オールドアクションゲーム二次創作   作:dwwyakata@2024

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はい今回はバイナリィランドです。

ファミコン初期のゲームで、鏡写しに二機の自機を同時に動かして、最終的にゴールを左右から挟むというパズル要素のあるゲームですね。

このゲーム、可愛いキャラとデザインと裏腹に兎に角難易度が高く、また初期のゲームにありがちな最終面もない延々と続くデザインで、問題も多いのですが。

ゲームを始めた頃に触った作品と言う事で、今も好きです。

※1章もあわせて扱います。


永劫なる蜘蛛の迷宮
序、終わらないその場所


無数の鏡が配置されている。どこまで行っても、あるのは鏡ばかりだ。

 

元々足がそれほど速くないグリンは、ぺたぺたと音を立てながら、必死に此処から抜け出そうとしていた。

 

一緒に迷い込んだマロンもそれは同じ。

 

早くここから出て、ブリザードが吹きすさぶあの故郷に戻りたかった。厳しい環境かも知れないが、彼処こそがグリンの故郷。心が安らぐ場所なのだ。

 

断じて、この鏡だらけの場所では無い。

 

しかし、一体どれだけ進めば、ここから出られるのか。

 

鏡の中に、恋人が見えた。

 

同時に、見たくも無いものも。

 

炎の塊が、後ろから迫ってくる。通路を一杯に塞ぐようにして、それはじりじりと、確実に愛する者を焼き尽くそうと背後から来ていた。

 

あいつには、何をやっても通用しない。それはとっくの昔に知っている。

 

だから、急げと、ジェスチャーを送ることしか出来なかった。

 

鏡の中に写ってはいるが、後ろに愛する者はいない。勿論、炎の塊もだ。そして、鏡の中に、自分は写っていない。

 

これは、正確には鏡では無い。

 

異常な世界を映し出す、別世界への扉なのだ。

 

手を触れる。

 

鏡の向こうの恋人も、それに習う。

 

同時に、世界が光に包まれる。

 

今度こそ、抜けただろうか。呼吸を整えながら、ゆっくり納まっていく光の中、周囲を見回した。

 

駄目だ。

 

また、鏡の迷宮が広がっている。自分たちの苦労をあざ笑うように。

 

もはや、何度この迷宮を突破したかわからない。百を軽く超えているのは確実である。

 

鏡のずっと向こうに、愛する者が見える。また、協力して、互いに触らなければここからは出られない。

 

もたもたしていると、どんどん邪悪な迷宮の住人が現れる。現に既に、その気配は背後からしていた。

 

振り返る。

 

通路を一杯に塞ぐほど巨大な蜘蛛。全身がまだら模様で、巣を張るタイプなのに積極的に獲物に襲いかかってくる獰猛な奴だ。

 

懐から取り出すのは、スプレー。

 

ただのスプレーでは無い。備えている特殊能力にて具現化したもので、この迷宮の怪物達を撃退することが出来る。

 

ただし、炎の塊には通用しないが。

 

牙をむき出しに飛びかかってくる蜘蛛に、スプレーを浴びせかける。蜘蛛はもがく。

 

やがて、足を縮めた蜘蛛は、ひっくりかえって転がった。大きさが大きさだから、ただただおぞましい。

 

ため息をつくと、迷宮の奥を目指す。

 

早く、この忌まわしい場所から、抜け出すために。

 

ぺたぺたと足音を立てながら進む。既に、もう自分が取り返しがつかないことになっている事はわかっている。だが、具体的にそれがどう取り返しがつかないのかは、どうしてかよく分からない。

 

それでも、グリンは前に進み続けた。

 

 

 

1、名も無き危険フィールド

 

 

 

赤い髪の子供が、歓声を上げながら辺りを走り回っている。

 

緑なす草原だが、普通の草ばかりでは無く、魔力を帯びた凶暴な捕食者も結構いる場所である。

 

だが、子供は幼くとも魔女見習いだ。どこが危険で、どこが安全かは、殆ど本能で判断できるようだった。

 

スペランカーは目を細めて、その様子を見つめる。

 

