オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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今回の話のフィールドは、異世界扱いされています。

規模が大きいフィールドの中には、異世界として対処するものもあるのです。

そしてそういう規模が大きいフィールドには、当然桁外れの災厄が潜む事が多く。

対処には、大物のフィールド探索者が参加することが少なくありません。


1、異世界の事情

 

自宅に戻ってきた一は、ベットに突っ伏す。

 

聞かされた話と、国家機密だという情報書類は、あまりにも非現実的で、これから関わらなければならない事実が憂鬱きわまりなかったからだ。

 

ぼんやりと天井を見つめる。

 

見飽きた蛍光灯。豆球をそろそろ交換しないと行けないと、ぼんやり思った。

 

黒服達の説明はこうだ。

 

世界には、同じような状態から分化し、別の歴史を辿った可能性が多数存在する。

 

いわゆる並行世界理論である。

 

その一つが、ある宇宙人勢力から、侵略を受けた。その首領の名は、魔王マンドラー。あの小山のような巨体を誇る邪悪なる知性体で、具体的な正体は今もよく分かっていないという。

 

魔王マンドラーは並行世界の1960年にアメリカに現れると、瞬く間に地球全土を圧倒的な軍事力で蹂躙。当時世界最強を誇った米軍は、ソ連もろとも三日で壊滅したという。核兵器も効果がなかった。やがて地球の正規軍を粉砕し終えたマンドラーは、残りの地球人を駆除しながら、己が住みやすいように地球の環境を改変した。結果地球は全土が砂漠化したという。

 

人類は2億人程度まで、瞬く間に数を減らした。

 

生き残った人類は地下、海底などに分散してコロニーを作り、反撃の機会を伺った。やがて1990年代になると、敵に通じる攻撃手段などが確立され、地球側の反撃態勢も整い、地上では五分の戦況を展開できるようになったという。地下でのコロニー生活技術も発展し、人口も8億人程度まで回復したそうである。

 

だが、圧倒的なマンドラーの物量には基本的に為す術が無く、地上を恒久的に奪還するなど不可能で、ゲリラ戦を主体に対応するしかなかった。

 

絶望的な状況。

 

しかし、希望が生まれた。

 

その旗手となったのが、先ほどの決戦戦闘機。ウィングギャリバーであった。

 

各国の技術を結集したウィングギャリバーは、様々な技術を、なりふり構わずに投入している。マンドラーの戦闘兵器から採取した異星の技術をベースにしたそれは、言うまでもなく、多くの非人道的な仕組みも組み込んでいた。

 

「その一つが、シンクロシニティシステム、か」

 

呟く。

 

それで、憂鬱が晴れる訳ではないと、分かっているのに。

 

一旦それは忘れ、資料を読み進める。今一が読んでいるのは、もう一つの、あり得た地球の歴史なのだ。

 

初期型の量産型ウィングギャリバーの投入により、人類は五年ほどで南アメリカ大陸を回復。続いてアフリカ大陸を回復し、21世紀少し前にはオーストラリア大陸も回復したという。

 

だが、軍を進めても、人類は決して有利になった訳ではなかった。地上には資源らしきものも殆ど残っておらず、バージョンアップを繰り返しながらも次々に落ちていくウィングギャリバーの損失は大きく。

 

やがて、両者は膠着状態となったのだという。

 

それにしても、此処まで一気に戦況をひっくり返すことが出来るウィングギャリバーとは、一体どのような戦闘機なのか。

 

マンドラーの配下となる巨大生物に関しても強力ではあったが、それは地上部隊での対応が可能な相手であった。問題なのは主力となっている異星の航空部隊であり、これは明らかに自動機械軍で、内部に操縦のための生物を必要としていなかった。

 

地球側の戦闘機は、操縦のためのパイロットを必要としており、此処に大きな差があった。どう考えても中に人間を乗せていると出来ない動きをする相手に対し、地球側の戦闘機は、例え超音速での飛行を可能としていても、為す術が無かったのである。当然の事ながら、無人機械軍は慣性を殆ど無視して飛び、宇宙空間だろうが深海だろうが平気で、多くの海底コロニーが潰されては住民が皆殺しにされた。

