オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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すっかりアトランティスの事実上の指導者となったスペランカー。

彼女には為政者としての優れた資質はありませんが。

有能なブレインとして覚醒しつつある川背の支援と。

自分達で新しい寛容な指導者を支えようというアトランティスの民の努力で。

急激に地歩を固めつつありました。


1、出陣までのひととき

少し前に、出現した新しい大陸アトランティス。

 

紆余曲折の末に、此処を邪神の手から解放したスペランカーは、膝を抱えてじっと空を見つめていた。

 

アトランティスの空を、くるくると飛んでいる小さな影がある。

 

おかっぱの赤い髪の毛を持つ小さな魔女だ。箒に跨がり、妖精を従えている姿は、まさに小さくとも魔の申し子であった。

 

無言でそれを見上げていたスペランカーの元に、「長老」が歩み寄ってくる。いわゆる半魚人である長老は、人間から見ると意図的に生理的嫌悪感をあおられるような造形をしていたが、スペランカーは平気だった。

 

「スペランカー様。 書状が届いております」

 

「ありがとう。 でも、「様」はいいよ」

 

「いえ。 どうか、それだけはお受けください」

 

そう言われると、スペランカーは弱い。

 

様々な事件と激しい戦いの末、このアトランティスに生きている者達にとって、神の代理ともなっているスペランカーである。あまりそういう振る舞いはしたくないとかねてから口にしているのだが、ただいるだけで良いと懇願されて、結局此処に居着いてしまっている。

 

何より、どこの国からも干渉を受けないというのがとても大きい。科学的文明も決して劣っていないし、静かに過ごすには何とも最適な場所なのだった。

 

ただ、巫女の衣服らしいひらひらはもう着ないことにした。あまり変な期待をさせると、却って彼らをがっかりさせると思ったからだ。

 

黄色い声を上げて、小さな魔女は、まだ上空を飛んでいる。

 

彼女から視線を外すと、スペランカーは手紙を読む。きれいなJ国語のひらがなで書かれているが、文法が少しおかしい。翻訳ソフトでも使って書いたのかもしれない。

 

しばらく四苦八苦しながら文を読み進め、やっと文意を悟ったときには、随分時間が経ってしまっていた。

 

「はあ。 要は仕事か」

 

「スペランカー様であれば、生還できぬフィールドなどありますまい。 何なら、我らの精鋭がお供いたしまする。 多少の妖物など、容易に蹴散らしてご覧に入れましょう」

 

「ううん、大丈夫。 今は一人でも多くがアトランティスを良くするために働いて」

 

「もったいなきお言葉にございます」

 

長老に、小さな魔女を預けると、スペランカーはその場を離れる。原野がずっと続いているが、ぽつんと見える4WDの黒塗り。

 

近くで、車を運転できる骸骨の戦士が待っている。別に歩くと言っているのだが、好意だの何だのと言ってはスペランカーを楽させたがる。ただでさえひ弱なのに、此処にずっといるともっと弱ってしまいそうだ。

 

スペランカーが礼を言いながら車に乗ると、骸骨は丁寧な日本語でしゃべった。一生懸命覚えてくれたことを思うと、申し訳なくなる。

 

「どちらに赴きましょうか」

 

「空港までお願いします」

 

「イエッサー。 直ちに」

 

4WDは、それこそ蠅が止まりそうな超微速で前進を開始。ごつごつの原野でありながら、とてもゆっくり走り始めた。助手席に座ったスペランカーは、短く刈った髪を掻き上げながら、携帯を取り出す。

 

この辺りは、何とか携帯が使えるのだ。

 

携帯から、ネットに接続。フィールド探索者達の情報サイトにログインした。そして、さっきの手紙に合致する情報を見つける。

 

「クレイジーランド、か」

 

「何処かの遊園地ですか?」

 

「遊園地と言えば遊園地なんだけど、恐ろしいところだよ」

 

