オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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はい今回はソロモンの鍵の話です。

ソロモンの鍵と言えば名作パズルゲームですね。

とにかく独自の雰囲気が面白い作品でありました。

本作では題材になった魔道書「ソロモンの鍵」についても扱っています。


血塗られた神話
序、砂塵の街


治安の悪い街だった。

 

砂にまみれた道路には、銃撃の跡が露骨すぎるほどに残っている。行き交う人々の姿も見えず、時々見掛ける酷く朽ちた車から主要なパーツが根こそぎ抜き取られてしまっているようだった。

 

ダーナは思わず、コートの襟を正していた。ジープを運転している無表情な歴戦の傭兵は、此方を一瞥さえしない。空港で合流して以降、一度もだ。迷彩服を着込んでいるミリタリールックの四角い男は、細部の筋肉までも完璧に訓練しているように、無駄な動きを一切しなかった。

 

「合流地点は、まだなんでしょうか」

 

「まだだ。 隙さえ見せなければ心配はない」

 

とりつく島もなかった。強面で四角い顎の持ち主である隣の男は、髪さえも機能的に刈り込んでおり、効率以外の事は興味さえ持っていそうになかった。

 

たまに、ごくたまに通行人を見掛ける。ターバンを巻いている男が多く、女性の姿は見えなかった。昼間で、しかも大通りでさえ、危険すぎて外を歩けないのだろう。これでは学校など機能するはずもない。

 

既に滅んだも同然の国だ。現在の、国が滅びにくい世界的な仕組みが故に生き残っている、鬼子とも呼べる奇怪な国の一つなのだろうか。

 

ジープが大きく揺れたので、ダーナは身を縮めた。今まで、ろくでもない国は幾つか見てきたが、その中でも筆頭とも言える場所だった。絶対に住みたくない。住んでいる人達には、気の毒な話だが。

 

此処は中東の某国。

 

一神教の伝承が多く残る土地でありながら、民族紛争の坩堝であり、世界でもっとも危険な地域の一つである。現在も武装組織と政府軍の散発的な戦闘が続いており、国連軍が介入をほのめかしている。通貨価値は紙以下である。

 

かっては違ったという話もあるらしい。だが、現在の姿がこれだ。ある程度意気のある人間は、成人するとさっさと別の国に行ってしまうと言う。

 

産業もない。資源もない。石油など、とっくの昔に枯渇してしまった。まともな人材など、あるわけもない。

 

そして僅かな収入は、武装組織と政府軍が血みどろの抗争の挙げ句に台無しにしてしまう。まさに、地上の地獄と言っても良い場所だった。

 

ずっと表情を変えない隣の男は、ジョーという。通称スーパージョー。ダーナも所属している業界では、有名な人物だ。歴戦である、ただそれだけの理由で、怪物魔物が跳梁跋扈する人外の空間「フィールド」から生還してくるのである。この間の激戦となったアトランティス攻略戦でも、平然と生きて帰った彼は、もはや超人か何かではないかと、一緒にいるダーナでさえ思えてしまう。

 

だが愛想もなければ、ユーモアも口にはしない。

 

これほど助手席の居心地が悪いジープも、そうそう無いだろう。兎に角空気が重いのである。

 

煙草を吸わないことだけが、救いかも知れなかった。

 

前回の戦いで肩を並べた仲だが、その時も殆ど口は聞かなかった。今回作戦で共に出ると聞いた時には、息が止まるかと思ったほどである。先輩からの評判はとても良いのだが、ダーナにはわからない。

 

年上の男性、しかも下手をすると父親くらいの年である相手だ。苦手に思うのは、仕方がないとフォローしてくれる人もいる。だが、一応プロであるダーナが、こんな事でくじけてしまうのは、情けない事この上ない話だ。

 

道路の痛みも激しく、ジープが何度となく揺れる。

 

やっと国連軍の基地が見えてきた時、ダーナは思わずため息をついてしまった。

 

「や、やっとついたー」

 

「まだ油断するな。 入り口が一番危ない」

 

歩哨が出てきて、ジョーが身分証を見せる。もちろんダーナも同じものを見せなければならない。三人組の歩哨は油断無く辺りを見張っており、如何に此処が危険な土地なのか、思い知らされる。

 

軍基地の周囲は監視カメラが設置されており、内部には歩兵戦闘車両や、戦車までもがいる。これらの戦力は、治安維持よりも、むしろ今回「発見」されたフィールドを監視するためのものだ。

 

ジープを降りると、コートを脱ぐ。この国で、ダーナの姿を見せるのは、あまりにも危険。だから、今まで暑いのを我慢して、コートを着込んでいたのだ。コートを脱ぐと、ビロードのマントを代わりに身につける。

 