 

この格差を埋めるために造り出されたのが、シンクロシニティシステムである。

 

ベットの上でごろりと転がると、歎息する。

 

早い話が、それは人間をそのまま戦闘機にしてしまう、というものであった。

 

人間の意識を転写する技術については、マンドラーの航空機械軍の残骸から、入手できていたものを利用した。機動制御に、人間の意識を転写した生体コンピュータを使用。そして要所の駆動のために、その人間のDNAから培養した特殊な液体を循環させた。それにより、圧倒的な機動力と、戦闘能力、環境対応能力を実現したのである。

 

しかしながら、これには問題が幾つもあった。

 

まず第一に、生体コンピュータの技術がまだまだ不完全であり、特定のDNAの持ち主しか、認識しないと言うこと。次に生体コンピュータの素材に非常に希少なレアメタルを多用するため、どうしても量産が利かないと言うこと。

 

そして、DNAの持ち主が、殆どいないと言うことだ。しかも生体コンピューターの製造に多くの人間が死においやられ、戦災でも命を落とし、今では残ったウィングギャリバーが落ちたら地球側に打つ手はない、と言うことであった。

 

十二年前。

 

マンドラーとの戦闘が膠着状態になった異世界の地球では、打開策を探すために、異界とのコンタクトを開始した。マンドラーは宇宙空間を何万年も掛けて移動してきたのではなく、空間を跳躍して現れたことが分かっていた。機械軍の中にも、大型母艦などにはその機能を有しているものが存在していたのだ。

 

地球軍で再現できたのは、せいぜい異世界との電波通信位だったが、それがどうしてか、この世界の国連につながってしまった。それ以降、政府同士での協議が繰り返され、そして幾つかの技術が交換された、という。

 

国連が要求したのは、何よりウィングギャリバーの製造技術である。既に観測によって、マンドラーのいたと目される星がこの世界でも存在することは分かっているという。既存の軍事力では、マンドラーが現れた場合に対処が出来ないのである。ウィングギャリバーの製造技術は必須であった。もっとも、マンドラーがもし現れなければ、それは人間同士の争いに用いられるのだろうが。

 

一方、向こうが要求したのは、DNAが適合する人間であったという。やがて技術が発展し、数人くらいなら実際に向こうに送ることが出来る技術と体制が整った。

 

幸いに、と言うべきか。

 

此方の国連が用意したヴァーチャル・リアリティと無線通信の技術によって、生体コンピューターと意識を接続し、リモートコントロールする手法が確立。常に総力戦状態だった向こうは、娯楽関係が発達する余地が無く、それが故に生体コンピュータも技術が拙劣だったのだという。一ら五人は切り刻まれなくても良くなった。

 

ただし、その代わりに。訓練によって、魔王と戦う準備をしなければならなくなったのだが。

 

殆ど寝られなかったのは、何でなのだろう。

 

魔王と戦うという、子供じみた英雄物語に、自分が放り込まれてしまったからなのか。

 

惨すぎる運命に、強制的に参加させられ、逃げることも出来なくなってしまったからなのだろうか。

 

暗い顔をして降りていくと、両親が夕食を用意して待ってくれていた。

 

好物のハンバーグを中心に、ご飯と味噌汁が並んでいる。日本らしい、カオスなメニューの配置である。あまり美味しいと思ったことはなかった家庭料理だったのに。今日ばかりは、妙に美味しくて、おかわりまでしてしまった。

 

「一」

 

「どうしたの?」

 

「すまんな。 つらいなら、いつでも言ってくれ」

 

その時は、皆で逃げようと、父が言った。

 

命に代えても、一を逃がしてくれるとも。

 

両親の表情は真剣だった。だが、一は首を横に振る。盗聴器が仕掛けられているだろうからという事は考えていない。逃げられはしないだろうとも思っていない。

 

「大丈夫。 私、これでも結構頑丈だから」

 

「一!」

 

「心配しないで。 魔王だかなんだか知らないけど、やっつけてみせるから」

 

