オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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4、秘密

何者かの気配が消えた。視線も感じない。ため息が一つ漏れた。怖がって逃げてしまったのだろう。

 

好機ではあるが、気が重い。ともかく、時間は稼げたのだ。このピラミッドがフェイクであろう事ははっきりした。この近くに、本物へ通じる何かがあるだろう。徹底的に探さなければならない。

 

リュックから缶詰を取り出す。タオルに包んでいた缶詰は無事。出した缶切りはさっきの落石の衝撃によって、少し曲がっていたが、充分に仕えそうだ。タオルを取り出して、額を拭く。ボロボロの、父の形見の品だ。

 

これを出すと、どうしても思い出してしまう。

 

十年以上、前のことだ。

 

スペランカーは、人生を決定する事件に巻き込まれた。まだ五歳の時である。

 

当然、幼い頃の何も知らないスペランカーは、よく起こったことが分からないうちに、それに遭遇し。

 

そして、神に呪われた。

 

全てに気付いた時は、遅かった。思春期の頃には、自分がどんな存在になりはてたのか、理解していた。だが、それでも。もはやどうしようもなかった。

 

神の呪いは、解除できないのだ。それに、父の満足そうな死に顔を思い出すと、今更解除する方法を探すことなど、出来ようはずもなかった。父は本気で、スペランカーが幸せになったと思って、あの世に行ったのだ。もし呪いを解除する方法を本気で探すとなると、スペランカーは父の生涯研究を否定することになってしまう。文字通り、父は浮かばれなくなってしまう。それだけは嫌だ。確かにこの異能に嫌気が差したことはある。だが、解除しようと思ったことは一度もない。

 

母は、あまり苦しまなくて良いと言ってくれている。もっとも、彼女の場合は、狂的な研究に全てを賭けていた父に、愛想を尽かしてしまっていたのだろう。その上、再婚の邪魔になるスペランカーにも、あまり興味を持っていない様子だった。それどころか、最近は金を集りにまで来る始末だ。

 

だから、中学を出た頃には、スペランカーはもう自立を考えていた。父は既に亡く、母は帰宅する度に違う男を連れ込んで、自室でなにやら声をあげていたし。居場所はとっくに無く、あるのは父の研究で手にしてしまった異能だけ。日常生活にはまるで役に立たない、意味不明な力しかない。

 

その上、その異能の副作用によって、スペランカーは無能になりはてていた。どれだけ鍛えても筋肉はつかなかったし、勉強も殆どまともに覚えられなかった。物覚えも良くない。切れ者であれば中卒でも生活することが出来ただろうが、スペランカーにそれは無理だった。

 

かといって、母の狂態を見ているスペランカーは、体を売りたくはなかった。ありもしない愛とやらをもとめて、最も愛が無さそうな相手に媚びを売り続ける母への反発も、其処にはあっただろう。

 

必然的に、仕事は選ばれた。

 

国の異能リストに名を連ねて、もう数年になる。まだ最高難易度のフィールドに挑戦したことはないが、それでも実績はそれなりに積んできた。あまりにも貧弱なステイタスと裏腹な、必ず生還するその奇跡的な姿から、スペランカーと呼ばれるようになったのも、最近のことではない。

 

タオルをリュックにしまい、サンマの蒲焼き缶を開ける。何も着けずに食べられる美味しい缶詰である。蟹缶はたまに食べるから良いのであって、普段の缶詰はこう言うので良い。レーションのまずさには閉口するが、J国製の缶詰はスペランカー好みで、どれも悪くない。

 

しばし、蒲焼きに舌鼓を打つ。安らぎの時間だ。それが終わると、おもむろに血に染まったメモ帳を取り出して、状況を確認していく。

 

何かあるとしたら、このピラミッドの間か、さっきの白骨の園だ。

 

効率よく探すつもりであれば、重機の類を持ち込むのが早い。だがそれは、死者の亡骸を蹂躙することにつながる。この国の独裁政権が、如何に凶暴な連中かはよく分かっている。前払いで半金を貰っていなければ、スペランカーにも仕事を受ける気はなかったほどだ。もし金のありかが近いと思ったら、どんなことだって平然と実施するだろう。幽霊なんぞよりも、怖いのはなんといっても人間なのだ。

 

何とか無事だった懐中電灯で、辺りを照らしていく。この部屋は広く、何かがあることを否定できない。まだ物資はあるので、戻らずにもう少し調査を続けた方が良さそうである。

 

