オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
あれほど強固に立ちふさがっていた扉だったのに。
碑文の謎の通り鍵を回すと、あっさり開いた。拍子抜けするほどに、簡単だった。前は鍵がびくとも動かなかったことを考えると、多分碑文に触れたことが、謎を動かす切っ掛けとなったのだろう。
視線は感じない。蝙蝠も昨日ほど大胆ではなく、距離を取って此方の動きを見守っている。時々ライトを向けると、怖い者知らずな小さいのがおもしろがって寄ってくる。無害なので放って置いたら、顔に貼り付かれて閉口した。しばらくもがいていると、いきなり後ろから突き飛ばされて、顔面を強打した。
しばらく動かなかったスペランカーだが。稼働可能になって最初にしたのは、顔に貼り付いていた蝙蝠が無事か確認することだった。床で煎餅になっているようなこともなく、蝙蝠は無事に逃げ延びた様子である。ほっと一息。転んだにもかかわらず、スペランカーの額には泥もついておらず。綺麗だった。
視線は、感じなかった。
所詮、スペランカーの能力なんてそんなものだ。フィールドに挑むライセンスを貰っている人間の中では下の下。あの男だったら気配を読めたのかも知れないが、スペランカーには無理だった。それだけである。
どちらにしても、これからは更に警戒を強くする必要がある。
リュックから缶詰を出す。幾つか貰った缶詰は袋詰めされていて、手を入れて中身を取り出してみる。
「わお!」
思わず奇声を上げてしまった。なんと蟹缶だ。これは良く知られている通り、マヨネーズを付けて食べるととても美味しい。軍の人がぼやくスペランカーをおもしろがって、わざわざ高いのを買ってきてくれたのである。せいぜい鯖缶か鮭缶かと思っていたから、これは驚き。
開いた扉の、奥を伺う。
辺りは棚田のような地形だった。闇の底へどこまでも下る其処には、無数の水たまりがあり、澄んだ水の中には真っ白な魚が住んでいる。海老や蟹、他の何だかよく分からない生き物の姿も見えた。
上に蝙蝠がいないので、フンが落ちてくる恐れもない。嬉々として棚田の一角に腰掛け、蟹缶をいそいそと開けるスペランカー。頬ずりまでしてしまった。
これから挑まなければならない地獄の手前での食事。結構楽しい。ただ、何だかんだで辺りを飛び回っている蝙蝠にフンを落とされるのは嫌だから、急いで口に掻き込んだ。折角美味しいのに、急いで食べなければならないのがくやしい。蟹缶は久しぶりだ。汁まで美味しく頂く。ぶきっちょなので、つけるマヨネーズの加減が何度やっても出来ないのが腹立たしい。ちなみにスペランカーは、カロリーハーフは使わない派である。どうしても味が落ちるからだ。
蟹缶を食べ終えると、中に入っている包み紙ごとしっかりリュックにしまう。洞窟をこれ以上汚してはいけない。ただでさえ、もはや人ならぬ者が勝手に住み着いた挙げ句、好き勝手をしているのだ。スペランカーも、ダイナマイトで岩を吹き飛ばしたりして、元の住人達を苦しめている。必要とはいえ、それは事実。それならば、出来る範囲内で、出来ることをするのが筋だった。
満腹満足したところで、再び洞窟に潜り始める。
視線が感じなくなったことが、却って痛い。やり方を変えてきたと言うことで、これからはより狡猾な妨害をしてくることだろう。対応が難しくなった。
ひときわ大きな棚田の前に出る。中央部分がババロア皿のように盛り上がっており、その周囲に硫黄がこびりついている。この棚田だけ、何も動物が住んでおらず、しかも周囲に小さな流れが幾つも出来ていた。
いやな予感がびりびりするが、この棚田は丁度コの字型に湾曲しており、越えないと奥へは進めない。面倒な作りだ。
上を見ると、鍾乳石もこの辺りは見あたらない。慎重に周囲を見回してから、棚田の縁に沿って歩く。縁から先は底も見えないクレバスになっており、落ちたら凄くいたそうである。そうやって出来る限り歩いた後、覚悟を決めて、浅いところを見繕って踏み込む。恐ろしく冷たい水が、靴から入り込んできた。すぐに膝まで水に浸かってしまう。幸い底はしっかりしていて、踏んでもそれ以上沈み込むことはなかった。
一歩、二歩。
