オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
その中でも本作におけるリンクは、魔法使いとして最大級の実力を持っています。
総合力ではMさんには及びませんが、彼もまた「勇者」なのです。
巨大な魔法陣が地面に出現する。リンクが作り上げた代物だ。文字は複雑で、何が描かれているのかさえよく分からなかった。じっと見つめている内に、淡く輝き出す。
少し前から、時々此方を伺うようにとんできた蜂や蝙蝠も、姿を見せなくなっている。下手な戦力では返り討ちにあうだけだと気付いたか、或いは迎撃作戦に向けて陣地でも作っているのか。もしもそうなると、半魚人やミイラ、骸骨の戦士達が主力になってくるのだろう。ぞっとしない話である。
ミイラだけではなく、他の者達にも意識があるとしたら、それは純然たる戦争であり、殺し合いになるからだ。
当然敵もあらゆる手を使って迎撃をしてくるだろう。戦争にルールなど無い。あるのは、生き残るか、死ぬかだ。
スペランカーは中腰で、リンクの作業を見ていた。N社のナンバー2フィールド探索者である青年は、噂によると人間では無いともいう。そう言えば耳が少し尖っているし、雰囲気も少し人間のものとは違う。バルン族のグルッピーのように、或いは重異形化フィールドで生まれ育ったのかも知れない。
リンクは火が出るような視線の中、黙々淡々と作業をこなしている。時々薬品を撒いたり、別の魔法陣を描いたり、呪文を唱えたり。時には踊るように、何かの動作をしていることもあった。そのいずれもが、魔法的な行動なのだろう。
ぱきんと、鋭い音。
M氏が周囲を見回した。
「空気が変わったな」
「七層の内、我々は今まで三層にいました。 一層を貫通して、四層に入った所です」
「後三枚か」
「はい。 多分もう敵は気付いたと思います。 迎撃の準備を」
周囲の風景が、蜃気楼のように歪んでいく。同時に、今まで嫌みのように晴れ上がっていた空が、真っ黒になっていった。
大地が砂漠になり、遠くに見えるのはピラミッドか。それも、エジプトにあるような奴ではなく、どうも階段式に見える。
「威力偵察。 何人か、辺りを探ってこい。 他はいつ何が出てきても対処できるように、円陣を。 ジョーどの、それにアーサーどの。 ダーナを守れ」
「我が輩は偵察に加わりたいのだが」
アーサーは攻めの探索で知られる男だ。M氏もしばし考慮した後、鼻を鳴らす。
「ふん、まあいいだろう。 L、お前が代わりに護衛に付け」
「兄貴、この俺が護衛か」
「そうだ。 その小僧が死んだら、この島を突破するまで、石になった奴は元には戻れぬからな。 そうなれば戦力ががた落ちだ。 ぶつぶついわんで、とっとと守りに入れ!」
露骨に顔を屈辱に歪めるLに命令すると、後は一瞥もしない。
アーサーがスペランカーの肩を叩く。
「行こうか。 さっきとはどうも敵の気配が比べものにならん。 何かに気付いたら、すぐに知らせてくれい」
「はい。 頼りにしてます、騎士アーサー」
「うむ」
三チームが編成された。いずれもがツーマンセルかスリーマンセルの小規模威力偵察チームである。スペランカーはアーサーとともに、ピラミッドの方へ行く。
途中、突然アーサーが中空に巨大な槍を造り出し、地面に叩きつけた。アーサーの能力、ウェポンクリエイトだ。体重以下の武器防具なら、一瞬で作成することが出来る。しかも複数も可能である。
槍を突き刺された砂漠から、悲鳴を上げて巨大な影が躍り出た。ミミズにも見えたが、何度かスペランカーを襲った人食い芋虫の色違いだと分かった。アーサーが踏み込むと、手にしていた大槍で刺し貫く。大量の鮮血が辺りに飛び散るが、すぐにアーサーは飛び退いて、それを浴びるような不覚を取らない。悲鳴を上げてのたうち回る芋虫は、すぐに動かなくなった。
相変わらず頼りになる。
普段戯けることも多いアーサーだが、こう言う所では、騎士そのものだった。
「行くぞ」
のしのしと歩くアーサーに、早足でついていく。何しろ足の長さが全然違うので、ゆっくり歩くとすぐに置いて行かれてしまう。
砂漠は少し進んでみて分かったが、もの凄く歩きにくい。砂が細かい上に、じんわりとした冷たさが足下から伝わってくる。そう言えば何処かのフィールドを探索した時に、砂漠は昼間灼熱地獄で夜は極寒地獄だとか聞いた。事実なのだと、入って少しでよく分かった。
