オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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アザトースの物語。

それは宇宙のルールと密接に噛んだ存在にして。

もっとも宇宙で罪深い所業の生きた証拠です。

その詳細を知るときが来ました。


1、滅びの星

必要な限りの情報を収集して、帰路につく。

 

守護者の半魚人にスペランカーが話すと、幸いにも納得してくれた。上位者の命令には従うしか無い、という風情であったが。

 

ただ、此処が最高機密で、誰かを安易に入れてはいけない場所である、というのも、事実だ。

 

「これからは、交代で見張りをしてもらうから。 だから安心して大丈夫だよ」

 

「分かった。 それにしても、外に出るのは、一体何年ぶりになるのだろう」

 

感慨深そうに、巨大な半魚人の守護者は言う。

 

帰路で、話をいろいろ聞いてみる。元々とても大きく生まれた守護者は、周囲からはあまり良く思われていなかったそうだ。

 

当時のアトランティスの管理者であるクトゥルフという神格も、便利そうだという理由だけで、守護者を通路に配置したらしい。

 

だから、スペランカーのお父さんがそのクトゥルフと相打ちになったという話をすると、別に不快そうにはしなかった。

 

「外に出たとして、居場所は、外にあるのだろうか」

 

「大丈夫だよ、きっと」

 

多くの種族が暮らすアトランティスには、今重異形化フィールドで暮らしていた種族も集まりつつある。様々な姿形の者がいるのだから、居場所は、人間しかいない土地よりはずっと作りやすいはずだ。

 

随分長い時間歩いて、通路を抜けて。

 

ひたすら続く階段を、時間を掛けて上がりきると。

 

ようやく、外につながる、朽ちた神殿に出た。神殿の中で、幾つか複雑な操作をして、通路を切り替えて、やっと外に出られる。

 

既に、夜になっていた。

 

長老達は、外で待っていてくれていた。スペランカーの養子であるコットンはもう遅いので、眠らせたという。

 

彼らに守護者を紹介して、住処や仕事について、手配してもらう。

 

川背はやりとりを横目で見ながら、アトラク=ナクアを持ち運んでいたノートPCの上につまんで乗せた。

 

「先輩、僕は先に戻って、データの検証をします。 先に休んでいてください」

 

「無理はしないでね、川背ちゃん」

 

「大丈夫ですよ。 僕は専門家じゃありませんから、解析班の指揮を執るだけです」

 

それが不安なのだけれど。

 

そういっても、実際の問題。川背は、スペランカーに見せる笑顔と、周囲に向ける表情が、全く違うからだ。

 

他人に対しては非常に厳しい。一方で、川背自身に対しては、特に厳しい。それを、スペランカーは知っている。厳しい姿勢は強いプロ意識から来る物だが、同時に大きな負担が心身に掛かっている。彼女はスペランカー同様、まともな青春時代を送っていない。むしろ、思春期を抜けてからの負荷は、スペランカーよりも大きかったのかも知れない。

 

大事な後輩である川背は、いつも大きな枷を自身に掛けている。そのことを、スペランカーはここのところずっと気に病んでいた。

 

不安になった事を察してか、長老は耳打ちしてくれた。

 

「大丈夫、儂の部下達が既に準備を整えておりますので。 川背様の負担は、最小限に抑えられるはずです」

 

「お願いね」

 

「分かっております。 川背様は、スペランカー様の大事な御戦友でありますゆえ。 我らにとっても、最大級の敬意を払わなければならない賓客です」

 

周りが支えてくれるなら、大丈夫だろう。

 

一度家に戻る。歩き方のコツは随分前に掴んだとはいえ、今日は相当な距離を歩いた。早めに帰って、美味しいものでも食べたい。そう素直に、スペランカーは思った。

 

 

 

翌朝。

 

早朝から、来客の知らせが入る。まだコットンは寝こけていて、電話の音がしても嫌そうに寝返りをうっただけだった。

 

