オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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ニャルラトホテプの一部を従え取り込んだ事で、更にスペランカーの力は増しています。

どうにか歩調を整える事が出来たフィールド探索者達。

各国の軍。

世界の命運を賭けた戦いが始まろうとしています。


1、決戦の秋

意外にも、よく眠ることが出来た。

 

昨日は徹夜になるかと思ったのだが、川背が入念にしておいてくれた準備のおかげで、殆どする事は無く。

 

徹夜するか不安だった川背も、徹夜をせず、早めに休んだようだった。今回は、戦闘に直接行かないスタッフに、背後を任せることとしたらしい。

 

スペランカーは目を覚ますと、コットンが眠っていることを確認して、出かける準備を始める。

 

装備などは、既に整えてある。どれだけ消耗するか分からないから、予備の備品についても充分に用意した。

 

国連軍は全面的な協力を約束してくれたが、これには裏がある。

 

ニャルラトホテプと一部の国連軍上層が結びついていたのは周知の事実だったのだが。この間の戦いで、スペランカーが下したニャルラトホテプ中枢から、その裏付けデータがぼろぼろと出てきたのである。

 

川背がこれを有効活用したのだ。

 

このデータを表に出さない代わりに、協力してもらう。それで、水に流す。

 

勿論反発はあった。

 

だが、もとより国連軍上層にも、ニャルラトホテプと結びついてフィールド探索者を排除しようという動きには、反対する勢力もあった。

 

暗闘で、幾らかの血が流れたという。

 

だが、結局の所、どうにか合意には成功した。

 

他の幾つかの勢力も、今回の作戦に関しては、利害が一致している。フィールド探索社としては、異星の邪神の被害には頭を抱えていたし、今後の仕事がなくなるわけではないのならと、殆どの大手が参加を表明してくれた。

 

勿論、全世界がまとまる、などという夢物語は実現しなかった。幾つかのフィールド探索社は、作戦への参加を拒否したし、静観を決め込んでいる勢力は多い。それでも、二十数万の兵力が展開することが出来る。

 

半魚人やミイラ男、それに骸骨の戦士達も、参戦を希望している。

 

しかし、奉仕種族である彼らは、邪神の影響を受けやすい。スペランカーと一緒に、少数の精鋭が出向くだけが限界だろう。残りの者達は、作戦のバックアップに廻ってもらう。それだけで充分なはずだ。

 

作戦の指揮は、現役を引退した何名かのフィールド探索者に行ってもらう事になる。

 

前線ではそれぞれの裁量が重要になるが、状況に応じて援軍などを投入しなければならない。

 

彼らは充分な能力を持つベテランだ。後方を安心して任せることが出来るだろう。

 

父の形見である、ブラスターを見つめる。

 

出来れば、これを使うのは、今回で最後にしたい。残った時間を考慮すると、使用は二回が限界だ。

 

八つある攻略地点を、二カ所ずつ潰すとして。それで、残る時間は殆ど無いだろう。

 

コットンが起きてきた。

 

半魚人の長老に任せて、出かけることにする。コットンは、スペランカーが必ず生きて帰ると信じているからか。

 

笑顔で送り出してくれた。

 

できれば、これも最後にしたい。

 

元々、まともな生まれでは無く、酷い虐待を受けて育って来たコットンだ。スペランカーとしては、出来るだけ一緒にいてあげたいのである。

 

だが、しばらくはそれも難しいだろう。

 

アザトースを救うことが出来たとして、その後も異星の邪神そのものが消滅するわけでは無い。

 

フィールド探索者としての仕事は、終わることがない。

 

家の外に出ると、川背が待っていた。

 

彼女も、コンディションを完璧に整えていた様子だ。これから、即座にでも、戦いに出ることが出来るだろう。

 

「先輩。 行きましょう」

 

「うん。 これが、決戦だね」

 

話しながら、急ぐ。

 

既に、アザトースの支配下にある星々へ行くゲートは、完成している。ニャルラトホテプを従え、その知識と力を解析したことで、本来意識も無ければ現象に近いヨグ=ソトースの力を使えるようになったのだ。

 

ただし、あまり長時間は使えないだろう。

 

そもそも、多数の軍勢を転移させるというのが、無理のある行為なのだ。倒した後、できるだけ急いで脱出もさせたい。

 

作戦司令部に着く。

 

とはいっても、神殿の前にある野原だ。其処には既に四つの転移魔法陣が用意されており、スタンバイされていた。

 

それぞれの部隊の中核となる、M、L、それにPも来ていた。スペランカーが一番最後である。

 

アーサーとジョーもいる。彼らには、スペランカーの前後を固めてもらう。今回は、他にも多くの戦士が来てくれていた。いつでも、作戦開始は可能だ。

 

Mは嫌みを言う気にもならないらしく、腕組みをして傲然と魔法陣を見つめている。

 

作戦の骨子は、こうだ。

 

まず主力部隊が突入して、周辺の安全を確保。

 

それから国連軍の部隊が投入され、周囲に簡易基地を建設する。このたびの作戦には、最新鋭の軍艦も投入可能なことが判明している。基地を作った後は、無人機などの機械を使い、可能な限りの速度で敵中枢に接近、これを制圧する。この際、国連軍は可能な限りのバックアップを行う。

 

偵察に関しては、ヨグ=ソトースへの干渉を行い、小規模の「扉」を複数箇所、それぞれの惑星に展開できる。これを利用すれば、短時間で移動や偵察が行える。ただし、あまり多くの扉を開けると、危険が生じる可能性が高い。最初に空ける場所は限定して、それ以降も増やさない方針で行く。

 

もしも敵に交戦意思が無ければ、降伏を促すとしているが。

 

難しいだろう。スペランカーでさえ、そう思う。

 

というよりも、アザトースの情報を見た後だと。その取り巻きが、もっとも酷い狂気に汚染された存在だと分かる。会話どころか、意思の疎通さえ出来ない可能性が高い。倒すしかない。

 

屈強なミイラ男の戦士達と、半魚人の戦士達、骸骨の戦士達も、既にスタンバイを終えている。

 

アトランティスの守護者として、邪神に作られた彼らは。今はもう、スペランカーの大事な家族だ。

 

少し奥には、非常に巨大な半魚人の戦士がいる。少し前に、ガーディアンとしてこのアトランティスの中枢にいるところを発見、保護した戦士である。

 

