オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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2、狂気の遊園地

スペランカーが現地に到着すると、既に現地は厳戒態勢が取られていた。

 

フィールドの危険性は、この世界の人間には常識である。マスコミの類も来ているが、絶対に中には入れない。入ったら最後、まず生きては出てこられないからだ。

 

マスコミがわいわい騒いでいるのは、此処が米国で、しかも結構都会だからである。

 

元々遊園地を企画していたらしい広い空き地に、突如クレイジーランドが出現したのである。何ら前触れも無く、だ。

 

よく分からないのだが、確率のゆらぎとかいうのが、この辺りにクレイジーランドを出現させた、ということなのだろう。

 

最初に元の遊園地がフィールド化してから、二月ほどで、影も形も無くなってしまったらしいクレイジーランド。それから現在までに十三回世界各地に出現している。今回は十四回目の出現だが、出現してから平均して十日程度で消えてしまっているので、攻略するのなら急ぐ必要がある。

 

だが、分厚い見物人やマスコミの壁が、なかなかスペランカーを通してくれない。ましてやこの国の人たちは、基本的にとても体格が良いのである。押し通るわけにもいかなかった。

 

「ちょっと、通してくださーい!」

 

「あ、先輩! こっちです!」

 

「川背ちゃん? うひゃあっ!」

 

ぎゅうと押されて、即死。

 

しばらく無言で潰されていたが、息を吹き返すと、ハイハイするようにして、やっと人混みを抜けることが出来た。押しつぶした人が死んでいないか不安になったが、多分悪意無しとカウントされたのだろう。

 

フィールド探索者は、何かしらの能力を持っているのが普通だ。

 

スペランカーのそれは、ある神に起因した不老不死。ただし、その副作用として、運動能力も知能も著しく低くなっている。更に非常に死にやすい。ちょっとしたことでも死んでしまうのだ。すぐに蘇生するのだが、その際には電気ショックのような痛みがあるし、あまり嬉しくない。

 

また、死んだときに体が欠損した場合、周囲から補って蘇生する。これが問題で、悪意のある他者から攻撃を受けて死んだ場合は、攻撃した相手から欠損箇所を自動で補う。このカウンター能力が発動するのでは無いかとスペランカーは心配したのだが。とりあえず、大丈夫だったようだ。

 

幼い頃からつきあっている能力だが、これのせいで発育も悪い。ただし、これあるおかげで、無能な自分でもお仕事が出来てご飯を食べられるのだという側面もある。

 

埃を払いながら立ち上がると、後輩の川背が苦笑いしていた。スペランカーと同じようにショートカットにしている彼女は、非常に活動的な半ズボンを常に愛好している。スペランカー同様童顔で小柄だが、しかし体の方は結構グラマラスで、特に胸は何を食べたらそんなになるのか、羨ましいくらいだ。

 

呪いのせいで発育が止まっているスペランカーとしては、童顔であってもきちんと発育した川背が、時々羨ましく思える。

 

それに川背はスペランカーと違って、バリバリの武闘派である。空間をよその空間とつなげる能力を持つほか、戦闘時はルアーがついた伸縮自在のゴム紐を使って、まるで曲芸のような機動を見せる。単純な戦闘能力は非常に高く、噂によるとマイナー企業の戦闘タイプ探索者としては最強に近いという話もあるそうだ。

 

スペランカーのことを慕ってくれる川背のことは、いつも頼れる後輩として心の支えになる。

 

「大丈夫ですか、て聞くまでも無いですね」

 

「うん。 他の人は?」

 

「今回は、何チームかに分かれて入るみたいです。 僕と先輩は、この辺りから自由に突入してくれ、だとか」

 

「そんな、いい加減な」

 

そういえば、フィールドの周囲は軍隊が固めていることが多いのに、今回に限っては殆どその姿も無い。

 

多分、この件には、裏で何か大きな力が働いているのだろう。

 

このようなやり方はまずいと、あまり頭が良くないスペランカーでも分かる。同士討ちにも発展しやすいし、連携がとれていない戦力分散など、まさに愚の骨頂だ。

 

