オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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スペランカーさんの、生還の秘密。

それは邪神に魅入られた、呪われた祝福でした。


6、財宝

辿り着く。守らなければならない場所に。

 

彼の王国であり、同胞達の死を呼んだ場所。それが故に、他の人間には、絶対に譲れない所だ。

 

此処は檻。墓所という名の。

 

そして、宮殿。土足で踏み入れることは、絶対に許されない場所。

 

なぜなら、床は同胞達の死によって塗装され、それを誰もが知らないからだ。許せるか。この地底に閉じこめられ、多くの同胞が働かされた。奴隷だからという理由で使い殺しにされ、しかも最後は閉じこめられた。

 

閉じこめられてからは悲惨だった。どうしても戸が開かないことが分かってからは、食料の奪い合いが始まった。やがて死人が出始めると、それを奪って皆が喰らいあった。悲観して崖下に身を投げる者もいた。毒ガスが出る所へ自ら踏み込んで、命を絶った者もいた。

 

彼は、そんな争いが嫌で、しかし最後まで生き残ってしまった。同胞達の亡骸を喰らうくらいなら、死を選ぼうと思った。だから、せめて。皆の命を奪った、宝の側に行った。其処には頑強な扉があり、その鍵は此処を造った者によって持ち去られてしまっていた。だから、扉に寄りかかって、今までのことを思いながら、目を閉じた。

 

ろくな事のない人生だった。産まれた時から奴隷だった。グズだの鈍いだのと言われては、ことある事に暴力を振るわれた。奴隷として酷使することよりも、暴力を振るうことが目的化していた。此処で働いていた同胞達も皆同じような境遇だった。だから、喰らいあうのはいやだった。

 

空腹感が全身を包んでいたが、それよりも悲しみの方が強かった。やがて、極限の空腹の中、己の中に何もないような感覚が出来てきていた。

 

気付くと、いつの間にか、魂が肉体から離れていた。死んだと、自分でも分かった。

 

だが、死ねないと思った。

 

だから、妄執だけでも、この世にとどまったのだ。

 

戻ってきた地底の扉には、亡骸が今だ残っていた。既に朽ち果てて、白骨と化している己の体。

 

死んだ。

 

だが、まだ消え去る訳にはいかない。

 

怖いのは確かだ。だが、それでも。此処だけは守らなければならなかった。

 

 

 

何度か倒れた。そして死んだ。空気中にまき散らされた病原菌の破壊力が如何に強烈かを、それが示していただろう。

 

スペランカーは何度か休みながらも、狭い洞穴を下っていった。もう近い。地形が複雑に入り組む中、明らかに鍾乳石を切り出したり、壊したりした跡がある。何者かが此処に何かを運び込んだのだ。

 

不意に、平坦な場所に出た。

 

連れてこられた王家の生き残りに、話は聞いている。宝を封じているのは、宝だと。多分それは、これのことだろうとも。

 

リュックから取り出したのは、四カラットもあるダイヤの指輪である。独特の尖った形状をしており、黄金作りの豪奢なものである。これをどう使うのかはまだ分からないが、しかし。それでも、何とか扉は開けなければならない。

 

指にはめると、ちょっと重くて、難儀した。祝い事に使うのはいいとしても、普段から着けて歩くのは勘弁願いたい代物だ。

 

うねり曲がる洞穴の、最深部へ、着いたことに気付いた。

 

不意に開けたその場所には。ピラミッドがあったのだ。さっき見たピラミッドより、遙かに大きい。多分高さが二倍近くあるだろう。ただこれも、見たところ、元の地形を利用している。大きな岩の塊か何かがあって、その表面を削ったのだろう。

 

ゆっくり、回りを見て回る。何カ所か、大きく削れている場所があった。天井から落ちてきている水滴が、長年の内に猛威を振るったのだろう。そして、その一角に。階段が付けられていた。

 

階段の頂点には、予想通りのものがあった。

 

扉と、それにもたれかかる骸骨。間違いない。あの霊体の、亡骸だろう。

 

「いるんでしょ? 出てきなよ」

 

呼びかける。

 

辺りから、地鳴りの音。多分此処は、あの霊体にとって、一番強い力を発揮できる場所なのだろう。慌ててリュックを降ろして、取り出す。これだけは使いたくなかったのだが。しかし、もう他に方法がない。

 

周囲から沸き上がってくる殺意。だがその中に、恐怖が混じっていることに、スペランカーは気付いていた。時々、散々こっちを殺した挙げ句に、こういう反応を見せる相手がいる。以前侵入したフィールドで、スペランカーが遭遇した現地住民もそうだった。

 

悲鳴のような、慟哭のような声が、わきあがってくる。地面から伸びてくる、無数の手。いずれも半透明で、スペランカーを目指して躍り掛かってくる。四方八方から掴まれて、身動きが取れなくなったスペランカーだが。手にはしっかりと、父の形見でもある。最後の武器を手にしていた。

 

「コロシテヤル」

 

聞こえ来たそれは、言葉ではない。純粋な殺意だった。

 

ピラミッドからにじみ出てくるそれは。巨大な顔。血涙を流し、苦悶の表情を浮かべている。

 

可哀想だなと、スペランカーは思った。

 

大口を開けて、襲いかかってくる。避けようがない。かぶりつかれると同時に、全身を激痛が貫く。即死した。多分、心臓を止められたのだろう。意識が戻ると、まだ幽霊は噛みついていた。ゆっくり、右手を、引き寄せる。途中、二度死んだ。だが、それでも、やらなければならない。

 

「ね、楽になろう?」

 

「いやだ。 同胞達を汚すものを、許す訳にはいかない」

 

「あの人達の事だよね。 わかるよ。 でも、だからこそ、楽になろう。 もう、残っているのは、貴方だけなんだから」

 

拒否!拒否拒否拒否拒否!

