オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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原作では無駄に高すぎる機動力と使いづらい武器でとにかく扱いづらい自機であるウィルくん。

彼にも彼で物語があり。

引けない理由があって、仕事をしているのでした。


1、黒い影の島

ウィルはようやく故郷では成人したばかりである。背丈は170センチ後半と平均より若干高く、しっかり鍛えていることもあって贅肉はない。均整の取れた肉体の持ち主だと言える。

 

フィールド探索者と言うこともあり、特殊能力も備えている。逆に言えば、これがあるから師匠が育ててくれた。師匠は有能だが、天才的であったが故におかしな部分もあった。時折見せる冷酷さには、ウィルも冷や汗が流れるのを感じたものである。

 

熱気球から顔を出し、地面の様子を伺う。

 

禍々しい外見とは裏腹に、随分麗らかな島だ。何処までも草原が広がっており、時々茶色の石畳のようなものが広がっている。写真だけ見せられたら、多くのフィールド探索者の生き血を啜ってきた魔境だなどと、誰も信じはしないだろう。

 

方位磁針を取りだしてみる。

 

呻いたのは、早速異常が現れたからだ。

 

針が異常な速さで回転している。火花を散らしそうなほどである。

 

もう一度、地面を観察してみる。そうすると、違和感が早速沸き上がってきた。

 

小動物の類が見あたらないのである。それどころか、双眼鏡で確認してみると、昆虫の類もいない。これだけ青々と茂っている草があって、昆虫が見あたらないというのは異常すぎる。この星は昆虫こそもっとも多種多様に変化しており、離島でもその姿を見掛けないことは、まず無いのだが。

 

熱気球の高度を下げる。撤収の際の命綱だ。もっとも、放置しておいて、無事で済むかはわからないが。

 

この島には、邪神がいるとも言われている。フィールドでは、何が起こっても不思議ではないのである。普通の物理法則や常識など通用しない。霊的存在が現れるのなど日常茶飯事だし、文字通りの神と呼べる相手に出くわすこともある。師匠に救われて命を拾ったが、思い出したくない戦いも幾つかあった。

 

徐々に高度を下げた熱気球は、理想的な位置に着陸した。

 

火を消して、気球をしぼませ、畳む。降りて踏んでみると、案の定だった。茂っているように見えるのは、草ではない。草のように見えるが、人工芝生にも似た、よくわからない存在だった。

 

直接触るのは危険だから、手袋越しに触れてみる。妙な感触だ。表面はざらついていて、しかししっとりもしている。切り取ってみると、急に鋭く揺れた。そして、地面の中に、鋭い空気音とともに引っ込んでしまう。

 

残ったのは、孔だけだった。

 

これは雑草ではなくて、生物だったと言うことだ。或いはイソギンチャクに近い存在なのかも知れない。海底の砂地に棲息するイソギンチャクには、危険が迫ると砂の中に待避する種類がいる。それを思わせる素早さだった。

 

思えば、地上に出ているより海底に沈んでいる方が長いような島である。地上の生態系の常識など、通用しないのが当たり前かも知れなかった。

 

装備を確認。水は問題ない。節約すれば一週間は大丈夫。濾過器も問題なし。最近のはハンディタイプで、かなり汚れた水も飲める状態にしてくれる。ただし、使う予定はない。魔術的な汚染はどうにもならないからだ。この島では、水があっても魔術的に汚染されている可能性が極めて高い。

 

呪われた異界の神の島なのだから。

 

他の装備も確認終了。食料類も、ハンディなものに纏めて、充分に用意してきた。水同様、食料も得られないと思った方が良さそうである。ついでにいえば、遭難した時に救助が来る可能性もまず無い。

 

ザイルも六十メートルほどしか用意できなかった。さっき気球から偵察した感触だと、中央部に進むと空からの侵入は無理である。分厚く雲が覆っていて、熱気球では何が起きても不思議ではない。地上を行く以上、本当はもっと持っていきたいのだが、しかしこれ以上リュックに詰め込むと身動きが取れなくなる可能性もある。既に常人では歩くのがやっと、という程度の重量になっているのだ。ましてやこの島では、どんな相手と交戦することになるかわからないのである。

 