小声で、川背が言う。

 

入ってから、話しましょうと。

 

多分、川背も感じているのだろう。何かこの件には裏があると。

 

 

 

クレイジーランドに侵入した少年は、ヘッドギアを直すと、無言で歩き始めていた。

 

真っ正面から侵入したにも関わらず、今の時点で歓迎の敵影は無い。此処が今まで誰にも攻略されなかったのが、不思議なくらいだ。空は青く、コンクリの地面も長年放置されているとは思えないほどきちんと整備されている。

 

時計を見ると、異常に遅く進んでいた。フィールド内で、時間がおかしな進み方をする事は良くある。多分この中の時間の進み方は、外に比べて早いのだろう。今頃外は、軍隊が固めているか、マスコミが押しかけているか、どちらかの筈だ。

 

全体をざっと歩いて回る。

 

既に、フィールド化する前の地図は入手して、頭に叩き込んである。その地図と、驚くほど差異が無かった。

 

「事前の調べ通りだな」

 

つぶやいて、周囲を見回した。

 

此処がフィールド化した時、少年は何が何だかよく分からなかった。訳が分からないうちにガールフレンドと引き離され、両親が殺されて。無我夢中で逃げ回って、遊園地の外に這い出た。

 

守るなどと言う発想は無かった。

 

ただ、自分だけが逃げ延びたいと、本能のままもがいて。何もかもを見捨てて逃げた。後ろで、ケタケタ笑う声がずっとしていて、狂気を発しそうだった。

 

振り返ったら、多分死んでいただろう。

 

狂った遊園地からの生還者として、少年は里親には恵まれた。優しい里親は子供がいない老夫婦で、心に重い傷を負った少年を優しく迎え入れてくれた。実際、この人たちのことを、少年は親だと思っている。今回も、このクレイジーランドに出向くことを、最初に話したのは、里親の二人だった。

 

そして、この人達に迷惑を掛けないために、敢えて話していないことも幾つかある。

 

全く人影が無い遊園地には、動物の姿も無い。これだけ人影が無ければ小鳥くらいは来そうなものだが、空にも全く何の影も無いのだ。白々しく浮かんでいる雲は、作り物だと思えるほどに動かない。

 

否、多分本当に作りものなのだろう。

 

自分に特殊能力が備わったのは四年前。V社という小さなフィールド探索社に所属したのは二年前。

 

一応、実戦もこなした。単独でのフィールド攻略では無く、メジャー企業の探索者のアシストだったが、命も奪った。その時に、フィールドが放つ独特の雰囲気は肌に刻み込んだ。

 

あのときとは比べものにならないほどに、異様な空気が濃い。

 

視線も感じる。

 

じっと、遊園地の何処かから、何者かが獲物である少年を見ているのが分かった。

 

人の気配。さっと茂みに隠れる。視線の主とは違うようだが、此処では他の誰とも関わらない方が良い。

 

脳天気そうな、平和そうな雰囲気の女が歩いてくる。見るからに鈍そうで、童顔で平坦な体つきをしていた。ヘルメットをしてバックパックを背負っているが、とてもひ弱そうだ。

 

見覚えがある。

 

絶対生還者のスペランカー。

 

あいつが来るとは驚きである。このフィールドの特性から言って、大物が来る事はないと踏んでいたのだが。

 

スペランカーはフィールド探索者としては経歴も実力も中堅どころだが、その性質がとても有名で、極めて困難なフィールドに投入されることが多い人物だ。影では、神殺しというあだ名まである。駆け出しである少年でも、そのことは知っている。

 

間違ってもここに来ることは無いと、少年は思っていたのだが。

 

不意に、襟首を掴まれて、地面にたたきつけられた。

 

「がっ!」

 

「先輩、捕まえましたよ」

 

「川背ちゃん、乱暴しないであげて?」

 

ホールドされたまま、引きずり起こされる。もがくが、ものすごい腕力だ。とても逃れられるものではない。

 

体格からいって、体を押さえているのは女か。川背というのは聞いたことが無いが、フィールド探索者か。

 