此処は、アトランティスと呼ばれる場所。かって邪神が定座とし、スペランカーが盟友と撃滅することによって平穏を取り戻した大陸。

 

今は、彼女にとって第二の故郷であり、受け入れられる居場所となっていた。

 

「すくすくと育っているようですな」

 

「うん。 子供は元気が一番だね」

 

側にいる半魚人の長老に返す。彼は、元々邪神達に奴隷として使われていた、この大陸の住人だ。

 

スペランカーが邪神を撃破してからは、その側に付き従っている。スペランカー様と呼ぶのには、流石に苦笑いしてしまうが。

 

箒に跨がると、子供はふわりと空に舞い上がる。

 

ああやって、毎日電池が切れるように体力が尽きるまで、徹底的に遊んでいる。今まで彼女がいた過酷な環境を忘れるように、人生を謳歌していた。それでいい。幼い頃ネグレクトで生き地獄を味わったスペランカーは、あの子がどれだけの過酷な闇の中にいたか、何となく理解できる。

 

だから、出来るだけ今はのびのび遊んで欲しい。

 

そろそろ学校などにも行って欲しいとは思っている。アトランティスでも、学校は開く予定がある。

 

まずは外の世界の窓口となっている空港近くに。このアトランティスの未来を担う半魚人達の子供達と、外から来た人間の子供達が、一緒に学べる施設を作る予定だ。入るとしたら、其処に、だろう。

 

どれだけのびのび育っても、同世代の子供がいないのでは、孤独である。

 

衝突するにしても、友達になるにしても、やはり同世代で、同性が最初は一番良い。

 

勿論、これを計画したのはスペランカーでは無い。このアトランティスの発展計画に、スペランカーは殆ど口を出していない。

 

ただし、決済は求められる。

 

だから、よほどおかしいものについては、今後はじく必要があるだろうとは感じていた。

 

また、人間の弁護士とかが、法的なものが云々と自分を売り込もうとしてきているが、今の時点では断っている。

 

まだアトランティスが生む利権がさほど大きくないというのが、周辺国との摩擦に発展しない最大の理由だろう。だが、それでも。いずれ法律の専門家や、知的犯罪への対処法を考えていかないと、周辺国になぶり者にされてしまうだろうことは容易に想像がつく。

 

或いは、国連辺りから、顧問を招くしか無いかも知れない。

 

子供が戻ってきた。

 

「楽しかった! すっごく!」

 

「そう、良かったね」

 

「でも、おなかすいた……」

 

「うん、お昼ご飯にしようね」

 

手を引いて、戻る。長老と、護衛の半魚人やミイラ男の戦士達も、一緒についてきた。

 

良く笑うようになった子供と一緒に、住み込んでいる神殿に。ギリシャ風の意匠が施されたその一角が、生活空間となっている。

 

「スペランカー様」

 

テーブルに着こうとしたところで、耳打ちされる。

 

不安そうにこちらを見ている子供に、大丈夫だよと言い残して、別室に。

 

話があるらしいのは、長老であった。ただし、引き継ぎは済んでいるらしい。

 

「私がコットン様についていましょう」

 

「お願い」

 

気むずかしい子供だが、長老にはそれなりになついてくれている。

 

名前をつけたのも長老だ。孫が出来るくらいの年になると、どんな狷介な人物も丸みが出てくるという話はあるが、多分長老はそれなのだろう。コットンを随分かわいがってくれている。

 

長老の、ひれが生えた背中を見送ると。執事である骸骨の戦士が一礼した。

 

「仕事の話にございます」

 

「うん。 どんな仕事?」

 

「オーストラリア南方の小島で、二十年ほど前から処理されていないフィールドがございます。 此処の攻略の話です」

 

「二十年も前から?」

 

特殊な事情が無い限り、フィールドは基本的に適宜処理されていく。

 

かってのアトランティスのように危険度が高すぎたり、或いはクレイジーランドのように特殊な目的で管理されているフィールドであったりする例外を除くと、順番に専門の探索者が処理していくのが普通なのだ。

 

二十年も放置されていたと言うことは、よほどの事情があるフィールドか、或いは危険度が低いか。そのどちらかなのだろう。

 

