オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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5、もっともおぞましきもの

ラットソン村の郊外に、軍用ジープが停車したのは。アリスらがフィールドに消えてから、きっかり二時間後のことであった。ジープから降りてきたのは、筋肉質の巨漢である。何事かとわらわら現れる村人達も、その男の事は知っていた。

 

「ふん、Jの奴の報告通りか。 既に中は異神の領域のようだな」

 

「あ、貴方は!」

 

「お前達、アンリエッタとか言う小娘は何処にいる」

 

突然話を振られた村人達は、青い顔を見合わせると、アンリエッタの家を指さす。

 

頷くと、その男。世界最強のフィールド探索者Mは、大股で目的の場所へと歩き始めたのだった。

 

そもそも今回の事件は、N社上層もきな臭いと感じていた、らしい。異質な存在鳥男の事は、アリスからN社もたびたび報告を受けていた。それによってMら一部には知らされていたが、N社も今回のフィールドを要注意攻略対象として認定していたほどなのである。故に豊富な実績を持つスペシャリスト二人を社外から派遣して貰い、なおかつ何度も交戦経験があるアリスを動員したのだが。

 

しかし、Jの話だと、妙な所から横やりが入ったのだという。しかもその横やりには、かなりの資金が投入されていたらしく、N社としても対処に困ったと言うことだ。

 

そこで、N社は彼らの動向を調査するために、飛行能力と高い偵察能力を併せ持つ営業Jを派遣した。Jはアリスや他二人にも気付かれないように配下の分身をフィールドに派遣し、そして状況を観察したのである。

 

結果が、近くのフィールドを攻略し終えたばかりだったMにも届けられた。それで、事態を重く見たMは、自身援軍に赴くことを承知したのである。

 

無遠慮に呼び鈴をがらがらと鳴らしたMだが、誰も出ない。そういえばこの呼び鈴、古くさいしろもののはずなのに、妙に汚れていない。風雨にさらされた雰囲気が無く、ついさっき取り付けられたような感触だ。着いてきていた村人達に、筋肉に覆われた太い首を回してMは振り向いた。

 

「誰も外には出していないな」

 

「そ、それはもちろん」

 

「それはそうだろう。 此処の小娘は、お前達にとって大事な金づるだものな」

 

蒼白になる村人達を無視して、Mはドアを強引にこじ開ける。といっても、Mの腕力からすれば、ドアを外すことくらい、何でもないことであったが。

 

中に入ったMが見たのは、ある意味予想通りの光景であった。

 

息を呑む村人達を無視して、Mは無線の電源を入れる。

 

「私だ」

 

「おや、旦那。 もう到着しましたか」

 

「それはいい。 J,すぐに此処に魔術解析班を派遣しろ。 しかもとびきり腕が良い連中を、金に糸目を付けず集めろ。 私はこれからフィールドに乗り込むが、それでも確実に勝てるとは思うな。 へたを打つとF国が滅ぶぞ」

 

「わかりやした。 ひひひ、すぐに手当たり次第に集めまさあ」

 

無線を切ると、Mは村人達に振り返る。

 

そして中の惨状を見て青くなっている彼らに、すぐに村から避難するように勧告したのだった。

 

 

 

人間の顔が浮き出た触手が、引きちぎられていた。正確にはアリスが引っ張った途端、はじけ飛ぶようにして中途が吹き飛んだのである。

 

そんな至近に、ふわりと降り立ったアリスは。燃えるような目をダゴンに向けていた。

 

「あの鳥男、貴方の僕でしたのね」

 

「ほう、良く解析したな」

 

「それも、貴方が取り込んだ人間や、その魂を材料とした!」

 

「その通りだ。 お前達も、食べたものを血肉にしているだろう。 それと同じ事だ」

 

無数の触手が、アリスに殺到する。だが、さっきまでとは比較にならないほどスムーズな動きで、アリスは飛ぶ。

 

続けて、ダゴンの全身の目が見開き、レーザーを照射する。ジグザグに飛び、アリスはその全てを回避して魅せた。ダゴンの猛攻はまだまだ続く。背びれからミサイルのように骨が撃ち出され、上空から降り注ぐ。

 

スペランカーは、アリスがその全てを、見事にかわしていくのを見て、気付く。

 

何かあった。精神的に、一回りも、二回りも大きくなるようなことが。

 

援軍を求めに来た時のアリスの様子を思い出す。きっと、このダゴンとアリスは、何かとても深い因縁がある相手なのだろう。さっきの会話を聞く限り、アリスと鳥人間達の間は何となく想像できる。

 

怒るのも当然だ。そして、それを止める権利は、スペランカーにはない。

 