足下には革製の大きすぎるほどの大げさな靴。足は腿までそのまま外気に晒して、体を覆うのはローブと呼ばれる暗褐色の着衣。バスローブなどと若干違い、外を歩くために設計されているものであり、ベルトで固定している。節くれた杖を手にし、そして三角帽子を被り、長めの茶髪をそれに押し込むことで完成だ。何度か鏡を見て、直す。中性的な整った容姿とか言われるが、男か女か聞かれることが多くてまどろっこしい。いつも応え言葉に困るので、もう少しどっちかに偏った容姿になって欲しいと思うのだが、こればかりはどうにもならなかった。

 

魔法使い。或いは魔術師。

 

そう呼ばれる能力者集団の末裔こそ、ダーナであった。

 

 

 

軍隊でも手も足も出ない凶暴な生物が跋扈し、時には物理法則までもねじ曲げられてしまう恐ろしい空間を、世ではフィールドと呼ぶ。様々な理由で発生するそれらフィールドを撃破沈黙させ、世界の平穏を保つべく動く人間のことを、フィールド探索者と呼ぶ。

 

今回ダーナがジョーと一緒に訪れたのは、そんなフィールドの一つである。フィールド探索者は会社を作って其処に所属しているのが普通で、ダーナはかなりマイナーなT社の出身である。一方でジョーはこの業界でも最大手の一つであるC社から来ており、本来は彼が主導的立場になるのが普通なのだが。今回は特殊な事情があり、ダーナが主力の攻略者として、このフィールドに足を運ぶことになった。

 

プレハブで作られた国連軍兵士達の宿舎の間をジョーと一緒に歩き、指令本部へ。此処の指揮官は大佐であるとか、何度か会ったことがあるとか、ジョーが道中で教えてくれた。というよりも、必要な情報をただ投げてくれたようにしか見えない。会話していると言うよりも、足を引っ張られないように、情報を与えてくれたようにしか思えなかった。

 

本部は小さなビルで、きっと何かの建物を改装したのだろう。国連軍の兵士達は人種も雑多なようで、アジア人もいた。身分証を見せて中に。既にもう一人は来ているという事だった。

 

ビルの側には小規模な発電施設が置かれ、ヘリポートもある。危険すぎて街で買い物など出来ないし、そもそも送電施設が安定していないのだろう。発電施設は、フル稼働しているようだった。

 

気の毒な話だが、どうにも出来ない。

 

魔法使いだから何でも出来るなんて言うのは間違いだ。正確には魔術師だが、殆どの場合は特定の能力に基づいて術式を唱え、それによって奇跡を為す。この業界で最強と言われる魔術師は、剣術でも名を馳せるN社のリンクだが、彼にしても何でもかんでも出来るという訳ではない。

 

ダーナはまだ修行中の身で、どうしてこんな大変な場所に来てしまったのかと、内心びくびくしているくらいだ。一部の術式に関しては誰にも負けない自信があるが、それは使用方法が非常に偏っており、ダーナ自身がそれほど戦慣れしている訳でもないので、別に凄い訳でも何でもない。

 

考えれば考えるほど駄目な自分に気付かされてしまう。一人で勝手に落ち込んでいるダーナに、頭一つ半上から、声が降ってきた。

 

「ついたぞ」

 

「あ、はいっ!」

 

思わず帽子を直す。気がつくと、階段は終わり、司令部と表札が掛けられた部屋の前に立っていた。小さなビルである。廊下は無く、階段の正面に司令部が置かれている。一応監視カメラはあるようだが、気の毒なほどせせこましい施設だった。

 

ドアを開けて真っ先に目に飛び込んできたのは、応接用の席について、J国製らしいカップラーメンをすする二人だった。一人は禿頭の、ミリタリールックに身を包んだ、如何にもな軍人さんである。こっちが司令官だろう。

 

もう一人は見覚えのある人物だ。若々しいを通り越して顔立ちには幼ささえ感じる、短髪の女性。この間も戦場で肩を並べて戦った、通称スペランカー。絶対生還者という二つ名でも知られる、この業界ではある意味有名な人物だ。

 

「あ、ダーナ君。 ジョーさん」

 

「お久しぶりです。 何してるんですか?」

 

「少し早く着いちゃってねー。 司令官さんに、カップラーメンをおごって貰ってたの」

 

ちょっと呆れた。

 

J国製のインスタントラーメンは、戦地では非常に重宝されると噂で聞いたことがある。簡単に作れる上に美味しいからだ。此処の司令官も、多分ファンの一人だったのだろう。ちょっと恥ずかしそうに恐縮するおっさんに、ジョーは冷たい目を向け続けていた。

 

そそくさとラーメンを食べ終えると、司令官は、手を叩いて部下を呼ぶ。何か気まずかったので、ほっとした。ずっと針の筵に座った気分なのは、どうしてなのだろう。穏やかで心優しいスペランカーの隣に座った時は、心底ほっとした。

 

大佐が、大きな白板に図を書き始める。

 

「いやはや、迎えにも出られず申し訳ない。 それでは、早速説明を始めさせて貰いたいのですが、よろしいですかな」

 

「始めてくれ」

 

ジョーが、少し機嫌悪そうに言った。

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