オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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このゲームのボスは基本的に強いのですが、特に敵空母ダイコンの強力さは語りぐさになっています。

遊んだことがある人は、それを思いだしていただけると嬉しいです。


4、迫る巨大要塞

αウィングを、βウィングから切り離したのは。見たからだ。敵の軍勢から必死に逃げる、γウィングの姿を。

 

動いていると言うことは、武田の体そのものは無事と言うことだろう。最早間に合わないと判断し、γウィングを放出後、すぐに地下深く潜行したのか。だが、それもそう長くは保たないだろう。

 

γウィングは、後方にエネルギー砲を乱射しながら、左右に機動して、必死に敵の追撃をかわしている。

 

すれ違うように、一はその隣を駆け抜けた。

 

「おああああああっ! どけええっ!」

 

機体から煙を上げるγウィングを、βウィングが受け容れて、合体シークエンスに入っている。敵機は突如現れたαウィングに、一瞬だけ躊躇する。

 

それが、命取りになった。

 

地面に沈み込むように、それから不意に浮き上がりつつ、敵の編隊にエネルギー砲を叩き込む。頭の血管が切れそうな速度で、思考が回っていた。もはや一機も逃がさない。敵陣を貫き、その全てを爆散させる。

 

多数の破片を浴びたような気がする。しかし、破片よりも、飛ぶ方が早い。

 

「一ちゃん!」

 

「これから、敵の中型母艦を潰す! 撃ち漏らしを後ろから叩いて!」

 

返事は聞かない。

 

というよりも、もう聞こえない。

 

見えた。敵の中型母艦。一機が地面を掘り返していて、他の何機かがその周辺で護衛をしている。だが、護衛機の姿が見えない。周囲には、人類側の地上兵器の残骸らしいものが、点々と散らばっているのに、だ。

 

一瞬で、血が上っていた頭が、引き戻される。

 

「クライネちゃん! 周囲に何かいない!?」

 

「上空に三編隊! 速度特化型の敵機ばかりです!」

 

「伏兵か」

 

敵中型要塞五機が、猛烈な対空砲火を浴びせてくる。突進。先頭の一機の、艦載機発射口に、砲を叩き込む。一発目、二発目。いずれも左右に僅かずつ外れた。だが、三発目が、敵のシャッターを食い破り、内部で炸裂した。

 

ヒトデに似た機体の前後から煙を上げながら傾く敵機を尻目に、急上昇にはいる。今のは致命傷ではないが、無視。左、右、右、左、右。飛んでくる弾が曳光し、翼の至近を、次々掠めた。それも尋常な数ではない。最大加速して、振り切りながら、叫ぶ。

 

「遠距離砲撃! 今私が傷つけた奴、仕留められる?」

 

「でも、対空迎撃が疎かになっちゃうよ! 上空に三編隊、いるんでしょ!?」

 

雑音が混じるのは、敵にも電子戦機がいるということなのか。或いは中型母艦辺りからのジャミングかも知れない。

 

「そっちは私が何とかする!」

 

「支援できないけど、大丈夫!?」

 

「やってみせる!」

 

雲を抜けた。同じく雲を貫いて追いすがってくる対空砲火が、エンジンを掠め、小さな爆発が起こるが、強引に機首を立て直す。翼を掠める。集弾が激しくなってきている。生き残っているエンジンに点火、煙を噴きながらも加速。見える。今、急降下爆撃に移ろうとしている、敵編隊が。

 

雲を突き抜け、下から襲いかかってくる砲撃を右に左にかわしながら、連射。真横から奇襲を受けた敵編隊が、次々爆散した。吹き飛ぶ敵機をくぐり抜け、一旦抜けた。敵中型母艦からの砲撃が、一瞬だけ止む。

 

敵機が旋回し、此方に向かってくる。雨のような砲撃。翼を掠める。また、煙が上がり始めた。爪を剥がされるように、次々吹き飛ぶ装甲。全身に痛みがあるのは、気のせいではないだろう。

 

敵の指揮官機らしいのが、ミサイルを無数に放ってきた。小型のミサイルが煙を引きながら、空を埋め尽くす程の物量で迫る。横にひねりこんで、雲の中に。そのまま追撃してきた敵が、唖然としたのが分かった。一瞬だけ強引に雲の中で減速すると、そのまま旋回したからである。人間が乗っていてはとても出来ない機動。狙いはミサイル。片っ端からたたき落とす。

 

