オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
フィールドの内部は、冷たい風が吹きすさんでいた。風の中には細かい砂が含まれており、迂闊に目を開けることも出来ない。
荒野。
フィールドに入ってすぐに出迎えてくれる、荒涼たる地形。周囲は森が鬱蒼とした、シュバルツバルトの名残だというのに。この辺りの異常性、理不尽さが、正にフィールドそのものだ。
ヘルムの庇を下げながら、アーサーが周囲を見回した。
フィールドに入ったばかりだというのに。
敵の動きは、予想以上に速い。
「スペランカー殿、頭を下げられよ。 弾丸が飛んでくる」
「え?」
「とうに囲まれておる」
アーサーが手を振ると、周囲に無数の盾が降ってきて、地面に突き刺さる。アーサーの能力、ウェポンクリエイト。自分の体重以下の質量なら、武器を自在に作り出す事が出来る。勿論体力をその度に消耗するらしいが。
瞬く間に、遮蔽物が無い荒野に簡易陣地が作られる。
流石だ。世界でもトップレベルのフィールド探索者の実力は伊達では無い。あの最強の男、Mでさえ一目おくだけのことはある。
ジョーは降ってきた盾の一つに身を隠すと、此方に来るように誘導。
周囲を囲んでいる戦力は、軽装備らしい。足音、気配、話し声、それら全てから、情報をかき集めていく。
戦車の類は、今のところいないようだ。
スペランカーの足下に、いきなり銃弾が突き刺さる。
アーサーが、更に盾を増やした。
「ふむ、狙撃手の腕は、さほど良くないようであるな」
「だが数が数だ」
「蹴散らすか」
「慎重に対応する」
持ち込んできている銃は、アサルトライフルに、拳銃二丁。これに加えて手榴弾と、レーションを数日分。さほどの重装備は、持ち込むことが出来なかった。せめてロケットランチャーや対物ライフルくらいは持ってきたかったのだが。
ただし、今手にしているFN SCARは、7.62x51mm NATO弾仕様の大口径型。多少の怪物程度は、腕次第で充分に仕留められる。フィールド内には様々な怪物が跳梁跋扈している事が多く、このフィールドでも人型の連中の正体は怪物である可能性が極めて高い。また、この銃は狙撃も行えるほど精度が高く、各国で高い評価を得ている。
ジョーが手にしているのは、その中でも最新鋭の実験モデルだ。モジュールの取り替えでグレネード弾まで発射できる。実践での評価テストを、今回の作戦では兼ねている。
もっとも、少し触っただけで、ジョーは調整が必要だと考えていた。
砂塵の中、敵がまた発砲してきた。
アーサーが展開している無数の盾にはじき返されて、弾丸が彼方此方に飛ぶ。ヘルメットを被り直しながら、スペランカーがとてとてと特徴的な足音で、ジョーの隠れている盾の側にまで来た。
「ジョーさん、どうして急いでいるの?」
「気付かれていたか。 だが、会話は最小限にしろ」
盗聴器が、服なり装備なりに仕込まれている可能性がある。
何しろ、このフィールドは。
かっての、この地域の。歴史の闇そのものを示す存在である可能性が高いからだ。
敵が射撃を繰り返しながら、近づいてくる。足音は規則的で、まるで砂塵を苦にしていない。
ゴーグルは準備してきてある。既にジョーはスペランカーに手渡して、装着させた。もたもたと不慣れな様子で装着しているが、別に捕まらなければそれでいい。スペランカーには、盾と邪神への対処以外には期待していない。
冷酷な考えかも知れないが、戦場では現実的に思考を進めなければ、死ぬ。
砂塵の中、敵が見えた。
狙撃。
頭を撃ち抜かれた敵が、膝から崩れる。応射があった。盾に弾かれて、弾の殆どが軌道をそらす。
後方からも来ていると、アーサーが警告。敵は足音を殺して近づいてきているが、ジョーも察知はしていた。
「少し散らしておくか?」
「力の無駄遣いはするな」
「応、任せておけ」
アーサーが、虚空に無数のたいまつを出現させる。この砂塵の中でも、火が消える様子が無い。
放物線を描いて飛んでいったたいまつが、着弾。盛大に炎を噴き上げた。
爆炎の中、数体の人影が、距離を置こうと下がる所に、振り向いてジョーが狙撃。数体を仕留める。
弾丸を装填。
足音は、怖れずに近づいてきている。
