オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
モーターボートの音。救命ボートの上で機会を待っていたアーサーが立ち上がる。
その目には、戦場のもののふが湛える、戦意が滾っていた。それを感じ取ったグルッピーは、自らの目でも、霧の中近づき来るモーターボートを確認する。
モーターボートは、数百年は経ったかのように、フジツボに覆われていた。腐ったヒトデの死骸もこびりついている。停泊したモーターボートに触れながら、アーサーは眉をひそめた。
「予想以上に侵食速度が大きい」
「汝アーサーよ。 攻略を急いだ方が良いと言うことか」
「そうだな」
「一つ、聞かせて欲しい。 我は戦士であることに、誇りを持つ。 我が部族も、皆がそうだ。 皆が同じ誇りを共有するから、強くなることも出来る。 汝は戦士ではない相手を守ることに、なぜ誇りを持つ」
アーサーはモーターボートから手を離すと、旋回を続けるグルッピーを見上げる。
その目には、怒りか、哀れみか。そんな感情が宿っていた。
「スペランカーどのは、恐らく中で戦っておろう。 彼女は戦士ではない部分もあるやもしれぬが、戦士では間違いなくある」
「我には感じ取れぬ。 能力に甘えた雌犬だとしか思えなかった」
「それに、違う思想の存在を受け容れてこそ、我が輩は戦士として更に高い段階に行けるものだと信じておる。 貴殿、グルッピーどのは多少偏狭だ。 もっと大きな存在を受け容れる度量が必要なのではないか」
モーターボートから、川背が顔を出す。話が聞こえていたらしく、かなり険しい顔をしていた。
そういえばこの娘は、スペランカーと仲良くしていた。つがいと言うことは雌どうしだから無いのだろうが、或いは人間が極めて曖昧な定義で使っている友人という奴なのかも知れない。よく分からないが、川背という女は、呪いの中でも平気なようだった。常識外の身体能力を持っているらしいが、それは一種の呪術的な要因に起因しているのかも知れない。
アーサーは豪華客船に張られたワイヤーを伝って登り始める。川背は手にゴムつきのルアーを出現させると、振り回しながら言った。
「スペランカー先輩を、悪く言わないでください」
「我には、汝ほどの使い手が、あの雌犬を買う意味が分からぬ。 現に今も、地力での脱出さえ出来ておらぬではないか」
「あの人は、自分なりの戦いを、自分なりに出来る人です。 それに、僕の事だって認めてくれた、強い人です」
ついと、視線を逸らされた。
分からない。
ならば、理解するように、努めるべきかも知れない。
消防士もかくやという速度で、川背が客船の側壁を上がっていく。グルッピーは悩みながらも、一旦側壁に打ち当たると、バウンドを利用して加速、一気に上空へ出た。旋回して様子を確認。丁度、アーサーが甲板に上がった所であった。
先ほど、アーサーが十字架で張った結界が破れかけている。無数の崩れかけた人型が、十字架から放出される光の幕を、ボロボロの手足で叩き続けていた。角度を変えて、降下を始める。
さっき、アーサーに、作戦は指示された。
「敵は我が輩が引きつける。 最後に大威力の術式を叩き込んで、船体を破壊するのも、我が輩が担当する。 グルッピーどのは深部に入り込み、敵の核を見つけて欲しい。 もしも金品が欲しい場合は、その過程で取得して欲しい」
なんでも、この手のフィールドを形成する存在には、必ずと言って良いほど中核となる部分があるという。
フィールドを、今まで敵性勢力を全滅させることで攻略してきたグルッピーには、初めての経験である。まあ、やってやれないことはないだろう。
「川背どのは、スペランカーどのの救出。 その後、共同してコアを撃破。 我が輩が造った路を、突破して貰いたい」
「分かりました」
下で、アーサーが指示を出している。川背が此方を一瞥すると、頷いた。
徐々に、十字架が作った結界が、ひび割れていく。アーサーは大きく息を吸い込むと、両手を左右に拡げる。
十字架の結界が爆ぜ割れる。