マンドラーは。此方の世界でも、いつ攻めてくるか分からないという。より環境の厳しい異世界で、奴を撃退できなければ。人類の未来は、確かに無いとも言えるだろう。そればかりか、異世界の地球を食い尽くしたマンドラーが、直接乗り込んでくる可能性さえあるというのだ。

 

ならば、戦うしかない。

 

憂鬱な気持ちの中、しかし決意が徐々に固まっていく。

 

この食卓を、好ましいと思ったことなど、一度もなかった。別に両親だって、好きではなかった。

 

漫画のように、若い父ではない。既に頭ははげ上がっていて、加齢臭だって酷い。パンツを一緒に洗われて、激怒したこともある。

 

母も同じ事だ。老いが早くて、授業参観の日は恥ずかしくて仕方がなかった。料理は上手ではなかったし、自転車関係には興味も持ってくれなくて、怪我をする度に理不尽な説教をされた。

 

だが、もしも一のことを何とも思っていなかったら、こんな風に長年苦しむことも、今無茶なことを言ってくれることもなかっただろう。

 

「大丈夫だから」

 

繰り返し、そう言う。

 

母は、泣いていた。

 

二次大戦の記録は、もちろん一も見たことがある。出征する兵士を送り出す家庭は、こんな感じだったのだろうか。

 

そう思うと、とても悲しかった。

 

もちろん、クラスの友人達に、相談することなど出来る訳もない。悲しみは、家族の中で抱え込むしかなかった。

 

 

 

翌日から、早速訓練が開始された。学校を出ると、早速政府のビルに直行である。最初に応接室に集められて、注意事項の捕捉を効かされた。携帯の電波も、全て監視されているという。邪魔になるから、出来るだけ友人や家族ともメールや通話はしないようにと、酷いことを言われた。もちろん携帯からのネット閲覧など、言語道断だという。

 

そういえばと、話を聞きながら一は思い出す。学校側にも話が通っているらしく、担任は微妙な表情で一を見ていた。当然、何かあったら報告する義務が課せられているのだろう。

 

別の室内にはルームトレーナーも完備されていた。まず初日は、此処で能力値を測定するという。自転車もあったが、マウンテンバイクではない。それに機械に固定されていて、可哀想だと一は思った。

 

「土方!」

 

「はい」

 

最初に呼ばれたのは年長組の土方だった。そういえばと思って周囲を見回すが、ののはいない。別室で、別メニューと言うことか。運動をしたことなど無さそうな体型であったし、かなり厳しいことをさせられるのだろうか。

 

土方はルームランナーに乗せられた。いきなり三十キロ近いスピードで、ランナーが回り始める。平然と走っている土方は、相当に鍛えている様子だ。さもありなん。県大会などで賞を総なめにするには、才能に加えて努力がなければ不可能だろう。

 

「次、風桐!」

 

「はい!」

 

一は自転車のほうに乗せられた。何度かペダルをこいでみるが、かなり重い。愛車のようなチューンは当然されておらず、兎に角ペダルが酷く鈍かった。これでは、無駄に体力が消費されてしまうだろう。

 

ルームランナーと同じように、床が回り始める。

 

時速は四十キロで固定。この程度の速度であれば、上り坂でない限りなんぼでも走ることが可能だ。

 

他を見る。

 

有馬は土方同様ルームランナー。運動部なのか、結構ついて行っている様子である。武田は。小さい体だが、同じくルームランナーでぽてぽて走っていた。流石に中学一年では無理があるかと思ったが、意外にもかなり走り込みに食いついてきている。

 

ひょっとすると。

 

ずっと前から、両親は様子がおかしかった。

 

あの頃から、体力を付けるように、誰もが裏で促されていたのかも知れない。一にしても、自転車は幼い頃から好きだったが、山を登るのにはまるようになったのは、愛車を手に入れてからだ。

 

思えば材料費を奮発して作ってくれたと信じていたあの愛車も、政府側が金を出してくれたのかも知れなかった。

 

「ペースを上げるぞ」

 

黒服が容赦ない宣告をした。

 

ペダルに掛かる重みが、一気に倍増する。汗が噴き出してきた。慣れない自転車では体力を酷く消耗するものだが、これはそれとも微妙に違う。消耗するようにわざと作ってある様子である。自転車を可哀想だと思ってしまった。