そろそろ、狙撃から、制圧に切り替えるか。ジョーが銃のモードを切り替えると同時に、敵がどっと盾の陣地になだれ込んできた。
乱戦になる。
躍り込んできた一人を、即座に蜂の巣にしつつ、跳び下がる。周囲は銃弾が飛び交っているが、ジョーは即座に振り返り、二人を打ち倒した。
アーサーが剣を振るい、見る間に数人を斬り伏せた。
銃を乱射しながら走ってくる一人。横っ飛びに跳ねながら、弾丸の雨を浴びせる。蜂の巣になり、前のめりに倒れる敵。更に跳ね起きながら、一人を射殺。
その間、脇腹、肩、右腕に、それぞれ二発ずつ弾丸がかすめていた。
アーサーの至近後ろから、敵が銃をぶっ放そうとする。
其処に割って入ったスペランカーが、代わりに蜂の巣になった。あの銃、StG44か。アサルトライフルの最原型となったものだ。
倒れたスペランカー。だが、気にする必要は無い。
即座に、スペランカーを撃った奴を、アーサーが切り伏せる。
「すまぬな、スペランカー殿」
心臓を撃ち抜かれて即死したはずのスペランカーが、少しすると、身じろぎして、呼吸をはじめる。
何度観ても驚かされる光景だ。
更に二人を倒した時には、敵の襲撃は止んでいた。
立ち上がったスペランカーは、服の埃を払いながら、苦笑いしていた。
これが、スペランカーの身を覆う特殊能力、海神の呪い。身体能力、知能の著しい低下と引き替えに、十代半ばの年齢固定と、不死を実現する。正確には死ぬと、周囲の物質を吸収して蘇生する。攻撃によって死んだ場合は、攻撃者から損害部位を補填して蘇生する。
このため、スペランカーは日常生活でもたびたび死ぬほど脆弱だが。このような人外の魔境に来ても、生きていられるのだ。
今倒した敵達にしても、動きは熟練兵並だ。ただし単純な身体能力の話である。銃の扱いは、さほど優れているとは言えない。狙撃はかなりお粗末だった。
ジョーは自分の傷を確認しつつ、敵の死体を見聞する。
やはり、間違いない。
エンブレム、武装、何よりもその衣服。鍵十字のバッチまで、身につけている。これは露骨すぎるほどだ。
「ふむ、ナチ親衛隊か」
「ああ」
ナチス親衛隊。
かって、ヨーロッパに存在した最悪の独裁政府の、中枢部隊。独裁者ヒトラーの周囲を固めた、忠誠心が高い戦力である。人員には優秀な兵士が多いドイツ軍の中でも、更にエリートが選抜され、強大な戦闘力を誇った。しかしながら暴虐を率先して振るったため、同じドイツ軍の中でさえいとまれた存在でもあった。ヒトラーの手足であった関係上、多くの戦争犯罪にも関与している。
勿論、ナチスドイツの親衛隊兵士が、このような形で襲ってくる筈が無い。敗戦によって劫火に沈んだヒトラーの帝国と共に、多くの親衛隊兵士が死に、残りも再起はかなわなかった。
しかも、それから70年近くが経過しているのだ。
もう少し死体を調べてみるが、どうやら人間では無い様子だ。見かけは人間に近いのだが、全体的に異様な特徴が見て取れる。
指の間に水かきがあるのが、その際たる特徴だろう。
どの死体も、微妙に人間とは異なっている。中には、無数の牙を生やしたものまでもが、存在していた。
これならば、先ほどの身体能力にも、納得がいく。
しかも近代兵器を使いこなすとなると厄介だ。最古参の突撃銃といえど、充分に人間を殺傷できる力を持っている。
死体は二十程度を確認できた。一個小隊規模だ。
「攻撃部隊が、この程度で済むはずは無いな」
「縦深陣を敷いて待ち構えていると考えてよかろう」
「アーサーさん、ジョーさん」
スペランカーが何か見つけたらしく、手を振っている。歩み寄ると、まだ息がある奴がいた。
ただし、ジョーが容赦なく叩き込んだ弾丸が、体中に食い込んでいる。間もなく死ぬだろう。
そのままとどめを刺そうかと思ったが、スペランカーに止められる。
「貴方、邪神の眷属だね。 貴方の支配者は誰?」
「き、きさま。 ほ、ほんとうに、にんげん、か」
「出来れば、戦わずに済ませたいの。 教えて」
此奴は。
この状況で、戦闘を回避できるとでも本気で思っているのか。実際、幾つかの邪神を相手に、交戦を諦めさせ、降伏させた手腕もあると聞いているが。今回は、それとは状況が違っている。
E国をはじめとする国に存在する幾つかの組織が、既に動いている。
