オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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ファミコン初期の名作ゲーム、クルクルランド。

本作ではこれを題材に、ある豪華客船(モデルは例のあの船です)で起きた悲劇と、その裏にあった悪意を扱っていきます。

今回も海腹川背が登場するのと同時に、魔界村の主人公、アーサーも登場します。

彼もこの作品シリーズでは、スペランカーを支えてくれる盟友となります。


海底の叫び
序、南極海の幽霊船


南極オキアミに支えられた豊富な魚介資源を求めて、操業を続ける漁師ウルリヒ=バーンが最初にそれに気付いたのは、必然であり、偶然ではなかった。彼こそがT国でもっとも南極海に通じた漁師であったからだ。年老いたウルリヒは豊富な髭を蓄えた頑固な老人で、漁師として円熟した技を持つ男である。だから故に、恐怖と最初に立ち会うこととなったのだ。

 

厳重な対寒装備を施した小舟の上で、彼は網を巻き取り、良く太った魚を次々と冷凍保存庫に放り込んでいた。だが、その手が止まる。彫りの深い、良く日焼けした顔立ちに沈み込むようにして存在している双眸が、闇のように広がり来る「それ」を捕らえる。

 

霧だ。

 

白い闇のように、霧が出始めている。

 

この辺りで、霧が出ることは滅多にない。風の流れからも、後の天候を三十分単位で捕らえるほどの熟練漁師である。異常事態を察知した彼は、エンジンルームにいる息子に、すぐにだみ声を張り上げた。老いたりとは言え陸の者には負けない筋骨逞しい彼の腕は、既に網を全力で引き上げるべくワイヤー巻き上げ機のレバーに掛かっている。

 

「オーネッド! エンジンを掛けろ! 此処を離れる!」

 

「なんでだよ、親爺! 大漁じゃねえか!」

 

エンジンルームから、彼の若いころにそっくりな息子、オーネッドが顔を出す。潮の香りがおかしくなってきているのに、息子は気付かない。

 

「見ろ、おかしな霧が出始めている。 何か起こる前触れだ」

 

「で、でもよ、あと二時間もここで漁をすれば、一月分の稼ぎにはなるぜ!」

 

「馬鹿野郎! 死んだら稼ぎも糞もあるか!」

 

そう鬼のような形相で叫ぶと、息子は慌ててエンジンルームに駆け込んだ。そうこうするうちにも、霧はどんどん広がってきている。どうにか網を引き上げおえたウルリヒは、その霧に、不吉なものを感じた。

 

船が動き出す。

 

絶好のタイミングで行われた漁が中断されたことに、不満を言うかのように。エンジン音は、不気味な軋りを混ぜ込んでいた。潮風の中に、妙な湿っぽさを感じる。これは、嵐の予兆ではない。しかし、雨でもない。なんだこれは。感じたことがない、不気味な気配が、老いた漁師の全身にまとわりつく。

 

全身が震え上がるのを、ウルリヒは感じた。

 

見たのだ。霧の中から、巨大な影が浮き上がるのを。

 

それは途轍もなく巨大で、一瞬ウルリヒはタンカーではないかと思った。だが、違う。形状が異なっている。もちろん、漁をする時に、確認済みだ。この辺りを航行している船など無い。

 

やがて、影が全貌を現す。

 

その時には、もはや船は全力でその海域を離れていた。それなのに、巨大な影は、その努力を嘲笑うかのようについてくる。

 

「豪華客船だ……」

 

思わずウルリヒは呟いていた。

 

百三十年前、この海域で氷山に衝突し、沈没した豪華客船があった。被害者数は千三百人とも千三百五十人とも言われる。様々な理由から救助が遅れ、救出された人間は僅か七名という悲劇であった。タイタニック号の悲劇に並ぶ海難事故として知られる、通称ルルイエの生け贄事件である。

 