師匠が最後に残してくれた小型携帯爆薬「ボン」の所持数を確認する。ざっと千ほど。小指の先ほどの分量で、TNT換算にして百五十グラムほどの火力を発揮できる危険な武器である。それを十秒分ほどの導火線とセットにし、包み紙に入れてある。かってある海戦で絶大な破壊力を発揮した下瀬火薬並の危険物質だと師匠は笑っていたが、実際幾つかのフィールドで使ってみて、その言葉が嘘でないことは知っている。安定性は抜群なのだが、威力が尋常ではないからである。

 

一通り準備が終わる。

 

そうすると、不意に生暖かい風が吹いてきた。

 

気球はしぼみ、既に木陰に隠し終えた所だ。戦慄するウィルの前に、甲高い叫び声が聞こえる。

 

どうやら、既に此処は、敵に嗅ぎつけられた様子であった。

 

走り出す。まずは島の中枢を目指して、其処から師匠のいる所に当たりを付ける。あの師匠のことだ。ひょっとすると邪神を既に倒して、のうのうと島で研究を続けている可能性さえある。

 

それくらいのことをやりかねない人なのだ。あまりウィルは、悲観的にはなっていなかった。

 

無数の影が見えてくる。どうも、蝙蝠であるらしい。しかしかなりの大型種で、しかも此方を正確に追尾してきていた。

 

昼行性の蝙蝠は存在している。フルーツなどを食べる大型種が該当するが、中には肉食のものもいるかもしれない。ましてやあの草の様子では、この島の生態系がまともだとはとても思えない。

 

走る。徐々に、距離が詰まってくる。蝙蝠は頭上を取ろうとしている様子で、明らかにかなり高い知能を備えていた。ジグザグに走って攪乱しながら、灌木のある辺りを探す。まだボンの射程距離ではない。火力が大きいとはいえ、空を飛ぶ相手に当てられるほど簡単ではないのだ。狭い所におびき寄せて、爆風が反響するようにすれば、一気にまとめて片付けられるだろう。

 

だが、どうしたことか。

 

走れど走れど、森や林の類は見えてこない。そればかりか、蝙蝠はウィルのもくろみを嘲笑うかのように、確実に此方を包囲し始めた。先行した数匹が、手前に糞を落とす。何か危険な空気を感じたウィルは足を止めて飛び退く。

 

糞が掛かった草が、おぞましい絶叫を挙げて痙攣する。そして、見る間に萎びていった。

 

口を押さえると、走る。蝙蝠は既に辺りを埋め尽くすほどの数だ。あれが一斉に、あの恐るべき毒の糞を落としてきたら、ひとたまりもない。やむを得ないと感じたウィルは、ボンに着火して、空に複数放り投げた。

 

爆圧が、空を蹂躙する。

 

蝙蝠が悲鳴を上げてばたばた落ちてくる。草がその体を捉えると、すっと土の中に引っ込んだ。やはりイソギンチャクのような性質らしい。土の中から、ばきばき、むしゃむしゃと、恐ろしい食事音が聞こえる。

 

大きな草もある。当然、あれもイソギンチャクだろう。人も食えそうだと思って、ウィルは身震いした。

 

更に数個のボンを空に投げ、相手が混乱している隙に走り抜ける。これは、本当に大変な場所だ。

 

ひよっこの自分が来て良い所ではないと、ウィルは知っていたつもりだった。だが最初から、これほどの危険度を見せつけられるとは、思ってはいなかった。思っていなくても、敵は容赦などしてくれない。当然の話だ。今のウィルは、彼らにとってたやすく仕留められる上に、珍しい御馳走なのだろうから。

 

一匹蝙蝠が低空飛行で迫ってきた。ボンを投げつける。破裂した蝙蝠の肉片が飛んできて、服に当たった。

 

その服が、見る間に石になっていく。

 

ウィルは悲鳴を上げていた。必死に服の一部をはぎ取って捨てる。

 

もう、此処で何かの動物に触れたら、即座に石になる。そう思った方がよいのかも知れなかった。さっきの草は平気だったが、それはなぜかよく分からない。或いはウィルの存在に気付いて、周囲の動物が皆石化の能力を起動したのだろうか。

 

時々ボンを後方に投げ、追ってくる蝙蝠を爆破しながら逃げる。どうやら粉みじんになった味方にまで、蝙蝠は群がり肉を貪っている様子だ。昆虫が殆どいないというのと、この島の過酷な生態系に、あまり関わりはないらしい。

 

やっと森が見えてきた。

 

それに、大きめの遺跡も。石といっても、不思議な丸い形状のもので組まれていて、まるでビーズ細工か何かのようだった。といっても、もしもそうだとしても、作ったのは巨人だろうが。

