オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
凄いエンジン音だなと、スペランカーは隣にいる車を見て思った。
マッドエックス。レーシングカーのようにも見えるが、特有の細さは無い。怪物や戦闘車両とも戦える強固な装甲に、オフロード仕様のタイヤ。それに多少こすってもまるで気にならないようにか、表面はごつごつしていた。
上には「王」が乗っている。彼が手にしているとてもごつい巨大な銃器は、軍用のミニミ重機関銃を更に独自強化した特注品であるらしい。元々分隊支援火器と呼ばれる強力な兵器である。しかも、彼の切り札はもっと強力なのだとか。彼が破壊力において「王」と呼ばれるのも納得である。
まがまがしいまでの重武装だ。
マッドエックスについての逸話は、会議が終わった後アーサーに聞いた。かってフィールドを悪用していた犯罪組織に乗り手が恋人を殺され、その復讐のために作り上げた戦闘マシーンであるらしい。乗っている人物の顔は見えないのだが、それはさっきの会議の時も同じだ。ずっとレース用のヘルメットらしきものを被っていて、全く素顔を見せてくれなかった。今でもそれは同じである。
彼は復讐が果たされた後も、車を相棒として活動しているらしい。
「ええと、お名前はなんと呼べばいいですか?」
「ンー。 あんたの方が、フィールド探索者としては、格上だろう。 俺に、敬語なんか、使わなくて良い」
とりつく島も無い返事である。
だが、敬意を払ってくれているのはわかった。そうなれば、こちらもそれに応えなければならないだろう。
ベースを出て、森に。
森に一歩入ると、空気が露骨に違っていた。
既に此処はフィールドなのだと、肌で感じ取れる。それだけではない。異様なものは、それだけではなかった。
「気をつけよ。 足下だ」
アーサーが言うと、皆が足を止めた。
足下に、何か光るものがある。アーサーが槍を手元に具現化させた。ウェポンクリエイトと呼ばれる、彼の能力である。自分の体重以下の武器防具なら、体力と引き替えにいくらでも作り出すことが出来るのだ。
槍先で光るものをつつくアーサー。
同時に、周囲から殺気がほとばしる。
殆ど無言のまま、王がミニミをぶっ放した。凄まじいバースト音が轟き、辺りの樹木が木っ端みじんに砕け飛ぶ。咆哮するミニミが黙ったとき、其処には巨大な蜘蛛の亡骸があった。
体だけでも二メートル以上はあるだろう。おぞましいまでに巨大な蜘蛛だ。
まだら模様で、口元には鋭い牙がある。ただ、フィールドに生息している怪物としては、むしろ小型かも知れない。
「なるほど、蜘蛛の神のフィールドと言うだけのことはあるな」
「おっかないですね」
「蜘蛛は振動に非常に敏感だ。 足下にある探知用の糸を踏むと、問答無用で飛びかかってくるぞ。 気をつけられよ」
森の入り口からしてこれである。
内部では、更に苛烈な歓迎が待っているだろう事は、容易に予想できた。
そのまま、森の奥へ。
無線はすぐに使い物にならなくなった。これは普通のフィールドよりも、格段に危険度が高いかも知れない。
森の動物は既に全滅しているようだった。辺りには既に、蜘蛛の巣が露骨に見えるようになっている。フィールド化していても動物はたくましく生き延びていることもあるのだが、この様子では。
所々、団子状に丸められた動物の亡骸が見える。
「蜘蛛は相手の体内に消化液を注入して、溶かして喰う」
「でも本来は、生態系の守り手、なんですよね」
「そうだ。 我が輩も、本来の蜘蛛は嫌いでは無いが、これだけ力を得てしまうと、ただの自然の破壊者に代わってしまうようだな」
蜘蛛は地中から水中まで、あらゆる場所に適応した対応力の高い生物なのだと、アーサーは歩きながら教えてくれる。
スペランカーは背が高いアーサーについて歩く。
最前線に、スペランカーはいなければならない。他のメンバーの被害を、少しでも減らすために、である。
頭上から、巨大な蜘蛛が躍りかかってきた。
さっきと同じ品種だ。だが、その牙がアーサーに届く前に、宗一郎が蹴り上げたサッカーボールが、巨大な腹部を直撃していた。