「α、β、γ、σ。 各班、突入開始!」

 

時間が来た。

 

スペランカーが、最初に魔法陣に踏み込む。

 

周囲の空間が一気に切り替わる。何万光年、いや下手をするともっとその何倍もある距離を移動したのだから、当然だ。

 

上下が入れ替わるような違和感。

 

着地は、どうにか出来た。空気などは問題ないことが、事前に確認できている。とりあえず、虚弱なスペランカーがこの時点で死ぬようなことが無ければ、後続が突入と事前に決められていた。

 

合図を出す。方法としては、転送魔法陣の向こう側に、照明弾を上げる。すぐに川背が続いて入ってきた。アーサー、ジョーと間髪入れず突入してくる。アーサーは即座に周囲に盾を展開して、簡易陣地を作った。ジョーは狙撃用のライフルを構え、油断無く辺りを見張っている。

 

見ると、周囲はどこまでも草原が広がっている。

 

地球にもありそうな、穏やかな光景だ。スペランカーが来たのは、この星系に存在する第一惑星。事前の無人偵察機では、温度や大気組成などは分かったのだが、光景までは分からなかった。

 

むしろ、美しい星だ。

 

ただし、異様なのは、空。

 

まるで、ぶちまけたような金色。この異常な光、見ているだけで、頭がおかしくなりそうだ。

 

太陽も見当たらない。或いは、恒星そのものが、アザトースに吸収されてしまっているのだろうか。いや、それではこの環境に説明がつかない。あまりにも、理不尽すぎる。

 

此処は、アザトースの体内なのだと、嫌でも思い知らされる。

 

「周辺、敵影無し」

 

「支援班突入! 簡易陣地構築開始!」

 

ジョーが冷静に指示を出し、護衛の戦力が突入を開始する。兵士達と一緒に、今回の支援の肝となる、巫女のサヤが魔法陣をくぐった。彼女の式神は、広域探索に非常に頼りになる。

 

他の場所にある大型魔法陣から、軍の部隊も突入を開始した。

 

すぐに、周辺探索のための基地が構築開始される。勿論、敵は迎撃をしてくるとみて良いだろう。

 

サヤは空を見て、口を押さえた。

 

「何ですか……あの空」

 

「出来るだけ見ないで。 すぐに式神を展開」

 

「わ、分かりました!」

 

川背が指示を出して、サヤがもたもたと動き出す。

 

武闘派では無いのだし、仕方が無いか。スペランカーは、今の時点ではする事が無い。乗り込んできた軍部隊が、偵察のための設備を持ち込み、基地を組み立てていくのを、見ているだけである。

 

ジョーが軍に指示を出しながら、てきぱきと戦闘の準備を始めていた。

 

アーサーが、叫ぶ。

 

「敵が来たぞ!」

 

空を覆うほどの数。

 

しかも、どれもこれもが、得体が知れない。生物とはとても思えない。どれもこれもが不定形で、どうやって空を飛んでいるのかさえも理解できない。

 

即座に対空兵器が起動する。

 

遅れて入ってきたフィールド探索者達も、空に対する攻撃を開始。アーサーもジョーも、それぞれの手段で、空への迎撃を開始した。

 

無数のロケット砲が咆哮し、大量の爆発による華が空に咲く。だが、やはり効果が薄い。他の部隊も、苦労しているはずだ。

 

間近まで、敵が降りてくる。

 

アーサーが、瞬く間に数体を斬り伏せた。大斧や剣を出現させ、次々に敵に投擲して叩き潰している。

 

それを、少し後ろからジョーが支援。スペランカーは走り回りながら、攻撃を受けそうな味方を庇ったり、割って入ったりして、被害の軽減に努め続けた。

 

かなり大きな奴に、振り子の要領で川背が蹴りを叩き込む。

 

地面に叩き付け、すぐに次へ。

 

まるで空を舞うように、遠心力と重力を味方に付け、川背は空中戦を展開している。その機動力は凄まじく、敵を寄せ付けていない。ルアー付きゴム紐という武器を、完全に己の一部にしている。

 

大物を片っ端から仕留めていく川背は、実に頼もしい。万を超えていた敵が、徐々に退きはじめる。

 

「解析を開始。 どこから来たのか、探れ。 敵の本拠には、最精鋭だけで攻撃を仕掛ける」

 

ジョーが淡々と敵を撃ち落としながら、情報士官に指示。

 

その情報士官の至近に、大型の怪物が降りてくる。悲鳴を上げる士官の眼前で、真上からの一撃が、怪物を文字通りぺしゃんこに叩き潰した。

 

怪物の上で身を起こしたのは、アリス。

 

以前スペランカーが共闘した、E国の最年少フィールド探索者だ。

 

「敵は此方に任せ、解析を進めるのですわ」

 

「は、はいっ!」

 

情報士官が、すぐに作業に戻る。嘆息すると、アリスは次の敵を叩き潰すべく、風船を片手に空に舞い上がった。

 

敵はまだ本腰を入れていない状態である事は、目に見えている。やはり軍で相手は無理か。

 

轟音と共に、爆発が巻き起こった。

 

ミイラ男達が、虚空に火球を放ち、迫っていた敵の群れを叩き落としたのだ。戦いは、周囲に任せて問題無さそうだ。

 

「陣地の構築を急げ。 対空砲火が薄い。 増援を手配しろ」

 

ジョーがてきぱきと指示をしている。無人機も、飛ばされはじめた。自動制御のものが中心で、まずは偵察をすることで、この星の事を把握する。

 

魔法陣を通って、偵察部隊の人が来た。

 

ジョーと話をしている。ジョーは頷くと、此方に来た。

 

「他の星も特徴的な構成のようだ。 Pが突入した星は一面が砂漠。 Lの担当は、一面が海。 そしてMが突入した星は、巨大な生物が闊歩しているとか」

 

「まだ、Kさんは姿を見せていないの?」

 

「今の時点では確認できていないようだな。 偵察機を出すことで、他の星についても調べてはいるようだが」

 

サヤが多数の式神を周囲に放って、偵察を続けている。偵察機も、何機かが戻ってきて、情報が集まりはじめた。

 

敵は散発的に攻撃をしてきているが、その都度の撃退に成功している。敵が本気にならない内に、手の内を見ておきたい。そう、ジョーは言った。

 

