オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
しかしこの時は……
ゴンゴは、フィールド探索者が連れてこられる時に、周囲の部下達に言っていた。
屑どもにも、使い道が出来たと。
ジラトルは、全身の悪寒を押し殺しながら、それを聞いていた。
捕虜にしているウミ族や、周囲に捕らえている混血の者達、今檻に入れられている者達を、あのフィールド探索者を傷つけるために使う。
奴は意図せぬ相手が傷つくのを見て、血涙を流し、負け犬となって吠えるだろう。それを見るのが、とても楽しみだと。そして屑どもをフィールド探索者が処分するという既成事実を作り、国際社会に売り込むことさえ出来る。
高名な中東の組織との関係を作れば、一気に圧倒的な資金と、膨大な火器、爆弾を手に入れることが出来る可能性も高い。
そうなれば、この国にいるウミ族の屑どもを皆殺しにし、場合によってはこの腐った世界を造っている列強諸国に核を撃ち込むことさえ可能になる。そう、嬉々としてゴンゴは言っていた。
完全に精神を病んでいる鬼畜の戯言だ。忘れている。彼が頼みにしようとしている中東の組織は、ムスリム以外は人間だと見なしていないと言うことを。だが、そんな指摘は出来ない。
カラシニコフを向けられて、言われる。
鳥は、どうしたと。
今、追い詰めていると応える。ゴンゴは、嘘を見抜くのが著しく得意だから、逆らえない。そうかと、半分しか残っていない鼻を天に向けて、ゴンゴは、涎を拭った。今まさに、ジラトルの村の少女が、涙を流しながら、フィールド探索者に、ナイフを振り上げる。
フィールド探索者はむしろ静かで、まるで動じていない。さっきまであれほど激高していたのに、不思議だ。ゴンゴが細かく刺し方を指導。外したら、一人殺すと言った。
磨がれたコンバットナイフが、フィールド探索者の肩口に突き刺さった。コンバットナイフは異様に鋭く、肩の骨を貫通して、柄まで潜り込んだ。
骨肉を切り裂き抉った感触に、恐怖して尻餅をつく女の子。
ああ。あの子は。今、死ぬのか。
目を閉じて、ひたすら謝る。すまない。僕が、無力であるから。君を救えなかった。婚約者の妹だったのに。
ぱんと、鋭い音を立てて、ナイフが折れる。
そして、同時に。
ゴンゴが絶叫した。
何が起こったのか、顔を上げて確認する。ゴンゴの肩から、大量の鮮血が噴き上げていた。
それだけではない。埃を払いながら、フィールド探索者が立ち上がるではないか。
縛っていたはずの縄は切れて無くなってしまっている。どうしてだ。どうして、あの頑丈な縄が切れた。肩を回しながら歩いてくる彼女の手には、玩具のような奇怪な銃器が握られていた。
肩から大量の血を流して、地面で転がり回るゴンゴ。部下達が一斉にカラシニコフを構える。フィールド探索者は、腰を抜かしている女の子を庇うように前に出ると、目に炎を宿して叫ぶ。何を言っているかは分からないが、撃ってみろとか、守ってみせるとか、そんな所だろう。
あんな細い女が。残虐性に心を麻痺させてしまっている、百戦錬磨の民兵達を圧倒している。圧倒しているのだ。
流石に学習したか、発砲しようという輩はいない。息を呑む。ゴンゴが白目を剥いて、泡を吹いている。あの凶暴な悪魔が。今、死に瀕しているというのか。
フィールド探索者が、こっちを見た。
ふと、それで気付く。
今の、自分の立ち位置は。ひょっとすると。
視線はもう外されている。にらみ合いが続く中、徐々にゴンゴの悲鳴が小さくなっていく。医師を呼ぼうとする民兵はいない。みな、敵がどう動くか分からないので、身動きできずにいるのだ。
やるべき事を、ジラトルは思う。怖い。だが、今やらなければ、全てが。全てが、終わってしまう。
今、他の民兵の意識は、ジラトルから外れている。
あの女の人が、この好機を作ってくれたのだ。
「ジルタ!」
叫ぶ。
フィールド内で戦っている、友を自制させるために。
そして自身は、此方に残している二百羽ほどに呼びかけて、一斉に村周辺にかき集めさせる。怒号が飛び交う中、ジラトルの行動に気付く民兵はいない。夜闇が、優位を加速する。
ほどなく。
無数の隼たちが、村の頭上に集まり始めた。
ついに逃げ切れないか。そうグレート・マムが思った瞬間、傷口に隼の爪が食い込んでいた。