バーストの中に、敵編隊が突っ込む。爆発する何機か。必死に減速したり、避けたりする敵機が、何処か哀れだった。

 

右往左往する敵機を、雲を抜けて直上した一は、見下ろしていた。

 

落下しながら、たたき落とす。三発の直撃を受けた指揮官機が吹き飛び、粉々に消し飛ぶ。

 

破片の中を抜ける。

 

同時に、下で巨大な爆発。傷ついていた中型母艦が、有馬と武田の遠距離砲撃で吹き飛んだのだ。

 

雲を突き抜けて、無事だったβウィングとγウィングを確認。

 

「お待たせ!」

 

「総攻撃?」

 

「うん! 三機で、まず中央のから! 爆発を盾にして、集中砲火を浴びせて!」

 

傷ついてはいるが、敵の打撃の方がより大きい。それに。今確信できたこともある。

 

敵は、この最新型ウィングギャリバーの事を知っている。

 

ならば、此方に可能な限り戦力を引きつければ。それだけ、周囲も有利になるはずだ。

 

応急処置を済ませたγウィングが、βウィングと分離する。同時に、武田と精神的にリンク。敵の位置が、立体的に頭の中に入ってくる。今までもレーダーでそれをやっていたのだが、更にその距離と精度が拡大された感触だ。

 

これなら、勝てる。三角形のフォーメーションを組む。先頭にαウィング、左右後方に残りの二機が着いた。

 

「基地の直上にいる奴を潰した後、敵を引きつけながら後退! もしも逃げるようなら、そのまま無視してΔウィングに向かうよ!」

 

混乱する敵集団の中央に、猛烈な砲火を浴びせかける。三機が一体となり、その全ての火砲を解放して、ありったけの打撃を光の矢として撃ち込む。

 

対空迎撃砲火もあるが、武田とのリンクが、それを今までにない速さで伝えてくれる。傷ついたαウィングでも、対処が難しくない。

 

ほとんど時間をおかず、爆発が再び巻き起こった。

 

続けて、連鎖爆発。一機が巻き込まれたらしい。歪な茸雲と、強い熱を帯びた風が、αウィングの傷ついた機体をなで回す。

 

生き残った敵中型母艦二機が、離れ始めるのが分かった。どっと疲れる。呼吸が、不意に乱れてきた。

 

「一ちゃん、βウィングと合体して。 少し休んで」

 

「そうです。 要撃もの凄かったですけど、いくら何でも無理しすぎです!」

 

「わ、分かった。 ごめん、少し休む」

 

一気に、揺り戻しが来た。

 

敵の気配はない。βウィングと合体したαウィングが、マイクロロボットによって修繕されているのが分かる。体中を蟹がはい回っているような感触だ。

 

気持ち悪いが、何処か気持ちよかった。正常な感覚まで麻痺しつつあるのか。吐き気。だが、急にクリアになる。精神が、明らかに均衡を欠いている。

 

「う、うえっ! げぼっ!」

 

「風桐、聞こえるか」

 

「はい」

 

補助要員の自衛官が、心配げな声を掛けてくる。多分涎まみれなのだろうが、体の感覚がないからどうにも出来ない。

 

返事は、自分でも驚くほどに、弱々しかった。ひょっとすると、αウィングのダメージが、もろに体にフィードバックしているのかも知れない。

 

「どうやら、Δウィングの基地の方にも、敵が攻勢を仕掛けているらしい。 やはり、敵は重要拠点を察知していると見た方が良さそうだ」

 

「裏切り者がいると言うこと、ですか?」

 

「分からない。 或いは作戦中に捕らえられた士官などが、敵の拷問や洗脳で口を割ったのかも知れない」

 

「……分かりました。 急ぎます。 何かあったら、連絡をお願いいたします」

 

三機が合体。γウィングは、βウィングの下に入るようにして合体する。可動式の砲台の精度は高く、電子戦機である機体の特性もあって、何よりも柔道で鍛えている武田の一瞬の隙を精確に見きる技の冴えもあって、百発百中で近寄る敵をたたき落とす。

 

ただし、γウィングの詰め込んでいるエネルギーは、決して多くはなかったようだ。有馬が、口をつぐんだので、それが分かった。

 

「周囲に、敵影はありません」

 

「操縦は私が引き継ぐよ。 一ちゃん、しばらく休んでて。 大物が出たら呼ぶから」

 

「うん」

 

最悪の、更にその上を行く状況だと、わざわざ言わなくても確実であった。

 