「ハッ! 少しの間に、素晴らしい動きだ! さっきとは能力の展開がまるで段違いではないか!」

 

「父の魂を、受け継ぎましたから!」

 

アリスは気付いたようだ。ダゴンの周囲を覆う、帯電した黒い霧に。

 

そしてダゴンが、アリスを近づけたがらないという現状に。

 

あの、ダゴンを覆う障壁は非常に強力だ。だが、さっきからスペランカーに対する猛攻を停止し、距離を取り始めていることからもわかるが、確実に限界が近付いている。あれさえ破れれば、勝機はある。

 

「よかろう! あの男同様、貴様も白痴の至高神を打ち倒すための貴重なる糧としてくれよう! 光栄に思うがいい! 辺境惑星の能力者が、宇宙の中心にいる狂気を打倒する鍵となりうるのだ!」

 

「させない! そんなこと、させないからっ!」

 

ダゴンの目が、スペランカーを見る。ブラスターを向けている、スペランカーを。

 

同時に、アリスが急降下に入った。ダゴンが放つ、無数のレーザーが迎撃する。近付けば密度が上がるのは自明の理で、足から腕から肩から、次々血がしぶく。風船は風邪に揺られて激しく上下しているが、何かの加護でもあるかのように被弾しなかった。

 

拳を固めたアリスが、ついに至近に。ダゴンが吠えたけり、光の壁のようなものを出現させた。

 

まだ、こんなものを出せる余力を残していたか。

 

しかしアリスは、躊躇無く、その壁に拳を叩き込んでいた。

 

「魔術だか何だか知りませんが、構造体内部の重力子を乱されて、無事ですみますかしら!?」

 

「ふん、その程度の小さな牙で、我に届くと……」

 

スペランカーが、位置を変えているのに、ダゴンがやっと気付く。

 

そこは、さっき川背がもぎ取った下あごの、再生しきっていない部分の下。

 

近付いてみて分かったが、さっきの死闘の影響か、まだ回復しきっていない部分があったのだ。これほどの至近距離なら、へっぽこなスペランカーの腕前でも、ゼロ距離射撃で頭部を狙える。

 

僅かな躊躇が、命取りになった。

 

集中が途切れたダゴンのシールドを、アリスが放つ渾身の拳が打ち砕く。

 

「アリスちゃん、下がってっ!」

 

同時にスペランカーは、ブラスターを。海神の頭に、直接叩き込んでいた。

 

意識が途切れる中、見る。

 

絶叫するダゴンに、ついにシールドを打ち破った黒い霧が殺到する有様を。

 

巨体が、見る間に骨になり、溶け、砕けていく様子を。

 

既に干上がっている川の底に倒れ込みながら、スペランカーは思う。これで、良かったのだと。

 

 

 

意識がはっきりしない。

 

酷い死に方をした後や、ブラスターを使った後。蘇生すると、こんな感じになることがある。だが、目が冴えてきたのは、危険がまだあるからだろう。

 

体中が重い。

 

裸身に、毛布を掛けられているようだった。無理もない。ダゴンの言葉を信じるのなら何万回と想像も出来ないような滅茶苦茶な攻撃で殺されたという話だし、服はもう諦めるしかないだろう。

 

咳き込むと、口の中に錆の味がした。

 

「よかった、目を覚ましましたわ」

 

「だから、大丈夫だって言ったでしょ」

 

「信じられませんわ、そんなこと」

 

川背ももう意識を取り戻しているらしい。だが、声に元気がないのは仕方がないことだ。常人なら何度も死ぬような目にあったのだから。

 

体を起こそうとして失敗する。

 

意識が飛んで、また目が醒めて。毛布に、大量に血が飛んでいるのに気付いた。

 

なるほど、蘇生しては吐血して、というのを何度も繰り返したという訳だ。それでは心配もするだろう。

 

やっと体を起こす。包帯を手足に巻いた川背が、笑顔で側に座っていた。アリスも傷だらけだが、帽子も風船も無事である。

 

「お疲れ様でした、先輩」

 

「うん。 何だか、とても悲しい戦いだった。 それに、これはどうしたの?」

 

周囲の様子はどうしたことか。

 

禍々しい枯れ果てた森は消えていない。ダゴンがフィールドの核になっていたのはほぼ間違いない。このような現象ははじめて見る。

 

「ダゴンは?」

 

河のあった所を、アリスが指さす。

 

其処には、僅かな残骸だけが残っていた。黙祷するスペランカーに、アリスが非難の声を挙げる。

 

「貴方は、あんな鬼畜に!? なぜそのような!」

 