その予想は当たった。

 

「本来、これはとても危険度が低いフィールドで、外縁も安定しており、住人の立ち入りを禁止するだけで良かったのです。 貧しい住人にはフィールド探索者を呼ぶ金もありませんでした。 それで長らく放置されていたのですが。 しかし、事情が先月激変いたしました」

 

「何があったの」

 

「どうやら、このフィールドの奥で、異星の神が力を蓄えているらしいという事が判明いたしました」

 

一気に、空気が張り詰めた。

 

異星の神。

 

この星では無く、別の世界から来た異形の存在。この世界で暗躍している力ある者達。

 

この世界を支配するほどでは無いが、その残虐な力は圧倒的で、並のフィールド探索者では歯が立たない。この世界最強のフィールド探索者Mのような例外は別として、簡単に勝てる人間はまずいない。スペランカーも交戦経験が何度かあるが、楽に戦えたことは一度も無かった。

 

スペランカーの力の元となっている海神の呪いも、それに無関係では無い。このアトランティスも、その異星の神々によって作られた拠点だった。

 

確かに、そんな事情が明らかになってしまえば、放置は出来ない。対処しなければ、何が起こるかわからない。

 

「うん、行くしか無さそうだね。 それで、今回の参戦する面子は?」

 

「こちらになります」

 

リストを渡される。

 

それほど凄い人は多くないが、二人ほど知り合いがいる。そのうち一人は超一流で、信頼出来る。

 

アトランティスの一件以来、異星の神々の動きが活発化しているという噂もある。

 

神殺しとか過分なあだ名をつけられ始めているスペランカーは、そういう事情となると、当分は彼方此方に引っ張りだこだろうか。

 

「コットンをお願い。 あの子、まだ心がしっかり固まっていないから」

 

「わかっています。 長老をはじめとして、我ら皆が面倒を見ます。 学校についても、話を進めておきますが故、ご安心を」

 

「ありがとう。 頼りにしているから」

 

ぺこりと頭を下げてくれた執事に、こちらも一礼。食卓に戻る。

 

やはり、コットンには聞かれた。お仕事で、出かけるのかと。

 

嘘を言うのは嫌だから、応える。

 

「うん」

 

「スペランカーさんしか出来ないことなの?」

 

「そうなんだ。 だから、行ってくるね」

 

悲しそうに目を伏せていたコットンだが。不思議とこの子は、ぐずることが無い。

 

或いは怖いのかも知れない。

 

もしスペランカーに見放されたら、またあの暗黒の生活に戻ってしまうのでは無いかと、思っているのだろうか。

 

だとしたら悲しい話だ。

 

「大丈夫。 私、生きて帰ることだけは定評があるんだから」

 

「うん。 信じてる」

 

行ってらっしゃいと、コットンは言う。

 

生きて帰らなければならないと、スペランカーは思った。

 

 

 

空港から、飛行機に乗る。今回も、護衛を申し出たアトランティスの戦士達には、残ってもらうことにした。

 

彼らには充分良くしてもらっている。これ以上世話を焼かれると、色々駄目になりそうだからと言うこともある。それ以上に、アトランティスの復興と発展に皆で頑張って欲しいというのも大きい。

 

数時間のフライトの後、オーストラリア大陸に到着。空港で別の飛行機に乗り継ぐ。最初のジャンボでは無く、セスナだ。

 

二十人ほどの小さな飛行機であり、揺れも大きい。何度も何度も乗っている内に死ぬ。

 

スペランカーの体を覆っている呪いの影響だ。

 

スペランカーは、幼いときにこの呪いを受けた。それは父の願いでもあった。

 

不老不死になる代わり、虚弱体質になる上に頭も悪くなると言う、大変に迷惑な代物である。

 

死んでもすぐに蘇生するのだが、その代わり蘇生時は電気ショックのような痛みが走る。そして、死んだときに体に欠損部分が出ると、周囲から補填する。そして悪意ある攻撃によって体が欠損すると、攻撃者から自動補填するのだ。

 

この力のおかげで、スペランカーは食事をしてこられた。

 

