オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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4、這い寄る混沌

あの時、アーサーは若かった。

 

フィールド攻略に出向くとき、英雄の血を引く自分ならと、確信していた。

 

生まれ持った能力を、全力で行かせるときが来たと、思っていた。

 

そして、はじめて敵対勢力を見た時。

 

わざを、全力でぶつけた。

 

肉が割かれ、血が飛び散り、内臓がぶちまけられる。地面は血に染まり、殺戮の中で悲鳴と絶叫が醜悪な協奏曲を作り上げた。

 

鎧に大量の返り血を浴びながら、アーサーは悪魔共めと、何度も呟いた。目につく動くものは、全て斬り殺し、打ち抜き、焼き払いながら進んだ。

 

ウェポンクリエイトの潜在能力の高さは知っていた。

 

だから、力を振るうことに、何ら躊躇は無かった。

 

そして、城に乗り込んだ。

 

ドラゴンでも悪魔でも、アーサーの敵では無かった。手当たり次第に殺し、死体の山を積み重ねながら進んだ。

 

だが、最深部まで進んだときに。

 

気付いてしまったのだ。

 

此処がもう一つの世界に他ならず、むしろ侵略者は自分だと言うことに。

 

大魔王は、自ら一騎打ちを申し出てきた。自分が敗れたときには、もはや戦意を無くした者達には、攻撃を加えないように、とも。

 

彼が浚った女性には、そうせざるをえない理由があったことも、明かしてくれた。

 

その時、アーサーは悟ったのである。

 

人間が掲げる正義などと言うものは、独善に過ぎないのだと言うことを。

 

 

 

「我が輩の婚約者は、ある特殊な出身でな」

 

アーサーが、道行きながら話してくれる。

 

話してはくれるが、周囲に警戒はしている。サヤも、さっきまでとは別人のように鋭い表情で、周囲をしっかり見張っていた。

 

「出身が特殊なのでありますか」

 

「そうだ。 通称が姫とされているが、実際には何処かの国のプリンセスというような事は無い。 むしろ我々、フィールド探索者に近しい存在でな」

 

その能力は、存在の固定。

 

大威力の魔術にも相応する、強力なものだと、アーサーは言う。

 

聖なる力、と呼称するようなこともあるが。しかし、それは使い方の一旦。やりようによっては、不安定な世界を安定化させることもできる。

 

この種の、極めて特殊な能力者は、一世代に一人か二人、生まれる事がある、程度のレアな存在だという。

 

かって同種の能力者が、救世主と呼ばれたこともあったそうだ。

 

彼女の生まれについては、アーサーは話してくれなかった。だが、よほど悲惨な身の上であったのだろう事は、スペランカーにも見当がついた。何しろ、アーサーは彼女のことを、滅多に話してくれないのだ。愛していることは良く伝わるのだが、それほど情報が漏れると危険なのだろう。

 

やがて、彼女の存在が、アーサーが魔界攻略に出向く切っ掛けになった。

 

魔界との戦いに決着を付けて、戻ってきたアーサーは、二つのことを説明した。一つは、救出した女性と婚約すること。

 

そしてもう一つは。

 

彼が攻略した魔界はこれから人間界と相互不可侵の存在になること。魔界側からは、フィールド探索者に、人材を供給もする。

 

今、フィールド探索社で働いている営業の男には、こういった供給人材の一人が混じっている。アーサーと魔界で最も凄まじい戦いを繰り広げた存在だとか。

 

ともあれ、はっきりしていることがある。

 

「魔界は、不安定な存在を安定させるために、プリンセスを必要とした、のですか」

 

「そうだ、サヤ殿。 良く理解できたな」

 

「……何だか、少し頭が冴えてきているような気がします」

 

良いことだと、スペランカーは思う。

 

彼女のような若くて未来がある子は、鍛え方次第でいくらでも伸びる。彼女は今回で、大きな自信を付けることもできた。

 

きっと将来は、フィールド探索者として大成するだろう。

 

ただし、それには、まだクリアしなければならない問題が、いくらでもある。

 

纏わり付いてくる触手を切り払いながら、アーサーが言う。

 

「この魔界は、まだ未完成であるな。 更に完成が進むと、住んでいる悪魔達に明確な自我が生じ、独自の知性と文化が創られ、やがて自分たちは何か、どうすれば存在を保てるかと、考えるようになる」

 

「つまり、命ある幻影……」

 

「そうだ。 そして西洋圏に生じる魔界というものは、大体にして、人間が何か「悪魔」に押しつけたい、汚らしい精神的なものが収束した存在なのだ」

 