それと同時に。アーサーの周囲には。百を超えるトマホークが出現していた。
「Go! Fire!」
アーサーのかけ声と供に、無数の斧が躍り掛かり、一斉に不死者を打ち砕いた。真っ二つにされるもの、引きちぎられる者、粉砕されるもの。更にアーサーは巨大なランスを手元に造り出すと、走りながら床を一気に傷つけ、跳躍。反発力を利用して高々と飛ぶと、パイルバンカーを地面に撃ち込むようにして、床に叩き込んでいた。
一気に亀裂が広がり、恐らくは船そのものの絶叫が上がる。アーサーが槍を抜くと、大量の障気が、大気中にあふれ出た。
空中で角度を変えると、グルッピーは真っ正面から穴に躍り込む。まずは超音波を放って障気を散らし、続いて電磁波で邪魔な霧を打ち払った。遅れて、川背が飛び込んでくる。
もしも、あのスペランカーとやらが、本当に戦い続けているのなら。
認めなければならないかも知れない。
途中、無数の鉄骨が見えた。船の骨格とも言えるものだろう。
川背は何度かワイヤーを引っかけながら、降下速度を落としている。グルッピーは腕を伸ばし、何度か途中で鉄骨を掴んで旋回し、方向を確認。
船底についた。
川背が船首に走り出す。
グルッピーは何度かバウンドして速度を調節すると、船尾へと、加速した。
辺りはまるで、水揚げされたばかりの海底鍾乳洞だ。
死んだ魚が無数に散らばり、ウニやヒトデの残骸だけが点々としている。滴る水は強い水の臭気を漂わせている中、立ち並ぶ扉や窓には、生物の屍やヘドロがこびりついていた。バウンドしながら、船尾へと急ぐ。何度か階段を跳ね上がったのは、貴族やジェントル達の居住区にこそ、コアがあると確信していたのと同時に、金品を探したかったからである。
前から後ろから、無数の異形が押し寄せてくる。
ある者は人間の胴体をしていたが、左右から蟹の足を生やしていた。ある者は魚に、人間の歪な手足が四対も生えていた。いずれも生物を合成したのではなく、死骸を無理矢理つなぎ合わせたような造型が目立つ。白く濁った目玉が、頭中についている男が、呻きながら手を伸ばしてくる。動きは生者と殆ど代わらない。
「どけ!」
超音波砲を放って、壁ごと敵を八つ裂きにし、突撃して粉々に吹き飛ばす。電磁波を放って、焼けこげた敵を砕く。はね回り、飛び回る過程で、不死者どもの振り回す爪や牙に、少なからず傷つく。
不死者の一匹の頭を掴むと、腕力に任せてねじ切る。これでもベンチプレス換算二トンだ。腐った肉など、力任せにねじ切ることが出来る。
貴族が住んでいたらしい地域に入り込んだ。
扉を打ち破って、部屋に飛び込む。ちまちま探している暇はない。箪笥も戸棚も全て吹き飛ばし、破片の中から金目のものを漁る。飛沫の中にダイヤモンドを発見。空中で拾い上げる。金細工を見つける。懐に入れる。
故郷で待つ同族達のために、外貨に変えられるものは、貪欲に漁る。
部屋に入り込んでくる死者が、鉄パイプを振り下ろした。避け損ねて、直撃。床にたたきつけられる。
跳ね上がったグルッピーは、まだまだと嘯き、傷ついた体を回転させ、襲撃者を打ち砕いた。
アーサーがランスを消すと、周囲に今までにないほど巨大な気配が出現した。気配自体が、軍勢が押し寄せてくるかのような圧迫感を有している。
敵が本腰を入れてきたと言うことだ。望む所である。
もとより此処は敵の背の上。凄まじい抵抗があるのは分かりきっている。そして、アーサーは確信していた。スペランカーが敵の注意をある程度引いてくれていることを。そうでなければ、敵の対応が遅い理由に説明がつかない。
正面からの戦いで、アーサーは敵を倒す。
それが、今彼に出来る、最高の支援だ。
腰に差していた剣を抜く。一族に伝わる剣。エクスカリバー。ただし本物ではなく、何代にもわたって打ち直し、作り直した模造品である。
模造品とはいえ、最新の技術と長年の手入れを経て、その破壊力はオリジナルに決して劣らないものと化している。周囲には、もう動く不死者はいない。アーサーは声を張り上げ、名乗りを上げた。