二時間ほどで、前線基地の構築が終了。

 

対空砲火のための充分な戦力も揃い、兵士達やフィールド探索者達が、交代で休憩に入る。今の時点で、可能な限り休まないと危ない。

 

地図ができはじめる。

 

偵察機は大まかな地形を確認。具体的な情報を持ってくるのは、式神達だ。

 

この星は決して大きくは無い。それでも、人間が歩いて調べるには広すぎる。ただでさえ、時間は限られているのだ。

 

敵が襲撃を仕掛けてくる間隔が開きはじめる。

 

総攻撃の準備を始めたのか、或いは何かしらの目的があるのか。ただ、敵の数が消耗してきた、というのなら有り難いのだけれど。そのようなことは無いだろう。

 

十時間ほど散発的な戦いが続いた後、地面に叩き落とした怪物の上から、川背が声を掛けてきた。

 

「先輩、此処は僕が支えます。 少し休んできてください」

 

「川背ちゃん、無理はしないで?」

 

「分かっています。 本番まで力は温存しますから」

 

川背はそう言って、返り血を手の甲で拭った。

 

自室に戻ると、言われるままに少し仮眠を取る。三時間ほど眠ったところで、サヤが来た。重要な情報が、見つかったらしかった。

 

会議室に出向く。プレハブで構築した会議室だが、それなりに立派だ。ジョーが整理された情報を元に地図を作っている。

 

それによると、この星には三つの大陸があり、今いる場所はどうやら一番大きいらしい。サヤが、地図上の赤い点を、指さしながら言う。

 

「土管が、彼方此方にあるみたいです」

 

「土管……?」

 

「これです」

 

偵察機が撮ってきた写真を見せる。

 

最初に休憩に入った一人であるアリスが、腕組みしながら言う。トレードマークである帽子と風船は、こんな時にも手放していない。

 

「ドカン? これは大型の排水管ですの?」

 

「普通なら、そういった用途で用いられるのですが……」

 

川背が来る。

 

外はアーサーだけに任せてきたという。それだけ、重要な情報だと言うことだ。外では戦闘音が響いているが、アーサーなら支えられるだろう。

 

サヤの説明によると、式神が調べたところ、どうも別フィールドにつながっているらしいのだ。

 

ジョーが、補足する。

 

「偵察機で既に星全体の偵察をざっとすませたが、地上にこの星を守護する邪神がいるとは考えにくい」

 

「つまり、地下に敵の拠点なりお城なりがある、のかな」

 

「そう見て良いだろう。 何故土管を移動ポイントとして用いているのかは分からないが……」

 

とにかく、片端からそれを調べていくしか無いだろう。

 

数百カ所はある土管だが、偵察機で調べ上げ、式神達やフィールド探索者で、手分けして探していくほか無い。

 

問題は多数存在している怪物達だ。式神達は実体が無いも同然だが、フィールド探索者はそうは行かない。

 

この拠点を失うわけにはいかないし、手練れを分けるのは危険と見て良いだろう。それに何より、Kと配下達が、どう動くか分からない。

 

「それにしても……」

 

川背が腕組みした。

 

彼女は、嫌な予感がすると言う。

 

「恒星からの距離から考えて、この星は灼熱地獄になっている筈です。 それをテラフォーミングしたのか。 或いは、アザトースの力で、こうしているのか。 だとすると、理由は何故なのか。 気になりますね」

 

「私、何となくわかるな……」

 

「先輩?」

 

「この星、一面が草原ばかりなんでしょう? 他の星も、海ばかりだったり、砂漠ばかりだったり。 それに、どうしてか、たくさんある土管。 きっとこの星は、アザトースの心の一部なんだよ」

 

アザトースは貧しい家庭に生まれ育った、心優しい娘だった。

 

遊び場所も限られていただろう。

 

お金のある子供のように、遊戯施設に行ったり、ゲームをしたりという事は殆ど出来なかったはず。

 

心の中にある、印象の深いものが。取り込んだ星々の中で、形を作っているのではあるまいか。

 

会議は一端解散する。

 

アリスは機動力を生かして、手近にある土管を全て探ってくると言い残すと、骸骨の戦士達と一緒にジープでその場を離れた。他にも数名の手練れが、半魚人の戦士達と一緒に、近場の土管を調査に向かう。

 

他の星での戦況も、逐一入ってきている。

 

Mは既に敵を駆逐。やはり、同じように林立している無数の土管を調べに走っている様子だ。

 

そろそろ、この星に来てから、丸一日が経過しようとしている。

 

敵首魁の影を、今だ掴むことは出来ていない。

 

 

 

辺りには、敵意の無い巨大生物だらけだ。大きな亀に蛇、兎に犬。いや、どれも微妙に違っている。

 

スペランカーの談話は、Mの元にも届いている。つまりこの動物どもは、アザトースが幼い頃飼っていたか、或いは友だった連中なのだろう。猫に近い生物もいるが、此方を襲うそぶりは見せない。普通だったら、肉食獣として、人間を襲うサイズにもかかわらず、である。

 

夢の世界。

 

いや、思い出の一部を、抽出して作り上げた世界、ということか。

 

厄介なのは、群れている怪物共も非常に大きいと言うことだが。

 

Mにとっては、雑魚でしか無い。ただ、支援のために来ている兵士達は、戦々恐々としている様子だが。

 

「Mさーん!」

 

リンクが手を振っている。

 

上空に出現した数百の敵を焼き払い終えたMは、面倒くさいと思いながら、地上に降りた。この程度の雑魚など、どれだけいても敵では無い。

 

リンクは、無数の使い魔を放って、周囲を探索している様子だった。此処にはリンクとMしか来ていないから、探索能力に関しては任せるほか無い。軍も、他の星に多めに回している。

 

簡易陣地は既に出来ているが、殆ど自衛用だ。

 

「見てください。 やはりこの星も、土管だらけですね。 どれもが、別の場所にそれぞれ通じている様子です」

 

「何か法則性は?」

 

「何とも。 総当たりで調べていくしかないですね」

 

舌打ち。

 

雑魚どもが、また姿を見せた。

 

どれもこれもが、生物とは思えない姿をしている。意思があるのかさえ怪しい。それなのに、此方に対しては、明確な敵意を向けて襲いかかってくるのだ。

 

