オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
スペランカーは、壁の側を歩いていて気付く。水音がするのだ。
外に空間があるらしい。それはいいとして、既に三十数層は潜ってきているはずなのだが、こんな露骨な水音がするのは妙だ。大深度の地下に作られた建造物というのも、当時の技術からすれば、無理がある。
ひょっとしてこの建物、浅い階層にあるものを、数珠つなぎに空間転送で結んでいるのではないのか。
だったら何だという分けでもないのだが、ちょっと興味深い。階層と言うから、てっきりどんどん下に降りているのかとでも思っていた。しかし、この様子だと、ひょっとすると帰りは楽が出来るかも知れない。
さっき、妖精はまだ七階層離れていると言っていた。
つまり、もう至近まで敵は迫っているという事だろう。ジョーは部屋の中をうかがう振りをして、グレネードランチャーをリュックにしまっている。近代火器に知識がないらしい妖精は、ジョーの行動を不審には思わなかったようだ。
次の瞬間。
ジョーが振り向き様に、アサルトライフルをぶっ放した。
魔法陣から飛び出してきた男が、瞬時に蜂の巣になる。穴だらけになって息絶えるその男を盾にして、カラシニコフを手にした男達が次々に魔法陣から飛び出してきた。全員がターバンをしていて、顔も隠している。異様な雰囲気だ。
激しい銃撃戦が巻き起こる。ダーナとスペランカーを部屋の中に押し入れながら、ジョーは手榴弾のピンを口で引き抜いた。
「此処は俺が食い止める。 行け」
「くっ! どうしてこんなに反応が早いのよ!」
「っと、駄目。 一緒に来て」
逃げようとした妖精は、その場でスペランカーが捕まえる。部屋の中にはいると、すぐに周囲を妖気が満たした。
外では、激しい銃撃戦が繰り広げられている。明らかに腕が上のジョーだが、敵は数で押している。緩やかに弧を描いている壁を挟んで、両者の激しい激突は続いていた。時々、手榴弾が炸裂する。だが、敵は減る様子がない。
「もう、支援はないよ。 私が敵をどうにかするから、急いで」
「わかっています!」
ジョーも、何時までもしのげる訳ではないだろう。
やはり、膨大な数の石が列んでおり、簡単には進めそうにない。燃えさかる炎と、大量に存在する鏡。飛翔能力を持つ魔物が、群れを成して、ダーナの前に立ちふさがる。
スペランカーは妖精を抱えたまま、走る。ぽてぽてという感じの頼りない走りだが、それでも一応敵を陽動することは可能だ。
「こっち! こっちだよ! 妖精さんもいるよ!」
手を振って魔物にアピールする。一斉に、翼持つ灰色の魔物達が此方を見た。
視界を漂白するくらいの火球が飛んでくる。慌てて逃げ回るが、やっぱりどうしようもない。直撃。意識が消し飛ぶ。何度も吹き飛ばされたのだろう。意識が戻ると、辺りは粉々に砕けた魔物達の死骸と、黒ずんだ壁だらけだった。
妖精は、あっさり逃れていたらしい。天井当たりをくるくる舞っている。
「あ、あんた、どうしてそれで再生できるのよ!」
「あいたたた、ダーナ君、は?」
視界が、徐々に戻ってくる。
ダーナはさっきよりも、ずっと動きが機敏になっている。石の間を跳び越え、燃えさかる炎をかいくぐり、至近で顔を合わせた魔物に、躊躇無く火球の術を浴びせていた。
まだまだ、スペランカーも頑張らなければならない。
鏡から、当然のようにドラゴンが姿を見せる。凄まじい威圧感だ。だが、どれも品種は同じらしい。翼もない。だが、小さい分、とても動きが速い。
四つ足の強みを生かして、ドラゴンが走る。ダーナも汗をとばしながら、石の間を飛び移った。スペランカーは回り込むようにして、石をよじ登る。体力がそれだけでもつきそうだが、どうにか登り終える。
ドラゴンが、スペランカーを見て急停止した。
手を広げる。
やはりこのドラゴン、さっきの同胞の死を見ている。鏡を通してなのかはわからないが、ダーナを狙っていた辺り、ほぼ間違いない。ゆっくり、スペランカーを見て、右側から回り込もうとするドラゴン。ダーナは。まだ少し手こずっている。どうやら、最後の石の組み合わせが、どうすればいいのかよくわからない様子だ。
もう少し、時間を稼がなければならない。
外の銃撃戦はまだ続いているようだ。円環状の通路だから、走り回ってのかなり厳しい戦いになるだろう。実際、走りながら銃撃をしている音が聞こえてくる。歴戦の猛者であるジョーさんだが、出来れば支援に行きたい。
