オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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ついに、アザトースへ迫る時が来ました。

これだけは、スペランカーがやらなければなりません。

残る時間は僅か。

破滅の未来が近付いて来ています。


5、孤独の末の救済

黄金の海の中を、スペランカーはひたすら突き進んだ。

 

気配が教えてくれる。

 

この中に、明らかな違和感がある。以前よりも、ずっと探しやすい気配。そして、今しか、救う好機は無い。

 

いた。

 

ワンピースのような服を着て、膝を抱えた女の子。地球人と、殆ど姿は変わらない。以前見たとおりの姿だ。

 

顔を上げた彼女は、スペランカーを見つめる。そして、小首をかしげた。

 

「貴方は誰?」

 

「私は、スペランカー。 貴方を、助けに来たよ」

 

「それは駄目」

 

明確な拒否。

 

理由は、スペランカーには分かっていた。

 

「貴方が不幸にならないと、皆が幸せにならないから、だね」

 

「そう。 私は不幸でなければならないの。 そうでなければ、家族も幸せには生きられないし、戦争も終わらない。 文明も、発展しない」

 

「もう、良いんだよ」

 

スペランカーが手をさしのべ、アザトースを立たせる。

 

そして、一緒に周囲を見た。

 

もはや戦争などない。

 

そもそも、アザトースに全てを押しつけて、自分たちの幸せを得ていた連中は、何処かにいってしまった。

 

彼女が言う家族だって、生きていたら。アザトースを見捨てて、何処かよそへ去って行っただろう

 

そのような存在の何が家族か。

 

スペランカーは、基本的に何かを否定しようとは思わない。だが、実の母親だけは違う。アザトースの家族は、あの女の同類だと、スペランカーは思っていた。

 

「私がしたことは、無駄だったの?」

 

何処か、惚けたように、アザトースが言う。

 

この人は、決して愚かではない。知った上で、全てを受け入れていたのだろう。そんな気高い心だったのに。

 

「ううん、貴方の努力は、最高の結果を生んだよ。 台無しにしたのは、周りの愚かな人達」

 

「そんな愚かな人達でも、私は幸せになって欲しかった」

 

スペランカーは、アザトースに全てを話していく。

 

何が起きたのか。

 

今、何が起きているのか。

 

全てを聞き終えると。アザトースは閑かにほほえんでいた。

 

「そう。 私が全ての元凶なのね」

 

「違うよ、アザトースさん」

 

「?」

 

「貴方の力は、私達の希望でもある。 特に私は……きっと貴方がいなければ、今まで生きることも出来なかった。 貴方を何かの元凶としてしまったのは、この星にいた愚かな人達。 貴方に、責任はないよ」

 

さあ、一緒に行こう。

 

こんな所に、いては駄目。

 

貴方の体はもう取り返しがつかないとしても。貴方の心だけでも、救い出したい。そう、スペランカーは告げた。

 

アザトースはじっとスペランカーを見つめる。

 

「人は、貴方の星でも変わらない?」

 

「残念だけれど」

 

「そう……」

 

悲しそうにほほえむアザトースの手を、スペランカーは引いた。

 

心が壊れることは無い。

 

アザトースは、全てを知った上で、受け入れてくれた。

 

素直に凄いと思う。

 

だからこそに、余計に救い出さなければならない。この星にいた人間達が造り出した、この金色の檻から。

 

アザトースという一つの人格は。スペランカーと共に、今、邪悪なる人体実験の結果である、金色の星系から、抜け出した。

 

 

 

地面にしたたか叩き付けられた川背は、呼吸を整えながら、立ち上がる。

 

敵の体を手酷く削ってやったが、どうも限界らしい。だが、充分な時間は稼いだ。空にはこの目の前にいる、どう考えても四元素神以上の力を持つだろう怪物が、それこそ何千何万という単位で飛んでいるが。

 

一番最初にここに来た、此奴が儀式を邪魔できず。

 

そして、スペランカー先輩の所まで、たどり着けなければ、それでいいのだ。

 

もう、体が動かない。

 

それに対して、相手は削られた体をその都度補修して、余裕の様子で立っている。だが、戦略的には、川背の勝ちだ。

 

先輩なら、必ずやってくれる。

 

そう信じた川背は。

 

報われた。

 

怪物が、不意に傅いたのである。

 

他の怪物達も、地面に降りると、一斉に傅いた。

 

スペランカーが、そこにいる。

 

手を引いているのは誰だろう。

 

白地のワンピースを着た、地味な、穏やかそうな女性。年齢も、おそらく二十歳には達していないだろう。決して綺麗では無いが、なんだろう。

 

先輩と同じ、強い包容力を持つ存在のように見えた。

 

彼女が、アザトースか。

 

肉体は、あるのか。スペランカーが手をつないでいるという事は、あるのだろう。ただし、人間だとは思えない。かといって、邪神でも無いだろう。

 