その中には、非常に危険な連中も含まれている。もしも、この件が表沙汰になり、その全容が知られれば。
下手をすれば、経済圏が一つ、丸ごと吹き飛びかねない。
「這い寄る……混沌」
人間型の怪物の目から、光が消えた。
どうやら、スペランカーを呼んで正解だったようだ。もっとも、彼女の方でも、此処のことを探知していた節がある。
「行くぞ。 いずれにしても、敵の群れを突破しなければ、先には進めない」
「ジョーさん」
「邪神については任せる」
スペランカーは何か言いたそうにしていたが、今回の件は速攻で処理しなければ非常に危険だ。
おそらくはそれを理解した上で、ニャルラトホテプの本体も、此処に潜んだのだろう。
ジョーが最初に此処に出向いたとき、焦燥しきった地元の住民から、聞かされたのだ。この町には、かってナチが遺産を隠したという伝説があると。
そんなものは伝説に過ぎないだろう事くらい、ジョーも分かっている。
だが、もしも、それを邪神に本当にされたら。
連中には、それが出来るだけの力が存在しているのだ。
アーサーが、スペランカーを気遣いながらついてくる。手には、先ほど出現させた盾の一つを持っていた。
「ジョー殿。 今回の件、スペランカー殿に詳しく話した方がよかろう」
「今はその時間が無い」
「焦りは負けに直結すると我が輩は思うが」
「貴殿も分かっているだろう。 今、俺たちが、非常にまずい案件に関わっていることくらいは。 急いで此処に巣くった阿呆を処理しないと、EUが転覆しかねない」
「確かにそれは同意であるが」
アーサーが眉をひそめた。
この男は、見かけのけったいな鎧と裏腹に、極めて聡明だ。ジョーが言っていることくらいは理解できるはずだが。
一体何を懸念している。
スペランカーは、確かに高い周囲との親和性を持つ。スペランカーの周囲には、多くのフィールド探索者が集まっているのも事実だし、実際ジョーも信頼している。だが、この案件は、それとはまた、次元が違う問題なのだ。
同じE国人なら、アーサーにも分かるはずなのだが。どうして、懸念を示しているのか。それが、ジョーには理解できない。
この地域に住む人間にとって、ナチという言葉が、どういう意味を持っているのか。それを理解できていないわけでもあるまい。
磁石を観ながら、進む。
足を止めたのは、気付いたからだ。敵が待ち伏せている。
此処の地形は待ち伏せに最適だ。
前方に、大きな丘があり、しかもU字をしている。敵は、堂々と其処に布陣していた。重機関銃も据え付けているようだ。
敵陣は此方を丘から見下ろす形になっていて、簡単には突破できそうに無い。しかもこちら側からは、射線を遮られる場所に、敵が布陣している。更に言えば、迂回して進めば、背後を突かれる。
攻撃し、制圧するほか無い。
既に敵は此方に対する防衛体制を整えている。敵陣は、可能な限り潰して行かなければならないだろう。
この丘も、前に来たときは、敵がいなかった。
最初から多めの兵力が動員できていれば、こんな面倒は無かったのに。しかし、最初にジョーがこのフィールドに来ていたから、偵察自体は上手く行ったのだと思うと、まだ事態はマシだとも言える。
世の中は、上手く行かないものである。
周囲を回って、敵の防備を確認していく。唯一、丘がなだらかになっていて攻めこみやすい場所には、複数の重機関銃が据え付けられていて、非常に守りが硬くなっている。此方は距離を取っているが、近づけばたちまち察知されるだろう。
相手は戦略も戦術もしっかり理解しているとみて良い。
化け物といって馬鹿には出来ない。以前アトランティスで戦ったのと同じ、知性のある亜人だ。
「このような敵陣を、一つずつ抜いていかなければならぬとは、難儀であるな。 スーパージョー」
「やむを得ん」
スペランカーを一瞥する。少し離れてついてきているが、泣き言を言うような気配は無い。
戦闘で敵を殺した事についても、頭の切り替えはとっくに出来ている。この辺りは、見かけ通りの小娘では無いので、ジョーとしても安心できる所だ。
攻撃をする事に決める。スペランカーを手招きして、アーサーにもプランを説明。二人の同意を得られた。