 

単純きわまりない思考が流れ込んできた。それは殺意と一緒になって、心臓を、他の内臓を、滅茶苦茶に傷つける。吐血したスペランカーは、また一度死んでいた。電気ショックとともに意識が戻ると、ゆっくり、幽霊に、それを向けた。

 

一見、それは玩具の銃に見えた。安全装置はついていないし、丸っこいフォルムはまるで昔のSFに出てくる光線銃。当然実弾も出ることはない。

 

だがこれは。代わりのものを使って、代わりの効果を発揮する、恐るべき兵器なのだ。

 

「酷い話だよね。 酷い労働で、大勢死んだんでしょ? それなのに、終わったと思ったら閉じこめられて。 こんな国、滅んで当然だよね」

 

うなり声。悲鳴にも聞こえた。

 

だから、もう楽になろう。私もつきあってあげるから。そう呟くと、スペランカーは目を閉じ、引き金を絞り込む。

 

そして、意識が消えた。

 

 

 

この武器を使った時には、いつも、同じ夢を見る。

 

スペランカーが目を覚ますと、体中に巻き付いてた神の手は消えていた。何故か裸で、粘液まみれだったが、気にはならなかった。それよりも。父が、魔法陣から出ようとする神の前に立ちはだかっている事の方が、気になったからだ。

 

起き上がろうとするが、体がうまく動かない。手を伸ばそうとするが、届かない。スペランカーを蚊帳の外に、悲劇は確実に進行していく。

 

「契約は果たした。 もう貴様に用はない。 我は自由にさせてもらうぞ」

 

「悪いが、そういうわけにはいかんぞ、海底の神よ。 娘が不老不死になっても、人間が滅びてしまっては意味がないからな」

 

「笑止! 汝のような老人が、何をするつもりか!」

 

父が取り出したのは、玩具のような銃だった。最後に、父が微笑んでいるのが見えた。魔法陣の中で、神が吠えたけるのがわかった。それに対する怒りと、恐怖に充ち満ちていた。

 

「一緒に地獄にいこうぞ、海底の神よ!」

 

「おのれ人間! そのようなものを、何処で手に入れた!」

 

父は応えない。そのまま、引き金が絞り込まれる。

 

そして、場が閃光に包まれた。

 

 

 

目を覚ますと、スペランカーは仰向けに倒れていた。五歳ではないし、裸でもない。周囲に、あの霊体はいない。分かる。かりそめの命を使い果たして。この世界にとどまることが出来なくなり、消滅したのだ。

 

どうもこれを使うと、あの時のことを思い出してしまう。

 

父は、己の命を対価として、海底の神を屠り去った。この玩具のような、必殺の道具を用いて。

 

死の鏡。それが正式の名前であるらしい。

 

向けた相手の命と、発動したものの命を、その場で等価として、共に消し去る道具だという。低くは虫から、高くは神まで。相手が何者だろうが確実に葬る必殺の武器。しかしながら、欠点も多い。

 

使えば確実に死ぬし、一度に一つの命しか消すことが出来ない。ゼロ距離で使わないと意味がない。なんと射程距離はわずか十メートル。連射も出来ない。存在を知られたら、まず勝ち目が無くなる。更に言うと、法則をゆがめて存在している相手にしか、通用しない。

 

狂気の世界によって造られた存在が故に。それの運用規則も、狂気に満ちたものであるらしい。

 

最近、保存されていた父の書斎で、それらの情報を知った。それまでは、ただブラスターと呼んでいた武器だ。

 

父は狂気に満ちていたが、それでもスペランカーのことを愛していた。だからこそに。命をかけて、これでスペランカーを守ってくれたのだ。あの海底の神が、死んだのかどうかは分からない。しかし、その場には二度と現れなかった。そして、呪いだけが、スペランカーの体に残った。

 

体中がだるい。死が日常の隣にあるスペランカーでさえこのダメージを受けるのだ。この「死の鏡」が如何に危険な存在かは、一目瞭然。リュックに入れると、目を閉じて、さっきの霊体に黙祷する。きっと、最後まで、苦しみからは逃れられなかっただろう。

 

階段を上る。体中から、冷や汗が流れていた。

 

扉の前には、体を張ってそれを守ろうとする、朽ちた白骨。そして、扉には、小さな穴が開いていた。

 

わずかにためらった後、指輪を差し込む。

 

地鳴りと共に。ピラミッドの扉が、動き始めた。

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