オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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この話はこのシリーズでは珍しく、ほぼ一般人達がフィールドに挑み、対応する事になります。

色々な事情からですが……

それくらい、手段を選んでいられない状況だと言う事なのです。


2、異界への路

激しいトレーニングを一日。終わった後は、プロテインを大量に摂取。最初はルームランナーでの走り込みばかりだったが、徐々にプールでの水泳が多くなり始めていた。全身運動が一番効率よく体力を養えるのだから当然か。

 

プールはビルの地下にあった。しかも25メートルの立派な奴で、様々な機能もついている。別室には射撃訓練室もあるらしかった。ひょっとするとこの近辺のビル全てが、政府の秘密施設なのかも知れない。

 

面白いのは、土方が金槌同然だったことである。陸上では最強に近いのだが、水泳では四苦八苦しながらまるで前に進まず、体力を倍も無駄に消費しているようだった。最後には浮きまで付けて、それで水泳による体力強化を行ったほどである。

 

逆にののは水をまるで苦にしておらず、自由自在に水を掻いて進んでいた。何というか、質量が殆ど感じられない泳ぎ方で、舟幽霊か何かに思えてしまう。有馬は殆ど一と同じくらい。意外にも武田は河童で、かなり水泳が達者だった。

 

「クライネちゃん、泳ぎが上手だね」

 

「祖父に離島で鍛えられたんです。 毎日四キロとか泳いだから、このくらいなら何とかなります」

 

「それはまた、非人道的な」

 

「慣れてますから」

 

スクール水着の上からも、クライネの、発育が遅いながらも徐々に大人になろうとしている体が見て取れる。だが、抑圧された心も見て取れて、それがとても悲しい。

 

体力増強メニューが終わると、次は座学。

 

徐々に異世界の軍事的な状況と、ウィングギャリバーの戦術に移行する。五機を使ってのフォーメーション戦術が、ウィングギャリバーの最大の武器だという。実際にも、旧型機は飛行機の形をした人間という意味合いが強く、フォーメーションとコンビネーションで機械的に動く敵を叩いてきたという。

 

「ただ、今回は飛行機をリモートコントロールで操作する点が、今までのウィングギャリバーとは違っている。 思考をフィードするシステムについては実用の段階にまで進んではいるが、シミュレーターで全員が互いの癖をしっかり把握しておかないと、きちんと動かない可能性もある」

 

監視役の黒服ではなく、どうやら自衛隊員らしい強面のおじさんが説明をしてくれる。多分航空自衛隊の精鋭だろう。既にシミュレーターに入っているらしい土方も含めて、皆に空戦での細かい技術を指導してくれる。

 

ただ、ウィングギャリバーについては現在の戦闘機を更に五十年先に行っている技術であるらしく、とてもではないがこの人でも分からない部分はあるらしい。マニュアルにはかなり粗い説明がされている箇所も多く、土方の鋭い質問に苦労している様子もあった。

 

日々、終わる時間帯が遅くなっていく。

 

休日など、もちろん無い。土日は朝からビルに出て、訓練と座学漬けだ。

 

徐々に毎日が、訓練を主体に置き換わっていく。学校の勉強など二の次、三の次だ。どうせ生きて帰れるかも分からないのに、中間テストなど気にしていられるか。

 

毎日泥のように疲れ果てて家に帰り、翌日はきちんと学校に出る。しかし、授業では、居眠りをする比率が増え始めていた。教師は何も言わない。それどころか、成績を政府が言うままに改ざんしている雰囲気まであった。

 

二週間ほどで、進展があった。

 

土方の次にシミュレーターに入ったのは武田だった。やはり若いと言うこともあって、体力の上昇も著しかったと言うことか。殆ど間をおかずののも入り、二日後、同時に一と有馬が入ることになった。

 

訓練が終わってへとへとになっている一は、有馬と一緒に、一番奥の部屋に連れて行かれる。

 

其処は巨大な繭のような機械がいつつ、放射状に並べられていた。

 

機械からは無数のケーブルが伸び、それぞれがスパコンらしきものにつながれている。既に他の三人は入っているようすであった。

 

不意に、繭の一つが青く光る。

 

そして繭の前面が二つに割れて、殆ど裸のののが出てきた。胸と陰部は水泳用の布見たいので覆っているが、それ以外は全裸である。

 

「ふは。 酷いミッション」

 

「反応が遅い」

 

「はいはい、ごめんなさい」

 

タオルで頭を拭い始めるのの。気配が薄い上に飄々としているので、怒鳴っている教官の声が、そのまま素通りしているかのようだ。

 

一と有馬の担当らしい女性の教官が、ひらひらの白い布を突きつけてきた。

 