 

中に逃げ込む。蝙蝠は追ってこなかった。

 

入り口から外をうかがうと、森の近くで滞空して、ギャアギャアと声を挙げている。ひょっとすると、木のように見えるのも、大きなイソギンチャクなのかも知れない。そうなると、油断するとぱくり、だろう。

 

戦慄である。この遺跡も、ひょっとして巨大な生物ではないのか。

 

そう思うと、ウィルは頭を抱えたくなった。この丸い石のような材質も、そもそも何なのかさえもわからない。

 

これも猛毒か何かで、触ると死ぬのではないのか。そう思うと、この場から逃げたくなってくる。呼吸が乱れてきて、おびえを押し殺すのに、必死にならざるを得なかった。

 

しばらく壁に貼り付いて息を殺していると、やっと落ち着いてきた。

 

昔から、師匠に良く言われた。

 

お前は考えすぎると。

 

ありもしない恐怖を勝手に想像して、それに怯えると。師匠は口が悪い人だったから、それこそぼろくそにいわれたものである。

 

大丈夫だ。今は、そんな可能性を想定しても仕方がない。

 

踏んでみると、丸石のようだが、ある程度安定している。体重を掛けてもびくともしない所を見ると、かなり工夫して組まれているのだろう。

 

人は、此処で生活したのだろうか。そう思ったのは、よく見れば遺跡は人間が暮らすのに丁度いいくらいの大きさだったからだ。天井もそれほど高くないし、ウィルくらいの背丈で暮らすにはかなり快適である。

 

中に入ってみると、かなり大きな遺跡だ。歩く度に、かつん、かつんと音がする。音がそれだけ反響する素材と言うことだが、何かが住み着いていたら、当然もうウィルには気付いているだろう。

 

出来れば、何も出てこないでくれよ。そう念じながらウィルは歩く。持ち込んでいるボンだって、無限ではないのだ。さっき数十個は使ったし、この調子だと師匠を見つけて帰る頃には無くなってしまう。

 

それに、まだ能力は温存したい。島の中枢にはまだまだ距離があるし、もしも師匠が言うような存在がこの島を支配しているとすると、命が幾つあっても足りない。支配者とやらがいるとしたら、出来れば戦いは避けたいし、戦うまで切り札は温存したいのだ。

 

ざわりと、気配がした。

 

いる。何かが此方を見ている。

 

ウィルは慌ててライトを向ける。気配と、此方に来る無数の這いずる音。背筋を、恐怖が這い上がっていく。

 

落ち着け。呟くが、どうしても鳥肌は引かない。

 

無数の足を持つ何かが、近付いてきている。引きずる音も、する。歯の根が合わなくなってくる。慌ててボンを取り出そうとして、足下にばらまいてしまった。拾い集めている内に、それが姿を現す。

 

巨大な貝。いや、違う。

 

人間の半分ほどもある大型の貝を背負ったヤドカリだ。それが数十はいる。鋏は、腕など簡単にちょん切れそうなほどに大きい。きちきちと音を立てているのは、此方に対する威嚇音だろう。

 

「く、来るなっ!」

 

叫んで、ボンを投げつける。

 

さっと殻に引っ込んだヤドカリたち。ボンが炸裂して派手な音を立てるが、爆発が収まった後には、傷一つ無い殻の姿があった。もちろん、ヤドカリは何事もなかったかのように前進してくる。

 

あの殻は何だ。ボンは小さいとはいえ、相当に火力が大きい。普通の貝殻など、瞬時に粉々だ。だが傷一つ付いていないと言うことは。宿主は一体どんな素材であの殻を作ったのか。

 

鉄を取り込んで体を作る深海性の貝が話題になったことがある。フグも毒を体内で生産せず、外部から取り込んでいるのは有名な話だ。あの貝は、セラミックを体内で合成でもしているのか。

 

しかも、あの蝙蝠の様子から言って、触れると即死する可能性も否定できない。石になった自分を貪り食うヤドカリの群れを想像して、ウィルは失神しそうになった。

 

近付いてくると、ヤドカリの姿がよく見えてくる。深海に住むダイオウグソクムシのように、サングラスを思わせる巨大な複眼を持っていた。それにしても、何という数か。迂回路はないのか。

 

ボンを投げつけ、さっと殻に引っ込んだ隙に跳び越す。反転しようとするヤドカリが、仲間とぶつかり合って巧く行かない。何度かボンを投げつけながら、ウィルは走る。

 

