オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
超人兵士が軍隊相手に戦うオーソドックスなゲームなのですが、トラップが鬼畜だったり色々と難しめの作品でした。ガス室に入ってしまうとまず出られなかったりで……
今回はクトゥルフ神話においても人気の神格、ニャルラトホテプとの決戦回です。
楽しんでいただければ何よりです。
序、苦渋の決断
闇夜の中、巨大なコンクリートの建物が姿を見せる。
背丈はさほどでも無いのだが、森の中に浮かび上がるその姿は、正に圧倒的。一昔前まで存在していた、要塞と呼ばれるものに近い。
これから、ジョーが攻略しなければならない敵拠点だ。
木陰に隠れたまま、ジョーは装備の最終点検に取りかかった。メインウェポンとして持ち込んでいるアサルトライフル、FN SCARは問題なし。弾丸は、必要ない。ジョーの能力で補うことが出来る。
スターライトスコープで、要塞の周囲で警備をしている相手の様子を確認。
人間としか思えない存在だが。しかし、その異様な出で立ちが、尋常な人間では無いと教えてくれる。
その衣服は。
西洋の歴史の汚点。最悪の独裁政府、ナチスドイツのものだ。ナチスの関係者は未だに生きている者もいる。だが、あのように巨大な要塞を、しかもこのフィールド内に建設することなど、不可能だ。
つまりアレは、人では無いとみて良いだろう。
人間の歴史は常に血塗られている。
殺し合いに始まり、殺し合いに終わる。人間という生物の精神はまるで進歩しないのに、技術ばかりがそうやって進んでいく。相手を如何に効率よく殺せるか。それが、文明の発展に大きく寄与してきた、基礎原理だ。
そして、この世界では。
能力を持つ者と持たざる者が、長い歴史の間、ずっと対立を繰り返してきた。
現在、軍でも入ることが不可能な異空間、フィールドと呼ばれる人外の土地が世界中に存在する。其処を攻略する事を生業としている者達を、フィールド探索者と称する。彼らは多くの場合特殊な能力を持ち、通常の人間とは比較にならない戦闘能力を有している。
しかしフィールド探索者は、通常の人間に比べて、数が圧倒的に少ない。両者の水面下での争いは、総合的には互角。
結局現在では、長年の苦労の末にどうにか同化政策が採られているが。皆の奥底には、厳然とした対立意識が渦巻いている。
だから、こういった事例は、特例の面倒を呼び込みかねない。
可能な限り迅速に処理する必要がある。あまり大勢のフィールド探索者を、此処に投入するのも難しい。
厄介だな。
ジョーは呟くと、状況を更に細かく確認していく。
手榴弾はまだかなりストックがある。
しかし、内部に潜入するとなると、すぐに使い切ってしまうだろう。そんなことよりも、問題は、敵の人数がかなり多いという事だ。
潜入するにしても、敵は油断が無い。非常に重厚かつ緻密な、万全と言って良い警備を敷いている。見た感じ、かなり旧式の武器を使っているようだが、それでもジョー単独で制圧するのは難しい。此方は近代兵器を持ってきているとは言え、相手は人数が多い上、人間では無い。弾丸を浴びても、一発や二発なら耐え抜く可能性が高い。急所を貫かないと倒せないだろう。勿論、少人数が相手なら、即死させる自信もあるが、支援が無い状態で要塞に守られた敵を相手にすると、厳しいと言わざるを得ない。
内部に潜入する方法は無いか。
監視のローテーションを割り出すべく、木陰を廻りながら、観察を続ける。
だが、やはり人間では無いからか。ローテーションがどうも読めない。体力が並の人間とは比較にならない可能性が高い。
様々な角度から、要塞を確認する。だが、まるで侵入する隙が見いだせない。
内部に控えている人数も、監視に当たっている兵士の様子を見る限り、百や二百で足りるかどうか。
この状況で攻撃を仕掛け、敵を制圧するのは、映画に出てくる特殊部隊の超人でさえも不可能。ましてや、あの要塞の奥には。最悪の場合、近年この星で活動を活発化させている、異星の邪神と呼ばれる存在がいる。消耗しきった状況で、邪神にぶつかったらアウトだ。
そもそも今回の目的は、威力偵察であって、攻略では無い。偵察の結果、抜き差しならぬ状況である事が判明してしまったから、ジョーは悩んでいた。
しかし、時間が無いのも事実。出来れば、攻略はしておきたかったのだが。この戦力差は、かなり厳しい。
時計を見て、引き上げることを決断。
増援を加えて叩くべし。それも、信頼出来る少人数だけで、可能な限り時間を短縮して。
敵歩哨が手にしている銃は旧式のものだが、それでもどのような改造がこのフィールドで行われているか分からない。このまま攻撃して、突破できる可能性は著しく低い。此処でジョーが死ねば、それが確認されるまでの時間が、大幅なロスとなってしまう。
