれたか分からないスペランカーは、既に服を失っていた。ドラゴンに迫るまで、炎を纏った無数の怪物との戦いを経ていた。

 

バックパックから出したコートを、苦闘していた盟友に掛ける。

 

「すまなかった、スペランカー殿。 囮になってくれて、助かった」

 

「アーサーさん、大丈夫?」

 

「我が輩は、この程度、平気だ」

 

まだまだ、実際に余裕はある。

 

だが、あえて区切って言ったのは、それだけ疲弊が溜まっている証拠でもある。余裕とは、既に言いがたい状況になっていた。

 

ドラゴンにしても、これが最初では無い。

 

既に三匹目。激しい戦いの中で、鎧も二回パージしていた。栄養ドリンクを口に含むと、内心舌打ち。

 

周囲でざわめきが起こる。

 

既に、新手が押し寄せてきていた。

 

今度は骸骨のような怪物である。ゾンビの同類だが、動きがより軽快で、まるでマリオネットのようだ。

 

そのまま、冗談抜きに、操作している奴がいると言うことだろう。

 

此処は、既に魔王の城の二階。

 

何がこれから出てきても、不思議では無かった。

 

「囲まれる前に、突破する」

 

「アーサーさん、骨が新しいね」

 

「……そうであるな」

 

確かに、情報から作ったことが丸わかりだったゾンビや目玉のゴンドラと比べると、現れた骨の中には、妙に生々しいものが多数見受けられる。

 

このフィールドと、テロ組織の黒い関係については、入る前から分かっていた。

 

手元に出現させるナパームで、骸骨は片っ端から薙ぎ払う。ナパームには聖なる魔力を込めてあるから、普通の魔物だったら、文字通り溶けていく。

 

だが、骸骨は、動きこそ止めるが、やはり溶けない。

 

骨は原型をとどめたまま、焼き崩れるようにして、炭になっていった。

 

突破口を作ると、後は左右にナパームを投げ、壁を作る。そして、後方から追ってくる一団に関しては、敢えて無視。

 

至近まで迫らせておいて、そこで不意に仕掛けた。

 

手元に出現させた大斧を、旋回しながら放り投げる。

 

巨大な斧は文字通り、骸骨の群れを薙ぎ払いながら飛んでいった。遠くで、悲鳴が上がる。

 

同時に、骸骨達が、動かなくなった。

 

敵の位置を限定しておいたのは、このためだ。

 

流れ出てくる汗がとまらない。アーサーは年齢も年齢だ。体力という意味では、どうしても血気盛んだった頃に劣ってくる。だから、こういうやり方を、とらざるを得なくなってくる。

 

衰えを知らないMや、Rが、羨ましかった。

 

式神が飛んでくる。

 

既に、サヤ達も、城に入ったらしい。ただ、二つほど、良くない知らせがある。

 

まず第一に、追撃してきている敵勢力が、また姿を見せた、ということだ。

 

吊り橋を落としたという話だから、迂回路を使ったのだろう。この魔界は単純な構造だが、それくらいはあってもおかしくない。

 

もう一つの悪い知らせについては、アーサーに取って他人事では無い。

 

先行していた式神が、どうも敵の首魁の姿を捕らえたようなのだが。

 

容姿を聞く限り、やはり最初にアーサーが攻略した魔界の王と、酷似しているのだ。というよりも、同一の存在だと見た方が良いだろう。しかし、おかしな事に、その姿は揺らいでいて、実体が無いように見えたのだとか。

 

ならば、間違いないだろう。

 

人間が使うものよりも、ずっと大きい階段を、四苦八苦しながら登る。

 

上の階に出ると、また濃厚な敵の気配。

 

ただ、今までの戦況は、敵にも伝わっているのだろう。安易に仕掛けてくる事はなかった。

 

 

 

巨大な赤い魔族が、足下に横たわっている。

 

悪魔としか形容の方法が無い姿だ。人間の形をしているが、全身に鱗が生えていて、角もある。

 

四階にある巨大な扉の前で、待ち構えていた。

 

はじめて戦う相手ではない。

 