黄金の空に、無数の得体が知れない怪物。

 

精神的な体調を崩す兵士が続出している様子だ。足手まといだが、此奴らがいないと、偵察機の操作や、情報の整理も出来ない。民間人を連れてくるわけにもいかないし、難しい所だ。

 

この星は、他の三チームが向かったものより、かなり大きい様子だ。星系の中程にある、本来はガス惑星だった筈の場所だという。

 

上空に飛び上がると、荒っぽくMは無数の火球を出現させ、敵に叩き付ける。近づかせさえしない。

 

片っ端から爆殺し、敵影が消えるのを確認してから、着地。

 

補給物資の所に出向くと、乱雑に乾燥キノコを引っ張り出し、喰う。これは、Mにとってアキレス腱である「姫」の故郷の特産品。いつもこれを食べる事によって、姫の力の供給を得る。

 

Mの力は圧倒的だが、その根源は他者にある。

 

逆に言うと、だからこそ、Mは此処まで強くなれたのかも知れない。

 

むしゃりむしゃりと、キノコを食べている内に、リンクにまた呼ばれた。

 

「どうした。 手短に言え」

 

「見てください。 これですが」

 

「む……?」

 

映像は、偵察機が撮ってきたものらしい。

 

どうやら、巨大な建造物。それも、まるで地面に沈み込むようになっている。建造物自体は球形に近く、かなり形が残っていた。

 

「人工衛星か何か?」

 

「いえ、おそらくは宇宙コロニーかと」

 

「コロニー、だと?」

 

「直径がおよそ七キロ。 南側の大陸に存在していました。 しかし、この大きさだと、固い地面にぶつかったりしたら、どんな素材であっても木っ端みじんになるのは避けられないのですが」

 

技術士官が、不可思議そうに眉をひそめる。

 

それに、埋まっているのも妙だ。いずれにしても、調べるほか無いだろう。

 

「私が行ってくる。 リンク、お前は此処の連中を護衛しろ。 手が足りなそうなら、控えを呼べ。 私が許す」

 

「分かりました。 座標は、此方です」

 

渡された座標までは、それこそ大陸を横断するほどの距離があるのだが。

 

生身で宇宙空間を航行できるMにとって、その程度の距離は何でも無い。空中に浮かび上がると、一気に最高速まで加速。空気さえはじき飛ばしながら、全速力で何かよく分からないものの所まで移動。それでも、元が木星クラスの惑星だ。一時間ほど、到着まで掛かった。

 

着地。

 

フィールド内という事もあり、此処ではもう通信も届かない。

 

目の前には、巨大な宇宙ステーションだかコロニーだかの残骸がある。確かに、直径七キロと言うだけあり、とんでも無く壮大なサイズだ。全体は球、いや円と言うべきだろうか。

 

リング状の物体が、半分地面に突き刺さるようにして、埋もれている。

 

中枢部分の球体は、Mが見たところ、完全に無事。

 

たしかに硬い地面にぶつかったら、大爆発を起こすか、良くても粉々の筈だ。近づいてみる。

 

そして、違和感が、確証に変わった。

 

明らかに、地面に激突した衝撃を受けていないのだ。これは、この星が、夢の、思い出の世界だから、なのだろうか。

 

地面に落ちたのでは無いのか。

 

中に入ると、生活空間らしきものが、まるまる残っていた。通路は傾いているし、物資は散乱しているが、それでも破壊の跡が無い。人間らしきものの残骸は無い。スペランカーの話によると、この星系の文明は、人間に極めて近しい生物が作っていたという事なのだが。

 

動力系統に至っては、生きていた。

 

扉の何カ所かは、自動でスライドして、Mを通した。それで気付く。生物による腐食の跡が見当たらないのである。

 

邪神の気配も無い。やはり、いるとしたら、地下か。

 

幾つか、面白そうな資料を拾い集める。Mはその能力で、手にしたものを小型化することも出来る。

 

内部に怪物が巣くっているようなことも無い。探索は順調に進み、二時間ほどでメインのコンピュータルームらしきものに辿り着く事が出来た。

 

中枢部には、巨大な球体が存在した。部屋自体が、野球のドームほどもある。その中央にある球体が、間違いなくこのコロニーのマザーシステムだろう。

 

これは、技術士官に調べさせると面白いかも知れない。この星を制圧した後にでも、派遣させるといいだろう。時間は限られているが、人類にとって貴重な発見が出来る可能性は高い。

 

Mとしても、幾つかの勢力に恩を売ることが出来る。

 

「おい、言葉は分かるか」

 

話しかけてみる。

 

とはいっても、正直Mにはどれが端末かも分からない。広大な部屋の中で、Mのドスが利いた声が響き渡る。

 

「システムは死んでいると、判断して良いのだな?」

 

「klahf;sahdfoa;sdhaocdnfiuaf」

 

なにやら返答があるが、理解できない。

 

鼻を鳴らし、Mが部屋を出ようとした時。驚くべき事が起きた。

 

「脳波解析完了。 貴方の言葉で、話しかけています」

 

「ほう?」

 

「私はこの7772214コロニーのメインシステムです。 二億年ぶりの来訪者よ、一体何の御用ですか」

 

「この星にいる邪神を潰しに来た。 何か知っている事は無いか」

 

わずかな時間、待たされる。

 

そして、コンピュータらしき声は、応えた。

 

「貴方が言う邪神という存在は、おそらく星系そのものを飲み込んだ幸福提供システムアザトースの精神防衛システムかと思われますが、正解でしょうか」

 

「幸福提供システムだと?」

 

「はい。 世界に幸福を撒くために、人格を奪い、白痴にした特殊能力者の事です。 この世界で長年続いた戦争を終結させ、社会の発展を促し、人類に黄金の時代を到来させました。 そののち原因不明の暴走を引き起こし、人類がこの星系を放棄する引き金となりました」

 

知っている。だが、あまりにも胸くそが悪い。

 

そうか、アザトースはシステム呼ばわりされていたのか。人間でも、似たような事をして、罪悪感を消す事はままある。

 

どこの星でも、人間は等しくクズということだなと、Mは心中で嘲弄していた。どいつもこいつも、下劣極まりない。

 

進んだ文明の筈だったのに。それは楽園などでは無かったという事なのだ。

 

「で、その精神防衛システムは」

 