三歩目で、周囲の空気が変わる。
一匹の蝙蝠がきいきいと鳴き始める。同時に、それが周囲に波及した。聞けばすぐに分かる。どう考えても警戒音だ。興奮して飛び回る蝙蝠達の羽音が、此処で何かが起こるのだと知らせてくれる。
そして、それが起こった。
「うあ!? ちょっとっ!」
左足の足首を、何かに掴まれたのだ。どう考えても、相手の力の方が強い。クレバスの縁にいた時は、落ちることだけを警戒していたから、気をつけていた。だが、こんなのはどうやって防げばいいと言うのか。
もがいても無駄だ。踏みつけても、手応えがない。やはり、もはや人ならぬ存在らしい。地鳴りが聞こえてきた。暴れるが、無駄だ。リュックを降ろして、慌てて切り札を取り出そうと思い当たった時には、もう遅かった。
嫌な臭い。
どうやら、硫化水素ガスらしい。そう思った時には、ライトに映る視界が真っ黄色に染まる。ババロア皿の地形は、どうやらガスの噴出口があったためか。しかも、それはガスどころではすまなかった。
大量の硫黄を含むらしい液体が、棚田の中央から噴き出してくる。咳き込むが、周囲の空気が一気に有害物質に汚染されていくのが分かった。くらっと来た時には、もう立て直せない。
足首を掴む感覚が無くなった時。
スペランカーは前のめりに倒れ。命を無くして、大の字に浮かんでいた。
指先が動く。
ついで、肺が。
最後に、心臓が。
浮かんでいたスペランカーが、水の中で息を吐いた。がばっと顔を上げる。咳き込んで、肺の中に入り込んでいた水を吐き出す。目を擦って、周囲の状況を把握。浮かんでいた、ヘルメットを掴む。頭を振って、栗色の髪に着いていた硫黄混じりの水を飛ばす。
「うあー、げほっ! ごほっ!」
四つんばいになって、しばし咳き込む。涙を拭っている内に、どうしてこんな事になったかを思い出す。
いつものことだ。
体が無事であるだけ、まだマシだとも言える。
あの時に。五歳になった時に。受けた神の呪いによって、スペランカーはこういう難儀な体質になってしまった。一般人と同じか、それ以下の能力しかないのに、このような魔境に挑む仕事をしている所以だ。
死なないのである。
この体質を良いことに、地雷原に踏み込まされたり、巨大な異形生物が徘徊する海域に潜らされたり、色々なことをさせられた。ありとあらゆる死に方の経験をした。地雷で足を失って失血死したり、巨大な海棲生物に体を食いちぎられたり。丸呑みにされたこともあった。
それらから復活したことから、あだ名がスペランカー。
ぐしょぐしょになってしまった服を、乾かしに戻るべきか。いや、此処は進むべきだろう。足を引っ張って、スペランカーを殺してくれた人ならぬ者に、対策を立てる時間を与えたくない。二度も明確に見せた以上、向こうも気付いたはずだ。対抗手段は、一応存在はしている。
もっとも、それに気付くとは思えないが。
棚田から上がって、ようやく水のないところに出た。靴の中に溜まった水の感触が、気持ち悪い。
振り返ると、再びババロア皿の真ん中から、ガスが噴出していた。口と鼻を押さえ、さっさと先へ進む。
うねり、くねり、下がる坂。再び、鍾乳石が目立ち始めていた。何度か頭をぶつけそうになり、慌てて屈む。ふと気付くと、真っ白な蛇と至近から鉢合わせしていた。スペランカーの腿ほどもある、ぶっとい蛇だ。多分体長も四メートルを超えているだろう。舌をちろちろと出している蛇は、引きつった笑顔を浮かべるスペランカーから顔を背けて、這ってどこかへ消えてしまった。
多分彼は、蝙蝠を餌にしているのだろう。この洞窟は、見かけよりも遙かに生態系が豊富だ。足下をサソリがかさかさと這っていく。屈んで鍾乳石を避けていたが、それも無理になってきた。腹ばいになって、進む。濡れた下着と服が、とても気持ち悪い。
リュックがつかえるようになったので、背中から降ろして、引っ張りながら匍匐前進。まだまだ、先は長いのだろうか。
不意に、空気が冷える。
鍾乳石が消えた。立ち上がるスペースが出来たので、泥だらけになった肘を擦りながら、ゆっくり立ち上がる。ヘルメットに鍾乳石がぶつからないことを確認してから、ゆっくりライトを先に向ける。
思わず、息を飲み込んだのは、見てしまったからだ。