もっとも、ジョーが提示した案は、極めてスタンダードなものだ。これ以上の案は、思いつかない。というよりも、この場には思いつける人間がいないだろう。
手榴弾を取り出し、ピンを引き抜く。
そして、三つを同時に全力で投擲した。
爆発が巻き起こり、重機関銃の周囲にいた敵兵が、まとめて吹っ飛ぶ。かつて手榴弾は、複数をまとめて戦車に投げつけて破壊することが出来たと言うが、それは装甲が薄かったからだ。
手榴弾は、爆発の破壊力で敵を倒すのでは無い。飛び散る破片で敵を殺傷する武器へと変化している。
「GO!」
突入開始。
頭を低くして、突入する。
アーサーが、敵陣に連続して、先ほど使ったたいまつを叩き込む。凄まじい火柱が上がり、敵が悲鳴を上げて逃げ惑う。混乱している敵の中に躍り込むと、ジョーはアサルトライフルをぶっ放し、制圧射撃に取りかかる。倒れている敵を踏み越え、陣の奥に。
敵は、やはりナチの格好をしている。
砂塵の中とは言え、戦場は戦場。一瞬の判断が、勝負を分ける。容赦なく敵を打ち倒して行くジョーに、アーサーが追いついてきた。
降り注ぐ剣が、迎撃態勢を取ろうとする敵兵を、次々貫く。
スペランカーはアーサーの側をついて離れず、しっかり自分の身を守ることに終始していた。
それでいい。ジョーは一瞬だけ視線をスペランカーと合わせると、敵を屠り続ける。再び手榴弾のピンを引き抜くと、放り投げる。柵の向こうにいた敵が、数人まとめて消し飛んだ。
本当なら迫撃砲を使いたい所なのだが、それを持ち込めるほどの重量的余裕が無い。或いはアーサーが作れるかも知れないが、近代兵器を完璧に再現できるとは思えない。手榴弾の投擲に関してはそれ相応の腕前があるし、代替手段は整っていたから、それで良かった。
奇襲は成功。
だが、スペランカーが、予想外の行動に出る。
電子手帳を使って、ドイツ語で呼びかけたのだ。
「投降して! 武器を捨てれば、命は取りません!」
まだ抵抗を続けている敵の反撃が、露骨に鈍くなるのが分かった。ジョーは目についた相手を容赦なく打ち倒していたが。
しかし、手を上げている敵が数名出ると、流石に舌打ちして銃口を下げざるを得なかった。
アーサーが縄を取り出すと、手際よく縛り上げはじめる。
銃の状態と、自分の怪我について確認。弾が数発掠っているが、致命傷にはなり得ない。ただし、確実に傷は増えてきていた。
それにしても、劣勢とは言え、ナチ親衛隊がこうも簡単に降伏に応じるとは。
此奴らは、ナイーブな問題に踏み込んでいるだけで、ただの怪物、と言う訳なのだろうか。
「私が尋問するから、ジョーさん、周囲を警戒して」
「……時間は無いぞ」
「うん」
スペランカーは、さっきの戦いで被弾していない。アーサーがしっかり守りきったから、だろう。
降伏したのは数名。残りは全てが、ジョーとアーサーの苛烈な攻撃に倒れた。
周囲を警戒しながら、捕縛した敵を確認する。
やはり、微妙に人間とは異なっている。
耳がとがっていたり、眼球が青く濁っていたり。口の中には、鋭い牙が並んでいる者もいる。
服を脱がせれば、更に人間とは違っているかも知れない。
しかし、アトランティスに足を運んだこともあるジョーは、いわゆる奉仕種族の思考が、人間よりもむしろ善良である事を知っている。彼らは邪神に仕えるという最上位命令に従う特性さえ除けば、むしろ純朴で真面目な民である。
此奴らまでそうなのかは、判断が出来ないが。
「お、お前は。 神の力を感じるぞ」
「私の体内には、ダゴンさんと、ニャルラトホテプさんの一部がいるの。 話を聞かせて欲しいんだけれど、いいかな」
「……神の力には逆らえない。 何が知りたい」
任せておいて、問題は無いか。
ジョーに対しては口を割らないだろう連中も、スペランカーに対しては口が軽くなる。実際、体内に二匹も邪神を飼っているという話だ。それならば、奉仕種族に対して、強制力を持っていても不思議では無いか。
此処から、どう進軍するかが問題だ。
密林までは、さほど距離も無いが。
まだ、敵の迎撃が何カ所かである事が想定される。幾つかの場所には、監視のトーチカも作られている事が、先の偵察で確認できていた。
勿論この陣地への奇襲も、敵は察知しているとみて良いだろう。
「ジョーさん」
スペランカーが呼んでいる。
残り時間は、著しく少ない。