オールドアクションゲーム二次創作 作:dwwyakata@2024
まあお約束ですが、たまにはそれも良いのではないのでしょうか。
いつの間に、そこにいたのか。
スペランカーは、二匹のペンギンと一緒に、その場にいた。
イヌイットの二人の戦士も、側に倒れている。意識が無い様子だ。スペランカー自身も、頭がかなり痛かった。
森の中では無い。
むしろ宮殿のように思える。しかも、この意匠は見たことがある。
アトランティスに建てられている、スペランカーも住むあの神殿。それとそっくりだった。
アーサーと宗一郎の姿は無い。
あの二人が簡単にやられるわけは無いと、自分の言い聞かせながら、立ち上がろうとする。
ふらふらする。
まともに立ち上がれない。
何だろう、この感覚は。久しぶりに感じる、とてつもない倦怠感。ダゴンに何万回と殺されたとき以来かも知れない。
膝から、がくりと倒れてしまう。
ふと意識が戻ると、全身に冷や汗を掻いていた。一瞬で、とんでもないダメージを受けたのか。或いは、もっと別のことなのか。
呼吸を整える。
とにかく、宗一郎が言っていたことが本当なら、ペンギンをそろえてしまうとまずい。
それなのに、ペンギンは二羽とも、側に転がっている。
何度か失敗しながら、立ち上がる。石の冷たすぎる床が、気持ちいい。いつの間にか、床に倒れ込んでいた。
おなかは、別に空いていない。
体のダメージが、極限に達してしまっているのだと、理解できた。
「この空間の中で、動けるだと?」
声がした。妖艶な女性の声である。
苦労しながら、視線を向ける。
宮殿の奥から、かさかさと何かが歩く音。優雅さにはほど遠い。
姿を見せた。
蜘蛛だ。
しかもさっきまで交戦していたのとは、根本的にものが違う。全身が真っ黒で、艶やかであるほどの闇に身を覆っている。体中には細かい毛がびっしり生えていて、歩く音をそれで緩和しているようだった。
間違いない。この蜘蛛が、突入前に聞かされた、アトラク=ナクアだろう。
思い出せない。一体何が起こったのか。
確か、青いペンギンを守っていたはず。ペンギンを抱えて、イヌイットの戦士ポポが跳躍するところまでは見た。
その後、ペンギンが激しい攻撃を周囲に加え、蜘蛛も、蜘蛛の巣も、片っ端から処分していた。
だが、その後だ。
何か、来た。見たわけでは無い。感じたのだ。そして、それきり、意識がぷつりと消えた。
いつの間にか、蜘蛛の神様に見下ろされていた。汗をぬぐおうとするが、上手に出来ない。地面に押しつけられそうになっている、そんな気がした。それくらい、体が重いのである。
「貴方が、蜘蛛の神様?」
「わらわがアトラク=ナクアだ、人間。 いや、わらわが同胞を体内に飼い、呪いを受けし者」
大きさは、他の蜘蛛とあまり差が無い。本体が二メートル半ほど、足の長さはその倍くらいだろう。
喋っているのでは無く、頭の中に直接話しかけてきている。他の神々も、似たようなことをしてきた気がする。
「一体、何が目的なの?」
「それはこちらの台詞だ。 わらわの術式を邪魔した罪、万死に値するぞよ」
「世界を滅ぼそうとする術式、でしょう」
「この星を生け贄に、宇宙の中心に座する白痴を滅ぼす術式だ」
そんな名前を、以前アトランティスを支配していたザヴィーラという存在から聞かされた。多分とても偉い神様か悪魔か、そんな者なのだろう。
異星の神々の理屈についてはわかった。
だが、そんなものを認めるわけにはいかない。
立ち上がる。
足下はふらつくが、寝てはいられない。
「こんな星にしがみつく、瞬くような寿命の愚劣な者どもを守ってなんとする。 貴様らは確かに強い力を持つ者もいるが、所詮こんな星に価値など無い」
「それは、貴方に言われることじゃない、よ」
「ほう?」
「確かにどうしようも無い星かも知れないけれど、寿命が短いとか、愚かだとか、そんなのは滅ぼす理由にならない!」
人間は、醜いとか気持ち悪いとかで、容易に他の存在を否定する。
そんな生き物が、万物の霊長などでは無い事は、スペランカーも知っている。
だが、かといって、よそから来た存在に、一方的に否定される謂われも無い。
「それで、そんな体でわらわに勝つつもりかえ」
「貴方の術式には、後ろの二人が必要なんでしょう?」
ぴたりと、蜘蛛が動きを止める。