他のチームはオアシスを探しに行ったようなので、スペランカーはピラミッドにまっすぐ向かう。時々アーサーが空を見ているのは、星を見て方角を図っているのだろう。
「北極星は一応出ているな。 他の星座もおおむね位置は正しい。 此処は異界とはいえ地球の上らしい」
「流石ですね、私頭悪いから、そう言うの殆ど分かりません」
「何の、そう卑下するでない。 そなたは充分に優れた戦士だ」
アーサーはそう言ってくれるが、どうも今になってもスペランカーは自分を誇ろうとは思えないのだ。この仕事だって飢餓から逃れるために、痛いのも怖いのも嫌ながらやっているのである。それこそ戦いに命を賭けているアーサーやM氏とは、根本的に考えから違うのである。
だから、スペランカーはせめて他人のことを否定しないように努めてはいる。しかし、そんなダメダメなスペランカーに良くしてくれる人が多く出るのは、何でだろう。嬉しいことではあるのだが。
砂丘を一つ越えた所で、アーサーにあたまを下げるように言われた。そのまま、近くの大きな砂丘の側に伏せた。
何かいる。結構な数だ。
暗いのに、明るい不思議な砂漠である。星明かりと言うには明るすぎて不気味である。一体どういう原理で照度が保たれているのか、さっぱり分からない。
「数は四十から五十という所だな。 骸骨の戦士が殆どだが、あの大きな芋虫が数匹混じっている。 先制攻撃を仕掛けることが出来れば一気に叩けるが」
「増援を呼びに戻りませんか?」
「それが賢明だな。 もう少し近付いて、様子を探ってから戻ろう」
アーサーは勇敢な戦士だが、無謀であることとそれは同義ではない。いくつもの魔界と呼ばれる重異形化フィールドで、孤独な戦いを続けておびただしい戦果を上げ続けただけの事はある。
ピラミッドから見えにくい位置を、アーサーは低い態勢で行く。匍匐前進だとちょっときつそうだったので、スペランカーは遅れてさかさか歩く。転んでも下が砂だと死なないのが少し嬉しい。
三つほど、砂丘を越えて敵に近付く。
骸骨の戦士達は、何か声を張り上げていた。
「む。 見ろ、捕らえられている者がいる」
「人間でしょうか」
「先走ったフィールド探索者の少年がいたという話だ。 その者かも知れん」
もう少し近付こうと、アーサーが言う。
頷いて砂丘を越えた。そろそろ、敵にも見つかる可能性のある位置だ。ピラミッドはかなり高く、その上にも骸骨の戦士は登っている様子である。彼らの目がかなり良いことは、既に実戦で証明されてしまっている。
此処がギリギリだろうと、アーサーが砂丘に背中を預けながら言う。それにしても重装鎧を着込んでいるアーサーよりも、身軽なスペランカーの方が既にへばっているというのは、情けない限りである。
ガッと鋭い音がしたので、首をすくめた。
どうも骸骨の戦士が、捕らえた相手を蹴ったらしい。拷問と言うほど酷いものではないようだが、取り調べと言うほど甘くもないようである。触られただけで石になると思っていたのだが、どうも意志で切り替えられるのか、また蹴る音が響いた。
酷いとは思うが、まずは状況を見ないと何ともならない。アーサーが眉間に皺を寄せていく。
「下郎どもが」
「ひどいですね」
スペランカーも同意して頷くが、しかしすぐに飛び出すような行動にはつながらない。そう言う行動を取るには、二人とも経験を積みすぎている。まずは二人、砂丘の影から、凶行の様子を見守る。
骸骨の戦士達は、手に手に武器を持ち、なにやら騒いでいた。
「ソノヨウナコトヲ信用出来ルカ! オ前ガ今コノ島ニ攻メ込ンデ来テイル連中ノ先兵ダトイウ事ハ分カリキッテイルノダ!」
「ごほごほっ! ぼ、僕は、ただ師匠を助けに」
骸骨の蹴りがもろに鳩尾に入ったらしく、少年はもんどりうって転がった。どうも手足を縛られているらしく、満足に逃げることも出来ない様子である。
「既ニ我ラノ同胞ガ、数千ト殺サレテイル! 貴様ラノ目的ハ何ダ! 富カ! コノ島ノ撃滅カ!?」
「貴方たちこそ、この恐ろしい島で、何を企んでいるんだ」
「質問ニ質問デ返スカ。 ナカナカ、巫山戯タ真似ヲシテクレルモノダ! 教育ガ必要ナヨウダナ!」