途中、一回素早く動いたヤドカリに、足をはさまれ掛けた。

 

どうにか走り抜ける。呼吸を整えながら足を見ると、靴は半ば石になっていた。やはり、そうだ。此処の生物に触られると、石になってしまう。

 

呼吸を整える。ヤドカリは足が遅かったが、それでももたもたしていれば追ってくるだろう。もはや安息の地など無いことは分かりきっていたのだ。腹をくくるしかない。

 

遺跡の奥へ奥へ。出口がなかったら、またあのヤドカリどもに追いかけ回されなければならないだろう。それに、奥の方にもヤドカリどもが住み着いているかも知れない。それを考えると憂鬱になった。帰り道のことだってあるのだ。

 

頭を振って、不安なことを考えないようにする。

 

臆病でアホだと、師匠に良く言われたのだ。それならば、頭は必要なことだけに使って、今は進むべきだった。

 

 

 

数機の輸送ヘリが、アトランティスに向かっている。それにはMを筆頭に、名だたる猛者達が乗り込んでいた。

 

極秘資料を紐解きながら、今回の探索班リーダーであるMが他のメンバーに説明する。

 

「前回の探索チームからの報告書を、もう一度おさらいしておく」

 

誰も返答はしない。此処が最強最悪と名高いフィールドだと、皆知っているからだ。下手をすると、このヘリがいきなり撃墜されることもある。

 

歴戦のヘリ、バンゲリングベイ。各地のフィールドで活躍した傑作機であり、パイロットは離着陸数三千七百回を越えるベテランだ。紛争地域での活動も経験があり、異界の戦闘機と交戦して撃墜したこともある。乗り込むのに、これ以上のヘリはない。

 

だが、それでも不安にさせられるのが、この土地の恐るべき所であった。

 

「この島では、見掛けた生物には絶対に触るな。 直接触ると、石になってしまう」

 

「強い石化の魔力を帯びている、ということでよろしいか」

 

「その通りだ、ロード・アーサー。 蝙蝠に似た種類は非常に強い毒性を持つ糞で獲物を仕留め、それから貪り食うという報告もある。 あらゆる生物が、見かけよりも遙かに危険だと考えてくれて間違いない」

 

逆に言えば、通常の生物でさえ、それだけ危険だと言うことだ。島の主がどれほどの存在なのか、想像を絶するほどであろう。

 

「島はあの見えている部分だけが全てではない。 地下にも巨大な空洞が存在し、さらには並行世界や、重異形化フィールドになっている場所もあるという」

 

「それは恐ろしいな」

 

「各々方、努々油断する事なかれ。 我らの偉大なる先輩達が、ついに潰せなかった魔の島だ。 まずは武勲よりも、味方の生存、それに敵の撃破を中心として動いてくれ」

 

「応っ!」

 

隅の方で、こんな面子に混じって良かったのだろうかと、身を縮めているのはスペランカーである。Mを筆頭に、N社の精鋭が数名。C社からも以前共闘した騎士アーサーに加え、何名かの猛者が出てきている。

 

この間共闘したアリスと川背はまだ通院中だ。出たいと言ったのだが、医師がOKを出さなかったのである。特に川背は肋骨が痛んだままで、激しい運動をすると肺に刺さる可能性があると言うことで、しばらくは入院と言うことであった。

 

一通りの説明が終わった所で、挙手したのは如何にも軍人然とした四角い顎の男だった。C社の精鋭の中でも、サバイバル能力を買われた人物で、ジョーという。かっては傭兵をしていたそうで、非常に厳しい戦場からの生還経験が豊富だそうだ。スーパージョーと呼ばれるほどの男である。

 

「そういえば、M。 先走った若者がいると言うことだが」

 

「S社のウィルという若者だな。 変わり者で知られる師匠が、数年前に潜水艦でアトランティスに乗り込み失踪。 それを探しに行った可能性が高いと言うことだ」

 

「愚かな。 探索チームに加わった方が、よほど確実であっただろうに」

 

ジョーが厳しいことを言い、それ以上は興味を失ったようだった。厳しい言葉ではあるが、戦場を生きてきたシビアな男らしい台詞である。

 

スペランカーは彼らのやりとりを見つめていた。

 

どうも妙だ。こんな歴戦の猛者を、どうして今更にN社とC社は投入することになったのか。

 

