オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
スクーターを引いて、手を振って去っていくスペランカー。店を開いたら呼んで欲しいと言ってくれたじゃじゃ丸。二人とはアドレスを交換して、別れた。三輪トラックも、自衛隊の詳しい人に直して貰って、しばらくは走ることが出来そうである。
ただし、先に向かう所があった。
責任者の人に頼まれたのだ。あの難しそうな、姉小路の殿様を納得させた料理の腕を、是非会社の上役達に振る舞って欲しいと。
しがらみ、利権、その他諸々でがんじがらめになっている彼らは、言葉では説得できない。またフィールドが発生すると言っても、聞く耳を持たない可能性が高い。
だから、川背の力を借りたいというのだ。
あの殿様に約束したこともある。川背は一も二もなく引き受けた。問題は、飛騨の山奥から、如何に鮮度を保ったまま、素材を運ぶかである。結局、方法は一つしかなかった。
三輪トラックを走らせる。免許は去年取ったが、このアクセルの重さや、ブレーキの危なっかしさは、今でも冷や汗が出る。スピードが出ないので、煽られて抜かれる事もしょっちゅうだ。だが、料理の時以外は努めて淑女でいようと思っている川背は、気にしない。山道を、のんびり三輪トラックで行く。
向かう先は、飛騨市の料亭。
放蕩息子のために経営が立ちゆかず、客も離れてしまったが、設備だけは整っている。そんな店があったので、一日借りることにしたのだ。不安になる話だが、これはあくまでチェーンの話で、料亭の本邸は料理人自身が運営していて無事だ。放蕩息子は一週間に一回店に顔を出せばいい方で、後は何処をふらついているのかさえ分からないのだという。
父が昔喧嘩を売った相手だったので、心配はしていた。実際とても腕が良い料理人で、川背も名前を聞いていたことがあるほどの人だ。怒っているのではないかと思ったが、案外すんなり店を貸してくれたので、安心した。
既に責任者は、店で店主と一緒に待っていた。あの後役職を聞いたのだが、どういう仕事をするかさっぱり分からない横文字だったので、十秒で忘れてしまった。ただ、彼はあの時以来、川背の料理のファンになってくれたので、何とかして覚えなければならないだろう。
お客様を大事にしない店は潰れる。如何に味が良くても、だ。
店主は川背が若いので随分不安そうな顔をしたが、泥鰌の天ぷらを試食させると、すぐに納得してくれた。
「なるほど、あの海腹さんの娘さんだけはある。 たかが泥鰌の天ぷらを、此処までの品にするとは」
「その節は、父が失礼をしました」
「いや、良いんだ。 あの時は私も若くて、色々と調子に乗っていた。 海腹さんが徹底的に叩きのめしてくれたから、逆に再出発できたのさ。 後は馬鹿息子が更正してくれれば、もう言うことはないんだがね」
あの馬鹿は、未だに魚を三枚に下ろすことも出来ないんだと、忌々しそうに、だが目には悲しみを湛えて料理人は言った。確かにそれは、素質の問題ではない。余程放蕩が酷いのだろうと、川背はちょっと料理人として怒りと悲しみを同時に覚えていた。
すぐに、十人ほどの客を迎える準備を整える。上品な座敷を丁寧に掃除して、備品を確認する。いずれも政府の中枢にコネを持ち、高級料理など食べ飽きている連中だ。生半可な料理で納得させるのは不可能に等しい。
「最初の応対は私がするから、川背さんは料理に集中して欲しい」
「分かりました。 最高の品を用意できるように頑張ります」
「頼む」
額の汗を拭いながら、責任者が何人か連れてきている部下に指示を出す。
川背は奥で割烹着を着けて、三角巾を縛って、頬を叩いた。気合いを入れる。あの殿様、姉小路良頼さんと約束したのだ。川背がもてなしたお客さんは、それによって信頼をくれた。それを裏切る訳には行かない。
料理は戦いだ。
魚料理なら、魚と。野菜料理なら、野菜と。肉料理なら、動物と。
そして、同時に客とも戦わなければならない。
準備が整う。流石に良い設備が揃っていて、三輪トラックの備品よりもかなり効率よく料理が出来そうだ。ただし、包丁などの道具は持ち込む。特に包丁に関しては、これがなければ何も始まらないのだ。
丁寧に砥石で包丁を研いだ後、黙祷。まだ生きている食材に敬意を表してから、川背は包丁を縦横に走らせ、下ごしらえを始めた。
夕刻、客が集まり始めた。いずれもあまり機嫌は良くない様子で、責任者は平身低頭している雰囲気だ。
あれも、彼なりの戦いなのだ。馬鹿にしてはならない。
料亭の主人も、補助を的確にこなしてくれた。幾つかのスキルは明らかに川背より上である。特に野菜関係の味付けの勘は、抜群のものがあった。だから、そちらは任せてしまう。
すっと、油に魚の身を潜らせる。包丁をリズミカルに動かして、肉を馴染ませる。いずれも、飛騨の産物を、大胆に料理したものだ。
「しかしね、君!」
「食べていただければ分かります。 今の工期では、残念ながら環境への配慮を十分に出来ません。 その結果失われるものがどれほど大きいか、分かっていただけると思います」
「別に此処だけが、珍味の郷という訳ではないだろう」
揶揄の声がする。かちんと来たが、その鼻っ柱は料理でへし折ることにする。
父さん、母さん。僕に力を貸して。
そう念じると、川背は最後の仕上げに掛かった。
やがて、第一陣が仕上がる。何人かで手分けして運ぶ。料理長として、客の前に出た川背は、一礼した。
二十の目が、川背を見据える。責任者が連れてきた老人達は、いずれも老獪な妖怪どもばかりである。だが、あの姉小路良頼の、十分の一も修羅場を潜ってはいないだろう。かならず、力でねじ伏せてみせる。誓いを守るためにも。
「料理人の、海腹川背です。 このたびは、わざわざお集まりいただき、有難うございます」
反応は無し。だが、それも予想の内。
今、戦いの幕は、切って落とされた。
(続)
補足。
※海腹川背の一人称「僕」は、海腹川背「旬」(二作品目)の作品内にあった謎のCMに出てくるものを使っています。後続の作品では私という一人称を使っている事も多いようですね。
※忍者じゃじゃ丸くんは現代忍者的な感じに描写しています。