忌々しそうに、カリカリと音を立てた。気づく。真っ黒い蜘蛛の体の彼方此方に、人間のものによく似た目があるという事に。
やはり、邪神なのだ。
ブラスターを引き抜いた。同時に、蜘蛛の姿が消える。
気がつくと、前のめりに倒れていた。蜘蛛の周囲に、黒いオーラが見える。蜘蛛はゆっくり左に回り込もうとしている。
「ほう、千万に切り刻んでやったが。 それにこの呪い、クトゥルフに起因するものか」
「そのくらい、何でも無い……!」
「ならば心が折れるまで、徹底的に、引き裂き、嬲り、八つ裂きにしてくれよう」
閃光が走る。
スペランカーは、ダゴンと戦ったとき以上の不毛な戦いになる事を、この時覚悟していた。
最後の蜘蛛を打ち倒すと、アーサーは額の汗をぬぐう。
不覚だった。
さっき、とてつもない殺気が一瞬ほとばしった。その瞬間、ピンクのペンギンを側から拉致されたのである。
方法はわからない。
蜘蛛の中には、投げ縄のように粘着性の強い糸を用いる種類がいる。そういった技が使われたのかも知れない。いずれにしても、気がついたときには、ペンギンはもういなかった。
鳥の化生では無い。
エンジン音。近づいてくるのは、マッドエックスだった。王も無事である。
「サー・ロードアーサー。 無事であったか」
「応。 だが不覚よ。 事態の混乱を収拾できる可能性がある者を、拉致されてしもうたわ」
側に、宗一郎が着地する。木の上に上って、そこからサッカーボールを蹴り込んでいた少年は、周囲を見回す。
「俺は見た」
「む、拉致される瞬間か」
「ああ。 投げ縄のように糸が飛んできて、この辺りに吸い込まれた。 魔術的なものだと思う」
そうなると、アーサーの管轄だ。
そもそも今回は、最低でも専門の術者が一人は必要だという話だったのだ。それが諸処の事情で誰も出られず、結局「魔術にも知識がある」アーサーが出張ることになった。
だがアーサーの使っているのは、主に攻撃系の術式ばかりであって、本来魔術師が得意とするような幻惑や策略とは縁遠いものである。
黄金の鎧を使ったことにより、体力的にも消耗が激しい。
懐から取り出したチョコレートをかじりながら、アーサーは早速腰をかがめて調査に入る。
「ンー、周囲に敵影は無し」
「しかし、フィールドは維持されている。 つまり、敵にとっては、このフィールドはさほど重要では無かった、という事だろう」
「ンー、なるほど。 しかし、世界に、影響を及ぼす魔術は、そんなによその世界で、ほいほいと、使えるものなのか?」
マッドエックスの指摘に、アーサーは首を横に振る。
何かしら、世界そのものに大きな影響を及ぼそうとするのであれば、必ずや密接に関わらなければならない。
それは神が使おうが人間が使おうが関係ない。魔術の鉄則だ。というよりも、魔術も何も関係なく、何かを行うときの鉄則だろう。
その接続点が、この森である事は間違いない。
「すまんが、王よ。 貴殿の火力で、この森を焼き払って貰えぬか」
「それは随分乱暴だな」
「もはやこの森は死んでいる。 生態系は崩壊しているし、一度焼き払わないとどのみち再生は無理だ」
この森が出来るのに、どれだけ時間が掛かったか。それを考えると忸怩たるものも感じる。
だが、今はより大きなもののために、行動しなければならない。
「マッドエックス殿は王の手伝いを頼む」
「ンー、うむ、森を走り廻りつつ、辺りを焼き払えば良いのだな」
「頼むぞ」
マッドエックスが、スキール音も高々に走り去る。たちまち、辺りから凄まじい爆音が轟き始めていた。
「俺は上から状況を見る」
「うむ。 そして我が輩は、と」
木の上に登っていく宗一郎を横目に、アーサーはさっきペンギンが消えたという場所へ歩み寄った。
何の変哲も無い空間だ。
だが。
無線を出す。やはり予想通り使えた。無線の向こうにいる、国連軍の士官と話す。
「こちらアーサー」
「サー・ロードアーサー、ミッションオーバー?」
「いや、まだだ。 それよりも、今我が輩がいる場所の座標は」
地図を広げながら、報告を聞く。
そして、やはりなと呟いた。
此処は、フィールドの中心だ。
派手な爆破作戦が行われている。
火力が大きすぎて、揶揄も込めて王と呼ばれているとは聞いていた。しかし宗一郎が見たところ、そのあだ名はなかなかに的を得ている。
凄まじい火力に、森が焼き払われていく。吹き飛ばされていくとでも言うべきなのかも知れない。