「あの神様、確かに残酷だったけど、紳士だったと思うよ。 だって、私と戦ってる間、川背ちゃんに攻撃しなかったもん」

 

「え? そうだったんですか?」

 

「うん。 あんなに強かったんだから、その気になれば森ごとドカン、だって出来ただろうにね。 きっと、正義が違うってだけだったんだよ。 でも、倒さなきゃいけなかった」

 

アリスはずっと器が大きくなったみたいに思えるが、それでもまだ子供だ。さっきのやりとりからして、すぐに相手を受け容れられないのは当然ともいえる。

 

だが、それでも。いつまでも憎み続ける訳にはいかないだろう。

 

「川背ちゃん、動ける?」

 

「肋骨が折れてて、あまり激しくは難しそうです」

 

「弱ったなあ。 私もブラスターは連射が効かないんだ。 もしダゴンより強い敵が出てきたりしたら、もうどうにも出来ないよ」

 

「それでも、待ってはくれないようですわよ」

 

そういえば、周囲の地形が違う。スペランカーを満身創痍なのに出来る限り引きずって、敵から離れようとしていてくれたのだろう。

 

そして、遠くから地響き。アリスが舌打ちした。

 

「追いつかれ、ましたわね」

 

「先輩、僕の着替え使ってください」

 

川背が、痛みに眉をひそめながらも、ルアーを取り出す。川背のバックパックはちょっと心配なのだが、開けてみると普通のだった。ダゴンの下あごは、多分異世界にとばされたのだろう。

 

もたもた着替えている内に、足音の主が見えてくる。

 

巨大な肉塊。怪物が無数に重なり合った、最初にスペランカーが交戦することになったあの貴族が操っていた相手だ。そういえば、これはまだ排除していなかった。ダゴンが言っていたように、契約相手が切り替わったのだとすれば話は通じる。だがあんな強力な神との契約を強制的に切断して、別に切り替えることなど出来るのだろうか。あのシュナイゼル卿という貴族は、とてもそんな事が出来そうな人間には見えなかったのだが。

 

兎に角、流石に裸のままでは動けない。

 

川背とスペランカーはあまり背丈が変わらないし、以前服を貸し借りしたこともある。胸の大きさだけが決定的に、同じ生物かと思えるほどに違うが、それ以外は大丈夫だ。あわてて着替えている内に、すっころんでごちんと後ろ頭を強打。一度死んだが、すぐに蘇生して、黙々と着替える。やっと上着とズボンを着た時には、もう肉塊は見上げるほどの至近に迫っていた。

 

最悪なことに、威圧感はさっきのダゴンに全く引けを取らない。

 

ブラスターを使えるようになるまで、後数時間は軽くかかる。これはまだ何十万回か死なないといけないかもしれない。非常に憂鬱だが、他に方法もない。都合良くM氏でも来てくれれば、どうにかなるかも知れないが。

 

立ち上がる。立ちくらみがして、膝が折れかけた。

 

どうにか態勢を立て直して、敵を見る。ヘルメット無しだと、どうも気分が乗らないが、それでもやらなければならない。

 

融合した巨大な怪物は、塔のように高い。ざっと見上げても、四十メートルはくだらないだろう。

 

ただ、救いがあるとすれば。

 

ただ一点だけから、力を感じると言うことか。ブラスターを撃てるようになるまで時間を稼げれば、或いは。

 

それに、一つだけ、気付いたことがある。

 

無数の生物が重なり合った頂上にいるのは、狂気の笑みを浮かべたシュナイゼル卿。はげ上がった頭を晒した中年男性は、なにやら吠え猛っていた。

 

「なぜ美しい世界は来ない! 私は、全てを捨ててきたのに! なぜ貴様のような、貴族の面汚しが生きている! 神は慈悲も何も持たぬと言うのか!」

 

「あの男は、私がどうにかしますわ」

 

「倒そうと思わないでいいよ。 時間だけ、稼いでくれる?」

 

アリスは、じっとスペランカーを見る。

 

その視線が、さっきとくらべると、幾分和らいでいるように思えた。

 

「十時間でも、二十時間でも」

 

不敵に、そうアリスは言った。

 

舞い上がるアリス。手も足も包帯で巻かれているというに、戦意は衰えていない。肩を貸してくれた川背に、スペランカーは無理を言う。

 

「一つ、お願いがあるんだけど」

 

「先輩の言うことなら。 あ、でも僕のお店が傾くようなのは駄目ですよ」

 

「大丈夫、そういうのじゃないから」

 

耳打ち。

 

川背は頷くと、残り少ない力を振り絞り、ルアーを振るってくれた。

 

 

 