ザイルを取り出したのは、崖状になっている縁に、何かを見つけたからだ。それは、かって大勢の人間が出入りしたと思われる、不自然なへこみ。下は暗くて見えないが、何かある可能性が高い。此処からはザイルを使って、下に降りていくしかない。鍾乳石にしっかり片側を結びつけて、自分のベルトにも片方を固定。シートベルトと同じ作りになっているこれは、降りながらゆっくり固定点をずらすことが出来る便利な品だ。残念なのは、スペランカーの能力が、これを使いこなすに到っていないと言うこと。何度も練習したが、どうしてもへたっぴのままで、時間がたんまり掛かってしまう。どうにか形になった時には、少し疲れてしまっていた。

 

口にペンライトをくわえると、ゆっくり崖の下に身を入れる。

 

ザイルは揺れていて、下が川なのか、石なのかもさっぱり分からない。

 

ただ、あまり深いところにはないだろう。大量の金塊を運ぶとなると、あまりにもリスクが大きすぎる。特に金塊を隠した時には、あまり時間がなかったはずで、これだけ凝ったものを造っただけで、奇跡的だとさえ言えるのだ。

 

ぶら下がって、完全に足が離れると、やはり不安になる。別に落ちたって良いのだが、あがれなくなるとそれなりに困る。まあ、その時は別の方法を考える。

 

降りていき、ペンライトで照らしていく。ビンゴと呟いたのは、足場の跡が残っているからだ。壁に不自然な穴がたくさん開いている。これは恐らく、木か何かの足場を造り、放置したのだろう。木は腐って無くなってしまったが、穴だけは残ったという訳だ。

 

壁を真っ白なごきぶりが這っていた。遠くの空を、蝙蝠が舞っている。

 

こんな特異な閉鎖空間でも、逞しく生きている、多くの命がいる。彼らには出来るだけ迷惑を掛けずに、全てを終わらせたいものだと、スペランカーは思った。二の腕ほどもある巨大なムカデが壁を這っているのを見た時には流石に吃驚したが、別に彼らに悪気はない。

 

不気味だという理由で遠ざけられる悲しみは、嫌と言うほどよく分かっている。

 

だから、何も言わず、スペランカーは静かにザイルを滑り降りた。

 

 

 

再び、あの気配。出来るだけ刺激しないようにと思って、スペランカーは手を止める。正体が特定できた以上、倒すことは、可能だ。できれば、そうしたくない。父の末路を見ているスペランカーとしては、なおさらだ。

 

ゆっくり、再び降り始める。途中、横穴を何度かみつけた。スペランカーの腕力ではとてもではないが飛び渡ることなどできっこない。出来たとしても、何度かに一回は加減を間違って真っ逆さまだろう。だから振り子の原理で何度かロープを揺らし、強引に中に潜り込んだ。そしてそれぞれザイルをゆっくり伸ばしながら、中を調べた。しかしいずれもが外れで、くたびれ損になるばかりだった。

 

ただ、分かったことも多い。

 

この辺りには、それなりの規模の足場が組まれて、仕事場になっていたらしい。というのも、朽ち果ててはいたが、横穴の内部には生活の痕跡が見て取れたからだ。今は洞窟に住む生き物たちの住処と変わり果ててはいたが、しかし鍾乳洞の中、壁に穿たれた横穴と、その中の人間が生活した痕跡は嫌でも目立つ。中にはかなり古い型式の、ランプの残骸らしきものさえもがあった。

 

この闇の世界で、確かに人が仕事をしていたのだ。どんな思いで仕事をしていたのかは分からない。ある横穴は途中からトイレに使われていたらしい形跡があったが、しかし流石にもう糞尿の臭いや痕跡は無かった。

 

下の方に行くと、朽ちていない足場の跡や、リフトの痕跡も残っていた。どうやらこの崖は、鍾乳石から落ちる水滴によって、足場を腐らせ失っていったらしい。何度かの大崩落で殆どがこけ落ちたようだが、ほんの一部は土台だけが残っていた。金属を使っている様子はないが、それなりに頑強だったようである。多分、国にあった技術をあらかた使ったのだろう。

 

国が滅びるという時に。こんな洞窟の中に侵略の手を進めて。そして貴重な税金と金山から掘り出した黄金を隠すなんて。

 

そんな事をしていたから、国が滅びたのではないのかと、スペランカーは思った。

 

中卒であるスペランカーは、各国の歴史もあまり良くは知らない。だが、異能の者として各地の国でフィールドに挑んだから、知っていることもある。この国は、かつて最低の国だった。今はそれを更に下回る国と化している。

 

この洞窟の中を見て、それを強く思った。今の国も同類だ。フィールドと化してしまっているこんな危険地帯に、コストを浮かすためとはいえ一個中隊もの兵隊を投入して死なせるとは。

 

ザイルが、尽きた。

 

だが、足も地面に着いていた。

 

其処は谷の底。中央部には川が流れているが、あまり勢いは強くない。流れそのものも平坦で、砂は非常に細かい様子だ。ただし、奥からは大きな音も聞こえる。多分、滝になっているのだろう。

