オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
そこで出現した二つの知的生命は、ずっと呪いと相談しながら生き続けてきて。
呪いの土地から出た一部の戦士が、外貨を獲得するためにフィールド探索者をしています。
その一人が、グルッピーなのです。
何処までも広がる海原の上を、高速で飛行する赤い影があった。
彼の名前はグルッピー。熟練の戦士である。
故郷を出て、今仕事に向かっているグルッピーは、思い出す。仕事に出る時に、故郷のことを思い起こすのは、彼の習慣であった。
潮風が体を撫でる。速度を落とさないようにして、急ぐ。
その土地に、その何者かが侵入してきたのは、遙か昔のこと。グルッピーが土地の古老に聞かされた所によると、曾祖父の曾祖父、その曾祖父がまだ幼かった時代の、また昔だという。
ともかく、その何者かは、情け容赦なく土地を侵略した。
土地を奪うのではない。己に都合がよいように、作り替えたのだという。
伝承ではそう言われている。後にグルッピーが学者に聞いた所によると、その存在は別宇宙からの法則を、自分が暮らしやすくするために持ち込んだのではないかという事であった。そう考えてみると、侵略者ではなく、ただ生きたいと願っていただけなのかも知れない。
いずれにしても、グルッピーらの先祖は、その法則によって、ほぼ滅び去ってしまった。
許し難い仇敵に対し、その土地に生きる全ての存在が戦いを挑むことになった。いがみ合っていた者達も、この時ばかりは手を結び、共通の敵に立ち向かった。
激しく抗うことで、何者かを撃退することは出来た。
だが、作り替えられた土地は、元に戻ることはなかった。
殆どの存在は、土地を出て行った。しかし、土地に残った者達は、その法則と共存することを考えなければならなかった。
適応できない者は、死に絶えるしかなかった。
辛くも適応できた者は、何十世代も掛けながら、その獲得した形質を、子孫に伝えていった。
皮肉なことに、それは敵対部族も同じ事であった。
やがて、新しい法則は、その土地に自然に馴染むことになった。
そして戦いも、その法則に基づいて行われるようになった。
資源の奪い合い。土地の奪い合い。いずれもが、新しい法則の下で行われた。
常に移動していなければ、体が破裂してしまうと言う、おぞましい土地。その土地のことは、外部の存在から、クルクルランドと呼ばれるようになった。
グルッピーはクルクルランド出身の、フィールド探索者である。
形状は地上のどの生物とも似ていない。強いて言うなら球形だ。球形の左右からは腕が、後方からは足が生えている。正面には一対の目と口があり、後方より特殊なエネルギーを噴出して進む。彼は土地でも最強の存在であり、外貨獲得のために活躍する貴重な戦士でもあった。
今の時代、クルクルランドは独立国として認められてはいても、資源は外部から獲得しなければやっていけない。今でも敵対部族であるウニラと呼ばれる者達との抗争が頻発するほど、皆が貧しいのだ。かといって、輸出できる資源は限られている。外では彼の土地のことを重異形化フィールドとか呼ぶそうだが、それが故に、外で役に立つ資源など雀の涙ほどしか取ることが出来ない。
後は、彼のように。体を張って、労働力を持って外貨を稼ぐしかないのである。
良くしたもので、対立部族のウニラ達も、同じようにして外で稼いでいるそうである。
ぶら下げているバックパックから取り出した時計を見て、時間を確認。影の方向から方角を確認して、現在の位置を割り出す。そして速度を調整しながら、合流地点へと急いだ。もう少しで、到着する。
止まることが出来ない呪い。