今、スペランカーはアトランティスの中心として使われている中央神殿に住むのでは無く、やっと自身の家を作ってもらった所である。とはいっても、ただ働きさせたのではなくて、今までのお仕事のお給金から、適切な代金を払って建ててもらった。

 

スペランカーの新しい住処は神殿のすぐ側の空き地に作ってもらったこじんまりとした家で、小さくて外観も可愛い。

 

スペランカーとコットンが暮らして、来客がたまに来るくらいには丁度良い広さだ。

 

一応IT環境も配備してあるのだが、難しくて操作方法はよく分からない。スペランカーが覚えるより、コットンが使いこなす方が早そうだ。コットンは元々頭の出来がかなり良いらしく、覚えるのも早い。いずれスペランカーよりも、名の知れたフィールド探索者になるかも知れない。

 

義理とは言え娘が自分を越えてくれれば、これ以上嬉しい事も無い。

 

「早朝からすみません。 突然のお客様でして」

 

「誰……?」

 

「M様です。 かなりご機嫌が悪い様子でして、可能な限り急いで来ていただけると助かります」

 

「えっ!? わ、分かった。 すぐに行く!」

 

思わず、むせそうになった。

 

言うまでも無く、Mは世界最強のフィールド探索者である。無数の能力を有しており、その戦闘能力は絶大。史上最強という声さえあるほどの人物だ。

 

Mの事だ。ひょっとして飛行機など使わずに、自分の力だけで飛んできたのかも知れない。あの人なら、やりかねない。

 

すぐに準備をして、神殿に出る。Mは既に神殿の中に来ていて、来客室のソファで傲然とふんぞり返っているそうだ。

 

川背が応対しているという事だが、あまり長くは待たせられないだろう。苦手な相手だが、それはお互い様。それに何より、今は協力して、この事態に当たらなければならない。

 

応接の間では、予想通りと言うべきか。

 

筋肉で全身を覆ったMが、ソファの背に両腕を引っかけて、傲然と足を組んでふんぞり返っていた。その巨体が故に、三人掛けのソファが、まるで子供用の椅子のようである。向かいに座っている川背が話をしていたが、Mは鼻を鳴らして、一触即発の雰囲気だった。川背の少し後ろに控えている半魚人の長老はそわそわしている。護衛らしい腕利きが二人ついているが、いざ決裂となったら、Mに勝てる訳が無いからだ。

 

川背がMを嫌っていることは知っている。慌てて、スペランカーは居間に入って、一礼した。

 

「おはようございます」

 

「おや、これはこれはスペランカーさん。 早朝からすみませんなあ」

 

Mはそんな風に、とても不自然な敬語を使った。

 

前々から聞いてみたかった。どうしてか、Mはスペランカーの敬語で接してくる。しかも、嫌みたっぷりな。

 

だが、怖くて聞けない。

 

「どうしたんですか? こんなに早くから」

 

「なあに、私も独自のルートで情報を得ていましてねえ。 貴方が異星の邪神共に対する情報を入手したとか」

 

眉を、川背が跳ね上げた。

 

流石に情報が漏れるのが早すぎる。半魚人達の間にスパイがいるとは思えない。そうなると。

 

いや、体内にいるニャルラトホテプが、酷いダメージを受けていて、身動き取れない事はスペランカー自身が一番よく知っている。

 

「おほん。 どうして、それを知ったんですか」

 

「内通者がいましてねえ」

 

「それは嘘です」

 

皆に不安を与えたくないから、即答する。

 

一番驚いた様子だったのは、側に控えている長老だ。二人の護衛がわずかに身じろぎしたのは、信頼を感じてくれたから、だろうか。

 

Mはにやりとすると、意地悪なことを言う。まるで、獲物を嬲る肉食恐竜みたいな表情だ。

 

「ほう? まあいい。 嘘ですよ。 私は私で、多くの邪神を叩き潰してきた。 だから、得られるものもある。 そう言うことですよ」

 

「……」

 

半魚人が持ってきた茶を、まるでままごと用のカップのように掴みながら、一口で飲み干すM。

 

それはかなり大きなカップなのだが。Mの大きさが、規格外過ぎるのだ。

 