そして、時々マッドエックスが、明らかに巻き込まれ掛かっている。
或いは、能力の制御が出来ないのかも知れない。
破壊力などを重視している能力の場合、自分でもある程度しか制御できない事があるという。多分王の能力がまさにそれだ。
森の上から、状況を視認。
そして、アーサーに、気づいたことを話す。
「何か模様のようなものが見える!」
「やはりな! どんな形だ!」
「わからないが、森の地下に埋まっているようだ!」
爆音が、右から左へと移動していく。王が景気よく森を爆破蹂躙している。これだと、ハリウッド映画でも使えそうだなと、ちょっとのんきなことを宗一郎は考えていた。
程なく、森の半分ほどが消えて無くなる。
形が、見えてきた。
巣だ。蜘蛛の巣。非常に美しい。
蜘蛛の巣というものは、計算し尽くされた存在だと、さっきアーサーに聞いた。蜘蛛という生物が世界中に適応している芸術的な存在であるらしいのだが、巣は特に傑作なのだという。
確かにまがまがしいと言うよりも、美しく感じた。
串刺しにされた。
何度も瞬間的な死と蘇生を繰り返しながら、スペランカーはそれを悟っていた。
蜘蛛のような姿をした神は、あらゆる方法でスペランカーを徹底的に殺しまくった。既に数千回は死んだはずだ。万さえに達しているかも知れない。
蘇生するが、腹に蜘蛛の足が刺さったままである。宙ぶらりんの状態で、またすぐに死ぬ。
「ふうむ、恐ろしく頑丈だのう。 それにこの呪い、蓄積していくとかなり厄介だ」
放り捨てられたらしい。地面でバウンドする。
意識が戻ってくると、ぐっと押さえ込まれていた。吐息をのど元に感じる。これは、消化液を兼ねているという毒液を注入されたのか。
「どろどろに溶かしたくらいではらちがあかんな。 どれ、次は……」
頭が激しく痛む。
がんがんする。だが、手にはブラスターがある。蜘蛛の糸で押さえ込まれているようだが、しかしこの蜘蛛は解析できていないはずだ。スペランカーの呪いの特性を。
腹に何かが入ってくる感触。
思わず呻く。
けたけたと笑う声。蜘蛛神が、また何かしたか。
「わらわの子らの苗床となれ! そのまま永久に喰われ続け……」
飛んだり戻ったりする意識の中で、蜘蛛が怒りに吠えるのがわかった。子蜘蛛にスペランカーを食わせようとしたのだろうが、神でも無い存在にそんなことをさせれば、瞬く間にボン、だ。
右手は。
動く。何度も激しい暴力を加えているらしい蜘蛛が、何か叫んでいる。
「どうして! どうして思い通りにならない!」
思い通りに。
世界の中心にいる白痴とやらを滅ぼすことに、どうしてそんな大きな意味があるのか。
「わらわは、ただ幽閉されしこの神殿から出たいだけだ! アザトースなる名で慈悲深くも存在を隠されしものめ! わらわが臨むのは、貴様の束縛からの解除だけ! ただ、外に出たい! 出たい! 出たい!」
だから殺してやる。そう金切り声を上げる蜘蛛の神。
自分の血が、凄く一杯辺りにぶちまけられ続けているのに、スペランカーはどうしてか冷静だった。
この空間が、何かはわからない。
だが、力が、どんどん弱まってきているのだけはわかる。暴力なんか怖くない。嫌だし嫌いだが、怖いとは思わない。
母に見捨てられ、何万回と餓死することに比べれば、何でも無いからだ。
すっと、あいている右手を伸ばす。
蜘蛛の牙に触れた。多分スペランカーを、何千回も殺した牙だが。なんだか気の毒だった。猛毒に濡れた恐ろしい武器の筈なのに、何故か哀れでひ弱なものに見えた。
「なんの、つもりだ」
「寂しいんだね」
「人間、貴様……!」
「この空間に満ちていた力の正体がわかったよ。 貴方の、悲しい心、だったんだ、ね」
黙れと、蜘蛛の神が絶叫した。
その体を覆っている黒い霧が、どんどん強くなっていく。秒単位で、何十回、或いはそれ以上も殺されているのだろう。ダゴンの時も同じ現象が起こっていた。蜘蛛神の力で呪いのカウンターを防いでいるのだ。だが、それが防ぎきれなくなったとき、一斉に闇の力が蜘蛛神の体を蹂躙する。
視界の隅。
見える。意識を取り戻したイヌイットの二人。それに、ペンギン。
壁にたたきつけられる。ガチガチと顎を鳴らしながら、蜘蛛の神は叫んでいた。