自分が傷つくことよりも、ミッションの失敗の方が、ジョーには懸念事項となる。それが本職の戦士としてのあり方だと、思ってもいる。
音も無く、ジョーはその場を離れる。
既に敵要塞の規模と、敵の配置は頭に入れている。これから増援を加えて叩くのならば、攻略は最小限の時間で出来るはずだ。
密林を抜けると、突然荒野に出る。
この突拍子も無い空間構成こそ、人外の土地であるフィールドの証。
敵を警戒しながら、可能な限りの速度で戻る。
出口が見えてきた。こういう所が、一番危ない。狙撃手が潜んでいる可能性もある。ましてや此処は、何があってもおかしくない空間なのだ。
狙撃を行いうる場所を徹底的にチェックしてから、その場を離れる。
空間の外に出ると、国連軍の兵士達が待っていた。
荒野から、一転である。
町中の、軍ベースの中に出る。周囲は鉄条網で覆われており、プレハブの兵舎が林立していた。
この理不尽さがフィールドの特色だ。その中と外では、根本的に世界が違っているのである。
此処はP国の片田舎。
今回のフィールドは、発生してすぐに対策が開始された。国連軍が動き、たまたま近くにいたジョーが呼ばれたのだ。
戦闘態勢をとき、銃を下ろす。ようやく、多少は緊張を緩めることが出来る。フィールドの出口から急ぎ足で離れながら、ジョーは携帯電話を取りだした。時計代わりにも役に立つ。
偵察開始から、七時間が経過していた。
「お疲れ様です。 攻略はどうなりましたか」
「敵の規模が大きく、攻撃は難しい。 増援を加えて、一気に攻略する」
すぐに、C社に連絡を入れた。
この世界、フィールド探索者達は、仕事を得るため、更には身を守るために。フィールド探索社と呼ばれる企業体を作っているのが普通だ。
ジョーが所属しているC社は、世界最強のフィールド探索者であるMが所属するN社につぐ規模を誇り、人脈も広い。
営業の人間を、すぐに携帯電話を使って呼び出す。
待機していたらしい営業は、すぐに出た。
「ジョーさん、首尾は」
「単独での攻略は極めて難しい。 増援を」
「分かりました。 10時間ほどで、そちらに二名が到着します」
名前を聞いて、一人に関してはなるほどと納得。
つまり、上層部は。
異星の邪神が絡んでいる可能性が大きいと、判断したわけだ。
すぐに会議が行われ、国連軍の司令官らに、フィールドの内部状況を説明する。主に荒野が主体だが、中心部は密林。完全武装した人間に見える住人が多数存在しており、中心部には密林と要塞が存在する。
何カ所かにはクレバス状の崖があり、トーチカらしき構造物も。
トラップも多数存在していた。
「トラップの確認もしていれば、おそらく既に侵入には気付かれているだろう」
「スーパージョー。 あんたの腕でも突破は不可能か」
「不可能では無いが、著しく可能性は低いと判断した。 確実にフィールドを攻略するためには、増援を加えて一気に叩くのが望ましい」
司令官が鼻白むのが分かった。
スーパージョーというのは、ジョーのあだ名だ。フィールド探索者にはいわゆる二つ名が外部から付けられることが多いのだが、その一つ。
貧弱な能力にもかかわらず、歴戦の経験で難関フィールドを攻略してくることから付けられた名である。
それを知っているからこそ、司令官は不快そうなのだろう。
「十時間後に、増援二名が到着する。 それまで休憩して、英気を養う。 何かあったら、携帯に連絡して欲しい」
「分かった。 しかしあんたはスーパージョーなのに」
「超人兵士など、映画の中にしか存在しない。 ミッション攻略の可能性を上げるのは、当然のことだ」
一刀両断にすると、ジョーは与えられているプレハブの宿舎に戻った。
ベットに横になると、すぐに眠ることが出来る。
どこでも眠ることが出来るが、これは訓練の成果だ。一眠りしてから食事を済ませ、顔を洗ってリフレッシュする。
時計を確認すると、予定通り丁度八時間が経過していた。
与えられているデスクに向かい、攻略のプランを策定する。敵が気付いていれば、当然重厚な迎撃陣地を構築しているとみて良い。此方に来る二人の戦闘力を加味すれば、正面から蹴散らすことも不可能では無いが。
だが、それでも。さらなる危機が訪れる可能性も高い。敵は可能な限り効率的に削るべきだ。
一時間ほどで、作戦の策定が終わる。
後は、増援が来たら、可能な限りの速度で攻略を終わらせなければならないだろう。
いずれにしても、増援に、異星の邪神は任せてしまうことが出来る。敵軍の攻略だけを念頭に動けば良いので、ジョーの負担はかなり小さくなった。
正面突破さえ、可能かも知れない。
どの作戦を採用するかは、既に決定した。
後は増援が来るのを待つだけだ。
それにしてもこの無理な作戦、あの時を思い出す。母国とF国が代理戦争をした、あの地獄を。
戦場には英雄などいなかった。
それなのに、英雄に祭り上げられたあの戦い。ジョーはあの時、戦争には何も美しいものなどないと、悟ったのかも知れない。