「五分で着替えろ。 すぐにシミュレーションを始める」

 

「あ、はい」

 

もう、ぐうの音も出ない。

 

更衣室で、さっさと着替える。有馬の方をちらりと見ると、やっぱり恥ずかしいようだった。顔立ちはどちらかというと男の子っぽくても、こう言う所ではやはり強く女の子としての要素が出てくるのだろう。

 

「やだよね、こんな格好」

 

「あり得ないよねー」

 

ぶつぶつ文句を言う。セクハラだろと思ったのだが、抗議しても訴えが通る訳がない。そもそも抗議が出来る状況にない。

 

何でそんな格好でシミュレーターに入らなければならないかは、入ってみてすぐに分かった。

 

恐ろしく暑いのだ。

 

中には大きな椅子のようなものがあり、座るとヘルメットを被せられる。

 

同時に、一瞬意識が落ちて。

 

次の瞬間には、空を浮いているような光景の中、いた。

 

ただし、自分を認識できない。周囲を見ようとすると見えるのだが。手も足も無い。何だか、何かの機械の上で、視界がくるくると回っている。

 

まさか、これが自分なのか。

 

「まずは飛行訓練からだ。 進む、浮く、とどまる、左右に移動する。 順番に、考えてみるように」

 

女教官の冷徹な声がする。

 

最初は基地か何かから発進する所からかと思ったのだが、言われたようにしてみる。

 

ぐっと、押されるように、自分が動き始める。周囲がまるで流れていくように、後ろにすっ飛んでいくのは、快感でもあり、気味悪くもあった。

 

姿勢制御は。考えると、ぐらりと揺らぐ。どうやらそう言ったことは考えずとも、勝手に補助してくれる様子であった。

 

「お前は機動力を駆使して、他の全ての機体を補助する立場にいる。 雑念は一番払わなければならないことを忘れるな」

 

「は、はい!」

 

「返事は良い。 次は浮く。 上昇だ」

 

「やってみます」

 

浮け。何度かそう念じる。

 

不意に、体が軽くなったような印象を受けた。どうも機首を上向きにして、上昇するのではないらしい。バーニアかロケットノズルの向きを変えているのか。しかし、それで機体が空中分解しないのか不思議でならない。内部の人間の事を考えずとも良いから、なのだろうか。

 

いつの間にか、雲を突き抜けて、更に上まで出ていた。

 

上昇、止まれ。そう思うと、雲海の上で、ゆらりゆらりと漂い始める。何だか、とても気分が良い。

 

時々、間欠的に音がする。

 

多分姿勢制御をしているのだろう。頭を真っ白にしていても音が止まないことを思うと、やはりオートで姿勢制御はしてくれるという訳だ。

 

なるほど、凄い性能だ。

 

これなら、既存の戦闘機など、全部玩具も良い所だろう。宇宙人の大軍団と、戦える訳である。

 

「よし、左右に移動しろ」

 

返事はよいと言われていたので、そのまま動く。まず右へ。すうと、体が流されるような感触のまま、横滑りしながら雲の中に突っ込んでいた。空は真っ暗で、星が瞬いている。蹴散らされる雲の感触を楽しむように、ずっと横に滑る。加速が凄まじく、多分音速を超えているのではないかと思わされた。

 

一旦止まる。

 

急激に速度を落としたのに、機体に負荷が掛かった印象はない。

 

また停止状態に入ってから、雲の上を滑るようにして、今度は左に。時々吹っ飛んでいく雲の欠片が面白い。

 

自転車をこいでいる時も、こんな感覚が体を包むことがある。

 

機体と一体化して、ただこぐ。風を切って、むしろ味方に付けて。空を泳ぐようにして、愛車と供に駆ける。

 

吹っ飛ぶ雲。やがて、すんなりと、機体が止まった。

 

「明日から、第二段階に入る」

 

「えっ!?」

 

「聞こえなかったか。 次から第二段階だ」

 

接続が切られた。

 

浮遊感が消え、椅子に座っているという現実だけが残った。周囲は入った時同様、繭のような形をしたシミュレーターの内部。自分もきちんと認識できる。全身、ぐっしょりと汗を掻いていた。こんな暑い中にいたのだから当然か。顔を扇ぎながら外に出ると、ぐったりした様子で、有馬と武田がシミュレーターから出てくる所だった。

 

外が嫌に涼しい。

 

「うはー。 暑いね」

 

「私、明日から第二段階だって」

 

「えっ! 本当ですか!?」

 

武田が素っ頓狂な声を挙げたので、こっちの方が吃驚してしまう。丁度シミュレーターから出てきた土方が、大人っぽい顔を手で扇ぎながら言う。

 