隠れていた少年の背後に音も無く入り込み、一気に制圧するとは、相当な体術の腕前だ。体術の訓練も受けていたのに、此処まで見事に制圧されたのは初めてだ。歯を噛むが、どうにもならない。ここに来た時点で、他のフィールド探索者との戦闘も想定していたというのに。厳しい訓練を自分に課してきたつもりだったが、それはまさしくつもりでしかなかった、ということだ。

 

腕を極められたまま歩かされる。歯がゆくて悔しくて、涙が出そうだった。

 

スペランカーは、じっとこっちを見ていた。視線は冷たくない。むしろ、暖かかった。里親達のように。

 

「君は? ここに来たフィールド探索者の一人?」

 

「……」

 

「話したくないのならいいよ。 でも、見たところ、素人さんには見えないけれど。 子供だし、記者さんとかじゃないよね」

 

「先輩、この子、身のこなしから言って、絶対素人じゃありませんよ」

 

苦笑した後ろの女が、手を離してくれる。万力みたいな腕力だったから、不意にはなされてつんのめりかけた。

 

振り返ると、童顔の女だった。少年と背も殆ど変わらないくらいで、むしろ低い。半ズボンで髪の毛を短髪にしているから、大きい胸がなければ男の子と勘違いするかもしれなかった。

 

川背というのは聞いたことが無いが、此奴の名前だろうか。フィールド探索者としてはあまり有名では無いはずだが、この業界に入ったのが最近の少年が、もの知らずなだけかもしれない。

 

「あんたたち、相当な凄腕みたいだが、此処じゃ通用しない。 帰れ」

 

「そう言われても、お仕事できてるんだから」

 

「そうじゃない。 その仕事ってのがやばいんだ。 ここに来たら、生きては帰れない可能性が高いぞ」

 

「どういう意味?」

 

それを言うわけにはいかない。此奴らが信用できると分かるまでは。

 

今、唯一の家族といえる、里親に迷惑が掛かるからだ。

 

「しばらく中を歩いてみたけれど、誰もいない。 攻撃も受けない。 それが、関係しているのかな」

 

「言うわけにはいかない」

 

女どもは顔を見合わせる。少年を制圧した女の方が、だいぶ賢そうだった。しかし、スペランカーは。初めて会ったのに、どうしてか妙な安定感がある。これほど見ていて危なっかしいというのに。

 

どうみても川背という方が賢そうなのに、先輩と呼ばれていて違和感が無いのだ。

 

「先輩、やっぱりおかしいですね。 他のチームの名簿も知らされていませんし、それにこの子、多分新人か、それに近い実力の筈です。 正式にこんな危険なフィールドの攻略メンバーになったとは思えません」

 

「そういえばアトランティスの時も、ウィル君一人が侵入しただけで結構騒ぎになったよね」

 

「はい。 フィールド探索の名簿は厳重に管理がされているはずなのに、どうしてこんな事になったのか」

 

スペランカーが考え込む。小首をかわいらしくひねっているのだが、どうも計算しているような雰囲気では無い。

 

「君、名前は」

 

「本多宗一郎」

 

「あ、J国人か。 私達と同じだね。 じゃあ、宗一郎君。 貴方は、此処の何を知っているの? 私たち、此処を攻略するつもりで来てる。 力になれると思うけれど」

 

「悪いけど、あんた達が何国人だろうが、関係ない。 フィールド探索者って時点で信用は出来ない」

 

肩をすくめたのは、川背の方だった。

 

また、即座に後ろに回られて、手首をひねられる。呻く。如何に相手が現役のプロとはいえ、これほど力の差があるとは。

 

「放っておいてくれないか。 俺には、あんた達に危害を加える気は無い」

 

「何を意固地になってるんだろう。 先輩、縛っておきますか?」

 

「川背ちゃん、離してあげて」

 

「え?」

 

川背という女は、疑念を呈したようだが、それでも渋々ながら後ろ手にひねっていた手を外してくれた。

 

手首をさする宗一郎に、スペランカーは笑顔を浮かべる。

 

「じゃ、勝手に手助けさせてもらうよ。 この様子だと、そもそもフィールドを攻略するってこと自体が難しそうだから」

 