だが、負ければ全て終わりなのだ。

 

有馬の操縦は的確で、非常に安定感がある。その代わり、数字上で勝てない相手にはまず勝てない部分もある。生き残ることを最重視しなければならないβウィングのパイロットとしては正しいが、全機の指揮を執るのは少し難しい。

 

ぼんやりと、周囲を見つめる。

 

敵影はない。

 

明らかに敵は作戦行動を取っている。訓練では無人機と言っていたが、指揮官機にはマンドラー配下の宇宙人が乗っているのかも知れない。作戦を練って、一気に潰しにかかるつもりなのかも知れなかった。

 

それにしても、マンドラーとは何者なのだろう。

 

戦っていて思うが、特に卑怯とか、邪悪とか、そういうものは感じない。勝つための手を、必要に応じて打っているようにしか思えない。

 

今まで中型母艦を六機も潰した。艦載機に到っては、多分二百以上は落としただろう。

 

その中にも、宇宙人や、マンドラーの配下が乗っていたのだろうか。

 

そう思うと、やはり疲れは、体中を蝕むのだった。

 

 

 

いつの間にか眠っていたらしい。気がつくと、三機合体したまま、ゆっくりと高度を上げている所だった。雲が途切れたので、敵を避けるために機動しているらしい。機体が少し凍り付いている。雪が降っているのが分かった。

 

雨は最初、雪として降り出す。地上に降り立つ頃には溶けて雨になるのであって、雲を離れる頃は雪なのだ。しかも、かなり粒が大きな。

 

かつんかつんと、雪の粒が翼に当たっているのが分かる。ジョイント部分は大丈夫だろうか。少し不安になった。

 

「一ちゃん、起きちゃった?」

 

「うん。 今、修復はどれくらい?」

 

夢は、見ていない。それぐらい、疲れが酷かったと言うことだ。

 

だからこそに、頭もすぐに、戦闘状態に切り替えることが出来た。訓練でも何度かやったが、実戦でも一発で出来たので、少し嬉しい。

 

「αウィングは最優先で済ませたよ。 もう完全に行ける。 さっきから散発的に敵との交戦があるから、βウィングとγウィングで対応していたんだ。 で、βウィングが少し被弾したから、それを修理中」

 

「敵の防衛線は、この少し北です。 今のところ接敵する様子はないので、もう少し休んでいただいても大丈夫ですよ」

 

「いや、もう起きちゃったし」

 

目を擦ろうとするも、出来なかった。体とは完全に切り離されて、意識だけがαウィングに載っているのかも知れなかった。

 

Δウィングがいるのは、そろそろの筈だ。敵の攻撃を受けていると聞いて不安だったのだが、武田の探査範囲に、そう多くの敵は入っていないようだ。もちろん移動距離からしても、一が寝ている間、航行速度を落としていた形跡はない。

 

そろそろ、北米にはいる。

 

大西洋から出発し、一度南米に上陸してから、進んでいる。そろそろΔウィングの格納されている基地に着く頃だ。

 

そう思った瞬間に、待っていた通信が入る。

 

「此方土方」

 

「あ、土方さん」

 

「そろそろつつがなく出撃が出来る」

 

通信が、それで切れた。

 

口をつぐんだのは、それが事前に決めたとおりの暗号だったからだ。

 

「行ける?」

 

「うん」

 

「大丈夫です」

 

短く言葉を交わし合うと、αウィングを分離する。確かに修理が終わっているという言葉通り、非常に快調な動きだった。

 

そのまま雲の中で加速して、直上に出る。

 

一面の雲海。少なくとも、視界の中に敵はいない。今度は雲に潜り、下に出る。

 

一面の砂漠。遙か先まで砂漠で、海岸線の向こうに広がる海ばかりが青く美しかった。

 

そして、高度を下げようとした瞬間。

 

横殴りに、極太の荷電粒子砲が叩きつけられていた。

 

事前に分かっていたから、一気に加速しつつ翼を立てて、ひねりこみながらかわす。二発、三発、空気を蒸発させ、空間を抉るようにして、続けざまに大出力の攻撃が飛んでくる。

 

見れば、周辺の人類側戦力は、既に存在しない。

 

なるほど、敵がいなくても平気な訳であった。

 

そして、岩山の影から、ぐっと体を持ち上げるようにして、浮き上がり始める巨大な影が一つ。

 