「私は一週間かかったぞ」

 

「私、まだです」

 

武田が言ったので、なにやら異常なことであったらしいと、ようやく認識できた。

 

さっきの台詞から言って、ののはもう次の段階に行っているようなのだが。他の皆の驚きからいって、一には何か才能でもあったのだろうか。

 

いずれにしても、あの灼熱地獄の中でのシミュレーションだ。体力がなければやっていられない。それに話を聞く限り、五人が揃わないとそもそもまともに戦えないのだから、一人だけ突出しても意味がない。

 

そのまま解散になる。

 

既に夜もかなり遅くなっていた。にもかかわらず、ビルの中では忙しそうに人々が行き交っている。途中、妙に大柄な外国人を見かけた。筋肉質で、まるで海兵隊員である。口元に蓄えた髭と、刃のような光を湛えた目が印象的だった。まるで違う世界で生きてきた人間である事は、見ただけで分かった。

 

ビルの外に出る。夏も終わりに近付いているからか、妙に涼しく感じる。

 

このくらいの時間に外に出るのはあまり気が進まないのだが。話によると、五人にそれぞれ見張りがついていて、影から護衛されているという。ありがたすぎて悔し涙が出る話だ。

 

「もう少し早ければ、パフェでも食べていけるんだけどなあ」

 

「あ、自分にご褒美、って奴ですか」

 

一の言葉に食いついてきたのは武田だった。意外である。非常に真面目な子という印象があったからだ。

 

「クライネちゃんは、何かご褒美とか自分で設定していたの?」

 

「え? ええと、その。 宇治金時……を」

 

「わ、渋い」

 

「そ、そうですか?」

 

もじもじ言うクライネが妙に可愛いので、テンションが上がる。

 

興味なさげだった土方が、不意に言う。

 

「さっきの大男、あれはMだな」

 

「M!? I国の、世界最強の男って言われる、あの元配管工の人ですか!?」

 

「そうだ。 奴が来ているって事は、多分相当に異世界の状況が深刻なんだろう。 そろそろ学校など行けなくなるかも知れないな」

 

「そ、それはいやです」

 

悲しそうに眉尻を下げる有馬。学校に、好きな男子でもいるのだろうか。それを指摘すると、首まで真っ赤になった。分かり易くて可愛い。ただ、整ってはいても男の子のようなルックスだから、あまりもてることはないだろう。有馬の良さが分かる男子は、高校生には少ないような気もするし、まだ春は遠いかも知れない。

 

ぼそぼそと、かなり聞き取りづらい言葉遣いでののが言う。

 

「三段階までのシミュレーションに合格すれば、異世界への突入ミッションを始めるって、この間聞いたよ。 幾ら遅くても、多分、後一月も我慢すれば終わりでしょ」

 

「そ、そうなんですか」

 

「私達みたいな素人がどうにか出来るような仕組みがあるんでしょう。 話を聞く分だと、魔王何とかに滅茶苦茶にやられちゃってるみたいだし、パイロットを育てている時間なんか無いから、そう言う仕組みが考え出されたんでしょうね。 まあ、切り刻まれなくても良いみたいだけれど。 もっとも、そもそも異世界から生きて帰れるかは分からないけれど」

 

その割には悲壮感の欠片もないのは、なぜなのだろう。

 

ののはひょっとして、自分の命などどうでも良いと考えているのかも知れない。もしそうなら、悲しいことであった。

 

全員と別れて、自転車をこぎながら。近所に、少し遅くまでやっている喫茶店があることを思い出した。

 

実はこの任務を始めてから、やたらお小遣いが高額になった。無理をしているのではないかと不安になったのだが、給料という形で一時金が支給されているのだと、両親が教えてくれた。

 

明日は座学だから、終わってから皆を誘ってパフェでも食べに行こう。そう一は思った。

 

 

 

空を、舞う。

 

戦いのために。

 

下には一面の海原。どんなに酷いことになっている世界でも、海だけはただ青く、綺麗だった。

 

しかし、鴎もいなければ、さわやかな風も吹いていない。

 

周囲には、無数の異形が溢れていた。どれもとてもではないが、戦闘兵器には見えなかった。

 

巨大なエイのような姿に、無数の触手が生えているもの。

 

ウミウシに似ているが、巨大な口を持ち、たくさんの牙を生やしているもの。

 

百足に似ているもの。

 

鳥に似ているが、巨大な一つ目だけがあるもの。

 

いずれもとても大きい。そして、一を殺そうと、四方八方から襲いかかってくる。

 

