オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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Mさんのライバルである亀の大魔王なあの人。

あの人も勿論今回の戦いには裏から噛んでいます。

勿論味方などではなく。

この状況でなお、利害を貪ろうという悪党としてですが。


2、七人の子と四人の腹心

Kは傲然とふんぞり返り、その光景を見ていた。

 

既に、よっつの惑星が、敵の手に落ちている。派遣していたKの息子達も、それぞれ敗退していた。

 

全体が砂漠化していた惑星を任せていたモートンは、気が良い大食漢で、悲惨な生活をしてきたのに性格も歪んでいなかった。つまり、Kの組織の幹部を任せるには著しく向いていないことがはっきりしていた。それでも戦士として、古豪Pに勇敢に立ち向かったのだが。

 

他の息子達に共通している特殊能力、怪物化を用いてもPには歯が立たず、そればかりか危うく「喰われる」所だった。Pの特殊能力は、空間ごと相手を食い尽くす「食事」である。その餌食になった怪物は数知れない。モートンも、危うくその一人になる所だった。

 

必死にモートンは逃げ延びたが、旧文明の遺産である飛行船は叩き落とされ、潜んでいた邪神も間もなくPによって葬られた。Pだけだったら厳しかったかも知れないが、世界ナンバーツーであるフィールド探索者、C社最強のロボット戦士Rの実力は相当なもので、やはり抗い得なかった。

 

一面が水になっている惑星を任せていたウェンディは、弟二人よりはマシに戦った。だが相手がLだったこともあって、得意としていた反射式殺戮光円はまるで通用せず、怪物体も一撃で打ち砕かれてしまった。ウェンディ自身は元々孤児院で寂しく暮らしていたところを、Kが引き取った。Kが引き取った子供達の中では唯一娘で、そしてKに心も開いていなかった。

 

孤児院の子供達の生活を保障すること。

 

それが戦う条件だった。

 

言うまでも無く、影の組織にいるには向いていない。だが特殊能力持ちであり、Kの子に相応しい実力を持っていたから、スカウトしたのだ。

 

今回も、Lに対して臆さず、結局ゲッソーが救出するまで戦い抜こうとした。本人は落ち込んでいたが、約束通り孤児院の子供達には、支援を欠かさない予定である。裏世界の顔役であるからこそに、Kは約束を破らない。

 

ウェンディに預けていた古代の大型戦艦を潰されたのは痛かったが、ウェンディ自身の実力は充分に確認できたし、それでいい。

 

海中に潜んでいた邪神はかなり善戦したが、Lは相当に力を増しており、更に支援としてついていたN社の精鋭達の実力もあって、ついには矢折れ力尽き、敵に屈した。

 

そして、全てが巨大な惑星を任せていたイギーだが。

 

元々非常に痩せていたイギーは、若くしてスラム街でストリートギャングの顔役にまで上り詰めていた経歴の持ち主で、最初からKの組織に入ることを望んでいたほどだった。野心的なラリーと並んで、「向いている」性格である。スラムでも残虐性で怖れられていて、Kの組織を乗っ取ろうと考えている事が丸わかりだった。

 

それでいい。Kの子であれば、それくらいの方が、むしろ望ましい。

 

イギーは鋭利な頭脳で無数の罠を張り巡らせ、Mを周到に待ち伏せ、襲ったが。

 

しかし、暴力的な戦闘力の前には、なすすべが無かった。

 

あのMを相手に、奮戦はしたが。結局八つ裂きにされかけ、メットに救出されて逃げ延びた。

 

それでも悪ぶれなかったのは流石だろう。

 

また、巨大な惑星の地形を利用して、必死にMの追撃をかわし、時間を稼ぐのに成功もしている。

 

中々に見所がある子だ。

 

結局、巨大惑星の邪神もMに敗れ去ったが、時間は充分に稼ぐことが出来た。

 

ここからが、本番だ。

 

立ち上がったKの視界には、四人の腹心達が控えている。

 

超硬度防御能力を持つ能力者殺しメット。歴戦の経験とスピードを生かして戦うノコノコ。無数のオプションを用いた戦術を得意とする業師ゲッソー。そして、植物を扱う能力を有するパックンフラワー。

 

いずれもが偽名だ。

 

そして、歴代の部下達が襲名してきた二つ名でもある。

 

Kがいる此処は、文字通り暗黒の惑星。

 

アザトースの闇が凝縮した、通常では考えられない法則が支配する人外の地だ。Kは、今回このような場所に、ある目的で来ているが。出来れば長居はしたくない。まあ、それも仕方が無い。

 

「解析が終了するまで、Mを食い止めろ」

 

「分かりました」

 

この惑星に、間違いなくMは来る。

 

部下達を総動員すれば、時間を稼ぐことは出来る。解析を進めているDr、Wからは、間もなく決定的な核心が掴めるという報告も来ているし、楽な仕事だ。

 

奥に監禁している姫については、放置しておいて構わないだろう。

 

Kだって知っているのだ。

 

あれに手を出すことが、好ましくないことくらいは。

 

前線に配置してある無人監視装置からの通信が途絶した。

 

間違いなく、Mが来たとみて良いだろう。

 

他の三つの星は、子供達の中でも、精鋭と呼べる三名に任せてある。簡単には突破できないだろうし、時間稼ぎは成功したとみて良い。

 

この戦い。

 

Kの勝ちは、確定だった。

 

 

 

川背は額の汗を拭いながら、作戦会議に参加していた。

 

わずかな休憩時間を経て、すぐに次の作戦行動に入る。アーサーも川背も負傷していたが、ゆっくりしている暇は無い。

 

全部の攻略チームが、殆ど同時にそれぞれの担当部署から引き上げた。人員を再編して、再出撃するまで三時間。

 

スペランカー先輩は、まだ目を覚ましていない。

 

以前は、邪神に対してブラスターを用いると、一ヶ月以上寝込むこともあった。だが最近は、そのダメージがかなり緩和されてきている。

 

二日で目を覚ます。

 

そう、川背は判断していた。

 

残りの日数は五日弱。これならば、余裕だろう。

 

だが、魔術部隊の調査や、術式展開の時間もある。最低でも、一日以上は、余裕をもって当たらなければ危ない。

 

次の攻略対称となる四つの惑星は、また非常に特殊な環境である事が分かっていた。

 

一つは、空の惑星とでも言うべきか。

 

非常に切り立った針のような山が林立していて、殆どの地面が光の届かぬ谷底に存在している。

 

しかも非常に風が強いため、高空戦力が使い物にならない。

 

最初無人偵察機を送り込むが全く帰還せず、サヤが式神を送り込んで判明した事実だ。元々の環境は分からないが、非常に風が最初から強かったようで、切り立っている針金のような山々も、脆くて足場には使えない様子だ。

 

此処はLを中心に、空を飛べるフィールド探索者が中心となって攻略する事と決めた。近代兵器では役に立てなくても、空を飛ぶ能力を持つフィールド探索者には、こういう戦場は最適だ。

 

そして、未来から来たシーザーの申し出により、彼と同じ名を持つ戦闘機が動員されることとなった。

 

ただしこれは国連軍には内密に、である。

 

さらに言うと、未来の戦闘機でも無ければ、此処で作戦活動は不可能だと言う理由もあった。

 

もう一つの惑星は、全面が凍り付いており、文字通りの極寒地獄。

 

特殊な耐寒装備が必要になる上、氷の下には広大な海が広がっており、邪神はそこにいる可能性が高いと結論が出る。

 

此処にはPが挑むと宣言。それが正しいだろうと、スペランカーも思った。

 

事実上地形的な不利を問題にしないPが、同じように難所を得意とするフィールド探索者を引き連れて挑む事で、比較的容易に攻略が出来るはずだ。

 