やはり、以前見た怪物だ。だから、対処方法も知っていた。

 

それでもなお、消耗が激しくて。アーサーは疲弊しきった体で、座り込む。扉を開けて、先に進む余力が無かった。

 

むっつりと不機嫌そうに黙り込んでいるように、普通の人間には見えたかも知れない。だが、スペランカーは、アーサーの状況を理解してくれていた。

 

「アーサーさん、もう無理だよ。 後方と合流しよう」

 

「悔しいが、それしか無さそうだ」

 

被弾回数も、跳ね上がっている。

 

短時間の戦闘で、五回。敵の攻撃が激しくなってきているのでは無い。アーサーの動きが、遅くなっているのだ。

 

鎧をパージしてダメージを殺しているが、一度などは、ドラゴンのブレスの直撃を浴びかけた。

 

もしも直撃をもらっていたら、鎧のパージだけで凌ぎきれただろうか。いや、難しかっただろう。

 

スペランカーが、心配そうに此方を見ている。

 

ここから先、確か罠はそれほど多くなかったはず。

 

だが、気になるのは、今までがアーサーの知っている魔界と、似すぎている、という事だ。

 

もしも罠があるとすれば、この先だろう。

 

スペランカーが、扉の前で、見張りをしてくれている。ぺたぺたと歩いているのは、罠を探すためだろう。

 

不意に。

 

床が、二枚せり上がって、スペランカーを左右から押し潰した。

 

抵抗する暇も、逃げる隙も無かった。

 

鮮血が飛び散る。

 

スペランカーを潰した床板が、音を立てて崩れる。再生したスペランカーが、頭を振り振り、瓦礫の中から立ち上がった。

 

「痛い。 酷いよ、もう」

 

脆弱な彼女が、このような危険地帯に入って、生還できる理由。海神の呪い。

 

不老不死を得る代わりに、能力に著しい下方修正が掛かる。それだけではない。死亡時に身体を欠損した場合、悪意ある攻撃によるものであれば攻撃者から、そうで無い場合は周囲から、欠損箇所を補填して再生する。

 

この力を利用して、スペランカーがどれだけアーサーの盾になってくれたことか。今も、文字通り体を張って、露払いをしてくれている。今の罠など、敵を倒したという心理を突いた、最悪のトラップだ。

 

そして、確信する。

 

あのような罠は、前回の魔界には無かった。この先は、全く別物と考えるべきかも知れない。

 

足音がする。二つ。

 

サヤとマッピーか。いや、足音の一つは、大入道という式神。サヤは、大入道に担がれていた。

 

サヤは真っ青だ。一度や二度、戻したのかも知れない。

 

困った話だが、こればかりは叱責したり怒鳴ったりして、どうにかなるものではない。戦士としての自覚など、得ようとして得られるものではない。何かを守ろうとして強くなれるのなら、苦労しない。

 

そうなれる者もいる。

 

だが、そうなれない者の方が多い。

 

それに、ただ戦いを楽しみ、殺しに忌避を覚えない人間が、戦場ではより多くの相手を殺しているという統計もある。高潔な戦士など、実際には戦場にはいらないのかも知れない。

 

いずれにしても、アーサーがどうこういう事では無い。

 

マッピーは不満なようで、敬礼しながらも、いつものキレが無い。動作の一つ一つにも苛立ちが見て取れた。

 

「合流したのであります」

 

「うむ。 早速だが、状況を整理しよう。 後方からの追撃は、いまどの辺りか」

 

「サヤ殿の式神探知によると、既にこの城にまで到着しているようなのであります。 急がないと危険だと、本官は愚考するのであります」

 

「待って」

 

スペランカーが制止する。

 

彼女の優れた判断力は侮りがたい。アーサーも発言を控えて、話を聞くことにした。

 

「この先は、罠だらけかも知れない。 きっとそのまま進むと、挟み撃ちにされちゃうんじゃないのかな」

 

「ならば、追撃部隊を、此処で足止めすると」

 

「ううん、無力化しよう」

 

皆殺しにすると言わないのが、スペランカーの良心か。そう思ったのだが、スペランカーは違うことを考えているようで、そもそもまず意見を求めてくる。

 