「知るか。 勝手にしろ」

 

妙にスペランカーの笑顔がまぶしくて、宗一郎は視線を外した。

 

宗一郎にとって、女はあいつしかいない。そう決めたのだから。

 

 

 

宗一郎は、ついてくる女どもにはかまわず、ゲートをくぐる。アトラクションの名前は、西部ガンマンポリスとか、よく分からないセンスである。文字は何年も経っているとは思えないほどきれいで、ペンキが禿げた様子も無い。この辺りは、コンクリと同じだ。

 

ゲートを一歩くぐった瞬間。

 

周囲のあらゆる方向から、獰猛な殺気が叩きつけられる。

 

今までは、それぞれの縄張りに入っていなかった。だがここからは違う。ここからは、この異常な遊園地を支配する連中の縄張りに、それぞれ足を踏み入れていく事になるのだ。

 

リュックから、ボールを取り出す。

 

テニスに使う小型のボールだ。宗一郎の能力は非常に面倒くさい制約があり、「最初の内」は、これくらいしか使うことが出来ない。

 

辺りはとにかく安っぽく、非常に埃っぽい。いかにもステレオタイプの西部劇で出てきそうな寂れた街。足下を、丸まった枯れ草が、かさかさと音を立てて飛んでいく。

 

不意に、スピーカーの音。

 

そして、異常なハイテンションで、アトラクションの説明が垂れ流された。

 

「ハーイ、このアトラクションに足を踏み入れた紳士淑女ボンクラ諸君! 此処では、君たちの生存能力を示してもらう! ていっても、この遊園地じゃどこでも生存能力を示してもらうんだけどなあ! ギャーハハハハ!」

 

「わー。 古典的なナレーションだね」

 

本当についてきたスペランカーが、後ろで脳天気な事をほざいている。

 

既に此処は死地だ。実際、川背という女は、どう使うのかルアーがついたゴム紐を、バックパックから既に取り出していた。

 

「この奥には、人権団体に訴えられそーなボスが鎮座しておられますぜえ? レイシスト扱いされたくなければ、さっさと引き返すがよろしよ、なんつて! ギャハハハハ! ていっても、もう生かしちゃかえさねーけどな!」

 

バタンと、酒場の扉が開いて、虚ろな目をした男達が出てくる。唸り声を上げながら、その男が、拳銃を抜くのと。

 

稲妻のような速さで飛んだルアーが、その手に当たるのは殆ど同時。

 

ルアーははじかれる角度まで計算されていたのだろう。男の後ろにあった壁に引っかかる。ゴムが凄まじい勢いで伸縮し、川背という女が跳躍。そのまま、ガンマンの顔面に、ドロップキックを叩き込んでいた。

 

川背は壁を蹴ってゴム紐の伸縮を利用し、自身を屋根の上に引っ張り上げる。どういう動きか。

 

男は、しばらく呻きながらもがいていたが、やがて動かなくなった。

 

だが、それで終わるわけも無い。

 

バタンと音が彼方此方でして、次々にガンマンが出てくる。いずれも古き時代の西部劇に出てくるような、カウボーイハットにウェスタンブーツ、よれよれのシャツに無精ひげと、ステレオタイプの姿をした者ばかりだ。

 

宗一郎も動く。テニスボールから手を離し、神経を集中。

 

インパクトの瞬間を見極めると同時に、蹴りを叩き込んだ。

 

「オラアッ!」

 

プロの打球など足下にも及ばない早さで、右手にいたガンマンの顔面に、テニスボールが炸裂。のけぞって倒れるガンマン。テニスボールは、重力を無視した動きで手元に戻ってくる。

 

跳躍。ガンマンが、弾丸を放つのが見えた。動きは遅いが、昔の西部劇で良くある、早撃ちの姿勢そのものだった。だが、動きが遅いので、どうにかかわせる。

 

川背という女は、屋根を飛び回りながら、空中からガンマンの銃をルアーでたたき落とし、蹴りを叩き込み、またゴム紐をふるって屋根に引っかけ、さながらバッタのように飛び回っている。

 