スペランカーでさえ、聞いたことがある、史上最大級のフィールド災害。その主役こそが、クレイジーランドだ。一度に千を超える死者を出し、フィールド探索者を志す人間は、モグリでもその名を聞くことになる。

 

歴戦の猛者達が挑んでも未だに攻略できていない難攻不落のフィールドという意味でも有名である。

 

「このアトランティスよりも、手強いのでしょうか」

 

「若干、似ているかもしれないよ。 あまり詳しくは知らないんだけれど、この遊園地って、確率のゆらい? ええと、確率の、なんだっけ」

 

「ゆらぎ、でしょうか」

 

「そうそう。 それの中に浮かんでいて、滅多に表には出てこないんだって」

 

骸骨がとても賢いことに感心しながら、スペランカーは己の乏しい知識を披露した。いろいろ詰め込んでもすぐに忘れてしまう効率の悪い頭である。やっと覚えることが出来た事は、とても嬉しいものなのだ。

 

空港が見えてくる。

 

アトランティスと、他の国の、唯一の接点だ。スペランカーが飛行機で別の国に行くときは、わんさと半魚人やミイラ男や骸骨達が押しかける。流石に歴戦のフィールド探索者達も、それを見るとぎょっとするようだ。

 

今回は、打ち合わせをするために、ここに来た。

 

他の国からすれば、此処が唯一の接点だからだ。空港にはレストランやホテルも建てられ始めているが、まだ規模は小さい。一応国連の関係者なども来たりするが、それは国賓として、長老が王宮と呼んでいる神殿に連れて行くことが多いようだ。

 

レストランでは、人間も働いている。しかし、外に出ると原生の大型生物に襲われる可能性もあるため、空港の中に住居が作られている状況だ。アトランティスの住民と、地球人の間にある溝は、結構深い。

 

帽子を取って深々と紳士的に礼儀する運転手骸骨に見送られて、スペランカーはレストランに。各国の要人も来るから、結構高級な雰囲気だ。あまりにも高級すぎて、庶民なスペランカーはちょっと落ち着かない。

 

凄くきれいな、金髪のウェイトレスさんが来た。流ちょうな英語でしゃべっている。メニューも当然英語なので、四苦八苦しながら電子辞書で訳し、紅茶を頼む。紅茶一つが、かなり高い。最近会社の方だけでは無く、別の収入も出来たとはいえ、ちょっとこんな紅茶をあまり飲んでもいられない。

 

紅茶は来た。小さなカップで、濃厚芳醇な香りで。確かにものすごく美味しい。だが、はっきりいって、値段を考えるととても楽しめなかった。

 

さて、そろそろ、来る頃なのだが。

 

そう思っていたところで、無遠慮な声が、後ろから飛んできた。

 

「おう、またせたなあ」

 

「しー。 高級レストランですよ」

 

ウェイトレスさんが、その声の主をぎろりとにらむが、水を掛けられた蛙ほども感じていない様子である。

 

そのまま、どっかとスペランカーの向かいに腰掛ける。スペランカーは、なぜか自分が恥ずかしくなってしまった。

 

スペランカーの向かいに座ったのは、フィールド探索者としては中堅どころに位置する人物である。その豊満な肉体と、妖艶な体の造形とは裏腹に。中身は中年男性のごとき有様で、羞恥心もあったものではないという、とてもがっかりな美人さんである。

 

今回、彼女は中継役で、一緒に戦うわけでは無い。

 

一緒に戦う仲間は、既に現地に向かっているという話だ。

 

フィールド探索者が、営業の代わりをすることはかなり珍しい。普通こういう席には、交渉を知り尽くし、歴戦のフィールド探索者を相手にしても物怖じしない、ベテランの営業が来るものだ。今回彼女が来たのには、何か複雑な裏側の事情があるらしいのだが、スペランカーは知らされていない。

 

「で、何が美味しいのさ」

 

