オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
バルーンファイトは後に主人公を女の子にしたリメイク版が出ており、この作品での主人公はリメイク版をモチーフにしています。
かなり出来る子ではあるのですが、それでもまだ経験不足。
今回の戦闘は、かなり厳しいものとなります……
序、軽装備
風船を片手に、蛇の背中のようにうねった山道を登り終えると、牧歌的な村の光景が広がっていた。だからこそに、村はずれに見える積乱雲のような人外の地「フィールド」の異常さが際だっていた。
大きく嘆息した後、足を止めて呼吸を整える。まだ幼い体に、山道をてくてく歩くのは骨だった。赤い靴の中の足が痛い。だが、こうしないと、どうしても仕事とプライベートを切り替えられないのだ。
不愉快なくらい子供な自分に苛立ちながら、アリスは開いている左手で、セミロングに切りそろえている髪の毛を整え直す。世界でも最年少のフィールド探索者であるアリスは、徒手空拳で戦う連中を除くと、もっとも軽装備で戦う事でも知られている。いつも使うのは、風船のみ。それでいながら、巨大な体躯を誇る異常な怪物を倒したことが一再ではなかった。
麗らかな日差しの中歩いていると、不審そうに此方を伺う視線が集まってきた。やがて、道に立ちふさがった、頭のはげ上がった気難しそうな老人が咳払いをする。
しらけた目を其方に向けると、たじろいだように、老人は一瞬だけ躊躇した。
「アリス・シャーウッドさんですかな」
「見てわかりませんの? こんな小さな村で、よそ者だと言うだけで明らかでしょうに」
丁寧な口調から吐き出される毒に、老人、おそらく村長であろう人物は、露骨に鼻白んだようである。
「念のため、フィールド探索者としての証明をしていただけませんかな」
「N社から写真は送付されているはずですが」
「詐欺師の可能性も否定できないでしょうしな。 それに貴方のような子供が来ると言うことで、村人はみんな不安がっておるんじゃ」
徐々に村長が苛立ってくる。他の村人も、家から出てきてやりとりを見物し始めていた。中には、露骨に不審な視線を向けてくる者もいる。
だが、それが何だ。
体長何十メートルもある桁違いの怪物と渡り合ったこともあるアリスである。如何に場数を踏んでいるとは言え、人間の老人ごときに気圧されはしない。
「あまり、フィールドの外で能力を見せたくはないのですけれども」
冷笑混じりに、能力を展開。
ふわりと、二十メートルほど浮き上がる。
そして特注の翻らない設計のスカートに風を感じつつ、踏み固められた土の路に着地。数メートル四方に渡って凹み、即席のクレーターが出来た。
「これで、ご満足ですかしら? 見ての通り、フィールド探索者ですが」
「あ……」
「今は先に休憩を取りたいので失礼。 フィールド探索は、少ししてから伺いますわ」
今までの不遜な口調は何処へやら、唖然とし硬直する村長を一瞥すると、懐から写真を出す。宿代わりに提供された家があるはずだった。
其処は、北欧の山間に存在する小さな村である。人口は四百名程度と小さく、これといった産業はないが、麓には耕作地が広がり、遠くには海が見える。普段脅威と言えば猪や熊くらい。それも、熟練した猟師がいるし何より熊の危険性を熟知した村人も多いから、人死にが出ることは滅多になかった。典型的な、平穏な田舎村にも見える。
ラットソンという名を持つこの村に突然の災厄が降って湧いたのは二週間ほど前のこと。村の外れの、少し他からは離れた家から、大量の雲が吹き上がったのである。それは積乱雲のように見る間に巨大化し、瞬く間に村はずれの一部を飲み込んだのだった。
すぐに軍に連絡がいき、調査した所、フィールドであることが判明。幸い被害者はまだ報告されていないという事で、アリスらが探索要員として呼ばれたのだ。ただ、呼ばれた戦力が少し大きいのが気になる。何か裏があるのかも知れなかった。
渡された地図通りに歩いていくと、パステルカラーの綺麗な屋根を持つこじんまりとした家があった。此処に違いない。特注の風船とは言え、そろそろメンテナンスもしたかったのだ。場合によっては、予備を膨らませなければならない。