見て見ぬふりをしたい、だが確実に存在するそれらを、人々は魔界という闇の中に葬り去った。

 

つまり魔界とは、人々にとって、精神的な公衆便所に等しいわけだ。

 

悪魔達が、人間を恨むわけである。

 

話を聞く限り、それでもアーサーと戦った大魔王は、自分が全ての責任を受けて死ぬ事で、非戦闘員や部下達を守った。

 

一体どちらが立派なのか。

 

「アーサーさん。 やっぱり、苦しい?」

 

「そうさな」

 

スペランカーには、分かる。

 

この魔界は、アーサーが決戦の末に、ようやく和解を勝ち取った魔界のコピーだ。それも、極めて醜悪な。

 

つまり、コピーを作り出せ、しかもそれをもてあそび、周囲の人間をも巻き込んで遊んでいる奴がいる。

 

十中八九、その正体は分かっている。

 

人間のたくましいところは、Kのように、そうだとわかりきっていても、ビジネスに含めてくる存在がいる、ということだろうか。

 

パックンフラワーがテロリスト達に協力していたことで、大体その背後関係は分かる。Kはある程度、此処に何が潜んでいるか、知っていたのだろう。それにテロリスト達が魔界の住人に襲われなかったのも、此処に潜んでいる奴にとって、それが利益につながるから、だったのだろう。

 

ぬめりを帯びた階段が、延々と続いている。

 

通路の左右には、明かりが灯されたたいまつが。造りはしゃれこうべに似せてあって、悪趣味極まりない。

 

いけにえか。

 

このたいまつの中には、生け贄にされた人達のものも、存在しているかも知れない。

 

あの骸骨の戦士達も。

 

マッピーが、注意を促してくる。

 

「強い気配があるのです。 本官が最初に」

 

階段の上に、大きな扉がある。

 

多分、敵は逃げたりしないだろう。それどころか、ある種の確信がある。

 

何もかもの糸を引いて、スペランカーを招き寄せたのは。多分、この先にいる奴の筈だ。正直、今でも腹立ちはある。

 

だが、この存在との対話を成功させなければ。

 

何か、途方も無い災厄が起きる可能性が、極めて高いのだ。シーザーに聞いた悪夢の未来を、再現させるわけにはいかない。

 

スペランカーは、コートの端を掴む。

 

ここからが、正念場なのだ。

 

アーサーはしっかり、自分を送り届けてくれた。

 

やりとげなければならない。

 

扉の前は、踊り場になっていた。扉自体も、高さが十メートルほどもある巨大なもので、無数の文様が刻まれている。チャイムのようなものもついていたが、鳴らしても反応は無かった。

 

入り口の取っ手に触れてみて、分かる。

 

いる。

 

この向こうにいるのは、異星の邪神だ。

 

マッピーが扉を開けて、最初に駆け込む。アーサーとサヤが、そしてスペランカーも走り込んだ。

 

其処にあったのは、ただ永遠の、悠久たる闇だった。

 

「ようこそ。 私の領域に」

 

渦巻いている、黒い銀河。

 

中空に浮かぶそれは、蛸のようにも、烏賊のようにも。そして、星々の集まりのようにも見えた。

 

スペランカーは、やはりと呟いた。

 

この強力な気配、間違いない。

 

四元素神最後の一柱。土を司るニャルラトホテプとは、この者のことだ。

 

 

 

アーサーは内心穏やかでは無かったが、それでも敢えてスペランカーのことを思って、黙っていた。

 

この部屋は、闇に覆われてはいるが、分かる。忘れるはずも無い。かってアーサーが大魔王と戦った場所だ。

 

誇り高い大魔王は、アーサーとの一対一での戦いにこだわった。周囲には、まだ部下の上級魔族もいたというのに。

 

アーサーもその誇りを受けて、敢えて一対一での戦いをした。

 

大魔王はカリスマで魔界の頂点に立っていた存在らしく、決して武勇絶倫とはいかなかったが。

 

それでも、最後まで諦めず、勝敗が決しても泣き言一つ言わなかった。

 

あのニャルラトホテプは、此方の行動を誘導するために、様々な人々をもてあそんだだけでは無い。

 

現在、プリンセスが代表者をしている魔界のコピーを行ったあげく、その尊厳を汚したのだ。

 

「君なら、必ず来ると思っていたよ。 クトゥルフの呪いを受けしもの」

 

「貴方が呼び寄せたのに、そういうことを言うの?」

 

「おや、気付いていたのか。 思ったよりも頭は良いようだな」

 