最初に傷を付けてくれた奴と同じ個体である。
しかも、まだ森まで四メートル以上もある。
そして、爪が食い込んで、離れない状態になった以上、もはや逃れる術はなかった。
隼は、獲物を地面なり海面なりに叩きつけることで殺し、あとでゆっくり拾いに来る。その時速三百キロを超えることさえある圧倒的な加速度で叩きつけられて、生きていられる鳥類などいない。百戦錬磨であるグレート・マムも同じ事だ。
経験の浅い多くの若鳥が隼に殺された。
動きを読めれば、どうにかなる部分もある。だが、どうしてもあの速度と機動性能には、対抗できないのだ。
種としての絶対的な違いがある。経験でも、それは埋めきれない。逆に言えば、そうでなければ、隼は種として存続できない。
ましてや、この絶望的な状態では。
不意に。
圧力が無くなる。
全力で羽ばたいて、森に逃げ込む。
隼たちが、一斉に頭上に舞い上がり、離れ始めていた。
それだけではない。まるで一匹の大蛇のように空で列を作り、フィールドから脱出を始めているではないか。
何が起こった。
最初に思いついたのは、あのとろそうなスペランカーの仕業だと言うことだ。ついに、能力者の喉に手が届いたのか。或いは、何かしらの方法で、屈服させる事に成功したというのか。国連軍の特殊コマンドが、情報から抑えることに成功したのか。
いずれにしろ、今が、恐らく、最後の好機だ。
背中の傷は深い。後ろからは、まだ単眼の巨神と、その眷属達が追ってきている。フィールドを出れば、彼らは存在できない。体からこぼれ落ちる血。急激に体力が失われてきているのが、よく分かる。
だが、やらざるを得ない。
やらなければならないのだ。
人間と契約した。
故郷の生態系を保持し、外部からの生物の侵入を防ぐこと。安定した環境を、人間の出来る範囲で保つこと。
それが。グレート・マムの唯一の望み。契約の、全て。
同族が暮らしやすい環境は、故郷にしかない。だから、圧倒的な侵略能力を持つ人間を押さえ込めば、同族は安泰なのだ。人間が好きな、余所の支配だとか勢力の拡大だとかには興味を持てない。ただ、自分の子孫達が、安らかに暮らせれば、それでよい。
どのみち自分はあり得ない生命。
子孫達を護るために、今一度生を受けた存在。
自分を保全するよりも、今繁栄している子孫達を護ることの方がずっと大事。そう、グレート・マムは考える。
産んだ子供達の事は、皆覚えている。
いくらかは死に、残りは空に送り出した。
生き残りは皆、子孫を残し、今に至っている。それを護るというのならば、どんなことでも、グレート・マムには耐えられる。
だから、飛べるのだ。
墜落した。
にじり寄ってくる、無数の蔦。
何度か跳ねて、加速しながら、また飛ぶ。
自分としたことが、情けない。よたよたした飛び方で、まるで初陣の小娘のようだった。心臓が限界を訴えてきている。視界が霞む。翼に力が失われてきている。
だが、それでも飛ぶ。
無様なまでに翼を動かす度、血が飛び散る。体が、温度を調節できなくなっているのがよく分かる。
光が見えてきた。
空を舞っているのは、巣立たせた愛しい子供達。餌を与えないとすぐに餓死してしまった。最初の数羽は、そうして悔しい思いもした。だが、他は皆、確実に育て上げていった。絶望と涙を糧として。
森を抜ける。
後ろでは、巨神達が、悔しそうに咆吼しながら、森をぐちゃぐちゃに潰していた。
見れば、もう隼はいない。
いつの間にか、フィールドも抜けていた。
見える。
病院が、すぐ至近にあった。
彼処だ。彼処に辿り着けば、任務は終わる。そうしたら一旦待機状態に戻り、それから。
思考が途切れた。
後は、ただ砂色の光景が、何処までも広がっていた。
アパ・カルタの民兵達の頭上から、無数の鳥が降り注ぐ。そう、それは、巨大な鳥の形をした蛇が、人間を襲い、飲み込むような光景だった。対応できた兵士など一人も居ない。しかも鳥たちは、躊躇無く武器を持つ手を掴み、啄み、まず動きを塞ぎ、更に顔にとりついて、視界も奪った。
持ち上げられる兵士までいる。人間の体重を空に持ち上げるのに、どれだけのパワーがいるか、言うまでもないことだ。鳥使いの少年は本気だ。やっと、自分のもてる力を、理解できたのだろう。
