オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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はい今回は忍者じゃじゃ丸くんです。

本シリーズでは時々忍び働きをして活躍している人で、これが主役回となります。

この話では、原作における敵の首魁である鯰太夫を掘り下げ、その裏にあった歴史の闇と忍者がすべきことについて描写してみました。

楽しんでいただければ何よりです。


闇に忍ぶ者
序、影働き


かって、孫子という軍師がいた。正式な名前は孫武というその人物は、現在にまで著作で名を残すに至っている。

 

孫子の兵法書。

 

極めて実用的理論的な兵法書である。後々の時代に至るまで、兵法の基本として珍重されたほどの書物だ。

 

それに、密偵の重要性が記されていることは、あまり知られていない。

 

具体的な戦争を行う際には、まず情報が重要となる。敵を知り、己を知れば、どんな戦いでも勝てる。それは何も、己を精確に把握しろというような、精神論に近いものではない。もっと実利的な思想だ。

 

孫子の思想は、情報を重要視せよ、というものであったのだ。

 

どこの国でも、ある程度文明が発達すれば、密偵や、それに類する存在が生じるようになった。

 

その根源は様々であるが。

 

このJ国では、やがてそれら情報偵察者が、共通してこう呼ばれるようになっていった。

 

忍者。

 

現在でも、忍者は歴史の闇に存在している。

 

ただしその仕事は、戦闘が主体ではない。あくまで殆どの場合、諜報に限られる。派手な戦闘は、あくまで軍隊や、戦闘タイプフィールド探索者の仕事である。

 

忍者の目的は、敵の情報を奪取すること。

 

それは何も、戦う事ばかりが手段ではない。

 

闇を、影が走る。

 

誰にもその存在を悟らせずに。

 

街の明かりが、まるで蛍の火のように輝く中、その男は音さえ立てず、姿さえ誰にも見せず、移動していた。

 

黒装束などは身につけていない。

 

どこにでもいそうな青年。

 

着込んでいる服も、ごく当たり前の、Tシャツにジーパン。顔を見ても、印象が残らないほどに、特徴がない。

 

男の本名は、誰も知らない。

 

コードネームは、闇の世界では、非常に有名ではある。

 

じゃじゃ丸。

 

政府に所属する諜報部隊の中では、トップクラスの実力者だ。軍でも中に入ることが出来ない特殊な危険地帯フィールドを攻略するフィールド探索者としても、名を知られている。

 

じゃじゃ丸は、今、非常に重要度が高い書類を直接搬送していた。ネットを通すなど絶対に不可。暗号化をかけても、今では解読手段が存在しているのである。郵便なども、利用できない。

 

護衛に警察や軍を動かすわけにも行かない、秘中の秘となる書類だ。

 

移動は、迅速に行わなければならないから、用いるのは徒歩だけではない。

 

ただし、公共の交通機関は、自発的にはほぼ使わない。レンタカーなどを用いたり、或いはモーターボートなどの水上手段に頼ることもある。

 

合流地点まで、あとわずか。

 

一端街を抜ける。

 

合流地点を山の中に設定しているのは、その書類が、それだけ危険なものだからだ。襲撃者による攻撃が、容易に想定されるのである。

 

山の中に入ってからが、一番緊張する。

 

じゃじゃ丸はこの手の任務を散々こなしてきたベテラン中のベテランだ。だが、それでも。一瞬の油断で、人は死ぬ。

 

狙撃銃で頭を撃ち抜かれれば簡単に死ぬ。J国本土ではあり得ないが、別の国では猛獣に襲われる危険もある。

 

車にひかれたり、山の中で動けなくなっても、人は命を落とす。

 

そして、じゃじゃ丸は、幼い頃からそれをよく知っていた。じゃじゃ丸を襲名したときには、実例も嫌と言うほど見せられていた。

 

戦いに善悪はない。

 

政府の仕事だからといって、いつも綺麗な内容ばかりではない。人には言えないような、ダーティワークも多々存在している。

 

じゃじゃ丸は、フィールド探索者という側面もあるから、その点で政府に重宝されている節がある。

 

それでも。場合によっては消される事もありうる。

 

全てを信用するな。それが、忍びの基本事項だ。

 

街を離れ、山の中に完全に入った。鬱蒼と茂った森の中で、虫が鳴いている。季節はそろそろ初夏。

 

夜になっても、蒸し暑いくらいだ。

 

指定された地点に到着すると、印を組んで九字を唱える。これは集中するためのものであって、術を使うわけではない。

 

指定の時間になる。

 

待ち合わせの人員が、来た。

 

ショートカットの、小柄な女だ。ピンク色のリュックを背負い、半ズボンという動きやすい格好をしている。顔は童顔だが、胸は大きく。そして、動きを見る限り、超一流の使い手だと一目で分かる。

 

以前一緒にフィールド探索の仕事をした事がある。現在では、一流のフィールド探索者として、名を知られるようになっている人物。

 

海腹川背。

 