「ひどい……!」
わなわなと、体が震える。其処には、確かな証拠があった。黄金があるかは分からない。だがともかく、かって此処で何かが起こったという、確固たる証拠が。
多分、さっき足を引っ張った奴の仕業ではないだろう。それにしては、少し遺体が古いような気がする。
そう。
其処にあったのは。
見渡す限りを埋め尽くす、白骨の野。
かって此処で何が行われたのかを明確に示す、地獄の光景であった。
ついに、眠りの地に辿り着かれてしまった。
彼は苛立ちと共に、侵入者を見守る。扉が開けられてしまった今、大勢を連れてこられると、少しばかり面倒だ。中には、自分への対抗能力を持っている奴がいるかも知れないからだ。
いや、それだけではない。奴には不思議な危険を感じる。何故かあの毒ガスを浴びせてやっても生きていた。落とした時は、確かに串刺しになったのに生きていた。そればかりか、傷一つ無い。
確かに、生きた人間であることは、触って確認した。貧弱で、筋肉も少ない、細い足だった。荒事の経験はあるようだが、あの身体能力でどうやって生き残ってこられたのかが、不思議でならない。戦場に出たら、真っ先に殺されるような奴である。それなのに。今、此処までの侵入を許してしまっている。
今度は、もっと徹底的に。
なりふり構わず、殺すべきか。
迷いが渦巻く。
この下には、王家の墓がある。其処は彼が絶対に守らなければならない場所だ。おびただしい数の同胞達が散った。その無念を晴らすためにも、人間を近付かせてはならない。あの財宝には。
あれは自分の、いや同胞達皆のものだと、彼は思った。だからこそに、地獄の底から怒りの炎が沸き上がってくる。侵入者を生かしておく訳にはいかない。此処まで土足で踏み込んだことを、かならずあの世で後悔させてやる。
死者の野に、奴が踏み込んだ。彼は滑るようにして動き始め。そして、不意に止まった。
奴が、同胞の死骸を踏まないようにして、脇にどけている。どけながら、謝っている。後で埋葬するからとか、供養するとか、言っている。
信じられるものか。
此処に連れてこられた時だって、王家の連中は都合が良いことを言っていた。家族は養ってやるとか、給金は高いとか。結果はどうだ。皆殺しだったではないか。口封じのために、王家の連中はどんな汚いことだってやった。奴は気付いただろうか。扉の裏に、引っ掻いたような跡が無数についていたことを。
不意に、理解する。あれは、此方の動揺を誘うための演技に違いない。二回、確かに殺してやったのだ。それに懲りて、此方の出方を見ようとしているのだろう。良いだろう。それならば、三回でも、四回でも、百回でもコロシテヤル。
再び動き出す彼の目には。再び炎が燃えさかり始めていた。次はもっと確実に殺す。そのためには、恐ろしい罠を動かす必要がある。まだ生きているその罠は、彼にとっても思い入れが深い。
何しろ。暗い情熱を、それに注ぎ続けたのだから。
骨を何度もどけながら、スペランカーはやっと白骨の野を渡りきった。其処は再び崖になっていて、曲がりくねった坂が続いている。ライトが届かないほどに向こうは遠く、白々しく天井から伸びた何かの蔦が、おいでおいでと誘っているようだった。もちろん下手に掴まれば、すぐに切れて落ちてしまうだろう。スペランカーの腕力と脚力では、とても原始人ごっこなど出来はしない。出来たとしても、三回に一回くらいは落ちるだろう。確実性に欠けすぎるので、選択肢には入れられない。他の異能者なら当然選択肢に入っているであろう行動が、スペランカーには存在しないのだ。
天井近くに、瞬きが見えた。ヒカリゴケかと思ったが、違う。
恐らくは、グロウワームという奴だ。通称土蛍。見るのは初めてだが、確かに美しい生物だ。だが、あの美しさは、食欲と、殺意によって支えられている。ああやって光によって獲物をおびき寄せ、粘性の強い糸で捕らえ、貪り食うのだ。光っているのは幼虫だが、恐ろしいことに成虫も餌食になるのだという。閉鎖空間特有の、貪欲で恐ろしい偽の星。それがグロウワームという生き物だ。
象徴的だなと、思う。
かって滅んだ、この土地にあった王国にとっても。金はあれに似た存在だったのではないのだろうか。