今度は、顔を踏みつけられたらしい。アーサーが憤然と立ち上がる。スペランカーも、流石にこれ以上は見ていられないと思った。
アーサーも黙って今まで見ていた訳ではない。救出が可能だと判断したから、行動を開始したのである。スペランカーは隙を見て、あの少年を助けてくる役以外は出来そうにないので、ナイフを用意する。敵を斬るのではなくて、縄を切るのだ。
「仕掛けるぞ。 少年を救出するのは任せる」
「私、あまり足は速くありませんけど、大丈夫ですか?」
「何、あの場にいる連中を我が輩が即座に殲滅する。 増援を睨んで、撤収と少年の救出を任せたい。 良いかな」
頷く。
ミイラ達の人間味溢れる会話を聞いた後だと、悲しい部分もある。それに話を聞く分だと、あの骸骨達は明らかに味方の死を悲しみ怒っている。ある意味彼らの怒りは正統なものだし、彼らには怒る資格があるのかも知れない。
だが。あの少年に対する暴行を、これ以上見過ごす訳にはいかない。
見たところ、スペランカーの見かけの年と大して変わらないような年だ。少し背は高めだが、顔立ちは幼いし、体つきもかなり痩せている。あんなひ弱な少年を、屈強にものをいわせていたぶるのはやはり看過できなかった。
アーサーが、カウントダウンを始める。業を煮やした骸骨の戦士が、剣を振り上げた。指の一本でも切り落とそうというのだろう。
「Go! Fire!」
アーサーが吠えた。
同時に中空に出現した無数のトマホークが、回転しながら骸骨達に襲いかかっていた。
切られる。首をすくめたウィルの頭上に、恐ろしい音を立てながら、無数の斧が飛来した。
骸骨達が、次々に吹っ飛ぶ。斧の破壊力は凄まじく、彼らを瞬時に粉砕し、木っ端微塵に吹き飛ばした。芋虫たちも、ことごとくが輪切りにされ、膾にされ、悲鳴を上げながら絶命する。
阿鼻叫喚の中、走り寄って来る二人。
一人は鎧の騎士。見たことがある。E国最強と歌われるフィールド探索者、アーサーだ。もう一人、ヘルメットを被った小柄な女性は、見覚えがない。此処に来ているという事は、最悪でも中堅どころのフィールド探索者だろう。やたら鈍そうに見えるが、何かの特殊能力特化型なのかも知れない。
アーサーが鬼神のように暴れ回っている所を、小柄な女性が縫うように走ってくる。途中、すてんと転んだ。アーサーの猛攻からからくも逃れた骸骨戦士がその頭を叩き割ろうと鉈を振り下ろす。ヘルメットに直撃。
ああ、とウィルは嘆くが、大量に返り血を浴びた骸骨の髑髏が、次の瞬間には消し飛ぶ。そして少しすると、女性は何事もなかったかのように立ち上がり、ぽてぽてと此方に駆けてきた。
目を擦りたい気分にかられる。今の現象は、一体何だ。髑髏を失った骸骨の戦士は地面でしばらくもがいていたが、やがて動かなくなった。
「大丈夫?」
「え、ええ。 貴方こそ」
「平気。 ちょっと我慢してね」
ぶきっちょな手つきで、縄が切られていくのが分かる。手足をそのまま切られないか、不安になった。だが、どうにか事故も起こらず、きちんと解放される。
「走れる?」
「何とか。 君は?」
「ん? ああ、私子供っぽい顔だから同年代に見られてるのかな? 私は大丈夫だから、急いで」
何だか腑に落ちない。見たところアジア系のようだが、ずっと年下に見える。童顔だと良く言われるウィルでも、此処まで子供ではない。
周囲では、アーサーが殆ど骸骨戦士達を殲滅し終えていた。急ぐ必要はないような気も一瞬したが、考えてみれば敵は増援を幾らでも繰り出せる可能性が高いのである。アーサーが殿軍になって油断無く周囲に目を配る中、小柄な女性に手を引かれて急ぐ。こっちの方が早く走れるのだが、まあ厚意には甘えることにした。
砂丘を幾つか越えて、物陰に。
案の定、増援がピラミッド周辺に湧き出てくる。だがそのたびに即応したアーサーが、槍やらトマホークやらを叩きつけ、時には焼夷弾のような何かも投げつけていた。松明のようにも見えるが、あの威力はあり得ない。
「えっと、北極星があれだから、あっちが」
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫。 ちょっと待ってね。 ええと、こっちだ」
また、手を引かれて走る。アーサーが追いついてきて、小柄な女性に頷く。そっちで良いと言っているように思えた。
どれだけ走り続けただろうか。
