オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
巨大な北アメリカの大地には、既に人の姿は無く。
一面に広がる廃墟と、人間の文明の痕跡のみ。
遠くでは、閃光がひらめいているのが、時々見える。此方でかなりの数を引き受けているのだ。人類側も、反撃をしているのだろう。そう信じたい所だ。中型母艦や大型母艦による迎撃もない。
だが、遠くの空には。
既に、雲霞のような敵が集結しているのが、見えていた。
そしてその中心。
此方の世界では、マンハッタン島と呼ばれる所の上空に。
浮かぶ山がごときその威容が、確かに存在していた。
「支援にこれそうな味方の部隊は、周囲にいないか」
「いません。 一機も。 敵はざっと4000」
土方の言葉に、武田が声を絞り出した。
そうだ。分かっていたことだ。
だが、数十万に達する敵に出迎えられることさえ、想像していたのだ。それに、何より。遠くを見る限り、大型母艦の姿はない。中型母艦が数機いるくらいである。
足回りが遅い大型母艦を、呼び戻す時間がなかったのだろう。
それが、唯一の救いだった。
遠くから見ると気付くのだが、どうもマンドラーの趣味らしいものが感じられる。マンドラー本人もそうなのだが、どうも四角錐を基本としているようなのだ。マンドラーは四角錐から六本の腕を生やし、威圧感の強い視線を周囲に送り込んでいる。中型母艦や大型母艦も、おおむね基本形は四角錐だ。攻防ともに有利とか、そう言う理由があるのだろうか。それともただの趣味なのか。
敵は広く方陣を敷いていて、どこから仕掛けても同じである。一旦高度を稼ぐが、上空にも同じように敵は広く布陣していた。腹をくくるしかない。
「全機、分離。 攻撃形態に入ってください」
結合部分を解除。自機のエンジンを噴かし、五機それぞれが動き出す。
それを見て取った敵も、やんわりと陣形を動かし始めた。
程なく、射程距離内に、敵陣が入る。
最初に発砲したのは、Δウィングだった。
灼熱の光の渦が、敵陣に向け空間を蹂躙する。撃ち放たれた荷電粒子砲が、爆発の連鎖を巻き起こした。
陣形を崩す敵に、五機が一気に斬り込む。
いち早く突進した一のαウィングが、猛烈な対空砲火をかいくぐりながら、まず目指すは至近の中型空母。敵は上空に向け火力を集中してきており、上から下から右から左から前から、それに後ろからも攻撃が間断なく飛んでくる。だが、他と分離し、機動力を最大限に高めたαウィングは。
いや、一そのものとなっている機体は。
縦横無尽に空を駆け、片っ端から敵機をたたき落としていく。
右左、背後、次々光の華が咲く。密集している敵に、荷電粒子砲が叩き込まれ、数十機を纏めて吹き飛ばす。迫る中型母艦。必死になって放ってくる対空砲火の密度は凄まじい。まるで、弾幕がそのまま壁になっているかのようだ。
それでも、避ける。
翼は、風そのものとなる。風は捕らえられない。
数発の敵弾が、翼を掠める。
だが、それより先に。
αウィングが放ったエネルギーが、敵中型母艦の、艦載機発射口に飛び込んでいた。
更にとどめとばかりに、Δウィングの荷電粒子砲が、敵中型母艦を刺し貫く。
「上空へ!」
爆発に押し上げられるようにして、上空に。全機がそれに着いてくる。βウィングに、何機かまとわりついている敵機。一旦戻り、それらをたたき落とすと、敵を引きつけながら、ただ高度を上げていく。真下から飛んでくる無数の砲撃も、やがて密度を落としていった。
「クラスター弾、投下!」
βウィングの下部格納庫が開き、十発の小型ミサイルが射出される。
此方の世界から持ち込まれたクラスター弾だ。それに、この世界の火器制御技術を組み合わせてある。
一瞬の後。
さながら花火のスターマインのような光景が、眼下に広がる。
分厚い敵陣に、確実に穴が開いた。もちろん其処は死地だが、それ以外より遙かにマシだ。
そして、今こそ。切り札を投入する時であった。
「全機、合体! Fモードにて突入開始します!」
「了解!」
全機、電磁バリアを出力最大に。それを指揮官機であるβウィングが、全力で増幅する。
空にとどろく、鳳凰の声。
そして、ウィングギャリバーは。
炎の鳥となった。