「それは、異世界から提供された、マンドラーの下級生物兵器のデータだ。 いずれもが量産されて、防衛線を維持するために投入されている」

 

「凄い数ですね」

 

「一種類辺り、百万を軽く超えているそうだ。 これらが、既存の生態系を破壊し尽くし、砂漠化を進行させる一因ともなっている。 ウィングギャリバーにとって速力でも火力でも到底及ばない存在だが、死を恐れず、ラッキーヒットが当たれば打撃になりうる能力を備えている。 まずはこれから肩慣らしだ」

 

叩く。

 

そう念じるだけで、αウィングの先端から、エネルギー砲が発射される。現在の戦闘機などに着いている機銃などと比べると速射性が著しく低いが、一弾ごとに高い精度でターゲットロックオンがされており、念じたとおりの相手を片端から貫く。

 

敵の群れの中を抜けた時には、粉々に砕けた肉塊が、周囲に赤い霧を作っていた。

 

一気に抜けて、上昇。遅れながらも、敵が着いてくる。それぞれに放ってくるのは、酸の体液だったり、超音波の刃だったり。いずれもが、αウィングの翼を掠め、或いはエンジンを叩こうとして通り抜けていく。

 

上空で一回転。落下しながら、追ってくる敵の戦闘に、エネルギー砲を連射。

 

超常の強度を誇る敵要塞の装甲でさえ、集中して浴びせれば貫通するという出力のエネルギー砲が、まるで一匹の大蛇のように襲いかかってきた敵の群れを、撃ち抜く。そして、粉々に吹き飛ばした。

 

海面すれすれで速度を落とし、ホバリング。

 

敵の数はこの短時間の攻防で、四割ほど減っていた。

 

凄まじいのは、αウィングの火力だ。戦争のせの字も知らなかったような小娘が乗り込んでいるのに、まさに風の剣となって、敵の群れを切り裂いている。相手は二線級の生物兵器であったとしても、だ。

 

「難易度を上げるぞ」

 

「はい」

 

周囲が一瞬で、ごつごつした岩山に変わる。

 

吹きすさぶ狂風が、明らかにウィングギャリバーを掴む枷となっていた。高度を上げる。周囲に無数の殺気。

 

「此処からは、敵の正規軍が相手だ」

 

鋭角だが、何処か生物的な戦闘機が、飛来した。しかも編隊を組んで、である。

 

丁度機関銃を横殴りに掃射するように、それぞれが微妙に位置をずらしながら、ウィングギャリバーに機銃やミサイルを放ってくる。すぐに加速、上昇。翼すれすれを抜ける敵の光弾の群れ。ミサイルが反転し、追いかけてくる。敵戦闘機も、常識外の機動を見せ、一気に上昇に転じてきた。

 

速い。マッハコーンを、敵機が引きずっている。此方も更に加速して、一気に振り切りながら、上空で速度を不意に落とした。雲を抜ける。そして機体を捻りながら、自機を追い越した敵機の腹を、そして背中を見送りながら、砲弾の雨を浴びせかける。

 

編隊を組んでいた敵戦隊が、瞬時に塵と化した。

 

加速。

 

一瞬前まで自機がいた空間を、機銃が抉り去っていた。

 

敵の機銃弾は、大きく空間をえぐり取ったかのように、冷酷な穴を雲に開けている。不定形の、何とも言い難い敵が、飛び跳ねるような異常な機動で、連続して射撃してくる。加速して振り切ろうと、雲に潜る。

 

次々、雲が貫かれ、穴が開く。

 

雲を抜けた。

 

下では、四角形に四本の足を生やしたような、巨大な敵が待ちかまえていた。

 

敵から、次々と小型の戦闘機が飛び出してくる。軍事ヘリに近い役目を持つ存在らしく、ホバリングしながら機銃の雨を浴びせてきた。更に巨大な敵自身も、猛烈な対空砲火で出迎えてくる。敵の側を掠めつつ、エネルギー砲を浴びせ、えぐり取られる敵の装甲を尻目に死地を抜ける。

 

雲を抜けてきた不定形の敵機が、真後ろに着いた。此方を嘲るように、左右に飛び跳ねながら追ってくる。此方も左右にぶれつつ、岩山に向けて加速。直前でかわして、敵を一気に引き離す。敵の一機が、岩山に激突、爆発して消し飛ぶ。

 

前に敵。

 

小山のような巨体だ。

 

口のように開いている下部に、滑走路が見える。其処から、無数の敵機が飛び出してくるのが見えた。

 

周囲が暗くなる。

 

闇の中、敵の存在感だけが、異常な圧力を誇っていた。

 

一分後、接続が切れた。撃墜されたのだ。

 

