オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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5、隠されていた真相

地下にしては、不自然な空間だった。立ち上がったダーナが周囲を見回す。明かりはない。飛び交う妖精達が、明かりの代わりになってくれた。妖精使いを、スペランカーが抱き起こす。消耗が酷いようだった。

 

「もうちょっと、頑張ってね。 チョコレートあげるから」

 

スペランカーは勤めて優しい口調で行っているが、あまり余裕がないのがわかった。感じているのだろう。この空間が、如何に異様か。

 

上の方を見ると、谷に近い。

 

谷を丸ごと埋めたような場所だ。辺りも砂塵が酷く、何度も咳き込むことになった。何千年も掃除はしていないのだろう。

 

間違いない。

 

此処が、最深部だ。

 

「ほう。 此処まで辿り着く者が出るとは。 暇つぶしはしてみるものだな」

 

空から、響き渡る声。妖精達が、妖精使いの中に逃げ込んでいく。王様。王様。そんな声が聞こえた。

 

青白い光が、現れる。それは、徐々に人型を為していく。気難しそうな、痩躯の老人だった。長い髭は腰の前まで垂れ下がっている。頭には王冠。あまりにもできすぎた姿であった。

 

「貴方は?」

 

「私は、この墓所を作りし人間の、なれの果て」

 

「ソロモン王じゃ、ありませんね」

 

「そうよ。 賢王だとか呼ばれる存在が、如何に残虐だったか、良く知る者だ」

 

老人の姿は、けたけたと笑った。あまりにも桁外れの大きさだったから、その声も凄まじい。王冠は、霧になって消えた。多分見かけをよくするための小道具だったのだろう。

 

ぎゅっとスペランカーに抱きついている妖精使いの、怯えた様子が痛々しい。

 

「外の罠は、貴方が?」

 

「いいや。 私が作ったのは、お前のような適合者が来るまで時間を稼げるように作ったパズルだけだ。 罠を仕掛けたのは、後から来た連中よ」

 

「どういう事?」

 

「きっと、以前来た者達です。 ソロモンの鍵を求めて此処に来たはいいが、結局時間も空間も封印を解けなかったのでしょう。 だから、後から来る連中に、ソロモンの鍵を奪わせないために、魔物を呼び出す鏡の術を、たくさん、たくさん仕掛けていったんでしょう」

 

術式が、あまりにも新しすぎた。それがそもそもおかしかったのだ。

 

それに、出てくる魔物も、神代のものというには貧弱すぎた。どれもこれもが、比較的新しい時代にフィールドで存在が確認されたり、神話学に姿を見せた者達ばかり。ドラゴンなど、ソロモン王の時代にはむしろ蛇に近い姿をしていたはずだ。

 

「何それ……。 酷いにも、程があるよ」

 

「それが繰り返されて、どんどん迷宮は難攻不落になっていった。 違いますか」

 

「その通りよ。 こんなくだらん紙切れを隠すためにな」

 

顎をしゃくる青い影。

 

確かに、紙切れとしか言いようがないものが、其処にあった。後生大事に獅子らしい動物を象った台座に乗せられ、何枚かに別れて置かれている。

 

「見ても、良いですか」

 

「かまわんさ。 お前さんは古代に神の代理と呼ばれた特殊な身体的特徴の持ち主だからな。 あの嫉妬深いソロモン王も、触ることを許してくれるだろうよ」

 

「それって、どういう意味」

 

「アンドロギュノスって言葉、知っていますか?」

 

スペランカーが首を横に振る。本当は脱いでみせるのが一番なのだが、流石にそれは恥ずかしい。

 

「ぼくは、男でもあり、女でもあるんです。 現在では半陰陽って病気の一種となっています」

 

「! 本当、なの」

 

「はい。 古代では、これは神の特性とされていました。 神話には、両性具有の神様がたくさんいますけど、それは完全って意味を示して居るんです。 実際には、多くの場合で生殖能力もない、もっとも不完全な存在ですけれど」

 

そんな生まれだったから、ダーナは幼い頃から両親から引き離された。正確には、最貧層の両親が、噂を聞いて接触してきた魔術師にダーナを売り飛ばしたのである。魔術の才能は殆ど無く、血を吐くような苦労をしながら、その過程で様々な「師匠」の間を売り買いされた。

 

裏の社会では、現在もこういうネットワークがあるのだ。魔術師の中には上位のフィールド探索者並の実力を持つ者もいて、ごく一部には政府と太いパイプを作っている者もいる。

 

幸い、様々な経緯の末に現在ダーナが所属しているT社の社長がフィールド探索者として引き取ってくれたが、そうでなければ妖精使いが所属していたようなろくでもない組織で、邪悪な儀式の生け贄にでもされるか、或いは鉄砲玉になってしまっていたかも知れない。

 

ダーナを欠陥品と見なしていた「師匠」達に、今回の件は予想外だっただろう。まさかこのような理由で、ダーナが最深部に到達できるとは。ダーナは頷くと、紙切れに歩み寄る。

 

紙切れに充填されているのは、魔力ではなく、妄執だった。

 

目を通す。妖精使いが歩み寄ると、側で書いてある内容について教えてくれた。

 

そして、嘆息して、顔を上げた。

 

やはり、予想通りの代物だった。

 

「くだらんだろう。 伝説の現実を見たか」

 

「貴方は、こんなもののために、守護者として此処に置かれていたんですね」

 

「そうよ。 さっさと楽にして欲しいのだが、出来そうかね」

 

「僕には出来ません。 しかし、出来る人を、連れてきています」

 

頷くと、スペランカーが前に出る。

 

老人の巨大な霊は、満足そうに微笑む。そして、目を閉じた。

 