しばらくすると、野戦陣地が見えてきた。軽機関銃を備えたジープもある。
そして、腕組みして立ちつくしているのは、世界最強も名高いフィールド探索者Mではないか。
あんな大物が来ていたのか。急に骸骨達が血相を変えて尋問に来るはずである。確かに数千の同胞が倒されたというのも、嘘ではないのかも知れない。
「スペランカーさん、その少年は?」
「嫌みを言ってる場合じゃありません。 アーサーさんが殿軍になっています。 すぐに増援を出して上げてください!」
「威力偵察といったのだがな。 まあいい。 何名か、騎士アーサーどのの支援に向かってくれ」
ちらほら見た顔が、頷いて砂漠に駆けていく。
疲れ果てたらしくへたり込む小柄な女性。スペランカーさんとか呼ばれていたが、まさかあの噂に聞く絶対生還者か。それならば、さっきの不可解な現象にも説明が付く。せいぜい中堅どころかと思ったら、別の意味で有名な特化型だったわけだ。
ジープに積まれた荷物を漁り出すスペランカーを一瞥すると、Mはまるで凶暴な猛獣のような笑顔を、ウィルに向けてきた。
「S社のウィルだな。 お前が先走ったおかげで、随分面倒なことになった。 帰ったらただじゃあすまさんからな。 覚悟しておけ」
「すみません」
「やはり先走った原因は、お前の師匠か?」
背筋を冷たいものが走り抜ける。其処まで調査されていたのか。
スペランカーはアーサーの事が心配なのか、ちらちら砂漠を伺ってはいたが、それと同時に荷物から缶詰を取りだしてもいた。J国製の缶詰らしく、どれも美味しそうである。
「尋問は後にして。 まずはご飯を食べさせて上げたいのですけど、いいですか?」
ぎろりと、Mがスペランカーを睨む。
だが、スペランカーは気圧されもせず、Mを見返した。周囲が不思議そうな顔をしている。
そして、先に視線を逸らしたのは、Mの方だった。
「ふん、好きにしろ。 どうせ、大したことは聞き出せん」
Mが不機嫌そうに向こうに行く。ジープに乗っていた無口そうなおじさんが、重苦しく口を開いた。
「どうした。 今までMには言われたい放題だったのに」
「あ、はい。 私は何をされても我慢できます。 でも、他の人は違うって知ってますし、なによりこの子を守らないとと思いましたから」
「……そうか」
それきり、おじさんは何も言わなかった。ウィルは、年下にしか見えない女の子に庇われた事に不快感を感じたが、それ以上にどうしてか嬉しかった。
こんなに良くして貰ったことが、今まで一度もない、というのも原因かも知れない。
「ええと、スプーン、フォーク、どっちがいいかな」
「あ、箸使えますから、大丈夫ですよ」
「私の分しか、お箸は用意してないの。 あまりはあったかなあ」
些細なことで困り果てている様子のスペランカーに、ウィルは苦笑していた。
それにしても、スペランカーは幾つなのだろう。結構ベテランだと聞くし、この様子だと成人しているのかも知れない。J国の人間は童顔だと聞くが、これはちょっと予想を超えている。
しかし、女性に年齢を聞くのも失礼に当たる。もやもやした気持ちを抱えながら、ウィルは久し振りに解放された手足をさすった。
アーサーが戻ってくる。他の探索者チームも、めいめい帰還した。石にされたメンバーも最小限で、未帰還者は無し。アーサーも、敵を蹴散らして意気揚々と帰還してくれた。
だが、Mは渋い顔である。
「此処まで派手にやれとは言わなかったのだがな」
「ならば虐げられしものを見捨てろと貴殿は言うか。 あの時点では、これがベストであったと我が輩には断言できる」
「……まあいい。 確かに、これ以上此方の情報が漏れることもこれでないし、先行していた奴の情報を此方は逆に得ることが出来るからな」
一瞬、M氏とアーサーが激しく火花を散らしたが、殆ど同時に両者が視線を逸らす。戦えばM氏が勝つだろうが、それでも無事では済まないだろうくらいに、アーサーは強い。
非常に仲が悪い二人だが、此処で仲間割れすることの意味くらいは分かっていると言うことだろう。しかし、どっちも一流以上の戦士で、それぞれ譲れないこともある。いざというときには、覚悟は決めなければならないかも知れない。スペランカーもちょっとどきどきした。
「リンクが次の壁を抜くまで二時間ほどだ。 敵も当然守りを固め始めているだろうし、次は次元の壁を抜いた瞬間、敵の防衛部隊に接触する可能性がある。 それぞれ、油断だけはするな」