病院でアリスに聞いたのだが、アトランティスの探索は、今までも何度か行われているという。そのたびに何処のフィールド探索者の会社も大きな被害を出し、それに対しての成果があまりにも小さいが故、探索は封印される傾向にあったそうである。

 

それなのに、この大規模人員投入。

 

何かがあったとしか、思えなかった。

 

或いはあの時戦ったダゴンが何か関係しているのだろうか。

 

「スペランカーさん、大丈夫ですか?」

 

「あ、はい」

 

隣に座っていた中性的な容姿の感じが良い少年が、にこやかな笑みを浮かべてくる。ローブを着てマントを羽織り、なおかつ三角帽子を被っているという如何にも魔法使い然とした彼は、今回の探索における魔法解析などを担当するという。

 

ダーナという名前の彼は、スペランカー同様あまり経歴が華やかではない中の選出である。何でも、石に関する術式のエキスパートと言うことで、選ばれた側面もあるという事だ。さっきの話を聞いている分だと、それも納得できる。M氏は自分を石に変えたり解除したりできるそうだが、歴戦のフィールド探索者でも、そこまで器用な人間は珍しい。彼がいるといないでは、チームの生還率が格段に変わってくる。

 

隣ではジョーが、無言でアサルトライフルの手入れをしていた。手榴弾もかなり持ち込むようである。

 

「ジョーさん。 此方が、言われていた弾になります」

 

「ああ、すまんな」

 

ジョーが、なにやら毒々しい色の弾丸を受け取っていた。

 

スペランカーを一瞥するが、それ以上は此方に興味を見せなかった。歴戦の傭兵としては、特殊能力に頼り切りのスペランカーは、お荷物くらいにしか考えられないのだろう。スペランカーも自分がお荷物だと思うので、相性がよいフィールド探索者がアーサーくらいしかいない今回は、非常に肩身が狭い。

 

アーサーも、スペランカーのことばかり気に掛けてはいられないだろう。周囲の負担を、少しでも減らす工夫が必要だった。

 

島の端に到着。小型のジープも一緒に投下された。乗るのではなく、荷物を運ぶためだという。或いは要救助者を発見したら、乗せて輸送するためのものだそうだ。

 

装備類は分ける。全てをジープには積載しない。いつジープが破損するかわからないので、補給物資以外は全て手持ちである。M氏は生活用品以外を身につけても、殆どリュックが空だと笑っていた。一方、ジョー氏は、リュックがどう見ても百キロはありそうである。しかし、それでも平然と歩き回っている。

 

スペランカーは持ってきた缶詰類をジープに乗せて、自身は歩くことにした。ジープの上には軽機関銃も備え付けられているが、果たして効果がどれほどあるだろうか。

 

バンゲリングベイが飛び去っていく。無線を弄っていたM氏が、眉をしかめた。

 

「おい、この無線は最新式だぞ。 これでも通じないのか」

 

「貸してみろ」

 

ジョー氏が弄ってみるが、結果は同じだ。アーサーが周囲を見回して舌打ちする。その目はいつになく真剣だ。

 

そういえば、以前彼と共闘した時。こんな目をしていたような気がする。

 

「これは尋常な魔力ではないぞ。 島そのものが、巨大な怪物だと思った方が良いかもしれんな」

 

「あんたが倒した大魔王よりも強いか」

 

「大魔王か、そうだな。 ざっと見た感じでは、かなり格上だな。 というよりも、異星の神となると、強いのは当然か」

 

「異星の神? 何ですかそれ」

 

スペランカーがアーサーの雄偉なる体躯を見上げる。髭もじゃの騎士は、むしろ驚いたようだった。

 

周囲の何人かも、怪訝そうにスペランカーを見ている。

 

「おや、スペランカーどの。 貴殿は当事者の一人だと聞いていたが」

 

「え? 何のことですか?」

 

「お前が倒したダゴンとクトゥヴァは、この星の神ではない。 そして、多分此処にいる奴もな。 しかも、どうもこの島の浮上には、色々と面倒な条件が絡んできていてな、その中にはこの間の事件が絡んでるんだよ」

 

Mが教えてくれる。スペランカーがえっと呟いたので、知らされていなかったのかと、アーサーが渋面を作る。知らんとMがそっぽを向いた。

 

やはりという感はある。フリーランスに近いスペランカーは、所属しているフィールド探索者の会社も権限が弱く、必要な情報が入ってこない事も多い。腕利きならばある程度も優遇されるのだろうが、それもない。スペランカーは特化型で、とにかく派手さに欠ける。会社としても、地味な実績しか上げられないスペランカーに、無い袖は振れないと言うことだ。