外部の人間達に言わせると非常に厄介な代物だが、グルッピーにしてみれば、産まれて以来ずっとつきあっている代物である。外に出てみて驚いたのは事実だが、今は別に何とも思っていない。
この能力を使いこなすことで外貨を稼いできた彼にしてみれば、最早相棒と呼んでも良い存在であった。
見えてきた。人間達が船と呼ぶ道具だ。大砲がついているのが見えるから、多分軍事用の船だろう。
でっぱり、とっかかり、何でも良い。とにかく、掴まるものが欲しい。さっと見た所、何カ所か候補らしいものがある。微妙に移動経路を調整しながら、グルッピーは合流地点に指定されている船に急ぐ。向こうは、此方に気付いただろうか。人間の視力と判断速度は、此方とは比べものにならないほど小さいのだ。
やがて、適当な候補を発見した。
T国南部へ急ぐ国連軍の軍艦、巡航艦エセットスの甲板で、スペランカーは乗ってから三十七回目の死を迎えていた。手すりにもたれかかり、真っ青になっている彼女は、息を吹き返してもやはり不快感に苦しんでいた。
スペランカー。本名ではない。
無謀な洞窟探検家という意味のこの言葉は、あまりにも貧弱な頭脳と身体能力であるにもかかわらず、どのような地獄からも必ず生還することから付けられたあだ名である。実際には、幼いころに受けた、父がプレゼントしてくれた不老不死という呪いによって、死んでも即座に復活するのである。もっとも、その反作用で、学習能力はないわ、身体能力は虚弱だわ、気を抜くとすぐ死ぬわで、ろくな目に今まで遭ってきていない。幼いころには母に育児放棄され、飢餓地獄の中で過ごしたこともある。
フィールド探索業という、危険にも程がある仕事をしているのも、この体質を生かす仕事が他になかったからだ。そうしないと食べていけないのである。幼いころの飢餓地獄を二度と味わいたくないスペランカーは、今日も死ぬのは嫌だと思いならも、何十回と死ぬことが確定なフィールドに挑み、生活費を稼ぐのだ。
とはいえ、此処まで酷い道中は初めてである。たかが船酔いでこれほど死ぬとはスペランカーも思ってはいなかった。飛行機は平気なのに、船は駄目なのだからよく分からない。短く切りそろえている髪をかき回しながら、もう一度海に嘔吐する。せっかく川背ちゃんが作ってくれたとても美味しい料理が台無しであった。
後ろからがっしゃんがっしゃんと足音。ゆっくり振り向くと、其処には途中で合流した、逞しい男性がいた。
豊富に茶色い口ひげを蓄え、瞳は海のようにクリーンな青。いかめしいいぶし銀の板金鎧を着ている、鼻の高い男である。この業界では有名な、重異形化フィールド攻略の第一人者。
フィールド探索者の大手企業であるC社に所属する中でも、重異形化フィールド攻略に関しては随一とも呼ばれる人物。E国でも最も名が知られているフィールド探索者の一人。騎士アーサーであった。E国から功績に見合う爵位も受けており、関係者はサー・ロード・アーサーと敬称を付けて呼ぶほどの男である。
「大丈夫であるか。 スペランカーどの」
「は、はい。 大丈夫、です。 うええ」
アーサーは眉根を心配そうに下げた。いかめしい外見と裏腹に、善良な人物なのだと分かる。
このアーサーは、古代の伝説に登場する英雄王と同じ名前を持つだけあり、相当な使い手である。比較的貧弱な身体能力しか持たず、割とポピュラーな特異能力しか有していないのに、歴戦のフィールド探索者でも尻込みする「魔界」という重異形化フィールドに何度となく挑み、その全てを攻略してきている人物だ。兎に角戦闘経験とスキルが圧倒的で、魔界の軍勢を前にしても一歩も引かず、単独で城に乗り込み、ついに魔王を討ち取ったこと一度や二度ではないという。