また一人、川背に顔面に着地されたガンマンが、地面にたたきつけられる。走りながら、もう一丁ボールを蹴った。ガンマンのカウボーイハットが、吹き飛んで宙に舞った。テニスボールの破壊力を完全に超えている。

 

これが、宗一郎の能力だ。まだ、二割も出せてはいないが。

 

「こっちこっち!」

 

いつのまにか奥の方にまで行っていたスペランカーが、川背を死角から撃とうとした一人に大声で呼びかける。ガンマンの意識がそれた瞬間、川背が即応。バネのしなりを利用して飛び、またドロップキックを叩き込む。

 

ゴムの反動の威力があるから、凄まじい。吹っ飛んだガンマンは寂れた酒場の壁に突っ込み、大穴を開けて動かなかった。

 

宗一郎も、無言で残敵を掃討する。跳躍して、着地。もがいて立ち上がろうとしていたガンマンを踏みつける。ぎゅっと音がして、ガンマンは動かなくなった。

 

殆ど体力も消費していない。川背という女、予想以上に強い。それにスペランカー、弱いように見えて動きに無駄が無かった。能力についても聞いているから、最初はあまり期待していなかったのだが。良い意味で、期待を裏切ってくれた。

 

ただ、最初からこんな数の敵が出てくるとは思わなかったが。

 

スピーカーから声がする。

 

「おおー? これはこれは、なかなかに強い紳士淑女だ。 じゃあ、難易度挙げていくぜえ? 騎兵隊って知ってるか? この国発展の過程で活躍した英雄なんだが、何しろ荒くれ揃い、中にはただ現地の住民をおもしろ半分に殺してたっつーどーしよーもねーくず共も混じっててなあ。 その偉大なるくず共のご登場だ! パンパカパーンってな! ギャハハハハ! てめーらみてーな有色人種なんか狩りの獲物か強姦する相手くらいにしか考えてねえから覚悟しな! ヘイ、カモーン!」

 

セットのような街の外から、馬蹄の響きが轟き始める。

 

青い制服を着た、ライフルを背負った騎兵達が見えた。馬の脚力を利用して、街の周囲を回りながら、突入のタイミングを計っている様子だ。

 

まだ、テニスボールしか使えないか。宗一郎の能力は、この状態では、まだパワーを上げられないのだ。

 

倒れていたガンマン達は、煙のように消えてしまっている。アトラクションには邪魔だとでもいうのだろう。

 

最初に、大量のたいまつが飛んできた。多分家の中に逃げ込まれると面倒だから、という理由だろう。

 

とっくの昔にアトラクションの域を大いに逸脱してしまっているが、もう主催者には関係が無いと見える。

 

すぐにセットのような家々にも、給水塔にも、火が回る。

 

ライフルの狙撃音が響き渡り始めた。騎兵隊による、機動ライフル射撃だ。騎乗での射撃には相当な腕がいるはずだが、難なくこなしている辺り、たいしたものである。

 

スペランカーが咳き込んでいる。だが、火が回り始めている家からは、要領よく逃れていた。

 

わざと袋小路を背にすると、ボールを取り出す。

 

そろそろ、リミッターを一つ、外せる頃だった。

 

騎兵が一人、燃えさかる柵を背にする宗一郎を見つけて、馬を止めて確実に止めるべく狙撃に入った。遠くから見ると、ひげだらけの非常に大柄な人物だ。青い軍服を着込んでいて、じゃらじゃらといろいろ勲章をつけている。

 

だが、撃つのを待ってやる事もない。

 

テニスボールを離して、蹴る。

 

地面すれすれに飛んだテニスボールは、途中時速三百キロを超え、更にホップして男の顔面を襲った。

 

吹っ飛んだ男が、地面に倒れ、他の騎兵に踏み折られる。

 

だが、ボールが戻ってくる前に、別の騎兵が宗一郎を撃った。ライフル弾が肩をかすめる。灼熱が走るが、気にしない。

 

更にもう一撃、蹴り込む。無言で、更に一撃。騎兵が次々吹っ飛ぶが、敵の戦意も旺盛である。

 