けたけたと、不快な笑い声が響く。

 

流石に青ざめたマッピーがショックカノンに手を掛けようとするが、アーサーが手を伸ばして制止した。

 

マッピーが一言言おうとしたようだが。

 

アーサーの表情を見て、黙る。

 

一番彼奴を叩き殺したいのは、この場でアーサーだと言うことを、理解してくれたのだろう。

 

スペランカーの言葉には、万金の価値がある。

 

それに、おそらくアーサーでは、分かっていてもできないだろう。あの邪神の中の邪神と、和解するなどという事は。

 

「私が、何をしに来たのか、分かっているよね。 ニャルラトホテプさん」

 

「我々と和解の路でも探しに来たつもりなのだろう? ハハハハハ」

 

「笑っていられる? 今、貴方たちは、追い込まれていて、もう後が無いんだよ?」

 

「それがどうかした?」

 

やはり。

 

此奴は、死を怖れていないどころか、それを望んでいる。

 

今まで、アーサーはニャルラトホテプの膨大な資料を見てきた。

 

この異星の邪神は、今まで有形無形の様々な干渉で、人類に関わってきた。敵として戦ったことだけでは無い。希に、戯れに人間に文明の利器を与える手伝いをした形跡も見つかっている。

 

何のために行動しているのか。

 

資料の書き残し手は、いつもそれで悩んでいるのが見受けられた。

 

分からないのは当然だ。おそらく此奴は、本来の目的など、多分今ではどうでも良いのだろう。

 

「やっぱり。 貴方、死にたがっているんだね」

 

「だったらどうする?」

 

「何故、自分で死のうとしないの?」

 

「私達は自死を選ぶ事はできないのさ。 そう作られたからね」

 

これだけ分かれば、充分とも言える。

 

スペランカーは、ブラスターを抜かない。じっと、ニャルラトホテプの一部であろう闇に、視線を向けていた。

 

「もし私が生きていれば、際限なく人類に災厄を加え続けるよ。 君と私の間に、講和など成立しない。 平穏などあり得ないし、対話をする機会がそもそも無い。 私にとって、人間はオモチャだ。 私自身人間をいじくり回すのは面白くて仕方が無いし、何より私の上位者である眠れる白痴が、そう望んでいるからねえ」

 

「そうして貴方を斃すことで、この星にアザトースさんが降臨する」

 

「ほう……」

 

「そしてアザトースさんがもしも倒れることがあれば、この星、いや世界から、異能の全てが消滅する!」

 

スペランカーが、暴露した。

 

沈黙が、流れる。だが、アーサーには分かった。それが、肯定であるという事が。

 

「やっぱり。 そうだったんだね」

 

ニャルラトホテプは、怖れていない。

 

驚いてもいない。

 

ただ、おもしろがっている。だが、その表情が。表情は分からないが、雰囲気が一変した。

 

気付いたのだろう。

 

サヤが、術式を展開していることを。その術式が、外につながっている事を。

 

かってだったら。

 

サヤは、このとてつもない邪神を見た瞬間、恐怖で縮み上がってしまっただろう。身動きも取れなくなってしまったに違いない。それとも、部屋の隅っこで、頭を抱えてぶるぶる震えていたか。

 

だが、今の彼女は。

 

自分が何をするべきか、ちゃんと理解している。そして、行動している。

 

自信がつくことで、人はこうも変わるのか。

 

いや、変わる人間は限られている。サヤがそうだと、スペランカーは見抜いていたのか。中々に、やる。アーサーは、盟友の強さは知っていたが。今日、また一つ感心させられた。

 

「誰に……それを聞かせている!」

 

「あなたの戦略が、根本的に崩れる相手に、だよ」

 

「き、貴様っ!」

 

ニャルラトホテプの声に、本物の動揺が混じる。

 

気付いたのだろう。

 

このフィールドの外に誰が来て、今の会話を聞いているか。

 

そう。

 

スペランカーを此処に呼び寄せた、ニャルラトホテプの目的。それは、ニャルラトホテプとスペランカーが通じたとあの男に思わせることで、決定的な亀裂を生じさせる事。

 

ただでさえ致命的に仲が悪いあの男とスペランカーは、この一件以来完全な対立状態になり、太鼓持ちのマスコミがスペランカーを邪神の巫女などと喧伝しはじめる。

 

混乱の中、その男が。ニャルラトホテプを斃すことで。

 

世界の情勢は、決定的になる。

 

もはや、何もかもが。なし崩し的に破滅へと向かうはずだった。

 

その場に、野太い声が響く。

 