川背は時間ぴったりに来た。そして、待ち合わせの今も、全く警戒を緩めていない。

 

「久しぶりですね、じゃじゃ丸さん」

 

「ああ」

 

合い言葉を確認。

 

見た目を信用しないのは、当然のことだ。川背は本人の能力もそうだが、とにかく頭が切れる。

 

料理人とフィールド探索者の両方で一流になっている事からも分かるように、本来頭のスペックが常人とはかけ離れて高いのだろう。今戦ったら、勝てるかは分からない。それくらいに修羅場をくぐり、腕を上げに上げていた。

 

書類の受け渡しをする。

 

川背は少し前から、彼女が心酔しているスペランカーのために、独自で動いている。行動原理は極めて単純だが、頭が切れるので、今ではじゃじゃ丸が情報伝達に関わってくるほどに闇で名を広めている。

 

J国の政府も、今では川背に着目している。

 

アトランティスの事実上の支配者であるスペランカーとのパイプ役として、彼女以上の存在はいないからだ。ただし、じゃじゃ丸が見たところ、与しやすい相手では断じてないが。

 

川背からも、報酬を受け取る。

 

資金がどこから出ているかは分からない。

 

それに、書類の重要度を知ってはいても、中身までは分からない。

 

そして、プロである以上、詮索は御法度だ。

 

「それでは、失礼します」

 

「一つ、追加する情報がある」

 

「……?」

 

すっと、川背が目を細めた。

 

戦闘態勢に入ったのだ。プロ同士のやりとりではあり得ない事だったから、警戒度を上げたのだろう。

 

じゃじゃ丸としても、本意ではないことだ。

 

「次のフィールド攻略作戦で、俺が追加で参加することになるだろう」

 

「……なるほど、分かりました」

 

敢えて言わずとも、川背は理解する。

 

じゃじゃ丸はJ国政府の息が掛かったフィールド探索者だ。それが追加で参戦するというのには、当然意味がある。

 

現在、異星の邪神は非常に混乱していることが分かっている。

 

ついに最後の大物であるニャルラトホテプが、アーサーとスペランカーの前に、決定的な敗北をしたというのだ。その情報はじゃじゃ丸の所にまで来ていて、今こそこの星から邪神共を追い出すべきだという意見も上がっていた。

 

だが、どうしてなのか。

 

最強のフィールド探索者にて、I国の元配管工であるMは動こうとしない。N社も、妙に動きが鈍くなってきていた。

 

鍵を握っているスペランカーも、情報を外に出さない。

 

それがゆえに、今、各国の興味の対象はアトランティスだけではない。ニャルラトホテプ掃討作戦に参加した者達に、熱視線を送っている。邪神を撃破する事のイニシアチブをどうしても取りたいからだ。現在、本当の意味で地球を滅亡させかねない異星の邪神を葬ることが出来れば、それがもたらす国威の発揚は想像以上である。

 

だから、各国は血眼になって情報を集めている。

 

当然、スペランカーと親しい川背も、その有力候補だ。

 

川背に関しては、それを逆手に取って動いている形跡がある。そのため、今回業を煮やしたJ国政府は、わざわざじゃじゃ丸を送り込んだのである。じゃじゃ丸という超一流がわざわざ出張ってきているという事実だけで、牽制になるのである。

 

その辺りのことは、わざわざ説明しなくても伝わる。

 

面倒がなくて大変に結構だ。

 

もっとも、それくらいが伝わらないような頭の人間では、密偵などつとまりはしないのだが。川背は自主的に密偵のようなことをして、しかも成果を上げている。当然、並の密偵よりも腕利きとみて良いだろう。

 

「J国の政府は、かなり焦ってきているようですね。 僕に喧嘩を売ることは構わないですけれど、先輩の周囲に余計なちょっかいを出したら、手段を選びませんよ」

 

「今のところ、その心配は無いだろう」

 

「それなら、いいのですけど」

 

「……」

 

会話は、それで途切れた。

 

どちらからともなく、闇に紛れて消える。

 

街に出ると、ようやくじゃじゃ丸は気配を周囲に見せた。ただし、他の人間がいるときに、じゃじゃ丸がリラックスすることはない。

 

携帯電話が鳴る。

 

連絡用に使っているものだ。高度なセキュリティが掛かってはいるが、さほど重要度が高くない情報交換の時のみに使っている。

 

「俺だ」

 

「川背との接触は」

 

「上手く行った」

 

「ならばいい」

 

通話が切れる。

 

向こうも、足下から固めていくつもりなのだろう。

 

それにしても、気になる。ニャルラトホテプに致命打を与えたというのはあのMの言葉だが、それはどういう意味なのだろう。

 

スペランカーの使う武器は、確か神的存在に一撃必殺の効果を持っていたはずだ。何故、死んだでは無く、致命打なのだろう。

 

実際問題、クトゥグアやハスターの時は、死んだという表現を使っていた。

 

