オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
スペランカー達は、非常に面倒な政治的な情勢やらと折り合いをつけながら。
地獄の真ん中にあるフィールドの対処に当たる事になります。
ヨーロッパの片隅。かって東欧と呼ばれた地域の沿岸部に、通称鳥の島と呼ばれる不思議な空間がある。
広さはJ国とほぼ同等。正確には離島ではなく、潮の満ち引きによって隔絶される一種の出島だ。厳しい気候の東欧にしては、暖流があるため比較的温かく、四季がはっきりしている、奇跡的なバランスの上に浮かんでいる島である。
かってから生物学者の間では、不思議な生態系が築かれていると噂になっていた土地である。だが、東西冷戦の影響で殆ど調査は入ることが出来ず、冷戦終了後もその島を領土にしている国が石油利権に起因する紛争で大荒れに荒れたため、長らく幻の秘境となりはてていた。
21世紀、その歴史にも転機が訪れる。暴君とも言われた独裁者が倒れ、資源枯渇によって紛争が一段落したため、ようやく調査の手が入ることになったのである。長年幻となりはてていた生態系にメスが入ることとなったのだが、其処で多くの生物学者達が驚愕することとなる。
島には伝承で散発的にのみ語られていた、異常な光景が広がっていたのである。
非常に肉食性が強く、空を飛ぶ鳥を襲って補食することがある大型の啄木鳥。後ろ足が発達していて五メートルほども跳躍し、肉食性が強いネズミの一種。カンガルーネズミと呼ばれるポケットマウス科の齧歯類、もしくはトビネズミ科の齧歯類に似ていたが、サイズが四十センチ近く、遺伝子調査の結果固有の科が設立された。さらには、平均体長が十センチを超える世界最大級の雀蜂など、独特の種が多く存在していた。それら自体は大型の猛禽類を頂点とする生態系のバランス上問題がなかったのだが、一種類だけ。
この異様な生態系の中で異彩を放ち、過剰なまでに繁殖している種が存在したのである。
それが、この島の固有種である、スズメ科に属すると判明した「トウオウルリオオスズメ」であった。雀科の中では大型の種類で、翼長は五十センチから七十センチ。小型の猛禽類に匹敵するサイズであり、食性は雑食。果物を好むが、特に雛を育てている時には、飛翔している蛾をよく捕らえて餌とする。
この鳥には、特筆すべき特徴が二つあった。
二年ほどの国際共同チームの研究の結果、それらの恐るべき特徴が明らかにされた。
一つは知能である。
鴉の一種には、小石などを使って獲物を砕いたりし、食べやすくするなどの高い知能を示す種類がいる。集団で狩りをしたり、外敵を集団で襲うこともある。一種の社会性を示すこともあり、極めて知能が高い動物の一種として評価できる。
だが、この鴉に匹敵するサイズの小鳥は、正真正銘道具を使うのである。
自生しているキノコの一種を器用に頭上から叩きつけることによって、サイズが倍近い鷲を撃退する光景が、何度となく目撃されている。また、倍近い速度を持つハヤブサの動きを先読みして、木に突っ込ませたり、その爪をかわしたりする光景が何度となく見られており、知能の高さが伺えた。
また、鳥同士でのコミュニケーションも優れていて、子育てを行う際には周囲を警戒する個体や集団で外敵を追い払う個体などが分業し、非常に高い確率で雛を成鳥にまで育て上げていた。その一方で根源的な繁殖率そのものは決して高くはなく、それがこの鳥によって島が埋め尽くされない、原因の一つとなっていた。
いずれにしても、鳥の常識を完全に越えた存在である。一時期学会はこの鳥の研究成果に沸騰し、否定的な学説から陰謀説まで数多くの反論も飛び交った。しかし、四年ほどの多方面からの研究の結果、当初の想定以上の知能がほぼ確定的だと判明すると、以降は反証も下火になり、建設的な研究に移行するようになった。
もう一つの特徴については、遺伝子の解析の結果判明した。
それは、この島にいる非常に知能が高い鳥たちに。共通の先祖がいるらしい、という事であった。