最初にどうするべきか聞かれたアーサーは、常識的な事を敢えて言った。

 

「確かにこの適切に広い空間であれば、近代兵器で武装した集団を迎え撃つには適切であるな。 しかも奇襲を受ける心配も無い」

 

「アーサー殿の大威力の魔法で、一網打尽にできるのでは」

 

「確かに」

 

サヤにも、スペランカーは意見を聞く。

 

蒼白になったままのサヤは、よほど酷い精神的なショックを受けているのか、まだろくに喋れない様子だ。

 

ここに来るまで、アーサーは相当な数の敵を倒してきた。

 

中には死体が原型をとどめていないものもいる。魔物の中には、人間に近い姿をした存在も少なくないから、慣れていなければ精神的にダメージも受けるだろう。ただ、戦う事が生業である以上、いつまでもそれでは困る。

 

「サヤちゃん、ごめん。 つらいと思うけれど、作戦会議をしよう?」

 

「……」

 

口を押さえたまま、サヤがゆっくり頷いた。

 

スペランカーが背中をさする。サヤはスペランカーよりは少し長身だから、何だか不思議な光景である。

 

「この先にいる、ええと何か怖い存在と、話をする事は、できないでしょうか」

 

「そういった話をするなら、相手と対等な状況にならないと、無理だよ」

 

実際に、その通りだ。

 

此処で言う話とは、相手との和平交渉や、休戦条約についてだが。そもそも、圧倒的に有利でその気になれば此方を鏖殺できる(と考えている)相手が、無条件降伏以外の話を聞くはずも無い。

 

勿論実情は違う。

 

これだけの戦力があれば、まけることはまず無い。

 

相手に対能力者のスキルを持つ魔術師がいれば話は別だが、事前に調べてみたところ、I国のテロリストに関係が深い魔術師はいないし、力を貸している魔術結社も存在しない様子だ。

 

或いは、Kの手の者か。

 

それならば激戦を覚悟しなければならないだろうが、追撃の手並みを見る限り、そうとも思えない。

 

もしそもそもこの魔界の者達と何かしらの契約をしているのなら、待ち伏せなり、抜け道を使った先回りなり、取るべき手はいくらでもある。してこないのは、単純にできないから、と見るのが正しいだろう。

 

「どうすれば、そうなりますか」

 

「最低でも武装解除はしないと駄目だろうね。 指揮官を人質に取る、位だと戦意を喪失しないかも」

 

「……もう、すぐ近くまで、来ています」

 

どうやら、休息は此処までか。

 

マッピーが、後方の扉に向けて、銃を構える。

 

床を爆弾か何かで吹き飛ばしてくる事を警戒する必要も本来はあるが、今の状況では無い。この城の床板の分厚さは尋常では無く、多少のプラスティック爆弾程度ではびくともしないからだ。素材も未知のものであるし、多分爆弾などでは効果を示さないだろう。

 

つまり、あの扉から来るしか無い。

 

「サヤちゃん、追撃してきている人達の、できるだけ詳しい情報をお願い」

 

「銃を持った人達が、十二……十七人。 みんな、とても厳重に武装しています。 一人、違う姿の人が。 女の人です。 私と同じ年くらいの、厳しい表情の。 学生服で、銃も持っていません」

 

「ほう……」

 

十中八九能力者だ。

 

問題は、どういう存在か、という事である。魔術師か、そうでないかを見極めるだけでも、随分違う。

 

大入道が、不意に動く。

 

アーサーが飛び退くのと、サヤが突き飛ばされるのは同時。

 

地面から噴き出してきた茨が、大入道を吹き飛ばし、天井に叩き付けた。くぐもった悲鳴を上げた大入道が、実体を失うのと、床に空いた穴から女が姿を見せるのは同時だった。しかも、最初巨大な球体状の植物が姿を見せ、それが花開くように開いて、其処に女が立っていたのである。

 

ブレザースタイルの制服を着ている、艶やかな黒髪をなびかせた女だ。顔立ちはかなり整っていて、異常に鋭い目つきさえどうにかすれば、モデルでもやっていけるかも知れない。かなり背も高い。