フィールド探索者として、毎回何百回もそれ以上も死にながらがんばり、いくつものフィールドを潰してこられたのも、この力のおかげともいえる。

 

だが、やはり今でも、死ぬのは嫌だし痛いのも怖いのも嫌いだ。

 

それでも行くのは、これしか自分に出来る仕事が無いからである。

 

セスナで揺られること、十時間以上。幾つかの空港を経て、現地に到着。他のメンバーは別ルートで来ているらしく、途中の飛行機で会うことは無かった。

 

「おお、スペランカーどの! 久しいな!」

 

手を振って、がっしゃんがっしゃんとプレートメイルを鳴らしながら近づいてくる大柄な人影。スペランカーとしても最も信頼出来る戦士の一人、騎士アーサーだ。

 

E国最強のフィールド探索者としても知られ、敬意を込めサーの称号をつけて呼ばれるほどの人物である。実際にE国の女王から貴族としての待遇を受けてもいる。

 

早速握手され、シェイクされる。相変わらず、体ごと振り回されそうな力強さ。彼ほどのフィールド探索者が来ているのである。今回の件が如何に問題視されているかは明らかであった。

 

「最近ますます活躍しておられる様子で何よりだ。 友人として鼻が高いわ」

 

「ありがとうございます。 アーサーさんは、今ついたところですか?」

 

「我が輩はな。 というよりも、先ほど軍基地に連絡してみたが、貴殿で最後だ」

 

空港を一緒に歩く。

 

童顔で小柄なスペランカーと、大柄でしかも鎧姿の男が並んでいると、流石に周囲の目を集めるらしい。何か恐ろしいものを見たとでも言うように、十字架を切る現地の男性が、視界の隅に入った。

 

空港の外では、軍の装甲車が待っていた。

 

元々装甲車は戦闘能力のある歩兵輸送車両だとかこの間説明を受けたが、内部は案外に広くて、冷房まで掛かっている。隅っこにちょこんと膝を抱えて座ったスペランカーの横で、アーサーが説明をしてくれる。

 

「今回は、一旦仮設のキャンプで作戦会議を行い、それから内部に侵入する。 詳しく調べてみてわかったが、どうもこの事件は根が深いようでな」

 

「根が深い、ですか」

 

「後で話す」

 

装甲車が何度か大きく揺れた。この辺りの道路は、流石に殆ど舗装されていないらしい。

 

軍基地に着く。

 

急造のものらしく、バリケードの中はプレハブだ。井戸は掘られているが、まだ軍人さんもそれほど多くない。

 

真ん中にある司令部も、外から見えるほど距離が近かった。RPG7などで直接狙えるのでは無いかと、心配になってしまった。

 

プレハブの司令部に入り、二階へ。

 

司令部はさほど広くも無く、案内された部屋もしかり。会議室のようだが、真ん中の折りたたみ式テーブルが部屋の大半を占めてしまっていて、椅子を並べると殆ど余裕が無い。天井の蛍光灯も、西欧のプレハブにしてはかなり低めだった。本当に急あしらえの施設なんだなと、スペランカーはちょっと内心でおかしかった。

 

既に攻略チームだという面子が揃っていた。全部で五名。スペランカーとアーサーを加えれば、七人という大型攻略チームである。

 

殆どは中堅から新人で、スペランカーが知る大物はいない。親友でありスペランカーの後輩でもある川背がいればとても心強かったのだが、彼女は今別件対応中だ。ただし、隅の方で、腕組みしている不機嫌そうな知り合いを発見。

 

本多宗一郎。

 

この間一緒に、たちが悪いフィールド、クレイジーランドを攻略した新人である。

 

あれからかなり頑張っていろいろなフィールドを攻略しているらしい。多分目を覚ましたという恋人のためにも、お金を稼いでいるのだろう。まだ十代の半ばだが、落ち着いた雰囲気はとてもそうは見えない。

 

スーツを着てきているわけでも無く、実戦を考慮してか頑丈そうなジーンズにアーミールックのシャツを着込んできている。勿論この間のように、プロテクターも持ち込んでいるのだろう。

 