人間のミトコンドリアを解析した結果、どうやら偉大なる母とも呼べる通称「ミトコンドリア・イヴ」と呼ばれる存在がいたらしい事は、既に判明している。このトウオウルリオオスズメにも、似たような存在がいたらしい。しかも、どうやらこの異様な知能の高さは、その一個体から受け継いだものらしいと、判明したのである。
化石を解析した結果、仮に「グレート・マム」或いは「マミー」と名付けられたその個体の同時代以前のトウオウルリオオスズメは、決して賢い鳥では無いことが判明した。社会性を思わせる子育てとは無縁であるし、道具を使いこなすこともない。何より図体ばかり大きくて、動きも鈍く、特に啄木鳥とカンガルーネズミ、更に機動性が異常に優れている大型雀蜂たちの好餌となり、繁栄どころか絶滅寸前まで追い込まれていたことが分かったのである。
文字通り、グレート・マムは種を救った歴史的な英雄とも呼べる存在だったのだ。一説には、その遺伝子を受けた子は百を超えたとも言われている。
これは、遺伝子学者達にとっての、重要なブレーク・スルーとなった。恐らくは突然変異個体だと思われるグレート・マムの研究を進めれば、或いは歴史上まるで進歩を見せない愚劣なる人類の未来を切り開くことが出来るかも知れない。
それはいわゆる遺伝子操作人類、デザイナーズチルドレンなどの研究につながるとして、危険視する向きもあった。クローニングの倫理的な問題を上げて、反対する者も多く出た。しかしながら、実際に膨大な商業的利益を上げられることを何名かのノーベル賞学者が示すことにより、研究が進められることとなった。最低でも数十兆円という予想利益の数字を見て、反対派を国が押さえ込んだという事もあった。
やがて、遺伝子工学の粋を集めて、グレート・マム再生計画が立ち上げられた。主要国からも出資が行われ、複数の大学で同時に計画が進行。やがてJ国のK大学と、A国のH大学で、ほぼ同時に成果があがり、それらを統合することで、グレート・マムの遺伝子が完全に再現された。
後はトウオウルリオオスズメの受精卵にそれを封入するだけであったのだが。
此処で、一つ大きな事件が起こった。
具体的な理由は分からない。実際に孵化するに到ったグレート・マムは、驚くべき特徴を備えていたのである。
人間並みの知能を備え、口をきくことが出来たのだ。
もちろん、実在したグレート・マムがそんな特徴を備えている訳がなかった。実際に見た者などいないとは言え、いくら何でもそれはおかしすぎる。突然変異の遺伝子を、無理矢理よみがえらせた事による、神罰ではないかと呟く者さえもいた。科学の先端を集めた大学でも、時に人類はそんな迷信に囚われる。
いずれにしても、一年足らずで成長したグレート・マムは。様々な研究に晒された後。人権を取得し、史上初の鳥によるフィールド探索者として、空を舞っていた。
通常の人間では入ることさえかなわない危険地域。巨大なクリーチャーが闊歩し、邪悪な異界の神が降臨し、現世とは違う法則が支配する土地のことを、フィールドと呼ぶ。スペランカーは、そのフィールドを攻略することを生活の糧にしている、探索者と呼ばれる人間の一人だ。一応プロであり、それなりに実績を積んでいる。
ヘルメットを被った彼女は、一見すると十代半ばの東洋人に見える。半袖のシャツとズボンから伸びた手足は細く、筋肉は薄く、動きは鈍く、とても百戦錬磨の強者とは思えない。だが、彼女は確かに、どんな歴戦の猛者でも生還できない地獄を、何度となく潰してきた、この業界でも有名な存在だ。
脆弱な体に、貧弱な頭脳。
それにもかかわらず、彼女が確実に生還する理由は。その身に纏うおぞましい呪いにあった。幼いころ、父に貰った不老不死という名の呪いが、スペランカーを縛っている。副作用として、何かあるとすぐ死ぬし、何も身につかないし、頭も悪い。そして、何よりも。十代半ばにしか見えない状態のまま、大人になってしまった。
今日もスペランカーは、仕事のため母国を離れて、今乾いた大地に立っている。絶対生還者という迷惑な二つ名のために、今日もまた危険きわまりない仕事に出なければならないのだ。そして、今回共同で戦うことになる戦士と、合流した。軽く挨拶をした後、改めて相手の姿を見る。
スペランカーが見上げる先にいる鳥、グレート・マムは。人間であるスペランカーから見ても、疲れ切っているように思えた。