もう一つが、土管のみがあまりにも多数林立する、一種退廃的な惑星だった。

 

用途が全く見えない土管が、縦横無尽に絡み合い、その全てに何かしらの仕掛けがしてあるらしいという、異常な世界である。

 

元は工業惑星だったのか、或いは。

 

スペランカー先輩は、何かを掴んでいるかも知れない。最後のブラスター斉射の時、やはり悲しそうな顔をしているからだ。

 

どうして、邪神が笛に変わったのか。

 

推察は出来るが、確信はまだ無い。

 

そういえば、Pが倒した邪神はトランペットに、Mが潰した相手はドラムに。そして、Lが殲滅した相手は、それぞれピアノに変わったという。勿論それに似た楽器、ということなのだが。

 

いずれにしても、此処は川背とアーサー、それにまだ眠っているが、スペランカーによる攻略が決まっている。

 

最後の一つ。

 

これは非常に特殊な環境である事が判明している。他の惑星が、アザトースの影響だろうか、空が金色に染まっているにも関わらず。此処だけは、完全なる暗黒に包まれているのである。

 

温度や大気組成は人間が生活できるほどに安定しているのだが。その異常すぎる闇の密度に関しては、説明が出来ない。

 

空を見ると金色なのに、それ以外の場所は漆黒に染まっているのだ。

 

此処に関しては、Mが当たると最初から明言していた。

 

Kがいるのなら、此処に間違いないというのである。もしもKがいるのなら、配下の四天王も此処とみてよいだろう。

 

そうなれば、Mに相当する戦力が揃っていることになる。

 

邪神もいるとなると、簡単に突破はできないだろう。Mが当たるのが、都合が良いかも知れない。

 

突入に際して、フィールド探索者の再編成と予備の投入も行われる。

 

アリスはLと一緒に、空の惑星に。シーザーは子供は嫌だとかぶーぶー文句をこねていたが、誰もが無視した。

 

Mと共に闇の惑星にいどむ面子の中には、対闇用の特殊能力持ちであるグリンとマロンが加わる。ペンギンの姿をしているこの夫婦は、かっては優れた退魔の能力を持っていたし、今も力は衰えていない。ただし、予備戦力として、だ。まずはMとリンクだけで様子を見る。

 

また、氷の星に関しては、イヌイット出身のポポとナナが参戦する。

 

この二人は、以前共闘したあと、何度も寒冷地のフィールドを攻略。今では、対寒冷地のエキスパートとなっている。

 

久しぶりに会ったのだが、随分雰囲気も落ち着いていた。

 

土管だらけの惑星にも、増援が来てくれることとなった。忍びの一族から、精鋭が何名か。探索が極めて困難である事を考慮しての事だ。

 

その中には、以前から何度か共闘しているじゃじゃ丸の顔もある。N社からも、精鋭が何名か、こっちに廻ってくれることとなった。

 

突入が、開始される。

 

「アーサーさん」

 

「何かな」

 

最初に飛び込んだアーサーに続いて、川背も。

 

着地して、すぐに飛び込んできたのは。赤さびに覆われた、無数の土管だった。中には元の色であるらしい緑のものも存在してはいるが、全体的に朽ち果てているものが目立つ。

 

今まで攻略した星々では、邪神を倒した後、生物兵器らしい怪物達は攻撃を停止。そのまま動きを止め、以降は無害な存在になった。

 

アーサーはそれまで耐え抜いた。味方を支援しながら大変だっただろうに、見事にやり抜いたのだ。

 

「Kの目的は、何だと思いますか?」

 

「時間稼ぎであろう。 しかし、どうも気になる。 奴がアザトースに与したところで、何か得があるとは思えぬのだ」

 

「何か、他に理由があるとか?」

 

ジョーが来る。

 

同時に、国連軍の部隊も。即座に展開と、基地の構築を開始する。

 

この星も、地球とあまり大きさは変わらないようだ。見ると、土管が組み合わさって、ビルのようになっている場所さえある。

 

スペランカーは、装甲車に乗って此方に来る。

 

まだ目を覚ましていないから、医療班も同行する。最後に、サヤが護衛されながら、入ってきた。

 

異常なほどに建ち並ぶ土管を見て、誰もが度肝を抜かれているようだ。

 

「何だ此処は。 邪神の排水処理場か?」

 

「空そのものが邪神なんだろ? それだけでかければ、そりゃあ汚水もたくさん出るだろうぜ」

 

兵士達が、声を震わせながら、敢えて軽口をたたき合っている。邪神の中で戦っているも同然の状態だ。無理もない。

 

川背は油断無く辺りを見て廻りながら、アーサーに続ける。

 

「Kは極端な現実主義者と聞いています。 地球が無くなってしまったら、Kにも好ましくないはず」

 

「そう、であるな」

 

まだ、敵は姿を見せない。

 

今のうちに、確認しておいた方が良いだろう。それに、邪神を見つけたら、先輩に任せることになる。

 

「僕には、どうも嫌な予感がします。 それに、以前聞いたところに寄ると、Kは筋金入りの邪神嫌いだったとか。 それなのに、どうして」

 

「我が輩も、それは妙だとは思っていた。 ニャルラトホテプと接近していたとは聞いているが、それにしてもおかしな事だ」

 

「出来るだけ急いで、戦いを終わらせましょう。 先輩の負担も、可能な限り減らしたいですから」

 

簡易基地の構築が終わる。

 

サヤが式神を四方八方に放ち、探査を始めた。忍の者達も、それぞれが少人数の部隊に分かれ、辺りの探索を開始する。

 

この星は、見かけよりも遙かに厄介だ。

 

まだ怪物は姿を見せないが、或いは。

 

「敵だ!」

 

兵士の一人が、悲鳴混じりの声を上げた。

 

見ると、辺りに林立する土管から、怪物達が現れ始めている。なるほど、草原の星とは違って、此処では敵の供給口というわけか。

 

土管の中には、直径が数メートルに達するものもある。

 

それらからは、相応の巨体を誇る怪物が、姿を見せる。見る間に、周囲は修羅場と化していった。

 

これは、戦いながら調査を進めていくしか無い。

 

それに、予備戦力を投入した方が良いだろう。先ほどの草原の星とは、敵の戦力が段違いだ。数も多いし、それぞれも強い。

 

襲いかかってきたヒルのような怪物を、アーサーが途中で撃ち落とす。土管を破壊するべきかと思ったのだが。

 

既に兵士達が、パニックになって銃を乱射している状態だ。

 

よく見ると、ロケットランチャーが直撃しても、土管にダメージが入っている様子が無い。一体どういう素材で出来ているのか。

 

「予備兵力を投入。 急げ」

 

ジョーが指揮車両の上でアサルトライフルをぶっ放しながら、周囲に指示を出している。

 

空にも、無数の敵が現れる。

 

他の星も、これは苦労しているかも知れない。最初の四つは、どこもとても手ぬるい警備だった、という事なのだろうか。

 

「敵の数、算定不能!」

 

「だめだ、防衛線を食い破られる! 弾幕が足りない!」

 

近代兵器をものともしない怪物達。どれもこれもが、とても生き物とは思えない姿をしているし、弾丸が食い込んでも効いているのかどうかさえよく分からない。それでもジョーのような例外は互角以上に戦っているが、限界がある。

 

アーサーが早くも鎧を黄金に変える。

 

最初から、総力戦態勢で行くほか無い。

 

川背も覚悟を決めると、ルアー付きゴム紐を地面に放り、加速。兵士に食いつこうとしていた怪物に、ドロップキックを叩き込んで、吹っ飛ばした。

 

そのまま、衝撃を生かして、直上に跳ぶ。

 

空中で、別の怪物にルアーを投擲。一気に縮め、腹に蹴りを叩き込むと、バランスを崩したそいつには目もくれず、次に。

 