声の類は上げない。地面にバランスを崩して落ちた蜘蛛に、アーサーは無言で作り出した剣を振り下ろしていた。
大量の粘液が飛び散る。異臭もひどい。
がさがさと、辺りで音が響き始めた。無数の蜘蛛の気配が、見え隠れし始めている。
奥の方は、蜘蛛の巣のカーテンが掛かっているような状態だった。更に、ちかちかと何かが瞬いているのが見える。
戻ってきたサッカーボールを胸でブロックして受け止める宗一郎。舌打ちが聞こえた。
「凄い数だな……」
「強行突破しかあるまい」
「ンー。 引き受けよう」
エンジン音をふかして、マッドエックスが前に躍り出る。王が腰だめして、ミニミをぶっ放し、周囲に凄まじい破壊と殺戮をばらまき始めた。
大量の蜘蛛は、怯えることも無く、上から前から後ろから躍りかかってくる。ミニミの火力を持ってしても、一見すると対処しきれないようにも見えた。だがその銃身が咆哮するたびに、蜘蛛の長大な足が吹き飛び、体に穴が開き、粘液がぶちまけられる。
アーサーが巨大な斧を複数出現させる。
「GO! Fire!」
かけ声と共に、回転しながら斧が前方の蜘蛛に突き刺さり、両断し、突破口を作った。任せる、とは言わない。
既に事前に決めたことだからだ。
「行くぞ、スペランカー殿。 宗一郎」
「応!」
宗一郎がそれに続いて、サッカーボールを強烈に蹴り込む。
彼の能力は、己のダメージに比例して打撃力を増すという単純なものである。しかし、以前見た時よりも、通常状態でのパンチ力が格段に増している。蜘蛛に直撃したサッカーボールが、その表皮を打ち砕き、粘液をばらまくのをスペランカーは見た。
アーサーに続いて、小走りで行く。
もはや糸が縦横無尽に絡みつき、周囲の全てが蜘蛛の巣のような有様だ。風が吹いても、葉が揺れることも無く、木々がざわめくことも無い。
蜘蛛の巣は、むしろ美しいものなのだが。
やはりアーサーが言ったように、過ぎたるは及ばざるがごとしという奴なのだろう。これは異境だ。
だが、スペランカーは思う。
ひょっとすると、人間の街も、他の動物にはこう見えているのでは無いのだろうか。
靴の裏に、蜘蛛の巣が張り付いてくる。
振り向くと同時に、組み付かれた。鋭い痛み。意識が飛ぶ。
気がつくと、蜘蛛がのけぞり、横転して足を縮めていた。首筋に致命的なダメージを受けたからだろう。
宗一郎が手を貸してくれたので、立ち上がる。
倦怠感がひどい。毒が入ったからだろう。
「大丈夫か?」
「何とか。 宗一郎君は?」
「俺はロードアーサーの側にいるからな。 それにあんたが囮になってくれてもいる」
少し足下がふらつく。
気がつくと、周囲は、森では無くなっていた。蜘蛛の巣だらけの森だったのに、いきなり風景が変わっている。
フィールドでは良くある事とはいえ、少し驚いた。
「完全に、蜘蛛神とやらのテリトリーに入ったようだな。 各々方、油断召されるな」
アーサーが、蜘蛛を斬ったらしい大剣を振るい、粘液を落としながら言う。
これは、どういう環境だろうか。
周囲は、無数の鏡が林立している。しかしながら鏡をのぞき込むと、自分の姿はないのである。
床がある。
奇妙な模様が刻まれていた。象形文字のような、渦巻き模様のような。天井も、壁も同じだ。
アーサーが腰を落とし、床に触れながら呟く。
「強烈な魔力を感じる。 なるほど、この迷宮そのものが、蜘蛛神とやらが作り上げている術式を兼ねているようだな」
「下がってろ」
宗一郎が、いきなりサッカーボールを鏡に全力で蹴り込んだ。
耳を塞いだが、鏡は割れない。
サッカーボールも、柔らかくはじき返されて、床に転がったようだった。
続いてアーサーが、巨大な斧を出現させる。バトルアックスと呼ばれる奴だろう。全身位もある大きな斧だ。それを無言で、床に振り下ろす騎士。
だが、斧は火花を散らし、はじき返されていた。
「なるほどな。 多分物理的な攻撃は無為だと見て良かろう」
「アーサーさん。 やっぱり奥に進むしかありませんか?」
「……そうだな。 スペランカーどの、貴殿は何か感じるか?」