 

最初に脱落したのは、有馬だった。無理もない。体格的に、スポーツをしているとは思えないからだ。それでも一時間近く頑張ったのは凄い。

 

続けて一が落ちる。ペダルが重くて、腿がおかしくなりそうだった。肩で呼吸している一は、見た。道着を汗でぐっしょり濡らしながらも、まだ走っている武田を。不意に武田が、声を張り上げた。

 

「裸足で走っても良いですか!?」

 

「次からにしろ」

 

気が抜けたか、ルームランナーから弾かれるようにして、武田が転んだ。受け身は取ったようだが、思わず助けようとして、自分も転ぶ。まともに今日は歩けそうになかった。

 

駆け寄ったのは、最初に脱落していた有馬である。

 

「大丈夫? クライネちゃん」

 

「大丈夫です。 有難うございます」

 

黒服の男は、助けようともしなかった。ただ冷酷な目で見つめながら、メモをとり続けている。

 

日本人離れしている雰囲気から言って、紛争地帯で傭兵でもやっていたのかも知れない。自分たちをモノとしか見ていない空気が露骨だった。

 

最後に土方がルームランナーから降りる。長身の土方の締まった体から、汗が滝のように流れ落ちていた。ペースを上げてからも長時間保っていた事から考えても、プロのアスリート並の体力だ。

 

「現在の能力値は測定できた。 土方、お前は今日と同じメニューをこなしつつ、シミュレーターに入って貰う。 武田、有馬、風桐は、しばらく基礎体力作りだ。 徐々にハードルをあげていくぞ」

 

「……」

 

「返事は?」

 

「はい!」

 

有無を言わせぬ迫力に、不平を押し殺すしかない。

 

その日はそれで終わった。帰り道、土方がスポーツドリンクを買って皆に配る。いつの間にか合流していたののは、自前で購入していた。

 

「有難うございます」

 

「気にするな。 明日は多分座学だから、今の内にマッサージをしておくと良いだろう」

 

「超回復ですか?」

 

「そうだ」

 

超回復。トレーニング用語の一つである。

 

人間は激しいトレーニングを、あえて時間の間隔を作って行うと、回復と強化のバランスが非常に良く取れるため、一気に運動能力を上げることが出来る。高校生くらいになると、それが顕著だ。もちろん一もそれは知っている。

 

「有馬、スポーツはやっていないのか」

 

「ええと、僕はソフトボールでキャッチャーやってます。 ただ、あまり真剣には打ち込めて無くて、体力もちょっと無くて」

 

「ソフトか。 そのままの運動量だと、これから少し厳しいな」

 

「はい。 努力するしか無さそうですね」

 

クライネはかなり辛そうだったが、不平を一言も口にしなかった。この辺りも、嫌なら帰れと言われたら本当に帰ってしまうと言う、現代人の子供らしくない。余程厳しく躾けられているのだろう。

 

「クライネちゃん、大丈夫? 送ろうか?」

 

「お気になさらず。 私、もう中学生ですから」

 

にこりと笑みを浮かべる。酷く足が痛いだろうに、何だか少し心が締め付けられてしまう。

 

その日は足をじっくりマッサージした後、ベットに横になったら、すぐに落ちてしまった。こんなに寝つきが良いのは久し振りである。

 

だが、翌日は、寝た気が殆どしなかった。今までにないほど、酷い筋肉痛もあった。そして、食事には、プロテイン飲料を飲むようにとの指示もあったので、恐ろしく不味いそれを口にしなければならなかった。

 

翌日は、土方の言葉通りに、座学になった。

 

トレーニングルームとは別の部屋に、全員が通される。

 

「君たちに乗って貰う最新型のウィングギャリバーは、単独での戦闘も可能だが、最大五機の合体変形システムを採用している。 これはそれぞれの機体に戦術的な振り分けを行うことで、五機だけで一部隊に匹敵する活躍を行って貰うためだ」

 

五機の機体が、モノクロの画像として、スクリーンに投影される。

 