全身は美しい瑠璃色。種族の正式名は流石に思い出せないが、青だったか瑠璃だったかが入っていたような気がする。スペランカーの残念な記憶力では細かく思い出せない所が悲しい。
正式名はマミーというらしいのだが、フィールド探索者の中では、古株である彼女に敬意を表し、グレート・マムと呼ぶのが通例となっていた。
彼女はかなり古参のフィールド探索者だ。彼女が人間外の種族によるフィールド探索者、という存在の道を切り開いたとも言えるため、業界では有名である。しかし、如何に頭が良くて、膨大な経験を積んでいるとはいえ、所詮は鳥。戦闘能力は並の人間、しかも子供以下にしか備えていないし、武装も限定的。フィールドに挑むことは出来ても、攻略をすることはまず不可能で、主に担当は輸送か偵察になってくる。それが恐ろしく優秀であるが故、今日に至るまで、不動の座を確保しているのである。
すらりと伸びた尾羽には、汚れが染みついている。手入れし切れていないのだ。しばし見つめていたスペランカーに気付いたか、グレート・マムはしゃべり出す。口調は落ち着いていて、まるで海賊の女船長だ。声も低い。
「どうかしたかい?」
「あ、いえ。 お疲れのようでしたから」
「何、この程度。 普段は楽させて貰ってるからね。 今はむしろ稼ぎ時さ」
格好よい台詞である。鳥から発せられているとはとても思えない。
彼女がフィールドに挑む理由を、スペランカーは聞いている。多分、どの人間のフィールド探索者も敬意を払うのは、その理由が故だ。孤高の戦士でありながら、彼女は博愛の徒でもあるのだ。
それにしても暑い。此処はアフリカ大陸で、しかも最も暑い地域なのだから当然だ。普段と違って半袖半ズボンにしているのは、そうしないとぱたんぱたん死ぬことになるからである。
額の汗を拭いながら、スペランカーは早く夜が来ないかなと思った。
出撃まで、だいぶ時間がある。
「今回、あんたは陽動だって? あんたの噂は聞いているよ。 また随分と、痛い目にばかり遭うそうじゃないか」
「あ、私、頭も良くないし、運動神経も駄目ですから。 これくらいしか、出来る仕事がありませんし」
「そう自分を卑下するもんじゃないよ。 あんたの噂は私も聞いてるが、そう悪いものはないね。 もうちょっと自分の仕事を誇りに思えばいいのさ」
そう言いながら、グレート・マムは風切り羽の手入れをした。翼の裏側は白くなっており、それを丁寧に嘴で掃除していく。
鳥の体は飛ぶことに特化していて、逆に言えばそのほかの殆どを捨てているという。つまり、翼は鳥にとって本当に大事なものなのだ。ちょっと調子が悪くなると、飛ぶ速度や、旋回性能が落ちる。
もしも、それが敵に追われている時だったら。
確かにそう考えると、鳥が念入りに、執拗なまでに翼をチューニングするのも、納得が行く話だ。
足音がもう一つ。
グレート・マムの食事を手にした、国連軍の軍人だ。曹長の階級章を付けている。
今回、露骨に戦闘能力が低いスペランカーと、グレート・マムだけがフィールドの探索を行うのには、とある理由がある。
それは、フィールド探索者の不文律にも関わることであった。
「飯だぞ」
「ああ、其処に引っかけておいてくれ。 後は適当に食べておく」
「そうかよ。 次の荷物は三時間後だ。 それまで、適当に休んでおけよな」
国連軍の軍人は、露骨にグレート・マムを侮蔑した目で見ていた。流石に文句を言おうかとしたスペランカーに、彼女が言う。
「あんたが怒る事じゃあない」
「でも」
「いいから、あんたも休んでおきな。 自分でも分かってるんだろ? そんな細い手足で、これから地雷原に突っ込むんだ。 慣れてるって言っても、辛いことに代わりはないんだからさ」
鼻を鳴らすと、職員は枝に乱暴に食事を引っかけ、帰っていった。
軍人の中には、フィールド探索者を良く思わない人間も多い。世界に多数ある、或いは発生することがあるフィールドは、人間の最大の利点である知恵も武器も通用しない魔境だ。戦車を持ち込もうが戦闘機を突っ込ませようが通用しないのである。それが故に、軍人の価値が低く見られることもある。