「壁を抜く?」
「この島、いくつもの世界がパイの皮みたいに重なってるみたいなの。 それを、直線的に突破して、この砂漠に来たんだ」
ウィルが不思議そうに言ったので、解説しておく。多分これで合っているはずだが、少し自信がない。
Mは幾つか細かい話をする。今回も、主要な戦略課題は、やはりダーナの保護。また、作戦が失敗した場合、撤退する経路についても打ち合わせる。
既にここに来る時に使用した孔は、リンクが固定したらしい。空の一部に、草原が見えている。あそこからなら脱出できるという訳なのだろう。
その後は、食料の備蓄などについての話になる。まだ数日分の食料はあるそうだが、どこまでジープを持って行けるか分からない。体格の良い戦士が基本的に分担を多めに、いざというときは運ぶ方向で話が決まった。
後は細かい戦術の話に移る。圧倒的火力を誇るM氏や他のベテラン達にしても、今回のフィールドは極めて面倒な場所である。敵に触られただけで終わるというのは、やはりかなり厳しい条件なのだ。
結論として、如何に敵を殲滅するかよりも、敵の接近を防ぐ方向で、話が進展した。いずれにしてもスペランカーにはあまりできることがない。基本的に敵が攻撃してこなければ、何も出来ないのである。相手が邪神や何かであれば一撃だけ必殺の攻撃を浴びせられるが、それも射程は極めて短いし、連射も効かない。
殺気だって議論している歴戦の勇者達を前に欠伸などしたらげんこつくらいではすまないだろう。
ある種の気配だけは読めるが、それ以外はさっぱりなスペランカーである。敵の接近を察知することも出来ないし、アーサーの意見が採用されるといいなあとか思いながら、時々ウィルの様子を伺うことくらいしか出来なかった。
ウィルはと言うと、時々Mに呼ばれて、今までの状況から得た知識を披露している。しかし、先行していたという割には、やはりあまり知っていることは多くない。元々戦闘能力もあまり高くないようだし、逃げ回っていては見えるものだって見えない。
ほどなく、大体の結論が出た。
スペランカーの出番はまだ無い。次の壁を抜いて、周囲に敵影がなかったら、偵察するくらいである。
一旦解散となる。ヘルメットを被りなおすスペランカーに、ジョーが声を掛けてくれた。
「何処へ行く」
「壁が破れるまであと少しらしいので、偵察でもしてこようかなって」
「ならば、俺も行く。 他に行く奴は」
「我が輩も行こうか」
ウィルも手を挙げた。どうもM氏の側は気が滅入るらしい。まあ、無理もない話だ。
ジープから降りたジョー氏は、あまりずば抜けた長身という訳ではないが、やはり近くで見ると筋肉が目立つ。一人で一軍に匹敵するつわものの事をワンマンザアーミーと言うそうだが、この人は掛け値無しにそれだ。
砂漠を歩き始める。アーサーは殿軍になって、後ろを守ってくれる。ウィルに対して、少し高い目線から、ジョーが言う。
「Mはああ言っていたが、気にするな。 お前にとって、命に替えても助けたい相手なのだろう」
「はい。 冷酷で非情な人ですけど、僕には唯一の家族なんです」
「そうか。 なら、俺はお前を責めない。 ただし、それはこれまでの行動に対してだけだ。 これ以上周囲に迷惑を掛けるなよ。 大勢の戦士が死ぬことになるからな」
大人らしい渋い言葉である。ジョー氏は担いでいるアサルトライフルを肩から外すと、低い位置に銃口を向け、歩き始めた。いつ何が現れても対応できるようにしているのだと、一目で分かる。
フィールドで怪物達を戦う以上に、人間相手の殺し合いを長く続けてきた人だ。多分戦い方も、それに準拠するのだろう。
今度は、スペランカーが話し掛けてみる。
「ジョーさんは、どうして戦っているんですか」
「これ以外に、向いている仕事がない」
「奇遇ですね。 私もです」
「食費のために戦っていると聞くが、それは難儀だな。 多くの貧困国で、子供が戦うのと同じ理由だ。 豊かなJ国に産まれたのに、そのような生き方しかできないとは、不憫なことだ」
何か返事をしようとしたスペランカーの前で、ジョーが口の前で指を立てる。しっと音がしたので、緊張が全身を駆けめぐるのを感じた。
何かいるのだ。
