オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

39 / 140
本来クトゥルフ神話において、ダゴンはそれほど強力な神格ではありません。

しかし本作においては超強力な神格として降臨しています。

これは元々のクトゥルフ神話とは少し違うと言う事もありますが。

これが、バルーンファイトの二次創作で。

バルーンファイトをやっていれば知っている、魚の恐ろしさの体現者だからです。


4、それぞれの悪夢

森を震わせるダゴンの咆吼。

 

既に満身創痍ながらも、川背はそれをはじき返すように、雄叫びを上げた。

 

ダゴンの異形の全身から伸びる無数の触手。大蛇を思わせるそれらには、人間の顔のようなものが浮き上がっている。子供であったり大人であったり、男であったり女であったり。いずれもが表情に狂気を浮かべ、空中をはい回るようにして迫ってくる。

 

それが、およそ三百。

 

鞭のように振り回される触手をかいくぐり、ゴムの伸縮力と反発力をフル活用して川背は迫る。触手にとって、枯れ木が無数にあるこの戦場は、曲線の動きを制限される相性が悪い場所だ。パワーはあるとしても、どうしても障害物自体が、速度を削いでいくのである。

 

雨あられと降り注ぐ、茶褐色の触手をかいくぐりきる。だが、ダゴンは、その巨体を揺るがせもしない。

 

「無駄だ」

 

ダゴンの体を覆う鱗、否。それは無数の目。一斉に見開くと、全方位にレーザーにも似た光の束を掃射する。とっさに上空に逃げて密度を減らすが、それでも数本が川背の体を掠めていた。

 

腕が、足が、切り裂かれて、血をしぶく。痛みが判断力を奪い、一瞬のミスが落下を引き起こす。

 

川背の遣っているゴムロープ付きルアーは、能力を最大限に生かす武器だ。だが、取り扱いが途轍もなくデリケートであるという欠点がある。集中を一瞬でも欠くと、それは破滅を呼ぶ凶器に早変わりするのだ。

 

しまったと思った時には、地面に叩きつけられる。数度バウンドして、したたかに枯れ木に叩きつけられた後、浅瀬に落下。一瞬意識が飛んだ。

 

受け身は取ったが、そろそろ限界だった。

 

「見事な動きだ。 多くの人間を喰らってきたが、これほど我の攻撃に耐えた者はなかなかおらぬ。 褒めて遣わす」

 

「はあ、はあ、ううっ!?」

 

今ので、肋骨が何本か折れた。柔らかい土の上でなければ、ぺしゃんこになっていただろう。体を起こしながらも、川背は顔に掛かったおぞましい汚水を拭う。

 

ダゴンは、ゆっくり向き直る。前面には生殖器に似た器官も並んでいるようだった。何をするものなのかはよくわからない。だが、どうせろくな事には使わないだろう。

 

立ち上がった川背に、ダゴンは声を低くする。

 

「泥にまみれ、地に伏してもまだ闘志を捨てぬか。 そなたの魂、実に美味と見た。 今やあの子供よりも、優先して喰らいたいほどよ」

 

「そりゃあどうも。 でも、僕にも、相手を選ぶ権利くらいあるんだから」

 

「ふむ、まだ我の力に心服せぬか。 ならば、その味をさらに高めるためにも、もう少し本気を出してやるとしようか」

 

ぐっと、ダゴンが弓なりに体を曲げる。その背中がみしりみしりと変形していく。背びれが二つになり、三つになる。骨の間に張られている膜が音をたてて切れると、並んでいたのは曲がりくねった無数の骨だった。

 

それらが、空へ一斉に射出される。

 

川背が本能的に飛び退くのと、空から無数の針が降り注ぐのは、殆ど同時だった。しかもその針は後ろから青い炎を吹いて、自身を加速している様子だった。空からミサイルが降ってくるに等しい。

 

ジグザグに走りながら、かわす。だが、真上から降ってくるに等しいミサイルは、どうにも出来ない。更に、ダゴンの触手が、周囲を囲むように迫ってくる。その上、ダゴンは全身の目を、一斉に見開いた。

 

気がつくと、地面に叩きつけられていた。

 

肩と、脇腹に、針が突き刺さっている。ふくらはぎにも。

 

焦げている匂いがする。自分の肉か。

 

引きずられているのが分かった。耳元に、何か笑い声のようなものが届く。ぎゅっとルアーを握りしめる。もう少し、油断して近づけろ。そうしたら、その時には。

 

天地が逆転する。

 