勿論これくらいの疑念は、J国政府も抱いているはずだ。表だって詮索することは出来ないが、理由を推測しておくのは、生き残りのための当然の処置である。

 

一度、隠れ家にしているアパートに戻る。

 

外国人の労働者が入っているような安アパートで、いつでも引き払うことが出来るのが魅力だ。当然、実家は別にある。

 

先ほど川背に言及した任務まで、まだ一週間ほど時間がある。

 

横になって、思索を巡らせていると、プライベートで使っている方の携帯に着信があった。

 

この電話は、ごく限られた人間にしか、アドレスを教えていない。

 

着信したメールを見て、呻く。

 

面倒な相手だったからだ。

 

連絡しろと、メールには書かれている。相手は、知鯰(ちねん)と呼ばれる一族の、当代の末裔だ。

 

じゃじゃ丸の一族とは、江戸時代からの因縁がある相手である。特に初代は、非常に強烈な因縁があり、激しい戦いを何度も行った。

 

多くの場合二つの一族は敵対していたが、時には手を結び、血を交換し合った事もある。明治維新の時に仲違いし、激しくやりあって多くの血を流したが、それは互いの一族の戦力を削ぎ合うだけに終わった。

 

今では小康状態のまま、双方とも政府系の組織に属している。ただし、じゃじゃ丸の一族が影働き主体なのに対して、知鯰の者達は科学者として政府に貢献しているが。電話をして来たのも、16で米国の大学に留学し、戻ってきてからも政府機関の研究所で主任を務めている奴だ。

 

絵に描いたような才媛だが、性格は極めて悪く、幼い頃から良い印象を抱いたことはない。いわゆる幼なじみなのだが、当然恋愛感情などあるわけもない。

 

じゃじゃ丸の一族と知鯰の一族の隠然たる対立もあって、家族の中にも、悪印象を抱いている者が多い様子だ。

 

メールの着信時間がすぐ前だと言うことを確認して、電話をする。

 

外に声が漏れないように、声量を調整する訓練は幼い頃からしている。

 

「おっと、珍しいわね。 電話を返してくるなんて」

 

「何用だ」

 

「次のフィールド攻略任務、あんたも出るんでしょう? 私も後方支援することになったから、よろしく」

 

「……」

 

嫌だけれど、露骨にそうだとは言えない。

 

知鯰の一族は、影働きに徹しているじゃじゃ丸の一族とは、比べものにならない資産を蓄えている。

 

かの有名な初代服部半蔵は、子孫達に忍び働きをやめて侍になれと言い残したと言うが、まさにその通りである。徳川家康に仕え、数々の功績を残したかの二代目服部半蔵でさえ、大名にはなれなかったのだ。

 

知鯰は元々器用な一族で、発明や技術の開発にも実力があった。明治維新の時に影働き用の人材を根こそぎ失ってから、連中は方向転換したのだ。そして今では、政府お抱えの科学者として、有用な人材を何名も出している。

 

そいつらの出した特許で、知鯰は歴代随一と言われるほどに資産を蓄え、じゃじゃ丸の一族とは格差が開く一方だった。

 

「お前が出るって事は、また邪神がらみか」

 

「そうよ。 聞いてなかったの?」

 

「直接はな」

 

「ふん。 まあ、今回はあのスペランカーが出るらしいから、あんたは露払いが主体でしょうよ」

 

しばらくくだらない話をした後、知鯰のは言う。

 

「それであんた、大丈夫なの?」

 

「何がだ」

 

「あんたの能力、体の負担が大きいんでしょ? 先代もそれで現役を引退したって聞いてるけど」

 

「幼い頃から、備えはしている」

 

徹底的な鍛錬で体を鍛え上げ、精神も錬磨し、常人では比較にならないほど力を付けてきたのは。

 

代々伝授されてきた、「邪々」の力の負担に耐えるため。

 

先代は、正確には父ではなく叔父だ。引退は三十三歳だったが、体はその時、既にボロボロになっていた。当然子孫など作れる状態にはなく、後進の育成さえ無理だった。

 

じゃじゃ丸の名を継ぐ者は、当主であると同時に、一族の使い捨てだ。

 

代わりもいる。最大の稼ぎ頭であると同時に、忍びほど事故が多い仕事もない。戦死することも珍しくない。

 

おそらくじゃじゃ丸の名は、直接の子孫には継がせられないだろう。

 

「引退するんなら、私が便宜を図ってあげるんだけど」

 

「まだ、その気は無い。 それにしても、いきなり、何だ」

 

「……何でも無い」

 

ぶつりと電話を切られた。

 

分からない奴だ。

 

ただ、体に不調が出始めているのは事実である。じゃじゃ丸は鍛えているとは言え、所詮凡人の域を超えていない。

 

初代のように、この能力を使いながらも生涯現役、というような怪物的な存在では無いのだ。

 

横になると、再び思索に戻る。

 

生き残ること。それが、忍びにとっての、最も重要な任務の一つ。そのためには、雇い主さえ、時には疑わなければならなかった。

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