脇腹を、銃弾がかすめた。不意に、スペランカーが飛び出して、宗一郎の前に手を広げて立つ。

 

複数の銃弾が、その体を貫く。

 

スペランカーが間に合わなければ、宗一郎が蜂の巣だっただろう。

 

殆ど、間を置かず。

 

彼女を狙撃した騎兵達が、胸から腹から鮮血を吹き出し、ばたばたと落馬した。

 

無言で、二つテニスボールを落とすと、同時に蹴る。足への負担も大きくなるが、気にはしていられない。

 

顔面から吹き飛ばされた騎兵が落馬する。狭い袋小路の向こうと言うこともあって、むしろ狙いやすい。

 

敵の数も減ってきている。宗一郎が倒すよりも明らかに減りが早いのは、多分川背という女がこのセットの外で大暴れして、騎兵を叩き落としまくっているからだろう。相当に強いフィールド探索者だ。

 

「あいたたた、もう、躊躇無く撃ったよあの人達」

 

「……」

 

穴だらけになっていたスペランカーが、頭を振り降り立ち上がる。

 

体の傷はふさがりつつあるが、服は穴が開いたままだ。白い肌が見えて、宗一郎は無言で視線をそらした。

 

既に、騎兵の姿は無い。

 

スピーカーも燃え落ちて、残っていなかった。

 

煙に咳き込みながら、セットのような村を出る。外には、さっきまでの遊園地とは全く違う、赤茶けた原野が広がっていた。当然のように、死んだり気絶した騎兵達は、影も形も無かった。

 

川背が歩いてくる。何発か掠ったようだが、戦闘能力に問題は無い様子だ。

 

「先輩、ご無事ですか?」

 

「私は大丈夫だけど、宗一郎君がちょっと怪我してる。 手当てできる?」

 

「持ってきています」

 

既に、後ろを振り返ると。

 

セットさえ無くなっていた。

 

手当など良いというのだが、殆ど無理矢理赤茶けた原野の中座り込まされる。野牛のものらしい骸骨があって、妙にリアルな作りだった。

 

「これ、アトランティスと同じなのかな」

 

「ああ、フィールド内にフィールドが、て奴ですか。 僕は見ていませんけれど、複雑な構造だったらしいですね」

 

女どもが会話しながら、てきぱきと手当をしてくる。殆ど何もすることは無かった。一応宗一郎もバックパックに医療キットを入れてきてはいるのだが、包帯を巻くのも消毒もずっと相手が上手い。

 

不意に、野牛の骸骨がケタケタ笑い出した。

 

「ギャーハハハ、やるなあ。 原住民狩りの達人、お偉い第七騎兵隊の英雄中佐殿も、てめーらが相手じゃちょっと分が悪かったか!? じゃあ、てめーらにはとっておきの相手を用意してやるぜえ」

 

「ちょっと、手当くらいはさせてくれないかな」

 

「ノンノン、それはできねえ相談だ。 遊園地のアトラクションってのは、基本的にノンストップなもんなんだよ。 休みたいなら、これが終わってからにしな? OK?」

 

驚いたことに、骸骨はスペランカーの言葉に応答している。

 

手当を川背が素早く済ませてくれたので、立ち上がる。顔を見ずにありがとうと言うと、背中を叩かれた。

 

「礼なら、僕より先輩に」

 

「ああ。 ありがとう」

 

「んーん、どういたしまして」

 

「年頃の男の子って扱いにくいなあ。 相手の顔くらいみながら話したら?」

 

どうしてか、川背という女は怒っているらしい。理由はよく分からないが、スペランカーはまあまあと取りなしている。結局、どうしていいか分からない。

 

辺りの風景が歪んでいく。手際よく医療キットをバックパックに詰め込んだ川背が、警告の声を上げた。

 

「来ます!」

 