八方ふさがりの状況で、ついにダーナが動いた。
「これだ!」
一旦飛び降りて、下の石に着地。逆側から回り込むようにして、鍵の場所に到達。雄叫びを上げたドラゴンが、スペランカーの頭上で火球を放つ。しかし、銀色の石に直撃はしたものの、ダーナには火の粉をふらせるくらいで、届かなかった。
見る間に石になっていくドラゴン。
へたり込んだスペランカーは、外の様子を見た。まだ、ジョーさんは頑張っている。ダーナが叫ぶ。
「ジョーさん、こっちに!」
「俺は良いから、先に行け! 敵はさっきから増援を次々に出してきている!」
部屋に後退してきたジョーが、後ろから来た奴を瞬時に射殺した。万歳をするような格好で、射殺された男が前のめりに倒れる。更に一人、額から血を噴いて横転した。入り口は一つしかないし、遮蔽物も多い。此処の方がだいぶ有利だろう。だが、これ以上進ませるのはまずい。特に、部屋の中で魔物との戦闘中に乱入されると、どうなるかわからない。
「スペランカー、行け。 敵は俺が防ぐ」
「ご無事で!」
「お前もな」
敵には、能力者が居る。それなのに、銃火器の能力を延長するくらいの力しかないジョーが挑むのは、かなり厳しいはずだ。
だが、それでもこの人は引かない。
スペランカーは頷くと、ダーナを促して、魔法陣に飛び込んだ。
二人が行った直後に、妖精も魔法陣に飛び込む。どうやら誰かが居る間は、新しく人間が来ても、トラップは発動しないようだった。
ジョーはそれを見届けると、マガジンに手を触れ、リロードと心中で呟く。それだけで、弾倉に弾丸が補給される。
これが、ジョーの能力。弾倉補給だ。
あまり大きな火器は出来ないが、アサルトライフルや拳銃、スナイパーライフル、グレネードランチャーくらいまでの火器であれば実行可能である。条件はマガジンがついているなど、銃の内部や付属機構に弾丸を装填出来る事。一瞬で新品の弾を補給することが出来る。
長期戦に向いた能力だが、銃の耐久力が上がるわけでもない。ミニミなどの分隊支援火器レベルの大型銃火器については補充も出来ないし、連射すると銃にも負担が掛かる。
敵の様子を見ながら、リュックを下ろし、スナイパーライフルを組み立てに掛かった。もう一人、せめて観測手が居れば全然結果は違うのだが。孤独に戦う事自体は、経験がある。
というよりも、この能力が発現した以降、ずっとそればかりだった。
命中精度にひるんでか、敵は部屋に入ってこない。幾つかある石を見て、相手から見て狙撃しにくい位置に移動。入り口だけ見張っていればよいとか、そんな常識が通用するかわからない。フィールド探索者として、いくつもの地獄を潜ってきたジョーは、能力者や術者の非常識ぶりを良く知っている。
敵は余程自信があるのか、堂々と入り口から姿を見せる。
二キロ先からも狙撃が可能なスナイパーライフルで、早速一撃を浴びせる。胸の中央を貫いた筈の弾丸は、他の雑魚と見分けがつかない男の手前で、急停止していた。
手強い相手だ。
「ふん、汚らしい武器を使いおって。 背教者が」
「如何なさいますか」
「お前達は、あれを抑えていろ。 俺が邪魔な蠅を潰す」
今、残っている装備類を頭の中で確認。入り込んできたもう一人の胸を、即応して撃ち抜く。舌打ちすると、男は人間とは思えない跳躍をして、ジョーとの距離を一気に詰めてきた。一発。はじき返される。二発目。はじき返される。そして、三発目を撃つと同時に、横っ飛びに逃れる。
金色の石が、男の繰り出した拳で、木っ端微塵に砕かれていた。
どうやって弾丸を防いだかが、重要な焦点だ。フィールド探索者でも、殺せない訳ではなく、人間であることに違いはない。だから、場合によっては死ぬ。飛び退きながら、今度はさっきピンを抜いておいた手榴弾を放り投げつつ、銀色の石の物陰に隠れる。炸裂音と共に、横っ飛び。入り口から皿に入ってこようとしたもう一人を、持ち替えたアサルトライフルで撃とうとして、一瞬の躊躇が産まれた。
子供だ。
短く髪を刈り込んでいるが、多分女の子だろう。首根っこを押さえられ、頭には拳銃を突きつけられている。
周囲を飛び交っている光の粉。
なるほど、あれが妖精達がただ一人助けようとした相手か。
「よそ見とは、余裕だな!」
手榴弾の爆圧を切り破って現れた能力者が、再び拳を繰り出す。銀色の石を挟んで逃れるが、男の拳は、それさえも砕いていた。これは当たったらひとたまりもない。だが、もっと恐ろしい相手と相対したこともある。