半魚人も、度肝を抜かれているようだ。

 

「川背ちゃん、解析は進んでいる?」

 

「今、三十五%という所です。 まだ二日はかかるかと」

 

「うん、それなら。 Mさん、聞いての通りだけれど、どうするの?」

 

此処で待たせてもらうと、Mは傲然と言い放った。

 

既に、川背がアーサーや、このアトランティスにいるスペランカーの友人達をかき集めているという。E国最強を噂される騎士アーサーは、単純な戦闘力なら川背以上だろうとスペランカーは見ている、とても強いフィールド探索者だ。川背の次にスペランカーが信頼している戦士であり、現在に生きる本物の騎士である。

 

彼ら全員に、情報を公開するつもりでいたから、スペランカーにして見れば有り難い。だが、Mがこれに加わってくると、話が違ってくる。

 

Mは筋金入りの邪神嫌いで、今スペランカーの中にいる者とは別のニャルラトホテプ分身体が漏らした、世界の秘密。四元素神と呼ばれる最強の邪神達が倒れることにより、宇宙最強の邪神がこの星に降臨すること。そしてもしそれを倒してしまうと、世界から異能が消えること、を理解していたとしても。どのような行動に出るか、分からない怖さがある。

 

だからアーサーや川背と相談してから、Mにも情報を流したかったのだ。

 

しかしMは、そのような考えを見透かしてか、自分が最初に、しかも何ら事前通達無しで訪れた。

 

世界最強のフィールド探索者であるMは、文字通り国家軍事力並の戦闘能力を持ち、下手をするとアトランティスを単独で灰燼に帰しかねない。

 

更に言えば、Mは世界最大のフィールド探索社であるN社のトップだ。経営面ではなく、戦闘力という点で、だが。人外の猛者達が揃うN社の中でも最強の影響力を持ち、下手な国家元首以上の権限も持っている。

 

Mに情報が流れるというのが、どういう意味を持つか。それは、スペランカーも、よく知っていた。勿論、Mもそれは分かっている筈だ。ただの凶暴なだけの男が、世界でもトップクラスの影響力を持てるようになる筈が無い。

 

Mはてこでも動きそうに無い。失礼が無いようにと長老に言って、一端応接を出る。宿泊用の部屋などを用意するよう、川背がてきぱきと手配をしてくれた。此処から三日は、とても忙しくなりそうだ。

 

昼過ぎには、だいたいのメンバーと連絡が取れた。

 

状況が状況なので、アーサーも来てくれることとなった。他にも、今まで世話になったフィールド探索者にも声を掛けるが。

 

二日もすると、面倒な事になり始めた。

 

世界各国の政府や国連軍、果ては文化人などからまで、連絡が入り始めたのである。一体どこから情報が流れているのか。Mが大々的に情報を流しているのか、それとも。

 

混乱する状況の中、一つの区切りが来たのが、二日後の夜の事。

 

ある大物から、連絡が来たのである。

 

そして、殆ど同時に、本人が来たのだった。

 

喧噪はぴたりと止んだ。その大物が、どれだけの影響力を持っているのか、それだけで明らかだった。

 

 

 

その男は、フィールド探索者の中では最古参の一人で、通称P。人間では考えられないほどの年月生きており、外見からして人間とは言いがたい。それ故に、常にフードを被って外では行動している。

 

備えている特殊能力は、「喰」。

 

相手を喰らうことだ。正確には、空間ごと削り取るような力であり、実際に腹に入れて消化するわけでは無いと聞いたことがある。フィールド探索者なら誰でも知っている、伝説級の人物である。Mの前の世代の、最強の戦士だった人だ。

 

当然世界各地に幅広くコネクションをつなげている。潰したフィールドは数知れず、助けた人は世界中にいるのだから当然だ。

 

専用の飛行機でアトランティスに直接来たと聞いて、スペランカーも夜中であるにも関わらず、出迎えなければならなかった。

 