「この星の核に存在しています。 ただし、防衛システムの周囲には、暴走した自動護衛システムが多数存在し、肉薄は困難です」

 

「かまわん。 行き方は?」

 

Mの前に、地図が表示される。

 

どうやらMが、一番手の攻略者になりそうだ。ほくそ笑むと、Mは持ってきたメモ帳に地図を書き写す。

 

一つ気になったので、聞いてみる。

 

「もう一つ聞く。 この星系にいた人間共はどうなった」

 

「アザトースが暴走を開始したのち、ヨグ=ソトースを通じて、様々な世界に逃げ散りました。 のちにヨグ=ソトースがアザトースに吸収され、制御を失ったため、現在の状況は不明です。 この星には少数が残りましたが、環境の激変に巻き込まれ、長い年月は生きられませんでした」

 

「ひょっとして、私達の先祖ではあるまいな」

 

考え込むメインシステム。

 

やがて、結論が出たようだった。

 

「おそらくは違います。 彼らは貴方ほど強靱ではありませんでした。 何より生命情報に、一致のパターンが見られません。 増殖の核となる部分にも、大きな差があります」

 

「ふん、そうか」

 

ぶっ壊してやろうかと思ったが、自重する。

 

此奴の結論はおそらく正しい。この惑星の自転周期から考えて、二億年とは、地球の基準で言えば数十億年に匹敵するはずだ。そんな時代に人類の先祖がいるはずもない。おそらくは、定向進化による姿形の相似の結果であろう。

 

コロニーを出る。

 

後は、情報士官どもに持ち帰った情報を解析させ、此処にいるガーディアンを潰すのみ。魔術師どもがその後は勝手にやるだろう。Mの知ったことでは無い。

 

それにしても、皮肉なものだ。

 

地球の人間どもと、この愚かな星系のクズどもは、こうもそっくりだ。

 

ひょっとして、知的生命体とは、総じてアホでクズでは無いのか。そう考えると、Mはおかしくなって、飛行しながらくつくつと笑いが零れてしまった。途中、何度か怪物どもの群れに遭遇したが、いずれも鎧袖一触、木っ端みじんに打ち砕く。一瞥もせずに、そのまま飛び続ける。

 

基地に到着。

 

持ち帰ったデータを解析させながら、リンクに言う。

 

「この星の人間共は、地球人と同じく、愚劣極まりなかったのだろうな。 メインシステムとやらと話してみて、確認できた」

 

「どこの人間でも同じでしょうよ。 うちの星のだって、万物の霊長なんてほざいてるんだから、知れたものです」

 

「その通りだ。 何が万物の霊長か」

 

感情がこみ上げてきたので、二人で笑った。

 

ひとしきり笑った後は、戦闘態勢に入る。解析班が、どうやらガーディアンの居場所を、割り出したらしい。

 

そして、他の攻略チームにも、この事を伝えに行った。

 

全部で八つの星を制圧しなければならない。

 

足踏みしている無駄な時間は、ない。

 

 

 

土管の数は、発見できただけでおよそ六千。

 

その全てが、別の場所への転送機能を有していた。

 

総当たりで順番に探していく。時間が過ぎていく中、状況に応じてジョーが援軍を派遣したり、或いは撤退を指示したり。困難な事態が続く。

 

スペランカーは、装甲車の中で待機していた。

 

いざとなれば、これで出る事になる。アーサーとスペランカー、川背とアリス。この四人で、ガーディアンに攻撃を仕掛ける。ジョーは基地で総指揮を執り、サヤは後方から支援を中心に。

 

どこの土管がガーディアンの元に通じているか判明したら、サヤは即座にLの所に向かう事になっている。

 

Lの所は、全面が海という特異な環境であり、探索に非常に手間取っているという。サヤの式神は、大きな活躍が期待出来る。勿論負担は大きくなってしまうが、頑張ってもらう他ない。

 

川背が、装甲車に入ってきた。

 

差し出されるのは、携行食だ。川背の料理が食べたいけれど。今は我慢するほか無い。

 

「やっぱり、まだ見つからないの?」

 

「見つかっているだけでおよそ六千。 偵察機の写真を解析すると、新しい土管が発見されることもありますから。 先輩は休んでいてください。 ガーディアンとの決戦では、活躍してもらいます」

 

川背は優しい笑みを浮かべると、装甲車を出て行った。

 

携行食を口に入れる。お世辞にも、美味しいものではない。川背は本人が凄腕の料理人だが、一方で粗食を全く嫌がらない。勿論スペランカーも、粗食を嫌うことは無いが、美味しいものを食べたいとは思う。

 

不意に、軍の人が、装甲車の中に呼びかけてきた。

 

「スペランカー様。 すぐに来てください」

 

言われるままに出ると、ヘリが準備されていた。どうやら、装甲車で行くには遠すぎる場所の様子だ。

 

しかも装甲ヘリ。やはり、重厚な準備をして、待ち構えているという事か。

 

川背がアーサーと一緒に、ジョーから説明を受けている。会話の節々には、不穏な語句が踊っていた。

 

「なるほど、数万はいると」

 

「しかも、続々と集結しつつある。 ブラフの可能性もあるが、他に敵が集結している地点は確認できない」

 

「まだ時間はあります。 迅速に叩いてみる方が良いでしょう」

 

「どうしたの?」

 

スペランカーが小首をかしげると、川背が分かり易く説明してくれた。

 

まだ確定では無いのだが、敵が集結している地点に、土管が数個確認できるという。敵の密度が高く、式神も近づけないそうだ。

 

他の地点での確認作業は、着実に続けられている。敵が集結する前に叩くか、それとも地道に調査を行うか。それを今、皆で話していたという。

 

「スペランカー先輩は、どう思いますか?」

 

「今、残り時間はどれくらい?」

 

「5日と少しですが」

 

「……まだ、時間はあるね」

 

しかし、四元素神に匹敵する相手と戦うとなると、スペランカーのブラスターが必要になるだろう。

 

時間のロスは、極力抑えたい。

 

それぞれに、順番に意見を聞いてみる。ジョーは攻撃をする派。川背もこれと同じだった。アーサーは中立と応える。

 

「中立?」

 