シミュレーターを始めてから初の撃墜である。敵の大型要塞らしい存在との交戦に入って、百機近い敵に袋だたきにされたのだ。それにしても、凄まじいサイズだった。小さな山ほどもあったのではないだろうか。

 

全身にぐっしょりと汗を掻いていた。シミュレーターが開き、外の涼しい空気を肌に浴びてほっとする。

 

「十分休憩」

 

「はい」

 

外では、有馬が休んでいて、武田がシミュレーターに戻る所だった。有馬は男の子っぽい顔立ちだが、汗を掻いていると、特にうなじの辺りがずいぶんと艶っぽい。それに比べてかなり色黒な自分はどうだろうと、一は思ってしまう。

 

スポーツドリンクを差し出されたので、受け取る。

 

「はい、お疲れ様」

 

「ありがと」

 

「今日だけで、もう三回目の撃墜だよ。 あの生物兵器、すごく腹立つ」

 

「私は、さっき敵正規軍との戦いに入ったよ。 でも、撃墜されちゃった」

 

でも、敵の動きのパターンは覚えた。多分それぞれが、独自の動きに特化している戦闘機なのだ。

 

しかし、それで思い出す。そもそもαウィングの仕事とは、他の機体の護衛であり、要撃ではないのか。そうなると、逃げ回るのではなく、如何に短距離航続圏内で、現れた敵を叩きつぶすのかが問題なのではないのだろうか。

 

「有馬、休憩終了」

 

「あ、はい。 頑張ってね」

 

「うん」

 

有馬を見送る。少しずつ体力作りは楽になってきた分、シミュレーションでの暑さがネックになりつつある。何であんなに中を暑くする作りなのか、不思議でならない。

 

スポーツドリンクを飲み干すと、何度か咳き込んだ。

 

いつの間にか、訓練で頭が一色に塗りつぶされている自分に気付いてしまっていた。

 

「風桐、休憩終了」

 

「はい」

 

立ち上がると、忌々しい灼熱の繭に。床は自分の汗でぐっしょりだが、ヘルメットを付けると暑さも感じなくなるし、むしろ体の感覚が無くなってしまう。周囲はさっきと同じ岩山。見える敵の編隊。数は倍増していて、二編隊になっていた。

 

今度は、逃げない。

 

正面から速攻で砲を乱射。敵を貫通したエネルギー砲が、死と破壊をまき散らす。敵の機銃は、紙一重で避けた。

 

もっと余裕を持って避けたい。

 

二編隊を潰すと、上空から、さっきの不定形が来る。今度は四機だ。不意に機首を立て、コブラという機動から垂直上昇。一気に距離を詰めて、撃破撃破撃破、続けて最後を撃墜。破片を浴びないように、目が回るほどの機動をしなければならなかったが、どうにか対処は出来た。

 

周囲を確認。

 

地面を這うようにして迫ってくる、さっきの大型機を発見。上空で機首を捻って、垂直落下から砲の雨を浴びせる。もちろん攻撃ヘリを出して来たが、それが戦闘態勢に移行する前に、片っ端からたたき落とす。同時に、大型機の中枢に、連射連射連射連射。装甲が吹っ飛び、引きちぎられ。

 

中枢で光が瞬いたと思った。

 

凄まじい爆発。

 

ひょっとして動力は核融合だったのだろうか。逃れようと思ったが、一歩遅い。

 

ぶちんと接続が切れた。

 

息が荒い。何だか、全身が真っ黒な手に、鷲掴みにされたようだった。

 

「今のは敵の中型空母だぞ。 相打ちだったとはいえ、あれを単騎で撃退するとは」

 

「む、無我夢中でした。 次は巻き込まれないように潰します」

 

「……他が追いついてくるまで、第三段階へは入れない。 要領も掴んでいるようだし、しばらくは難易度を上げて、単独要撃戦の技量を上げて貰う」

 

淡々と女教官が言った。何だか、思った通りにウィングギャリバーが動くのが楽しい。オーダーメイドの自転車に、最初に跨った時のようなうれしさがある。あの時も、尋常ではない一体感を感じたものだ。

 

異世界で待っているというαウィング。

 

中には人間を磨り潰した液体が循環する生体コンピューターが搭載されていて、適合するDNAの持ち主にしか動かすことが出来ない。

 

血塗られた、悲しい運命を持つ機体だが。だがしかし、会うのが少しだけ待ち遠しい。

 

一つ歎息すると、一はヘルメットを被る。

 

今度はもっと上手に操ってみせるからね。

 

まだ見ぬ愛機に、そう呟きながら。

 

そして、その日は来た。

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