C社のエースと言えばなんといっても可変型高成長ロボット「R」もしくは「M」だが、それに勝るとも劣らない実績を、比較的貧弱な身体能力で成し遂げてきているのである。しかも、条件が揃えば魔法と呼ばれる術式を使うことも出来るという。その優れた戦闘能力と探索能力、それに実績と経験、スペランカーから見れば、それこそ雲の上の存在である。
ただ、まだ若いという話なのだが、口に蓄えている髭や、いかめしい鎧のおかげで、かなり老けて見える。時代がかったいかめしい言動も、それに拍車を掛けていた。
「確かギンタンと言う菓子が効果的であるとか聞き申す。 後はサングラスで視覚的な衝撃を緩めると、かなり楽になるという話である。 試してみると良いだろう」
「ホントですか? うぷっ! ちょ、ちょっと、ためして……」
くらりと意識が揺らいで、そのまま甲板に激突。三十八回目の死だ。
先が思いやられる。意識が戻ったスペランカーは、ぶつけた鼻をさすりながら、手すりを掴んでゆっくり立ち上がった。
肩を貸そうかと言われたが、断る。
肩を貸すと言われても、背丈が頭一つ違う相手である。そのまま背負われてしまうだろう。流石にそれは格好が悪い。
甲板は大砲とかミサイルとかバルカンファランクスとかが並んでいて、おっかない。一旦階段を下りて、船の中へ。二百五十人もの兵隊と船員が働いている最新鋭の艦の中に、鎧を着た騎士や、自分のような平和そうな容姿の人間がいると、少し恐縮してしまう。一応サバイバルルックなのだが、そうとはとても見えないだろう。童顔であることは良く自覚している。
筋肉ムキムキな長身の船員(兵士かも知れないが、階級は分からない)を見つけたので、四苦八苦しながらサングラスが欲しいと言ってみる。英語は通じなかったので、電子辞書を見ながらスペイン語で話してみると、何とか通じた。ちょっと派手めのサングラスだったが、随分楽になった。
「ありがとうございます」
「気にするな、可愛いお嬢ちゃん」
可愛いの意味が動物や何かに対する表現である事を辞書を見て悟ったスペランカーだが、それは気にしない。呪いのおかげで、成長も低い段階で押さえ込まれてしまっているし、元々成長期にあまり栄養を取ることも出来なかった。最近も缶詰ばかり食べていることもあって、あまり今後も育ちそうにない。
手を振って、船員から別れる。
途中、船が揺れて、ごちんと壁に頭をぶつけて、また一度死んだ。意識が戻ると、心配そうにさっきの兵士が見ていたので、笑って誤魔化した。
辿り着くまでに百回は死にそうだと思いながら、スペランカーは甲板に戻る。今回発生した重異形化フィールドには三人が挑み、一人が支援する事になる。その三人の内、まだ一人が顔を見せていないのだ。途中、海上で合流すると言うことなので、出来るだけそっちにいなければならない。
海上に出ると、アーサーが手すりの側で、兜を外していた。髪は少なめで、月代を剃っている訳でもないのに額がかなり広い。西欧人は早く老けるのだという話が本当だとよく分かる。
「おお、スペランカーどの。 サングラスは見つかったか」
「はい。 親切な人に譲って貰いまして。 おかげさまで、随分楽になりました」
「それは重畳。 我が輩としても、若い身空の娘が苦しんでいるのを見るのは、騎士として忍びない。 他にも何かあったら、是非力になろう」
面白い人である。
既に船はオーストラリア大陸の東を通り過ぎて、更に南下を続けているという。後二日もすれば目的地に到着するのだが。まだ最後の一人は姿を見せない。そろそろ来ても良い頃なのだがと思った時。
空に、赤い点が一つ見えた。
バルカンファランクスが動くよりも早く、甲板で何かが鋭く跳ねる。
衝撃で髪が揺らされ、気付いた時には、それは眼前にいた。
船の上に人間が二人いる。多分今回共闘する連中であろう。