「我が輩としては、もう少し情報が欲しいところだな。 この星全体に怪物が分布していることを考えると、数万程度では何とも言えぬ。 もしもこれが陽動だった場合、大幅な時間をロスすることになる。 被害も少なからず出るだろう」

 

「私も、同意見ですわ」

 

アリスも、アーサーに同意する。

 

あと、探索できていない地域、それに見落としがありそうな場所は。ジョーに聞くと、首を横に振られた。

 

「そればかりはどうともいえんな。 ただ、はっきりしているのは。 敵の勢力を削り取れば、探索可能な地域を拡大できる、という事だ」

 

安全確保した地域では、それこそ無限に広がる草原の、草の根を分けて探索が行われている。

 

勿論作業効率も高い。

 

「ジョーさんが敵だったら、どうする?」

 

「俺だったら、もしも抑えられた地域にコアへの通路があるなら、全力で奪還する。 此方の戦力が未知数である以上、油断はしない」

 

他にも意見を聞いてみる。

 

かなりきわどいところだった。結局の所、半々に別れるという所のようだ。一時間ほど話をした後、結局結論は出ない。歴戦のフィールド探索者でも、意見が二手に分かれるほどなのである。

 

戦いが長引けば、当然犠牲も出る。

 

今だって、少しずつ犠牲は出ているのだ。できる限り少なく犠牲を抑えたいのは、当然のことである。

 

「主力で一撃離脱は、出来る?」

 

「可能だ。 ただし、失敗すれば、時間のロスは大きい」

 

「うん。 少し危険だけれど、やるしかないよ」

 

そう決めると、後は速い。

 

アーサーと川背は意見が違ったが、スペランカーが方針を示すことで、すぐに動き始めてくれた。

 

二人ともスペランカーを信頼してくれていると言うことが分かって、嬉しい。

 

装甲ヘリに、フィールド探索者達が乗り込む。兵器の類は、ほとんど残していく。此処から、全速力で移動して、四時間ほど先だ。その間に新しい情報が来れば、すぐに対応を変えることになる。

 

現地近くまで、誰も一言も発しない。

 

今までは敵の攻撃が散発的で、組織的でも無かった。此処からは違う。敵は完全に本気で迎撃してくるだろう。

 

敵が見えてくる。

 

ヘリが着地するのと同時に、ばらばらと、フィールド探索者達が展開する。驚くべき事が起きたのは、その直後だった。

 

地面が揺れる。

 

そして、無数の眷属を従える魔王のように。

 

地面を割って、何か訳が分からないものが出現したのである。

 

土をばらまきながら、それは空高く舞い上がっていく。全く最初は何だか分からなかったが、よく見るとそれが、空を飛ぶ機械なのだと理解できた。あまりにも巨大すぎて、最初はそうだとは思えなかった。

 

無数の機能するとは思えないプロペラが、上部で回転している。

 

そして、とても古典的な大砲が、全体についていた。

 

一斉に、怪物達が襲いかかってくる。

 

川背が無言で、ゴム紐を投擲し、機械に躍り込む。更に、アリスがその後に続いた。飛行機械の中に、邪神の気配は感じない。

 

殺到してきた敵に、アーサーが出現させた無数の剣や斧を叩き付ける。一緒に来ているフィールド探索者達も、遅れて攻撃に入った。

 

空に無数の光の花が咲く。

 

アーサーが鎧を金色にする。本気で戦う時の状態だ。剣を一閃すると、空中に凄まじい爆発が巻き起こった。

 

だが、対空砲火をくぐり抜けて、敵が躍り出る。

 

「サヤちゃん、調査を急いで!」

 

「はい!」

 

式神達が、阿鼻叫喚の戦場の中、必死に走り回って、一つずつ土管を調査していく。

 

飛行機械の中でも、死闘は続いている様子だ。時々爆発が巻き起こっているのが、下からでも見える。

 

アーサが、剣を地面に突き刺した。

 

噴き出す光の帯が、襲い来る怪物をまとめて薙ぎ払う。他のフィールド探索者達は、アーサーの支援に回り始めていた。スペランカーは走り回りながら、味方の盾になって、何度も怪物の爪に掛かり、触手で流れ、足に踏みつぶされる。

 

その度に、蘇生はするが。

 

何だろう。

 

怪物には、殆ど意思が感じられない。実際に戦って見てはっきりしたのだが、どうも妙な怪物達だ。

 

奉仕種族とも違う。

 

かといって、下級の邪神とも思えない。

 

生物兵器というにも、妙なのだ。

 

「スペランカーさん! 此方です!」

 

サヤが必死にばたばたと手を振っているのが分かった。

 

彼女の周囲には、無数の式神達が円陣を作り、怪物を食い止めている。丁度、大入道が、巨大な怪物とがっぷり四つに組み合っている所だ。大口を開けてかぶりつこうとしている怪物を、大入道が地面に押しつけ、その間に他の式神達が剣やら槍やらで突き刺し、解体作業に入っている。

 

サヤは以前、とても臆病だった。

 

しかし、今は目前の死闘にも臆していない。別の怪物が、飛来しながら、口から巨大な槍状の物体をせり出すのが見えた。

 

式神の一体が、飛びかかる。必死に組み付いて発射される槍の軌道をそらしたが、自身も振り払われ地面に叩き付けられ、バウンドした。

 

サヤの至近に、叩き付けられ、跳ねる。

 

だが、サヤは軽く顔を庇っただけ。信頼する式神達に、全てを任せているのだ。

 

「あの土管です! 奥に、とてつもなく巨大な、邪の気配があります!」

 

「分かった! みんな、時間を稼いで!」

 

「円陣を組め! スペランカー殿を支援する!」

 

アーサーが叫び、巨大な十字架を虚空に出現させる。怪物達が怯む中、アーサーは雄々しく十字を切った。

 

膨大な光が、怪物達を漂白する。

 

「父と子と聖霊の御名において、アーサーが命ず! 邪なるものどもよ、この地より滅びよ!」

 

圧倒的な魔力の奔流が、この地を照らす。

 

アーサーが、叫んだ。

 

「Amen!」

 

十字架から迸った圧力が、怪物達をまとめて薙ぎ払う。

 

相変わらず凄まじい火力。アーサーは本気だ。かがやく黄金の鎧は、彼が文字通りの勇者である事を見せつけている。黄金の鎧や、最強の剣を持っているから勇者なのでは無い。アーサーは、万を超える敵に対し、怯まず皆の前に立って戦っている。その行動こそが、アーサーが勇者たる所以だ。