「はい。 私の中にいるダゴンさんと同じ力を感じます。 でも、どういうわけか、とても微弱です」
かってスペランカーは、異神の一柱であるダゴンを、ある契約の下体内に取り込んだ。
それで異神の力を明確に感じられるようになったのだが。しかし、これはどういうことなのだろう。
死にかけている、というわけではないようなのだが。
「微弱、か」
「何か思い当たることが?」
「ふむ、歩きながら話すとしよう。 先に進むぞ、少年」
「わかった」
不用意に壁や床に触らないように、座り込んで休憩を取っていたらしい宗一郎が立ち上がる。
いつの間にか、一人前のフィールド探索者になっているようで、安心した。
マッドエックスの上部に据えられたミニミが咆哮し終える。
周囲には、無数の蜘蛛の亡骸が散らばっていた。数は三十を超えている。蜘蛛は死んだふりを出来るほど器用な生物では無いので、一時的な殲滅は完了したと見て良いだろう。上部に乗っている王に、声をかけるマッドエックス。
「ンー。 王よ、周囲の様子は」
「静かになったな。 この辺りの蜘蛛どもは、殲滅したと見て良いだろう」
「じゃ、そろそろ別れようか」
声を掛けてきたのは、ハンマーを持ったイヌイットのカップル、男の方である。
機敏な動きで周囲を走り回り、蜘蛛を殴り殺してまわっていた此奴らは、間違いなくフィールド探索者としてはそれなりの実力者だ。ハンマーも木で出来ている割には強力で、蜘蛛を一撃で殺戮するに充分な破壊力を示していた。実際、水風船でもつぶすように蜘蛛の体を粉砕していた。これも、能力の一つなのかも知れない。
此奴らの仕事は陽動。それに対して、王とマッドエックスの仕事は退路確保だ。
「ンー。 蜘蛛の巣の、粘着性は、高い。 気をつけろよ」
「わかっている。 そちらも武運を」
女の方が言葉短く言うと、二人は蜘蛛の巣だらけの森に消えた。
マッドエックスが進み始める。車体の上で腰を下ろした王が、呟いた。
「火には気をつける必要がありそうだな」
「ンー。 む? そう、だな」
「余が能力は火力に関連するものだ。 運用が難しいな」
蜘蛛の巣がどれだけ燃えるのかはよく分からないが、確かにその危険性はある。そして、アーサー達を追尾しようと思った瞬間だった。
その危惧が、突如現実のものとなった。
突然、視界の隅が燃え上がったのである。あわててミニミの砲口を向けなおす。
そちらには、巨大な炎の塊がいた。
燃え上がる森の一角。それは巨大な蜘蛛の姿をとっていながら、しかし炎であった。オフロード仕様の車が激しくスピンし、バックする。同時に王が射撃の火蓋を切った。
だが、相手は炎。
装甲車の分厚い防壁をも突破するミニミの銃弾が、ことごとく効果を示さない。
だが、それもまたフィールドでは珍しいことではない。舌打ちしながら、王は叫んでいた。
「だったら此れでも食らうがよい!」
取り出したのは、グレネードランチャーである。擲弾筒と呼ぶ場合もある。爆発力の強い弾丸を打ち出す装置で、バズーカ砲などもこれに類する。
バックしながら、グレネードを叩き込む。
炸裂。
爆発に、周囲の蜘蛛の巣が激しく燃え上がる。その中を、まるで応えていない様子の炎が、のそり、のしりと歩いてくる。
八本の長い足は獲物を刈る刃のように研ぎ澄まされ、そして動きが予想以上に早い。こちらは全力でバックしているのに、距離がどんどん縮まってくる。否、これは。
「ンー。 前進するぞ、王」
「承知した!」
車体の上で、王が伏せる。
同時に、バックから急発進に転じた。急激な速度の変化に、炎の蜘蛛が前足をあげるが、遅い。
同時に、マッドエックスの車体に、淡い光の幕が生じていた。
マッドエックスの能力、バリアホイールである。
突撃を敵に仕掛けるとき、七秒だけバリアを発生させることができる。とはいっても、実際には壁などにぶつかったときに車体を保護するために用いており、攻撃に使うことはめったにない。
入り組んだ道などでも傷つかない理由は、この能力にあるのだ。
突貫、貫通。
炎の蜘蛛を抜け、反対側に出た。王が炎を振り払う。
