オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
スペランカーがむくりと起きるのを見て、川背がほっとして顔をほころばせる。
少し長い夢を見ていた。
ガーディアンの邪神と戦いながら、スペランカーは何となくだが、彼らが死を望んでいる事に気付いたのだ。
そして倒したことで。
彼らの中にある、アザトースの願いに気付いた。
「川背ちゃん、此処は……?」
「攻略予定だった、第七の星。 土管だらけの惑星です。 今、ようやく、敵の飛行要塞のあぶり出しに成功したところですよ」
「……すぐに、決着を付けないと」
怪訝そうにする川背に手を貸してもらって、スペランカーはベットから起き上がった。
すぐに服を着替えて、外に。
今、会議が行われているという。案内してもらう。残りの日は三日弱。どうにか間に合いそうだと思う反面、嫌な予感がする。
外に出ると、空は金色のまま。まだ決着はついていないのだろう。
しかし、嫌な予感が、適中したのを、スペランカーは悟った。
「どうしましたか、先輩」
「うん。 後で話すよ」
一応、周囲の戦況は落ち着いている様子だ。アーサーが前線に出て、敵の侵攻をほぼ排除することに成功したという。
更に、空の惑星と、氷の惑星は、既に攻略が完了。
ただしどちらも被害が大きく、すぐに此方に回れる人員はあまり多くないという。闇の星では、まだ激戦が続いていて、其方と此処に、半々ずつ人員が回されるようだ。
会議が行われているプレハブに入る。
見ると、ジョーが忍びの者達と、話をしていた。複雑な土管の構造図が、ホワイトボードに張り出されている。
「つまり、この土管の殆どは、一種のカモフラージュに過ぎなかった、という事だな」
「間違いないだろうな。 我々が手を尽くして調べてみたが、殆どはそもそも地下にさえ通じておらず、敵を転送するだけの機械とかしている。 一部だけが地下に通じて、この世界の二重構造を構成している様子だ」
川背が咳払いをして、皆がスペランカーに気付いた。
スペランカーは続けて欲しいと言って、状況を知るべく、配られている資料に目を通す。
敵の移動要塞の位置が判明したという。
苦闘の末、皆の努力があって、ようやく割り出せたのだ。とはいっても、それには偶然の要素が大きかったとも言う。
そもそも八方ふさがりだった状況に、光明が差したのは、数時間前のこと。
展開していた忍びの一人が、情報を持ち帰ってきたのだ。
忍びと言っても、怪しい術を使う者達では無い。
理にかなった現在の技術と、元々鍛えている体、それに何より他のフィールド探索者達と同じ特殊能力を用いて、情報を集めるのだ。
彼らの一人が、対地中用の特殊ソナーを用いて、ついに地中に埋まっている特殊な大質量物体を発見したのである。
多角的な調査が行われた。
いつ怪物が現れてもおかしくない状況下、必死の調査が半日行われ、それが潜んでいる敵の要塞だとほぼ特定されるに至った。
問題はその周囲。
多数の土管が林立しているのだが。それらの全てから、敵が出現する可能性が高いというのだ。
氷の惑星に展開していた精鋭が此方に来てくれているが、それでも正面突破は厳しいと、ジョーは言う。
「地底全体に敵がひしめいているとすると、怪物の数は億に達する可能性もある。 それらが一斉に迎撃に出てくると、捌ききれまい」
「先にガーディアンを眠らせてみたいのだけれど、いい?」
不意に、スペランカーが発言したので、周囲は瞠目した。
咳払いすると、スペランカーは、周りを見回す。
「分かったの。 さっきの戦いで、この星だけじゃ無くて、全ての星にいるガーディアン達が、どういう存在なのか」
「アザトースの精神を守るための安全弁なのではないのか?」
「ううん、それは大前提として。 そもそもアザトースは、この星系で行われていた地獄のような戦争を終わらせるために、非人道的な人体実験の餌食にされたの」
闇の世界に生きてきただろうじゃじゃ丸も、流石に口をつぐんだ。
アザトースは、世界に時々現れる、特殊能力者だった。
その力は、自分の不幸と引き替えに、周囲を幸福にすること。
利権が複雑怪奇に絡み合い、もはや解決の糸口を見つけることもできない地獄の戦争を終わらせるためにも。
アザトースは、自身の全てを、世界のために捧げたのだ。
ガーディアン達は、何故楽器となったのか。
ブラスターで、草原の星のガーディアンを屠ったときに、その心がスペランカーにも流れ込んできた。