 

此処は、アーサーに任せてしまって大丈夫だろう。スペランカーはサヤに頷くと、土管に若干緩慢に飛び込む。身体能力が極めて貧弱だから、あまりかっこうよくは飛び込めないのが悲しい。

 

何名かのフィールド探索者が、それに続いた。

 

 

 

アリスが跳躍し、床を踏み抜く。

 

巨大な飛行機械が、咆哮を上げながら軋んだ。彼女の能力は、飛行する相手を叩き落とすのに最適だ。

 

川背が手元にルアー付きゴム紐を引き寄せる。

 

敵の気配は、至近だった。

 

「アリスさん、後ろは任せます」

 

「お急ぎを。 この船、長くは保ちませんわ」

 

それはそうだろう。アリスが本気で壊しに掛かっているのだから。怪物の死体が周囲には点々としている。川背が今まで戦っていた相手の、成れの果てだ。

 

機体に生じた亀裂に、飛び込む。

 

途中でゴム紐を使って、落下速度を殺し、着地の衝撃を弱める。もっとも、この程度の高さなら、着地しても問題は無いが。

 

そいつは、そこにいた。

 

気配が強いから、いる事は分かっていた。左右には、怪物はいない。一人で待っていたのだ。

 

広い空間。

 

この機械の中で、一番戦う場所を取ることが出来る空間だから、待っていたのだろう。操縦室では無く、おそらくは格納庫だ。この喧噪の中、悠々と座っていたそいつは、顔を上げた。

 

「ほう、俺の相手はあんたかよ。 戦えて光栄だ、機動戦の名手、海腹川背」

 

「貴方は?」

 

「ラリーだ。 親父の末っ子だよ」

 

立ち上がったラリーは、かなりの長身だった。二メートル近いかも知れない。筋肉質の白色人種の男性で、おそらくは二十歳前、高校生くらいだろう。聞いたことが無い名前だが、Kはその家族構成も謎に包まれている。露出が多いいわゆる四天王と違って、秘蔵っ子として温存していたの可能性は低くない。

 

闇世界の顔役、Kの息子だというのだから、相当な実力者である事は間違いないだろう。手袋でも投げつけたい所だが、今は聞くことがある。

 

「何故、この状況下、このようなことを? 今回の作戦が、貴方たちに邪魔になるとは思えませんけれど」

 

「さてな。 親父に聞いてくれ」

 

「貴方は知らないと?」

 

「俺にとって、というよりも兄姉達にとって、親父は絶対なんだよ。 口答えが許される相手じゃないし、世間一般の親子関係というよりも、むしろ上司と部下に近い関係なんでな。 それぞれ母親も違うしな。 そもそも親父がいるなんて、十五まで知らなかったんだぜ……」

 

わずかな自嘲が、ラリーの顔に浮かぶ。

 

この者が、どうやってここに来たのか、怪物達を制御しているのかにも興味はあるが。しかし、今は倒すのが先か。

 

「いずれにしても、此処で少しでも長く足止めしろってお達しなんでな。 悪いが、沈んでもらうぜ!」

 

不意に、ラリーの体がふくれあがる。

 

見る間に、巨大なカミツキガメのような姿へ変わっていった。なるほど、変身するタイプの能力者か。

 

しかも、動きが速い。

 

天井近く、二十メートルくらいもジャンプすると、そのまま拳を叩き付けてくる。最初は、わざと大きな動きで拳をかわすが、見る間に距離を詰められた。

 

豪腕が、薙がれる。

 

腕の太さは、成人男性の腰ほどもある。まだ残っていた鉄骨のような部材が、一撃で拉げた。床に足を擦るようにして後方に移動する川背に向けて、ラリーが口を開く。

 

撃ち放たれた火球が、一瞬前まで川背がいた地点を抉り、壁に大穴を開けていた。

 

ごうごうと、風が外から吹き込んでくる。

 

機体が大きく揺動した。アリスが派手に暴れている証拠だ。この船は、そう遠くない未来に、落ちるだろう。

 

「本気を出せよ。 てか、出してくれるか。 俺も必死なんだ」

 

壁に掴まっていた川背は、床に降りる。

 

川背は、スペランカー先輩のように、誰にでも慈悲を掛けるほど優しくない。敵は容赦なく叩き潰すのが信条だ。

 

哀れだとは思う。

 

このラリーという男も、きっと父に認められようとして必死なのだろう。だが、動きは、見切らせてもらった。

 

ゴム紐を、少し前に投擲。

 

火球を再びラリーが放ってくるが、遅い。川背の残像を抉っただけだ。ゴム紐の伸縮を利用して、加速。跳ぶ。

 

ジグザグに跳ね、次々投擲される火球をことごとくかわしながら、ラリーとの距離を零に。ベアハッグしようと、振り下ろされた両腕も、川背の影を捉えるだけ。顔面に、飛び膝を叩き込む。

 

巨体とは言え、今の川背の速度による破壊力増強が加わると、無事では済まない。

 

顔面を押さえながら、ラリーが蹈鞴を踏む。その左足にルアーを引っかけ、跳躍。柱にゴム紐をしならせ絡ませながら、壁を蹴る。

 

滑車の原理で、一気にラリーの巨体を床にたたきつけた。

 

顔を抑えたラリーの腹に、天井から落ちつつの、全体重が乗った蹴りを叩き込む。しかもただ落ちたのでは無く、途中で床にルアーを投擲、ゴムの伸縮を利用して最大加速しての蹴りだ。

 

床に、クレーターが生じる。

 

ラリーが吐血した。

 

甲羅にひびが入る。

 

だが、ラリーは、それでも拳を振るってきた。

 

一瞬動きが止まった川背が、まるで紙細工のように吹っ飛ばされる。途中ルアーを投げ、ゴムの伸縮で威力を殺しつつ、壁に叩き付けられる。受け身をとり、威力を最大限まで殺すが、さすがはKの息子。たいしたパワーだ。

 

「くっそ、つええなっ! だが、勝つのは俺だ! 超一流のフィールド探索者の首を取れば、俺だってファミリーで出世できる! その首、もらうぞっ!」

 

火球を乱射してくるラリー。

 