犠牲になった豪華客船の名前は、クイーン・ルルイエ。かってE国が植民地化した小国の女王の名前を、戦利品代わりに付けた悪趣味な船だったのだが。その怨念を買うようにして、悲劇の舞台となってしまった。

 

凄惨な事件以来、この近辺を辿ることがタブーとなった豪華客船は、一隻たりともこの辺りを通ってはいない。

 

白い闇の中から浮かび上がってくる豪華客船には、かすれた文字で、ルルイエと書かれていた。冗談にしてはできすぎている。

 

「急げ! 急ぐんだ!」

 

異常に気付いた息子も、エンジンが火を噴くほどに加速する。やがて、どうにか漁船は、巨大な死せる豪華客船の魔の手を逃れ、帰港することが出来た。船を下りたウルリヒは、愕然とする。

 

船の後部には、赤い手形が、無数についていたのだ。

 

窓にも床にも壁にも船室にも。

 

そして、ウルリヒの船衣にも。

 

収穫した魚たちは、まるで二月も前に収穫したかのように、腐り果てていた。冷凍庫に入れていた魚も同じである。異臭を放つ白く濁った魚の目を見て戦慄する他の漁師達を、ウルリヒは一喝した。

 

「早く他の漁師達にも連絡を出せ! 港に避難させるんだ!」

 

「わ、分かった!」

 

ばらばらと散る漁師達。彼らの背中を見つめながら、ウルリヒは独りごちた。

 

「これは、フィールド認定されるな」

 

ぽろりと煙草を落としたのは、側で聞いていたオーネッドである。

 

全力で逃げるという判断が正しかったことに戦慄しながら、ウルリヒは警察と市役所に連絡するように、周囲の漁師達に指示を飛ばす。港の顔役でもある彼の判断で、しばらくの漁が中止となった。

 

前々から、幽霊船の噂はあった。

 

悲劇的すぎるルルイエの生け贄事件は、それだけの噂を呼ぶに充分だったのである。ましてや此処は、迷信深い田舎町だ。

 

だが、専門の調査チームが赴いても、痕跡を発見することは出来なかった。

 

今回は違う。これほど明確な証拠を伴い、人命に関わる被害が出そうになっている以上、国が動かざるを得ない。そしてフィールド探索者に、対応を任せることになるだろう。その間は漁が出来なくなる。出来るとしても、限定的な範囲でしか行えなくなるだろう。それは貧しい漁村にとって、死活問題だ。

 

豊かな国になると、フィールド発生時の被害を補填してくれる場合もある。

 

だが、この貧しいT国ではそれもない。鉱山労働でどうにか生計を立てている貧困国で、生活苦から犯罪組織が幅を利かせ、ゲリラも出るような場所である。ましてやこの港町は、大した利益も上げていない寂れた土地。T国の中でも重要性は低い。そのような状況で、補填など行われる訳もない。

 

警報が早かったからか、被害は最小限で済んだ。

 

ただし、二隻の船が同じように幽霊船に追いかけ回され、収穫が全滅。そして一隻の船は、とうとう帰ってこなかった。乗っていた船員は、まず絶望であろう。優秀な漁師達だったのだが、助ける術など存在しなかった。

 

誰もが知っている。フィールドの中に住み着いている者達には、軍隊でさえ歯が立たないのだ。

 

市役所に連絡してからほどなく、すぐに情報は国まで行った。二日後には戦闘機が飛んできて、霧の状態を確認。そして測定器が、異常な状況を科学的に立証したという報告が来た。

 

これで、一時的なフィールドかも知れないという望みは、木っ端微塵に砕かれた。T国沖合、南極海の一部に、フィールド認定および、航行禁止令が出る。漁業関係者には、収入がゼロになるも同じである。

 

もはやこうなってしまうとウルリヒには、どうすることも出来なかった。

 

翌日。ウルリヒは主だった漁師達を集めて、その蒼白な顔を見回しながら言った。

 

「少しでも早く、フィールド探索者が来てくれることを祈ろう」

 