そして、先ほど川背から聞いて、確信が得られたのだ。
勿論単独では無理だった。体内にいるダゴンやニャルラトホテプにも話を聞いて、得られた結論である。
「アザトースは、きっと世界を、平和で包みたかったんだと思う」
「平和、だと」
「そうか、音楽……!」
川背が気付いてくれた。
やはり、この後輩は。スペランカーにとって、一番頼れる存在だ。
「うん。 この星でも、音楽は平和につながるって思想があったみたい。 兵器が無くなって、音楽が世界を満たせば。 きっと地獄のような拷問を受けながら、アザトースはそう考えていたんだろうね。 それが、無理なことで、なしえないって分かっていただろうに。 その「夢」が、今この星系を守るガーディアン達の、基礎構造になったんだよ」
「すぐに、解析中のガーディアンの楽器を集めろ。 この事態を、一気に打開できるかも知れない」
ジョーが指示を出す。
いずれにしても、億を超える怪物の群れの中に飛び込むなど、無謀以外の何物でも無い。あのMだって、突破は厳しいだろう。
スペランカーは、悲しいと思う。
ただその能力だけが必要とされた、誰よりも心優しかった女の子が。
何もかもを、体も心も当然の権利も尊厳さえもあらゆる意味で陵辱されながら、それでも世界を呪わなかったのだ。皆の平和だけを願っていたのだ。
人類は、その聖者とも言える心に、一切応えなかった。
そればかりか、己の平和のためだけに、搾取のみを行おうとした。一人の犠牲で全体を救えるのならと、全体が考えてしまった。全体がその犠牲を喜び、得られた飽食に酔ったのだ。
結果が、この有様。
地球にアザトースがいたら、どうなっていただろう。
きっと結果は変わらなかっただろうと、スペランカーは思う。人にとって、あまりにもその心は美しすぎた。
だが、繰り返させない。
どれだけ人が愚かであっても。此処には、愚かでは無い人もいるのだ。世界の主流が愚かな人間であっても。世界の大半が論じるに値しない存在であったとしても。
今は、それを食い止められるのなら。
二時間ほどで、楽器が揃う。
今までガーディアン達を斃す事で、得られた楽器は六つ。その全てを使った音楽を、特殊なスピーカーをこの星中に投下して、流す。
楽器の解析と、音の出し方は分かっている。
楽器のスペシャリスト達も、世界中からかき集められた。
半日で、準備が整った。基地自体も、移動する。敵の移動要塞が隠れている、土管が林立している付近にである。
そして、演奏が始まった。
既に回収されていたこの文明の知識の中には、音楽も存在していた。
そこを重点的に解析して、平和を願う音楽を、ピックアップ。
楽譜を急いで書き起こして、演奏をはじめたのだ。
空をスペランカーは見上げる。
エキゾチックな曲だ。騒がしくないが、非常に心が安らぐのを感じる。世界有数のオペラ歌手が参加してくれた。彼女は、息子を内戦で亡くしたのだ。この危険すぎる場所にも、何ら臆すことなく、来てくれた。
そんな人もいる。知ってはいることだったけれど。スペランカーは、少し嬉しい。
歌が、始まった。
「この世に満ちる、戦禍の炎。 戦いつかれて、何も残らない。 世界を平和に、世界を平和に。 世界を、平和に」
兵士達が、捧げ筒の礼をした。
周囲に、変化が生じ始める。
「戦争で笑うのは、強い人達のみ。 弱い人達は、皆踏みにじられるだけ。 武器は守るためだけに使おう。 誰かのものを奪えば。 いずれ、その報いは、帰ってくる。 踏みにじられるのは、弱い人達だけ。 子供も、老人も、みんな火の中で、燃え尽きてしまう」
極端な反戦の歌だ。
スペランカーも、守るために戦う意味を知っている。
戦う際には、敵を叩き潰さなければならないことだって、分かっている。敵を、死なせたことだって、何度となくある。
だが、この星は。
ただ一人の聖者に何もかもを押しつけるという、最低最悪の解決を「合理的」だからという理由で選んでしまった。
そして、誰も、罪悪さえ感じなかったのだろう。
いや、それは違う。
なぜなら、ニャルラトホテプの動機の一つは。
歪みきるその前は。
だが、罪悪を感じる人はわずかにいても。おかしいと言える人はいなかった。きっと地球と同じく、「空気」という集団心理が、それを阻害していたのだろう。
皆が幸せなのに、何故それを奪おうとする。
そいつだけが不幸になっていれば、文明さえも著しい発達を見せるというのに。その「合理的」理屈が、大多数の心を満たしてしまっていたのだ。