もちろん、グロウワームは独自の生態を造ることによって、一生懸命生きている生物であり、邪心とも悪意とも無縁の存在である。しかしこの洞窟を、閉塞した小国と置き換えると、その形状は悪意に支えられた黄金伝説にも似てくるのではないか。それに、現在のこの国も、独裁政権が行き詰まりを向かえようとしている。噂によると、あの男が、攻略を依頼されているという。
次々に他の生物を引き寄せ、喰らってしまう偽の星。スペランカーも、何度も粘液に捕まってしまった一人という訳だ。
坂を下り終えると、少し広いところに出た。此処が遺跡なのだと、よく分かる光景が広がる。
床から大量に生えている石筍の中央に、見覚えのある姿がある。
ここに来る前に、見せられたもの。かって此処にあった王国で、崇められていた神の象と。
それに、ピラミッドだった。
別に、ピラミッドというか、古墳型の遺跡は珍しくもない。洋の東西を問わずに存在し、材質も土から石まで様々だ。E文明の巨石によるものが有名だが、それほどの規模ではなくても、南A大陸にも大型のものが存在している。ただし此方は、侵略者によって徹底的に破壊されてしまったが。
ピラミッドの高さは、十メートルほどだろうか。周囲には白骨が点々としていて、実に痛々しい光景である。作りはそれほどしっかりしたものではなく、表面はかなりいい加減で、積んでいる石の材質も不揃いである。ひょっとすると、この洞窟で調達した石も混じっているかも知れない。
水滴の音がひっきりなしに響く。石筍があると言うことは、この辺りには水滴が落ちてきていると言うことだ。何千年も掛けて造られる石筍は、天井から落ちてきた水滴などの水が、ゆっくりじっくり岩を削った結果である。足下には、小さな川が幾つかあった。何処へ流れ込んでいるかは分からないが、こう言うのがたくさん集まって、巨大な地下水脈を形成しているのだろう。
神像に近付いてみる。両手を高々と持ち上げたそれは、大きな口を開いていた。もちろん口の中には、大きくデフォルメされた犬歯がある。
この守護神は事前に聞かされた説明によると獅子を模しているという。首都にある、大きなものも実際に見せられた。だが、破邪の性質や猛々しさより、むしろまがまがしさが目立つのは、この洞窟の環境が原因だろうか。両手には松明と剣を掲げている。松明は夜闇を照らす光を、剣は敵を切り裂く力を意味するという。
首からぶら下げているネックレスには、髑髏。この髑髏はほんものだ。白骨には髪の毛までついていて、神像を造った後、気の毒な犠牲の首をちょん切って、はめ込んだことが予想される。酷い話だ。ただ、古代では生け贄は珍しくなかった。近代国家でも、つい数十年前までは、生け贄の習慣が辺境にて生き残っていたと言うではないか。
神像の背中には、小さな翼があった。ただし、やはり作りは全体的に拙い。殆どの造作は模様として刻まれており、多分素材もこの洞窟で調達したものだ。そして、ピラミッド。石段になっていたので、登ってみる。一段一段はとても狭いので、少し注意が必要だった。その上苔がびっしりである。小さなよく分からない虫も、たくさん表面を彷徨いていて、踏まないようにするのが大変だった。
こういうピラミッドや、それに類する墳墓には、表面に土が盛られていたり、緻密な模様が刻まれている事が多いと聞く。しかしこれは、多分盛り上がった大きな石筍の回りに、適当な石を積んだだけのものだ。多分これはフェイクだなと、スペランカーは思った。というか、誰でも思うだろう。
こんな分かり易いところに、黄金をほったらかしておく訳がない。多少ピラミッドでデコレーションしたとはいえ、隠し通せるものではない。
一番上まで登った。何も無し。ゆっくり回りを見回した、その時であった。
ばきりと、嫌な音。
スペランカーの頭部を、巨大な鍾乳石が、直撃していた。
ヘルメットを簡単に砕いた鍾乳石が、致命傷を与えたのを、彼は見た。バランスを崩した奴が、ピラミッドから落ちる。転がり落ちて、何度も体を強打。一番下に落ちた時には、腕も首も、あらぬ方向に曲がっており、其処へ更に石筍が落ちた。肉と骨が砕ける音がした。潰れた肉の間から、大量の血が流れ出ている。
これなら、今度こそ。