ウィングギャリバーの切り札の一つ目。これが、その姿だ。
最大限まで増幅した電磁バリアの鎧が、炎の鳥を造り出す。その灼熱はバリアを極限まで強化し、あらゆる存在を受け止め、はじき返す。
機体から吹き上がる炎が、迫る敵弾と敵機を片っ端から蹴散らしていく。奇怪な動きをする敵機も、編隊を組んで攻め込んでくる輩も、触る端から蒸発し、吹き飛んだ。
エネルギー弾も、はじき返す。ミサイルだろうが何だろうが同じだ。
たった三十秒だけしか保たない。
速度も、いつもよりだいぶ遅い。
それどころか、前進しか出来ない。
だが今は、マンドラーの所まで、たどり着ければそれで良かった。
マンドラーが迫ってくる。後、十秒。六本の腕を拡げる。エネルギー砲が無駄だと、悟ったからだろう。
至近。
激突。
六本の腕が砕け散るのも厭わず、受け止めに掛かってくる。
マンドラーの顔は、蟷螂に似ていた。以前見たものとは違っているが、多分戦いの末にバージョンアップしたのだろう。がちがちと顎が鳴っているが、それはよく見ると、機械なのだ。モノクロで見た時は邪悪な意思を感じたようにも思ったのだが、至近で見ると、やはりそれは命無き機械に過ぎなかった。炎の鳥が、腕を焼き尽くしながら、顔面に嘴を叩き込もうと迫る。だが、マンドラーは、群がる部下達が焼き尽くされるのも厭わず、それぞれ数百メートルに達する腕を振るって、顔を守ろうとした。
「パージ!」
「了解ッ!」
有馬が叫ぶ。炎が内側から消し飛び、決して無傷とは言えないウィングギャリバーが姿を見せる。
その圧力に、群がる敵機と、それに魔王の掌が消し飛ぶ。巨大な腕が、胴体を失った蟹の腕のように、蠢きながら放射状に広がる。
「全火力解放後、第二形態に!」
「ようやく出番か」
Mの声。
炎の鎧が消し飛び、戦場に出来る一瞬の空白の中。荷電粒子砲、残ったエネルギー砲、あらゆる火器が火を噴く。
絶叫。
そして、閃光と共に、マンドラーの頭が消し飛ぶ。
頭部を失った魔王の首に、大きな穴が開いた。それに突き刺さるようにして、ウィングギャリバーが着地する。
βウィングの下の、荷物搬入口が開く。
そして、三人のフィールド探索者を載せているコンテナが、直接敵の体内に叩き込まれた。
コンテナを内側から突き破り、Mが暴れ出すのが見える。
後は。
マンドラーが腕の残骸を振り回す。一つ一つがビルを凌ほどのサイズだ。迫ってくるそれを見ても、一は慌てない。バーニアを噴かし、僅かに下がりながら、感じる。
風の翼が。
風の巨人へと、姿を変える瞬間を。
βウィングが中心となり、胴に。Δウィングが、荷電粒子砲そのものであるその体を右腕に。そして光の剣となる。εウィングは、そのバリア発生器そのものである体を左腕に。そして、光の盾を纏う。
γウィングは体を左右に分かたれ、腰から足回りに。そして、αウィングの先端部が二つに割れ、コックピットがせり出し、巨神の頭に。残りは巨神の背中に回り込み、文字通りその翼と化す。
青いその姿は。
まさに、神話の時代の、巨神そのものであった。
これぞ、ウィングギャリバーの第二の切り札。
戦闘形態であった。
今までも一体感はあった。だが、人型になったことで、それが更に強くなる。
無造作に振るった右手の剣が、叩きつけられた魔王の腕を易々と切り裂いた。ただの巨大な棒となった魔王の腕の一部は回転しながら飛び、群がる無人機を巻き込みながら爆発し、異世界ではニューヨークがある原野に墜落した。
土方の剣道の技術が、後押ししてくれている。すっと下がり、左腕をあげる。そして、突っ込んできた敵機をバリアではじき返し、飛来するエネルギー弾をかわす。魔王の皮膚が次々と爆裂して、エネルギー弾に嬲られるが。敵は気にしていない様子だった。
数千の敵が、一斉に攻撃を開始する。
魔王も、己に集った蠅をたたき落とそうと、あがき始める。
Mは、三十分もあれば充分だと言った。
その時間だけ、敵を引きつけていればいい。
跳躍。砲を乱射しながら迫ってくる中型空母に、剣を振り下ろす。
光が中型空母を一閃、両断。左右に分かたれ、落ちていく。そして、千メートルほど落下した所で、爆裂、吹き飛んだ。
無数の敵機が迫る中、一は思う。否。土方も、武田も、有馬も、ののも思っているはずだ。