足に絡みついていた触手を、ダゴンが振り回したのだと気付く。そして、自分が鳥人間にしたように、地面に叩きつけられたのだと。

 

肺から強引に空気が押し出される。吐血した川背は、更に振り回されて、もう一撃地面に叩きつけられた。機械的に、ダゴンは川背の戦闘能力を奪っていく。地面に激突。もう一度激突。意識が、二度、三度と飛んだ。

 

気付くと、ダゴンの顔の前にぶら下げられていた。

 

「ほう、死なぬか」

 

手の中にルアーを出現させるが、そのまま取り落としてしまう。大量の血が流れ落ちている。これは、自分の血か。こんなにたくさん、流れるものなのか。

 

「なにやら森の様子がおかしいな。 我を呼び出した者が、別の神に乗っ取られたようだなあ。 我が目を付けた者の支配権が入れ替わるとは、妙なこともあるものよ。 まあ、もっとも我は既に現界している。 関係ないがな」

 

ダゴンがなにやら呟いている。

 

意味はわからないが、ダゴンにもあまり良くないことが起こっているようだ。

 

悔しいのは、もう少し時間が稼げれば、先輩がこんな奴やっつけてくれた、という事だ。もう、ルアーも握れないほどの状態では、どんな反撃が出来ようか。

 

一つだけ手はあるが、それを行える条件が今は整っていない。

 

「残念だが此処までのようだな。 いただくとしようか」

 

ダゴンの声に、若干の失望が混じる。

 

触手が、川背の足を離した。

 

 

 

放たれた雷撃が、アリスのすぐ側を掠めた、どうやらこの鳥人間、さっき雷撃を放ってきた奴と同一個体らしい。他の連中は十把一絡げにまとまって、向こうの森でシュナイゼルと融合し、どんどん巨大な肉塊と化して行っている。

 

此奴だけは、なぜそうならないのか。

 

弾きあい、上を取り合う。さっと下降して、枯れ木を蹴って敵が引っかかるのを狙うが、しかし。上空を冷静にキープしながら、隙あれば風船を狙ってくる。壁を蹴って跳躍し、加速。その爪を逃れる。

 

地面すれすれまで急降下し、地面を蹴って水平に飛ぶ。少し上を、鳥人間はついてくる。顔が鳥なのに、アリスと同じように風船を使って飛ぶ、訳がわからない奴だ。腕は筋骨隆々で、鳥よりもむしろ人間に似ている。

 

一か八か、試してみるか。

 

木の枝に、つんのめる。同時に、一気に鳥人間が間合いを詰めてきた。

 

振り返り様に、地面に能力を叩き込む。

 

吹き上がる。膨大な木の葉。

 

鳥人間は、それにもろに突っ込んだ。アリスは飛び下がるようにして加速、後ろにあった木を蹴って殆ど垂直に上がった。

 

上を、取ったか。

 

そう思った瞬間、影が自分を覆う。木の幹を蹴って、真横に飛び逃れる。

 

枯れ木を鳥人間の回し蹴りが打ち砕いていた。

 

距離を取る。呼吸を整えながら、アリスは叫んだ。

 

「貴方は、いや貴方たちは何者ですの! 父も貴方と同じような方々と戦ったと聞いていますわ」

 

「……」

 

感情を宿さない鳥の目が、じっとアリスを見つめる。

 

雷を放つ特殊な力と言い、他の鳥男と一線を画しているのは間違いない。だが、そもそも、である。アリスが訪れるフィールドで、時々群れを成して現れる此奴らが何者なのかが、結局今まで分かっていないのである。

 

アリスもずっと単独でフィールドに挑んできた訳ではない。今回のように別のフィールド探索者と一緒に戦うことは珍しくなかった。だが、彼らの誰もが、このような奇怪な連中は知らないと言った。そもそも、同じ存在が別のフィールドにて現れること自体が珍しいのである。

 

再び、鳥男が仕掛けてきた。鋭い足の爪による一撃をかいくぐり、膝をしたからたたき上げる。したたかに重力子の流れを乱してやったはずなのだが、平然としている。他の鳥人間ならともかく、どうしてか此奴には効き目が薄い。

 

それだけではない。

 

次の瞬間、ゼロ距離から雷撃を叩き込まれた。避けられる距離ではなく、一瞬絶息したアリスは、頭から真っ逆さまに地面に墜落していた。

 

地面寸前で意識を取り戻し、着地の衝撃を緩和するが、しかし。激しい痛み。胸を、真上から踏みつけられていた。まだ洗濯板に等しいとはいえ、不愉快きわまりない。それに、鳥人間の体重はどう見ても三百キロはある。本気で体重を掛けられたら、圧死するだろう。