信じられないほど長い時をかけて。己の物理干渉能力をフル活用して、作り上げた罠がこれだった。
ピラミッドに宝がないことは分かっていても、触らずにはいられないのが人の性だ。だから、その上にある鍾乳石を、少し触るだけで壊れやすいように削っておいたのだ。首が折れ、頭が砕け、更に鍾乳石の下敷きになった。これなら、生きている訳がない。快哉の声を挙げた彼は、続いて勝利の雄叫びを上げた。
侵入者は死んだ。後は、奴が持っている鍵を奪って。扉を閉め直せばいい。そうすれば、再びこの闇の王国に、人間はいなくなる。静かで優しい時がやってくるのだ。しかも奴は死んだだけではなく、死骸が動かせないほど酷い状態になって、ピラミッドの脇に転がって、石の下敷きになっている。仮に生き返るとしても、これならば。どうにもならないはずだ。
近付く。さて、鍵だ。
近付いてみて分かったのだが、どうやら此奴は女らしい。細い体をしていたし、殆ど胸も腰も平坦だったので、少年だと思っていたのだが。まあ、どうでも良いことだ。肉体を失った時に、欲も殆ど消えて無くなった。今では、暗い情熱だけが、彼の存在を支えていた。
死体のポケットに、手を突っ込む。鍵は確か此処に入れていたはずだ。ふと、奴が動いた気がした。
それは、気のせいではなかった。
いつのまにか。目があっていたのだ。大量の血で、ケチャップをぶちまけたようになっていた上、首があらぬ方に曲がっていたはずなのに。奴はいつのまにか、綺麗な姿に戻っていた。
腕を掴まれる。
初めての経験だ。まさか、生きた人間に、物理的な接触を受けるとは。
「ちょっと、ひどいよ。 いたいじゃない」
抗議の声が聞こえた。今まで、忘れていた感情がよみがえる。それは、恐怖。悲鳴を上げながら、彼は床に潜り込み、姿を消した。なんだ、なんだあれは。本当に生き返った。異能の者は今までも見たことがあったが、こんなばかな。これではまるで。いや、こんなことでは。死んだ同胞が、あまりにも哀れではないか。
どうしたらいい。どうしたら、奴を撃退できる。
地下水脈にでも落とすか。しかし、這い上がってきそうだ。潰したのに、あんな短時間で元に戻ったのだ。水死させたところで、すぐによみがえるだろう。ならば殺して殺して、殺し尽くすべきか。
しかし、あの復活速度からすると。それに、腕を掴まれた所からいって。対抗手段を持ち合わせている可能性も高い。
恐怖を鎮めようと努力するが、なかなか出来ない。
それどころか、更にそれが高まる。奴が起き上がるのが見えたのだ。潰してやったのに、石の下敷きにしたのに。あれは普通の人間が動かせる重さではない。重機を持ち出して、初めて動かせるサイズなのだ。
奴の華奢な力で、どうやって。
幸いなのは、リュックが潰れている事くらいだ。だが、服は無事だし、平然と立ち上がっている。潰れてしまったヘルメットを捨てる奴は、栗色の髪をしていた。それにも、血はついていない。ただ、ヘルメットには血がべっとりと貼り付いていた。
「どこ? 近くに居るんでしょ?」
別に声に揶揄や威圧感はない。それなのに、もう失ってしまった心臓が跳ね上がるような恐怖を、彼は感じていた。ゆっくり迫ってくる、恐怖。そうだ、これは。自分が死んだ時の記憶。
雄叫びを上げる。恐怖のまま、必死に奴から離れる。
だが、奴の声は、何処まででも追ってくるような気がした。
※用語解説:フィールド
本作シリーズにおける一種の異界です。
軍隊なども入ると生還が容易では無い危険な場所で、物理法則などが狂っていたり、常識外の危険な生物、場合によっては邪神などが存在しています。
クトゥルフ神話系の神々に住民の強力な精神力を面白がられてこの世界は気に入られており、逆にそう言った神々が倒されてしまう事もある程です。
軍隊でも生還が困難な、物理法則すら異なる土地。
そこを滅ぼし、生還する。それがフィールド探索者と呼ばれる存在達なのです。
フィールド探索者はフリーランスもいますが、双璧はN社(マリオ……ゲフンゲフン、Mさん達が所属しています)とC社(強さと優しさを兼ね備えたロボットや魔界を踏破する騎士のいる、最近だとバイオなハザードで有名な)で、この二社は場合によっては国家レベルの影響力を持ちます。