オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
特定作品を題材とした話ではありません。
今回は、このオールドアクションゲーム二次創作シリーズに登場するクトゥルフ系神格の主神。
アザトースがどのようにして誕生して、どのようにして宇宙の中心に座する存在となったのかの話です。
シナリオの中枢に関わる内容です。
序、そのものの名は
もしも、世界に平和が満ちたのなら。
皆が幸せになったのなら。
優しい性格のものなら、誰もが考える。勿論、それを純心に、大まじめに実行しようとする大人もいる。政治の最終的な目的は、それだと考えて、終生を過ごした偉人もいることだろう。
普通の人間では入ったら最後、生還が叶わない地獄、フィールド。そこを攻略する事を生業とする者を、フィールド探索者と呼ぶ。多くは特殊能力を備えているフィールド探索者の一人であるスペランカーは、言葉を反芻しながら、意味をじっくり考えていた。元々、スペランカーは海神の呪いと呼ばれる非常に厄介な特殊能力に身を包まれており、十代半ばの年齢固定と不死という強力な特性を得る代わりに、身体能力などが著しく低下している。頭脳活動は、さほど得意ではない。
だが、それでも此処は、考えなければならない。なぜなら、スペランカーはようやく、どうしてもコミュニケーションが出来ないだろう相手と、和を結ぶことが出来たのだ。それが偽りの結果に終わらないように、此処は慎重に動かなければならなかった。
スペランカーは、階段をゆっくり下りていく。
後ろには、まだ足や手に包帯を巻いている、後輩の川背。前回のフィールド攻略で、戦闘面における主力として激しい戦いを演じた彼女の負傷は、いまだ癒えきっていない。しかし彼女には、どうしても側にいて欲しい。もっとも頼りになる相手だから、というのもある。だが、スペランカーも、今回ばかりは不安なのだ。
近年、この世界を騒がす異星の神々とは、何者なのか。
それを知る事は、どういう意味を持つのか。
最初に異星の邪神の雄であり、何度となく交戦したニャルラトホテプの。スペランカーに降伏したそのごく一部である分身体に告げられたのは、世界の平和を願う者がいたら、という言葉だった。
絵空事だとは思わない。
むしろ、とても立派な考えだと思う。
でも、スペランカーだって知っている。この世にはおぞましい悪意も、たくさんたくさん満ちている事を。だから、それはとても苦難の道になる。心優しい人ほど、きっとつらい思いをするはずだ。
本気で、世界の平和と幸せの充足を願う人がいたら、スペランカーは支えてあげたいと思う。
だが、そうは思わない人が、たくさんこの世にはいる事も事実だ。
此処は、アトランティスの最深部。かってスペランカーが仲間達と異星の邪神を打ち倒し、奉仕種族を解放した、移動する大陸だ。宇宙船としての機能も備えているらしい。
この浮遊大陸に古くから住んでいた奉仕種族の長老達さえ知らない、秘中の秘となる場所。スペランカーが取り込んだニャルラトホテプの一部は、そこに秘密があると言った。それを聞いて具体的な場所を教えてくれたのは、今スペランカーのヘルメットの上に器用に乗っている、邪神アトラク=ナクアだ。今では手のひらくらいの大きさしか無い蜘蛛の姿をした彼女は、時々指示を出して、スペランカーを地下へ地下へと導いていく。
「何度も言うが、私も此処については、全てを知る訳じゃあないからね。 そもそも此処は私の住処じゃないし、たまたま会話する事になった他の邪神からの又聞きでしか知らない。 それに、そんな重要なものが此処にあったというのは、初耳だ」
「それでも、分かる事は出来るだけ教えて」
「ならば構わないけれど……」
アトラク=ナクアが懸念しているのは、スペランカーの中にいるニャルラトホテプの一部のことだ。
間諜では無いかと、疑っているのだろう。
同じ疑いについては、川背も抱いている様子だ。
階段を下りると、おそらく魔術によって点った煙の出ないたいまつが、延々と連なっている通路に出る。
壁は石では無くて、セラミックのような素材だ。川背が継ぎ目を確かめているのは、いざというときに機動戦が可能か確認しているから、だろう。壁の幅は五メートルほど。あまり広くは無いし、逃げ場所も無い。
この大陸は、一種の宇宙船だという話だが。この壁を見ていると、納得できる。土を深くまで掘り返すと、きっともっと科学的な構造や、光景を見ることが出来るのだろう。
通路はゆっくり下っている。
既に、三時間以上も歩き続けていた。階段もかなり下りた。帰りが大変だが、それ以上に、この先にあるものを、見るのに苦労しそうだ。
「川背ちゃん、どう思う?」