 

手配書で見覚えがある。

 

確かKの所の部下の一人。通称、パックンフラワー。

 

植物を操る能力を持っていると聞いていたが、今はどう見ても、最初植物が空間に穴を開けて現れたように見えた。

 

同時に、入り口から鋭い射撃音。音からして、突撃銃によるものだろう。最初はスタングレネードが来るかと思ったが、後方から来ていた集団と女は相当な癒着があるのか、或いは直接の部下なのか。そういうわけにはいかなかったのだろう。

 

盾を作って銃弾を防ぎつつ、アーサーは叫んだ。

 

「マッピー殿!」

 

「任せるのであります!」

 

スペランカーが走り、サヤを助け起こす。

 

パックンフラワーは、鼻を鳴らすと、冷酷な光を目に宿した。サヤと同年代だが、根本的に違う。

 

この女は、徹底的に訓練を受けた、本物の戦士だ。

 

それが本人にとって幸せかどうかは、今この場では関係が無い。手を抜けば、負けるとみて良いだろう。それも当然で、アーサーが知る限り、この女は世界的に手配されている超一流の能力犯罪者である。

 

「随分疲弊が激しいようね。 私みたいな子供に隙を突かれるようじゃあ、伝説の騎士様が聞いて呆れるわよ」

 

テロリストが手榴弾を使ったのか、盾が大きく揺動する。

 

向こうは、マッピーに任せるしか無い。アーサーは剣を抜くと、定距離を保ちつつ、サヤに何かささやいているスペランカーを横目に言った。

 

「名高いKの麾下四天王の一角が、このような田舎で何をしている?」

 

「あら、知っていてくれて光栄よ。 サー・ロードアーサー」

 

「パックンフラワーと言ったな。 先代は少し前に引退したと聞いているが」

 

「その名前で呼ばないでくれる?」

 

女の声が、一オクターブ低くなった。

 

この女の先代は、文字通り毒婦というに相応しい存在であったらしい。妖艶な色香を纏い、潜入しての暗殺、ハニートラップ、何でもありだったそうだ。特殊能力の使い手としても凄まじい技量であったが、あくまで楽をして簡単に仕事をこなす。それがモットーだったとか。

 

勿論、Kの愛人だったという説もあるという。

 

一方で、能力を引き継いでいることで娘かと思われるこの女は、表情さえ整えればモデルになれるかも知れないが、根本的に色香が足りない。髪は艶やかだし長身だが、胸は薄いし、下世話な言い方をすると体型も肉汁が足りない。

 

同じ戦い方は、しないと見て良い。

 

今の能力を見ても、この女は潜入しての暗殺に特化したタイプだ。それがどうして、不意打ちでは無く、真っ向勝負を挑んでくる。

 

何かしらの理由があるのか。

 

否、おそらくは。

 

母に対する反発だろう。

 

疲弊が酷いアーサーと、この女では、実力は五分。しかも、このままスペランカーを行かせるわけにはいかない。

 

しかも見たところ、この女の操る植物の蔓は、スペランカーと相性が最悪だ。サヤを、スペランカーに任せる。

 

スペランカーの判断力は信頼出来る。彼女には、彼女で動いてもらった方が良いだろう。アーサーは剣を抜く。

 

かの名高きエクスカリバーを模して作った彼の誇り。

 

「ふむ、通称が嫌だというのなら、なんと呼べば良いかな?」

 

「送子(おくりこ)よ」

 

「ふむ、では送子殿。 いざ尋常の勝負、受けてもらおう」

 

言葉が終わるか終わらないかの内に、送子の姿がかき消え、大上段からの一撃を叩き込んできた。

 

手には緑色の剣が出現している。

 

おそらくは、植物を操作して作ったものだろう。これほどの速度で、剣を作るほどに自由自在という訳だ。

 

軽く一撃をかわしながら、足を一歩引く。

 

胴を払う態勢だと、送子は気付いただろうか。アーサーはそのまま、無言で下から伸びてきた蔓を旋回するようにして切り払いつつ、着地して低い態勢から逆袈裟に切り上げてきた送子の剣を弾く。

