オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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6、決着

シュナイゼルが吠える。触手が燃え上がり、無数の火球を投擲してきた。それは空中で炸裂し、更に多くの稲妻となって、辺りを蹂躙する。

 

ついに、風船を掠める。

 

特注とは言え、これ以上掠めると、多分爆ぜ割れる。

 

アリスは必死に重力子を制御して、分子運動をそらし、雷の軌道を自分から外しつつ、機動を続ける。だが、重力子は世界の四つの根幹となる力の中で最も弱く、なおかつ力にも限界がある。

 

唸りを上げて、触手が跳んでくる。騎士が使うランスのような巨大な棘が、無数に跳んでくる。それも、空中で自在に軌道を変えながら、だ。

 

ダゴンよりも、更に手強いかも知れない。

 

けたけたと笑いながら、シュナイゼルが唾を飛ばす。

 

「死ね、まがい物! まがい物ばかりの世界など、滅びてしまえ!」

 

「哀れな人」

 

「哀れなのは貴様らまがい物だ! 卑しい反逆者の分際で、国を恫喝して貴族の地位を得た愚か者どもめ! 貴様ら豚が高貴なる義務などと口にするたびに、言葉が汚れる! 我らの誇りも、地に落ちて汚される! それがどれほどの屈辱か、わかるはずもあるまい!」

 

「貴方こそ、何も分かっていませんわ」

 

静かに、アリスは返す。

 

ランスのような棘を、正面からはじき返した。そろそろ息が上がってきている。もう、そう長くは戦えないだろう。

 

だが、それでも、此奴相手にだけは退けなかった。

 

周囲の空間が歪む。加速して、移動する後ろから、次々と爆圧が襲ってくる。完全に精神のたがが外れているらしいシュナイゼルは、けたけた笑いながら、空間そのものを爆破しているようだった。

 

シュナイゼルの全身が大きく軋む。鮮血が噴き出す。

 

多分、相当無理をしているのだろう。だが、奴が滅びる前に、此方が倒されそうだった。

 

大きく、シュナイゼルの口が裂けた。そして、空を割かんばかりの青白いエネルギービームが放出される。どうにか回避はしたが、余波は凄まじく、きりもみ回転しながら落下、地面に激突した。

 

遠くの空で、巨大な爆発が巻き起こる。

 

村は衝撃波をもろに浴びているかも知れない。だが、直撃は避けているし、死人が出ないことを今は祈るしかない。

 

「豚よ。 我ら貴族は、存在そのものが高貴なのだ。 故に王の手足となって世界の秩序を守り、秩序は我らに従わなければならぬ。 さもなくば、世界は麻のように乱れ、有象無象が好き勝手なことを繰り返す」

 

「残念ながら」

 

足に、力が入らない。だが、アリスはそれでも立ち上がる。

 

「貴方の言う高貴なる義務などという言葉は、腐敗した貴族が、豪勢な生活を正当化するために作り上げた寝言に過ぎませんわ。 貴族が産まれながらに、存在そのものが高貴ですって!? もしもノーブル・オブリゲーションという言葉が意味を持つとしたら、その当人が高貴であろうとするために必要なのであって、暴虐と搾取がそれによって正当化される訳ではありませんわ!」

 

さっき、恐らくは父の魂を得ていたあの鳥人間に言われて、気付いた。

 

例え、史実の現実がどうだったとしても。その心が高貴であろうとするために、必要なこととすればよいのである。

 

少なくとも。貴族だから産まれながらに高貴であり、世界がその秩序に従わなければならないなどという事は、絶対にあり得ない。

 

言葉を汚すなと、シュナイゼルが叫く。アリスは視界の隅に、紅蓮の炎を捉える。殆ど同時に、シュナイゼルの巨体全てが燃え上がった。地面の下から、もの凄い熱量を感じる。

 

いやな予感はしていた。

 

このフィールドそのものが、今や敵の背中に乗っている状態なのではないのか。

 

邪神というのなら、それくらいのことはあり得る。

 

「殺す! 殺す殺す殺す! 私がやってきた事を全て否定し、汚そうとする貴様は、殺す!」

 

「貴方自身が高貴であろうとすることを止めはしませんわ。 しかしそのために他者を否定することは、悪以外の何者でもない!」

 

「ほざけ、乳臭いガキがああああああっ!」

 

塔のようなシュナイゼルの巨体が、バナナか何かでも剥くかのように、五つに分かれていく。中央の巨大な塔の周囲が、極太の触手となり、地面をせり上げながら放電する。多分、全力での、辺り一帯を吹き飛ばすつもりでの攻撃を仕掛けてくるつもりなのだろう。