 

「ア、リ、ス」

 

不意にしわがれた声がした。

 

鳥人間の喉から、その声が絞り上げられているのに気付く。しかも、鸚鵡や九官鳥のような、感情のこもっていない真似声だった。しかし、これは一体誰の声を真似しているのか。スペランカーや川背は、終始「アリスちゃん」と自分を呼んでいたではないか。

 

しかし、以前戦った鳥人間はこいつのような実力を持ち合わせていなかった。動きは遅かったし、頭も悪かった。前に遭遇したのは半年前だが、その時道具を使いこなすのを見て驚いたくらいである。

 

最初、あのシュナイゼルが行使しているのかと思った。実際、さっき見た限りでは、そうとも思えた。

 

或いはダゴンかも知れない。しかし、その眷属にしては弱すぎるようにも思える。それとも、ダゴンがより強く現世に現れたから、この鳥人間どもも力を増している、と言うことなのだろうか。

 

鳥男の足に、更に力が籠もる。何処か急所に入ったらしく、手足が動かせない。全身の骨が軋む音がした。

 

このまま踏みつぶされるのか。

 

絶望を感じながらも、アリスは目を閉じて、一瞬の勝機をうかがう。

 

さっき、シュナイゼルがほざいていたノーブル・オブリゲーション。あれは、意外だった。かって西洋圏の貴族は、ノーブル・オブリゲーションを口実にして、贅の限りを尽くし、搾取を働き続けていた。この言葉自体が、そもそも彼らの行動を正当化するために生み出されたものなのである。

 

特にフランスの貴族に顕著だったが、自分の行動を正当化するためには、どんなことでもした。ナイフやフォークを使い出したのはその一例に過ぎない。暴虐を正当化するための、一見正しい言葉。それが、ノーブル・オブリゲーションに過ぎないのだ。

 

だが、どうしてだろう。

 

歪んでいたシュナイゼルの言葉の一部に、共感を覚えたのは。残りの全てに、言い難い不快を感じたのは。

 

やはり、アリスの中で、その言葉は大きな意味を持っているのではないのか。

 

フラッシュバックする。反発ばかり覚えていた両親の顔。父は言ったものだ。高貴なる義務を果たせ。お前になら出来る。それに不快感を覚えながらも、どうしてだろう。お前になら出来るという言葉に、僅かな幸せを感じたのは。

 

「オ、前は、お前の、路を、探せ」

 

「!」

 

目を開ける。

 

鳥男の目から、涙がこぼれ始めていた。鳥の目に、そんな機能があっただろうかと、アリスは愕然とし、それ以上に、発せられる言葉に驚かされた。

 

「例え史実が、どうで、あろウと、お前は、お前ダケで、も、その言葉を、本当にすれば、イイ」

 

「な、何を言っていますの!?」

 

「私は、モ、う疲れた。 意識が、無くナる前に、お前ノ、手で」

 

鳥男の、巨大なナイフのような爪が生えた足の力が、緩む。

 

悩んでいる暇はなかった。鳥男の太い足をつかむ。

 

そして、全力で、鳥男体内の重力子を乱してやる。

 

元々一定方向から掛かっている重力が、四方八方からいきなりかかったらどうなるか。それが四つの力のなかでもっとも弱いとしても、結果は目に見えている。

 

全身から大量の鮮血を噴き上げ、天に向けて悲鳴を上げながらも。

 

アリスが見上げる鳥男は、何処か、安心しているようにも思えた。

 

 

 

「川背ちゃん!」

 

大きく開かれた、異形の魚の口。其処へ川背が落ちようとしているのを見て、スペランカーは絶叫していた。

 

ブラスターを取り出す。走る。

 

間に合う訳がないと、分かっていたとしても。感じる気配から言って、かなう訳がないと知っていても。

 

魚が、ぎょろりと此方を見た。その全身に付いている鱗が目だと知っても、スペランカーは引けなかった。

 

恐怖よりも、勝る感情に突き動かされる。

 

魚の口が閉じ合わされようとした時、もう一度叫んだ。

 

身動き一つしなかった川背が、不意に動いたのは、その時だった。

 

ピンクのリュックを外すと、魚の牙に被せる。

 

同時に、魚の下あごが、この世からかき消えていた。

 

「! ぎゃああああああああああっ!」

 