 

まるで高硬度の金属同士がはじきあったような、澄んだ音が響く。

 

同時に、立ち位置をわずかにずらす。

 

送子が全力で飛び退き、天井に張り付いた。

 

粘性が強い植物を利用しているのか。

 

着地する送子。

 

今のが、アーサーに取って必殺の間合いだと気付いたのだろう。

 

再び、残像を複数残しながら、送子が仕掛けてくる。

 

一刀目の袈裟をかわし、無造作に空いている左手で送子の頭をつかみに行く。送子が、一瞬身を引いて、アーサーの手を切ろうと剣を振り上げた瞬間。

 

アーサーは体を反旋回させて、踏み込む。踏み込んだ位置は、送子の足の間。そのまま、体をバネのように弾かせて、送子に当て身を浴びせていた。

 

もろに吹っ飛んだ送子だが、地面からせり上がってきたマットのような植物の壁が、その体を受け止める。

 

今、直接触れて、送子の身体強度は大体分かった。

 

近接戦なら、百%勝てる。しかし、相手の土俵は、そこでは無い。

 

「……っ」

 

「最初の一太刀で、近接戦では勝ち目が無いと分かっただろうに。 なお挑んでくるのは、搦め手で戦う事を主戦術にしていた先代への反発かな」

 

「知った風なことを……っ!」

 

送子の顔が、まるで夜叉のように歪む。

 

そして、その体を、緑色の鎧が覆っていった。

 

 

 

サヤは、まるで戦いに介入できずにいた。

 

アーサーは丁々発止の名勝負を送子と繰り広げているが、スペランカーが見たところ、勝負は五分。

 

今はアーサーが圧倒しているように見える。

 

だがそれはあくまで近接戦闘での話。

 

スペランカーは、サヤの肩を撫でるようにして、言い聞かせる。

 

「サヤちゃん、聞いて。 今はアーサーさんが押しているように見えるけど、状況は互角だよ。 このままだと、きっと二人とも、共倒れになる」

 

「そんな」

 

スペランカーは、首を横に振る。

 

案の定、頭に血が上った送子は、地面から天井から、それどころか何も無い虚空から、無数の茨を出現させては、アーサーを襲わせている。

 

中距離戦に切り替えたのだ。

 

アーサーはそれらを無言で切り払いながら、送子へ間合いを詰める機会をはかっている。ただ、どちらも、まだ切り札には手を伸ばしていない。

 

だが、そうなったら。

 

アーサーが不利だ。

 

なぜなら、アーサーは疲弊が相当に溜まっている。パワーが必要な切り札を展開するとなると、年齢のこともあって、消耗が著しい今、若い送子との対決では不利になる。しかも中距離戦で送子は、確実に勝ちに行っている。戦術の介在する余地が無い場合、このまま押し切られる可能性がある。アーサーも中距離戦はどちらかと言えば得意の筈だが、弾幕を展開するには体力の余剰が無い。

 

しかも、最悪なことに、送子はそれを読んでいる。

 

その証拠に、全身を鎧のようなもので覆っている。あれは万一の事故死を避けるための行動だ。

 

あまり頭が良くないことを理解しているスペランカーは、それを自分にも噛み含めるように、ゆっくり説明していった。

 

何度か頷いていたサヤは、どうしてか羨望の目で、スペランカーを見る。

 

「それで、今必要なのは、サヤちゃんの手助けなの。 できる?」

 

「はい!」

 

スペランカーは、送子との能力相性が最悪だ。

 

勿論、いざというときに、盾になって割って入ることはできる。だが、拘束されたら、何もできないまま戦いが終わるだろう。

 

激しい銃撃の音が、近づいてきている。

 

マッピーが十人以上の武装テロリストを相手に、入り口近くで大立ち回りを演じているが、徐々に押されている、という事だ。

 

スペランカーが支援に行くなら、あっちである。

 

だが、今は。

 

アーサーのために、一瞬の隙を作らなければならない。

 