「一号機、αウィング。高速機動を得意とし、要撃の中心となる機体。機体は小さめで耐久力も大きくはないが、要撃に特化しており、ある程度他の機体の機能も有している」

 

淡々と説明がされた。映像で映し出されているのは、他のウィングギャリバーに比べると小型で、逆に言えば小回りが利きそうな機体だ。全体的に現在の戦闘機に一番近い形状をしている。これが一の機体だという。

 

「司令塔なら、土方さんが乗るのが良いんじゃないんですか?」

 

「生体コンピューターの適合が風桐になっている」

 

「あ、そうですか」

 

納得は行かないが、シンクロシニティシステムについてはもう理解している。それならば、今更どうにもならないのだろう。

 

続けて、映像が映し出される。二号機、βウィング。横に扁平な機体で、まっすぐ飛ぶのか不安になるような形状だ。大きさも、αの二倍以上はある。

 

「二号機、βウィング。 二門のエネルギー砲を有し、補給能力で他の機体を補助する」

 

二号機と合体することにより、他の機体はエネルギーを補給することが出来るという。大型の機体は、エネルギータンクを多数内部に抱えている、と言うことだ。自衛能力を高めるために、二門の砲を装備し、また耐久力も高めに作られている、と言うことだ。

 

此方は有馬の乗機だという。

 

「βウィングは機動力が低い上に、速度が遅いから他に比べて被弾しやすい。 VTOL機能も有しているが、特に飛び立つ時が危険だ。 しかし、他もそうだが、特に重要な機体だから、機動には注意するように」

 

「分かりました」

 

次は三号機だ。

 

今度は一番今までで小さい。機体の下にパラボラアンテナに似ているものが着いている。また、砲台も可変型らしく、前後に向けて動かすことが出来るようだ。

 

「三号機、γウィング。 支援に特化した機体だ。 電子戦機能を有している他、可変型砲台で、後方への攻撃、左右への支援砲撃を可能としている」

 

これはまた、使い方が難しそうな機体である。

 

電子戦機というと、レーダーを攪乱したり、ジャミングを行ったりする機体の筈で、現実にも存在はしているはずだが、しかし戦闘能力はさほど高くはなかったはず。ウィングギャリバーは全機がスーパークルーズ能力とホバリング、それに現状の戦闘機には不可能なレベルで慣性を無視した機動が出来ると言うことだが、これも二号機同様、中心において守らなければならない機体なのだろう。

 

これは武田の乗機と言うことであった。

 

なおさら守らなければならない機体と言うことか。

 

のほほんとしている有馬と裏腹に、武田は緊張が見て取れた。だが、不満を口にすることはない。何だか見ていて逆に不安になってくる。

 

「四号機、Δウィング。 全機で最強の火力を有し、敵勢力要塞砲並みの荷電粒子砲を主砲としている。 連射性能も高く、敵を突破するために必要な機体だ」

 

確かに、大砲が着いている飛行機と言うよりも、大砲に羽が生えていると言ったほうが良いような機体だ。その巨大な荷電粒子砲とやらは他の機体に着いている砲と一線を画している。

 

しかしこの巨大な砲から言って、速力は出ても旋回は苦手そうである。

 

これが、土方の乗機だという。何だか納得できる話であった。土方は、まるで斬馬刀のような形状の自機を、じっと見つめていた。

 

そうなると、最後の五号機が、不思議な雰囲気を持つ、ののが乗る機なのだろうか。

 

「最後に五号機、εウィング。 此方はかなり特殊な機体で、バリアを展開することに特化している」

 

「バリアというと、ビームとかミサイルとかを防ぐ、あれですか?」

 

「アニメに出てくるほど万能ではない。 質量兵器には有効だが、ビーム兵器は防ぐことが出来ない」

 

その代わり、ビーム兵器は機体に施されている特殊なコーティングである程度防ぐことが出来るという。要塞砲レベルになってくると、不可能だと言うことであったが。

 

一通りスライドでの説明が終わると、それぞれに分厚いマニュアルが渡される。明後日までに覚えてくるように、という事を言われた。

 

どうやら、あまり時間は残っていないらしい。

 