誰でも無い、生物でさえない、人によく似た何か。

 

それでも、スペランカーは受け入れるだろう。アトランティスという受け口もある。

 

やった。

 

誰かが、喚声を挙げた。

 

怪物達も、攻撃を既に止めている。アザトースが攻撃を止めるように指示したのだから、当然だ。

 

「邪神の活動停止!」

 

「俺たちの能力も消えていない!」

 

「勝ったぞ! 生き残ったんだ!」

 

勝ったわけじゃ無い。戦いが終わったから、生き延びたのだ。

 

だが、今は、放っておこう。

 

この戦場に参集したフィールド探索者達に、感謝しなければならない。怪物達は、皆金色の空に戻っていく。

 

川背はもう歩くのもやっとだったが。

 

それでも、戻ってきたスペランカーに、言わなければならなかった。

 

「お帰りなさい、先輩」

 

「ありがとう、川背ちゃん。 さあ、もう戦いは終わり。 みんなで、帰ろう」

 

アザトースは、これからどうするのだろう。

 

今回の戦いで、異星の邪神達を沈黙させた上、フィールド探索者の能力を保持することに成功したスペランカーが、アトランティスの顔役である事に、文句を言う者はいなくなるだろう。

 

だが、Kがアトランティスを狙っているという話もある。

 

これからも、川背や、皆が。スペランカーを支えていかなければならない。

 

支えていきたい。この人を。

 

そう、川背は、強く思った。

 

 

 

Mは完全に終わった戦いを見て、大きく嘆息していた。

 

ここに、Mしかいなかったら。

 

それでも、Mは勝っただろう。

 

戦いの最中に、己の能力を更にレベルアップし、邪神の群れを薙ぎ払い。そして宇宙空間に出て、邪神の親玉を叩き潰したに違いない。

 

それは、力による解決。

 

本来なら、星系レベルの巨体をもつ相手など、倒せるはずも無い。だが、Mにならできる。それが、暴虐なまでの力による、一番手早い方法。

 

Mは戦士だ。

 

だからこそ、思う。このような解決で、良かったのだろうかと。だが、良かったのだと、結論してしまう。

 

悔しいが。

 

今回は、スペランカーの勝ちだ。

 

誰もが喜ぶ中、舞い降りたM。N社から派遣された精鋭達が、喧噪の中いち早く抜け出て、Mの周囲に集まってきた。

 

「Mさん、勝利をよろこば……」

 

軽口を叩いたリンクに、拳骨をくれる。この戦いの勝利を、Mが喜んでいるとでも思っているのか。

 

喜んでいるに決まっている。

 

しかし、同時に悔しくてならないのだ。スペランカー式のやり方で無ければ、世界中にいるフィールド探索者が力を失い、全ては破滅の未来に向かっていただろう。

 

「今回は、彼奴に勝ちを譲ってやる」

 

「へえ、あんたが珍しいね」

 

「だが、次は私だ。 私こそが、フィールド探索者の最先頭に立つ。 私こそが……」

 

空間の穴を通って、アトランティスに出る。

 

兵士達に警護されていた姫が、駆け寄ってくるのが見えた。姫は、Mを見ると、悲しそうにした。

 

「M、悔しいことがあったのですね」

 

この姫は。

 

Mのことを、理解している。

 

だからかも知れない。Mがあまりにも強大すぎる力を得た時。安全弁としてこの女が、対比の存在となった。

 

頭が上がらないだけの相手であれば、Mも此処までこの女の側にいることも無かっただろう。何かしらの形で政治的に満足させ、個人としては接しなかった可能性もある。だが、結局Mは、この深窓の令嬢と、今も親しいと呼べる関係を構築し続けている。

 

他のフィールド探索者達は気を利かせて、先に行ってしまった。

 

「貴方は冷酷で、強くて。 でも、その誇りが、とても私には好ましいです」

 

「そうか」

 

姫は、どうやらMを好いてくれているらしい。

 

「でも、次からは、もう少し早く助けに来てくださいね」

 

そして、怒らせると、とても怖い女でもあった。

 

Mは頷くと、まあ良いかと、自身を納得させる。

 

勝負には負けた。

 

だが、戦いには勝ったのだ。Mの活躍が無ければ、スペランカーが勝つことも無かったことは、誰もが認めている。

 

今回は、それで納得しよう。

 

いや、納得しなさいと、姫に言われている気がした。

 

素直に受け入れる気になる自分の事を考えると。どうしてか、Mは、おかしくてならなかった。

 

そしてこうも思うのだ。

 

やはり、スペランカーの事は、大嫌いだと。

 

 

 

世界各地での、フィールドは残っていた。

 

異星の邪神そのものは多くが眠りについたが、邪神そのものが消えるわけでも無い。災厄の象徴としてのフィールドは、様々な理由で、残り続けていた。

 

この星は、以前とさほど変わらない。

 

何処かの国で、また紛争が起きる。

 