「敵、大型母艦発見。 ジャミングの可能性高いから、気をつけて!」

 

中型母艦とは、根本的に大きさが違う。左右は三倍、高さは二倍半。長さに到っては四倍以上はありそうだ。

 

しかも主砲として、速射式の荷電粒子砲を備えている。旧ウィングギャリバーの天敵だと聞いてはいたが、確かに見るからに手強い。そして、雲霞のような艦載機が、奴から発進し始めるのが見えた。

 

恐らく、あの狙撃を警戒して、土方は発進できなかった。

 

しかもそれを餌にして、奴は潜んでいたのだ。

 

確実に作戦行動を取っている。

 

しかし、今は此処で、一が頑張らなければならない。少なくとも、奴と、艦載機の気を引いて、土方の発進する隙を作らなければならなかった。

 

また、荷電粒子砲が飛んでくる。空気をプラズマ化しながら迫り来る、死の光。もちろん、避けていると言うよりも、撃たれる瞬間を見きって、位置をずらしているというのが正しい。

 

孤を描くようにして、迫り来る敵艦載機。上空から飛来するβウィング、γウィングの援護砲撃が、次々敵機を貫く。斜め上から飛来する弾幕に、敵の動きが一瞬鈍るその隙を突き、一は敵中に突貫した。

 

砲を乱射しながら、敵との距離を詰める。

 

艦載機の発射口は。素早く敵を見て考えながら、大型母艦に砲を乱射。何カ所かで装甲を突き破るが、致命傷にはとても到らない。中型とは桁違いの装甲だ。艦載機の性能も高い。連射してくるエネルギー砲が、次々翼を掠める。ミサイルが艦載機から無数に放たれる。煙の糸を引きながら迫るミサイル、およそ六十。不意に、高度を下げる。地面すれすれで機首を立て直し、上昇しつつ敵大型母艦に射撃。エンジンすれすれを、敵弾が次々掠め、地面を爆発の炎が舐め尽くす。ミサイルがそれにつっこみ、熱と光の中誘爆した。

 

敵機の内何編隊かが上空に向かう中、三十発を超えるエネルギー砲弾を浴びせた一も、急角度で空へ向かう。右、左左。虚空を抉る荷電粒子砲。敵大型母艦の射撃間隔は、大体分かり始めてきた。

 

援護砲撃をかいくぐり、雲の中に敵編隊が潜り込むのと同時に、一も雲に突っ込む。翼を掠める敵弾。

 

叫びながら、雲を抜けた。次々雲を抜けてくる敵機の鼻先に、容赦なく弾丸を叩き込む。吹き飛ぶ敵機が、間もなくいなくなった。

 

速度を落とし、雲に潜る。

 

βウィングとγウィングも、それに習う。

 

「堅いよ! 気をつけて!」

 

「艦載機は任せて! 数も減ってきたし、こっちで対応できる!」

 

「ただ、ミサイルには気をつけてください! さっきジャミングを試みましたが、上手く行きませんでした!」

 

「分かってる!」

 

雲を引きちぎるようにして、降下。αウィングが雲から顔を出すと、途端に艦載機が無数に弾丸を浴びせてくる。大型母艦の先頭が、光り始めた。さっき弾丸を浴びせた辺りだ。左右に艦載機の攻撃をいなしながら、二発、エネルギー砲を放つ。大型母艦の装甲を貫き、火を噴いた。だが、致命傷には遠い。光が、強くなる中、更に一は蛇行するようにして飛び艦載機の攻撃をかいくぐりながら、一点めがけて攻撃を集中した。

 

その時。

 

大型母艦の主砲を更に上回る光の矢が、空間を蹂躙していた。

 

一直線に飛来したそれが、一の穿った大型母艦の穴に突き刺さる。

 

そして、大型母艦を一直線に貫通した。

 

「今だ!」

 

「はいっ!」

 

土方の声。そして、ついに飛翔に成功したΔウィング。

 

βウィングとγウィングも雲を貫き、分離して姿を見せる。四機が一斉に火力の滝を浴びせかけ、艦載機と敵大型母艦を炎に包んだ。

 

無言で、全機が離れる。

 

ついに、核融合炉を撃ち抜かれた敵大型機が、爆発。生き残った敵艦載機も、それに巻き込まれ、消し飛んでいた。

 

猛烈な熱風に翻弄されながらも、必死に態勢を立て直す。

 

放射能も凄そうだ。遮断する仕組みは為されていると言うが、少しだけ不安になった。

 