この世界の支配者である人間は、遠い先祖の一種だ。どうもグルッピーの部族は異界からの住人と、狂った法則の中人間の血が混じって誕生したらしい。DNA検査でそれが確定されて、今では人間の一種として認定されている。それは対立部族のウニラも同じで、つまり彼らとの戦いは地域紛争として認識されているという訳だ。
結局の所、人間の亜種扱いであるグルッピーは、仕事以外で人間と共闘することはしない。外貨を稼ぎ、それによって生活に必要な資源を得ること。それだけのために、外に来ているのだ。
どれ、実力を見せて貰おうか。
そう思った
グルッピーは手を伸ばす。ベンチプレス換算で二トンまで支えられる両腕は、今まで彼が生きてきた過程で、ずっと役立ってくれた相棒だ。
見る間に近付いてくる船。その上部に、天に向かってそそり立つ棒がある。
まず、加速。体の後方からエネルギーを放出することで、グルッピーは人間の基準によると音の速さにまで加速が可能だ。ただし減速が大変なので、今回は二百キロくらいまでしか加速はしない。
人間の内、一人が気付く。いぶし銀の、アーマーとかいう装甲を着込んでいる方だ。もう一人は、やっと今気付いた。
何だ、この程度か。そう思うと、グルッピーはまず甲板に体をぶつけ、エネルギーの指向性を偏向させる。そして跳ね上がらせた体を、最初から目を付けていた。天に向けてそそり立つ棒へ向ける。
グルッピーはそれを掴むと、旋回し、速度を落とし始めた。
時速四十キロ程度まで減速した所で、甲板に人が上がってきた。対空迎撃兵器が稼働していたから、攻撃の一種かと勘違いしたのかも知れない。
回転しながら、更に速度を落としていく。
甲板の上に、掴まるのに良さそうな棒を見つけた。甲板に沿って、横にずっと伸びている。手すりという奴だろう。出来るだけゆっくり、そちらへ飛んだ。
手すりに掴まって、ゆっくり縦に回転する。体内の呪いをいなせる最小限の速度で、ある。
後に気付いた方は、人間の雌だった。転んでいたらしいが、頭を振って立ち上がる。髪は黒い。男の方は、茶色い髪が少し減り始めている年頃のようであった。
「貴殿がグルッピーか」
「如何にも。 我こそが、クルクルランドの誇り高き部族バルン族が一の勇者、グルッピーである。 生じた異界を撃滅すべく、海の上を走りて空の上を駆け、今此処に馳せ参じた」
「私はスペランカーです。 よろしく、グルッピーさん」
「我が輩は騎士アーサー。 よろしくお願いいたす」
握手を目的としているのか、二人とも手を伸ばしてくる。そのまま縦に回転しながら、説明する。若干の苛立ちが混じる。
「我についての報告を受けてはいなかったか。 我は停止すると死ぬ呪いを受けているが故、握手と呼ばれる貴様らの因習を受けることは出来ぬ。 我は代わりに、汝らを共闘すべき相手として認める。 それでは不足か」
「うわ、難しい喋り方だなあ。 アーサーさん、あの」
「ああ、要約するに、握手は残念ながら出来ないが、ともに戦う相手としては認めてくれるそうである。 スペランカーどのと同じくらい厄介な呪いを受けているらしく、止まることが出来ないのだそうでな。 そういえば、報告書に書かれていたことを失念しておったわ。 我が輩のしたことが、不覚よ不覚」
げらげらと、アーサーという男が笑った。困り果てて右往左往しているスペランカーという女は、資料によると不死の呪いを受けているとか言う話で、その代償として馬鹿なのだとか。ならば仕方がない。しかし、足を引っ張られそうで面倒だ。
他にも人間の兵士が遠巻きに見ていたが、アーサーという男がなにやら説明すると、戻っていった。敵意がないとか、合流が完了したとか告げていたが、グルッピーには興味がないことだ。さっさとフィールドを叩きつぶして、報酬を受け取り、帰るだけである。
「どれ、作戦会議をしよう。 川背どのはキッチンか」