狙うは対応が難しい大型だ。

 

味方からの誤射にも気をつけなければならないだろう。

 

みっつ、よっつ、いつつ。

 

無意識に数えながら、敵を叩き落とす。空を飛ぶ怪物は、川背に乗られたり掴まられたりすると暴れるが、すぐに他へ移る。

 

機動戦は川背の本領だ。

 

跳びながら、蹴りを叩き込み、踵を撃ち込み、次々落とす。

 

地面に叩き落とした奴は、兵士達に処理させる。対応できない相手は、フィールド探索者達の出番だ。

 

「みんな! やってやろうぜえっ!」

 

叫び、優れた技術の産物である光線銃を乱射しているのは、N社から此方に回されたSだ。宇宙空間でも戦える彼女は、恐るべき射撃の腕で、近寄る怪物を近づけない。

 

Sが続けざまに数度の射撃をして、大物が連続して落ちる。

 

わずかに、敵の勢いが鈍った。

 

其処へ、アーサーが全火力を叩き込む。川背は後ろに回り込もうとしたり、上空から爆撃を試みる奴を率先して落として、彼らの支援をする。

 

ロケット弾が飛来して、川背の上にいた奴が爆散する。

 

ジョーか。

 

川背はそのまま加速して、兵士を狙っていた一体を、背中から骨を蹴り折った。形は意味不明でも、骨はどうやらあるらしい。

 

着地と同時に、周囲の様子を確認。

 

アーサーの掃射を浴びて怯んだ敵が、下がりはじめる。追撃している余裕は無い。

 

「土管の調査を進め、不要なものは全て塞げ! 情報班は、解析を急げ!」

 

「ふう、しんどい」

 

アーサーが腰を下ろして、その場に蹲る。

 

鎧の色が、通常通りのいぶし銀にもどっていった。兵士達の被害も大きい。怪物のサイズがサイズなので、爪や牙をもらってしまうと、ひとたまりも無いのだ。

 

草原の星では、それでも被害は最小限に抑えたのだが。

 

すぐに予備兵力が投入される。

 

国連軍としても、十万を超える兵力を準備しているのである。この時のために、威信を賭けていると言っても良い。

 

重武装の兵士達が、すぐに警備を固めはじめる。

 

負傷者は、すぐに後送されていった。これでは、他の星の戦況も、良いとは言えないだろう。

 

ジョーが来た。

 

この状況下でも的確な指示を出し続け、被害を可能な限り減らしたジョーだが。やはり疲労しはじめている様子だ。

 

「アーサー、今のうちに食べておけ。 川背、お前もだ」

 

「うむ……」

 

自分は良いと言おうとしたが、ジョーは有無を言わさぬ雰囲気だったので、仕方が無い。休むことにする。

 

先輩の目が覚めてからが本番だ。それまでは、忍びの者達の調査と、サヤの式神による調査を待つしか無い。

 

幸い、無人偵察機はかなり星の奥までたどり着けているようで、着実に航空写真を撮って戻ってきている。

 

二時間ほど、敵の襲撃は無し。消耗が少ないSが見張りを指揮し、他は仮眠を取る事になった。

 

体に出来た幾つかの傷が、痛む。

 

あれだけの乱戦だったのだ。川背も、無事ではすまなかった。

 

 

 

川背が少し休んで、怪我の応急手当を済ませると、数時間が経過していた。会議室に出ると、ジョーが情報士官達と話をしている所だった。

 

どうやら、だいたいの状況が分かってきたらしい。

 

「草原の惑星と違い、この星にある土管は、殆どが地下からの敵の通り道になっている様子です。 地下には広大な空間が確認されていて、相当数の怪物が群れているのも、ソナーで判明しています。 踏み込むのは、非常に危険でしょう」

 

「なるほど、地上と地下の、二重構造という訳か」

 

「はい。 反面、地上には殆ど怪物がいません。 偵察機も、偵察部隊も、その場に留まらなければ敵に攻撃は受けませんでした」

 

川背が席に着くと、ジョーは此方に資料だけ渡してくれた。

 

ざっと目を通すが、この星で確認された土管の数はおよそ六百万。前回の千倍という、途方も無い数だ。しかも、海中にまで土管は張り巡らされていて、大陸同士を複雑につないでいるという。

 

現在、無人偵察用の小型ロボットを可能な限り撒き、更にサヤの式神をフル活動させて調査を実施しているが、何しろ数が多すぎる。年単位で調査しなければ、どうにもならない状態である。

 

「この星には五つの大陸が確認できましたが、いずれもが地上地下の二重構造になっていて、しかも地下でつながっている様子です。 普通に戦っていたので、まず時間に間に合いません。 どうにかして、敵の首魁がいる位置を突き止め、ピンポイントで攻撃を仕掛けなければならないでしょう」

 

「何か方法は」

 

「人間がここに来た痕跡を見つけられれば、それをたどることが可能でしょう」

 

川背が言うと、皆が着目した。

 

考えて見れば、Kがどうやって来たにしても、人間がいずれかの方法で此処にいるのである。つまり、人間がどこにいるのかを把握できれば、その近くに敵の首魁がいるとも判断できる。

 

しかも、今の時点で、この星では草原の星のように、異世界と表裏一体でもない様子だ。それならば、敵が何処かの地下にいる可能性は高い。

 

スペランカー先輩が、起きたら。彼方此方連れて行って、居場所を探り当てるのが、早いかも知れない。

 

ただ、それには。人間の痕跡を見つけるのが先だ。

 

他の星の状況も、入ってくる。

 

攻略済みの星では、既に魔術師達による準備が完了したそうだ。地球とは比べものにならないほど魔術が使いやすかったとかで、非常にはかどったという。

 

それは今の状況では、数少ない朗報かも知れない。

 

LもPも、それぞれの環境で大変に苦戦している様子だ。特にLは、人員が極めて少ないこと、更に過酷な環境もあって、四苦八苦を続けているという。Pはというと、分厚い氷の下にある海の調査に手間取っていて、今だ糸口も掴めない状態であるらしい。

 

人間の痕跡を、どうやって探すか。

 

それを協議している情報士官達を横目に、川背はスペランカー先輩の様子を見に行く。

 

まだ先輩は眠っていた。

 

そろそろ、起きてもらわないと、困るかも知れない。しかしあれだけ邪神の攻撃を受けた上に、不死の身であっても極めて負担が大きいブラスターを用いたのだ。無理はさせられない。

 

八方ふさがりを感じて、思わず川背は空を仰いだ。

 

残る時間は、四日と少し。

 

 

 

一面の、氷の平原。陽光では無い、金色の光を照り返して、どこでも鏡のように輝いている。

 

ナナは、故郷でも此処まで酷くは無いと思った。完全に世界が凍結している。確か、氷河期などに、全球凍結という状態があったと聞くが、それに近い。なのに、気温はさほど低くも無い。

 

アザラシの皮で作った防寒具を着ていなくても、充分に耐えきれるほどだ。

 

先ほどから、フードを被ったPがモーターボートで海面まで降りてきていて、、周囲にあれこれ指示を出している。砕氷船が何隻か周囲に浮かび、移動指揮所となっていたが。海中から敵はひっきりなしに攻撃を仕掛けてくるため、防衛が難儀だった。

 

ただ幸いにも、此処にいる敵は、魚雷や爆雷で充分撃退が出来る。

 

氷上に来た敵は、ナナが幼なじみのポポと一緒に、撃退して行けば良かった。ただ、船は苦手だから、主に氷上での戦闘を限定的に行っていたが。

 

またヘリが戻ってくる。

 

ひっきりなしに偵察機とヘリが行き交っているが、成果が出ているとは思えない。Pが苛立っているのが目に見えて分かるから、ナナはポポと一緒に、前線に出てきたのだ。とはいっても、多数の怪物が押し寄せてきていた先までとは違う。辺りには怪物の死体が点々としてはいても、危険は少ない。