「土方さん、助かりました」

 

「それは此方の台詞だ。 援護が遅れて済まなかった」

 

一旦上昇し、雲の上に出る。敵影は何処にもない。

 

四機で合体シークエンスを開始。ジョイントが次々に軋み、エネルギー補給と修復もかねて、一旦全機が一つになった。Δウィングは、βウィングの上になるようにして合体するのだが、機体そのものが戦車砲のような物々しさだ。これで、荷電粒子砲による殲滅火力が手に入った。後は最後のεウィングだが。この有様では、非常に不安だ。

 

「ののさんから通信は入りませんか」

 

「いや、戦況についても、何も情報は入らない。 急いだ方が良いだろうな」

 

「前方に敵機! 中型母艦七! 地上にも、迎撃戦力が展開している様子です!」

 

「やはり、そう簡単に通してはくれなさそうだな。 それにしても、思い切った数を繰り出してくるものだ」

 

土方が声を押し殺し、ぼやいた。

 

既に空の彼方には、雲霞のような敵艦載機が姿を見せ始めていた。分離して戦うか、或いは加速して逃げるか。合体形態のまま、血路を開くか。悩む中、土方が言う。

 

「風桐、お前に総合指揮は任せる」

 

「えっ!? 良いんですか!?」

 

「さっきの要撃を見て確信したが、お前が一番優れたパイロットだ。 状況判断も速いし、的確でもある。 私は一人で戦うのは得意だが、群れを率いるのはどうしても苦手でな」

 

そう言えばこの人、大会などで賞を総なめにしていると聞いているが、しかし剣道部では主将ではないとか。

 

本当に、一人で淡々と戦うのが好きなのだろう。

 

「分かりました! では、一番右の敵中型母艦に火力を集中し、撃破しつつ爆発を盾に強行突破します。 距離がある内に、可能な限り敵をたたきましょう。 主砲管制は土方さん、お願いします。 私は機体とその他の火器管制を。 情報伝達はクライネちゃん、よろしく。 伊佐実ちゃんは修繕を進めて!」

 

「任せろ」

 

荷電粒子砲が咆吼し、直線上にいる敵機をなぎ払う。その破壊力は凄まじく、直撃を避けた敵機もプラズマ化した空気に呷られ、次々と爆散した。突破口を開くために作られた機体だけはある。連鎖する爆発を見て、息を呑む。敵が露骨に距離を取り合い、直撃を避ける様子が見て取れた。

 

中型母艦は回避しようとしたが、上部に直撃。主砲が吹き飛んだのが、此処からも見えた。

 

「中型母艦の弱点は、機体下部にある艦載機発射口です!」

 

「よし、任せろ」

 

無数のミサイルが飛来。中型母艦と、艦載機群が一斉に放ってきたのだ。更に、雲を突き抜けて、地上部隊からの砲撃が襲いかかってくる。

 

だが、今は負ける気がしない。

 

クライネとの精神リンクで、飛来するミサイルは手に取るように読める。後は砲撃の直撃さえ避ければよい。それは要撃で散々積み重ねた。機体が大型化している事で多少機動力は落ちているが、今の一には問題ではなかった。

 

一時間後。

 

二機の中型母艦を落とし、更に三機を中破させた。

 

敵機の大軍を突破に成功したのだ。

 

悠々と、εウィングの格納されている基地へ向かう。とは言っても、既にこの辺りは敵の勢力圏だ。時々散発的な攻撃を受ける。それに、βウィングの翼六カ所と、γウィングの稼働砲台に損傷。流石に、無傷では無理だった。しかし、敵機の三割を空の塵に変えた。速力は六割に落ちている。細かい傷は、機体の広範囲を覆っていた。

 

すぐに修復に入る有馬なのだが、咳払いとともに、深刻な情報が伝達される。

 

「マイクロロボットは大丈夫なんだけど、物資が足りなくなるかも知れない」

 

「やっぱり厳しいか。 補給、どうにか出来ないのかな」

 

「既にεウィングの基地とは、電波傍受を警戒して通信を切っている。 向こうで余剰物資を積み込んできてくれていれば良いのだが」

 

会話に、支援要員が割り込んできた。

 

各機の構造は座学で頭に叩き込んでいる。εウィングはβウィングに次ぐサイズを誇るが故に、積載量も大きい。此方の状況を先読みして、物資を多めに詰め込んでくれていれば。或いは、活路が開けるかも知れない。