ひょっとすると、昨日聞いた両世界での約束事が成立したのが、つい最近なのか。

 

或いはマンドラーが総攻撃を仕掛けてくるまで、そう時間がないのかも知れない。戦況は膠着状態という話だが、異世界の状況を聞く限り、時間が経つほどマンドラーに有利になるようであるし。

 

筋肉痛が酷い足を引きずって、ビルを出る。

 

途中、風船を幾つか持った、妙に可愛い女の子とすれ違った。あの子も何かしら、マンドラーと戦わされるのだろうかと思うと、気の毒でならない。だが、黒服がじっと此方を見ているので、下手なことは喋ることが出来なかった。

 

外に出る。

 

土方が此方を見て呟いた。

 

「どう思う、風桐」

 

「え? どうって」

 

「政府が全て本当のことを言っているとは、限らないと言うことだ。 何もかも鵜呑みにしていると、後で痛い目を見るかも知れない」

 

「それは、そうですけど」

 

しかし、逆らうという選択肢は存在しない。

 

幼い頃から、厳しい両親の経済状況と、次々シャッターが降りていく商店街の実情を見てきているのだ。卑劣きわまりない闇金業者のやり口や、連中のせいで不幸になった人達も見てきている。覚醒剤に手を出して、廃人になってしまった人もいた。

 

政府は、金を出してくれると言っている。

 

いざとなったら体を売ってでも、遊ぶ金を捻出する女子高生は少なくない。一もその類の同級生は、何人か知っている。

 

金の価値を知っている一は、そんな連中と一緒になりたくはない。

 

だが、今は。それと似たようなことをしているのかも知れないと思うと、心が締め付けられる。

 

「そう思い詰めるな。 とにかく、今は様子を見るしかない」

 

「……土方さんは、随分大人っぽいですよね」

 

「まあ、いろいろあってな」

 

高校三年生でも、男女問わずに、ガキ同然の連中など幾らでもいる。責任を社会そのものが放棄しているような現在ではなおさらだ。

 

やはり、土方の心は、後天的な環境で鍛え上げられたのだろう。

 

自転車を取ってきて、それに跨る。今日は多少筋肉痛があるとはいえ、一人くらいは乗せていく余裕がある。

 

「わ、素敵な自転車」

 

「あ、これ、オーダーメイドなんだ。 ベースは父さんが作ってくれたんだけど、カスタマイズは私がやったの」

 

有馬がとても可愛らしい声で言うので、こっちも嬉しくなってくる。辛そうにしている武田に声を掛ける。

 

「クライネちゃん、大丈夫? 乗せていってあげようか」

 

「心遣いありがとうございます。 でも、私は歩いて帰りますから」

 

ぺこりと完璧な礼を返すと、武田は最寄り駅に駆けていく。その背中を見つめながら、土方が言う。

 

「庇ってやろうとしている所悪いが、あの子、相当に強いぞ」

 

「え?」

 

「多分足捌きから言って柔道か柔術だが、完全に中学レベルを超えている。 高校の県大会で上位に食い込むくらいの力はありそうだ。 多分ハーフかクォーターだが、日本語しか喋れそうにないのも含めて、何か事情があるんだろうな。 体力そのものはまだまだ発展途上のようだが」

 

「あの子の後ろに、両親の影が見えない。 きっと、育てているのは祖父ね」

 

ぼそりとののが不気味なことを言った。

 

トレーニングに参加しなかったことから言っても、この人は何か異様だった。

 

「沖田さんは、隣の街か」

 

「ええ。 バスで此処まで来ているわ」

 

「そうか。 ならば此処で解散だな」

 

有馬も同じくバスだという。土方は歩きだというので、バス停で全員が別れることになった。

 

一人になると、途端に喋ることが出来る相手がいなくなる。

 

空には無数の星が瞬いていて、いつ降ってきてもおかしくない。異世界でも、同じように星が瞬いているのだろうかと思うと、不思議な気分だった。

 

筋肉痛が酷いとはいえ、愛車のペダルは滑りが良い。

 

しかし、バッグに入っている分厚いマニュアルが、重かった。

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