 

ぽつんと立ち尽くしていると。ポポが、隣に立った。

 

「ナナ、これからどうするんだ」

 

「知らない。 Pさんに聞けば」

 

「戦っていて、何か解決するのか?」

 

ポポの方を見る。

 

誰よりも気心が知れたパートナーだが。喧嘩ばかりしている相手でもある。昔に比べて、関係性は変わったのだが。

 

喧嘩の内容が、昔とは違ってきている気がする。

 

「何か、名案はないの?」

 

「土管だらけの星に行ってる川背さんが、人間の痕跡を探す方向で戦略を切り替えたらしいんだが。 こっちはそれどころじゃないからな」

 

「……本当に、そうかな」

 

全面が水まみれだとすれば、探す方法はそれはそれであるのではないのか。

 

しかも調査の結果、氷の下の水は、それほど深くないというではないか。

 

「はあ、氷の下じゃ無くて、氷山の中にでも敵がいれば、俺たちで乗り込んでぶっ潰してやるんだがな」

 

「そうね。 ただ、そう上手くは……」

 

爆発音。しかも、かなり大きい。

 

二人揃って振り返ると、どうやらPがしびれを切らしたらしかった。彼方此方にバンカーバスターを叩き込み、ソナーの様子から敵を探ると息巻いている。確かにそれならば、一気に敵を割り出せるかも知れない。

 

手始めに、この近くの海域に、バンカーバスターを叩き込み、ソナーを使って反響を調査、敵の配置を割り出している様子だ。

 

ただし、このやり方では、敵の全軍が、一斉に反応するだろう。

 

押し寄せる敵の数は、数万か、数十万か。もっと多いかも知れない。バンカーバスターを撃ち込んだ場所から、敵の大軍勢が現れるのは確実。誰も、この暴挙を止めなかったのか。

 

案の定、周囲の怪物が、露骨に活発化している。

 

多数の水柱が上がっているのは、爆雷に直撃しているからだろう。フィールド探索者達も、海上で攻撃を開始しているが、船に敵がすがりつきはじめている。兵士が海に落ちたら、まず助からない。それほど寒くないと言っても、この温度では、瞬く間に凍死してしまう。

 

慌てて戻りながら、ナナは何故こうなったのか、焦る。

 

氷上を走るのは慣れているから、二人とも、クレバスに落ちるようなへまはしない。走りながら、クレバスから飛び出してくる金色の怪物に、破壊のハンマーを叩き付ける。存在を固定して、それを破壊する能力。ナナとポポが、等しく持っているものだ。

 

敵の数が多い。

 

船の損傷が激しい。攻撃がそれだけ苛烈だと言うことだ。大きな亀裂が、砕氷船の一つに走った。

 

Pが、旗艦の甲板に姿を見せる。

 

その巨大な口が、少し動いたかと思うと。

 

Pの上にいた怪物が、ごっそり体を抉られ、体液だか血だか分からないものを撒きながら、墜落していった。

 

「蹴散らせぃ!」

 

Pが傲然と叫ぶと、古豪と言われるフィールド探索者達が、攻撃に加わる。

 

普段は好々爺然とした人物だが、戦場に出ると人が変わる。古豪と呼ばれるだけあって、ベテラン達の戦闘力は凄まじい。見る間に、船にすがりついていた怪物や、兵士を掴んで喰おうとしていた化け物が、駆逐されていく。

 

逃げ腰になった敵を、ナナが横から張り倒す。

 

首が引きちぎれて、余波で大量の鮮血を浴びる。妙に熱い。

 

後ろに回った奴を、ポポが大上段からのハンマーで粉砕した。一撃が重かったから、流氷が大きくひび割れる。

 

また来た。右から来た奴を、横殴りに叩き潰し、更に走りながら、跳躍。反転して、後ろから迫っていた敵の顔面を打ち砕いた。

 

ようやく、敵は撃退できたのが、二時間後。

 

ナナが血を拭う。服が駄目になってしまったかも知れない。汚いとかそう言う問題では無く、訳が分からない生物兵器の血だ。洗い流さないと危ない。

 

船に上がって、シャワーを使わせてもらう。

 

二隻が中破、一隻が大破。旗艦は無事だったが、この調子で消耗していったら、すぐに援軍など枯渇してしまう。

 

手早くシャワーを浴びて、体を拭く。

 

やはり、あまり大きくならない体。元々の栄養状態が悪いのだから、仕方が無い。しかし都会育ちの子供達を見ると、自分よりずっと発育が良くて、羨ましいと感じてしまう。

 

予備の服を着込むと、外に出た。

 

ポポは返り血を浴びなかったし、そのまま外で監視を続けていた。ナナはポポを促して、Pの所に出向く。

 

Pはというと、既に二隻目の攻撃機を出発させようとして、空母の甲板に移っていた。

 

またバンカーバスターを叩き込んで、ソナーで敵を探ろうというのだろう。

 

無謀にもほどがある。

 

Pやベテランのフィールド探索者は生き残れるかも知れないが、他はみんな死んでしまう。

 

さっきの戦いだけでも、百五十人以上が死んだのだ。

 

空母が沈められでもしたら、被害は想像を絶するものとなる。

 

「どうしたのじゃ、子供達よ」

 

「作戦の変更をして欲しいと思いまして。 このままでは、被害が増えるばかりです」

 

「ほう……」

 

Pはフードを被っていて、いつもその巨大な口しか見えない。

 

だがその時、ナナは見た気がした。

 

フードの奥に光る、老人とはとても思えない、鋭く猛々しい光を湛えた目を。ひょっとしてこの目を隠すため、フードを被っているのか。

 

「ならば代案は? 現在、調査が行き詰まっていて、潜水艦を出動させることも難しい事は分かっておろう。 敵がいると思われる地点を片っ端からつついて、潰して行く以外の妙案があるのなら、申してみよ」

 

「それは」

 

「人間の痕跡など探していても、きりがないからのう。 ましてや時間はついに残り四日を切った。 前回の邪神との交戦で、丸一日かかったことを忘れたか。 此処の怪物の戦闘力からいって、前より強くてもおかしくは無いのだぞ?」

 

反論できない。

 

ポポがとなりで咳払いする。

 

「この方法なら、敵を見つけられるんですか?」

 

「これから二十七カ所で、バンカーバスターを投下する。 それにより、ほぼ確実に、敵の本体の居場所を突き止められるだろう」

 

二十七カ所。

 

意識が飛ぶかと思った。一カ所でさえ、これだけ被害を出したのだ。

 

本当に一切の遠慮呵責無く、味方を切り捨てるつもりか。

 

いや、何かがおかしい。

 

この人達は、何かを隠しているのでは無いのか。

 

ナナの疑念が膨らむが、今は引き下がるしか無い。ポポは何か気付いたようなので、聞いてみる。

 

「何か分かったの?」

 

「お前も気付いてるんだろ? あの爺さん、何か掴んだな。 それで、なりふり構わず動くつもりなんだろうよ」

 

「……たとえば、何かの利権とか?」

 

「かもしれねえな。 此処にいる一万人以上の兵隊と、三十人近いフィールド探索者の命をドブに捨ててまで、何の利権を守るつもりかはしらねえけど」

 

ポポの言葉には、怒りがにじんでいる。

 

以前戦士として一枚向けたポポだが、こういうときは子供のままだ。だが、ナナもそれは同じ。

 

まだ、二人とも、大人には遠い。

 

此処からは総力戦になる。

 

考えられないくらいの敵が、押し寄せてくるだろう。兵士達に構っている暇は、無くなるかも知れない。

 

地球の存亡を賭けたとき、とはいうけれど。

 