「ギャハハハハ、休憩タイム終ー了ー!てな! そんなんとってやってねーけどな。 じゃあ、アトラクション、本番行くぜ! その前に、ちょっと歴史のお勉強だ! この国じゃ、外来の白人を、原住民はとても手厚く扱った。 未知の病原菌にやられて全滅し掛かった彼らに、手をさしのべて助けたのも彼らだった。 それなのに、後から後からやってきた白人は、恩知らずにもどんどん原住民を迫害して、土地を奪った。 まあ、どこにでもある人間のくだらねー歴史だよな。 こんなんばっかりだから、学校で子供は歴史なんかに興味をしめさねーのさ。 大人を尊敬しろ-、なんて子供にいっても聞くわけねーよな、大人よりずっと偉大なはずのご先祖様とかがこれなんだからよ、ギャハハハハ! で、だ。 その過程で、白人と原住民は対立して、互いを化け物みたいに思うようになっていったんだぜ。 そして、これが! 白人達が考えてた、原住民の姿って奴だ!」

 

空から、何か降ってくる。

 

川背がスペランカーを抱えて飛び退く。宗一郎も、一瞬遅れて、はね飛ばされながらもつぶされるのは避けた。

 

其処には。

 

化け物としか形容できない存在がいた。

 

大きさは五メートルか、それ以上はあるだろう。頭だけの存在だ。巨大な羽根飾りをつけていて、しかも頭だけで宙に浮かんでいる。しかも首のある辺りには巨大な穴があり、そこから息を吸い込んでいるのが見えた。

 

何か、化け物が吠える。

 

頭の下から、鉄球が射出された。化け物の半分ほどもある、巨大な鉄球だった。それも、一個や二個は無い。連続して、次々に、だ。

 

「こんなむちゃくちゃな!」

 

「むちゃくちゃなもんかよ! 昔探偵物でC国人を出すのは御法度なんてルールがあったのを知ってるか? C国人はみーんな超能力が使えるとか、思われてたからなんだぜ!」

 

スペランカーの抗議に、テンションが高い声が、馬鹿笑いしながら応える。

 

化け物はゆっくり前進しながら、無数の巨大鉄球を放ち続けていた。鷲鼻の、見るからに憎々しげな顔をしたネイティブアメリカンの、巨大な顔である。

 

鉄球を飛び越えた宗一郎は、空中でテニスボールを蹴る。二個連続。

 

だが、顔面に当たったテニスボールは、その場で溶けるように消滅してしまう。力が、まだ足りないか。

 

スペランカーが左回りに走るのを見て、川背が自身は正面から。悪いが時間稼ぎに利用させてもらう。ジグザグに跳んで鉄球をかわしながら、川背が至近に肉薄。羽根飾りにルアーを引っかけ、反動を利用して蹴りを相手の顔面に叩き込む。それも六回。だが、化け物がぐっと体を振るい、ゴムの反動の威力をそらす。ルアーを手元に戻し、今度は地面に投擲。そして、至近に迫った鉄球の機動から、自分の体を反らした。

 

宗一郎は、自分の至近に迫った鉄球に、わざと軽く接触する。

 

それだけで、とんでもない負荷が掛かった。

 

元々あまり大柄では無い宗一郎である。体がひねられるようにして、何度か地面にたたきつけられ、バウンドする。掠っただけでこれか。立ち上がろうとした宗一郎を、スペランカーが突き飛ばした。

 

鉄球が、スペランカーをぺしゃんこにした。凄まじい量の血が、辺りにぶちまけられる。唇を噛んだ宗一郎は、バックパックからサッカーボールを取り出す。

 

今なら、いける。

 

「おおらああっ!」

 

全身の気迫を込めて、宗一郎はサッカーボールから手を離し、右足だけで立ち、左足を後ろに高々と振り上げた。完璧なTの字が、一瞬だけ作り出される。

 

次の瞬間、振り子の原理で、左足を振り抜く。

 

己の痛みを、全部サッカーボールにぶつけた。

 

轟音と共に飛ぶサッカーボールが、化け物の顔面に炸裂。鼻骨が砕けたのが分かった。呻いて、化け物が体をのけぞらせる。鉄球が放出されるが、明らかに明後日の方向に飛んでいった。

 

だが、まだ足りない。

 

戻ってきたサッカーボールを、もう一度蹴る。今度は、さっき以上のパワーを、左足に乗せた。

 