直接会ってみると、杖をついてはいるが、足腰は壮健で、受け答えもしっかりしている。未だに厳然たる影響力を持っていると聞いてはいたが、確かにそれも頷ける。そして、噂通り、ものすごく大きな口だ。

 

その隣には、見たことが無いお爺さんがいる。

 

左手に手甲をしていて、一目で理解できた。

 

この人は、人間では無い。

 

異星の邪神だ。しかも、かなり高位の。

 

「はじめましてであったかな。 スペランカー。 儂がPだ」

 

「はじめまして。 お会いできて光栄です。 そちらの方は」

 

「戦車乗り、と言われている」

 

本名は知らせない、という事か。

 

スペランカーが異星の邪神と気付いていると、相手も悟ったらしい。鷹揚に握手を交わすと、歩きながら話す。

 

「貴方の活躍は聞いている。 多くの異星の邪神を打ち倒し、その撃墜スコアは並ぶ者がいないとか。 戦歴に似つかわしくない姿形だと聞いてはいたが、どうやら噂通りのようだ」

 

「ええと、褒めてくださっているんですか?」

 

眉を八の字にして苦笑いするスペランカーに、それ以上戦車乗りはこたえない。おそらく、スペランカーの反応を観察しているのだろう。手はとてもひんやりしていて、人間の体温では無かった。

 

流石に出迎えだけなので、川背は伴っていない。川背はまだ解析の指揮を執っていて、手が離せないからだ。

 

スペランカーは護衛の者達を伴って装甲バスに乗ると、P達と神殿へ向かう。装甲バスを見て、Pはからからと笑った。

 

「厳重な事よ」

 

「万が一のことがありますから」

 

「外を見ても良いかね」

 

頷くと、Pは細い腕でありながら、あっさりと重い窓を押し上げた。とはいっても、超強化硝子が填まっていて、外すことは出来ない。保安上の問題で、分厚い装甲カーテンが填まっているのだ。そのカーテンを開けて、外を見られるようにしたのである。

 

アトランティスはまだまだ発展途上。こういった装甲バスなどは、まだ手入れも行き届いていないし、最新鋭の品でも無い。故に備品などは不行き届きの要素も多いので、恐縮してしまう。

 

「不思議な光景だ」

 

Pが感心したように言う。

 

半魚人と、骸骨達とミイラの戦士達が、協力して街を作り上げている。

 

異星の邪神の奉仕種族だった彼らは、自由になった今、それぞれの生活を謳歌しているのだ。

 

外から流れ込んできた者達も、摩擦を何度も繰り返しながら、彼らと少しずつ仲良くなってきていた。勿論、まだまだ多くの課題が山積している。単純なならず者が犯罪目的で入り込んでくることも多いのだ。

 

半魚人の子供達と、人間の子供達は、仲良く出来ているとは言いがたい。子供達が遊んでいるのを見ると、だいたいグループが別れてしまっている。まだまだ、軋轢を解決するには、長い時間が必要だろう。奉仕種族にとって、外から入ってきた人間達は、「よそ者」なのだ。一方見かけで相手を判断する人間にとって、自分たちと似て非なる存在は、「気持ち悪い」姿であり、それだけで全否定するに足るのだろう。悲しいが、軋轢は、まだまだ深い。

 

空港の周囲に発展している町を抜けてしまうと、草原が続く。

 

この辺りには監視役を兼ねた超大型食虫植物や蜂などもおり、外に出るのはあまりお勧めできない。監視のために、ジープに乗った奉仕種族達が、周囲を見回っている。まだ空軍はいない。以前未来の戦士シーザーが来た時の対応がまずかったので、今後はヘリコプターや、国連軍のお下がりとなる戦闘機を、順次導入していく予定だ。陸軍も、防衛用の兵器を中心に、導入する計画が持ち上がっている。

 

これは、最悪の未来に対する知識を得たからだ。以前は強い魔術能力を持つ半魚人やミイラ男、骸骨達奉仕種族の戦闘力を信頼しきっていた。しかし未来世界で特殊能力が全て消滅した場合、丸腰も同然になってしまう。

 