「進んだ技術の産物ですね。 機動戦は出来ますが、戦闘はできるだけ避けた方が無難でしょう」
「何かいるの?」
「生物の痕跡があります。 重要な場所だとすれば、守護者をおいていない筈もありませんから」
それはもっともだ。
階段は直線で、周囲のたいまつも明々と燃え上がっている。天井を見上げるとかなり高いが、それでも二十メートル以上は無いだろう。
少しずつ、暑くなってきた気がする。
一度キャンプを張ることにした。川背と一緒に作業をするが、相変わらずスペランカーは不器用なので、三倍は時間が掛かってしまう。川背はゆっくりやっているようなので、余計自分に苦笑いしてしまう。
「二時間ほど、交代で眠りましょう」
「うん、アトラク=ナクアさんもそれでいい?」
「ありがとう。 だが、私に眠りは必要ないよ。 あんた達だけで眠りな」
寝袋を出して、中に入って休むことにする。
今の時点では、まだ危険には遭遇していない。川背が周囲にトラップを仕掛けているが、相変わらず巧妙で、分かっていても引っかかりそうだった。
交代で休んで、その間に食事も取る。火は使えないので、川背の料理を食べることが出来ないのが残念だ。缶詰で済ませる。
長老達は、今回もついてくると言った。せめて露払いの人員を出すことを、許して欲しいと。
だが、どのような危険があるかも分からないし、アトランティスには問題が山積みなのだ。
誰も、失うわけにはいかない。
休憩を済ませると、更に深部へと進む。迷宮状の構造になっていないのだけが幸いだ。きっと、ここに誰かが来ることを、想定していたからだろう。
「先輩」
川背が足を止めた。
人影がある。とはいっても、背丈だけでも六メートルくらいはありそうだ。顔も体つきも、人間にはあまり似ていない。とてつもなく巨大で、手には槍のような武具を持っている。
見ると、アトランティスの主要種族の一つである半魚人達と同じような姿だ。ただし、単純に大きい。
間違いなく、川背が言っていた、此処の守護者だろう。こんな狭いところに、ずっとずっと一人でいたのか。
近づくと、槍を構えてくる。
「lkasdjfpodassdlfphmdpajgsgoifhjlskjfhvalhivhb」
聞き取れない言葉だ。
アトラク=ナクアが、訳してくれた。
「ここから先は、通さない、だと。 どうするね」
「通訳は出来ますか」
「出来るけど、どうなっても知らないよ」
丸腰である事を見せるが、守護者は警戒を解かない。目の光もとても強く、歴戦の武人である事は明らかだ。
スペランカーは、相手のことを尊重したいと思う。
こんな所にずっと命令を馬鹿正直に聞いて閉じこもって、などという理屈は非道だ。この人は、忠実に命令を守って、此処で大事な仕事に就いていたのだ。それはとても強いプロ意識と、磨き抜いた精神が無いと出来ないことだ。
「私は、スペランカー。 今、このアトランティスの代表をさせていただいています」
「確かにお前には、神々の力を感じる。 内部に複数。 一体どうやったのだ。 お前はこの星の原住民族に見えるが」
「詳しい話は、いずれ。 この先にある、世界の果ての情報を、閲覧しに来ました。 許して貰えませんか」
「……しばし待て」
じっとスペランカーを見た後、守護者の人は、きびすを返して奥に。
他の人がいるとは思えない。だが、しばし待たせてもらった。
一時間もしないうちに、守護者の人が戻ってくる。手には何かよく分からない機械を持っていた。
「確かに、ザヴィーラ様は既にみまかられ、そなたがこの島の支配者として認められている様子だ。 確認した」
「通して、もらえますか」
「私の使命は、此処を守護する事だ。 進むがいい」
物わかりがいい人で助かった。
あの機械は何だろう。通信装置か何かだろうか。だとすると、誰と話していたのだろう。少し疑問はわいたが、奥には広い空間があって、その中央に、巨大な円形の機械が鎮座していた。
守護者は、あの通路でずっと待っているのだろうか。
「川背ちゃん、あの人、外に出られるかな」
「途中の通路を見る限り、体がつかえることは無さそうですけれど。 命令を解除できるかは、分かりませんよ」
「どういうこと?」
「長老達の態度を、不審に思ったことはありませんか? あの人達は、基本的に奉仕種族なんです」
特定の条件を満たした相手には、逆らえない。
スペランカーのことを慕っているのは、その力を行使しないから。もしもスペランカーよりももっと強力な影響力を持つ神格がアトランティスを乗っ取ったら、彼らはたちまちに反旗を翻すだろう。
そう川背は断言した。
「勿論彼らは先輩に逆らうことを嫌がるでしょうが、それでも彼らにとって、上位者の命令は絶対なんです。 何度か話してみて、その説が事実なのは確認済みです」