「そうだ! わらわは追放されし神格! 幽閉されし神格! この辺境の、戦闘力ばかり高い無知で無能な生物共が割拠する異界に、至高なる白痴に閉じ込められしもの! それだけが、わらわにあるもの! わらわは、それだけなのだ! それだけしか、わらわにはないのだ!」
だから出られない。
だから、外に分身を派遣しても、力は限定的になってしまう。
見たい。感じたい。外で生きたい。
この孤独な神殿は、もう嫌だ。そう、わめき散らす蜘蛛の神。
再び、手を伸ばす。
自分を滅茶苦茶に破壊しまくっているだろう牙に、触れた。
「楽に、なりたいの? それとも、自由に生きたいの?」
「どちらもだ!」
かわいそうだなと、スペランカーは感じた。
わかる。
この蜘蛛が、激しく荒れ狂い、スペランカーに全てを向けている間に。
準備は全て整ったのだと。
グリンは立ち上がる。
否、此処で立ち上がらなければ、戦士では無かった。
会話は、全て聞こえていた。そして、今まで自分たちが何をしていたかも、わかった。
側にいるマロンが、頷く。
ペンギンになってしまっても、意思は通じていた。
「これから、私とマロンが、秘術を行う」
「っ……!?」
グリンが喋ったことに、人間二人が絶句した。少しずつ、蜘蛛の神の呪いが弱まり始めているのだ。
ペンギンから、人間に戻れるかはわからない。だが、喋ることだけは、出来るようだった。
「あなた方は、邪魔を防いでくれ」
「……急げ。 弱っているとはいえ、相手は神だ。 長くは保たないぞ」
女の方が、木槌を構える。男の方も、少し遅れてそれに習った。
マロンを見る。
変わり果てた姿になってしまった、恋人を。
グリンとマロンは、ずっと迷宮を走り回っていた。思えば、走らされていたのだ。
そして、鏡を挟んで触れあうたびに、世界が変わった。そうしている内に、いつか外に出られると思っていた。
違ったのだ。
あれは、魔術的な行動。蜘蛛の巣を、一本ずつ張っているに等しかったのだ。
そして、それがある一定ラインに達したとき、おそらく蜘蛛の神は、敵意をむき出しにしていたアザトースとやらに、致命的な一撃を。自分の、積もりに積もった恨みと悲しみを、ぶつけることが出来たのだろう。
地球を、生け贄にすることで。
それは、谷に橋を架けているに等しい行動だ。
だが、あのスペランカーという戦士が、森に入ってきた使い手達が、それを台無しにした。
びしりと、空間にひびが入る。
この空間が、壊れようとしている。蜘蛛が、流石に気づく。
既に全裸になってしまっているスペランカーが、壁からずり落ちる。辺りはまるで、爆撃でもされたかのような有様だ。蜘蛛神もやっと気づいたのだろう。
周囲の、凄まじい有様に。
もはや其処は荘厳な神殿でも、蜘蛛神の巣でも無い。ただ、破壊し尽くした、廃墟だった。
「AAAAAAOOOOOOAAA! GYAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAA!」
もはや、意味さえ為さぬ絶叫を、蜘蛛神が上げる。
それは、絶望を、何億倍にも凝縮したような、だが何処かで自分の運命を悟った声だった。
アーサーは、確信する。
此処だ。
此処が、魔術の中心だ。
蜘蛛の巣についてのデータを、急いで調べた。そして、蜘蛛の巣が張られる方法についても、だ。
森の地下にある魔法陣は、既に完成しかけていた。その基点。最初に、蜘蛛の巣が張られ始めた場所を、探し当てた。
此処を破壊すれば、蜘蛛神の魔術は完全に効力をなくす。
アーサーは、己にとって最強の武器を具現化させる。それは、一見するとペンダントにも見える。
だが、愛する人からもらった、最強の武器なのだ。
鎧を金色に。全身を包む凄まじい魔力。残り全ての力を、この一撃に込める。
無線に話しかける。今回、戦場を共にした者達に。
「我が輩が此処に、総力での一撃を叩き込む。 それと同時に、皆は蜘蛛の巣の中心部となっているそれぞれの場所に、全力での攻撃を叩き込んで欲しい」
「応っ!」
「各自時計合わせ。 十秒後、行くぞ」
宗一郎と、王と、マッドエックスが問題なしと応じる。
さて、後はスペランカーたちだ。必ずや、やってくれると信じている。
アーサーは頷くと、無線を放り捨てる。そして、己の全ての力を、最強の武器に叩き込み、解き放っていた。
蜘蛛の森が、光に包まれる。
何かが、粉々に壊れた音がした。