「ふん、そういう事だったか。 くだらん策を巡らせてくれたものだな」

 

空気がびりびりと振動するほどの威圧感。

 

術式を通じて、その男の声が響いてくるだけで、アーサーでさえ緊張を強いられる。

 

そう、世界最強のフィールド探索者。素手で神をも砕きうる最強の男。M。

 

「お、おのれ……! おのれええええええええっ!」

 

どっと、触手を広げて、ニャルラトホテプが躍りかかってくる。

 

スペランカーは、此方を一瞥だけすると、一人、完全に怒りに染まったニャルラトホテプに向け、歩き始めた。

 

此処からは、彼女だけの戦い。

 

そして、彼女だけにできる。痛みを乗り越えた先に、対話を作れるかもしれない、可能性の場所だ。

 

「私を脳筋だった他の邪神共と同じと思うな! 貴様が生まれてきたことを、後悔させてくれる!」

 

「そんなことだったら。 とっくにしているよ」

 

闇が、スペランカーを包む。

 

手出し無用と言われているから、アーサーは何もしない。マッピーにも、サヤにも、手出しはさせない。

 

触手が、うごめき続けているのが分かる。時々、肉片が、外へ飛び散ってくる。だが、アーサーは、何も手出しはしない。

 

信頼をしているからだ。

 

どれだけの時間が流れただろう。

 

ニャルラトホテプが、恐怖の悲鳴を上げる。おそらく、精神攻撃も含めた、ありとあらゆる責め苦を、スペランカーに加えたのだろう。ずっと長い間、彼が知り尽くしてきた人間に対する効果的な攻撃を、浴びせていたに違いない。

 

だが、屈しない。

 

「お、お前、な、何者、何者だ! 何者なんだ!」

 

倒れている裸のスペランカーから飛び離れたニャルラトホテプの全身が、闇にむしばまれはじめている。

 

以前、何度か見た光景だ。海神の呪いのフィードバックダメージが、ニャルラトホテプを侵し始めている。防御できる許容量を、越えているという事だ。

 

スペランカーが、体を起こそうとする。何度か失敗した上で、ようやく、半身を起こす。まだ、目には意思の力がはっきり見て取れる。それを見て、ニャルラトホテプは、金切り声を上げた。

 

「か、解析の必要がある! 何故貴様が、そのような化け物になっているか! 私は知らなければならない! はっきりいう! 貴様はもう、人間では無い! 人間では、あるはずが、ない!」

 

「人間かどうかなんて、どうだっていい。 私は、貴方をこそ、知りたいよ。 ニャルラトホテプさん」

 

「ひ、ひ、ひ……! ひぎゃあああああああっ! 来るな! 来るんじゃ無い! ありえない! ありえないありえないありえない! ありえて、たまるかあああああああっ!」

 

まるで、麺を吸い込むかのような音と共に。

 

空間の穴に、邪神が吸い込まれて消える。

 

アーサーは、最後に残った予備のコートを出すと、スペランカーに掛ける。

 

彼女が、自力で立ち上がるのを見て。アーサーも思う。

 

恐ろしいと。

 

だが、これが、未来への路を、わずかにつなげてもいるのだと。

 

プリンセスがこの場所を見たら、悲しむだろう。大魔王の尊厳を汚したあの邪神を憎むだろう。

 

だが、スペランカーは。己がどれだけの痛みを受けようとも、それでもなお、相手を理解しようと務めている。そして、その謀略を、ついに折った。

 

おそらくは、その心も。

 

あの邪神は、此処から戦略を変えてくるはずだ。Mに知られた以上、そうせざるを得ない。Mとスペランカーの不和をつく形で、破滅を招く事は、もはや不可能だからだ。

 

「帰ろうか、アーサーさん。 マッピーさん、サヤちゃんも」

 

「帰ったら、暖かいお風呂を沸かすのであります」

 

気を利かせて、マッピーが言ってくれたので、アーサーは嬉しかった。ロボットも成長するのだと、よく分かるのだから。

 

サヤは、ついに邪神を退けたスペランカーにやはり羨望の目を向けているようだった。

 

それでいい。

 

その先に行くのは、今で無くてもいい。

 

帰ったら、片付けることは、いくらでもある。

 

この魔界は、ほどなく消滅するだろう。アーサーは、汚されきった玉座の間をもう一度一瞥だけすると。

 

犠牲になり、もてあそばれた者達に。誰知らず、黙祷を捧げていた。

 

 

 

(続)




魔界村のお話、楽しんでいただけたでしょうか。

これが個人的な魔界の考え方の一つではあります。
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