オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
戦いが終わり、空港があるオーストラリア大陸にエセットスが向かい始めて二日。スペランカーは、調子が戻り始めている体を動かすついでに、甲板に出た。新しいサングラスを水兵さんはくれたので、もう酔う心配はない。
体の傷を癒しているグルッピーは、まだ船に残っていた。今日も船の上で、ゆっくり旋回している。川背はと言うと、営業マンのアリーマー氏と、被害を受けた近隣の港の顔役であるウルリヒ氏と顔をつきあわせて、料理とリゾート中継地としてのなにやら難しい計画を立てていた。しばらくは、南米に残るかも知れないと、川背は呟いていた。それだけ彼女の料理が評価されていると言うことだ。
自分は、どうだろう。そうスペランカーは思う。
無能な自分に出来ることは少ない。料理だってまともに出来ないし、戦うのだって上手じゃない。今後も周囲に散々迷惑を掛けながら、生きていかなければならない。そして、きっと。
あの不幸な子供達のような、守らなければならない犠牲者だって。守ることは、出来ないのだろう。
忸怩たるものを感じてしまう。ただ、死んでも再生する。それしか技がないスペランカーに、出来ることはあまりにも限られていた。生きるために、今後もその能力は使っていくつもりだ。だが、英雄のように活躍することは、今後も出来そうになかった。
「おお、此処におられたか」
「アーサーさん」
「グルッピーどのも。 実は少し話がある」
アーサーは、川背を伴っていた。さっきまで重要な話をしていた所だから、何か本当に大事なことなのだろう。
連れられて、船室の一つにはいる。アーサーは部屋にはいると、指を鳴らして術式を一つ展開。部屋の奥の方で、小さな破砕音がした。
「今のは?」
「ああ、我が輩の部屋には盗聴器が仕掛けられていてな。 それを破砕した。 あのSASの隊員が、余計なことを喋らないように、監視しているのだが、面倒だから排除したのだ」
「余計なこと、ですか」
「ルルイエの生け贄事件の真相さ」
そんな事を話してくれると言うことは、アーサーがそれだけ信用してくれたと言うことだ。
殆ど何も出来なかったとスペランカーは俯いてしまう。だが、アーサーは、構わず話し始める。
「そもそも、あの事件には、おかしな点が幾つもあるのだ。 事件が起こった海域は、本来想定されていた航路とは離れている上に、救助が来るのもあまりに遅すぎる。 それに第一、生存者に妙な男が混じっていてな」
「妙な……ですか?」
「そうだ。 船長のオズワルドだ」
確かその名前は以前聞いた。しばらく頭を捻って、思い出す。
そうだ。氷山と接触した際に、卓越した判断で、沈没を避けた人物の名前だ。
しかし、確かにおかしい。
あれからアーサーに事件の詳しい状況を聞かされたのだが、船内は地獄絵図も同然で、特に資産階級の人間達は皆殺しも同然の目にあったという。そんな状況で、どうして船長が生き残れたのだろうか。
それに、考えてみれば。
タイタニック号の悲劇では、救命ボートが少なかったことが、犠牲者を増やしたという。しかしそれでも、数百人は命を拾っているのだ。もちろんクィーン・ルルイエにも救命ボートは備え付けられていたはず。どうしてそれを使って、脱出することを考える人間がでなかったのか。
アーサーが、船内から回収した日記を見せてくれる。それの中には、船に乗っていた人物の名簿なども挟まっていた。水夫達が、船に乗っている重要人物達を拘束した際に、抑えた名簿だという。
「悲劇であったと言うこともあって、当時乗船していた有名人の名前は、あまり一般には公開されていない。 これは貴重な名簿よ。 我が輩は船から引き上げてから、これを調べて、そして確信した」
「回りくどいことよ。 一体何事だというか」
「……まさかとは思いますが。 船は、少数の人間の利益のために、計画的に遭難させられた、という事ですか?」
川背が言うと、アーサーが頷いた。
背筋に寒気が走る。
計画的に。
千三百人もの人間を、利己的な理由で計画的に殺す。そんな事を出来る恥知らずが、鬼畜が、実在したというのか。