電子チャイムはついておらず、いまどき呼び鈴である。古風にもほどがある。
ひもがついた呼び鈴を鳴らすと、奥から人の気配。呆れて笑ったのは、明らかにそれっぽい、人が好さそうなお姉さんが出てきたからである。黒っぽい茶髪で、かなり度が強そうなハーフグラスを付けている、三つ編みの女性だ。目は大きくて愛らしいが、顔の造作は十人前である。
どちらかと言えば小柄な人だが、小学校に通う年頃のアリスから比べれば頭二つ大きい。じっと見上げると、お姉さんは友好的な雰囲気を全身から発しながら、にこやかな笑顔を浮かべる。迷惑なことに、子供好きなのかも知れない。
「貴方がN社のアリスさん?」
「見ての通りですわ」
「きゃあ、可愛い喋り方っ!」
抱き潰されそうになったので、さっと逃げる。お姉さんは案外すばしっこくて、転ぶようなこともなく、一瞬だけ均衡が訪れた。敵意がないにじりあいだが、アリスにとっては死活問題である。体格差もあるし、協力者に攻撃も出来ないからだ。
家の奥から足音。
姿を見せたのは、眠そうな知人だった。
「あ、アリスちゃん。 おはよふ。 来てたんだ」
「スペランカーさん。 また貴方はこんな時間に、そんなだらしないことを」
「ごめん、長旅で疲れてて。 すぐ側にフィールドがあるのは分かってるんだけど、私、体力無いから」
目を擦るスペランカーは、何だか早速この家に馴染んでいるようだった。それにしても寝癖を付けたまま人前に出てくるとは、どういう事か。
スペランカー。常人ではとても立ち入れず、軍隊でさえ手に負えない異界、「フィールド」の攻略を生業とする「フィールド探索者」の一人。頭は悪いわ運動神経は切れてるわで、日常生活にも四苦八苦するような輩である。しかしその特異な能力によって、絶対生還者の異名を持つベテランだ。
お姉さんとスペランカーが話し始める。
意外なことに、簡単な意思疎通はお姉さんとちゃんとこなしている。ただし音声が出るタイプの電子手帳を使って、だが。それもあまり早いとは言いがたい。お姉さんは電子手帳の操作に四苦八苦しているスペランカーを何だか危ない目つきで見ていた。多分N社が用意してくれた有能なサポートだと思うのだが、先が思いやられる。
奥に通される。今回はスペランカーと二人だけの攻略戦だ。この小さな村では、フィールド対策にあまり大きな金額を用意できなかったのである。それに、北欧は最近景気もあまり良くない。もらえた補助金も、多寡が知れていたのだろう。
村人達が非好意的なのも、仕方がない部分はある。何も悪いことをしてないのに、いきなり訳がわからないフィールドが発生して、今までの平穏な生活を奪われてしまったのである。筋違いとは分かっていても、フィールド探索者くらいしか、恨みをぶつける相手がいないという訳だ。
今は古風なソファやランプが置かれていて、実に雰囲気がある。作りがとても広くて、田舎の家とは言っても快適そうだ。だが、あまりにもものが揃いすぎているのが、気になる所だ。
「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「あ、そういえば、まだ名乗っていませんでしたね」
お姉さんはエプロンスカートを摘んで優雅に一礼する。アリスはこれでも一応上流階級の出だからわかる。
同類だ。
「私は、アンリエッタ=ロマノフと申します」
スペランカーは、蒼白になったアリスを、不思議そうにソファから見つめていた。一応それなりの戦闘経験は積んでいるだろうに、相変わらず鈍い奴である。
分かっていないのだ。今の言葉の意味が。
そして、村に対するイメージも一瞬にして崩壊した。牧歌的どころか、これは危険な犯罪や秘密結社の匂いがぷんぷんする。一撃粉砕能力が高いアリスに加えて、生存率が高いスペランカーが指名されているのも、それが原因かも知れない。N社の連中を、アリスは心中で罵った。先に連絡を入れてくれればいいものを。子供だから知らせる必要はないとでも思ったのだろうか。
いずれにしても、はっきりしたことがある。
どうやらこの探索、一筋縄ではいきそうにもなかった。