アーサーも気付いて、ウィルの頭をつかんで下げさせる。スペランカーも砂地に腹ばいになった。砂丘に半ば背中を預けたジョーが、顎をしゃくる。砂漠の向こうに、濛々たる砂煙が見えた。
「我が輩が見た所、どうやら敵は勝負に出たな」
「ざっと二万という所か。 しかも最初とは戦力の質が違う。 Mでも簡単にはいかないぞあれは」
「二万!」
フィールドで多数の敵に囲まれる経験は、スペランカーも何度もしてきた。しかし万を超える敵は流石に経験がない。
戦慄が走る。しかし、隣でウィルが縮み上がっているのを見ると、怯えてばかりもいられない。ジョーはすぐに撤退と呟き、アーサーも頷く。さっきも話に出たが、今回の戦いでは、まず敵に対して先手を取らなければならない。先に此方が敵を発見できたのは僥倖で、それを味方本隊に伝えなければならないのだ。
「ミイラ男が前衛だ。 あの様子だと、遠距離攻撃の手段も持っているな。 上空には蝙蝠と蜂がわんさかいる。 あっちは多分十万を超えるぞ」
「合わせて十二万ですか!? ひええ」
「大丈夫。 まず、落ち着こう」
露骨に怯えるウィルを諭すと、ジョーの言うまま撤退に掛かる。今度は一番早く走れるジョーにいってもらい、此方は殿軍だ。いざというときはスペランカーが最後尾に残って、少しでも時間を稼ぐ必要がある。
敵の進撃路は、此方の本隊から微妙にずれているようだ。多分ピラミッドの部隊の救援に向かっているのだろう。砂丘を走る。時々、ジョーが貸してくれた双眼鏡を覗き込むと、槍や剣で武装したミイラ男達が、一糸乱れぬ隊形で進んでいるのが見えた。
あのミイラ男達もいるのだろうか。スペランカーは敵軍と並行に走りながら思う。そうなると、M氏が暴虐的な攻撃を振るえば、きっと傷つくのだろう。悲しい話であった。
本隊に戻る。
M氏は既にジョーから報告を受けていたようで、リンクに作業を急ぐように指示。リンクは脂汗を流しながら、魔法を唱え続けていた。
「次の場所に逃げ込むのか」
「それが賢明だ。 空間の孔を固定できれば、敵の迎撃が容易になる。 まあ、そう巧く行くとは思えないがな」
M氏がうなり声を上げ、突然巨大化した。彼のもっとも有名な能力である。身長八メートルほどもある巨人に変化したM氏は、ついで全身を白く変色させる。となりで、N社の人間が教えてくれる。高熱を自在に操る形態だという。
砂丘の影で行軍中の敵からは見えないはずだが、しかしびっくりした。本当に恐ろしい人である。
「リンク、後どれくらいだ」
「四分少々」
「よし。 問題はその後だが」
「敵が此方を捕捉! 陣形を整えつつあります!」
双眼鏡を覗き込んでいたN社の人間が絶叫した。アーサーは既に槍を片手に、呪文詠唱を開始している。
どうやら、更に厳しい戦いが始まるようだった。
殆ど間をおかず、北の空が真っ赤に染まる。それが無数の火球によるものだと気付いて、思わずスペランカーはウィルの前に飛び出していた。
「弾幕展開!」
M氏の怒号とともに、それぞれの能力者が、一斉に火球を放つ。それこそ万を超える火球と、それぞれの超常の能力が、中空にて激突する。一瞬置いて、衝撃波が砂漠をしたたかに叩きのめした。
膨大な砂塵が巻き上がり、ブリザードを思わせる極寒の砂嵐が吹き荒れる。それは灼熱の焔圧と混じり合い、さながら地獄をその場に造り出した。ちらりとリンクを見るが、魔法陣を固定したまま、まだ呪文詠唱を続けていた。流石の胆力である。
「敵、長距離攻撃に専念しています!」
「陽動だ! 必ず接近戦を挑んでくる!」
「地下より気配複数! 高速で接近中!」
ジョーの言葉に応えるように、砂漠に手を突いていたC社の人間が叫んだ。無言でLが飛び出すと、Mと同じように巨大化。砂漠に、燃え上がる拳を突っ込んでいた。
核爆発のように、茸雲が上がる。凄まじい砂塵に、顔を庇いながら、思わずスペランカーは呻く。
なにやら肉塊が降ってくる。多分、あの人食い芋虫たちのものだろう。水中と同じく、地中も衝撃波には弱いはずだ。クレーターの中央に立っていたLは、赤熱した手を振りながら、落ちてくる砂の滝の中笑っていた。魔王の笑いだった。
まだ空中での弾幕展開は続いている。だが、いくら何でも数が多すぎる。ついに、一つ二つと、火球が着弾し始めた。
「魔術によるものだな。 数から言って、ミイラどもの放ったものだろう」