「殺ってくれ。 私はもう、疲れた。 何も思い残すこともない」

 

 

 

スペランカーが目を覚ますと、もう迷宮の入り口当たりだった。背負ってくれているのは、ジョーである。

 

「ジョーさん、大丈夫ですか?」

 

「多少血を失ったが、問題ない。 敵は全て片付けておいた」

 

流石だ。敵は武装した兵士が二十人以上はいた上、それに加えて術者もいたように見えたのだが。

 

ジョーの能力は、弾倉補給というあまり使い出がないものだ。本人が著しく凄まじい経験の持ち主であり、戦闘能力も高いが故に、強い。魔術的な抵抗力の無ささえどうにか出来れば、きっとこの人はフィールド探索者の中でも最強の一人になれるのかも知れなかった。

 

「もう大丈夫です。 歩きます」

 

「そうか」

 

下ろして貰う。まだ足下がふらふらだが、どうにかなる。スペランカーにとって、唯一の武器とも言えるブラスター。自分の命と引き替えに、相手の命を破壊するそれを放つと、どうしてもこうなる。ダゴン神を体内に取り込んだ今でも、それは同じだ。ましてや、今回は非常に疲れた。

 

ぺたんぺたんと、右だけ裸足のまま歩く。もう迷宮には危険はない。ただの土に埋まった古い遺跡だ。

 

あのお爺さんは、きっとソロモン王の家臣か何かだったのだろう。そして、あの紙切れを守護するためだけに、彼処に封印されてしまった。恨んだだろう。呪っただろう。それ以上に、悲しかったに違いない。

 

「ダーナ君、あの紙切れ、何が書いてあったの?」

 

「妖精達に聞いた話ですが。 どうやら、ソロモン王による家臣の裁定のようです」

 

「えっ!?」

 

「多分子孫のために書いたのでしょう。 家臣の誰が何が得意で、何が苦手で、どんな性格で……。 でも、ソロモン王の死後、元々晩年の失政で打撃を受けていた王国は大混乱に陥り、あっという間に滅びてしまいました」

 

そして、伝説だけが一人歩きした、というわけだ。

 

確かに家臣の名簿は72人分あったという。誰も彼もが、後に巨大な力を持つ悪魔として勝手に設定されていくとは、思ってもいなかっただろう。

 

「一神教にとっては、かなり面倒な書物になります。 とりあえず、僕は帰った後N社かC社に赴いて、保護を求めます。 幸い僕には家族もいませんから、何とかなると思います」

 

「ダーナ君」

 

「でも、妖精使いのその子は、先輩にお任せしたいのですが、よろしいでしょうか。 ぼくだけでも結構無理があるのに、もう一人を守りきるのはとても難しいですから」

 

自分の話をされていることに気付いたか、ぎゅっと、妖精使いに手を握られる。

 

スペランカーは、頷いた。この子を見捨てることなど、出来はしなかった。幸い、この間の一件で、スペランカーはアトランティスに大きな人脈が出来た。彼処に連れて行けば、生半可な勢力では手も足も出せない。

 

ジョーが歩きながら、相変わらずダーナを見ずに言う。

 

「なら、俺がサー・ロードアーサーやC社の上層に話を付けてやる。 そうなれば、例え一神教の過激派でも、簡単にお前には手をだせん。 ただし、その腐った紙切れを公開するかどうかは、ずっと後の話になる」

 

「有難うございます。 酷い事件でしたが、この迷宮で人が死ぬことは、もう無くなるんですね」

 

「ああ、そうだな」

 

迷宮の入り口についた。と言っても、入るのに使った孔だが。あのターバンの人達は、きっと別の経路で此処に来たのだろう。

 

「ダーナ君、これからどうするの?」

 

「夢が、あるんです。 ぼく、子供を作れるか、或いは産める体になりたい。 現在ではそんなに難しい手術じゃなくて、もう少し、頑張れば、お金も貯まりそうです」

 

「そうか、頑張ってね」

 

「はい。 今は、男になるか、女になるか、どっちも捨てがたくて。 考えるのも、ちょっと楽しいです」

 

ダーナが優しい笑みを見せてくれた。綺麗に整った顔だし、どっちになってもさぞもてることだろう。

 

それにしても。

 

スペランカーは、改めてさっきみた紙切れのことを思った。

 

あんな紙切れのせいで、世界に災厄がまき散らされたなどという伝承を、妖精使いは吹き込まれたという。

 

大嘘だ。

 

人間は昔から何ら進歩していない。ソロモン王の前の時代から、ずっと世界は戦争だらけだった。差別に殺し合いに奪い合い。人間の世界に、平和と愛が満ちたことなど、ただの一度だってない。

 

少なくとも、スペランカーは知らなかった。

 

あの暗い孔を通って、地上に。時々妖精使いを引っ張り上げる。そう言えば、この子には名前もないのだ。人間のおぞましい業にさらされたこの子に、名前もあげなければならなかった。

 

配水管を通って、軍基地に。

 

外に出ると、すぐにジョーさんがヘリコプターを手配してくれた。C社の前線支部で、対応を協議するという。

 

大佐が、笑顔のままで来る。

 

「おお、お帰りなさい。 計器類から、フィールドの消滅が確認されました。 流石ですな」

 

「有難うございます」

 

外の目映い陽光そのものが怖いらしく、ぎゅっと身を縮める妖精使いの子を、大佐の視線から庇うと。

 

スペランカーは、早くヘリが来ないかなと思った。

 

 

 

(終)




血塗られた魔道書ソロモンの鍵の呪い。

それは今回打ち砕かれることになりました。

多くの犠牲の果てに。

哀しみの末に。
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