周囲に林立する土管が、歪みはじめた。
気付いていた。
この土管は、全てが。ガーディアンの体の一部であるという事を。地面に、次々引っ込んでいく土管達。
反戦の歌は。何もかもを捧げて、陵辱され尽くしたアザトースの。心の奥底にあった、願いではなかったのか。
「歌が聞こえる」
「本当だ!」
空に、巨大な何かが出現しはじめていた。
間違いない。この星を支配するガーディアンだ。形状は、一種のバグパイプに近い。このガーディアンは、より極端で、完全に楽器そのものだった。
皆を制止して、スペランカーが歩み寄る。
ガーディアンも、近づいてきた。
兵士達の中には、思わず銃を向ける者もいたが、アーサーが一喝して止めさせる。今は、対話の時だ。戦う時ではない。
心の中に、直接ガーディアンが、語りかけてきた。スペランカーは目を閉じて、会話に集中する。
「主が、お前と、話したがっただろう。 全ては遅かったが」
心の中に、直接声が響く。
言葉は違うから、一種の思念をそのまま向けてきたのだろう。ただ、普通の人間には、刺激が強すぎるかも知れない。頭が割れそうに痛む。
それでも、スペランカーは、ゆっくり、丁寧に応じていった。
「私はスペランカー。 貴方は」
「主の心の守護者。 我の全ては、主の美しかった思い出を守るためだけにある」
やはり、そういう事だったのか。
スペランカーの予想通りだったことになる。
美しい草原。鮮やかな海。巨大な動物たちは、きっと動物園か何かか。まだ一緒にいた頃、父親とみた美しい空。きっと映像媒体で見ただろう、感動的な雪原。閑かな砂漠。この土管の群れは、きっと幼い頃、遊んだ場所の思い出だろうか。廃工場か何か、かもしれない。
しかし、闇の星は何だろう。
気付く。
兵器自体を、アザトースは憎んでいなかったのだろう。兵器が戦争に使われることそのものを、悲しんでいたのだ。
ガーディアン達は機械的に星を守っていたのではない。おそらく自主的に、無人となった星を、そのように改造していったのだ。
「もう戦う気はないよ。 これから、術式を展開して、アザトースさんの壊れてしまった心を、一カ所に集めて。 そして、彼女を救いたい。 手を、貸して欲しいの」
「私は、ただ主を守るだけの存在。 その行動を、邪魔する理由は無い」
「ごめんね。 貴方たちの事を、もっと理解して行動するべきだった。 貴方たちが反撃してきたのも当然だったんだね。 私達が、貴方たちの平和を、踏みにじってしまったんだね」
「不幸なすれ違いはよくあることだ。 それに、我らはもうつかれていた。 主が願ったただの音楽に戻り、休みたいと願っていた。 主も無理は知っていたのだ。 平和が満ちた世界は、主の夢だった。 夢の神のそのまた夢を守るだけが、我らの仕事だったのだから、果たされる今、もはや悔いはない。 今、貴殿のような存在に、心が通じただけでも、我は嬉しく思う」
ばちんと、音を立てて、ガーディアンは消えた。
死んだのか、或いは。
アザトースの中に、戻ったのかも知れない。
アザトースを救ったあとも、人類は反省などしないだろう。すぐに進歩するとは、とても思えない。
だが、今は。
今だけでも、愚行はしない。
「地下に潜んでいる飛行要塞は」
「機能停止した様子です。 あれは……」
情報士官が、ジョーに応える。
無数に開いた穴から、一人の男が這いだしてくる。相当な筋肉質で、見るからに強そうだ。
だが、彼も、話は聞いていたのだろう。
アーサーと川背が立ちふさがるが、男は天を仰ぐ。
既に彼の身を守る怪物達もいなければ、要塞もない。
「俺も、この状況で戦おうって思うほど、阿呆じゃねえよ。 別の場所で、いずれあんた達の力は見せてもらうぜ」
「貴方は?」
「Kの長子、ルドヴィッグ。 じゃあ、またな。 こんな形で負けるとは、流石に思わなかったぜ。 あんたのこと、覚えておくよ、スペランカー」
三十前後のその男は、どうやら相当な使い手であると同時に、頭も切れるようだった。それが、この場では嬉しい。
もう、この星で、無用な争いで血を流したくはなかった。
「Kさんは、どうしてこの星に?」
「ビジネスが目的だろうよ。 俺も親父のことはよく知らん。 というよりも、親父だって知ったのもつい最近なんでな」
鼻で笑うと、ルドヴィッグは去って行く。
或いは、スペランカーと話して、満足したのかも知れなかった。
ジョーが指示を出して、すぐにこの星でも、術式の準備が開始される。後は、最後の一つ。
Mが攻略を担当している、闇の星だけだった。