ジープを後退させて、ジョーがダーナに辺りの砂漠を石で覆うように指示。頷いたダーナが、作業を始める。
至近で爆発。一人吹き飛ばされた。砂漠に叩きつけられたその人は動かない。
西の空に、真っ黒な影。航空部隊だ。蝙蝠と蜂が中心のようだが、近づけてしまえばおしまいである。
また、砂漠に茸雲が上がる。
「後一分三十秒!」
「負傷者を内側に庇え!」
女戦士Sが、宇宙服のようなスーツの中から、エネルギービームを連射しつつ叫ぶ。空の敵はどうも防ぎきれそうにない。能力の相性の問題もあって、こう言う時何も出来ないスペランカーはもどかしい。
「拙いな、とても防ぎきれんぞ」
アーサーが呻いた。西の空の敵は、空を覆い尽くすほどの数だ。十万とさっき言っていたが、多分もっと多い。とっくの昔に黄金の鎧を纏い、数々の魔術を展開しているアーサーだが、それでもとてもではないが、全周からの攻撃には対処しきれない。
「リンク!」
「あと七秒!」
また至近に着弾。弾幕が薄いぞ。誰かが叫んだ。だが、空ではあのM氏が鬼神のような火力を展開し続けている。敵の物量が圧倒的に過ぎるのだ。
「東より敵地上部隊! 数、およそ三万五千! 高速で接近中!」
「この状況で増援だと!?」
「ちいっ! 敵の動きが速すぎる!」
「空間の孔、開きます!」
リンクが鋭く手を打ち合わせると、周囲の光景が変わっていく。Mが中空で吠えた。
「全員逃げ込め! 負傷者を内側に円陣を組め! 殿軍は私が努める! リンク、お前はすぐに孔を閉じろ!」
「しかし撤退が」
「今はそれどころではない! あの数、とてもではないが支え切れん!」
M氏が、直径十メートルはありそうな火球を放ちながら叫ぶ。我先に変異空間の中心に集まるフィールド探索者達。すぐにリンクが次の術式の展開準備に入る中、M氏はこれ幸いと数発の火球を放った後、飛び込んできた。
辺りが、いつの間にか一変していた。
空は真っ暗で、雷が飛び交っている。ウィルは見覚えがあるようで、呻いていた。どうやら、途轍もなく広い洞窟のような空間である。辺りの地面は粒子が粗く、ごつごつと石も転がっていた。
呻き声が聞こえる。
さっき吹き飛ばされたフィールド探索者はかなりの重傷だ。ベテランであるのに、一撃で此処までの打撃を与えうる力を敵は有していると言うことだ。
「空間の孔、塞ぎました」
「これで退路はなくなったか」
女戦士が、銃を下ろしながら呟く。M氏もアーサーも、むっつりと押し黙ったまま、何も言わなかった。
幕間、焦りと絶望
小柄な女性がいる。名前はアンリエッタ。少し前にアトランティスに渡り、邪神を操る秘宝を用いて、この島の支配者を従えた。
島に来る前と来た後で大きく容姿が変わっているのは、変装を解いたからだ。今の彼女は、目つき鋭く、黒髪をストレートに流している。以前の野暮ったい田舎娘という容姿は消えて失せ、代わりにシャープなイメージの硬質な女性が其処にいた。
テレビモニターの向こうには、大柄な影がある。とても人間のものとは思えないサイズで、事実丸っこいシルエットは、むしろ亀のものに似ていた。
闇の帝王、大魔王K。裏の世界の顔役であり、あのM氏の宿敵である。
あらゆる裏の世界を牛耳っていると言われる男だが、人身売買と麻薬の密売だけはしないという。一方で戦争の輸出には非常に積極的で、核兵器以外のあらゆる武具を取り扱い、さらには傭兵として配下の猛者達を紛争地域に送り込むことがあるという噂だ。
その圧倒的威圧感は、己の武力よりも、その権謀術数であのM氏と渡り合ってきたと言うことだけはある。噂によると異世界の軍勢と通じているとも言うし、その戦力は恐らくこの世界でもトップクラスだろう。N社でさえうかうかと手を出せないほどの相手だ。
だが、そのKは。
モニターの向こうで葉巻をくゆらせながら、アンリエッタの提案をせせら笑った。
「それで?」
「今の光景を見て何とも思いませんか。 あのMが、尻尾を巻いて逃げざるをえなかったのです。 これほどの戦力があれば、世界の勢力図は一変します。 貴方に煮え湯を飲ませ続けたMもN社も、世界の頂点からたたき落とすことが」
「多分Mにも言われたのではないか?」
からからと、どす低い声でKが笑う。その後ろに控えている幹部達も、くすくすと含み笑いをしているようだ。