だからといって、これは何かがおかしい。そうナナは思うのだが。力が足りなくて、どうしようもない。

 

スペランカーが此処にいたら、何か手を打ってくれるのだろうか。

 

いや、それでは駄目だ。

 

自分で何か、対策を考えなくては。スペランカーだったらどうする。其処まではいい。その先は、自分で考える。

 

それが、大人のやり方だ。

 

しばらく必死に考える。そして、ふと、冴えたやり方が思い浮かぶ。これならば、或いは行けるかも知れない。

 

「ポポ、一つ案があるの」

 

「言ってみろよ」

 

話すと、ポポはなるほどと、頷いてくれた。

 

確かにそれならば、手としては有用だ。

 

すぐにポポに戻ってもらう。

 

さて、後は時間を稼がなければならない。すぐに、Pの所に戻る。攻撃機は、もう発進するところだった。

 

「一つ、案を思いつきました」

 

「申してみよ」

 

「釣りをします。 私とポポで、邪神によく聞こえる音を出します。 私達にだけしか、出来ません」

 

正確には、高位の邪神なら反応する音、だ。

 

ポポとナナは、人ならぬものを固定し、砕く事が出来る。場合によっては、空間さえも打ち砕ける。

 

その反応を、察知できる存在なら。

 

ポポが戻ってくる。

 

頭の上には、かってスペランカー達と共に下した邪神、アトラク=ナクアが乗っていた。掌大の蜘蛛にしか見えない彼女は、アザトースを徹底的に憎んでいたはずだ。利害は一致する。

 

彼女に、邪神レベルの相手なら反応しうる音を出せるか、聞いてみる。出来るという事だった。

 

この世界では、ほぼ間違いなく海の中にそれがいる。

 

つまり、海の中で、音を鳴らせば。

 

敵は、反応する。

 

バンカーバスターなど用いる必要は無い。まず音を出した後、録音したもの耐水レコーダーか何かでばらまけばいい。

 

それで、敵を一気に引きずり出せる。

 

「ふん、釣りか。 分かってると思うが、強めの雑魚も一斉に反応するよ」

 

「それでも、敵の全てが反応するよりマシです。 Pさん、これなら、敵の全軍を相手にするのでは無く、相手の居場所を特定できます。 邪神さえ叩いてしまえば、此処にいるKの息子など、論じるに値しないのでは?」

 

Pの半笑いのように開いている口が。

 

一瞬、見る間に憤怒の相に変わる。その凄まじさは、身震いするほどだった。

 

だが、すぐに半笑いに戻る。

 

やはり、そうか。何かの利権、或いは口に出来ない理由のためか。

 

この人も、長年フィールド探索者として活躍してきた古豪、文字通りのヒーローだ。その経歴は若いポポやナナとは比較にもならない。

 

悪に落ちたというのでは無く、きちんとした理由があっての行動だとは、ナナも思う。だが、今は。

 

それに優先すべきものがあるのではないか。

 

「此処で試した後は、他でもやってみましょう。 応用すれば、出来るはずです」

 

「ん……うむ……。 そうだな」

 

即座に、偵察機を派遣するよう、Pは指示。その偵察機に耐水レコーダーを乗せ、必要地点にばらまけば良い。

 

充分に現実的な作戦である。

 

兵士達が、ほっとするのが分かった。

 

作戦が始まる。今度こそ、しっかり決着を付けることが出来る。その筈だ。そして、安心する。

 

やはり古豪だ。

 

立派に、自分の目的を曲げて、適切な作戦を選んでくれた。勿論、理由は聞かないことにする。

 

「いい気の所悪いが、ここからが本番だ」

 

「うん、分かってるよ」

 

ポポに言われて気を引き締める。

 

前は危なっかしいばかりだったのに。随分頼もしくなったものだ。

 

 

 

未来の最新鋭機が、風をものともせず飛ぶ。

 

アリスは四苦八苦しながら、時にその中に戻って休憩し、ハッチから出撃し、戦い続けていた。

 

囂々と凄まじい風が吹き荒れる星である。

 

飛行を得意とするフィールド探索者が、同じように飛ぶことに特化したらしい怪物を相手に、延々と死闘を繰り広げていた。そんな中、敵を寄せ付けず、休憩所としても機能してくれるこの戦闘機は有り難い。

 

問題は、現有の偵察機では、風が強すぎてものの役に立たないことだ。

 

必然的に、この戦闘機を使って、偵察もこなすしか無い。つまり星中をこの戦闘機を中心とした編隊を組んで、飛び回らなければならない。

 

何度目の出撃から戻ったか、アリスも覚えていない。

 

機体の中に戻ると、栄養ドリンクが用意されていた。無言で手に取り、飲み干す。他にも何名かのフィールド探索者が休憩中で、外の様子を見ていた。

 

Lだけが、まるで敵を寄せ付けずに戦っているが。

 

皆はそれ相応に傷を受けている。

 

何しろ、支援戦力が存在しないのである。この戦闘機は、ビーム兵器などでかなり活躍してくれているが、それにも限界がある。

 

回復を終えたフィールド探索者の一人が、ハッチから再出撃していった。

 

ハッチを開けるときに、もの凄い風が一瞬だけ吹き込んでくるが。それも、すぐに収まる。本当にどういう仕組みなのか、知りたい所だ。

 

無言で栄養ドリンクを飲んでいると、シーザーが来た。操縦席と、この休憩が行える格納スペースは、つながっている。

 

現有の戦闘機に比べ、非常にずんぐりとした体型は。内部に大きなスペースを作る余裕を許している。

 

「いいのか、操縦席を離れて」

 

「今は敵も少ないしな。 AIに任せておけば、充分だ」

 

「そんなもんか」

 

軽口を叩きながら、また一人フィールド探索者が、外に出る。代わりに、一人が戻ってきた。

 

アリスの他には、むさいおじさんばかりである。

 

シーザーは筋金入りの女好きだが、子供には興味が無いようだし、アリスとしては不安視していない。また、シーザーは男性が相手なら誰とでも仲良くなることが出来るようで、他のフィールド探索者とは、かなり軽口をたたき合っている。

 

シーザーは休憩スペースのソファに座ると、自身も用意した物資の中から、栄養ドリンクを口にする。ずっと操縦席にいるのも、つかれるのだろう。

 

しばらく無言が続いたが、シーザーが不意に話しかけてきた。

 

「あんた、アリスって言ったよな。 戦いは、怖くねえのか」

 

「父から受け継いだ力に、それに誇り。 怖くなどありませんわ」

 

「そうかよ。 俺は初陣が22の時で、それでも随分怖かった記憶があるんだが。 たいしたもんだな」

 

初陣の早さは、きっと関係無いだろう。

 

シーザーのいた時代について話をちらほらスペランカーから聞かされたのだが、非常に悲惨な混乱時代を経た後は、それなりに平和になっているという。異星の邪神も既に消滅しているようだし、宇宙人の類もそう熱心に攻め寄せてくるわけでも無い。

 

それならば、むしろ当然の話だ。

 

アリスの生まれた環境は、違った。それだけ。

 

「そろそろ、撒いた偵察ビットが戻ってくるはずだ。 あと三日少しあるし、時間的には間に合いそうだな、と」

 

不意に、警告音が発せられる。

 

シーザーがすぐに操縦室に戻っていく。慌ただしい人だなとアリスは思いつつ、飲み干した栄養ドリンクのパックをダストシュートに放り込む。すぐには出撃しない。状況を確認してからだ。

 

AIが、説明の音声を発する。

 

「超大型の飛行型要塞と思われる建造物を発見。 これより撃墜に向かいます」

 

「距離は?」

 

「この星のほぼ反対側ですが、当機の能力であれば、二時間ほどで到着できます。 帰投をしてください。 間もなく、当機は加速し、敵との交戦地点に向かいます」

 