隣に座って話しかけてみる。

 

「お久しぶり、宗一郎君」

 

「ああ。 久しぶりだ」

 

「リルちゃんは元気?」

 

「元気すぎるくらいだ。 学校でも今はなじめているようで、問題は起こっていない」

 

宗一郎は、どうしてかスペランカーと一定距離を置こうとしているようだ。年頃故かなと思ったのだが、追求はしない。

 

アーサーは最上座に座った。この面子から言って、今回のリーダー格だから当然だろう。スペランカーも最近は名声が過分になってきているが、それでも彼にはとても及ばない。しかもアーサーの場合は、実力も伴っているのだから当然だ。

 

部屋に、国連軍の大佐が入ってくる。

 

ホワイトボードを引っ張り出すと、大佐は説明を始めた。

 

そもそも、この島は国としても所属が曖昧だという。オーストラリアの領土内ではあるらしいのだが、他にも幾つかの国が所有権を主張しているだけで無く、住民の中には独立国を主張する人間も多いのだとか。

 

そんな状況である。場合によっては、テロが吹き荒れる地獄のような紛争地帯と化していただろう。しかしながらテロや紛争に発展しないのは、島に資源が無いからだ。ただでさえ小さい島の上に、利権をあさろうにも富が無い。オーストラリアからも遠すぎる上に、固有種の生物もおらず、何より寒すぎて観光にも向かない。故に、この島の危ういバランスはどうにか保たれている。

 

閉塞しきった島なのだ。此処は。

 

それが幸いしているともいえたが。

 

「今回、これだけの大型チームを発足させた理由は、ここにいる異神の正体がはっきりしているからです」

 

「それは珍しいな」

 

アーサーが言う。

 

アトランティスのような特例を除くと、こんな大型チームが組まれることは滅多に無い。多くの場合、一人から三人というのが相場である。そもそもフィールド探索者を呼ぶのには著しい大金が掛かる。だから、予算の中でやりくりするには、人数を絞るしか無いのだ。

 

しかも、この資源も無い島である。

 

やはり、これだけの大型チームが組まれたのには、理由があったと言うことか。

 

「ここにいるのは、アトラク=ナクアと呼ばれる存在です。 異神の中では姿が確認されている珍しい存在で、百三十年前に一度当時のトップフィールド探索者に撃退されています」

 

「詳しく聞かせてもらおうか」

 

「はい。 特徴は蜘蛛のような大きな姿。 基本的に巣を作ってそこから出てくることは無いのですが、その巣が問題でして」

 

映像が出される。

 

其処には、無数の鏡のようなものが乱立する、奇怪なフィールドがあった。しかも鏡には、蜘蛛の巣が縦横無尽に掛かっている。

 

鏡で出来た何かのアトラクションが、蜘蛛の巣に覆われてしまった。そんな印象を受ける場所であった。

 

少し前までは、こんな状態では無かったそうである。

 

こんな状態になったのは、少し前。それまではフィールドと言っても普通の森で、流石に中に一般人が入ったら生きては出られないものの、さほど見かけからしても異常な場所では無かったそうだ。

 

二十年前に二人組のフィールド探索者が入って、それから出てこなかったこともあり。住民達は此処に近寄らず、事故も起こらずに今に至っているという。

 

「だが、それが急激に変貌を遂げた、と」

 

「はい。 そして、先ほど名を上げた神が以前作っていたフィールドと、此処の特徴が酷似しておりまして」

 

「そいつは、それほど大物の邪神なのか?」

 

挙手した宗一郎が言う。

 

もう少し丁寧な口の利き方をした方が良いかなとスペランカーは思ったが、大佐さんは気にしていないようだ。

 

「実は、異星の神としてはさほどの大物では無いようなのですが。 以前交戦したフィールド探索者によると、世界を滅ぼす術式をくみ上げているのだそうです」

 

「世界を滅ぼす、だと。 それは座視できぬな」

 

「はい。 話によると、「橋を架けている」のだとか。 その橋が完成したときに、世界は滅ぶそうでして」

 

確かにそれはゆゆしき話だ。

 