内戦が悲惨な結果を生み、多くの無辜の市民が邪悪な暴力に蹂躙される。フィールドによる災害は発生するし、それ以上の悲劇。この世界最悪のもの、人災によって、多くの弱者が泣く。

 

スペランカーは、アトランティスの草原で、風に吹かれながら、報告を聞いていた。

 

あの戦いの後、異星の技術の一部を持ち帰ったKが、勢力を伸ばしているという。噂によると、宇宙開発のための画期的技術を握っているとかで、国際指名手配犯だというのに各国に引っ張りだこだそうだ。

 

あの戦いで、一番上手に立ち回ったのは、Kかも知れない。

 

報告をする半魚人の長老は、悔しそうに顔を歪めた。

 

Kはアトランティスを狙っている。

 

それは周知の事実。今後も、このアトランティスが、平穏無事な時代は、来ないだろう。

 

コットンが成長する頃には、彼女にも悲惨な戦いに巻き込まれる可能性が出てくる。

 

スペランカーを慕ってくれていることは嬉しい。だが、だからこそに。

 

コットンが、スペランカーのために命を投げ出す時が来ないか。それが、怖かった。

 

「Kは、この星の人間そのものですな。 邪悪で強かで、ある意味我らのかっての主よりもたちがわるい」

 

「人は……」

 

変わらないかも知れない。

 

アザトースはあれから、神殿の奥で閑かに隠棲している。彼女は邪神達の王であるがゆえに、もし殺しでもすれば何が起きるか分からない。かといって、優遇する事は、今までの邪神による事件の被害者達からどのような反発があるか分からない。

 

というわけで、スペランカーが当然のようにアトランティスで庇護することとなった。

 

彼女は、身体検査の結果、やはり人間では無いことがはっきりしていた。だが、心は、人間に近い存在として再構成を果たしている。

 

シーザー達未来から来た者達は、この間戻っていった。

 

戻りたくないといった者達も何名かいたので、彼らは永住することとなったが。シーザーも、この世界にまたひょっこりやってくるかも知れない。

 

川背が来た。

 

彼女は最近、アトランティスにまめに足を運んでくれるようになった。

 

とても美味しい料理は、誰にでも評判だ。

 

「先輩、何を見ていたんですか?」

 

「ううん、何も。 行こう、コットンがおなかをすかせている頃だから」

 

たまにアーサーも来てくれる。ようやく年の離れた婚約者と式を挙げたそうで、その分忙しくなったようだが。性格は相変わらずで、頼りになる盟友として、時々フィールドに一緒に出向く。

 

家に戻る最中、急いだ様子で、骸骨の戦士が来た。

 

どうやら、皆で食事は出来なさそうだ。

 

「アトランティス東北東の海上に、直径七十キロに達するフィールドが発生しました。 まず間違いなく重異形化フィールドで、拡大を続けています。 小さな島国が側にはあり、国家非常事態宣言が発令された模様です」

 

「分かった。 私が行くよ。 川背ちゃんも、来てくれる?」

 

「先輩が行くところなら、地獄の底まででも」

 

頷くと、増援の手配を頼む。川背は最近、そういった手配を引き受けてくれる。だいたいいつも非常に的確な増援を手配してくれるので、とても助かる。

 

きっと、楽な戦いには、ならないだろう。

 

世界は、何も変わらない。

 

異星の邪神が静かになっても、この星が平和になることは無かったし、人々が一つになることも無かった。

 

ただ、一つ決めている事がある。

 

私の大事な人達には。絶対に、好き勝手な事なんて、させない。

 

アザトースが、「同胞」に受けた仕打ちを見て、悟ったのだ。もちろん、今でもスペランカーは、可能な限り誰も否定したくないし、どんな考えでもまず聞いてみようと思っている。コミュニケーションが取れるのなら、粘り強く話していきたいとも。

 

だが、やはり。

 

強くあり、守るための覚悟も必要なのだ。

 

すぐに、出向くための飛行機が準備された。何名かの知り合いのフィールド探索者が、現場に急行してくれることにもなった。向こうでは、Mが待っているという。苦手な人だが、戦士としてはこの上も無く頼りになる。今回も、仲良くしなければならない。

 

空港に見送りに来てくれたコットンは、嫌な顔一つしなかった。

 

彼女は、嬉しい送りの言葉を、くれた。

 

「行ってらっしゃい、おかあさん」

 

スペランカーは、笑顔でそれに応える。

 

「行ってきます」

 

今日も。

 

世界は、悲劇と絶望に満ちている。

 

それでも。スペランカーは、この世界の現実と、向き合って生きていくつもりだった。

 

 

 

(完)




如何だったでしょうか。

まだこの作品シリーズには番外タイトルが幾つかあるのですが、様子を見てあげていこうと思います。

後、それぞれに題材として用いた作品の解説もいずれあげるつもりです。
其方もお楽しみに。
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