最悪の事態を考え、常に備える必要があると言うのは、この世界の常識だ。

 

バスが大きく揺れた。

 

道路は舗装されていない。多分、道路を舗装できるのは、何年も先だろう。暮らしづらいと言われればその通りだが、でもスペランカーは此処が好きだ。

 

あの女がいる場所よりは、ずっといい。

 

頭を振って、暗い雑念を追い払う。

 

二時間ほど揺られると、神殿に着いた。先についている要人達には、応接で休んでもらっている。どう断っても、無理矢理押しかけてきた者達も多いのだ。

 

まだ今日から明日に掛けて、かなりの人数が来る。

 

どうするかは、川背とアーサーを交えて、話した方が良いだろう。そのまま情報を公開するのは、大きな悲劇を招くような気がしてならない。

 

「では、儂らは応接で休ませてもらうよ。 長旅でどうも疲れた。 年を取るといかんのう」

 

「お茶とお菓子を用意しますから、しばしお待ちください」

 

「おかまいなく」

 

適当に相づちを打ちながら、Pは応接に案内されていった。

 

戦車乗りはしばらく周囲を見て廻ると言って、ふらりと消えてしまいそうになる。スペランカーは、慌ててついていく。

 

無言ですたすたと歩いていた戦車乗りは、神殿などを見て目を細めていた。奴隷労働は行われていない。交代制を取っているし、娯楽も完備するようにしている。街に出ることも自由だ。

 

表情も、明るい。

 

スペランカーを見ると、皆が敬意を払ってくれるので、嬉しい。此処は、スペランカーにとって、今や家だ。

 

「驚いた。 貴殿は本当に奉仕種族に慕われているようだな。 命令を下して、力で屈服させることも可能だろうに。 多くの人間だったら、そうするだろう。 最初は友であろうとするとしても、軋轢を見ている内に嫌になって、やがて暴力と権利を駆使するようになるのは、私が見てきた人間達のさがであったのだが」

 

「そういうの、いやですから」

 

「そうか。 どうやら貴殿の恐ろしさは、その不死の力だけでは無いようだな」

 

何だか、何もかもを見透かされるような目だ。そして、どこかしら、皮肉のようなものが籠もっている。

 

この人は、異星の邪神でありながら、人間と一緒にいる。きっとそれは、ニャルラトホテプとは、違う意味で、だろう。

 

「Pさんとは、古い知り合いなんですか?」

 

「彼奴が現役を退いた頃からだ」

 

確か、スペランカーが生まれた頃には、もうPは現役を退いていたはず。そうなると、かなり昔から、という事だろう。

 

同じお爺さんでも、随分雰囲気が違う。

 

Pはどちらかというと、かなりひょうひょうとした雰囲気だ。きっと呆けたフリをしたり、茶目っ気もあるだろう。

 

此方のお爺さんは、年齢と共に風格を積み重ねた印象だ。巨大な花崗岩のようで、触るのがとても難しい。

 

だが、そのくらいで尻込みはしていられない。

 

スペランカーは、異星の邪神とコミュニケーションを取りたいと、昔から願っている。人間とコミュニケーションを取ってきた相手と接することが出来なくて、それをどう達成できるというのか。

 

「宇宙の中心の邪悪……アザトース」

 

「!」

 

戦車乗りが足を止める。

 

そして、此方をゆっくりと見た。その眼光はまるでレーザーのようで、遠慮も呵責もなかった。

 

「知っているんですね」

 

「どこでその名を知った」

 

「それは」

 

「四元素神と戦って来た貴様でも、その名は安易に口にするな。 ましてや今は、門の神が既に目覚めている。 ここにでも来られると、面倒な事になる」

 

別人のように怖い顔で、お爺さんは言う。それは言葉では無くて、動物の警戒音のように、厳しく容赦も無かった。

 

スペランカーは、尻込みしない。

 

むしろ、ようやくこの人の、本当の姿が見られた気がして、嬉しかった。

 

「少しだけ、映像で見ました。 私と同い年くらいに見える、女の子……」

 