順番に、フィールド探索者が戦闘機の中に入ってくる。

 

入れそうも無い人員は、一度アトランティスに戻る。Lは外にいる。地力で、この最新鋭戦闘機に追いつけるからだ。化け物のような飛行能力だが、基礎的な力はあのMと同格だと考えると、不思議とは感じないのだから凄い。

 

最精鋭だけの、一撃離脱。

 

その中にアリスが含まれているのは、とても誇らしい。

 

かっては子供である事に、非常に強いコンプレックスを感じた。

 

両親から言われ続けたノブリスオブリージュと、現実の貴族のギャップに、苦しみ続けた事もあった。

 

しかし今、アリスは戦士として、自分の両の足で立てている。

 

以前、スペランカーと共闘したことが、切っ掛けになったのは、間違いの無いことだった。

 

戦闘機が、加速に入った。

 

加速は非常になめらかだが、一気に空気が張り詰めるのが分かった。問題は、その飛行型要塞の周囲に邪神がいるか、だが。

 

それはまず、戦ってからだ。

 

「敵、巡航ミサイル発射。 迎撃します」

 

音は殆ど此処まで届かない。

 

外で激しい迎撃戦を行っているのだろう。そろそろ、出撃するタイミングか。シーザーの声が聞こえた。

 

「まだだ。 今、対空砲火が激しすぎる。 もう少し敵を削るから、それまで待て!」

 

がつんと、揺れが来る。

 

これは、直撃弾を受けたか。

 

最悪の場合、撃墜される可能性もあるが。その場合にも備えて、脱出できる準備はしなければならない。

 

外の光景が見えないのがいやだが。

 

それでも、アリスは怖いとは感じなかった。

 

この戦闘機、どれだけ変態的な機動をしても、内部にいる人間には、殆ど伝わらない。それが強みとなっている。宇宙空間で、とんでもない速度で動き回るには、慣性の相殺が重要なのだろう。

 

「外の様子はどうなってる!」

 

別のフィールド探索者が叫んだ。かなりのベテランだが、流石にこの状況では、焦りを感じるのだろう。

 

アリスがたしなめるより先に、もっと年配のフィールド探索者が言う。

 

「子供でも落ち着いているのだ。 少しは閑かにしなさい」

 

「分かっている。 だがな、外の状況くらいは」

 

「画像だけなら、そちらに回せる。 少し待っていろ」

 

立体映像が、投影される。

 

巨大要塞の周囲から、無数の黒い球体が出ている。それは鎖につながれているように見えたが、実際には非常に機敏に動き、なおかつものによってはくびきから解き放たれてさえいるようだった。

 

ビーム兵器が発射され、一体を直撃する。

 

だが、平然と耐え抜いた黒い奴は、巨大な口を開けて、戦闘機にかぶりついてくる。口の中には恐ろしい牙がずらりと並んでいて、この戦闘機でも噛まれれば無事にはすみそうにない。間一髪で回避しつつ、ビーム兵器をお見舞い。しかし、直撃しても、せいぜい少し怯ませるくらいだ。

 

超巨大要塞からは、その間も無数の小型ミサイルや、迎撃砲火が雨霰と此方に飛んでくる。

 

Lが、火の玉のようになって、辺りを飛び回る。

 

流石にLの拳の前には、黒い謎の球体生物らしきものも、ひとたまりも無い。直撃を浴びれば、木っ端みじんだ。

 

だが、要塞の直衛戦力らしい黒い謎の球体は、次から次へと繰り出される。

 

Lが一端上空に出る。

 

シーザーが機種を返して、距離を取りに掛かった。勿論後方に退避しつつも、敵要塞や黒い球体には連続してビーム兵器を浴びせ続ける。

 

「全く、エイリアンの母艦より頑丈だぜ!」

 

その巨大要塞が。

 

Lが放った特大の火球を浴びて、冗談のように揺れた。

 

流石と言うほか無い。黒い球体生物も、かなりの数が消し飛んだ。ここぞとばかりに、シーザーが戦闘機から総力の攻撃を浴びせる。ありったけのミサイルを叩き込み、黒い球体生物を根こそぎ吹き飛ばした。ビーム兵器には強くとも、やはりミサイルは通用するのか。

 

対空砲火も相当な数が潰れ、今が好機と判断したのだろう。

 

エアロックが解放される。

 

「今だ、全員出てくれ! 総攻撃に移る!」

 

「応っ!」

 

全員が戦闘機から飛び出す。

 

如何にあのLといえど、あれだけの大威力攻撃を放った後だ。今後邪神との戦いがあることを考えると、皆での支援が必要不可欠だろう。

 

戦闘機から飛び出したアリスは、凄まじい気流に眉をひそめながらも、戦闘に参加。ジグザグに飛んで対空砲火を避けつつ、要塞に肉薄していく。

 

黒い球体生物の生き残りが、此方に飛んでくるのが見えた。明らかにアリスを狙っている。

 

上等である。

 

アリスの能力は、重力子操作。

 

帽子を被り、手に風船を持たなければならないという制限はあるが、もう片方の手と足は自在に使える。

 

最近は、加速も自由自在に出来るようになった。

 

大口を開けてかぶりついてきた黒い球体を至近で避けつつ、横っ面に蹴りを叩き込んでやる。

 

凄まじく重い手応え。

 

だが、効いた。

 

きゃんきゃんと、犬のような悲鳴を上げながら、黒い球体が落ちていく。強固な守さえ突破してしまえば、内部は案外脆いらしい。

 

要塞には、シーザーが戦闘機で、徹底的に攻撃を撃ち込み続けている。対空砲火は一秒ごとに減殺されていて、ついにアリスは肉薄。砲撃で脆くなっている外壁を強引に蹴り破って、内部に侵入した。

 

他のフィールド探索者達も、侵入に成功しているはずだと信じて、アリスは走る。

 

Lには対邪神の切り札となってもらわないとまずい。せめてこの要塞は、アリス達で落とす。

 

隔壁が降りる。だが、アリスの能力は、むしろ硬い物に対しては相性が良い。

 

あれだけ激しかった対空砲火だが。内部の防備は、むしろ甘いとさえ感じられる。

 

隔壁に全力でドロップキックを叩き込む。

 

相当数の倍率で重さを増したアリスの一撃が、隔壁を拉げ、吹き飛ばす。即座に走り抜ける後ろを、火焔放射が薙ぎ払った。また隔壁。今度は閉まる前に飛び込み、抜ける。銃座が前に出てくる。火を噴く銃座を、間一髪飛び越えると、踏みつぶした。

 

爆発の余波や、能力の連続使用で、少なからず消耗している。

 

隔壁をまた強引にやぶり、飛び込む。

 

不意に、空気が変わる。

 

とても広い空間に出たのだ。

 

よく分からないが、或いは倉庫か、格納庫だろうか。黒い球体状の怪物を格納していたらしいくぼみが、等間隔にたくさん並んでいる。何段にもなる格納棚は、殆ど空になっていた。空になっていない場所には黒い球体怪物がいたが、眠っているようで、此方には反応する様子が無い。

 

真ん中には、非常に体格のいい大男が立っていた。まだ若いが、相当な強面である。肉体も、ボディビルダーのように、非常に筋肉質だった。

 

どうやら、アリスが最初に到着した様子だ。ただし、別に突入部隊の中で、アリスが一番強かったわけでも無い。

 

運が悪かったのか、或いは良かったのか。

 

改めて相手を見る。

 

筋肉質と言うことは、必ずしも強いという事を意味しない。フィールド探索者の世界では、特にその傾向が顕著だ。

 

だが、目の前にいる相手は、明らかに修羅場をくぐった事のある雰囲気を、全身に纏っていた。

 

おそらくは、軍隊経験者だろう。

 

此奴が、Kの息子に間違いない。

 