この世界には、能力と、更に原初の形である術式が存在している。そして、異星の神が二十年がかりで展開している術式となると、「世界が滅ぶ」というのが具体的にどのような現象かはわからないにしても、確かに一刻の猶予も無い。

 

わかっている限りの、フィールドの情報がホワイトボードに張り出される。だが、そもそもずっと放っておかれたフィールドだ。実際に中がどうなっているかは、文字通り入ってみるまでわからないだろう。

 

アーサーが皆を見回す。圧倒的な迫力がある。

 

彼は既に、戦士としての表情になっていた。

 

「我が輩とスペランカーどのが主力となって行動するしかあるまいな。 異星の神は、我らで必ずや撃滅する」

 

「俺も行く」

 

宗一郎が挙手する。

 

確かに彼の突破能力は魅力的だ。アーサーの殲滅力と合わされば、一気に敵の中を抜けられる可能性も大きい。

 

宗一郎はスペランカーを見て、無表情なまま言う。

 

「あんたには前に世話になった。 今度は俺が、あんたのために道を作る」

 

「ありがとう。 頼もしいよ」

 

笑顔を向けるが、やはりにこりともしない。

 

まあ、嫌われたわけでは無さそうだし、ずっと苦しい暮らしをしていたとも聞く。だから、気にはしない。

 

遠くから響いてくるような声で、ずっと黙っていた宇宙服のようなスーツを着ている人物が言う。

 

「では、余は陽動と言うことで良いな」

 

「うむ。 後二人か三人で、出来るだけ、我が輩達突入チームの後方の退路を確保して欲しい」

 

「ンー。 そうなると、三チームに、分かれる、必要があるな」

 

「はい! 僕たちが陽動をします。 ぶっ壊して廻るのは得意ですから」

 

めいめいに名乗りを上げ、チーム分けが為される。

 

退路を確保することを申し出てくれたのは、王と呼ばれる人物だ。実際に王というわけでは無く、若干の揶揄がこもっている。爆発物を使う戦士なのだが、火力があまりにも大きすぎて、敵味方共に巻き込んでしまうことが多い。その破壊力から「王」と、敬意と皮肉を込めて呼ばれている。

 

そのせいか、常に全身を宇宙服のようなスーツで覆っており、素顔は全く見えない。また、いつの間にか王という呼び名にあわせて、余と一人称を変えたそうだ。意外にお茶目な人物なのかも知れない。

 

彼ともう一人、マッドエックスと呼ばれる小型戦闘カーを操る人物が、後方での退路確保を行ってくれることとなった。彼の戦闘カーは一見するとごてごてしている車なのだが、かなり小回りがきくらしく、幾つかのフィールドで機動力を武器に戦ってきているという。ただ、乗っている人物は正体不明だ。会議でも、ヘルメットを被っていて、素顔を一切露出しなかった。

 

噂によると、ロボットではないかという説まであるらしい。実際喋るときには、変声機らしい「ン-」という音が入る。単語も不自然に離れていて、たどたどしい。

 

陽動を請け負ってくれる二人は、地球の反対側で暮らしているイヌイットのカップルである。常にアザラシの毛皮で作った防寒服を身に纏っている、小柄な二人だ。

 

寒冷地での戦闘を得意としていて、得物は巨大なハンマーである。カップルならではのコンビネーション戦闘を得意とすると思われがちなのだが、実際にはあまり仲が良くない事で知られているらしい二人で、いつもフィールドで喧嘩しているのだという。戦闘能力自体はかなり高いらしく、故にはた迷惑なことでも知られていると言うことだ。

 

どちらにしても、皆中堅どころとしてはそこそこに腕が立つ。変に名前が知られてしまっているスペランカーよりも、ずっとむしろ頼りになるのでは無いかと思える。

 

今回は胸を借りるつもりでいこう。そうスペランカーは思った。

 

「よし、それではその編成で行くぞ。 今回は時間が無い。 各々方、総力戦となるが故に、覚悟して戦場に臨んでいただきたい」

 

「応ッ!」

 

全員が唱和する。

 

ちょっと恥ずかしかったが、スペランカーもそれに併せた。

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