「其処まで知っているのか。 くだしたニャルラトホテプから、情報を得たのか?」

 

「はい。 一体何が、宇宙の中心で起こったんですか? 今、情報端末の解析を進めていますけれど、知っているならば情報を開示してくれても」

 

「どうやら懸念は当たったようだな。 この人数に情報を開示するのはよせ。 冗談抜きに、門が来るぞ」

 

門とは、以前話に聞いた、宇宙でも二番目に強いという邪神のことだろうか。

 

確か名前は、ヨグ=ソトース。四元素神とも、桁違いの存在だとか。そんな相手が来た場合、どうなるのかは、確かに分からない。

 

「お前の奸計か、ニャルラトホテプ」

 

「違う」

 

声が、スペランカーの内側から聞こえる。

 

以前下したニャルラトホテプのものだ。まだ半分以上眠っているようで、声には力が無い。

 

「どのみち宇宙の中心の邪悪と戦うには、この者だけでは不足。 この星にいる能力者は確かに強者揃いだが、それでも一丸とならなければ無理だろう」

 

「試したというか」

 

「そうだ。 此処で対応を誤り、滅びに向かうなら、それまでの運命だったということに過ぎぬ」

 

空気が張り詰めるのが分かった。

 

戦車乗りが、どこから取り出したのか、いつの間にか槍を手にしていた。三つ叉の槍で、しかも手には、今までよりも一回りは大きいガントレットを填めている。

 

「嘘ではあるまいな」

 

「この者の前で嘘はつけぬ。 お前も理解しているのではあるまいか」

 

「……」

 

槍を収める戦車乗り。

 

今の会話は、よく分からなかった。ニャルラトホテプは四元素神の一柱で、分神体とはいえ並の異星の邪神とは比較にならない力を持っている筈だ。そのニャルラトホテプが嘘をつけないというのは、どういうことなのだろう。

 

だが、喧嘩をしないですんだのは、良かった。きびすを返すと、戦車乗りはPの所に戻っていく。今の件について聞いておきたかったが、それは後回しだ。

 

何だか嫌な予感がする。大きな事が、此処で起ころうとしている。情報を開示するだけで危険というのは、どういうことなのか。

 

一度、川背の所に行く。

 

応接は、長老達に任せておいて大丈夫だろう。

 

早めに対応しないと、危険な気がする。

 

研究チームは、神殿の最深部で作業をしている。スペランカーが顔を見せると、頭にアトラク=ナクアをのせた半魚人の護衛が、気付いて此方に来た。

 

「どういたしましたか、スペランカー様」

 

「川背ちゃんは?」

 

「彼方に」

 

非常に難しい顔をして、後輩は腕組みして、何人かの話を聞いているようだった。

 

小走りで駆け寄ると、すぐに此方に気付く。戦士の表情をしていた川背が、わずかに態勢を緩める。

 

「先輩、何かありましたか」

 

「うん。 ちょっとまずい事になっているみたいなの。 今、解析はどれくらい進展してる?」

 

「八十%という所でしょうか。 何なら、一時解析を中断しますか?」

 

「その必要は無いけれど、情報の公開については、一端待った方が良いのかも」

 

頷くと、川背は手を打ってくれると言った。

 

頼りになる。スペランカーも、アーサーに連絡を入れて、此方に出来るだけ急いできて欲しいと告げた。

 

 

 

戦車乗りを見つけたので、スペランカーは小走りで歩み寄る。

 

応接室を抜け出して、神殿の周囲を見て廻っていたらしい。目元の深い皺と、髭に隠れた口元が、感情を容易に見せてはくれない。

 

戦車乗りが見つめている先には、木がある。

 

ただし実は無く、鳥もいない。アトランティスは極めて特殊な生態系が成立していた閉鎖空間だった。今でも、よそからの生物を入れることに関しては、専門家を雇って慎重に検討している最中である。

 

この植物も、何年くらい此処に植わっているのか知らない。知識が足りないスペランカーには、どのような品種かも分からない。

 

「戦車乗りさん」

 