そして、振り返る。唖然とした声を、王が上げた。
「後ろを見ろ!」
「ンー。 ……む?」
後方の確認を、バックミラーで行い、マッドエックスも絶句していた。
一瞬でばらばらになった炎が、元に戻っていく。しかも、距離が離れない。この現象、おそらく魔術によるものだろうということは見当がつく。
つまり、陽動に敵は引っかからず、こちらを主体として攻撃してきている可能性がある。あるいは、イヌイットの二人組も攻撃を受けているのだろうか。
ミニミが再び咆哮。だが、砲弾を無駄に消費するばかりだ。舌打ちした王が、宇宙服のようなスーツの一部にすえつけてある爆弾をはずす。ダイナマイトに近い形状をしているそれを使った場合の被害を、マッドエックスは知っていた。
「ンー。 それを使う気か」
「そうだ。 爆消しかあるまい」
「……。 ンー。 そう、だな」
主に油田火災などで用いられる方法だ。火の上で爆発を生じさせることにより、炎の周囲の空気を吹き飛ばし、鎮火する。うまくいけば効果は絶大である。
問題は、それを行う王の能力にある。
「ンー、いけるのか」
「やってみるしかあるまい」
炎の蜘蛛が、徐々に近づいてくる。
ゆっくり動いているようにしか見えないのに、着実に距離が狭まってくるのがおぞましい。
王が爆弾のピンを引き抜く。
ダイナマイトに近い形状だが、使い方は手りゅう弾だ。
「全力加速!」
タイヤが鋭い音を立てて回転した。そして、炎の蜘蛛が、投げ放たれた爆弾を見上げる。
同時に。
車体が浮くような感覚があった。
すさまじい爆発が、後方で引き起こされたのである。
ふと気づくと、普通に車は進んでいた。ブレーキをかけて、一旦とまる。エンジンの負荷がすさまじい。
「……やったか。 ンー」
「どうにか、消し飛びはしたようだ」
王が、装甲服の上から、汗をぬぐうような動作をした。一旦周囲を確認する。カーテンのように蜘蛛の巣がかかった森の中、敵性勢力は、いない。
だが、あれ一匹で済むとはとても思えない。
「ロードアーサーがどちらにいったか、つかめないか」
「ンー。 今、検索中、だ」
データベースから、居場所を割り出す。
レーダーに、そのとき反応があった。
周囲に、すさまじい数の何かがいる。それが、三十を超えるさっきの炎蜘蛛だとわかり、マッドエックスは絶句していた。
「ンー。 これはこれは、盛大な歓迎だ」
「だが、これをこちらで引き受ければ、ロードアーサーの作業は楽になる。 少しでも敵をひきつけ、突破作戦の成功率を上げるぞ」
王が叫ぶ。
そして、また爆弾のピンを引き抜いた。
作戦は変わってしまったが、まあそもそもこちらの目的は突入の支援である。これはこれで良かった。
アーサーが辺りを見回している。どうやら、完全に迷ったようだった。少し遅れてついてきている宗一郎が、足を止めた。
「今、鏡の中に何かいた」
「え?」
「青い姿だ。 ペンギンか?」
この森は、南極に近い島にある。確かにペンギンがいてもおかしくは無いか。
アーサーに道中聞かされたのだが、ペンギンは何も南極だけに生息しているわけでは無いらしい。寒流があればある程度生きて生けるそうで、かなり暖かい島にも生息している種類がいるそうだ。
空を飛ぶ力を失った代わり、海を泳ぐ力を手に入れた鳥。
それがペンギン。だから、決して無力な存在では無いのだとか。
だが、この陸の上では状況が違う。水中生活に特化したペンギンは無力に等しい。南極でも、他のどこでも、ペンギンは基本的に陸上性の猛獣が少ないところで巣を作って生きているのだ。
「こんな所に迷い込んだのだとしたら、気の毒な話だな」
「……アーサーさん、なんだかおかしいと思いませんか?」
「む?」
「なんだか口じゃ説明できないんですけれど、力が全然近づいてこないんです。 さっきから、力の感じる方に歩いているのに」
しかしながら、同じ所をくるくる回っているというのとは、また違うのである。
何というか、ベルトコンベアーの上を逆送しているような感じとでも言うのか。少なくとも、まっすぐ進んでいるとは思えない。