スペランカーは、素早く瀕死の敵ボスに走り寄ると、ブラスターを向ける。轟き渡る怒号と悲鳴の中、それは著しく簡単だった。
無線を手に取る。
「此方、スペランカー。 国連軍R国本部、応答してください」
「スペランカー、此方国連軍。 どういたしました」
「今、アパ・カルタ指揮官、および配下民兵を確保。 すぐに捕縛用の部隊を送ってください! 一個中隊は必要です」
「……了解! すぐにも!」
一瞬驚きの声が混じるが、すぐに喜びがそれに取って代わった。
この国の病根は深い。過激派の一つを潰しただけで、どうこうなる訳ではない。ソラ族の過激派だけが悪いのではなく、ウミ族にも同程度の極悪非道な過激派が複数存在している。
国連軍が、さっさと本隊を派遣してきた上で、貧困を解決する策を実行しなければ、幾らでもこのような鬼畜は湧いてくる。なぜなら、多分このような存在こそが、人間の本能の顕現だからだ。
ちらりと、アパ・カルタの指揮官を見る。
なぜこの男に、直接呪いによる打撃が通ったのか。
それは、あの女の子が、呪いに「道具」と見なされたからだ。
スナイパーライフルやカラシニコフに打撃が通っていないことからも分かるように、呪いは道具に対して、直接体に刺さりでもしない限り報復しない。つまり、スペランカーを殺そうとか害そうとか考えていた場合に、初めて打撃が通る。
この男は、状況だけ見て、機械的に呪いが報復していると考えたのだろう。違う。この呪いの主である海底の神は邪悪で、冷笑的で、狂気に満ちている。人間を嘲笑い、常に馬鹿にしている神が、その意図通りに動くものか。
フィールド探索者として最下層のスペランカーでさえこの通りである。他の、特に戦闘タイプのフィールド探索者に、自爆テロなど通じる訳がない。
スペランカーは、アパ・カルタ指揮官の至近まで歩を進めた。そして、見下ろす。
この男には、一番苦しい死に方をして貰う。
「私、兎に角色々な死に方をしてきたよ。 焼死、溺死、ショック死、圧死、爆死。 その中で、一番苦しい死に方って、なんだと思う?」
言葉が通じないことが分かった上で、スペランカーはブラスターを突きつけたまま、言う。
「それはね、毒でも窒息でもない。 目の前に、希望をぶら下げられて、それがどうしても手に届かなくて。 じわじわ、死んでいく。 そんな死だよ」
ほほえみかける。
この男には、見えている。地獄の苦しみの中、スペランカーが向けている銃が。そして、その笑顔が。
あの銃が、苦しみから解放してくれるかも知れない。
あの笑顔なら、医師を呼んでくれるかも知れない。
そんな希望を、スペランカーは踏みにじる。敢えて、踏む。己がしてきたことを、償わせるために。
ひい、ひいと、漏れている男の呼吸が。徐々に小さくなっていく。スペランカーは、周囲の阿鼻叫喚にも表情を崩さず、言った。
「撃ってあげない。 医者だって呼んであげない。 でも、良かったね。 それで少しでも、貴方が犯した多すぎる罪の一部を償うことが出来るんだから。 極限まで、目の前にぶら下げられた希望にすがりつこうとしながら、苦しんで死んで。 それが貴方の出来る、唯一の償いなんだから」
流石にスペランカーも、この男を許してやる気だけは起こらなかった。
やがて呼吸は小さくなり、そして消えた。
痛い思いをしてブラスターを使わなくても済んだのは僥倖。
だが、鬼畜が一人死んだ所で、この国の病根は、消えた訳ではない。
ほどなく、国連軍が大挙して押しかけてくる。隼の群れに身動きを封じられていたアパ・カルタの民兵達は皆その場で拘束され、非人道的な扱いを受けていた村人達が保護される。彼らは中立地帯に移送されて、其処で国連軍の護衛を受けることになった。敬礼する国連軍兵士達に目礼。
移送されていく鳥使いの少年が、通り過ぎる際に一礼した。
グレート・マムは無事だろうか。それが気に掛かるが、今は少年を責める時ではない。それに、むしろこの子は勇気を振り絞って、よくやってくれた。
アパ・カルタ指揮官の死骸が運ばれていく横で、スペランカーは無線を取る。
グレート・マムの応答はない。
何度無線に声を掛けても、結果は同じだった。
まだ、フィールドの中にいるのかも知れない。
そう強弁して心を落ち着かせようとする。だが、なかなか、上手く行かなかった。