「此処は、通さない!」
雲霞のように群がる敵機に。
風の巨人は、戦気を叩きつけていた。
真実が、目の前にあった。
後ろでは、Mが大暴れしている。五メートルくらいに巨大化したMは、時に体を石のように硬くし、時に巨大な火球を辺りに乱射し、迎撃に出てきた人型ロボット兵器を千切っては投げ千切っては投げて、縦横無尽に暴れ狂っていた。
魔王の、最深部。
周囲に立ち並ぶ、無数の証拠。それが、この魔王が何者なのかを、如実に示していた。
救えないと、スペランカーは思った。
紛争地域にも足を運んだ。
ろくでもないものを、散々見てきた。
一緒に来たアリスが進み出ようとするのを止める。
「どうして止めますの?」
「これは、私の仕事だから」
「子供扱いしないでくださいまし」
「いいの。 下がって」
己の命と等価に、如何なる存在の命をも消し去るスペランカーの必殺武器。ブラスターと呼ぶ、最後の手段。
玩具の銃にもにたそれを。眼前のモノに向ける。
「ごめんなさい。 きっと、貴方の悲しみは誰にも届かない。 でも、私は、貴方の悲しみを覚えておくから」
「……」
魔王は、最後に。
笑ったように見えた。
引き金を、スペランカーは引いた。
最初、揺れが来た。
そして、罅が、駆け抜けていった。
魔王が崩れていく。
M達が勝ったのだと、一は知った。同時に、もはや自機が、耐久の限界を超えつつあることも。
腕が動かない。
足が上がらない。
マイクロロボットによる修復など、追いつくはずもない。
「伊佐実ちゃん、まだ生きてる?」
声に力が入らないと思いながらも、呼びかける。返事はない。土方にも、武田にも、ののにも呼びかける。結果は、同じ。
既に風の巨人は、満身創痍だった。数千の敵を、一気に引きつけ続けたのだ。光の剣も、盾も、限界がある。
巨神形態になったことで、耐久力も増していたが。それも同じ事だ。
尻餅をついた。
右足が折れたらしかった。
「誰か、生きていない?」
返答はない。
死んでいない。
死んでいるはずはない。
全身から嫌な色の煙をあげ、大破していても。もはや稼働不能であっても。生きている。一も生きているのだから。
「形態変更。 飛行形態に」
鈍く、ジョイント部分が稼働し始める。
崩壊していく魔王から、アリスが飛び立つのが見えた。どうやっているのか分からないが、風船には、Mとスペランカーもぶら下がっている。多分何かの特殊能力を使っているはずで、そう言う意味で彼らは大丈夫だろう。
ぼろぼろと、体の彼方此方が折れ、砕けていくのが分かった。魔王と同じように。今、風の翼も、死のうとしている。
だが、まだだ。
まだ死ねない。
浮け。
浮くんだ。
言い聞かせながら、思い出す。始めて自転車に乗れた日のことを。補助輪を外して、一人で風を切って走れるようになった、その日のことを。
風が吹く。
残ったエネルギーを、ふかす。
魔王と一緒に、落ちていく無数の敵機。命を無くした蛍が死んでいくかのように、それは儚かった。
もはや飛行機の形はしていない。だが、それでも飛ばなければならない。
みんな、死なずに帰ると、決めたのだ。決めたのだから。
Mが、風船から手を離すのが見えた。
まるで巣だったばかりの鳥のように頼りなく。だが、一は風に乗る。見る間に地面が近付いてくる。だが、風に乗ったのだ。激突はしない。
辺りは地獄絵図だった。
残骸は、死体にそっくりだった。大小様々な死体の中、一は、機首を立て直す。もはや何処が機首かも分からないが、それでも。
本能のまま、体を動かす。
何度か、極限状態のまま、自転車をこいだことがあった。そんなときは、無意識で足が動くのだ。その時のように。ただ、激突だけを避ける。
浮け。いや、違う。
一緒に飛ぼう。
自転車に、最初にそう呼びかけた。同じように、風の翼にも呼びかける。
友達のように。
いや、自分の分身のように。比翼の友のように。
沸き上がる光の中、一は見る。
地平の果てから、登り来ようとしている朝日を。
いつのまにか、そんな長い間戦っていたのだ。そう思うと、何処か、とてもおかしかった。
いつのまにか、自分の形が認識できていた。
だから、もう一度念じる。
一緒に、飛ぼうと。