飛び退きつつ、再び至近からM16A4の引き金を引き、至近から鉄の暴風を浴びせかける。男が反応するのが早い。銃弾が、四方八方に吹き散らされる。能力者が、にやりと笑ったように思えた。
だがその瞬間。ざくりと、鈍い音がした。
男の右腕が、半ばまで抉れている。今の時間に仕掛けた、簡単なトラップ。ワイヤーを使ったものだ。
「お、おのれええっ!」
男の咆吼を無視し、左手でデザートイーグルを引き抜くと、振り向き様に二発。
子供を抑えている男の肩を一発目で撃ち抜き、二発目で額を貫いた。更にもう一回転し、腕を押さえている能力者に四発の弾丸を連続して浴びせた。だが、能力者だけあって反応も早い。
デザートイーグルの弾丸が弾かれる。飛び退く。
ジョーが居た地点が、炎に舐め尽くされる。
間違いない。この男、多才な能力展開から言って、能力者と言うよりも術者、つまり魔術師だ。格好からして、宗教関連の原理主義者だろう。
牽制の射撃を浴びせつつ、走る。その間に、デザートイーグルをホルダーに戻す。顔中に血を浴びて棒立ちになっている子供を抱え、今度は一旦部屋の外に。外で中をうかがっていた他の男達がぎょっとする所に、手榴弾を落とし、バックステップして飛び込み直す。爆発。断末魔の悲鳴。
本当は入り口を崩したい所だが、プラスチック爆弾でも使わないと無理だろう。マガジンに触れて、弾丸の補充。子供が、苦しそうに悲鳴を上げた。
「ううっ!」
「部屋の真ん中に、魔法陣が見える。 其処まで走れ」
「う……」
言葉が通じないかと思い、幾つかの言語で話し掛けてみる。この近辺で使われている言葉は、挨拶くらいしか知らない。能力者の男が、天井近くまで、腕を押さえて舞い上がった。空まで飛べるらしい。子供に言葉が通じているかは後だ。
子供の周囲を舞う光の粒子。子供がはっと顔を上げる。
「妖精ども、聞こえているな。 この子供を、あの魔法陣の先に。 援護は俺がする」
理解は出来ないが、何か黄色い声が上がる。おろおろする子供が、光の粒子に導かれて、とまどいながらも走り始めた。振り返り様に、一発。部屋に入ろうとした男の額を撃ち抜く。だが、それが禍し、空から降り注いだ無数の風の刃までは避けきれなかった。
飛び退くが、防弾チョッキの上から全身を切り刻まれる。転がりつつ、体への打撃を確認。
かなり傷が深い。出血も多いが、まだしばらくは動ける。
「貴様、うちの商品に手を出すとは、どうなるかわかっているんだろうなあ。 背教者が、地獄に落とすくらいではすまさんからな」
「安心した」
「何だと?」
「お前の信仰が手前味噌で身勝手きわまりない、信念も裏付けのない、ただのゲスな代物だとわかったからだ。 弱きを救わず利用しておいて何が信仰か。 貴様の考える地獄とやらがあるとしても、俺は落ちてはやらん。 俺はそんな神に興味はない」
見る間に、術者の顔が真っ赤になっていく。
何か吠えた。多分地獄に堕ちろとか、何かそのような意味だろう。デザートイーグルを放り捨てると、M16を乱射しながら物陰に走る。何か喚き散らしながら、急降下しつつ、術者は火球を乱射してきた。
石の間に滑り込み、石を盾にして、火球を防ぐ。そのまま、一気に奥に。
飛来した術者が石の前で止まったのは、トラップを警戒してのことだろう。此方はわざわざ血痕を残しつつ這いずって奥に逃げているのだ。追ってこないのは、それしか理由が思い当たらない。
それにしても、かなり強力な術者だが。残念ながら、技と心は一致しないのだと、見ていてよくわかる。
子供を商品扱いするようなゲスは発展途上国に多くいる。アフリカの貧困地帯では未だに奴隷が、主に子供の、が売買されている。そして、それはプラントの重要な労働源になっている。
文明が発展すれば消え去るべき悪習が未だ残っているのは、無理に文明を持ち込んだこともあるだろうが、資源の不足や貧困も大きな要因だ。
地獄は、散々見てきた。
どんな悪にも、事情がある。この術者にも、何かしらの理由があって、ゲスに落ちたのかも知れない。
だが、それでも。
子供が、もたもたと魔法陣に逃げ込もうとしている。
あれを、支援する。それが、大人としての、ジョーの役割だった。
男の腕からは、血が止まっている。得意の術で直したのだろう。逆に言えば、痛いと言うことだ。傷も負うと言うことだ。
もう一つ、わかったことがある。
男が、炎の渦を手から出して、石の間の空間を焼き払った。ワイヤーを警戒してのことだろう。そして、炎が収まると、鋭く中に飛び込んでくる。