「我が輩こそはブリテンの騎士アーサー! この異界の主よ、貴殿に踏みにじられし弱き者を守るため、勝負を欲して参った! 貴殿も大魔ならば、魔界を降せしわが輩の声を聞き、堂々の勝負をせよ!」
「ご、ぎぎぎ、げぎゃあああああああああ!」
複数の絶叫と供に。前から後ろから、右から左から、二三抱えもある、百メートル以上はあろうかという触手が伸びた。二列に並んでいる吸盤には鋭い牙がついており、獲物を捕らえて離さない獰猛な習性が見て取れる。
更に、甲板に蟹が上がってくる。
蟹といっても、その体はセメントのように生気が無く、飛び出した二本の目には人間の頭部らしき腐敗した塊がついている。そして何より、直径十メートルはあろうかというサイズである。鋏だけで、戦車を真っ二つに出来そうだ。それが、無数にいる。
「玩具はそれだけか、海底の女王! ならば我が輩は見せよう! 我が輩の切り札を!」
アーサーが、エクスカリバーの柄を撫でる。
同時に、鎧が金色に輝き始めた。
体力消耗が激しいので、長期的には使えない。だが、アーサーの切り札の一つ。黄金の鎧だ。
これにより、作成する武具に籠もる魔力が格段に跳ね上がる。一つ一つが長時間詠唱して放つ術式に匹敵するほどの破壊力を有するほどだ。
久し振りに全火力を解放することになる。
それも、弱き者を守るために。
故国の暴虐は悲しい限りだ。だが、此処でアーサーが敵を打ち倒すことで、今生きている港町の者達は、脅威から解放される。フィールドは放っておけば際限なく広がり、生きている者全てを襲い、飲み込んでいく。
ならば今アーサーが行う事は。故国の者達が犯した過ちによる被害を、少しでも減らすこと。
アーサーは心地よい高揚に身を包みながら、金色の剣を振るった。
最初は、両手両足を引きちぎって、頭を叩きつぶしてやった。
次は全身をミンチになるまで、触手で叩きつけてやった。
壁に押しつけて、ぐちゃぐちゃに捻り潰してやった。
触手がそのたびに爆ぜ割れたが、関係ない。再生など、幾らでも出来る。ルルイエは個体ではない。仲間は数十万。体は海底の生物から幾らでも都合出来る。
だから、何度も何度も何度も何度も。
ルルイエは、捕らえてきた女を殺した。
押しつぶして、挽きつぶして、切り刻んで、肉汁になるまでかき回してやった。
再生するのは、いい。分かっていたことだ。
だが。
ルルイエが、恐怖を感じ始めているのは。
何度どれだけの苦痛を与えて殺してやっても。
そいつが、歩いてくるからだ。
今も、壁に叩きつけて赤い染みにしてやったそいつは。人の形を取り戻すと、顔を上げて。立ち上がる。ふらつきながらも。
もう、再生が追いついていない。
服は既に再生しなくなり、全裸で立つ女は、だが。
手にしている妙な形の銃だけは。絶対に手放そうとはしなかった。
部屋の片隅。拉げたヘルメットを一瞥すると、女は髪をかき回し、歩き始める。
「来るな!」
触手を真上から叩きつけて、粉砕する。
床に、肉と内臓の染みとなって広がった女は。
だが、再生すると、また立ち上がる。
貧弱な体だ。胸は小さいし、手足も細い。十代半ばくらいにしか見えない。
だが、その歩みは、どうやっても止めることが出来なかった。
最初はおもしろがって殺していたルルイエ。
だが、五十回を超えたころから、気味が悪くなり始めていた。首を引きちぎってやっても、生きている間に内臓を引っ張り出してやっても、平然と起き上がる。目玉を抉ってやっても、奥歯を生きたまま抜いてやっても、同じ事だった。脊髄を引き抜いても、指を食いちぎっても、腹を割いても、脳みそを抉り出しても。
なぜだ。
私達は。同じ事をされた時には。気が触れてしまったのに。
お父様を首つりにされて、お母様は凶暴な男達に嬲りものにされて。妹たちは切り刻まれて、焼かれて。弟たちは何処とも知らない場所に連れて行かれて。村は焼かれて。先祖伝来の宝物は、全て奪い去られて。
そして、自分は。
自分は。
触手が爆ぜ割れる。悲鳴を上げてしまったのは、なぜか。