「私が呼んできます」
「おお、急いで転ばぬように気をつけられよ。 どれ、グルッピーどのには少し狭苦しいかも知れぬが、船を案内しよう。 この船は我が故国のあるブリテン島で建造されたものでな。 我が国のロイヤルネイビーに伝わる伝統的意匠がふんだんに取り込まれている最新式の巡航艦なのだぞ」
「我に、人間の文明に対する興味は薄い。 我らが静かに風と舞い、皆が腹一杯食べることが出来る大地があり、星が瞬いていればそれで満足よ。 我の理想郷とは、平穏なる世界である」
それは我が輩も同じだと言うと、アーサーという男は船の中にグルッピーを招いた。
いけ好かない奴だと、グルッピーは思った。
能力に頼り切りの阿呆と、いけ好かない戦士。もう一人かなりの使い手だという女が混じるそうだが、今回はかなり厳しいかも知れないなと、グルッピーは思った。まあ、人間が何人自滅しようが知ったことではない。報酬を受け取ることが出来れば、それでよい。グルッピーにとって大事なのは、故郷の部族が、飢えずに暮らせる事だけだ。
船内は予想通り狭い。壁や床にぶつかりながら、出来るだけゆっくりアーサーについていく。途中、兵士がびっくりして何度もグルッピーに当たりそうになったが、どれもするりと避ける。
「ほう。 かなり危なっかしいと思うたが、見事だ」
「汝らの使う銃器と違い、直線にしか動けぬ訳ではない。 その気になれば、月のように孤を描くことや、無なる場所でも小鳥のように旋回する事も出来ぬでもない。 ただし、汝らのように、或いは石のように止まることは出来ない。 一瞬だけぶつかり、体内の呪いを反転させることで、向きを逆転させることは可能だが」
「やれやれ、面倒な能力であるな。 故郷はさぞ忙しい所なのであろう」
「我が部族の村には、多くの棒がバオバブの森のように生やされていて、それを掴んで回転しながら生活することとなる。 眠る時も棒を掴んでいるから、皆腕力が人間など問題にならぬほど発達する。 最初に発見したのはあの娘と同じJ国人らしいな。 クルクルランドという対外名称も、そうして生じたものである」
話している内に、会議を行うという部屋に到着。
アーサーという男が、身の丈大の槍を出してきた。愛用している武具らしく、相当使い込まれている。戦士の魂を感じる武具だ。
槍の使い込みようを見て、初めてグルッピーはアーサーを認めた。これだけの使い込み、並の経験で出来ることではない。さぞや多くの敵の血を吸ってきただろう槍は、妖気とともに神域の武を湛えていた。
「これに掴まられよ。 飛び回る訳にもいくまい」
「光栄である」
スペランカーという女が戻ってきた。若干茶色がかった髪の、背が低い女を連れている。スペランカー同様背は低く童顔だが、性的に成熟しているらしく、胸はかなり大きい。もっとも、バルン族の性的成熟と人間のそれは先祖が同じと言ってもまるで違うので、別に何とも思わない。半ズボンを穿いているのは、どうしてかよく分からない。危険地帯に赴く時ほど、人間は体の弱点である皮膚を隠すものだが。
とりあえず、関係者だとすると、これがさっき川背と言われていた奴だろう。支援要員と聞いているし、あまり興味はない。
川背という女は、人間の食料を皿に盛ってたくさん運んできていた。アーサーという男が嬉しそうにしているから、人間の食欲を誘う臭いなのだろう。逆にスペランカーは申し訳なさそうにして、そわそわしていた。
料理を運び終えると、川背はぺこりと挨拶する。
「スペランカー先輩に先ほど聞きました。 僕は川背。 海腹川背です」
「我はクルクルランドの誇り高き部族バルン族が一の勇者、グルッピーである。 今回は共闘する事になり、光栄だ。 汝らと我の武運を天神に祈り、月に加護を願うものなり」