その背中に飛びついた。
今まで、孔を抜けた先の、石の上に貼り付いていたのだ。
血を流しすぎた。精神力が限界近い。だから、すぐに決める。地面に共に転がりつつ、アーミーナイフを引き抜く。
一閃させ、男の手首から先を切りとばした。悲鳴を上げる男の襟首を掴み、頭突きを浴びせる。鼻血を噴いた男のターバンが外れる。やはり、間違いない。この巻き方、偽装のためのものだ。本来ターバンを巻く者達や、彼らの宗教とはやり方が違っている。更に、無事な方の肩にも、ナイフを突き刺す。喉を割くつもりだったが、腕を上げてとっさに庇ったので、切り替えたのだ。
「偽装が下手だな。 もしもお前がターバンを必要とする宗教の信者だったら、背教者じゃなくて、異教徒とか十字軍とか、俺を呼んだだろうよ」
「ひ、ひぎ、ぎいっ!」
ホースのように血が噴き出る手首を押さえて、逃れようとする男。ナイフを鞘に収めると、M16A4で、無造作に男を撃ち抜く。
踊るように銃弾を浴びた男は、すぐに動かなくなった。
さて、後はひよっこを助けてやらなければならない。スペランカーはそこそこ頼りになるから、多分死ぬことはないと思うが、戦力が多いに越したことはない。だがその前に、敵の増援がこれ以上来ないことを、しっかり確認しておかなければならないだろう。傷の手当てにはいる。リュックから消毒剤を出し、傷に。包帯を巻き、止血。もう、あまり時間がない。
栄養ドリンクを口に含みながら、止血を順番にしていく。
痛みが酷い。一部は動脈まで通っていたようだから、当然だ。だが、それに負けていたら、死ぬ。だから、精神力で押さえ込む。
そういえば、最初に戦場に出たのは。今でもよく覚えている。あれは、小さな島を巡って、E国とF国が代理戦争をした時だった。激しい戦いで、どちらも多くが死んだ。E国が誇る精鋭SASでも、原始的な肉弾戦に巻き込まれ、精神の病に掛かってしまう者が多く出た。
この国と、女王陛下のために。
そう信じて、ジョーは軍人になった。中流階級の出身とは言え、愛国心の強い両親の影響を受けて育ち、本気で軍人になれば何かが出来ると思っていた。国を守るために前線に立つのは、紳士の国の男のつとめだと思っていた。
一兵卒として参加したジョーは、もっとも悲惨な戦場の、最前線に立った。敵も味方も、気付くと死体になっていた。銃弾と硝煙と、血と臓物の臭いしか、辺りにはなかった。
どうやって生きて帰ったかさえわからない。
ただ、ジョーは英雄として、持ち上げられていた。たくさん敵を殺したのが、その理由らしかった。
帰ってから、ジョーは名声を投げ捨て、すぐに除隊した。地獄の戦場は、彼が信じていた全てと真逆だった。其処には信念はなく、ただの殺し合いだけがあった。国を守ると信じた兵士達が、利権のために、塵のように使い捨てられる悪夢の場所だった。
親に勘当されて、一人暮らしを始めたジョーは。己に目覚めている能力に気付いた。それは便利ではあったが、世界に存在する無数のフィールドで役に立つかは微妙な代物にすぎなかった。
しかし、人同士が殺し合う戦場には、もう行きたくなかったのだ。今はワンマンザアーミーだとか、スーパージョーだとか言われている歴戦の猛者が、フィールド探索者になったのは。そんな後ろ向きの理由からだった。
一度吹っ切れてしまうと、後は何も怖くなかった。主に紛争地帯にあるようなフィールドばかりを担当した。どんな戦場からも生きて帰ったことから、いつの間にかスーパージョーとか呼ばれるようになっていた。戦闘経験に関しても、いつの間にか誰にも負けないものとなっていた。
あの子供。
隙を見て、ジョーをナイフで刺そうとしていた。
刺させはしなかったが、恐怖からの行動だったのだろう。気持ちは嫌と言うほどわかる。ジョーも、味方が何人も狂っていくのを、見たからだ。普段は鉄のような精神を持っていた男が、帰った時には幼児のようになっていた。明るくユーモアに溢れていた青年が、戻ると殺人鬼に変貌してしまった。
今、ジョーは。
また、たくさん人を殺した。それは、出来れば子供にも、若造にも、させたくはなかったことだった。
深呼吸をする。
輸血パックが欲しいが、そんなものはない。かろうじて止血は終わったので、後は栄養を体に入れて、造血機能に期待するだけのことだ。
若者よ、死ぬなよ。もう、これ以上の敵は俺が通さないから、先に進め。
そう、壁にもたれかかったまま、ジョーはダーナに語りかけていた。