 

「後何回くらい戦闘できそう?」

 

「ええと、フルパワーで殴り合ったら三回って所。 εウィングの所と、後マンドラーとの戦闘を考えると、もう余剰はないよ」

 

「いざとなったら、私達だけを中に送り込め。 そうすれば、魔王だか何だか知らないが、必ずぶっ潰してやる」

 

「わ、分かりました」

 

今までずっと黙っていたMが、不意に会話に割り込んできた。

 

実際、もはやそれしか手はないのかも知れなかった。

 

「ところで、味方はどう戦いを進めているんですか」

 

「やっと彼方此方から情報が入ってきた。 君たちの予想通り、保有している物資と戦力を相当に多めに此方へ申告していたらしい。 君たちがかなりの数を引き受けているにも関わらず、かなり苦戦しているようだ」

 

「他のウィングギャリバーは?」

 

「難しい」

 

さもありなんと、一は思った。作戦開始前。当然のことだが、周囲の戦線が有利なようなら、旧ウィングギャリバーに支援を頼めるかも知れないと、教官は話していた。だが、この様子では。

 

むしろ、敵の集結と組織的な猛攻を許してしまっている状況である。状況は、推して知るべし、であった。

 

敵の戦力だけは、報告通りだと信じたい。

 

黙って聞いていた土方が言う。

 

「エネルギーだけなら、まだ保ちそうか」

 

「はい。 どうにか」

 

エネルギーというのも妙な話である。

 

ウィングギャリバーの動力は、反物質だ。正確には反陽子。陽子との対消滅によって生じる膨大なエネルギーが、砲の火力を産み、動力ともなる。

 

当然、それが生じさせる放射能が問題になる。この辺りは、やはり非人道的なやり口でクリアしているらしいのだが、一には仕組みが理解できなかった。

 

問題はエネルギーの材料ではなく、対消滅を引き起こすための装置の燃料だという。これが切れると、進むも攻撃もいずれもが成し得なくなってしまう。それだけは理解している。今、有馬が応えたのは、その燃料の残量の事だ。

 

「風桐、強行突破だけでは埒があかん。 敵の状況を先に知ることが出来れば、少しはましになると思うのだが」

 

ウィングギャリバーが、此方の世界の最強戦闘機F22ラプターに唯一劣っているのはステルス性能である。だから雲を多用して、敵の目を誤魔化してきたが。もちろん敵も、そろそろ対応能力を身につけ始めているだろう。

 

「偵察をする必要があると?」

 

「ああ。 しかし電子戦で相手の上を行かないと、偵察するだけで此方の存在を相手に知られかねないな。 しかし敵は大型の母艦を惜しみなく投入してきている。 その設備の上を行くのは、流石に難しいぞ」

 

「ならば、先を読んで行動するしかないのでは」

 

「そうだ。 恐らく敵は、既にεウィングの位置を掴んでいる。 ならば、それを逆用すれば」

 

どのみち、εウィングが揃わなければ、マンドラーを倒すことは夢のまた夢だ。

 

三つある切り札の、どれも現在は切ることは出来ない。うち一つはウィングギャリバーとは関係ない、フィールド探索者による内部攻撃だが、それも五機揃わなければ難しいだろう。多分、敵に近付くことさえ出来ないはずだから。

 

「分かりました。 もう少しで、εウィングのいる場所まで到達できます。 それまでに、考えておきましょう」

 

「風桐」

 

「はい?」

 

「頼もしいことだ。 背中は任せるぞ」

 

土方の言葉は嬉しかった。

 

訓練の時にも、土方の正面突破能力はとても頼もしかった。今、そう言ってもらえると、とても心強い。

 

ウィングギャリバーは、傷ついた翼を癒しながら、飛ぶ。

 

雲の中で、かつんかつんと、小さな音を立てて雪の欠片が翼を撫でる。電磁バリアの保持も、エネルギーを使う。だが、露骨に姿を見せるよりはマシだった。

 

 

 

「探知範囲に異常があります」

 

「やっぱり」

 

呟いた一は、雲の中で速度を落とす。

 

周囲に、視認できる範囲で敵影はない。だが、εウィング周辺の地上戦力は、既に蹂躙された後。

 

それは、罠だと言っているのも同じだった。

 

多分、εウィングはまだやられていない。もしも倒されていたら、全力で残存戦力を叩きに来るのは目に見えている。そうなると、敵は最初から堂々と、さっきの戦力など問題にならない数で波状攻撃を仕掛けてくるだろう。他の地球軍や、旧型ウィングギャリバーなど目もくれずに。