「貴殿か」

 

振り返らず、戦車乗りはこたえる。

 

人間のお爺さんの姿をしていても、この人は異星の邪神だ。後ろに誰がいるかくらいは、把握しているだろう。

 

「解析が終わったら、全てを話してくれますか」

 

「そのようなことをして、なんとする」

 

「宇宙の中心にいる邪悪という存在が、どのような者か分かれば。 コミュニケーションが図れるかも知れませんから」

 

「……愚かな」

 

振り返った戦車乗りの目には、冷厳な光が宿っていた。

 

出来もしないことをしようとしている子供を見る目だ。スペランカーは見かけよりは年を取っているが、このお爺さんに比べれば、童も同然だろう。だが、その目はちょっと酷いと思った。

 

「今、この星に出来る事は、奴を近づけないこと。 或いは、Mであれば奴を倒せるかも知れないが、それは無意味なことだ」

 

「知っています」

 

「何……」

 

「未来から来た人達が、惨状を告げてくれたからです」

 

未来から来た戦士シーザーと、彼が乗ってきた戦闘機。それにシーザーが一緒に逃げてきた人達は、今でも治療を受けている。シーザーは至って元気で、街に出ては女の子を口説いて廻っているようだが(人間限定で)、しかしこの後来る未来について聞くと、必ず表情を曇らせる。

 

聴取については、だいたい終わっている。

 

おそらくこのまま行くと、Mがアザトースを倒してしまう。そしてそれは、悲劇にしかつながらない。

 

戦車乗りは、じっとスペランカーを見た。

 

嘘かどうかを見抜こうとしているのだろう。スペランカーはにらみ返すのでは無く、優しく視線を受け止めようと試みて、そうする。

 

「そうか、それでこのようなことを」

 

「Mさんも、未来に何が起きるかは、断片的に知っているようです。 アザトースさんと会話をする方法は無いんですか? コミュニケーションを図る方法は」

 

「存在しない」

 

「どうして」

 

異星の邪神は、確かに人間と価値基準が異なる。

 

理由は簡単で、捕食者だからだ。人間の狂気が、彼らにとってのごちそうである事は、スペランカーも知っている。

 

くうものとくわれるもの。

 

題材にした古典文学はたくさんあると、スペランカーも聞いたことがある。だが、それら文学で書かれる友情なんて、きっと簡単には存在し得ない。アトラク=ナクアだって、力が人間より弱まり、なおかつ利害が一致しているから、ここでおとなしくしてくれているのだ。そうでなければ、手など貸してはくれない可能性が高い。

 

或いは、長い年月を掛ければ、理想的な共生関係を作れるかも知れないが。

 

今はその時間も無い。

 

つまり、利害の一致などで、少しずつ話を進めて行くしか無いのだ。

 

「何故、あれを中心の白痴というと思う」

 

「本当に知性が無いんですか」

 

「その通りだ。 あれは眠っているのでは無く、そもそも「人間と同じ意味で」目を覚ますことが無い。 意識はあるが混沌としていて、一定に定まることが無い。 あれが目を覚ます、覚醒するという事は、もっと違う事態を意味している」

 

一体何が、あのおかっぱの女の子に起きたのか。

 

それとも、周囲がそうさせたのか。

 

立ち尽くすスペランカーから視線をそらすと、戦車乗りは言う。

 

「もう一度言う。 とにかく、今は門を遠ざけることだ。 そのためには、多少の犠牲が出ることを覚悟の上で、ニャルラトホテプを全て封印するのが最適の路だ。 殺さない程度に戦う事は大きな犠牲を伴うだろうが、それで数百年は時間が稼げる」

 

それは、先送りにしかならない。

 

そう言おうとしたが、戦車乗りはこれ以上、話をする気が無い様子だった。

 

一度、側を離れる。

 

これ以上話しても、きっと平行線のまま。下手をすると、関係をこじらせることになりかねなかった。




ちなみに戦車に乗ってるのは、クトゥルフ神話で珍しい、人間に友好的なあの神格です。
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