「そう、なの?」
「残念だけどそうだよ。 以前には、奉仕種族の反乱が、別の場所で起きたことが何度もあってね。 私達の中では、奉仕種族を作る時には、まず絶対に逆らわないようにする事が、前提条件なのさ」
そういえば、長老達も、このアトランティスを支配していたザヴィーラに漠然と守護を命じられていたから、最後に戦う際に横やりを入れなかったのかも知れない。通してくれたが、それが精一杯の行動だったのだろう。あの時ザヴィーラが長老達に、死を賭してスペランカーを止めろと命令していたら。
頭を振る。
そんな酷いやり方。
だが、人間も、今はロボットに似たような事をしている。結局の所、知的生命体なんて、どれも同じ事を考えるのかも知れない。
「悲しい話だね」
「今は、それについて議論しているよりも、先に確認することがあります。 アトラク=ナクアさん」
「ああ、分かっているよ」
円形の機械には、多くのボタンが付けられている。
これがコンピュータに近いものなのだろう。アトラク=ナクアに言われるままボタンを押していると、立体映像が浮かび上がる。
複雑な文字列に囲まれるようにして、小さな惑星らしい映像が現れた。
「これは?」
「ふん、あの性悪、本当のことを言ったようだね。 この星は「宇宙の中心」。 此処から座標で言うと二億光年ほど離れている場所にある、かってもっとも先進的な文明が栄えた星さ。 もっとも、この宇宙とは次元が違う別の宇宙、平行世界に存在したんだけどね」
「アトラク=ナクアさんたちの、故郷?」
「広義で言えばそうなるね。 皮肉な話で、この星も、かっては地球と呼ばれていたのさ」
それは、皮肉極まりないかも知れない。
此処が、ニャルラトホテプさんの言った、みんなの平和を願った人がいた星なのだろうか。
データが出てきたので、アトラク=ナクアさんが解説してくれる。
それを、更に川背が説明してくれた。
「地球よりやや小型の惑星ですね。 恒星からの距離は若干地球よりも離れているみたいです」
「やっぱり、懐かしい?」
「思い出したくも無い星さ。 此処に今いるやつごと、消し飛ばしてやりたい」
今も、そう思っているのか。
嘆息すると、スペランカーは、データの吸い出しをはじめた。
もしも、コミュニケーションを取るにしても。
或いは、戦いの中で、互いを滅ぼし合うにしても。
ニャルラトホテプの知識を得た今は、出来るだけ後者はとりたくない。可能な限り、前者を採用したい。
いずれにしても、此処の情報は重要だ。
川背が、カメラや様々な機器を操作して、情報を素早く回収してくれる。だが、それでも二時間以上は掛かった。
全てが終わったときは、汗だくになっていた。
此処は、とても暑い。
或いは、この機械が熱を発しているのかも知れない。
「この機械を、持ち帰ることは出来ないの?」
「そりゃあ無理だね。 これはあんた達が言うマザーコンピュータみたいなもんで、このアトランティスの中枢機能と直結してる。 操作系はもっと上の方にあるけれど」
おそらく、スペランカーが以前長老に見せられた、アトランティスをコントロールするシステムがそれだろう。
川背が付け加えてくれる。
つまり、コントロール部分はパソコンで言うキーボードやディスプレイ。此方が本体なのだと。
それである程度納得がいった。
不意に、映像が出てくる。
人間そのものだ。多分、見かけだけならスペランカーと同じ、十代半ばくらいだろう。おかっぱ頭の、セーラーのような服を着た、純朴そうな女の子である。少し肌の色が違うが、人間との相違点はそれくらいである。触角が生えていたり、目が三つあったりするような事も無い。
「収斂進化ですか?」
「嗚呼、此処ではそう言うんだったね。 そうだよ。 多少体内の構造には違う点もあったけれど、今映ってる星の原住民さ」
川背が分からない言葉を言ったので、後で説明してもらおうと、スペランカーは思った。だが。それを忘れるほど、衝撃的なことを、アトラク=ナクアが言う。
「此奴が、宇宙の中心にいる白痴の神だよ」
「……!」
「そしてニャルラトホテプの奴が言っていた、全ての幸せを願った存在さ」
アトラク=ナクアが、心底から不愉快そうに言う。
この場にいたら、噛み裂いてやるとでも、言わんばかりの迫力だった。
どうみても普通の女の子だ。一体何がどうして、この女の子が、宇宙の中心に存在する究極の邪悪、などと呼ばれるに至ったのか。それに、以前アトラク=ナクアの住処で見た、宇宙の中心に座する神という存在の像は、見るもおぞましい触手の塊のようなものであったはず。
分からない。
ただ、スペランカーは。どうしてそんな悲劇が起きたのか。知りたいと思った。