「名簿を見て確信したのだが、船に乗っている名士は、いずれもが当時E国の上流階級では、主流派から外れたり、或いは対立している人間ばかりだ。 それに、この船を建造したA社は、事件後莫大な保険金を手に入れ、当時暴威を振るっていた何名かの資産家と連携して国益に絡む事業に手を出し、多大な利益を上げている」
「ほう。 つまり邪魔な人間を全部纏めて処理した上に、保険金を稼ぐための計画的殺人だったという事かや」
「そうだ。 E国が自国の恥だとして隠蔽しようとしたのは、事件が計画的殺人事件であったからだ」
そう。
だから、敢えて沈めなかった。
救命ボートで脱出されると、大人数に逃げられる可能性があったから。
南極海という、救命ボートを出しても逃げがたい環境にて、漂流する必要があったのだ。霧が出たのは、この船長にとって幸運で、もしそうでなければ他の手を使い、救命ボートからの脱出を防いでいたという訳か。
そして、疑心暗鬼によって殺し合わせ。船長は高みの見物をどこかでしていたのだろう。ひょっとすると、食料庫を燃やしたのも、船長の仕業であったのかも知れない。
「これは許し難い、史上最悪の保険金殺人だ」
「そ、そんな事のために」
あの子達は、あのような邪悪な思念に囚われ、船にとどまっていたというのか。
無数の人々が、飢餓に苦しみながら、殺し合ったというのか。
船上で見た幻を思い出す。
あの子供達は、きっと現実に存在したのだ。
しかし、集団ヒステリーとパニックの中で。殺され、同類である人間に食べられてしまったのだろう。
人間とは何だ。
今までスペランカーは、強い呪いを受けたせいで、人の枠を外れてしまった自分に、コンプレックスを感じてきた。
だが、これからは。人間であることに、コンプレックスを感じてしまうかも知れなかった。
アーサーが言うには、既にA社は二次大戦時のどさくさの中で事業展開に失敗し、倒産しているという。また、生き延びて保険金の分け前を受け取った船長に関しても、後に海難事故で数週間漂流した挙げ句、ミイラになって発見されていると言うことだ。
だが、それはあくまで結果に過ぎない。
「結局、一番恐ろしいのは、海底の邪神などではない。 人間だと言うことだな」
アーサーがため息をつく。
スペランカーも、同感であった。川背も何も言えないようで、黙り込んでいた。
「だが、汝らを、我は信頼する」
そんな中、グルッピーの紡いだ言葉は、唯一の救いだった。アーサーも大きく頷くと、いずれまたともに戦おうと、言ってくれた。
スペランカーは、その言葉を裏切りたくないと思った。
アーサーが話してくれたのは、この真実を伝える信頼できる存在が欲しいからだと、分かったからである。
フィールド攻略が終了し、数ヶ月後。一人になってから、スペランカーは女王ルルイエのいた国を訪れていた。
危険な紛争地域だと言うことで、長時間の滞在は出来なかった。ただし、女王ルルイエの墓は、空港のごく近くにあったので、墓参りだけはさほど苦労せず行うことが出来た。
結局、あの幽霊船は、なぜ出現したのか。
ルルイエの仕込んだ呪いというのは、海底の神を呼び起こすことだったのか。
”あの子達”は、ルルイエの呪いに引かれたと言っていたが、結局はルルイエに利用されていただけだったのか。
分からないことは多々ある。
唯、一つ言えることは。
悪趣味な名前の船は、既に無いと言うことだ。この世の何処にも、である。
既に女王は過去の人である。しかし、死者は今でも敬意を持って接されているようで、墓は綺麗に掃除されていた。
丸い墓は、J国のものに良く似た石造りだった。
そこには、奇妙な形状の花が供えられていた。螺旋状になっていて、ゆっくり回転しながら花を咲かせている。ガイドに聞くと、彼はこんな事を言った。
「ああ、一月くらい前に、赤い風船みたいな奴が来て、供えていったんですよ。 何だか難しい喋り方をする奴でしたが、まあ珍しい花ですし、敬意は伝わりましたんで」
「そう、ですか」
墓は色とりどりの花で飾られている。
スペランカーは自分が持ってきた花をそれに加えると。ルルイエのいた国を、後にした。
一度だけ、振り返る。
あの神像の気配は、無かった。
(続)
この作品で扱った豪華客船の事件の真相は、実はモデルになった例の客船の事件でも説としてあったりします。ただ、「説の一つ」であることはご理解ください。
現在では否定説が強いようですね。
ただ、本作の世界では……それが真実だったのです。