 

河原になっている左右には、無数の残骸。足場のなれの果てだろう。それに混じって見えるのは、やはり白骨だった。それも多少というような量ではない。まるでカタコンベの中身を、丸ごと放り出したかのようだ。

 

あの野だけではない。此処でも、大勢が死んだという訳だ。

 

目をつぶって、ザイルをベルトから外す。多分四十メートルは降りただろう。スペランカーの予想では、多分この辺りに目的のものがある筈だ。途中、入れそうな横穴はみんなチェックした。それで駄目なら、底から行ける場所しかない。馬鹿なスペランカーにも理解できる、単純な話だ。

 

まだリュックの中にはザイルとフックつきのロープがある。ゆっくり足場の辺りを見回しながら、奥へ奥へ。一度川を渡ったのは、崖の上の方の地形を見たからだ。丁度向こう岸の方が、崖の影になっていた。まだ何かがあるとすると、多分そちらだろう。

 

川の中に入ると、ひんやり冷たい。天井から降ってくる水滴が増えてきた。川を渡りきると、砂の質が変わる。より泥に近くなり、河原に小さな川と水たまりが目立つようになった。

 

川の中には小さな魚がちらほら見える。光を当てると、びっくりして逃げていく。多分、目が退化してしまっているのだろう。この辺りでは、ちょっとした岩などにも、グロウワームが巣くっていた。小さな虫が飛んでいる。彼らは、光など必要としないから、グロウワームの罠に落ちてしまうのだろうか。

 

川の中の魚はあまり多くない。こう浅い川では、大型の鰐とか肉食の魚とかは棲息できないだろう。だが、あの大きな蛇の例もある。こういった閉鎖空間では独特の生態系が形成されるとか聞いたこともあるし、幾つかのフィールドでは実際にそれも目撃している。何がいるかは分からないから、やっぱり慎重に行くしかない。

 

岸壁に到着。そそり立った絶壁で、とても素手では登れそうにない。ロッククライミングの技術など無いのだ。腰に安全装置を付けたザイルなら、時間を掛ければ登れるが。これでは、フックを仕掛ける場所もない。

 

何か、痕跡はないか。川の上流から下流に沿って、念入りに調べていく。下流に歩くと、滝の音がかなり強くなっていた。相当に深いところにまで落ちているらしい。これに落ちたら、地上に戻るのはかなり骨だ。慎重に行動しなければならない。

 

皮肉なことに、一定距離を保って此方を見つめている、何者かの気配が指標になった。危険地域に近付くと、殺気が出るので、どうしても分かり易い。さっきよりずっと気配が露骨になっているのは、焦っているのや、此方を怖がっている事があるのだろう。

 

滝が見えた。此処まで、岸壁に、特に変わったところは無し。

 

滝というものは、当然川底を削りながら、後退していくものだと聞いたことがある。ひょっとして、滝の更に奥に、横穴か何かがあって、そっちに金塊が治められているのではないのか。もしそうなら、もうスペランカーの手には負えない。異能者の中で、ロッククライミングのスキルを持つ人間を呼ぶしかない。

 

だが、そういう判断をするのは、調べきってからだ。もしもスペランカーが見落とした所に金塊があったら、報酬に響くどころか、評判を著しく落とすことになる。ただでさえ一流とは言い難いスペランカーなのである。良くて二流の評判を更に落とすことは、そのまま生活が出来なくなる事に等しい。

 

そうすれば、こんな汚れた仕事さえも来なくなる。

 

滝の音を聞きながら、岸壁を背に腰を下ろす。膝を抱えて座ったまま、じっと此方を監視している何者かに語りかける。

 

「ねえ、君、でいいのかな。 怒ってないから、出てきなよ」

 

返事はない。

 

最初は消すつもりであった。状況がはっきりして、正体が分かった今は。説得できないかと思っている。まあ、難しいだろうが。リュックに入れてあるあれを使わなければならないかも知れない。それは、出来るだけ避けたい。巧く使えば、あの男でさえ屠れる道具だ。何度か使って、その非人道性にも吐き気がする思いをしている。

 

「君、上の白骨の野で死んだの? それとも、崖の下に落ちたの?」

 

やはり、返事はなかった。ただ、若干の動揺は感じられた。スペランカーの実力では、どんな風に心を乱したのかまでは分からない。だが、それでも充分だ。まだある程度の自我は残っているらしい。一番面倒な霊体は、もう自分が何者かも分からず、ただ本能のまま相手を祟り殺すような輩だ。

 