渾身の気迫で振り抜いたサッカーボール。

 

化け物の右目を直撃。血を噴きながら、化け物は絶叫した。

 

その首に、ルアーが結びつく。跳躍した川背が、反動を利用して化け物を飛び越す。そして地面に降り立つと同時に、強烈な負荷を掛ける。

 

巨体が、揺らぐ。

 

腹の穴が、露出された。

 

間違いなく、あれが弱点だ。戻ってきたサッカーボールを足下で止めると、再び左足を、振り抜く体勢に入る。

 

鉄球が、飛び出そうとしているのが見えた。今度は苦し紛れながらも、狙いは正確とみた。逃げるか。いや、此処は。

 

次の瞬間、鉄球が砕けるのが見えた。スペランカーの能力か。あの鉄球、実は独立した生物で、しかも全部で一つだったのか。

 

化け物の、動きが完全に止まる。次の鉄球を作り出しているようだが、完全に隙が出来た。

 

好機。

 

振り抜く。

 

負けるものか。チキンレースに関しては、誰にも負けない自信がある。

 

「いっけええええええええっ!」

 

体が燃え上がるような闘気を込めて、ボールを蹴り抜いた。

 

光そのものとなったボールは、空気との摩擦で灼熱の球体となりながら、化け物の腹に吸い込まれていった。

 

川背がルアーから手を離し、別のルアーをどこからともなく取り出すと、慌てて遠くの地面に引っかけ、反動を利用して逃げる。

 

化け物の全身がぶくぶくとふくれあがると、その全てから鉄球がはみ出した。同時に冗談のような量の血が辺りに振りまけられ、断末魔の絶叫が上がった。

 

内側からばらばらに引きちぎられた化け物が、溶けて消えていく。

 

同時に。

 

辺りの荒野が消えていく。

 

そして、朽ちかけた、撮影セットのような、アトラクションのなれの果てが現れだした。

 

「この、このアトラクションは、西部劇をついたいけ、ん出来る、画期的な、内容です」

 

壊れたスピーカーから、声が漏れている。

 

周囲はゴーストタウンそのものだ。安っぽいガンマンの人形や、綿がはみ出た馬のぬいぐるみ、潰れたまま散らばっている備品、そしてうずたかく積もった埃。誰もに見捨てられた、遊園地の末路が其処にあった。

 

スペランカーは。振り返ると、着衣がぼろぼろになっているが、もう息を吹き返していた。ヘルメットも潰れかけている。

 

「あー、もう。 痛かったよー」

 

「先輩!」

 

「川背ちゃん、大丈夫?」

 

「僕は全く平気です。 それより、宗一郎君。 貴方、本当にプロ!? わざと鉄球に当たったでしょ!」

 

むうっと、川背が頬を膨らませている。

 

能力を使ったフィードバックで、全身が引き裂かれそうに痛いが、それは黙っていた。

 

「俺の能力は、体が損傷を受ければ受けるほど強化されるんだ。 チキンレースみたいなものなんだよ」

 

「それにしても、やり方を考えなさい。 怪我、見せて」

 

「大丈夫だ。 あんた達の腕は分かったし、凄く、本当に助かった。 でも、ここから先は」

 

「駄目。 君一人じゃ、無理でしょ。 死に行こうとする人を、そのまま行かせるわけにはいかない」

 

スペランカーが、今までの脳天気な様子と違い、ぐっと沈んだ声で言った。

 

不思議な威圧感がある。

 

逆らえないし、視線をそらすことも出来なかった。川背が用意したらしいジャンパーを応急に上から着込むと、スペランカーは言う。

 

「このフィールドにおかしな事があることは、私たちも分かってるの。 それで、君はその正体を知っているんだね」

 

「……だが、これは」

 

「言いづらいなら、次のフィールドで聞くよ。 どうも多重構造になってるみたいだし、次のアトラクションも、またフィールドになってるんでしょ」

 

その通りだ。

 

座らされて、応急処置をされる。

 

しゃべったら、この二人も巻き込まれるのでは無いか。そう思ったが、もうひいてはくれそうになかった。

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