無様な絶叫がとどろく。満身創痍の川背を抱き上げると、必死にスペランカーは岸に運ぶ。酷い怪我だ。骨も折れているだろう。こんな酷い状態で、此処まで戦ってくれたのか。魚の下あごが、どんどん再生していく。水浸しになりながらも、スペランカーは川背を岸に着ける。うっすら目を開けた川背は、血だらけの手を伸ばしてきた。

 

「おそい、ですよ。 先輩」

 

「大丈夫、もう大丈夫だからね」

 

「……」

 

手を握り返すも、返事はない。

 

目を閉じた川背が気絶しただけだと知って、スペランカーは心底から嘆息した。だが、病院に連れて行かないと危ないだろう。

 

それには。

 

後ろで雄叫びを上げている、あの魚をどうにかして滅ぼさないといけなかった。

 

立ち上がり、振り返る。

 

無数の触手がしなっている。全身に付いている目が、一斉にスペランカーを見る。

 

下あごを失っても、魚の怪物が放つ威圧感に、衰えは見えない。そればかりか、怒りを加えている分、更に迫力を増しているかも知れない。

 

だが、不思議と。スペランカーは怖いとは思わなかった。

 

「ほう? 我も見ても恐れぬ上、狂気すら覚えぬか。 どうやらその身に纏う我が同族の呪いが原因のようだな」

 

「下あごが無くても、喋れるんだ」

 

「我は精神に直接話し掛けている。 それにしても、そのような受け答えを、この場でしてくるとは。 大物なのか阿呆なのか、わからぬ奴よ」

 

魚の怪物が心底呆れてぼやいたので、スペランカーは怒りが鎮火していくのを感じた。どうやら残虐であっても邪悪な奴ではないらしい。多分、邪悪なのは。あのおじさんのような、この怪物を利用しようとした人間なのだろう。

 

だが、いずれにしても。

 

放置は出来ない。

 

同胞の尻ぬぐいはしなければならない。腹立たしい話ではあったが。

 

「どこから来たか分からないけど、帰ってはくれないよね」

 

「我はこの世界にもう数万年前から住み着いている。 お前達よりも古くからだ」

 

「それでも、どうにかならない?」

 

「そもそも、人間は我らが介入で、お前達のような姿に進化したと言っても、その考えは代わらぬか」

 

何様かと思えるようなことをほざく魚だが、多分此奴はスペランカーに呪いをかけてくれたあの海底の神と同類の存在だろう。それならば、或いはそれも正しいのかも知れない。ちらりと、川背の方を見た。完全に意識を失っているし、戦える状態ではない。少しずつ、歩み寄っていく。

 

もしも倒せる可能性があるとしたら、好機は一度だ。

 

あの神と同類の存在だとしても、ブラスターは効く。多分倒せる。

 

だが呪いの方は効果があるかはわからない。もしも呪いの主の神と同格以上の存在だったら、通用しないことも考えられる。

 

水に入った。

 

触手が、神経質にきちきちと音を立てる。

 

「代わらない。 私は、はっきりいって、食べるためにこんな仕事してる。 毎回酷い目に会うし、それでも食べていくのがやっとだし、贅沢だって出来ないし、こわいめにばっかり会うし」

 

「ほう? 難儀な話であるな」

 

「でも、私は、周りにいるみんなが好き。 後ろにいる川背ちゃんも好き。 今森の中で戦ってるアリスちゃんだって好き。 だから、此処は引けない。 はいそうですかって、貴方を通す訳にも行かない」

 

硝子が擦り合わさるような音。魚の体から無数に突きだしている触手が立てているのだろう。

 

魚の鱗が全て目であったり、見るだけで正気を保てなくなるような姿をしているこの神様は、しかし怖くない。なぜだろう。震えも、殆ど来なかった。

 

「面白い。 とても戦士とは呼べぬような輩かと思ったが、その身に纏う呪いは伊達ではないと言うことか」

 

「ごめんね。 貴方に恨みはないけど、倒させて貰うよ」

 

「良く吠えた! 此方も敬意を表して、最初から全力で行かせてもらおうか!」

 

魚の触手が天に向けて伸びる。

 

何かが来ると思った。その瞬間。

 

意識が飛んだ。

 

意識が戻る。全身が痛い。そして見上げた先には、下あごが再生しつつある魚の神が。悠然と触手を動かしていた。

 

「ほう。 空間ごと切り取って、貴様がこの世界に存在する確率をゼロにしてやったのだが。 それでも復帰してくるか」

 

「まだまだ……!」

 

立ち上がったスペランカーは、自分が全裸に近い事に気付くが、恥ずかしがってもいられない。手にしたブラスターだけは離さない。

 