フィールドの中。その小柄な人影は、鈴を持って全てを見下ろしていた。

 

あの三人が、まさかダゴンを葬るとは思わなかった。疲弊はさせられるだろうとは思っていたから、漁夫の利を締めようとは思っていたのだが。

 

この計画は、父祖の代から数十年にわたって作り上げられたものだ。

 

餌に釣られた馬鹿どもを使って、もっと大きな魚を釣り上げる。実際、それはもう寸前まで進んでいる。

 

振り返ったのは。大きな人影を見たからだ。自分の影を覆うほどだった。

 

「やはりお前が黒幕だったか」

 

男が言う。

 

知っている。この男は。世界最強のフィールド探索者、Mだ。枯葉を踏み、傲然と立ちつくしている。

 

「英国貴族どもだけではなく、N社まで振り回すとは大したタマよ。 私の知り合いにも権謀術数に優れた悪党がいるが、そいつ以上かもしれんな」

 

何のことか。Mに聞き返すが、既にネタは割れているのだと、一蹴される。

 

「そもそも、ロマノフ王朝の遺産が本物だったとして、それが金塊とは限らない。 あまりにも意外なものであれば、目立つ場所にあってもきづかれはしない」

 

Mは、意外にも頭が良かったらしい。次々と、真相を掘り返してくる。或いは、ブレインになるような奴が、一緒に来ているのかも知れない。

 

「お前は、いやお前の一族は、わざとらしい名字を名乗ることで、金の匂いをちらつかせ、欲得づくの馬鹿共を集め、負の力をこの地に集めた。 そしてそれを使い、さらなる大きな獲物をつり上げることが、目的だった」

 

「よくご存じで」

 

「ダゴンの手先になっているあの馬鹿貴族が釣れたのは幸運だったとでも思っているのだろう。 アリスに異常な執着を魅せるあの変態野郎を誘き出し、そして馬鹿なトレジャーハンターどもを呼び出した。 そいつらと、欲に狂ったアホどもを生け贄に、ダゴンを完全な形で呼び出させ、フィールドを発生させた。 そして、アリスと手練れ達にぶつけ、更にもっと大きな奴を、ああやって中途から呼び出したのは。 デモンストレーションだったんだろう? その鈴が、如何に兵器として優れているか、見せつけるための」

 

アリス達が負けても、それで良かった。ダゴンを打ち倒すほどの神威を呼び出し、なおかつ操ることが出来れば。その破壊力は核兵器にも匹敵する。欲しがる国はそれこそ幾らでもある。

 

ぎりぎりで、N社は陰謀の全容を暴き出すことに成功したのだと、Mは言った。

 

くすくすと笑う。

 

N社にコネクションを作るのは大変だったのに、案外壊れる時は脆いものである。顔を上げた、アンリエッタ=ロマノフは、鈴をもう一つ鳴らした。

 

地面を突き破り、無数の触手が伸びる。多くはMとアンリエッタの間を遮り。そしてアンリエッタは、地面を割ってせり上がってくる、巨大な球体に跨った。

 

「分かった所でどうにもなりませんよ。 この宝、ロマノフ王朝の宝物庫から先祖が持ち出した威神の書の破壊力は見ての通り。 さっそく貴方の宿敵と名高い大魔王Kにでも売り込むとしますよ」

 

「たわけが」

 

「はあ?」

 

「制御できん武器など、ただの危険物に過ぎん。 お前、そいつが本当にお前などの言うことを聞いているとでも思ったのか?」

 

ぴたりと触手の動きが止まる。

 

そして、世界全てを覆い尽くすような、巨大な笑い声が辺り中から響き渡った。

 

「そいつの、鐘に擬態している神さんの目的はな。 お前みたいな阿呆を使って、大きな戦争を起こさせて、その死者の魂を全て喰らって完全な形で復活することなんだよ。 ロマノフ朝の宝ぁ? そんなもの、金塊どころか小骨一つも残ってはいない! あったら、国など滅びてはおらん! お前は、先祖の代からずっと、その神さんの掌の上で踊らされてきたに過ぎん! さっさと目をさませ!」

 

「ざ、戯れ言をっ! 焼き尽くしなさい、クトゥヴァ!」

 

狂気の笑いの中、触手が炎を帯びる。

 

そして、Mはにやりと笑うと、構えを取った。世界最強のフィールド探索者M、本領発揮の瞬間であった。

 

 

 

辺りには、ダゴンの亡骸が点々と散らばっていた。あの後、相当派手に吹き飛んだらしい。

 

川背も痛いだろうに、ゴム紐を振るって跳んでくれている。肩に掴まって一緒に行きながら、スペランカーは一度だけ、振り向いた。

 