 

シュナイゼルの頭から鮮血が噴き出しているのが見えた。充血している奴の目から、血涙が流れ落ちている。

 

泡を吹き、叫いているその姿は。もはや滑稽であり、狂気に満ちている。いや、とっくの昔に、この男は狂気に落ちていたのかも知れない。恐らくは、自分の家族でさえ、信念の名の下に犠牲にしてきたのだろうから。

 

実の息子を生け贄にしてまで、己の誇りを守ろうとした。

 

誇りが大事なことはわかる。だが、此奴のあり方だけは、逆のことをした父の名誉のためにも。本当の意味で、アリスが今や信じられる高貴なる義務のためにも。許す訳にはいかなかった。

 

 

 

アリスに向け、総力での攻撃を放とうとしている怪物が見えた。

 

そして、その下の地面が、大きく撓んでいるのも。

 

感じる。恐らくこれは、もうフィールドの地面の下全てが、奴の体なのだろう。ダゴンと此方が交戦している間に、念入りな準備をしていたというのか、或いは別のことか、よくわからない。

 

ただ、もう尋常な手段で奴を倒せないのは確実だった。

 

だが、わかる。あの巨体の核となっているのは、間違いなくシュナイゼル自身だ。それさえ打ち砕いてしまえば、確実に滅ぼすことが出来るだろう。

 

全身に力が満ちているのがわかるが、同時に酷く痛む。川背も状況は同じだろう。

 

もう、好機は一度だけだと見て良い。

 

敵の動きが止まるとしたら、攻撃の寸前。その一瞬だけだ。

 

「タイミングは任せるよ」

 

「有難うございます」

 

真剣な面持ちで、川背が頷く。というよりも、タイミングの見極めという点で、川背を凌ぐ猛者は存在しないだろう。折れた骨が痛むだろうが、我慢して貰う他無い。後は。もう一つ、何か有利に働く要素があれば。

 

無限にも思える一瞬。バナナのように展開したシュナイゼルの巨体が、停止する。川背が躊躇無く近くの枯れ木に複雑にルアーを巻き付け、激しい機動で一気に距離を詰めた。凄まじいGがかかり、一回死ぬ。だが、意識を取り戻した時には。

 

既に、至近に、苦悶の表情を浮かべるシュナイゼルの顔があった。

 

「な、こ、これは!」

 

この人自身に、憎しみは感じない。

 

可哀想な人なのだなと思う。その点では、ダゴンと同じだ。

 

ダゴンとの契約で、充填が完了しているブラスターが、至近で、シュナイゼルに突きつけられる。その太ったナマズのような顔に、恐怖が浮かんだ。

 

川背を突き飛ばして、引き金を引く。

 

シュナイゼルに直撃したブラスターの光は、かの人が天に向けて咆吼するのと同時に、その核を粉みじんに砕いていた。

 

スペランカー自身も、その光の柱に巻き込まれる。多分、数度は死んだだろう。全身が焼け付くのが分かった。

 

うっすらと、見える。

 

天に舞い上がったアリスが、己のありったけの力を込めて、巨大な怪物に鉄拳を振り下ろす。

 

そしてそれは。

 

破竹の言葉そのままに。巨体を、頂上から根本まで、根源的に粉砕していた。

 

 

 

風船が爆ぜ割れる。帽子も、真っ二つに引き裂かれて落ちた。

 

地面に着地すると同時に、吐血した。あまりにも体に負担が掛かりすぎたのだ。拳も煙が上がっている。焼け付くように熱く、そして引きちぎれそうに痛かった。呼吸を整えようとしても、巧く行かない。深呼吸を何度かして、ようやく、涙を拭うことが出来たほどだった。

 

辺りが、フィールドではなくなっていく。

 

最後、シュナイゼルの動きが止まったのはなぜかわからない。だが、スペランカーのブラスターが直撃したのは、そのおかげだろう。完璧なタイミングで、そこまでスペランカーを運んだ川背の動きも凄まじかった。

 

ふと、見上げて気付く。

 

青い空に、無数の風船が上がっていく。

 

それには人々が掴まっていた。

 

父がいた。母も。そして、弟のジムも。

 

何か笑顔で言っているようだが、言葉は聞こえない。

 

でも、アリスは悟る。ああ、そうか。これで、本当の意味での別れなのだと。

 

アリス。

 

見事だったぞ。お前はもう、小さくとも立派な貴族だ。

 

父の声がした気がした。聞こえた気なのか、本当に聞こえたのか、それさえもわからなかった。

 