だが、火球の精度が確実に落ちている。爆発。飛行船の壁に大穴が空き、機体に露骨な致命傷が入った。

 

外で、撃ち落とされる怪物が見えた。

 

川背はすり足のまま、ラリーとの間合いを詰めていく。

 

もう、動きは見きった。

 

パワーもスピードもあるし、強い。だが、負けない。

 

跳躍したラリーが、流星群のように、中空から火球を叩き込んでくる。床に次々穴が開き、爆炎が川背の体を焦がす。

 

だが、着地したラリーに、既に最大加速していた川背が突入。動きに癖があって、読むのは難しくなかった。ドロップキックを、さっき蹴りを叩き込んだ腹に、直撃させた。

 

巨体がたまらず吹っ飛ぶ。丁度、先にラリーが開けた大穴から、亀の怪物と化したKの息子は、落ちていった。

 

呼吸を整える。ダメージ自体は受けたが、スペランカー先輩の支援に出向く分には問題ない。見ると、ラリーは用意していたらしいパラシュートで、安全圏まで逃げていく様子だ。さすがはKの息子。抜け目が無い事だ。

 

「次も、負けませんよ」

 

言い捨てると、川背は、自身も機体の穴から、外へ身を躍らせた。

 

着地した時に、丁度飛行機械が、火を噴きながら視界の隅に墜落していくのが見えた。あの辺りは無人だし、元々誰も乗っていない。気にすることは、何一つ無かった。

 

 

 

川背がサヤから聞いた土管に入り込むと、既に戦いは佳境に入っていた。

 

其処は、意外にも地底では無かった。

 

世界の裏側とでも言うべきなのか。

 

外と同じ草原なのだが、色が存在しない。

 

そして、そこにいるのは。

 

生物とはとても思えない存在。

 

地球にいた異星の邪神は、どいつもこいつも水中の生き物の特色を持っていた。だが、これは違う。

 

肉塊以外の何物でも無い。強いていうならば、海綿や海鞘が近いかも知れない。

 

全身から無数に伸びた触手からは、間断なく魔術の光が放たれ、スペランカー先輩と支援に廻っているフィールド探索者達を襲っている。

 

川背は迷わず突貫すると、魔術を今にも放とうとしている触手に、リュックサックをかぶせた。

 

異世界に転送する事で、切り取る川背の切り札だ。

 

着地と同時に、雨霰と自らに跳んでくる魔術の光。スペランカー先輩が、この機にと、敵へと間合いを詰めるが、しなった触手に叩き潰される。再生するが、即座にまた。ガーディアンの周囲に、真っ黒な霧が出現しはじめている事からして、相当な回数、既にスペランカー先輩は殺されているはずだ。

 

だが、他の異星の邪神と違い。

 

此奴には、怖れている様子が無い。完全な戦闘機械なのか。しかし、見るからに有機的なパーツで構成されているが。

 

魔術の光で、一人味方が吹っ飛ばされる。

 

爆発が連鎖し、今度は氷の槍が降り注いできた。更に無数の稲光が、地面にクレーターを穿つ。

 

川背の至近にも、着弾。

 

吹き飛ばされるが、すぐに受け身を取って跳ね起きる。

 

巨大な肉塊から、無数の小型ビットが射出される。それぞれがロケット噴射をしながら、此方に来る。

 

生体ミサイルか。

 

全てが、立ち上がろうとしているスペランカー先輩に直撃。どうやら、先輩が手強いと判断して、総力で潰しに来ているか。

 

先輩はそれでいいだろう。根比べは先輩の得意とするところだからだ。

 

だが、川背は不快だ。

 

ルアー付きゴム紐をふるって、再度斉射された生体ミサイルを薙ぎ払う。数発を叩き落とすが、残りは皆スペランカー先輩を直撃する。木っ端みじんになる先輩の小さな体。敵の巨体に、ドロップキックを叩き込み、わずかに揺らがせる。

 

フィールド探索者達が、総攻撃をし、ほんの一瞬だけ、敵の動きが止まるが。

 

数十の触手がしなると、その全ての尖端に、魔術の光が宿った。

 

そして、稲妻、炎、氷の矢と、次々に辺りに降り注ぐ。これでは、伝承に残るアジ・ダハーカのようだ。千の魔術を行使したとか言うゾロアスター教の魔竜。

 

立ち上がろうとしたスペランカー先輩を、触手が捉え、握りつぶす。再生の度に、何度も何度も。

 

出来るだけ感情は乱さないようにする。

 

しかし。

 

上空に躍り上がった川背が、斧を振り下ろすように、踵を叩き込む。触手の一本をへし折った。

 

だが、即時に再生される。

 

走り回りながら、他のフィールド探索者達も、それぞれの得意とする攻撃を続けているが、そろそろ限界か。

 

地面に着地すると、川背は。

 

雨霰と飛んでくる対空砲火をジグザグに走ってかわしながら、邪神の脇を通り過ぎつつ、リュックを一閃させた。

 

体を大きく抉られた邪神が、怒りの咆哮を上げる。そして、その攻撃の全てが、川背に集中してくる。

 

避けきれるものではない。

 

高々と、吹っ飛ばされるのが分かった。

 

だが、その時には。

 

ついに、至近にまで潜り込んだスペランカー先輩が。邪神に対して、ブラスターを向けていた。

 

「ごめんね」

 

そんな奴に。

 

謝る必要なんて。

 

いつも、悲しそうにブラスターの引き金を絞る先輩。その光景を見ていると、邪神がにくい。

 

きっと此奴に対しても、先輩は必死でコミュニケーションを試みたのだろう。それが報われなかったから、悲しそうな顔をしているのは。川背には一目瞭然だった。

 

迸る、相殺の光。

 

絶叫した邪神が、粉々に砕け、蒸発していった。

 

着地した川背は、呼吸を整える。予想以上に消耗が酷い。邪神へ近づいていって、気付く。

 

其処には、小さな何かが落ちていた。

 

拾い上げると、それが笛だと言うことが分かった。

 

楽器は、平和の象徴。

 

何処かでそのようなことを聞いたことがある。この邪神は、アザトースにとって、大事な宝物が、その姿を変えた存在だったのかも知れない。

 

先輩は意識を失ったままだ。

 

担ぎ上げると、他のフィールド探索者達を促し、外に出る。

 

まだ、戦いは始まったばかりである。

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