 

多分、その時には。数十万を超える敵機が、周囲に集結していたはずだ。

 

機先を、制する。今ならそれが出来る。

 

機首の向きを変える。そして、しばし、速度を落として潜行。雲から飛び出すと、岩山の影に隠れるようにして、地面すれすれを行く。ほどなく、切り立った山が見えてくる。その斜面に沿って、登るようにして高度を上げる。急降下からの急上昇。だが、まだ敵にアクションはない。

 

武田が、冷や汗を掻いているのが分かる。

 

誰もが緊張する瞬間だ。そのまま高度を上げ、雲の中に。ただの雲ではない。渦巻く、積乱雲の中だ。

 

いかづちと、大粒の雹、それに乱気流が、ウィングギャリバーを出迎える。荒っぽい操縦になるが、しかし。

 

マウンテンバイクで、雨粒が叩きつけられる峠を越えた時は。こんなものではなかった。そう思うと、龍のように暴れ回るいかづちをかいくぐりながら、笑みさえ一は浮かべていた。いや、浮かべようと、無意識で思っていたかも知れない。

 

積乱雲の頂点を、抜ける。

 

機体を傾け、そして太陽を背に。

 

下には。

 

敵の大型母艦二機と、更に艦載機百機以上が、εウィングの基地に向かう戦闘機を迎え撃とうと、手ぐすね引いて待ちかまえていた。

 

ただし、正面と、下を向いて、である。

 

奇襲しようと、上空で最大限に電波妨害しながら、待ち伏せしていたのだ。

 

「全火力、解放! 撃ち漏らさないで!」

 

「任せろ!」

 

翼をつぼめ、敵に襲いかかる猛禽そのものの動きで、ウィングギャリバーは加速する。マッハ4を越えた時には。天から降り注ぐ無数の火砲の洗礼を浴びた敵編隊が右往左往し、更に敵大型母艦の側面からは、情け容赦なく火が噴き始めていた。

 

しかし、流石に中型母艦とは装甲も火力も違う。敵陣を突き抜けて下降するウィングギャリバーに向けて、追撃が浴びせかけられる。荷電粒子砲も浴びているはずなのだが、致命傷には到らなかったか。また、次々艦載機も射出されている。武田が可動式砲台で狙い撃っているが、とても手が足りていない。

 

翼を、敵弾が撃ち抜いた。

 

煙を派手に上げながらも、姿勢は保つ。左右にぶれて致命傷は避けつつも、叫んだ。急激に反転をかけながら、それでも加速を更に続ける。

 

「荷電粒子砲を、より傷ついている右の大型母艦に!」

 

「無理だ!」

 

「無理でもやってください!」

 

奇襲は、成功したのだ。落とした艦載機は、数も知れない。εウィングは、既に発進シークエンスに入っているのが見える。此処で大型空母を落としておけば、敵は大きな打撃を受け、恐らくマンドラーのところで最終防衛線を構築しようとするはず。

 

大型母艦が、ヒステリックなまでに大量の弾幕で此方の足を止めようとしてくる。無数のエネルギー弾が曳光しながら、ウィングギャリバーの過去の軌跡を打ち抜き、未来の軌跡を撃ち抜こうと迫り来る。無茶な左右の孤を描いて回避行動を取るウィングギャリバーだが、翼を巨弾が幾つも掠め、装甲盤を抉られ、吹き飛ばされる。

 

βウィングの翼に開いた大穴には空気が流れ込み、著しく機動を邪魔している。

 

それでも、もう一度。

 

一は、敵大型母艦と、同じ高度を盛り返した。

 

雲を蹴散らし、加速。敵大型母艦も二機とも煙を上げており、特に手前はかなりダメージが酷い。ありったけの艦載機を出してきている。此処が勝負所だ。あと三回と、有馬は言った。

 

奇襲は成功したが。やはり、ダメージは減らせなかったのが、少し悔しい。

 

反復横跳びをするように、無茶な機動をしながら、敵大型母艦に迫る。荷電粒子砲が火を噴いた。数機の艦載機を貫き、千切れた真珠のネックレスのように爆発をまき散らしながら、敵大型母艦に突き刺さるが、しかし浅い。装甲に弾かれ、激しく敵を削りながらも、致命傷には届かない。

 

万事休すか。

 

そう思った時。

 