だから、フィールド探索者に代表される能力者達は、古来から気を配ってきた。フィールド探索者という存在そのものが、現在では完成したそのあり方の一つだとも言える。
その苦労の一端を、古参であるグレート・マムは知っているのだ。
そしてあの軍人さんは、それが故に。フィールド探索者を良く思っていない。そして対立は、いつでも火種を含んでいるのだ。
この国は、地獄と周辺諸国から呼ばれているという。
地獄の中に、また別の地獄がある。やりきれない話であった。
別の軍人さんが来た。此方は少尉の階級章を付けていて、若干フィールド探索者に好意的である。
「スペランカーさん。 作戦会議を行いますので、此方に」
「あ、分かりました。 グレート・マム。 それでは、私、行きます」
「気をつけてね」
「其方こそ」
再びグレート・マムは翼の手入れを始めた。今度は器用に翼の上側の汚れを取っている。嘴で汚れをとるだけではなく、時には足も使っているようだ。器用だなと思いながら、赤茶けた土の上を歩く。
豊かな生態系が広がっているサバンナや密林になっている地域を例に出すまでもなく、何もアフリカ大陸の全土がこんな有様という訳ではない。だが、不遇な大陸であることは事実だ。
途中、何度か自動小銃を構えた警備兵とすれ違う。反応は両極端であった。ぺこぺこ挨拶をして回る内に、軍基地の内部に。クーラーが効いている箇所はごく一部で、他は蒸し風呂のように暑かった。
司令部にはいる。
スペランカーがヘルメットを取ると、周囲の士官らしいおじさん達が、あまり好意的ではない視線を向けてきた。どうも司令部に行けば行くほど、スペランカーらフィールド探索者を嫌っている率が高いらしい。国や軍組織によって違うのは分かっているが、それにしても少し肩身が狭かった。
さっと、この国の地図が配られる。
J国の約二倍の広さを持つこの国は、南北に細長い内陸の国家である。そして現在、ソラ族とウミ族と呼ばれる二つの民族が、壮絶な死闘のさなかにあった。
理由については、以前知り合った歴戦の戦士、アーサーさんにメールで参考文献を教えて貰った。その中の幾つかを来る途中に呼んで、大まかには知ることが出来た。
かって、この土地では。ソラ族が支配社会層であり、ウミ族はそれに仕える奴隷階級であったという。社会的矛盾も少なくはなかったが、それでもそれなりに平和であり、あまり無体な悲劇はそう起こらなかったという。
問題は、この国に、白人の国家であるS国が乗り込んできた後のことであった。
典型的な西洋列強であったS国は、国内に安価な労働力を持ち込むため、圧倒的すぎる暴力的戦力と、詐欺同然の手口でこの国を侵略した。多くの人々が奴隷として連れ去られ、異国の地でものをいう道具として酷使され、死んだ。国の内部でも、巨大なプランターによる酷使によって、多くの人々が死んだ。
逆らえば殺された。
この当時、西欧の人間は、アフリカの人間を、いや他の人種全てを、一種の動物くらいにしか考えていなかった。その虐待は苛烈を究め、凄まじい虐待の中、ウミ族もソラ族も全てを奪われた。
更に植民地支配を効率化するために、ウミ族とソラ族の間に、意図的な差別が作りだされた。これは何処の植民地でも行われていることで、不満を逸らすための定番的な政策である。だがこれが、後に大きな悲劇をもたらすことになる。
やがて世界大戦が終わると、S国の支配も緩み、独立の気運が高まることとなる。
アフリカの年と言われた大独立動乱のさなか、この国も激しい独立戦争を起こした。もとより列強の座から転落して久しかったS国の脆弱な軍隊に、独立運動軍を押しとどめる力はなく。やがて、たたき出され、すごすごと本国目指して帰っていった。
問題はその後である。
何処のアフリカ独立国でもそうだが、運命は大まかに二つ用意されていた。
一つの運命は、白人を完全に追い出すこと。この場合、白人の持っていた技術や資本までもが消え去ることになってしまった。もう一つの運命は、白人から支配は取り返すが、その代わりある程度の優遇措置を残すこと。
この場合は腐敗構造が残ってしまうと言う欠点があるが、技術も資本もそのままになることが多かった。