アリスは、あの巨大な怪物相手に、残る力を振り絞り、戦ってくれている。

 

多分あの怪物は、植物で言う根みたいな存在の筈だ。巨体を振り回して、辺りに訳がわからない攻撃をばらまいて。爆発が巻き起こり、嬌笑が響き渡る。

 

アリスはああいっていたが、何時までも耐えられはしないだろう。一か八かやってみて、駄目なら自分が身代わりになって、皆を逃がすしかない。

 

「川背ちゃん、分かってると思うけど、いざというときはアリスちゃんと逃げて、Mさんでも呼んできて。 それまで、何百万回でも耐えるから」

 

「先輩ッ!」

 

「大丈夫、いやだけど、こわいけど。 痛いのは平気だから」

 

ああやって、無限の死の連鎖に放り込まれることは、初めてではない。

 

最初は幼い頃だ。育児放棄した母が食料を全くくれなくなった時機があった。ゴミための中に放置されたスペランカーは、極限の飢餓の中で、それこそ数え切れないほどの死を経験した。

 

その時は正気を取り戻すのに、随分時間が掛かった。今でも母を許してはいないし、一緒に暮らす気もない。だが、神のあの無茶な攻撃に精神が崩壊しなかったのも、あの時の経験で耐性が出来ていたからだろう。

 

不老不死なんて、ろくな能力じゃない。

 

さっきは神様がああいう手を使ったからスペランカーは五分に渡り合えたが。実際には、スペランカーを無力化する方法など幾らでもある。あの神様は、それを承知で真っ向からの戦いを挑んできた。

 

残虐だったし、人間を食料としてしかみてはいなかった。だが、戦士として認めてくれたから、本気での戦いをしてくれた。だから、黙祷したのだ。

 

遠くで、凄い音がする。アリスの戦っているのとは、また別の方角だ。スペランカーは頭を振ると、急いでと呟く。川背は唇を噛むと、無言で加速した。

 

到着したのは、ダゴンが死んだ場所。

 

予想通りと言うべきか。其処には、まだ残留思念らしいものが残っていた。賭だ。だが、やる方が、やらないよりはマシ。

 

「ダゴンさん」

 

「我を屠った戦士か。 我にはもう具現化する能力もない。 好きにするがよい」

 

「うん。 好きにする。 私の体に、住まわせてあげる。 だから、少し力を貸してもらえないかな」

 

ぎょっとしたのは川背である。

 

だが、スペランカーは、考えを変えない。

 

恐らく、それしかアリスを救う方法はないから。

 

それに、訳のわからない神様の呪いを受けている身である。今更、新しいのが入った所で、大した代わりはない。

 

「何を言っている」

 

「同格の神って最初言っていたよね。 それは要するに、相性が良いって言うことでしょ?」

 

「……その通りだ」

 

「それなら、私の体の中で、力を蓄えたら出て行くといいよ。 できれば出て行った後人は殺さないでほしいけど……」

 

ダゴンが混乱しているのがわかる。もっと慌てているのは、川背だった。

 

「せ、先輩ッ! な、何を言ってるか、分かってるんですか!? 錯乱しちゃってないですよね!? ぼ、僕の目をしっかり見てください!」

 

「大丈夫だから、落ち着いて、川背ちゃん」

 

「目的は何だ。 ほとんど面識もないあの子供を救うために、我を体に入れるなど、正気の行動ではない」

 

「一応取引がしたいって事かな。 こっちの要求は二つ。 一つは、ブラスターの充填して欲しい」

 

ダゴンが考え込んでいるのがわかる。川背は慌てていて、何を言ったらいいのかわからない様子だった。

 

「もう一つは」

 

「出来れば、アリスちゃんの家族を解放してあげてほしいかな」

 

「……わからぬ。 我を体に入れたりすれば、どのような禍を為すかわからぬぞ。 そなたの脆弱な精神を砕き潰すくらい、我には容易だと知れ」

 

「そうかもね。 でも、誰かを助けられる方法があるんだったら、そうしてみたい。 それだけ」

 

あれだけ散々酷い殺され方をしたのに。

 

スペランカーは、ダゴンに手をさしのべた。悩んだ末、ダゴンは。闇そのものとなったその霧状の体から、触手を伸ばした。

 

スペランカーは、目を閉じる。

 

そして、貧弱な体に、貧弱なりの力が漲るのを感じた。




元々クトゥルフの呪いそのものとなっていたスペランカー。

ダゴンを受け入れ取り込んだ事により。

その力は、更に増す事になります。

相変わらず貧弱な頭と体は変わりませんが……
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