「しかし彼奴らは、とんでもない大金を取るんだろ!? 俺達に、そんなの払えるのか」

 

「国から、ほんの少しだけ補填金が出る。 後は借金するしかない」

 

ウルリヒが言うと、何人かが絞められた鶏のように呻いた。

 

もとよりフィールド探索者は、先進国の金銭感覚で動いている。活動の相場は凄まじく、漁師の稼ぎでは数年分以上に達することも多い。しかも、それで来るのは、最低限の連中ばかりだ。国の話によると、今回発生したフィールドは「重異形化フィールド」とか呼ばれる最悪のタイプで、とてもではないがシロウトに毛が生えた程度のフィールド探索者では手に負えないという。

 

幾つか、斡旋会社もある。有名なのは、最強と呼ばれるI国の元配管工を始めとする歴戦の猛者を揃えているN社だが、此処は国家予算規模の報酬を要求する。続いて有名どころは非常に成長力が高い可変型ロボット「R」もしくは「M」を有するC社だが、此処に関しては報酬が安めである代わりに人員が少なく、滅多なことでは派遣されないことも多い。

 

発展途上国出身のフィールド探索者の中には、良心的な値段で動いてくれる者もいる。だが、彼らの数は少ない。そして何より、T国にそんな者はいなかった。

 

フィールド発生後、三日して、斡旋会社から営業マンが来た。嫌々ながらだが、街で一番良いホテルに案内する。彼らは露骨に顔をしかめた。一番良い景色を独占できる白亜の建物も、彼らからすれば見飽きている程度の代物なのだろう。

 

街で最高の食事を振る舞いながら、ビジネスの話に移る。

 

彼らの話によると、支援要員一人、実戦要員が三人派遣されてくると言う。話によると、フィールド探索者は各社が談合の上に派遣を決めてくるそうで、個人契約の者も大体はその綱引きの上に乗った状態で仕事をするのだとか。

 

そして、要求金額を見て、ウルリヒは目を剥いた。

 

もはや、例えフィールドを打ち払っても、この小さな港町が再興することはない。そう思えてならなかった。

 

幸い、と言うべきか。

 

一人はC社から派遣されてくるベテランで、相当な実力者だという。

 

確実に、フィールドを潰してくれるでしょうと、営業マンは嫌みたらしく眼鏡を直しながら言った。もちろん成功報酬だと。

 

フィールドは放っておくと広がることもある。そのまま放置しておけば、港町が飲み込まれる可能性もあるという。

 

選択肢はなかった。

 

下手をするとこれから数十年、この街は大企業の資本下に置かれるのかも知れない。

 

憂鬱なウルリヒに、営業マンは作り込んだ笑顔を向けてきた。

 

「ローンでの支払いも可能です。 最大で、六十年払いのコースもございます」

 

「……負担が一番小さいものにしてほしい。 俺達は見ての通り、貧乏な漁民だ。 街が全体で借金をしても、払える金額など知れている」

 

「それならば、漁獲高に応じた返済プランもございます。 発展途上国でのフィールド発生、解決も今回が初めてではございません。 我々はあくまで世のため人のために働いているものですから、現地の方々に負担が最も小さくなる方法も心得ております」

 

良く動く口に、効果的な反論が出来ないことが恨めしい。

 

ほどなく、漁獲高の半分を収め続け、足りない場合は労働力を提供するというプランにて、合意が決まった。

 

沖合の霧は、勢力を徐々に拡大しているという。命には代えられないとはいえ、自分は孫の代まで恨まれ続けるのだろうなと、ウルリヒは思った。

 

ヒーローは、いるのかも知れない。

 

しかしそれは、子供達の夢に出てくるような、都合がよい存在ではない。

 

アメリカンコミックのヒーローが、世代や思想ごとに派閥を構成し、抗争を繰り返すのは有名な話だ。ウルリヒでさえ知っている。

 

現実も、そんなものなのかも知れない。

 

夢など、何処にも実在はしなかった。

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