「わ、素敵な喋り方ですね。 お口に合うか分かりませんが、食事を用意しました。 どうぞ」
女なのに妙な一人称だとグルッピーは思いながら、料理を見た。
人間は食事をしながら親睦を深めるという。こればかりはどうしようもないので、さっと皿の一つをとり、遠心力を利用して口の中に入れる。最初のころは慣れなくて、皿を割ってしまうことが多かったが、今は平気である。
味付けは悪くないが、やはり色々とひねくり回しすぎである。人間の料理はこれだから良くない。基本的に何でもかんでも、生が一番だ。生こそ、その食材の味が、一番引き出されている。
「我は生が好きだ」
「分かりました。 次はそうします」
「聞き分けがよい。 我は生が好きだと、繰り返す」
ところが、アーサーとスペランカーの見解は違っていた。
「ふむ、今回も良い味だ。 これなら女王陛下の食卓に出しても恥ずかしくはないだろう」
「美味しい! すっごく」
アーサーがそう言うと、スペランカーも同意した。
やはり、人間の味覚はよく分からなかった。
食事が終わると、知らないお爺さんと、巡航艦の艦長と、今回仕事を持ってきた斡旋社の営業マンが部屋に入ってきた。営業マンがプロジェクターの乗った台を押している。これから何が行われるのかは明らかだ。
サングラスの効果は絶大で、さっきから全く気持ち悪くない。
「川背ちゃん、ごめんね。 昨日までの料理、殆ど無駄にしちゃって」
「あ、先輩、いいんですよ。 船酔いが苦手だっての分かりますから。 僕も昔似たような経験がありますし」
隣に座った川背に、先に謝っておく。
プロジェクターが机の上に置かれて、部屋の照明が下げられた。同時に、一気に部屋が緊張する。アーサーに到っては、完全に戦士の顔つきになっていた。
作戦会議が始まるのだ。
「ええと、それでは皆さん。 今回攻略していただくフィールドについて説明いたします」
営業マンは、かって凄腕のフィールド探索者として知られていたが、今では怪我が理由で引退しているという人物だ。話によると、アーサーの知り合いだという。経験者だと、話が通じやすいし、無茶な依頼も持ってこないことが多い。
映し出された映像は二つ。一つはモノクロ画像の豪華客船。船体には、ルルイエと書かれている。
もう一つは地図。南極海のものであった。
「クイーン・ルルイエは知っておられますか」
「当然である。 ルルイエの悲劇によって、南極海に沈んだ豪華客船であろう」
「あ、ルルイエの生け贄って聞いていました」
「うむ。 我が輩の国ではあまりにも不名誉かつ凄惨な事件であった故、ルルイエの悲劇と呼ぶことが多いのである。 スペランカーどのの呼び方も間違ってはおらぬ」
グルッピーは興味がないらしく、アーサーの槍の柄に掴まって旋回し続けていた。話を進めろとでも言わんばかりである。
咳払いすると、営業マンは、南極海の上を指摘用の棒で指しながら言った。
「そのクィーン・ルルイエが、フィールドを伴って突如現れました。 現在、半径百二十キロが重異形化フィールドと化しており、既に行方不明者が三名出ています。 状況から言って、生存は絶望的でしょう」
「しかし、我が輩が呼ばれたと言うことは、それだけではないのだろう」
「なるほど、我も聞いたことがある。 人間社会にて良くある、政治的軋轢などが要因であろう」
船長が苦虫をかみつぶしたような顔をした。営業マンが、その目の奥に、冷酷な光を瞬かせる。
「まあ、それについてはおいおいと。 何にしても、現在近隣の港に漁獲制限が出来ており、著しい被害が出ております。 一刻も早くの解決を、皆様には望む所です」
「内部の情報などについては、ありますか?」
川背が挙手して言うと、営業マンはプロジェクターを切り替える。其処には、クィーン・ルルイエの詳細な図面が映し出されていた。