ぼっと、鈍い音がした。右腕が、消し飛んでいた。壊れたホースみたいに鮮血が噴き出すが、魚にダメージが行く様子はない。その周囲の空間が、どす黒い何かに包まれているのは見えた。

 

「無駄だ。 我の力は、その呪いと同格! その呪いの特性である反転呪撃は、我には通らぬ!」

 

「やってみなきゃ、わからないよ!」

 

右腕を押さえながら、スペランカーは叫ぶ。しかし、右腕が再生する前に、魚の目が光るのが見えた。

 

河の中で目を覚ます。多分、また粉みじんにされたのだろう。触手が絡みついてくるのがわかる。空にたかだか放り上げられた。魚が光る。恐らくあの目全てから、レーザーみたいな何かで攻撃してきているのだ。

 

再び、水の中。考えられないほど徹底的に、粉みじんにされたのは疑いない。

 

だが、それでも。

 

泡を吐き出して、顔を上げる。魚はすっかり再生していた。だが、少しずつ、その力は弱くなってきている。

 

「なるほど、根比べか。 楽しませてくれる」

 

「女の子は、痛みに強いんだから……っ!」

 

「ならば、これはどうか」

 

ぐしゃりと、何かが潰れる音。河に顔面から叩きつけられる。同時に、体中を、今まで感じたことがないほどの痛みが襲った。即死し、生き返り、また痛みで死ぬ。背中に何か突き刺さっている。

 

「痛覚神経を二十五万千五百倍に鋭敏化した。 その脆弱な肉体では、瞬時にショック死するほどの痛みも同時に与えている。 どれだけ耐えられるかな」

 

もがく。だが、痛みは益々酷くなる。指を動かそうとするだけで痛い。目を開けようとするだけで痛い。死ぬと、またすぐ激痛が全身を覆う。死の無限連鎖。ダゴンの周囲を覆う黒い霧も、益々濃くなっているようだ。放電しているのが見える。

 

がばりと、顔を上げた。ダゴンは、触手を激しく動かして、何かの攻撃に出ようとしている。丁度円を描くように、ダゴンの周囲に、雷撃の輪が出来ていた。

 

「三万七千回ほど殺したが、それでもまだ耐え抜くか……!」

 

「根比べ、だったら、負けない……から……っ!」

 

「おのれ人間! 貴様は、既に人間の範疇を超えているぞ! 不遜と知れ!」

 

キュンと、小さな音。

 

何をされたのかはわからないが、多分また考えられないくらい粉々にされたのだろう。

 

気がつくと、河は干上がっていた。

 

そして、魚の神の周囲を渦巻く黒い霧は、ますます濃くなっていた。魚の声に、焦りが混じり始めている。

 

「マイクロブラックホールによる時間逆流粉砕に耐えぬく、だと! 貴様、その呪い、一体誰から受けた!」

 

「わからないよ、そんな事っ!」

 

手のブラスターは。見ると、ある。どうやらスペランカーと一緒に再生しているらしい。

 

そう言えば、今までも考えてみれば不思議だった。散々酷い目にあってリュックごと何度も潰れたのに、これはどうしても壊れなかった。

 

裸のまま、歩く。もう少しだ。魚の神が、恐怖の声を初めて挙げた。

 

大量の触手が降り注いでくる。多分めっちゃくちゃに潰されたのだろう。意識が戻ると、闇の中にいた。また意識が飛ぶ。潰されて、砕かれて、それでも死ねない。

 

負けるか。

 

それでも、負けるか。

 

此処が地獄でも、相手が神様でも。

 

地面に投げ出される。盛大に、派手な血しぶきが上がっていた。あまりにもダメージが酷すぎて、再生が追いついていないのがわかる。だが、それでも。立ち上がる。此処で、まだ負ける訳にはいかない。

 

魚の触手が、砕け、飛び散るのが見えた。黒い霧が、一斉にフィードバックしたらしい。魚の神が吠える。

 

「名を聞かせよ、人間! 貴様の魂を食らいつくしたとしても、覚えておこう」

 

スペランカーは名乗る。己の本名を。

 

魚の神は名乗り返す。ダゴンと。

 

無数の触手を振るい、ダゴンは距離を稼ぐことに終始し始めた。流石に神、スペランカーの狙いくらい、もう見通している、と言う訳だ。

 

あと一つ、何か欲しい。

 

近づけさえすれば。

 

死の連鎖から続く均衡が、破られたのは。その次の瞬間であった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。