W博士という男が発言する。眉毛を動かせることで有名な人物である。ロボット工学の権威で、此方はC社のエースであるRのライバルとして知られている。高齢だが、場合によっては自身も己の発明したマシンに乗って戦う武闘派だ。
彼は厳密にはKの部下ではなく、同盟者に近いという。だが、今回は、意見が一致している様子だ。
「そのけったいな鈴、恐らくはお前さんに扱いきれる品ではないのう」
「そんな事はありません! 見ての通り、私の指示通り、軍勢は動いております!」
「それは、軍の後ろにいる邪神が、お前に今は従った方が得策だと考えているからにすぎんよ」
Kがぴしゃりと言った。Mと、同じ事を言った。
Mの予言は、見事に当たってしまった。
屈辱に歯をかみしめるアンリエッタ。一族の悲願が、せっかく日の目を見たというのに。こうもあっさり、しかも根本的な所から否定されるなんて。
それだけではない。他のK軍幹部も、あまり好意的ではない様子だ。
最後に、Kが言う。
「言っておくが、俺が欲しいのはあくまで今のこの世界だ。 邪神の支配下に落ちた世界ではない。 それに関しては、多分この場の全員が同意していることだろうな」
「制御できん兵器なんぞ、ただの危険物にすぎんよ。 それはこの儂が、身をもって知っておるわ」
自嘲的にWが言うと、辺りは押し黙る。アンリエッタも、Wの経歴は知っている。彼は一度ならず、飼い犬に手を噛まれたことがあるのだ。
だから、黙らざるを得なかった。
突如Kが、今までになく威圧的に声を放った。
「一つ、言っておく」
「な、何ですかっ!」
「そのくだらん鈴で余計なことを始めたら、たとえどんな手を使ってでも、俺がお前を潰す。 俺はMのように優しくはないぞ。 世界中の裏の人間が、お前を狙うことになるからそう思え」
ぶつんとモニターの接続が向こうから切られた。
屈辱に身を震わせるアンリエッタ。その顔が、憎悪に歪んだ。
異星の邪神を操るこの鈴。アンリエッタの先祖が、ロマノフ朝ロシアの宝物庫でこれを見つけてから、一族の運命は狂い始めた。並の富や名誉では、とても満足できない所まで、一族の欲望は膨らんだのだ。
長い年月を掛けて、計画は練られた。愚かな連中を焚きつけて生け贄にし、人脈も幅広く作った。そして、前回のF国での作戦で、計画は半ば巧く行ったのである。Mが、それにフィールド探索者どもが、常識外の力を発揮して、ダゴンとクトゥヴァを葬るという番狂わせを行わなければ、今頃アンリエッタは国連軍辺りと事を構えていたことだろう。しかも、大魔王Kや、裏世界の顔役達を背後に据えて、だ。現在の秩序を快く思わない幾つかの国も、アンリエッタになびいていたはずだ。
それなのに、旧共産圏の国々でさえ、アンリエッタの提案を無視した。一部の過激派は応じたが、本格的な取引にはいる前に、N社や国連に潰されてしまった。そして、大魔王Kに袖にされた今、もはやアンリエッタに帰る場所はなかった。
「どうした、小娘。 随分腐ってるな」
「貴方には……」
いつの間にか後ろに彼奴がいた。振り向いて毒の言葉をはきかけてやろうかと思ったが、気の利いた台詞が出てこなかった。
ハーフグラスがずり落ちそうになっている。屈辱に震える手で眼鏡を直すアンリエッタに、彼奴はにやりと笑った。
「お前さんは今まで小物としか交渉してこなかったんだな。 ああいう手合いは、計算がしっかりできる。 だから海千山千の化け物どもが凌ぎを削る裏世界でボスをやっているんだよ。 お前さんのその鈴が、利益よりも被害の方が大きいとなると、やはり手はださんだろう。 最初に言った通りになったな」
「……貴方だって」
学会から無視され、研究の全てを否定され、最後にアトランティスの秘宝を求めて此処に来たのではないか。
そう言いたかった。だが、今は何も言えなかった。
「Mの奴、また消えたらしい。 第一から第四師団までが血眼になって探しているが、この様子だと近いうちに現れるかもしれんな」
「その時は貴方も終わりではありませんの?」
にやりと、彼奴は笑う。
此処は、暗い暗い空間。
周囲には、無数の闇の気配。アンリエッタは、ぞくりと身を震わせる。この鈴がもし本当に、役に立たないのだとしたら。
今、此処に自分がいる意味は何だろう。生きてきた時間は何だったのだろう。
恐怖が、心を蝕み始めていた。