「皆様には、一部ずつお配りいたします。 潜入までに暗記しておいてください」
「ふえー、こんな複雑なの、無理だよー」
「先輩、大丈夫です。 構造は軸さえ覚えれば、後は派生路だけです」
「何、分からない時は我が輩が手助けする故、ご安心召されよ」
頭を抱えるスペランカーに、後輩も騎士も優しく言ってくれた。本当に申し訳のない話である。風船生物はと言うと、無言でくるくる回り続けていた。スペランカーの方は見向きもしない。
どうやら、嫌われてしまったかも知れない。
それにしても、重異形化フィールドの挑戦は初めてだ。それを思うだけで、スペランカーは緊張した。
重異形化フィールドとは、フィールドの中でも特に危険であり、中でも物理法則が通用しない土地のことである。
基本的にフィールドは専門の能力者でなければ対処できないものだが、その中でも特に、内部の物理法則から変わってしまうようなものを、重異形化フィールドという。その中には、高名な異世界である「魔界」とつながってしまうゲートが出現する場合や、異形化した強力なクリーチャーが闊歩する場合もあり、危険度は通常フィールドの十倍とも二十倍とも言われている。
もちろん、軍隊など送り込むだけ時間の無駄。侵入した兵隊は一人残らず骸と化すのが落ちである。それほどに危険な場所なのだ。特殊能力者でさえ、生還率は決して高くないのである。
高名な専門家であるアーサーや、優れた戦闘技術を持ち、更に空間転送のスキルを持つ川背。そして数少ない、安全な重異形化フィールドで生活しているグルッピーならともかく、自分がこんな所にいるのは場違いなのではないのかとさえ思えてくる。
だが、これも仕事だ。
今まで積み重ねてきた実績が評価されたと言うこともあるだろう。
どちらにしてもスペランカーがする仕事は決まっている。生還率の高さを利用しての偵察と、掃討任務だ。
「まず、第一段階は、なぜ今クィーン・ルルイエが出現したかの調査。 第二段階は、原因の掃討。 そして第三段階は、クイーン・ルルイエの処分となります」
「質問。 我はルルイエなる船が、豪華客船なる存在だと聞いている。 金に任せ肥え太った貴族どもが好き勝手に遊ぶために作りし船だとも。 それの内部で取得した金品を取得換金することは可能か」
「ものにも依りますが。 宝石、金塊の類であれば。 内部にある絵画、芸術品に関しても、取得は自由です。 ただし、重要機密書類の類に関しては、必ず処分してください」
不意に俗っぽいことを言い出したグルッピーに、営業マンは冷静にそう応えていた。
政治的な意図があると、さっきアーサーは言っていた。それがスペランカーには気になる。足をぶらぶらさせている内に、説明が進む。
船にはまず、最初スペランカーのみで赴く。持っていくのは計器類だけ。他の装備は自由選択となっているので、探索用のザイルやライト、父の形見であるブラスターはきちんと持っていくことにした。
そうして基本構造が分かったら、アーサー、グルッピーが潜入。控えとして、川背がサポートにつく。
川背には、もう一つ重要な任務があるという。それに関しては、眉根を下げて申し訳なさそうに笑うばかりで、教えてくれなかった。男の子っぽい格好をしている川背だが、笑顔はとても素敵で、同性であるスペランカーも見ほれてしまう。
警報が鳴る。どうやら、フィールドの外縁部に、船が到達したらしい。
おいおい立ち上がる。川背は、最初に入ってきた、誰か分からないお爺さんと一緒に会議室に残るようだった。
「それでは、先輩。 頑張ってください」
「川背ちゃんも」
ハイタッチをすると、スペランカーは会議室を出る。槍が相当に気に入ったらしく、まだグルッピーはその回りをくるくるしていた。