 

今回の探索だって、病院の治療費が保険が利いたとはいえそれでもがっぽり取られてしまったと言うこともある。餓死するのはいやなので、参加しているのである。この辺りは、スペランカーは日雇い派遣の労働者とあまり扱いが代わらない。一回の給金自体は決して安くないが、いつも仕事がある訳ではないのが現状なのだ。

 

一旦全員が展開する。周囲に敵影は無し。ジープはジョーが運転し、進み始めた。翠が何処までも広がる麗らかな草原だが、さっきのアーサーの言葉からして、まともな場所だとは思えない。

 

蜂が飛んできた。

 

大げさにも、Mが手から火球を放って焼き尽くす。

 

異常が起こったのは、その瞬間だった。

 

どっと、辺りの草が地面に引っ込んだのである。あまりにも異様な光景だった。草原が、いきなり荒れ地に変貌したのである。

 

思わずブラスターに手を伸ばしたスペランカーは、円陣を作るベテラン達に押し出されそうになった。追い出されてしまったのはダーナで、小さな悲鳴を上げて地面に転がってしまう。

 

ジョーはジープの上で軽機関銃を構え、獣のような目で辺りを見ていた。あれで睨まれたら、虎や獅子でも逃げ出してしまうかも知れない。また、蜂。M氏は舌打ちすると、跳躍。ただその一動作だけで、数十メートルは天に向けてその体が跳ね上がる。

 

M氏が天に手をかざし、その頭上に数メートルはあろうかという火球が出現。次の瞬間、辺りに流星雨がごとく炎がまき散らされていた。爆発が巻き起こり、焦げた匂いが周囲に充満する。凄まじい火力である。

 

蜂など、粉みじんに消し飛んでいた。

 

悲鳴。円陣から離れようとした一人が、地面から伸びてきた翠の草に、くわえ込まれたのである。草ではなく、イソギンチャクだったのか。見る間に石になっていくその男の下で、アーサーが剣を振るう。おぞましい悲鳴を上げて草が両断され、石になって落ちてきた男を、Mの弟Lが受け止めた。

 

「小僧、早く回復しろ」

 

「は、はいっ!」

 

ダーナが慌てて術式を唱え始めるが、すぐに回復する訳ではない。真っ白の石になってしまった男を見て、アーサーが呟く。

 

「やはり恐ろしき人外の地よ。 他に怪我人は」

 

「大丈夫です!」

 

「皆、孔には気をつけろ。 あの草はどうやらイソギンチャクのような捕食生物のようだな」

 

着地したMが舌打ちする。向こうの空に、真っ黒になるほど凄まじい数の何かが見えたからだろう。

 

「対空砲撃戦用意! 近づけさせるな! 全滅させるぞ!」

 

スペランカーはこうなるとやることがない。Mが滅茶苦茶な大きさの火球を造り出し、投げまくっているのを横目に、脂汗を絞り出しているダーナに駆け寄る。

 

「大丈夫? 怪我はない?」

 

「大丈夫です。 僕、どうも弱々しくって」

 

「何でも得意な人なんていないよ。 魔法が使えるだけでもすごいじゃない」

 

石になっていた男に、徐々に赤みが差してくる。彼が息を吹き返した頃には、Mが展開した無茶苦茶な火力で、遠くの空にいた何かの大軍は、欠片も残さず消し飛んでいた。それにしても凄まじい。米軍の艦隊あたりが総力で艦砲射撃を喰らわせたのと同じくらいの火力なのではないか。

 

いや、だが昔のフィールド探索者が、今より弱かったという話も聞かない。ならばこの島の脅威は、この程度では済まないと言うことなのだろう。

 

「最大限の警戒をしつつ進む。 おいダーナとか言ったな、魔法使いの小僧。 お前はジープだ。 さっさと乗れ」

 

「え?」

 

「石になった奴もジープに乗せる。 出来るだけ機動速度を上げて、敵に捕捉される可能性を下げていくぞ」

 

M氏が鬼のような形相になっている。

 

何かを感じているのだろう。そうとしか思えなかった。スペランカーは不安になってアーサーを見たが、彼も同じだった。

 

これは容易ならざる状況だ。それを悟り、スペランカーはヘルメットの緒を締め直したのだった。

 

そして半ば諦める。先に入ったという若者は、多分生きていないだろう、と。

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