もとよりアフリカに対する侵略は、資源が目当てであった場合が殆どである。人間とは現金なもので、金と誇りであれば殆どの場合金を選ぶ。特に企業という組織体制の場合は、それが顕著である。
悩んだ末に、この国は前者の運命を選んだ。それだけ、長年支配と略奪に民が苦しんでいて、植民地政策を採った白人への憎悪が強かったのである。
結果、途轍もない大不況が国を襲った。
平和は来たかも知れない。しかし、誰もが食べていけない状態に陥ってしまったのだ。
膨大な資源があったとしても、それを換金できる技術が無ければ意味を持たないのである。
飢餓は人々の心を荒ませる。この原因を作ったのは、ソラ族だとウミ族の者達は思った。事実それには一理あった。この国に来た白人達を、己の利益を元に歓迎し、国を乗っ取られた責任はソラ族にあったからだ。更に、差別がその偏見を後押しした。
かといって、そのまま皆殺しにされる訳にもいかない。
数は圧倒的にウミ族が多かった。しかしソラ族も手元には、白人達が残していった、世界的には二線級でも、この国でならば充分に圧倒的な実力を誇る兵器群があったのだ。
最初に手を出したのはどちらかは分からない。
分かっているのは。
一世代半に渡って互いに殺し合いを続けた結果、もはや両者の殺意と敵意は、取り返しがつかない段階まで進行してしまっている。そう言うことであった。
もはやこの国の政府は機能しておらず、二つの民族がそれぞれに民兵組織を立て、敵対民族を殺し続けているのが現状である。現在国連の平和維持部隊は、両者の勢力圏のど真ん中に基地を構えることによって、両者を牽制している。しかし勢力圏内では、対立部族の虐殺が日常的に発生している状態で、越境してのテロ攻撃も後を絶たない。何と、この時期に発生したフィールドでさえ、中立地帯扱いして使用していかなければならないという有様なのだ。本来超危険地帯として知られるフィールドが、皮肉なことに、民族紛争の防波堤となっているのである。
だから、スペランカーもグレート・マムも、フィールドの攻略など求められてはいないのだ。
各国からの食糧支援と、荒れ果てた国土の再生計画について、司令官が今説明している。だがそれらを実施するには、両民族の武装解除が必要不可欠だ。現在一万を越えるカラシニコフとRPG7が国内に出回っているという最悪の状況で、対人地雷も彼方此方に満遍なく敷設されている。
あまりにも悲惨すぎる状況に、現在国連軍がA国の精鋭を中心とした二師団の出兵を予定してくれているのだが、それも来月までは来られない。
中立地帯にある国際支援団体の病院は、現在かろうじて安全を確保できている国連軍空港から少し離れてしまっている。これは細い橋のように、両勢力の間に伸びている中立地帯の真ん中に建てられているからで、そうしないとどちらの民族も救えないのである。
しかも今、頭に血が上りきっている両民族は、どちらも病院を敵視している。敵対民族の子供を救っているというのが、その理由だ。相手の民族を、皆殺しにすることしか考えていない鬼畜が、両民族の首脳部を独占してしまっているのである。まるで先が見えない地獄の紛争と、どれだけ殺しても食料が足りない飢餓が、その現状を許してしまっている。命がけで各地を回り、医療に従事している国際支援団体の職員でさえ、襲撃されることがあるほどなのだ。
ともかく、病院に医療物資を輸送するには、コンボイと呼ばれる強烈に武装した部隊を動員するか、或いはフィールドを抜けるしかない。
初期はコンボイを使って医療物資を輸送していたのだが、これは当然のように何度も出来る事ではなく、その上中途で敵の攻撃を受けることが著しく多い。実際何度かRPG7による攻撃を受けて、IS国から貸与されている超防御重視戦車メルカバまでもが撃破されたことがあり、今ではコンボイによる輸送の回数を減らし武装を強化することで対応している。
ただしそうなってくると、たださえ乏しい物資が、更に病院で不足することとなってしまう。何しろ、運んでいるのは医療物資だけではない。殆どは食料であったり、他の生活必需品なのだ。小児用のミルクも不足が深刻化している。
これに対抗するために、呼ばれたのがグレート・マムだ。