「いや、こんな高級なお店には、あまり縁が無いので。 私には、よく分かりません」

 

「店員さーん? ちょっといいー?」

 

結構遠慮の無い声でいきなりウェイトレスさんを呼びつけるので、スペランカーは顔から火が出そうだった。周囲には各国要人やそのSPらしい人もいる。スペランカーはこの国代表として話をする事もあるので、顔見知りも多い。だから、余計に恥ずかしくて仕方が無い。

 

結局お姉さんは店員さんからおすすめだという難しいフランス料理を聞かされて、それを注文した。お高い料理だが、それに関しては全然気にしていない様子だ。多分お金持ちなのだろう。

 

しかも、いざ料理が来てみると、テーブルマナーは完璧だ。鶏肉をクリームで煮込んだもののようだが、跳びやすいクリームが全く皿の外に出ていない。音も全く立てずに、見事な手さばきでさくさくと口に運んでいた。

 

食べ終えてから、話を始めるお姉さん。料理の感想を口にしないところを見ると、味は微妙だったのかもしれない。いや、この人だったら、遠慮無くまずいとか言いそうだから、普通だったのか。

 

「で、あんた。 今回はクレイジーランドに出向くんだって?」

 

「はい。 滅多に出現しないらしいですから、情報も殆ど無くて、ちょっと怖いですけれど」

 

「いいよため口で。 あんたとあたし、そんなに経歴に差も無いじゃん。 年はそれに、あんたの方が上だろ?」

 

「え? うーん。 じゃあ、分かりました」

 

好意に甘えることにする。お姉さんは、持ってきた書類を見せてくれた。

 

今回、事前に交渉は済ませてある。どういう政治的な力が働いたのかはよく分からないが、書類だけが此処でスペランカーに手渡される。一応この仕事も長いから、さっと書類に目を通す。

 

仕事のお給金は、いつもよりだいぶ高い。支給される物資も悪くない。

 

「ほんとにそんな条件でいいの? あたしだったら蹴るけどなあ」

 

「リスクが大きいから?」

 

「そうだよ。 あんただって、その能力、いろいろ弱点はあるんだろ? ましてや今回のフィールド、相性はある意味最悪なんじゃ無いのか?」

 

「でも、頼れる友達もいるから、平気です」

 

能力の弱点なんか、百も承知だ。実際それを突かれて、ひどい目に遭ったこともある。

 

だが、痛いのは嫌だが、耐えることは難しくない。

 

それに、普通の生活していても、日に何十編も「死ぬ」ような体質である。今更それを恐れてなどいられない。以前異星の神と戦う羽目になったときなどは、それこそ一度の仕事で万を超える「死」を経験したほどだ。

 

「そうかい。 あんた、見た目と違って、勇気があるねえ」

 

ちょっと恥ずかしくなって、照れ笑いをした。

 

書類ももらったので、一度引き上げる。お姉さんはこれから別のフィールドを探索するとかで、すぐに飛行機でよその国に行った。この使い走りも給金に含まれていたのだろうと思うと、ちょっとうらやましいかもしれない。

 

そして、家として使わせてもらっている神殿の一室で、荷物を整えた。

 

これでも、現役のフィールド探索者だ。すぐに仕事に出られるように、いつも準備はしてある。

 

今回は長期戦になる可能性があるから、缶詰も一杯持って行く。かに缶とマヨネーズを詰め込んで、それで終了。

 

長老が、見送りに来た。

 

「貴方なら大丈夫であろうと思いますが、万が一もございます。 お気をつけください」

 

「大丈夫。 きっと戻ってくるよ」

 

戻ってこないと、あの子がまた一人になってしまう。まだ長老や、他のこの国の人たちとも打ち解けていない。打ち解けないまま、孤立してしまうだろう。

 

だから、スペランカーは。

 

まだまだ、存在的な意味で、死ぬわけにはいかなかった。

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