「サヤちゃん、どうやってアーサーさんを助ける?」

 

耳打ちされる。

 

最初の案は却下。そんなものでどうにかできるなら、Kの配下の四天王などと呼ばれる存在にはならないだろう。

 

次の案もだめ。

 

三つ目の案を聞いているときに、送子が一瞬だけ此方を見た。

 

アーサーが造り出した巨大トマホークを、無数のつるが絡め取る。続けてアーサーが投擲したナパームが、一気に辺りの植物を焼き払うが、にょきにょき生えてきたサボテンを焼くと、不意に灼熱が納まる。

 

指を鳴らす送子。

 

彼女の左右に、ステレオのようにそびえ立つ花。

 

弾のような種子が、機関銃のように撃ち出された。アーサーが盾を作って防ぎに掛かるが、乱射があまりにも凄まじい。

 

送子もアーサーも、何も言わず、黙々と戦っている。

 

お互い、数手先を読み合いながら、次に備えているのだ。

 

テロリストが一人、マッピーの防御を突破したようだ。スナイパーライフルを、此方に構えてくる。

 

だが、追いついてきたマッピーが、ショックカノンを背中から浴びせる。

 

万歳するような格好で、銃を投げ出して倒れたテロリストを踏みつけながら、マッピーが此方に、視線を送ってきた。

 

あまり長くは、戦線を維持できない、という所か。

 

マッピー自身も、自慢の青い警察服が、ボロボロになっていた。優れた再生能力を持つマッピーだが服までは再生できない。

 

「時間は、もう無いよ」

 

「はい。 これなら、どうですか」

 

耳打ちされる。

 

頷くと、スペランカーは、ダイナマイトを手に立ち上がった。今回渡されている装備の一つだ。

 

とはいっても、国連軍から供与された物資では無い。アーサーが用意してくれたものだが。

 

作る隙は、一瞬でいい。

 

ステレオのようにそびえ立っていた射撃壁が、アーサーが曲射した斧に、両方とも潰される。

 

だが、送子もアーサーを近づけさせない。アーサーが蹴り出した盾を、茨の壁で、柔らかく受け止めてみせる。

 

それだけではない。アーサーが投げた曲刀が、うなりを上げて襲ってきてもまるで怖れず、一つは手元の剣ではじき返し、もう一つはせり上がってきた植物の壁で防いでみせる。確実に、待ちの態勢だ。

 

アーサーの体力を可能な限り削り取り、それから仕掛ける。

 

ダイナマイトを、ズボンの背中に差すと、スペランカーは送子の真横から、彼女に向けて歩き出す。

 

一度だけ、此方を見た。

 

口車には、おそらく乗ってこない。

 

見た瞬間にアーサーが投擲した無数のナイフが、全て植物の壁に受け止められたのを見ると、もう二つ三つ目があるとしか思えない。

 

そのレベルの達人、という事だ。

 

「送子さん。 話を聞かせて欲しいの」

 

「此処は戦場よ」

 

手を軽く、送子が振る。

 

無数の茨が、スペランカーを囲むようにして、床から伸びてきた。予想通りの反応である。

 

スペランカーとしても、送子と話すことを、諦めているわけでは無い。

 

だが、今のタイミングでは無いと、知っていた。

 

アーサーが、とびきり巨大な斧を出現させ、投擲する。

 

それを、地面から生やした大量の蔦で、受け止めてみせる送子。だが、アーサーが指を弾くと、その斧が、不意に光を放って爆裂した。

 

飛び散る破片を、それでも送子は、全て受け止めきってみせる。

 

しかし、その瞬間、スペランカーが動いた。

 

ダイナマイトを取り出してみせると、流石に手を振って、スペランカーを茨で拘束しにくる。

 

しかし、その時。

 

真後ろに回り込んでいた鬼が。

 

拳を固めて、送子に叩き込んでいた。剣を振るって迎撃に掛かろうとした送子が、真横に吹っ飛ぶ。

 

サヤの、第二の式神。

 

炎を放ちながら回転する輪入道が、全力で体当たりを浴びせたのである。

 

横転しながら、それでも跳ね起きる送子。

 