彼女はフィールド探索者として、フィールドを突破して、毎日少量ずつ医療物資を病院に運ぶという作戦に従事。それは今まで巧く機能していて、充分なワクチンと医療物資を配達することが出来ていた。
しかし、である。
スペランカーも、自分が呼ばれたことで、どうもそれが上手く行かなくなりつつある事は理解できる。
なにやら続けられている作戦会議の内容は、全く理解できなかった。ただ、おおまかに、何処をどう守るのかを話し合っているのかだけは分かる。今この国に派遣されている国連軍は一個連隊に過ぎず、空港周辺と中立地帯を守るのが精一杯の人員しかいない。連隊と言うことで指揮官も中佐に過ぎず、ちょっと貫禄が不足しているのが、シロウトであるスペランカーにも分かった。
見たところ、あまり士気は高くない。国連軍は、何度かあった宇宙人や異世界との交戦の結果、何処の軍隊よりも優先的な装備を渡されてはいる。しかしそのどちらとも刃を交えていない現状、国際紛争の調停や、平和維持活動が行動の中心となっている。スペランカーから見れば、それはとても誇りある活動なのだと思うのだが。生粋の軍人だと、それを汚れ仕事と感じてしまうのかも知れなかった。
「そこで、スペランカーどの」
「あ、はい」
「貴方は此処から此処を突っ切って、ワクチンの輸送をしてもらいます。 ただし、事前に話してあるとおり、これは陽動です」
分かっている。陽動のためにスペランカーは呼ばれたのだ。
そもそもフィールド探索者の絶対的なルールの一つとして、人間の紛争に関与してはならないというものがある。
これは圧倒的な能力を持つフィールド探索者がもしも兵器として活用された場合、既存の技術では歯が立たず、世界のシステムが崩壊してしまうからだ。現在最強のフィールド探索者である、I国の元配管工の凄まじい戦闘能力を例に出すまでもない。かって、数百年前。自分や家族を迫害した国家を、まとめて滅ぼしたフィールド探索者も実在したほどなのである。
しかし、如何にフィールド探索者の能力がずば抜けていると行っても、通常の人間は圧倒的に数が多い。もしも総力戦を行えば、最終的に負けるのはフィールド探索者の方だ。
だから、フィールド探索者達は会社やコミュニティを作って、自分の身を守ってきた。N社もC社もそうやって出来たし、グレート・マムを同僚として保護することを提言したのも、フィールド探索者のコミュニティだ。紛争には関与しないというのも、フィールド探索者としてプロ認定された時に、最初に身につける常識の一つである。
今回は、医療活動の一環と言うことで、グレーゾーンながら、かろうじて参加が国連に承認されている。その代わり、戦闘能力が低く、特に広域殲滅能力が無い能力者をという要請もあった。
だから、スペランカーが選ばれたのである。
そして、国連は、スペランカーを輸送人としてあまり有能だと思っていない。今回スペランカーは新しいフィールド探索者が来たという情報を民兵達に流し、正面から地雷原を突破することで、その注意を引く役目だ。本命はあくまでグレート・マムである。
当然何十回と死ぬだろう。今から憂鬱になる任務であった。
「歴戦のスペランカーどのをこのような簡単な任務に繰り出すのは、とても心苦しいのですが」
「あ、私とても弱いですし、頭も悪いですから。 陽動になるか不安ですが、頑張ってきます」
「これはご謙遜を。 数ヶ月前に、巨大幽霊船クィーン・ルルイエ号を撃沈するのに一役買ったと、皆の噂になっていますよ」
にやにやと嫌らしい笑いを中佐が浮かべている。知っていて言っているのだろう。あれはバルン族の戦士グルッピーと、E国最強のフィールド探索者アーサーがいたからこそ出来たのだと。
居心地が悪くて頭を掻くスペランカーの元に、頑丈な最新素材で作られた鈍色のポシェットが出される。地雷ぐらいでは壊れない強度を持つポシェットであり、これを見せびらかしながら、中立地帯の一部にある地雷原を通って、病院に向かうこととなる。
「それと、民兵に掴まったら覚悟してください。 どんな残虐な目に遭わされるか分かりません」
頷くと、スペランカーは部屋を出た。
多分掴まるんだろうなあと思うと、やはり憂鬱であった。