だが、結論として、ジョーにはこれ以外出来ることがない。
生きていくためには、戦場に身を置くしか無いと言う矛盾。ジョーの人生とは、一体何なのだろう。
携帯電話が鳴る。
どうやら、来たようだった。
「援軍が到着しました」
「すぐに向かう」
ヘリのローター音は、此処からも聞こえている。予想通り、輸送ヘリを使って此処まで来たか。
すぐにヘリは着地。
現在、国連軍は色々とおかしな事になっている。内部告発が行われ、事もあろうに一部が異星の邪神とつるんでいたことが判明。誰が具体的に関与していたのかの洗い出しが進む一方、告発の切っ掛けとなったフィールド探索者との緊張状態が悪化している。
元々、国連軍は現在こそフィールド攻略で副次的な役割を果たしてくれてはいるが。フィールド探索者とは、長年の抗争の歴史がある。
いつ、また火花を吹いてもおかしくない状態だ。
ヘリがそんな中、すぐに動いてくれたのは嬉しい。国連軍の中には、上層部の権力争いを苦々しく思っている者も少なくない。
そういった気骨ある者達が、率先して動いてくれたのだろう。
ヘリのパイロットに敬礼して、増援を出迎える。
一人は十代半ばに見える女性。アジア系だから、余計に若さが目立つ。もっとも彼女の場合、実際にはジョーと同年代だ。
スペランカー。
絶対生還者、神殺しの二つ名を持つフィールド探索者である。非常に貧弱な肉体能力しか持ち合わせていない上、頭も決して良いとは言えない。反面、その所有する凶悪な能力によって、幾つものフィールドを叩き潰してきた立役者だ。
しかしその本当の恐ろしさは、たとえ相手が邪神であっても、コミュニケーションを成功させる柔軟な思考にあると、ジョーは見ている。
実際スペランカーの周囲には、多くの人間が集まっており、ジョーも悪い印象は受けたことがない。今は以前攻略した浮遊大陸アトランティスの事実上の指導者として、各国からも着目されている存在だ。
「ジョーさん、お久しぶりです」
「ああ。 もう一人は」
「すぐに来ます」
スペランカーはあまり戦術の知識も無く、戦闘では活躍を期待出来ない。ただし邪神に対しては絶対的なアドバンテージがあるので、其処まで送り届ければいい。敵に拘束されることだけ気をつければ、問題は無いだろう。
もう一人は、バリバリの武闘派だ。
ジープが、ベースの脇に付ける。どうやら、急ぎで駆けつけてきたらしい。近場にいるとは聞いていたが、確か仕事中だったはず。
営業が話を付けてくれたのだろう。
ジープから、がしゃんがしゃんと音を立てて降りてきたその男は、中世の騎士といった出で立ちだ。重厚なプレートメイルを身につけ、腰には剣をぶら下げている。
現在、E国における最強のフィールド探索者。サー・ロードアーサー。
本物の爵位を持つ「騎士」である。悠然たる髭を蓄えたアーサーは、ジョーを見ると上機嫌に右手を挙げた。
「おお、スーパージョー。 久方ぶりであるな」
「元気なようで何よりだ。 仕事は」
「既に片付けてきた。 幸い、楽な内容であったでな」
からからと豪快に笑うアーサーだが。
しかし、ジョーは見抜いていた。おそらく、連戦の疲弊がある。だが、今回のフィールドはスピード勝負だ。彼にも休憩無しで出てもらわなければならないだろう。
アーサーは超一流のフィールド探索者で、今回の任務でも主力として戦ってもらわなければならない。
疲弊が溜まった状態だが、今回は休んではいられないのだ。もしも長引くと、色々と面倒な存在が動く可能性が高いのである。
すぐにミーティングを始める。
会議室に来てもらい、ジョーが作成したフィールドの地図を見せる。更に、作戦についても説明する。
会議に参加している軍人達は、皆不満そうだ。無理もない。
軍はあくまで補助。
今回のフィールドは、村のすぐ側に出現した。その際に避難を行い、住民が入り込まないように周囲をベースで囲んだ。
後は前線で戦う者達のために、物資を補充。
その立場がつらいことは、元軍人であるジョーもよく承知している。だが、今のまま世界が動くと、極めておかしな事になりかねない。
国連軍の上層の中には、ジョーに密かに接近しようという者まで出てきている。実際、幾つかの話を、今まで断ってきた。
会議はジョーが滞りなく進め、作戦も説明し終える。
スペランカーが小首をかしげていた。此奴は頭が悪いが、勘は鋭い。或いは、気付いたのかも知れない。
この作戦には、大きな裏がある。
これから攻略しなければならないのは、ただのフィールドでは無いのだ。
「以上。 これより作戦遂行する」
立ち上がり、ジョーは軍式の敬礼をした。
一刻も早く、フィールドを解体しなければならない。一度戻ったことで、大きな時間のロスが生じた。
此処からは、寝ている暇も無い。
全力で、敵陣を突っ切らなければならなかった。