視界の隅、何かが横切る。
今度はスペランカーにも見えた。ペンギンだ。
だがどちらかというと、青い配色で、自然のものとは思えなかった。まるで戯画のようである。
「アーサーさん」
「今のは我が輩にも見えたな。 そういえば、視界の隅を青いのが時々行き来していると思ったが、あれであったか」
「それだけじゃない。 さっき、ピンク色のも見えた気がした」
ピンク色。
それはますますおかしい。宗一郎が言うのだから嘘では無いのだろうが、そうなってくると、野生のペンギンとは思えない。
極小の確率として、心ない人間にいたずらされた個体が生き残っていたというのもあり得るが。しかし、それも実際にはどうなのだろうか。
「何かの罠の可能性があるな。 各々方、油断召されるな」
「待って、なんだかそれどころじゃ無さそう」
アーサーの言葉を遮る。
不意に、闇の気配が濃くなってきた。
鳥の羽ばたく音がする。ペンギンは羽を泳ぐために変えており、羽ばたくのは水をはじくため。こんな音はしない。
振り返ると、見えた。
青い鳥だ。物語に出てきそうな小鳥では無く、まがまがしいほどに大きい。大型の猛禽ほどもあるだろう。
そして、鳥がアーサーとスペランカーの間を通り抜けた瞬間。
世界が、上下反転していた。
頭を振りながら立ち上がる。
スペランカーは、どうやら気絶していたらしかった。それだけではない。全身が、若干熱い。
何か、干渉してきている存在がいる。
今まで、邪神ののろいが満ちた空間に入ったことはあった。その時も、こんな感触は無かった。つまり、明確にスペランカーにターゲットを絞り、干渉をしてきていると言うことだ。
立ち上がる。
そして、愕然とした。
鏡の中に、アーサーと宗一郎がいる。振り返っても、当然二人はいない。
鏡に駆け寄る。鏡を叩くが、当然向こうへは行けなかった。
「アーサーさん! 宗一郎君!」
紙を突きつけてくる宗一郎。鏡文字で、書かれている。
気絶している間に、色々試してみたが、鏡は割れないし、そちらにも行けない。
つまりは、分断されたのだ。
分断されることは、最初から想定していた。だから動揺しない。
一応さんざん訳がわからないフィールドで苦難は味わってきたのである。この程度では、今更びっくりもしていられなかった。
「これから我々は、独自に移動してみる。 スペランカー殿は、邪神を目指して欲しい」
紙にそう書かれていたので、頷く。鏡文字だったので、ちょっと解読が大変だったが。
しかし、これはほぼ間違いなく邪神によるものだと見て良いだろう。迎撃の兵隊も、当然出てくるだろうし、厄介な話である。
いや、待て。
ヘルメットを被り直すと、鏡を叩く。気づいたアーサーが振り返った。
メモ帳を取り出して、書いてみせる。
「状況がおかしいです。 このままだと、どれだけ歩いても異神さんの所にはたどり着けないかも」
「ふむ、何か名案は」
「……」
そう言われると弱い。だがアーサーも、このまま歩くのは無為だと感じたらしい。
ふと、気づくと。
足下に、ペンギンがいて、見上げていた。青いペンギンだ。
しかも、動物園で見るような奴では無くて、漫画に出てくるような丸っこくて可愛い造形である。
しかも、体色はパステルブルー。
「! アーサーさん」
アーサーの側には、ピンク色のペンギン。スペランカーの様子を見て、気づいたようだった。
ペンギンに触ってみる。
体温は高い。臭いはなんだか非常に独特であった。有り体に言えば、良いにおいとは言いがたい。
アーサーが、紙に書いてくる。
「そちらにいるピンク色のペンギンは……」
「ちょっと待った。 アーサーさん、こちらには青いペンギンが」
「何だと!?」
何度見ても、スペランカーを見上げているのは、青いペンギンである。
だが、アーサーは慌てて書き足してくる。
「いや、こちらからはピンク色に見える」
「この手帳の色は」
「茶色だが」
「……?」
宗一郎が、小首をひねるスペランカーを見て、咳払いした。
そして、手帳に慌ただしくなにやら書き始める。
「ひょっとしたら、これが脱出のヒントじゃないのか」