涙で視界が霞む。どうして、邪神に喰われたのに。魂まで喰われて、あんなおぞましい怪物に変えられてしまったというのに。

 

アリス、貴方は私達夫婦の誇りよ。

 

今度は、母の声がした気がした。もうおぼろげにしか覚えていない声なのに、そうなのだとはっきり分かった。

 

ああ、どうして、笑っていられるのか。

 

アリスは、涙を拭っても拭っても、顔がくしゃくしゃになるばかりなのに。

 

お姉ちゃん。

 

格好良かったよ。

 

ジムの声もした。もう、どうしても、涙は止まらなかった。

 

あんなに反発していた家族なのに。あんなに嫌っていた弟なのに。

 

だが、わかる。此処は。笑顔で、送らなければいけないのだと。

 

心を強く持て。

 

貴族などと言う連中が、歴史上どうであったかなどというのは関係ない。自分は、違う存在になればいいのだ。

 

アリスは、渾身の努力で、笑顔を作った。きっと、くしゃくしゃで、みれたものではないだろうけれど。

 

それが、アリスに出来る精一杯だった。

 

いってらっしゃい。そして、いつか帰ってきて。

 

その言葉を送るだけで、精一杯だった。

 

 

 

フィールドではなくなっていく森の中、巨大な仏像が立ちつくしていた。地蔵菩薩を象ったそれは石で出来ていて、全身から煙を上げていたが。全体の構造はまるで崩れておらず、神々しささえ湛えていた。

 

やがて、大量の煙が巻き上がり、身長八メートル程まで巨大化したMが其処にたっていた。その尻からは、縞々の尾が生え、揺れている。

 

全身をはち切れんほどの筋肉で覆ったMは、今、粉砕した敵の亡骸を踏みにじりながら、鼻を鳴らしていた。

 

「ふん、流石に何十年も周囲中の人間を手玉に取っただけのことはあるな。 呼び出した邪神を盾に逃げたか」

 

Mは人間大のサイズに戻ると、服に付いた埃を払う。

 

邪神との戦いで、ほぼ無傷だったのだ。

 

戦いが始まり、邪神が恐怖に悲鳴を上げるまで、ほとんど時間は掛からなかった。要は、邪神は気の毒にも来る世界を間違えてしまったのだ。Mの技である「星の一撃」を受けた邪神は戦力の過半を瞬時に消失、とどめにMが放った技「仏像地獄」を浴びて爆散した。

 

普通の人間しかいない世界であれば、猛威を振るったのかも知れない。だが、この世界の人間は、既に尋常ではない耐久能力を身につけている。宇宙人との交戦ばかりか、異世界との交流までも経験し、そのタフネスは類を見ない。

 

Mは確かに最強だが、他にも強い戦士はまだまだいる。N社の精鋭になると、Mでさえ勝てるかどうかと言う相手が何人もいる。

 

アンリエッタを手配するようにJに連絡。既にフィールドは解け始めており、空には美しい星空が広がり始めていた。昼間のように明るかった辺りも、見る間に暗くなっていく。

 

それにしても、驚いた。

 

満身創痍のアリスが、スペランカーと川背に助力を受けたとはいえ、このフィールドのコアとなっていた邪神クトゥヴァを倒したことは、フィールドが消えていることからも明らかだ。Mがいくまで、あの小娘では生き残るのが精一杯、それも精々五分五分かと思っていたのだが、認識を変えなくてはならないかも知れない。或いは、スペランカーの力か。胸くそが悪い相手だが、その生存能力は認めている。アリスを其処まで成長させたのは、奴の力なのだろうか。

 

ヘリのロータリー音が辺りにとどろく。

 

弟のLが迎えに来たのだ。

 

Mとほぼ拮抗する力量を持つLは、しかし戦歴に恵まれず、どうしても影が薄いと言われ続けている。しかしその戦闘能力は決して低いものではなく、Lが来ても今回は同じ結果になっただろう。

 

ヘリに飛び乗ると、用意されていた特性のドリンクを口にする。

 

「アリスの方は満身創痍だろう。 出来るだけ早く、救助隊を廻してやれ」

 

「はい。 すぐにも」

 

パイロットに鷹揚に頷きながら、Mは今後、さらなる修羅場が訪れることを予感していた。

 

この世界に、嵐が来るかも知れない。

 

その時には、Mでさえ手に負えないようなとんでもない邪神が、現れるのかも知れなかった。




当然ですが、Lさんもお兄さんであるMさんと同様の凄まじい使い手です。

ただ、Lさんはちょっとメンタルに課題がありますが……それの克服は、また後の話です。
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