「加速しろ、風桐!」

 

土方の声。殆ど同時に、影のように忍び寄ってきていたεウィングが、βウィングの最後尾とドッキング。ジョイント部分が軋みをあげた。

 

有馬が、何も言わない。

 

多分、最良の予想は、満たしてくれなかったのだろう。

 

だが、それでも。一は最大限の加速をした。土方の狙いが分かったからだ。アクロバティックだが、多分εウィングのバリアがあれば、どうにかなるはず。

 

まっすぐ突っ込んでくるウィングギャリバーを見て、大型母艦が回避しようと、緩慢に起動する。かなり速いが、しかし。それでも、まっすぐ最大限に加速している此方の動きを、回避できるほどではない。

 

絶叫しながら、エネルギー砲を乱射。敵の装甲がささくれ立ち、吹き飛び、爆発が巻き起こり、姿勢が崩れる。二機目の大型母艦は、一機目の影になっており、此方に手出しが出来ない状態だ。

 

敵の艦載機が、ついに底を着く。

 

地道に叩き続けていた武田の苦労が実を結んだのだ。もちろん、一も目に着き次第撃ち落としていた。

 

一瞬の、戦場の空白。

 

それを縫うようにして、荷電粒子砲が撃ち放たれ。

 

狙いは正確無双に、敵の中心部を貫通した。そして、もう一機の大型母艦の腹も、打ち抜き、貫き通す。

 

開いた巨大な穴。

 

其処を、ウィングギャリバーが通り抜ける。二機、立て続けに。

 

「バリア全開」

 

淡々と、ののが呟く。

 

マッハコーンを更に上回る、巨大な電磁シールドが、後方に展開された。

 

二機同時に爆裂する敵。灼熱の烈風が、後ろから後押ししてくる。全開に展開されているバリアが、それを防ぐ。機体の揺動は最小限。後ろは赤一色、破壊と殺戮のみしかないのに。ウィングギャリバーのみが静かなのは、何処か滑稽だった。

 

「お疲れ様」

 

「見事なタイミングで合体してくれて有難う、沖田」

 

「加速のタイミングがもう少し遅かったら失敗していた。 見事な機動だった」

 

ののにそう言われると、一も少し照れる。

 

やがて、爆発が収まる。

 

もはや、マンドラーへの路を防ぐものは、何も存在しない。

 

後は敵が最終防衛線を構築する前に、一刻でも早くマンドラーの下へ、到着しなければならなかった。

 

「一ちゃん。 みんな、聞いて」

 

有馬の声。

 

ろくでもない報告だというのは、分かりきっていた。

 

「今の戦いで、残りのエネルギーは半分まで落ち込みました。 εウィングに積まれていた物資とエネルギーが予想よりも少なめだったこともあって、多分切り札を二枚とも切ったら、帰還するエネルギーはないかと思います」

 

「不時着するしかない、と言うことか」

 

「はい。 幸い一枚目の切り札を使うのであれば、墜落という事態は避けられるとは思うのですが」

 

「そんな消極的なことでは駄目だ。 山より大きな敵だぞ。 体捨必殺の構えで向かわなければ、近付くことさえ出来ないだろうよ」

 

正論だ。一も、土方の言葉が正しいと思う。

 

しかし、生きて帰ると決めたのも、事実だ。

 

不意に、通信が入る。基地に残っていた、補助要員の声だ。

 

「マンドラーを捕捉。 アメリカ大陸、此方の世界でニューヨークのあるマンハッタン島の上空に姿を確認」

 

「分かりました。 これから、叩きに向かいます」

 

「武運を祈っている。 死ぬんじゃないぞ」

 

無言で、有馬がウィングギャリバーの傷を修復に掛かる。

 

戦いが終われば、エネルギーは残らないだろう。墜落だけは、避けなければならない。

 

他の味方戦力は、どのような状況だろうか。不安は、尽きなかった。

 

敵の姿はない。

 

マンドラーの側で、此方を迎え撃つべく、集結しているのではないか。そう、一は思ったが。

 

しかし、今は、休むべきかも知れないとも思った。

 

「風桐。 操縦は私がやっとく」

 

「ののさん」

 

「敵がたくさん出てきたら起こす。 今は寝とけ」

 

ありがたい言葉に、甘えることにする。

 

ののはさっきの合体を見る間でもなく、影のような機動と操縦を得意としている。

 

静かに敵に近付くには、むしろ適任かも知れなかった。

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