霊体のまま、この世にとどまってしまっている存在には、他のフィールドで遭遇したこともある。ああいう連中は、沼に潜んで獲物を狙う鰐に近い。もう、人間の残骸と言うよりも、魔物と化した存在だ。特に、霊感のないスペランカーにも感じられるほど強くなっている連中は、もはや殺戮兵器に近い。

 

だが、さっき三度に渡ってスペランカーを殺した此奴は違う。まだ、対話の余地はあるのではないかと、スペランカーは睨んでいた。

 

リュックを開けて、缶を出す。今度は何が出るかなと、わくわく。引き出した手の中には、鮭缶があった。骨まで食べられる所が嬉しい缶詰で、ちょっと味はあっさりしているが、軟らかく煮えている骨の食感が大好きだ。普通は取り出さなければならない所を、そのままかじれる所がいい。お醤油を付けると更に美味しくいただけるのだが、今回は我慢だ。そのままでも食べられるのだから。

 

まだ缶詰はある。お箸は幸いさっきの岩直撃でも折れなかったので、手で食べずに済んだ。もぐもぐと鮭缶を食べるスペランカーは、ずっと視線を感じている。ひょっとして、奴は殺している相手が人間ではないとでも思っていたのだろうか。

 

あり得る話だ。特殊な環境にずっといると、人間はおかしくなる。外部の存在を、人間だと思えなくもなる。

 

何処の国でも世界でも、人間なんて大して変わらないものだと、スペランカーをいやいや送ってくれたあの男が、ぼやいていた事がある。幾多の世界と国を渡り歩き、発火能力、飛行能力や巨大化能力、変身能力までも駆使して軍隊と戦い、単身撃破し続けたあの男が言うのである。それは一面の真実なのだろう。文化は違えど、根底の人間は変わらず。確かに、スペランカーにも納得できる話である。

 

だからこそに。どうにかして、説得したいものなのだが。

 

今の内に、覚悟は決めておいた方が良さそうだ。鮭缶を食べ終えると、スペランカーは探索に戻るべく立ち上がる。今度は上流に向けて歩いてみる。上流はかなり緩やかな坂がずっと続いていて、砂利は上に行けば行くほど粒が大きくなっていった。このまま上流に向かうと、流れが分岐する可能性もある。何かのヒントは恐らくあるのだろうが。さっきの碑文にはあの戸を開けるに役立つ事以外は書かれていなかったし、何かヒントがあるのに期待するしかない。

 

ライトで慎重に岸壁を照らしながら、上流へ。やがて、此方でも滝の音が聞こえてきた。しばらく行くと、広大な地底湖が見えてくる。浅いが、しかしかなり広い。水面は鏡のようであり、踏むと何処までも波紋が広がっていく。これは、汚しては行けない場所のような気がする。

 

滝はその奥にあった。ひょっとすると。

 

岸壁に沿って、地底湖の縁を歩いていく。魚がかなりの数住み着いているらしく、ライトで照らすと、時々泳ぎ去る影が見えた。深さはそれほどではないらしく、多分突き落とされても死なない。ただ問題が一つある。スペランカーはあまり泳ぎが上手ではないのだ。さっきのババロア皿と間欠泉のような浅い場所ならともかく、足がつかないような所に放り出されると、流石に少し難儀するかも知れない。

 

滝の近くにまで来る。

 

ビンゴだった。やはりこの辺りの壁に、何か細工した跡がある。湖底にも、どうやら人間が削ったらしい、不自然な凹みが点在していた。そうなると、この奥はかなり曲がりくねっている事が予想される。リュックを開けてみる。一応、食料は充分。予備のザイルも少し入っている。

 

金塊があるにしろ無いにしろ。この奥にて、真相がはっきりする。

 

頬を叩くと、スペランカーは滝の裏を覗く。やはり、その先には。延々と続く、洞穴が広がっていた。

 

 

 

ついに、此処まで来た。

 

彼は、際限のない恐怖に、身を包まれていた。

 

話し掛けられた時も怖かった。だが、ついに此処まで土足で踏み込まれたことが、それに拍車を掛けていた。

 

殺せないのではないかという疑念は、今や確信に変わりつつある。強大な武器を身につけた、如何にも強そうな戦士と戦った時も。奴は心臓の鼓動を止めることで、倒すことが出来た。それなのに、三度殺しても、平然とずかずか進んでくるあいつは、本当に殺せるのか疑問でならない。

 

此処は彼のホームグラウンドだから、罠は色々仕掛けてある。凶暴な生き物も巧く誘導して、飼い慣らしてある。だが、しかし、それでも勝てるのだろうか、疑念が強い。

 

恐怖が、体を拡散させているのが分かる。憎悪によって保たれていた体が、別の感情によって乱されているのだ。

 

怖い。彼は今、ただそう思い続けていた。

 

彼が集めて育てたあれに、勝てる生き物など、いはしないというのに。

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