だが、その時には、既に。

 

間合いをゼロにしたアーサーが、のど元に剣を突きつけていた。しかも剣は、スパークを放っている。

 

下手なことをすれば、魔術を発動し、ドカンというわけだ。

 

「く……」

 

茨が、引っ込む。

 

スペランカーが歩み寄ろうとするが、その時。

 

地面から生えてきた草が、送子を包むと、消えた。

 

アーサーが剣を納め、入り口の方を見る。まだ銃撃戦をしているが、マッピー一人でどうにかなりそうだった。

 

「貴様ら頼みのパックンフラワーは、負けを認めて撤退した! 貴様らも引け!」

 

怒号が轟く。

 

動揺したらしい彼らに歩み寄るアーサーが、中空に巨大な斧を出現させると、悲鳴を上げた一人が逃げ出す。

 

それが切っ掛けになり。

 

まだ意識がある敵は、転がるようにして逃げていった。

 

 

 

倒れていた敵は、縛って武装解除する。

 

アーサーが武装解除するのを横目で見ながら、スペランカーは目を覚ました一人を起こして、話を聞くことにした。

 

最初、つんけんした態度だった彼らだが。

 

隣にアーサーが立つと、態度が変わる。

 

それでも口ごもって何も話そうとしなかったが。しかし、根気強くゆっくり聞いていくと、少しずつ、話してくれた。

 

I国には世界的に有名なテロ組織が存在するが、彼らはそうでは無いらしい。

 

どちらかといえば新興の組織で、近年急成長を遂げたのだそうだ。

 

それを可能にしたのには、やはりこのフィールドの存在があった。

 

「予言者が、いるんだ」

 

「予言者……?」

 

「ああ。 生け贄を捧げると、もの凄い高精度で、危険を察知してくれる。 最初俺たちも、E国に漠然とした敵意を持ってる程度だったんだが」

 

その予言者は、捧げる生け贄の数と質によって、より高い精度の情報を公開してくれる、というのだ。

 

最初は動物だった。

 

鳩や犬、猫。

 

だが、予言の質を求めるほど、どんどん要求はエスカレートしていった。

 

それと同時に、出来る事も増えていった。

 

銀行強盗で完全に足がつかずに逃走できたのが、切っ掛けになった。以降は完全に、組織が暴走していくことになった。

 

E国に乗り込んで、テロを何度か成功させたときには、もう取り返しがつかない所まで、来ていた。

 

「へまをした仲間が生け贄にされたとき、お、俺は思ったんだ。 もう、ついていけねえって。 だ、だから、その、た、たた、助けてくれ! もう、嫌だと思ってたんだ!」

 

「お前達が行ったテロで、病院が一つ大きな被害を出したことは覚えているか」

 

「あ、あれは! それに、E国の奴らは! じょ、情報操作だ! 嘘の情報に決まってるだろ!」

 

「残念ながら真実だ。 それに、死んだ被害者の中には、生まれたばかりの乳幼児が二人いた。 乳幼児に、罪があるというような人間の言葉を、我が輩は聞く耳もたぬ。 サヤ殿」

 

頷くと、サヤは鬼に、見張りを命じる。

 

今の作戦で、確実にアーサーのアシストが出来た事を実感できたからだろう。サヤの表情は、以前とは確実に変わっていた。

 

扉を開けると、異常な光景が広がっていた。

 

ねじ曲がった床。

 

有機物のようなもので覆われた壁。

 

それだけではない。触手のようなものが天井からも壁からも生えていて、うごめき続けている。

 

気持ちが悪いが、躊躇している余裕は無い。

 

「アーサーさん」

 

「うむ。 おそらく、この先に、魔界の中心部がある」

 

「おそらく、とは?」

 

マッピーが、違和感を感じたのだろう。

 

アーサーは頷くと、説明してくれた。

 

「此処までの魔界は、以前攻略したものとそっくりだったのだがな。 この光景は、全く見覚えが無い。 おそらくこの先に潜んでいるのは……」

 

其処から先は、謂うまでも無かった。

 

予想は、適中したのだ。

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