砕けた触手の中に。全裸のまま、女が立っている。生白い肌の、手の先には。やはり、あの奇怪な銃がある。それだけは呪いが強力すぎて、叩いても潰しても、どうやっても壊れなかった。
「一回の探索でも、少なくて四十から五十。 多い時は二百回。 日常生活をしていても、死なない日なんて、無いくらい。 父さんが、命と引き替えに、私の幸せを願ってくれた能力だから、嫌いでもつきあっていくしかない。 その過程で、嫌でも慣れたよ」
女が、歩きながら喋る。
その目は、じっとルルイエの目を見ていた。
ひたり。ひたり。一歩ずつ、濡れた足音が近付いてくる。
「来るなあ!」
触手を振るう。脆くも吹っ飛んだ女は、壁に叩きつけられて、ミートソースになる。
だが、再生して。それと同時に、此方の触手も、持って行かれる。
喘ぎながら、触手を再生する。だが、その速度が、遅くなり始めている。分かる。上で下で大暴れしている連中にも、意識が獲られているからだ。
女は立ち上がりながら、此方を見る。
「だから、そんな子供じみた暴力なんか、怖くも何ともないよ」
「! ぎ、ぎぎぎ、ぎぎゃああああああっ!」
もはや、己でも訳が分からない悲鳴を上げて、ルルイエは触手を振るう。部屋は既に粉々。お気に入りだった部屋は、跡形もない。徹底的に、徹底的に、徹底的に、何もかも、欠片も残さないまでに粉々にしてやる。
触手が吹っ飛ぶ。だが、それでも振るう。
口から泡を吹きながら、目から涙を垂れ流しながら。
それでもルルイエは、触手を振るい続けて。
そして。
己の体に突き刺さった、鉄骨に気付いた。
大量の鮮血が噴き出す。体を真っ二つに引きちぎられたルルイエは、再生しようとして、気付く。己の首に、何かルアーのようなものが引っかかっていることを。
「貰った!」
別の声。圧力。
同時に、ルルイエの首は。遊びあきた人形の首のように。
引きちぎられて、すっ飛んでいた。
制御が無くなる。
自分たちが、誰なのか、分からなくなる。
迸る絶叫が、誰の声かも、既に判然としなかった。
グルッピーは、敵の動きが鈍くなったのに気付いた。人間並みの速度で襲いかかってきていた不死者どもが、不意にスローモーションになる。
どうやら、間違っていたのは、グルッピーであったらしい。
舌打ちしながら、グルッピーは感嘆もしていた。どうやらあの雌犬、いやスペランカーとやらは、本当に己の役割を果たしていた。川背という女も相当な使い手だったが、此処まで激烈な効果が現れたと言うことは、明らかだ。
それならば、グルッピーも。己の役割を果たさなければならない。
バルン族一の勇者の名を、汚さぬためにも。
加速。
動きが鈍った不死者どもを打ち砕きながら、壁床天井と反射し、手すりを掴んで回転し、ベクトルを変えて危険物を避けながら、奥へ奥へ飛翔する。既に速度は時速五百キロを超えている。
何がコアになっている。呟き、飛ぶ。
禍々しい気配は、ある程度は分かる。それが最も強い場所を探せばよい。途中、行き止まりを発見。瓦礫が積まれ、バリケードになっている。
もはや、関係ない。
全力で電磁破を撃ち込み、脆くなった所に超音波砲を叩き込む。ひび割れる瓦礫の中に、速度を落とさずつっこみ、吹っ飛ばした。
体の傷は、危険域まで近付いている。
風船に近い形状をしているバルン族は、あまり傷が酷くなると、綺麗に爆ぜ割れてしまう。強固な皮と、内側からの空気圧で、高い防御能力を実現しているためだ。だから、バルン族の最後は、必ず文字通り散ることになる。グルッピーも、それは例外ではない。
まだ、散る訳にはいかない。
だが、此処で無理をしなければ。自分の失言を、カヴァーすることは出来ないだろう。
階段を発見。ジグザグに跳ね上がりながら、奥へ奥へ。
この辺りは殆ど水が入らなかったらしく、壁も床も天井も、ある程度原型をとどめている。その中を、時速五百キロのまま、更に行く。急旋回する視界を高速で把握しながら進む作業は、勇者と呼ばれる一部の戦士にしかできない。
不意に、禍々しい気配が、眼前にあった。
それは青紫の光を放ちながら、ゆっくり胎動していた。