「ほう。 俺の相手は、バルーンクラッシャーのアリスか」

 

「貴方は?」

 

「俺の名はロイ。 後は言わずとも分かるな」

 

それ以降、まったくロイは喋らなかった。

 

巨大な二足歩行の亀の怪物に変わるときも。戦いの最中も。一切喋ることは無かった。おそらく、口数が元来とても少ないのだろう。

 

ロイが、踏み出す。

 

同時に、要塞が揺れた。

 

アリス自身も、その揺れに拘束される。

 

これは、地震とは少し違う。要塞そのものが、揺らされていると見て良い。一種の特殊能力か。

 

もう一歩を踏み出す前に、虚空に飛び上がる。

 

ロイが首を此方に向け、火球を乱射してきた。しかも、その火球は、中空で爆発を繰り返す。

 

衝撃波は、空中をまんべんなく伝わってくる。

 

アリスは地面に自らを叩き付けるようにして下ろすと、次の揺れが来る前に、飛ぶ。地面すれすれの高度を維持しつつ、ロイに迫る。

 

いかなる巨体といえど、重力子操作の能力を持つアリスが全力で一撃を叩き込めば、ひとたまりも無い筈。

 

だがおそらく、敵は自身の弱点を熟知している。

 

それにアリスを見た瞬間、名前を当てた。つまり、此方についても、知っている可能性が高い。

 

不意に、目の前に、火の壁が出来た。

 

横っ飛びに回避。

 

だが、アリスの至近を、火球がかすめる。どうにか直撃を避けるが、すぐ後ろで爆発された。

 

衝撃波が、もろに全身を打ち据える。

 

壁に叩き付けられたアリスは、体が軋む音を聞いた。

 

「がっ!」

 

受け身はどうにか取ったが、骨の一二本は逝ったかも知れない。

 

ロイは勝ち誇ることも無く、淡々と追撃に出る。踏み出すと、地震を引き起こし、アリスを拘束に掛かってくる。

 

見ていると、地震と火球は、同時に出来ない様子だ。

 

だが、アリスは酷い痛みの中、更に揺れに拘束され、動けない。距離を保ったまま、殆どショットガンのように、ロイが火球を撃ち込んできた。

 

拡散する火球。

 

逃げ道は、無い。

 

爆発がアリスを包む。

 

だが。

 

爆炎が収まったとき、アリスは無事なまま立っていた。脇腹を押さえながら、呼吸を整えながら。

 

ロイは何も言わず、さらなる追撃の火球を放ってくる。

 

今の瞬間、アリスが床の鉄板に全力で重力子を叩き込んで、いわゆる畳返しの要領で巻き上げ、火球を防いだことに、ロイは気付いたのだろうか。いや、気付かなかったにしても、奴にとっては、倒せなかった。それだけが、重要だったのだろう。

 

ジグザグに飛びながら、アリスはロイとの距離を詰められない。

 

そればかりか、衝撃波で体を叩かれ、一秒ごとに消耗するばかりだ。地面に降りようものなら、拘束の地震攻撃が待っている。

 

相性が悪すぎる。

 

だが、アリスは既にこの時、勝機を見いだしていた。

 

不意に、高々と飛ぶ。

 

ロイは冷静に視線をアリスに向けたまま、動きを先読みするようにして、火球を連射してくる。

 

その火球の一つが、天井の構造物のライトらしき物体を、破壊して落とした。

 

ライトらしき物体に向けて、アリスが全力を叩き込む。

 

重力加速を浴びた物体は、ロイが次の火球を放つよりも遙かに早く、ロイの体を直撃し、吹っ飛ばしていた。

 

巨体といえど、ひとたまりも無かった。

 

怪物の姿が解除され、人間に戻ったロイは、血を吐き捨てると、逃げていく。脱出路があるのだろう。

 

アリスに、追撃する余裕は、とても無かった。

 

ダメージを確認。やはり肋骨が二本折れている。そればかりか、最後の一撃に、力を殆ど使い果たしてしまっていた。

 

脇腹を押さえながら、沈黙した飛行要塞を出る。

 

見ると、飛行要塞に無数についていた黒い球体生物が。飛行要塞から離れ、空中で集まりはじめていた。

 

そればかりか、地面や山などからも集まってくる。

 

そしてそれが巨大で黒い、目も鼻も無い、口だけの化け物と化したとき。アリスは、そいつこそがこの星の守護を司るガーディアンだと悟ったのである。戦闘機が、此方に来る。他のフィールド探索者達も、ばらばらと要塞からの脱出を開始していた。

 

Lが、火の玉そのものとなって、邪神に躍りかかっている。

 

「早く乗れ」

 

戦闘機のハッチが開く。

 

アリスは、残った力の全てを使って、戦闘機に向け、跳んだ。

 

 

 

Kの元に、ノコノコが来る。

 

飄々とした老人は、Kの最初期からの部下だ。まだKが若い頃から、様々な悪事を共に行ってきた仲である。他の部下達が歴戦による疲弊や戦死で何度も代替わりしているのに、ノコノコだけは違う。

 

ちなみに、現在のパックンフラワーは、ノコノコの孫娘である。先々代のパックンフラワーが、ノコノコの妻なのだ。飄々としたノコノコと違って、現在のパックンフラワーは、随分と性格に余裕が無いが。

 

「空の星、陥落しました。 ガーディアン、Lに破れ、消滅。 土管の星では、敵主力部隊が進撃を開始。 どうやら、ルドヴィッグ様の居場所を把握したようです」

 

「ルドヴィッグなど呼び捨てにして構わん。 跡継ぎと決まっていない以上、お前の方が地位は上だと言っているだろう」

 

「貴方の息子を、呼び捨てには出来ませんよ」

 

「ふん、そうか」

 

ノコノコはかなりの老齢だが、特殊な可変型能力を駆使して、様々な修羅場をくぐり抜けてきた。

 

Kにとっては、事実上一番の部下と言っても良い。

 

一番苦しかったときにも裏切らなかった、忠誠心が篤い男である。口には出さないが、Kが最も信頼している相手だ。

 

きっとKの組織が瓦解して、残りの部下が一人になったとしたら。それはきっとノコノコだろうとさえ、考えているほどである。

 

「氷の星は、そろそろ決着がつきそうか」

 

「一本釣りされたガーディアンが、Pと交戦を開始して十六時間になります。 既にレミー様の要塞は撃墜されており、ガーディアンは孤立無援であります故」

 

トリッキーな戦法を得意とするレミーは、今回Kが実戦投入した子供達の中では、一番の切れ者である。元々大学院を出て博士号まで取っていた男だが、その奇矯な性格が故に学閥に敵視され、不遇を託っているところをスカウトした。

 

Kの組織に入ってからレミーは頭角を現した。活躍はめざましく、今や科学陣の中でも頭一つ抜けた存在となっている。武人としてはまだまだだが、それでもKとしては、後継者候補か、もしくは将来の参謀に据えようと考えているほどだ。

 

今回も、邪神を発見された後、敵を後方から奇襲するという策を取ったのだが。

 

敵もPだけが邪神に向かい、他全てがまずレミーを撃破するという、大胆な策にて応じて来た。

 

集中攻撃を受けたレミーの移動要塞は撃沈。

 

レミー自身は残念ながら、戦う余裕も無かった様子だ。もっとも、レミー自身学者肌で戦いは苦手だから、機会があっても戦況は変えられなかっただろう。レミーは爆沈する要塞からどうにか脱出は出来たが、申し訳なさそうにしていた。

 

いずれにしても、時間稼ぎの要件は果たすことができた。戦略的な課題は果たすことが出来たのだし、Kとしては不満は無い。

 

後はルドヴィッグだ。

 

土管の星には、スペランカーが来ていると聞いている。そうなると、その両腕であるアーサーと海腹川背もいるだろう。

 

現在、Kの子供達の中で最強の武闘派であるルドヴィッグでも、流石に少々厳しい相手だ。

 

しかも、ルドヴィッグは自身の力への信仰から、真っ向からの勝負を好む傾向がある。このままだと、高確率で死ぬ。スペランカー自身とぶつかる事になったら最悪だ。下手をすると、向こうに寝返りかねない。

 

Kは今、Mの次にスペランカーを警戒している。

 

奴の周囲に集まっている人材の豊富さ、並大抵では無い。今後の事を考えると、直接の戦いは避けたい相手だ。

 

「Mが迫っている今、お前をやるわけにもいかんな……」

 

「恐縮です。 しかし、時間稼ぎは、もう果たせているのでは?」

 

「戦う前に撤退しろという命令を、あの跳ねっ返りが聞くと思うか? 多分最低でも、スペランカーの顔を見ないでは帰らんだろう」

 

「確かに」

 

どずんと、大きな揺れが来た。

 

どうやら、Mが近づいているらしい。

 

外には、この星のガーディアンの部下であり、そのものでもある存在が、多数ひしめいている。

 

だがそれでも、Mは止められないだろう。

 

「戦っていかれますか?」

 

「そうだな。 少し遊んでいくとするか。 ゲッソーとメットにも声を掛けろ。 Mの奴は今回も本気で俺を殺しに来るぞ」

 

「では、孫を連れて、すぐに戻ります」

 

Kは頷くと、城のテラスに出た。

 

真っ暗な、闇の星。

 

無数にひしめいているのは、木のような、不可思議な材質で出来た兵器達。戦車のように見えるものもいれば、戦艦のように見えるものもいる。戦闘機もヘリも、何でもいる。何も、それらには乗っていない。

 

一個師団どころか、数個軍団を形成するほどの兵力。

 

しかし、それら兵器の中には、何も乗っていないのだ。

 

兵器達は軋みながら、隊列を保ち、なにやら呟き続けている。兵器が、まるで生き物のように、喋っているのだ。

 

言葉は流石に理解できないが、脳にダイレクトに伝わる意思はある。それははっきりしている。

 

あの兵器達は。

 

戦いたくないと、言っているのだ。

 

Mが暴れ狂っているのが、遠くからも見える。

 

まくろき闇の星の中で、其処だけが篝火をたいたように明るいからだ。材質がよく分からない戦車や戦闘機を、まるでオモチャのように千切っては投げ叩いては壊し、Mは確実に此処に近づいてくる。

 

その戦闘力は、文字通り鬼神のごとし。

 

そして、Kは感じる。

 

暗闇星のガーディアンが、破壊されることを喜んでいる。

 

そもそも、あの四元素神並の戦闘力を持つはずのガーディアン達が、如何に最精鋭とも言えるフィールド探索者達が相手とは言え、どうしてこうも簡単に破れているのか。理由は、簡単。

 

彼らが、長い間、滅びを望んでいたからだ。

 

何より、何故Kが此処に呼ばれたのか。

 

それは、ニャルラトホテプと接触し、この世界へのゲートを作らせたとき。彼らが知ったからだ。

 

Kがいれば、世界最強の存在が、こぞって押し寄せてくると。

 

今、アザトース体内の星々を支配していたガーディアン達は、歓喜している。そして、歓喜のまま消滅して行っている。

 

ある意味、史上最大の拡大型自殺。

 

それに、Kは巻き込まれたのだ。

 

勿論見返りなしに、そのようなものにつきあうことは無い。Kがこの星に来た理由は。当然、巨大なビジネスのため。

 

宇宙史上最大の国家犯罪など、それこそKにはどうでもいい。人間など、存在するだけで、罪と邪悪をばらまく化け物だ。どこの星の人間もそれに大差は無いとKは考えている。だから、アザトースの真実を知ったときも、何とも思わなかった。

 

まずいやり方をしたな、そう考えただけである。

 

「おー。 相変わらず壮観だぜ」

 

「全くだ。 Mの野郎、豪快に戦いやがる」

 

となりにメットが来た。長身のメットは、白い歯をむき出しにして、Mの凶暴な戦闘ぶりを眺めやる。

 

けたけたと、隣に来たゲッソーが笑った。

 

非常に細いゲッソーは、ロケットブースターで今も宙に浮いている。後ろでは、不機嫌そうに、パックンフラワーが腕組みして柱に背中を預けていた。

 

ノコノコが来たことで、Kの配下四天王が揃った。

 

今、一瞬で千体以上の生きた兵器軍が、Mの拳に吹き飛ばされた。本当に奴は、化け物としかいいようがない。

 

だが、この星に来たことで。

 

Kは手に入れることが出来るのだ。

 

アザトースを作った星の連中が築き上げた、科学技術の一部を。

 

それはこれからの世界で、宇宙開発にも、兵器開発にも、何にも応用できるだろう。裏側から世界を抑えている財閥やパワーエリートどもなど、比較にもならぬ財力が、Kの懐に飛び込んでくる。

 

世界は、Kのものとなるのだ。

 

同盟者であるDr、Wが来た。

 

眉毛が特徴的な老科学者は、側に護衛らしい、非常に機嫌が悪そうな人型ロボットをつれていた。

 

「K、まずい事になった」

 

「どうした」

 

「アザトースが気付いたらしい。 抑えていたこの星のメインコンピュータのデータが、瞬時にクラッシュしおったわ」

 

「何……」

 

余裕が消し飛ぶのを、Kは感じた。

 

星系全体に広がっているアザトース、しかも常に夢を見ている状態の邪神にとって、その体内の一器官にさえ過ぎない惑星での戦いなど、気付くはずも無い。それが、Kの見立てだった。

 

だが、まさかこのような形で介入してくるとは。

 

そういえば、四元素神の内三柱が死んだことで、奴の眠りが冷め始めているとニャルラトホテプは言っていたか。

 

それに加えて、八つの惑星で繰り広げられた激戦が。アザトースの午睡を覚ましてしまったのだろう。

 

「どうもアザトースの奴は、この星に技術や知識を詰め込んだコンピュータがあったことも知らなかったし、そのこと自体も許せなかったらしいなあ。 一応、使えそうなデータは幾らか解析済みだが、まずいぞ。 あんなガーディアンどもとは比較にもならん戦闘タイプの邪神が来る可能性がある」

 

「K様。 これは、遊んでいる場合ではないかと」

 

ノコノコに直言される。

 

K自身も、ほぞをかむ思いだった。当然、爆薬庫の隣で遊んでいることくらいは自覚している。

 

それに、ニャルラトホテプから聞いてもいたのだ。

 

四元素神など、アザトースやヨグ=ソトースに比べてしまえば、雑魚も良いところだと。あのMでさえ、命を燃やし尽くして死中に活を得る、というほどの相手。戦う事に、利など一つも無い。

 

「引き上げようぜ、旦那。 まだ退路は確保できてるんだろ、Wの爺さん」

 

「ああ。 データはそちらから退避させたわい」

 

ゲッソーが、いつもの馬鹿笑いもなしに言う。

 

メットも、むっつりと、頷くばかりだった。

 

「わかった。 お前達は、先に引き上げろ」

 

「旦那は?」

 

「少し、Mと話してから戻る」

 

ノコノコが嘆息する。

 

見れば、真っ暗だった空に、少しずつ金色の光が差し込みつつある。

 

Wが言っていたことが、現実になろうとしている。ニャルラトホテプから得た幾つかの技術で、この星のガーディアンどもに襲われないようにはしていたのだが。その技術も、じき使えなくなるだろう。

 

そういえば、ルードヴィッグは、撤退をしただろうか。

 

もはや、それどころでは無いと知りつつも。Kは、今更ながらに、心配をしていた。

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